説明

電子診察装置

【課題】 電気的なトリガ信号を利用してノイズレベルが低い脳磁波形を得る電子診察装置を提供する。
【解決手段】 電気的な信号を得ることができる鍼に取り付けられた第1のリード線と、
電気的な信号を得ることができる鍼管の端部に取り付けられた導電性材から引き出された第2のリード線と、
鍼施術時に前記第1、第2のリード線を介して電気的な信号を得て、この電気的な信号の前後の脳磁波形を複数回に渡り測定し、加算測定を行うことで、その刺激に対して同期した脳磁波形を得る加算装置と
を備えたことを特徴とする電子診察装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の診察に用いる鍼及び鍼管を備えた電子診察装置に関し、特に電気的なトリガ信号を利用してノイズレベルが低い脳磁波形を得る電子診察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鍼治療は副作用が少なく、慢性疾患に有効なことが世界中で認識されており、WHOは人類の健康増進のためにその普及と科学的研究を各国へすすめている。また、鍼治療の際は、被刺鍼者の径穴(ツボ)と呼ばれる刺激点を鍼により刺激し、そのまま10〜15分放置(置鍼)する。鍼刺激開始直後には効果が表れず、概ね10分経過後に効果が表れる。このような鍼を用いた人体の治療に関する先行技術文献としては、下記のような特許文献が知られている。
【0003】
【特許文献1】実開昭62−070523号公報
【0004】
以下、従来の電子診察装置について図6を参照して説明する。図6は従来の電子診察装置に用いられる鍼及び鍼管である。鍼管1に鍼2を挿入して用いるが、これらは電気的なトリガ信号を得ることができない構成となっている。
【0005】
次に、図7を参照して従来の電子診察装置の動作を説明する。図7は従来の電子診察装置の動作説明図である。鍼管1、及び鍼2は、
1.鍼管を被験者の皮膚へ接触させる(ステップA1)、
2.鍼を被験者の皮膚へ接触させる(ステップA2)、
3.鍼を被験者の皮膚深部へ刺し入れる(ステップA3)、
4.鍼管を被験者の皮膚から離す(ステップA4)、
5.鍼を被験者の皮膚深部から抜き取る(ステップA5)、
とする鍼施術に用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の鍼管1、及び鍼2には電気的なトリガ信号を得る為の加工が施されていないため、鍼施術時に、
1.鍼管を被験者の皮膚へ接触させるとき、
2.鍼を被験者の皮膚へ接触させるとき、
3.鍼を被験者の皮膚深部へ刺し入れるとき、
4.鍼管を被験者の皮膚から離すとき、
5.鍼を被験者の皮膚深部から抜き取るとき、のそれぞれのタイミングを電気的なトリガ信号として取得することができなかった。
【0007】
また、電子診察装置(特に脳磁計)で取得される波形には、必要な脳磁波形以外にも不必要なノイズ成分も含まれる。したがって、所望の脳磁波形を、1回の刺激(この場合、鍼・鍼管を接触、離す)に対して取得できれば良いが、多くの場合、刺激を1回与えただけでは他のノイズ成分に埋もれてしまって必要な脳磁波形を得ることができない。
【0008】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたものであり、電気的なトリガ信号を利用してノイズレベルが低い脳磁波形を得る電子診察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この様な問題を解決するため、請求項1記載の電子診察装置は、
電気的な信号を得ることができる鍼に取り付けられた第1のリード線と、
電気的な信号を得ることができる鍼管の端部に取り付けられた導電性材から引き出された第2のリード線と、
鍼施術時に前記第1、第2のリード線を介して電気的な信号を得て、この電気的な信号の前後の脳磁波形を複数回に渡り測定し、加算測定を行うことで、その刺激に対して同期した脳磁波形を得る加算装置と
を備える。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電子診察装置において、前記電気的な信号はトリガ信号である。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の電子診察装置において、
前記電気的なトリガ信号を複数回得るため、診察対象となる人体に複数回にわたり刺激を加える。
【0012】
請求項4記載の電子診察システムは、請求項1〜3のいずれかに記載の前記加算装置で得られた脳磁波形を表示する脳磁計を備える。
【発明の効果】
【0013】
このように、電気的な信号の前後の脳磁波形を複数回に渡り測定し、加算測定する加算装置を備えたので、その刺激に対して同期した脳磁波形を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の電子診察装置の構成例について図1を参照して説明する。図1は本発明による電子診察装置に用いられる鍼管及び鍼である。本発明の鍼管10は、側面にスリット加工を施し、また皮膚と接触する底面部に導電性材20を取り付け、この導電性材からリード線30を引き出した構造となっている。また、本発明の鍼40は、鍼中部にリード線50を取り付けた構造となっている。
【0015】
次に、図2、図3を参照して動作を説明する。図2は本発明による電子診察装置の動作説明図であり、図3は本発明による電子診察装置の構成図である。鍼施術時に、まず鍼管40を被験者の皮膚へ接触させたときの基準A110と鍼管40との間のインピーダンス変化により発生する電位変化量ΔV1140を電気的なトリガ信号として得る(ステップB1)。
【0016】
以下、同様にして、鍼10を被験者の皮膚へ接触させたとき、基準Aと鍼との間のインピーダンス変化により発生する電位変化量V2を電気的なトリガ信号として得る(ステップB2)。鍼10を被験者の皮膚深部へ刺し入れたときの基準Aと鍼との間のインピーダンス変化により発生する電位変化量ΔV3を電気的なトリガ信号として得る(ステップB3)。
【0017】
鍼管40を被験者の皮膚から離したときの基準Aと鍼管との間のインピーダンス変化により発生する電位変化量ΔV4を電気的なトリガ信号として得る(ステップB4)。最後に、鍼10を被験者の皮膚深部より抜き取ったときの基準Aと鍼との間のインピーダンス変化により発生する電位変化量ΔV5を電気的なトリガ信号として得る(ステップB5)。
【0018】
このようにして、各施術時に電気的なトリガ信号をそれぞれ取得することが可能となる。
【0019】
また、図3の様に、これらの電気的なトリガ信号の前後の所定の時間で加算測定を行う加算装置200をさらに備えることにより、鍼施術による人体への効果を脳磁計などで計測する場合に、これらの電気的なトリガ信号を利用して取得した脳磁波形を加算解析することが可能となる。
【0020】
例えば、手首の正中神経に電気刺激を与えたときの脳磁波形を測定したいとした場合には、この測定でも、電気刺激を1回与えただけでは、電気的なパルス信号がノイズ成分に埋もれてしまって必要な脳磁波形を得ることができないことがある。しかし、電気刺激を与えた瞬間のトリガ信号を取得して、加算装置200を用いて、そのトリガ信号の前後の時間で複数回加算測定を行うことで、必要な脳磁波形を得ることが可能となる。
【0021】
また、脳磁計300をこの電子診察装置と併せて使用することにより、脳磁計300の表示部(図示せず)に脳磁波形を表示することができる電子診察システムを得ることができる。
【0022】
次に、図4を参照して加算測定について説明する。図4はトリガ信号を得た前後の所定の時間について脳磁波形の加算測定を行う場合の説明図である。
【0023】
図4の各トリガ波形は、上から1行目が、1.鍼管を被験者の皮膚へ接触させる場合のトリガ信号であり、上から2行目が2.鍼を被験者の皮膚へ接触させる場合のトリガ信号である。以下同様に、上から3行目が3.鍼を被験者の皮膚深部へ刺し入れる場合のトリガ信号、上から4行目が4.鍼管を被験者の皮膚から離す場合のトリガ信号、上から5行目が5.鍼を被験者の皮膚深部から抜き取る場合のトリガ信号である。そして、一番下の行に表された波形が、ノイズに埋もれてしまって入る状態の脳磁波形を表している。この脳磁波形は、トリガ信号のタイミングに同期して表れるものである。
【0024】
また、一番左の列は1回目の測定を表している。加算測定では複数回にわたり鍼を被験者の皮膚深部へ刺し入れる等の動作を行うため、2回目以降の測定についても左から2列目以降に順に表されている。
【0025】
また、図4は「3.鍼を被験者の皮膚深部へ差し入れる」場合のトリガ信号の前後のある時間幅の脳磁波形を取り出す例について表している。「3.」の様に、鍼を被験者の皮膚深部へ差し入れると、トリガ信号が表れる。このトリガ信号は、1回目測定、2回目測定、3回目測定、・・・N回目測定のいずれも表れるが、加算測定では、トリガ信号の前後のある時間幅で脳磁波形を取り出すので、1回目測定ではAの時間幅について脳磁波形を取り出す。同様に、2回目測定ではBの時間幅について脳磁波形を取り出し、3回目測定ではCの時間幅について脳磁波形を取り出している。
【0026】
次に、複数回測定した場合の加算波形を、図5を参照して説明する。図4では、例えば1回目の幅Aに着目すると、取り出したい脳磁波形がノイズと区別がつかないほどに埋もれてしまっている。2回目、3回目についても同様である。
【0027】
ところが、図5の下に示す「A、B、C、・・・nの加算波形」の様に複数回測定すると、ノイズレベルが下がり、取り出したい脳磁波形がくっきりと表れる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による電子診察装置に用いられる鍼管及び鍼である。
【図2】本発明による電子診察装置の動作説明図である。
【図3】本発明による電子診察装置の構成図である。
【図4】トリガ信号を得た前後の所定の時間について脳磁波形の加算測定を行う場合の説明図である。
【図5】トリガ信号とノイズレベルが低い波形である。
【図6】従来の電子診察装置に用いられる鍼及び鍼管である。
【図7】従来の電子診察装置の動作説明図である。
【符号の説明】
【0029】
10 鍼管
20 導電性材
30 リード線
40 鍼
50 リード線
200 加算装置
300 脳磁計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的な信号を得ることができる鍼に取り付けられた第1のリード線と、
電気的な信号を得ることができる鍼管の端部に取り付けられた導電性材から引き出された第2のリード線と、
鍼施術時に前記第1、第2のリード線を介して電気的な信号を得て、この電気的な信号の前後の脳磁波形を複数回に渡り測定し、加算測定を行うことで、その刺激に対して同期した脳磁波形を得る加算装置と
を備えたことを特徴とする電子診察装置。
【請求項2】
前記電気的な信号はトリガ信号であることを特徴とする請求項1記載の電子診察装置。
【請求項3】
前記電気的なトリガ信号を複数回得るため、診察対象となる人体に複数回にわたり刺激を加えることを特徴とする請求項2記載の電子診察装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の前記加算装置で得られた脳磁波形を表示する脳磁計を備えた電子診察システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−289572(P2008−289572A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136161(P2007−136161)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】