説明

電子部品の試験方法

【課題】地球環境的に好ましくて、好ましい物性を有する新たな試験液を用いた電子部品の試験方法を提供する。
【解決手段】電子部品を試験液に浸漬する工程を有し、前記試験液が、炭素数4以上の炭化水素の水素原子の一部をフッ素原子で置換したハイドロフルオロカーボンであって、炭素原子に結合しているフッ素原子の数が、炭素原子に結合している水素原子の数よりも多いハイドロフルオロカーボン(A)を含む液体からなることを特徴とする電子部品の試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の電子部品は、それぞれの用途に応じて、性能を保証するための各種試験にかけられる。
例えば、半導体素子等のマイクロエレクトロニクス分野で用いられる電子部品は、回路基板等が保護パッケージ内に収容され、他の部品と接続するためのリード線が該保護パッケージの外部に伸びる状態で密封された形態であることが多い。保護パッケージは、回路基板を所定位置に保持するとともに、腐触、酸化、衝撃、温度変化等、破損につながる問題から回路基板等を保護する役目を担う。
また例えば電子工業においては、ソリッドステート装置の連続した作動を保証するために、それらを周囲大気の影響から保護しなくてはならない。湿気を含む周囲大気が装置内に蓄積すると腐食および破損を引き起こすため、高度信頼性装置は、気密密閉されたセラミックパッケージに装置を封入することで保護されることが多い。
【0003】
このような電子部品にあっては、作動信頼性を確かめるための気密性試験や、実際の作動環境を想定した条件下での性能を保証するための、温度変化試験や、環境応力スクリーニング(ESS)にかけられることが多い。
これらの試験はいずれも、被試験物を液体(試験液)に浸漬する工程を有する。かかる試験液としては、不活性の液体が用いられ、例えばパーフルオロ炭化水素化合物が好適に用いられる(特許文献1〜5)。パーフルオロ炭化水素化合物は、沸点および凝固点、密度、耐電圧、表面張力、化学的安定性、外観等の物理的性質の点で、電子部品の試験液として好ましい。
【0004】
例えば特許文献1では、電子部品気密性試験の試験液として、パーフルオロトリアルキルアミン(住友スリーエム株式会社、製品名:フロリナート、品番FC−40、FC−72およびFC−84)が使用されている。
特許文献2では、温度変化試験、液体バーンイン試験、および電子部品気密性試験における試験液として、パーフルオロポリエーテルが使用されている。
特許文献3では、電子部品気密性試験における不活性液体としてフルオロハイドロフルオレンを用いることが記載されている。
特許文献4では、比較的大きいリークを検出するための大リーク試験において、指示液としてパーフルオロ−2,3,4−トリメチルペンタンを用いることが記載されている。
特許文献5には、環境応力スクリーニング(「ESS」)試験が記載されている。この試験は、液体バーンイン試験を実施するのに必要な時間を短縮するために開発されたものである。このESS試験は、電子部品の公称電圧を超えるバイアス電圧を短時間かけながら、電子部品を不活性液体の冷浴と不活性液体の熱浴の間で循環させる方法である。冷浴は0℃未満に保持され、熱浴は65℃超に保持される。
【0005】
このほか、特許文献6では、温度変化試験、液体バーンイン試験、および電子部品気密性試験における試験液として、ハイドロフルオロエーテルの使用が開示されている。
特許文献7には、大リークおよび微細リークを同時に試験できる検出媒体として、検出用液体に検出用気体を溶解させた媒体が記載されている。検出用液体の例示として、過弗化アルカン、過弗化アミン、ペルフルオロアミノエーテル、過弗化エーテル、クロロフルオロカーボン液体、ヒドロクロロフルオロカーボン液体、ヒドロフルオロカーボン液体が挙げられている。
【特許文献1】米国特許第4,920,785号明細書
【特許文献2】米国特許第4,955,726号明細書
【特許文献3】米国特許第4,736,621号明細書
【特許文献4】米国特許第4,896,529号明細書
【特許文献5】米国特許第5,187,432号明細書
【特許文献6】特許第4,002,393号公報
【特許文献7】特開平6−18355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜5に記載の方法で用いられるパーフルオロ炭化水素化合物は、上述したように物理的性質において電子装置の試験液として好ましく、塩素を含有しないために地球のオゾン層を破壊せず、モントリオール協定の下で段階的に廃止されない。しかし化学的に安定であり、大気中での寿命が長期であることから、近年では地球温暖化ポテンシャル(GWP)が高いと懸念され、その使用が徐々に制限される傾向にある。
【0007】
一方、特許文献6に記載されているハイドロフルオロエーテルは、オゾン層破壊ポテンシャル(ODP)を有さず、パーフルオロカーボンよりも地球温暖化ポテンシャルが低い。
しかしながら、ハイドロフルオロエーテルは水を溶解しやすい場合がある。試験液に水分が含まれてしまうと、試験液の耐電圧が低くなる、または不安定になる。耐電圧が低くなると電流のリークが増えるため、例えば試験液中で電圧を印加する工程を有する試験においては、試験中の水分が試験結果に影響を与え、試験の精度が低下する、または不安定になるおそれがある。
特許文献7に記載されている検出媒体は、検出用液体中に検出用気体を溶解した状態で含むことが必須であるため、検出媒体の調製工程が必要であり、気体を溶解した状態を保持するための取り扱いが煩雑であるという問題がある。
また、引火性のあるハイドロフルオロカーボンは、電圧をかける試験に用いるのには不向きである。
【0008】
電子部品についての各種試験方法においては、それぞれの試験条件に応じて、試験液の好ましい物性が異なるため、試験条件と試験液との組合せによって試験の精度を向上させることができる。このため、試験液の選択肢をさらに広げることが望まれる。
また、例えば環境応力スクリーニング(ESS)試験および温度変化試験では、流動状態での熱伝導性が高い試験液が好ましい。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、地球環境的に好ましくて、好ましい物性を有する新たな試験液を用いた電子部品の試験方法を提供することを目的とする。
好ましくは、本発明は、流動状態での熱伝導性が高い試験液を用いた試験方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明者等が鋭意研究した結果、特定のハイドロフルオロカーボン(A)が、地球環境的に好ましくて、試験液として好適な物性を有することを見出して本発明に至った。
すなわち、本発明の電子部品の試験方法は、電子部品を試験液に浸漬する工程を有し、前記試験液が、炭素数4以上の炭化水素の水素原子の一部をフッ素原子で置換したハイドロフルオロカーボンであって、炭素原子に結合しているフッ素原子の数が、炭素原子に結合している水素原子の数よりも多いハイドロフルオロカーボン(A)を含む液体からなることを特徴とする。
前記ハイドロフルオロカーボン(A)が、下式(I)で表わされるものであることが好ましい。
2x+12n+1 … (I)
[式中、xは4〜6の整数であり、nは0または1〜2の整数である。]
前記ハイドロフルオロカーボン(A)が、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサンおよび1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタンからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0011】
前記電子部品の試験方法として、下記工程(1)〜工程(4)を含む一連の操作を反復して行う環境応力スクリーニング(ESS)試験方法を適用できる。
工程(1):電子部品を第1の試験液の冷浴に浸漬し、所定の浸漬時間が経過した後、該電子部品に最高作動電圧を超える電圧をかける工程、
工程(2):電子部品を所定の移動時間内に前記冷浴から第2の試験液の熱浴に移動する工程、
工程(3):電子部品を前記第2の試験液の熱浴に浸漬した状態で、該電子部品に最高作動電圧を超える電圧をかける工程。
工程(4):電子部品を所定の移動時間内に前記熱浴から前記第1の試験液の冷浴に移動する工程。
【0012】
前記電子部品の試験方法として、電子部品を低温の試験液と高温の試験液に交互に浸漬する工程を有する温度変化試験方法を適用できる。
【0013】
前記電子部品の試験方法として、電子部品の気密性を試験する方法であって、電子部品を加圧雰囲気中の第1の試験液に浸漬した後、前記第1の試験液の沸点よりも高温の第2の試験液に浸漬する工程を有するバブルテスト法を適用できる。
前記電子部品の試験方法として、電子部品の気密性を試験する方法であって、秤量した電子部品を加圧雰囲気中の試験液に浸漬した後、該電子部品を秤量する工程を有する重量増加検出法を適用できる。
前記電子部品の試験方法として、電子部品の気密性を試験する方法であって、電子部品を加圧雰囲気中の試験液に浸漬した後、該電子部品から蒸発する試験液を検出する工程を有する分析法を適用できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の試験方法によれば、地球環境的に好ましくて、良好な物性を有する新たな試験液として上記ハイドロフルオロカーボン(A)を用いて、電子部品の試験を行うことができる。したがって、電子部品の試験方法における試験液の選択肢をさらに広げることができる。
また好ましくは、流動状態での熱伝導性が高い試験液を用いて電子部品の試験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<試験液>
本発明の電子部品の試験方法において、試験液はハイドロフルオロカーボン(A)を含む液体からなる。
本発明における試験液は実質的に気体を含まない。すなわち、試験液に対して積極的に気体を溶解させる操作を行わずに溶け込んでいる雰囲気中の気体成分以外には、気体成分を含んでいない。
【0016】
[ハイドロフルオロカーボン(A)]
本発明で用いられるハイドロフルオロカーボン(A)は、炭素数4以上の炭化水素の水素原子の一部をフッ素原子で置換したハイドロフルオロカーボンであって、炭素原子に結合しているフッ素原子の数が、炭素原子に結合している水素原子の数よりも多いものである。
ハイドロフルオロカーボン(A)の炭素数が4以上であると、室温で液体であり、取り扱いが容易である。該炭素数の上限は、室温で液体であり、乾燥が早く、試験後に電子部品から除去しやすいという点で8以下が好ましい。より好ましい炭素数は6〜8である。
試験液には不燃性のものが用いられる。原則としてハイドロフルオロカーボンは、C−F結合の数がC−H結合の数よりも多い(C−F>C−H)場合は可燃性でない。本発明におけるハイドロフルオロカーボン(A)は、炭化水素に結合している水素原子の半分超をフッ素原子で置換したものであり、C−F>C−Hである。より確実には、密閉式引火点試験ASTM D 56−87において引火点を示さないことで、不燃性を確認できる。
ハイドロフルオロカーボン(A)は市販品から入手できる。
【0017】
ハイドロフルオロカーボン(A)は凝固点が−25℃未満であり、かつ沸点が65℃超であることが好ましい。−25℃より低い凝固点温度〜65℃より高い沸点温度の範囲で液体であると、電子部品の試験条件に適用しやすく、試験液としての汎用性が高い点で好ましい。
【0018】
ハイドロフルオロカーボン(A)の具体例としては、
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン(C13H)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン(C)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(C13)、
1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(C10)等が挙げられる。
これらの物性を後述の表1に示す。これらはいずれも表面張力が16mN/m未満、密度が1200〜1700kg/mの範囲であり、耐電圧が9000V/mmを超える。
【0019】
ハイドロフルオロカーボン(A)は、水の溶解度が小さい点で、下式(I)で表わされる化合物であることが好ましい。
2x+12n+1 … (I)
[式中、xは4〜6の整数であり、nは0または1〜2の整数である。]
上式(I)で表わされる化合物の中でも、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン(C13H)、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン(C)および1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(C13)からなる群より選ばれる1種以上が、沸点が65℃より高く、水の溶解度が低い点でより好ましい。
【0020】
ハイドロフルオロカーボン(A)は、これを試験液として適用する試験条件に合わせて、適切な物性を有するものを選択することが好ましい。
ハイドロフルオロカーボン(A)は、適用される試験条件において安定であることが必要である。試験方法に応じて、耐電圧、密度、表面張力、その他の物理的性質を考慮して試験液としてのハイドロフルオロカーボン(A)を選択する必要がある。
例えば、リーク試験(気密性試験方法)では、試験液が小さな隙間に浸透できるように、表面張力が小さい方が好ましい。質量増加の検出による気密性試験方法においては、試験液の密度が大きい方が好ましい。
試験液中で電子部品にバイアス電圧を印加する工程を有する試験方法では、試験液の耐電圧が大きい方が好ましい。
【0021】
本発明において、試験液として使用されるハイドロフルオロカーボン(A)は一液で使用してもよく、異なるハイドロフルオロカーボン(A)の2種類以上を混合して用いてもよい。しかし、2種以上の混合液を使用する場合は、取り扱い中で組成が変化し、熱伝導率や表面張力等の物理的性質が変化してしまう可能性があるため、一液での使用がより好ましい。
【0022】
[その他の液体成分]
試験液は、ハイドロフルオロカーボン(A)以外の、その他の液体成分を含んでもよい。試験液の90〜100質量%がハイドロフルオロカーボン(A)であることが好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
その他の液体成分としては、適用される試験条件において安定であり、かつ各試験方法において要求される物理的性質を満たすものが用いられる。具体例としてはハイドロフルオロエーテル;パーフルオロカーボン;ハイドロクロロフルオロカーボン;ハイドロフルオロカーボン(A)以外のハイドロフルオロカーボン等が挙げられる。
【0023】
<試験方法>
【0024】
本発明の試験方法としては、電子部品を試験液に浸漬する工程を有するものが適用可能である。具体的には(1)環境応力スクリーニング試験方法(ESS)、(2)温度変化試験方法、および(3)気密性試験方法が好ましい。
[(1)環境応力スクリーニング試験方法(ESS)]
環境応力スクリーニング(ESS)試験は、例えば1年間のような長期にわたる電子部品の作動をシミュレートするために実施される。具体的には、
工程(1):電子部品を第1の試験液の冷浴に浸漬し、所定の浸漬時間が経過したら、該電子部品に最高作動電圧を超える電源電圧を印加する。
工程(2):電子部品から電源電圧を外し、電子部品を所定の移動時間内に前記冷浴から第2の試験液の熱浴に移動させて浸漬する。
工程(3):熱浴に浸漬させた状態で、所定の浸漬時間が経過したら、該電子部品に最高作動電圧を超える電源電圧を印加する。
工程(4):電源電圧を電子部品から外し、電子部品を所定の移動時間内に前記熱浴から再び前記冷浴に移動させて、前記工程(1)に戻る。
工程(1)から工程(4)までを所定のサイクル数反復して、異常作動が発生しないかどうかを試験する。
熱浴および冷浴は液温が均一となるよう継続的に撹拌される。
【0025】
本試験における冷浴(第1の試験液)および/または熱浴(第2の試験液)として、本発明におけるハイドロフルオロカーボン(A)を含む試験液を好適に用いることができる。
試験条件は、電子部品の使用環境に応じて設定される。例えば、冷浴が0℃未満で、熱浴が65℃超の条件である場合、凝固点が0℃未満であるハイドロフルオロカーボン(A)を冷浴に用い、沸点が65℃を超えるハイドロフルオロカーボン(A)を熱浴に用いる。
または、冷浴が−20℃未満で、熱浴が85℃超の条件である場合、凝固点が−20℃未満であるハイドロフルオロカーボン(A)を冷浴に用い、沸点が85℃を超えるハイドロフルオロカーボン(A)を熱浴に用いる。例えば1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(C13)は、沸点が114℃であり、凝固点が−76℃であるから、この条件の場合の冷浴および熱浴の両方に使用できる。冷浴と熱浴の組成が同じであると、両者が混合しても組成が変わらないため、精製等の操作なしに冷浴および熱浴を繰り返し使用できるという利点が得られる。
【0026】
[(2)温度変化試験方法]
温度変化試験方法は、電子部品を低温の試験液と高温の試験液に交互に浸漬する工程を有する。
例えば、電子部品を−75℃〜−25℃の範囲内で温度設定された低温液体(低温試験液)と、100℃〜210℃の範囲内で温度設定された高温液体(高温試験液)に交互に浸漬し、該低温及び高温液体の間を所定の回数循環させた後、所定の物理的特性または電気的特性を測定し、異常発生の有無を判定する方法で試験される。一般に、試験中、低温試験液は設定温度に対して−10℃までの温度変動が許される。高温試験液は設定温度に対して+10℃までの温度変動が許される。
低温試験液および高温試験液は温度が均一となるよう継続的に撹拌される。
具体的な試験方法は、例えば[方法i]米国特許番号第4,920,785号に記載されている方法(典型的にNID(登録商標)試験と称される。)、[方法ii]MIL−STD−883Eの方法1011.9に規定されている方法、[方法iii]JISC0025―1988に規定されている方法等を用いることができる。
【0027】
本試験における低温試験液および/または高温試験液として、本発明におけるハイドロフルオロカーボン(A)を含む試験液を好適に用いることができる。
低温試験液は、これを用いる試験方法において設定されている低温試験液の温度において液体であることが必要であり、高温試験液は設定されている高温試験液の温度において液体であることが必要である。したがって、各試験方法における低温試験液および高温試験液の設定温度に応じて、適切な沸点および凝固点を有する試験液を選択して用いることが好ましい。
例えば凝固点が−25℃未満であるハイドロフルオロカーボン(A)は、例えば上記[方法i]〜[方法iii]における低温試験液として用いることができる。低温試験液として用いるハイドロフルオロカーボン(A)の凝固点は−75℃未満がより好ましい。
また上記[方法ii]MIL−STD−883Eの方法1011.9のうち、試験Aにおける高温試験液は100℃であるため、沸点が100℃より高いハイドロフルオロカーボン(A)を用いる。試験Bにおける高温試験液は125℃であるため、沸点が125℃より高いハイドロフルオロカーボン(A)を用いる。試験Cにおける高温試験液は150℃であるため、沸点が150℃より高いハイドロフルオロカーボン(A)を用いる。
本試験における低温試験液および/または高温試験液として用いられるハイドロフルオロカーボン(A)は、熱伝導度が0.04〜0.15W/(m・℃)であり、比熱が0.9〜1.4kJ/(kg・℃)であることが好ましい。
【0028】
本試験において好ましいハイドロフルオロカーボンとしては、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサンおよび1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタンが挙げられる。
特に、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(C13)は、沸点が114℃であり、凝固点が−76℃であるから、上記[方法ii]の試験Aにおける低温試験液および高温試験液の両方に使用できる。
【0029】
[(3)気密性試験方法]
電子部品に対してリーク率がゼロというレベルを得ることは不可能である。そのため電子部品の気密性を試験して、気体のリークが所定の標準値より小さいかどうかを判定する。
例えばソリッドステート装置等のセラミックパッケージに対して用いられる最も一般的な標準リーク率は、米軍標準規格(MIL−STD)883E、方法1014.9で提供される。該標準リーク率は、高圧側が1気圧(0.1MPa)で低圧側が133Pa未満である場合に、25℃において、リーク箇所から1秒間に漏れる乾燥空気の量(Pa・m)で定義される。
リーク試験の中でも、大リーク試験は基準リーク率が、1.013×10Pa・m/s〜1×10-6Pa・m/sのレベルの気密性試験である。
試験液は表面張力が小さい方が、大リーク開口部へ浸透しやすい点で好ましい。
大リーク試験は後述の(3A)バブルテスト法、(3B)重量増加検出法、および(3C)分析法などの方法によって行うことができる。
【0030】
(3A)バブルテスト法
バブルテスト法による大リーク試験は、電子部品を加圧雰囲気中の検出液(第1の試験液)に浸漬した後、検出液の沸点よりも高温の指示液(第2の試験液)に浸漬する工程を有する。
検出液(第1の試験液)および/または指示液(第2の試験液)として、本発明のハイドロフルオロカーボン(A)を含む試験液を用いる。好ましくは検出液(第1の試験液)および指示液(第2の試験液)の両方が、ハイドロフルオロカーボン(A)を含む試験液である。
【0031】
具体的には、まず電子部品を大気圧超〜0.62MPaの範囲の圧力雰囲気中で検出液に浸漬する。浸漬時間は30分〜12.5時間の範囲とする。検出液は沸点が指示液よりも低いものを用いることが好ましい。このとき、電子部品のパッケージに隙間(リーク箇所)があれば、そこから検出液が内部に侵入する。その後、電子部品を検出液から取り出し、検出液の沸点より低い温度で外面を乾燥させる。
続いて、電子部品をバブルタンク内の指示液に浸漬する。指示液の液面から電子部品までの距離(深度)は約2インチ以上とする。指示液の温度は製品規格に既定がない限りは125℃±5℃の範囲とする。指示液は沸点が120〜155℃のものを用いることが好ましい。このとき、電子部品内にパッケージのリーク箇所から侵入した検出液が存在していると、該検出液が沸点以上に加熱されて気化し、リーク箇所から気泡となって漏れ出る。照明した平坦な黒色背景に対して、気泡の形成とサイズをモニターする。指示液に浸漬後、30秒以内に気泡が発生しなければ、電子部品には大リークがないと判定する。
本試験における検出液としてハイドロフルオロカーボン(A)を用い、指示液として沸点が120℃以上のハイドロフルオロカーボン、パーフルオロ炭化水素化合物、ハイドロフルオロエーテルを好適に用いることができる。
【0032】
(3B)重量増加検出法
重量増加検出法は、秤量した電子部品を加圧雰囲気中の試験液に浸漬した後、該電子部品を秤量する工程を有する。MIL−STD−883E、方法1014.9、試験条件Eに規定されている方法を用いることができる。
具体的には、まず電子部品を清浄にし、乾燥して秤量する。
次に、電子部品を、例えば667Paの減圧条件下に1時間保持した後、減圧状態のまま、検出液中に浸漬する。浸漬させた状態で、例えば0.52MPaに加圧し、該加圧状態を2時間保持する。高感度の部品に対しては、より長い含浸時間でより低い圧力で試験を行うことも可能である。電子部品を検出液から取り出し、約2分間風乾する。電子部品のパッケージに隙間(リーク箇所)があれば、そこから検出液が内部に侵入するため、浸漬前に比べて浸漬後は重量が増加する。
例えばパッケージの内部容積が0.01cm未満である電子部品は、重量の増加が0.5mg未満であれば大リークなしと判定される。内部容積0.01cm以上の電子部品は、重量増加が1mg未満であれば大リークなしと判定される。電子部品の重量が低下する場合は、検出液の沸点以上の温度で乾燥させた後に再試験してもよい。
本試験における検出液は密度が大きいものが好ましい。該検出液としてハイドロフルオロカーボン(A)を好適に用いることができる。
【0033】
(3C)分析法
分析法は、電子部品を加圧雰囲気中の試験液に浸漬した後、該電子部品から蒸発する試験液の有無を分析技術により検出する工程を有する。
具体的には、まず電子部品を加圧雰囲気中の検出液に浸漬する。パッケージに隙間(リーク箇所)があれば、そこから検出液が内部に侵入する。次いで、検出液の沸点以上に加熱する。このとき電子部品から蒸発して放出される気体(検出液)を分析により検出する。電子部品から蒸発する検出液の量が、所定の基準値未満であると大リークなしと判定される。
分析手段としては、赤外分光計、熱伝導検出器、光イオン化検出器、電子捕獲検出器等を用いることができる。
本試験における検出液は容易に気化するものが好ましい。該検出液としてハイドロフルオロカーボン(A)を好適に用いることができる。
【0034】
(3D)その他
その他、電子部品試験液に浸漬する工程を有する、公知の気密性試験方法にも本発明のハイドロフルオロカーボン(A)を含む試験液を用いることができる。
例えば、JISC0026:2001の試験Qcに規定されているガスリークによる気泡試験、及び試験Qdに規定されている充てん液漏れ試験においても、指示液及び検出液として使用可能である。
【実施例】
【0035】
[物性値]
表1は、ハイドロフルオロカーボン(A)の具体例についての物性値を示したものである。表2は比較のためにハイドロフルオロエーテルの代表例として、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(CFCHOCFCHF)、メチルパーフルオロブチルエーテル(COCH)、およびエチルパーフルオロブチルエーテル(COC)の物性値を示したものである。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
ハイドロフルオロカーボン(A)は、炭素、水素、フッ素からなる物質であり、化学的安定性に優れる。塩素を含有しないためにオゾン層破壊ポテンシャル(ODP)を有さず、大気寿命がパーフルオロカーボンよりも短いため、パーフルオロカーボンよりも地球温暖化ポテンシャル(GWP)が低い液体であり地球環境的に好ましい。また、C−F結合の数がC−H結合の数より多く(C−F>C−H)、不燃性である。
表1、2に示されるように、ハイドロフルオロカーボン(A)は、沸点、凝固点、表面張力、密度、耐電圧において、試験液として良好な物性を有する。ハイドロフルオロエーテルと比べても遜色がない。
特に、上式(I)で表わされる(C13H)、(C)および(C13)は、「CFCHOCFCHF」と比べて水の溶解度が低い。したがって、耐電圧をより安定化させることができ、例えばESS試験など、試験液中で電圧を印加する工程を有する試験方法に好適である。
【0039】
[グレーツ数(NGs)・プラントル数(NPr)]
ハイドロフルオロカーボン(A)の具体例について、グレーツ数(NGs)およびプラントル数(NPr)を下記式(1)、(2)により算出した。比較のために、代表的なパーフルオロカーボン(パーフルオロオクタン(C18))およびハイドロフルオロエーテルについても同様に算出した。結果を表3,4に示す。
【0040】
NGs(グレーツ数)=WCp/λL …(1)
NPr(プラントル数)=Cpη/λ …(2)
(式中、W:流量(kg/h)、Cp:比熱(kJ/(kg・℃)、λ:熱伝導率(W/(m・℃))、L:管長(m)、η:粘度(Pa・s)である。グレーツ数は流量Wを1kg/h、管長Lを1mと仮定して計算した。)
【0041】
グレーツ数は、液体の熱容量と層流中の伝導性熱伝達との比率を表わす値である。この値が小さいほど、層流条件下で外部の温度変化を反映しやすいことを示す。
プラントル数は、強制または自由対流条件に対する運動量拡散率と液体の熱拡散率比率を表わす値である。この値が小さいほど、強制または自由対流条件において流れ抵抗が小さく、熱伝導性が高いことを示す。
温度変化試験およびESS試験において、試験液は液温が均一となるよう継続的に撹拌されるため、流動状態での熱伝導性が高くて、温度変化を反映しやすいことが好ましい。したがって、温度変化試験およびESS試験における試験液としては、グレーツ数(NGs)およびプラントル数(NPr)が小さいことが好ましい。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
表3の結果より、グレーツ数の値は、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルよりもハイドロフルオロカーボン(A)の方が小さく、層流条件下においてハイドロフルオロカーボン(A)の方が、より外部の温度変化を反映しやすいという、温度変化試験及びESS試験の上での良い性能を有していることがわかる。
また、表4の結果より、ハイドロフルオロカーボン(A)はパーフルオロカーボンよりもプラントル数の値が小さく、高い熱拡散性と低い流れ抵抗性を有していることがわかる。
表4に示すハイドロフルオロカーボン(A)の中でも、特にC13HとCは、いずれの温度においてもハイドロフルオロエーテルよりもプラントル数の値が小さく、温度変化試験及びESS試験に適していることがわかる。また、C13は、ハイドロフルオロエーテルよりもわずかにプラントル数の値が大きいが、沸点が高く、高温域でもプラントル数の値が小さいため、ハイドロフルオロエーテルに比べて高温域でも使用可能である。
したがって、ハイドロフルオロカーボン(A)が、温度変化試験およびESS試験における試験液としてより好適であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品を試験液に浸漬する工程を有し、前記試験液が、炭素数4以上の炭化水素の水素原子の一部をフッ素原子で置換したハイドロフルオロカーボンであって、炭素原子に結合しているフッ素原子の数が、炭素原子に結合している水素原子の数よりも多いハイドロフルオロカーボン(A)を含む液体からなることを特徴とする電子部品の試験方法。
【請求項2】
前記ハイドロフルオロカーボン(A)が、下式(I)で表わされる、請求項1に記載の電子部品の試験方法。
2x+12n+1 … (I)
[式中、xは4〜6の整数であり、nは0または1〜2の整数である。]
【請求項3】
前記ハイドロフルオロカーボン(A)が、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサンおよび1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタンからなる群より選ばれる1種以上である、請求項2に記載の電子部品の試験方法。
【請求項4】
前記電子部品の試験方法が、下記工程(1)〜工程(4)を含む一連の操作を反復して行う環境応力スクリーニング(ESS)試験方法である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子部品の試験方法。
工程(1):電子部品を第1の試験液の冷浴に浸漬し、所定の浸漬時間が経過した後、該電子部品に最高作動電圧を超える電圧をかける工程、
工程(2):電子部品を所定の移動時間内に前記冷浴から第2の試験液の熱浴に移動する工程、
工程(3):電子部品を前記第2の試験液の熱浴に浸漬した状態で、該電子部品に最高作動電圧を超える電圧をかける工程、
工程(4):電子部品を所定の移動時間内に前記熱浴から前記第1の試験液の冷浴に移動する工程。
【請求項5】
前記電子部品の試験方法が、電子部品を低温の試験液と高温の試験液に交互に浸漬する工程を有する温度変化試験方法である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子部品の試験方法。
【請求項6】
前記電子部品の試験方法が、電子部品の気密性を試験する方法であって、
電子部品を加圧雰囲気中の第1の試験液に浸漬した後、前記第1の試験液の沸点よりも高温の第2の試験液に浸漬する工程を有するバブルテスト法である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子部品の試験方法。
【請求項7】
前記電子部品の試験方法が、電子部品の気密性を試験する方法であって、
秤量した電子部品を加圧雰囲気中の試験液に浸漬した後、該電子部品を秤量する工程を有する重量増加検出法である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子部品の試験方法。
【請求項8】
前記電子部品の試験方法が、電子部品の気密性を試験する方法であって、電子部品を加圧雰囲気中の試験液に浸漬した後、該電子部品から蒸発する試験液を検出する工程を有する分析法である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子部品の試験方法。

【公開番号】特開2010−38819(P2010−38819A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204206(P2008−204206)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】