説明

電子顕微鏡用試料台

【課題】 高精度のEBSD解析が可能な電子顕微鏡用試料台を提供する。
【解決手段】 電子顕微鏡用試料台31は、試料ステージ5に装着可能な試料ホルダ9に取付けられる台座33と、台座33に対して垂直に固定された軸35と、本体内部の軸方向に延びる中空部37aが形成されるとともに、本体胴部側面に少なくとも1つの貫通孔41が形成され、中空部37aを介して軸35に対して挿入され、軸35に挿入された状態で軸35の円周方向に回転可能な中空部材37と、貫通孔41に挿入され、軸35と中空部材37とを支持することにより、中空部材37と軸35との相対的な位置を固定する固定部材39とを備える。中空部材37の上面には、試料3が取付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡に用いる電子顕微鏡用試料台に関する。
【背景技術】
【0002】
集合組織を有する金属材料やセラミックス材料は、形成する組織の大きさや結晶配向、結晶内の転位、粒界の状態などで機械的特性を代表とする基本的な性質が決定されている。したがって、材料の結晶情報を解析することは非常に重要であり、古くから集合組織の解析は行われている。
【0003】
近年では、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、「SEM」という。)による電子線後方散乱パターン(Electron Back Scattering Diffraction:以下、「EBSD」という。)法が多く利用されてきている。EBSD法とは、SEM内で試料表面に細く絞った電子線を入射させた際に生じる反射電子回折パターン(Electron Back−Scattering Diffraction Pattern)を用いて局所領域の結晶方位や結晶構造を解析しようとするものである(非特許文献1を参照)。
【0004】
EBSDパターンは、結晶の僅かな傾きによってその位置を大きく変えるので0.n°の正確な結晶方位解析が可能であり、高精度のEBSD解析をするためには、試料の前処理と測定の際の試料の固定が重要となる。EBSD測定では、試料表面から数十nmの深さの範囲における情報が得られるため、前処理中に生成した加工歪が結果に大きく影響する。そこで、EBSD測定では、従来から行われている機械研磨の後に電解研磨を施して機械研磨で生成した歪層を除去するなど細心の注意で前処理が行われている。
【0005】
また、EBSD法は、組織解析が材料そのものから実際の製品の製造過程で加わった環境により変化する組織の変化を捕えるといった解析にも応用されている。実際の製品は、材料の複合化により多種の材質が含まれているため、従来の前処理方法では対応できなくなってきているためである。そこで、最近、電子顕微鏡用の試料作製方法としてGaイオンを利用した集束イオンビーム(Focused Ion Beam:以下、「FIB」ともいう。)加工装置による加工が一般的となっている。
【0006】
集束イオンビーム加工(観察)装置は、Gaイオンを集束して試料に当てることで、スパッタ効果により試料を削る装置である。集束イオンビーム加工装置を用いた加工は、他の手法に比べて試料の材質を選ばないことや、観察試料内部へのダメージが少ないといった特徴がある。また、集束イオンビーム加工装置を用いた加工では、Gaイオンビームとともに反応性ガスを雰囲気中に流すことで、FIB−CVD(Focused Ion Beam Chemical Vapor Deposition)によりカーボンやタングステン等を堆積させ、試料の接着や固定ができる。したがって、集束イオンビーム加工装置を用いた加工は、例えば特許文献1に記載されているように、稼動するプローブ機能と組み合わせて試料(分析試料)から所望の特定部位を含む観察対象となる試料片のみを摘出し、試料台にデポジションを用いて固定する、いわゆるマイクロサンプリング(法)が可能である。このように、集束イオンビーム加工装置では、複合化した試料に対応でき、マイクロサンプリングにより自由に試料を摘出して固定することができる。
【0007】
マイクロサンプリングで摘出された試料は、例えば、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:以下、「TEM」と呼ぶ)用の試料などで使用される直径3mmの板を半円に切断した形状の試料メッシュに固定される。この試料メッシュは、SEM用の試料台に垂直に立つように導電性のペーストを用いて接着もしくは導電性のテープを用いて固定されることで、SEMによりEBSD測定が行われる。
【0008】
ところで、EBSD測定では、例えば図9に示すように、電子顕微鏡において、試料100中で散乱/回折を受けて後方散乱した電子に基づく電子回折パターン(EBSDパターン)を効率よく検出器104に送るため、電子線(入射電子)の入射方向に対して試料100の測定面102を約70度傾斜した状態で測定する必要がある。また、測定面102が位置する平面内で測定面102を回転させることなく位置させる必要があるため、測定面102と垂直な試料面106を正確に位置させ固定させる必要がある。ペーストなどにより試料100を試料台に固定すると、この試料面106の正確な位置決めができない。したがって、試料を正確なEBSDにより解析することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−108813号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】梅澤修 「SEM−EBSDで何がわかるか」熱処理41巻5号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、SEMによるEBSD法を用いた試料の結晶方位解析において、試料をEBSD解析により正確に解析できる電子顕微鏡用試料台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明に係る電子顕微鏡用試料台は、電子顕微鏡の試料ステージに装着可能な試料ホルダに取付けられる台座と、前記台座に対して垂直に固定された軸と、本体内部の軸方向に延びる中空部が形成されるとともに、本体胴部側面に少なくとも1つの貫通孔が形成され、該中空部を介して前記軸に対して挿入され、該軸に挿入された状態で該軸の円周方向に回転可能な中空部材と、前記貫通孔に挿入され、前記軸と前記中空部材とを支持することにより、前記中空部材と前記軸との相対的な位置を固定する固定部材とを備え、前記中空部材の上面に試料が取付けられることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る電子顕微鏡用試料台は、前記試料ホルダに接する前記台座の下面と、前記中空部材の上面とが、平行となるように、該台座と該中空部材とが形成されており、ステージ制御部により前記試料ステージの角度が制御されると、前記試料ホルダと、当該電子顕微鏡用試料台とを介して、電子線の入射方向に対する前記試料の測定面の角度が制御されることを特徴とする。
【0014】
前記試料は、FIB加工装置を用いたマイクロサンプリング法により作製されることを特徴とする。また、前記試料は、FIB−CVD法によるデポジション膜を用いて、試料メッシュに取付けられることを特徴とする。
【0015】
前記試料メッシュは、導電性ペーストを用いて前記中空部材の上面に取付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、軸方向に挿入された中空部材が軸の円周方向に回転可能であるため、中空部材と軸との相対的な位置を調整して固定部材により固定することができる。これにより、試料の測定面に対する電子線の入射角度を正確に設定することができるため、高精度のEBSD解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台を用いる電子顕微鏡の構成例を模式的に示す図である。
【図2】(A)は、本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台を搭載した試料ステージを示す平面図であり、(B)は、本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台を搭載した試料ステージを示す斜視図である。
【図3】(A)は、本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台を模式的に示す分解斜視図であり、(B)は、本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台を模式的に示す斜視図である。
【図4】本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台に試料を載せた試料メッシュを設置した状態を示す平面図である。
【図5】マイクロサンプリング法で微小試料を摘出する方法を模式的に示す斜視図である。
【図6】マイクロサンプリング法で摘出した微小試料を試料メッシュに固定した状態を模式的に示す斜視図である。
【図7】(A)は、試料メッシュの取付け方法の一例を模式的に示す図であり、(B)は、試料メッシュが固定された電子顕微鏡用試料台を示す側面図である。
【図8】本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台を用いてEBSD測定を行う状態を示す図である。
【図9】EBSD測定法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した電子顕微鏡用試料台の具体的な実施の形態の一例について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。
1.電子顕微鏡の構成例
2.電子顕微鏡用試料台
3.試料の作製及び試料の取付け
3−1.マイクロサンプリング法
3−2.試料メッシュへの試料の取付け
3−3.試料台への試料メッシュの取付け
4.実施例
【0019】
<1.電子顕微鏡の構成例>
図1は、本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台(以下、単に「試料台」ともいう)が使用されるEBSDシステムを搭載した電子顕微鏡の構成例を模式的に示す図である。
【0020】
電子顕微鏡1は、試料3が取付けられた電子顕微鏡用試料台31を試料ホルダ9を介して保持する試料ステージ5と、試料3に電子線を照射する電子線照射部7と、試料3から反射された電子線に基づく電子線回折像を撮影する検出器としてのCCDカメラ11とを備える。また、電子顕微鏡1は、試料ステージ5の移動、或いは傾斜角度を制御するステージ制御部13と、CCDカメラ11のフォーカスや絞りなどを制御するカメラ制御部15とを備える。
【0021】
試料ステージ5は、例えば、x軸、y軸の2次元方向に移動可能な水平移動機構、z軸方向に移動できる高さ移動機構、傾斜機構等を備えている。試料ステージ5は、ステージ制御部13を通じて、例えばパーソナルコンピュータで構成されるシステム制御部17により、2次元方向や傾斜が制御される。
【0022】
電子線照射部7は、電子銃19から電子線を発生する。電子銃19から発生した電子線は、集束レンズ21及び対物レンズ23によって試料3の表面上に細く集束され、走査コイル25によって試料3上で走査される。電子線の照射によって、試料3からは、電子線が後方散乱し、弾性散乱反射電子に基づく電子線回折像が、CCDカメラ11で撮影される。CCDカメラ11で撮影された電子線回折像信号は、カメラ制御部15を介して解析処理部(図示せず)に送られる。このように、CCDカメラ11は、回折像を撮影する撮像手段を構成している。
【0023】
<2.電子顕微鏡用試料台>
本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台31は、図2に示すように、試料ホルダ9に形成された試料台装着部34に着脱自在に取付け可能である。電子顕微鏡用試料台31は、例えば、図3に示すように、台座33と、台座33に取付けられた軸35と、中空部材37と、固定部材39とを備える。
【0024】
台座33は、例えば、板状に形成され、電子顕微鏡1によりEBSD測定を行う観点から、導通性を有し磁性を有しない材料、例えばアルミニウムで構成されていることが好ましい。
【0025】
軸35は、例えば、円柱形状に形成され、台座33と同様に導通性を有し磁性を有しない材料、例えばアルミニウムで構成されていることが好ましい。軸35は、例えば、台座33の上面33aの中央に、台座33に対して垂直に接続されている。
【0026】
中空部材37は、中空部材37の本体内部の軸方向に延びる中空部37aが形成された筒状の部材である。中空部材37は、例えば、同心円部分が中空の円筒部材である。中空部材37は、導通性を有し磁性を有しない材料、例えばアルミニウムで構成されていることが好ましい。中空部材37は、中空部37aを介して図3(A)の矢印に示す方向に軸35に挿入されると、軸35と内接した状態となる。また、中空部材37は、図4に示すように、軸35に挿入された状態で、軸35の円周方向、すなわち図4に示す矢印方向に回転可能である。
【0027】
また、中空部材37の本体胴部には、図3(A)に示すように、固定部材39が挿入される貫通孔41が設けられている。固定部材39は、例えばネジからなり、図3(B)に示すように、貫通孔41に挿入されると、軸35と中空部材37とを支持することにより、中空部材37と軸35との相対的な位置、すなわち、中空部材37と軸35との角度を固定する。換言すると、電子顕微鏡用試料台31において、中空部材37が軸35に対して軸方向に挿入された状態で、固定部材39が貫通孔41に挿入されると、固定部材39は、軸35と中空部材37とを支持して、軸35に対する中空部材37の位置(角度)を固定する。
【0028】
また、図1乃至図3に示すように、顕微鏡用試料台31は、試料ホルダ9に接する台座33の下面33bと、中空部材37の上面37bとが、平行となるように、台座33と中空部材37とが形成されている。より具体的には、台座33の下面33bと、中空部材37の下面37cに接する台座33の上面33aと、中空部材37の下面37cと、中空部材の上面37bとが、全て平行となるように、台座33と中空部材37とが形成されている。
【0029】
このような顕微鏡用試料台31を用いた電子顕微鏡1では、ステージ制御部13により試料ステージ5の角度が制御されると、試料ホルダ9と、電子顕微鏡用試料台31とを介して、電子線の入射方向に対する試料3の測定面3aの角度が制御される。より具体的には、電子顕微鏡1では、ステージ制御部13により試料ステージ5の角度が制御されると、試料ホルダ9に接する試料ステージ5の上面5aと、この上面5aに平行な試料ホルダ9の下面9aと、台座33に接し台座33と平行な試料ホルダ9の上面9bと、台座33及び中空部材37を介して、電子線の入射方向と、試料3の測定面3aとの角度とが制御される。
【0030】
したがって、電子顕微鏡用試料台31を用いた電子顕微鏡1では、ステージ制御部13により、試料ステージ5を電子線の入射方向に対して約70度傾斜した状態に制御することで、試料3の測定面3aが電子線の入射方向に対して約70度傾斜した状態に設定できるため、高精度のEBSD解析を行うことができる。
【0031】
また、電子顕微鏡用試料台31は、図4に示すように、中空部材37が、軸35に挿入された状態で軸35の円周方向に回転可能であり、固定部材39により中空部材37と軸35との相対的な位置を固定することができる。これにより、例えば後述するように、実体顕微鏡を用いて台座33の側面33cと試料面3bとが平行になるように調整して固定することができる。したがって、電子顕微鏡用試料台31を用いた電子顕微鏡1では、例えば図4に示す試料メッシュ43に取付けられた試料3の測定面3aと電子線の入射角度、換言すると、測定面3aに対する電子線の入射角度を正確に設定することができるため、高精度のEBSD解析を行うことができる。なお、図4に示す測定面3aは、上述した図9に示す測定面102に対応し、試料面3bは、上述した図9に示す試料面106に対応する。
【0032】
<3.試料の作製及び試料の取付け>
<3−1.マイクロサンプリング法>
本実施の形態に係る電子顕微鏡用試料台31に取付けられる試料3は、例えば集束イオンビーム加工装置(図示せず)を用いたマイクロサンプリング法により観察すべき領域を含むようにサンプリングされる。
【0033】
マイクロサンプリング法とは、例えば、集束イオンビーム加工装置(図示せず)を用いて、図5に示すように試料49から所望の特定部位を含み観察対象となる試料3のみを摘出し、電子顕微鏡用試料台31にデポジション膜50を用いて固定する方法である。デポジション膜50は、例えば、プローブ47と試料3とを接続したり、試料3を試料メッシュ43に固定する役割を果たす。ここで、測定面3aは、試料49の試料面49aに対応する。マイクロサンプリング法では、リフトアウト法などの方法に比べて試料を確実に捉えることができる。
【0034】
また、集束イオンビーム加工装置とは、電界によりガリウムイオン源(液体ガリウム)から引き出したガリウムイオン(プローブ47)を集束させた上で、試料に走査して照射するものである。これにより、試料表面上の原子や分子を真空中にはじき出させ、このスパッタリング現象を応用したエッチングにより、試料にサブミクロンの精度で平滑な断面の作製や穴開け加工を可能とする。
【0035】
<3−2.試料メッシュへの試料の取付け>
試料メッシュ43は、例えば図6に示すように、導電性を有する部材からなり、板を半円状に切断した形状で構成されている。試料メッシュ43としては、例えば、FIB用として市販されているモリブデン製、銅製等の試料メッシュを使用することができる。上記マイクロサンプリング法により採取した試料3は、FIB−CVD法によるデポジション膜50を用いて、試料メッシュ43に取付ける。
【0036】
<3−3.試料台への試料メッシュの取付け>
例えば図7に示すように、試料3が取付けられた試料メッシュ43は、接着性を有し導電性を有する導電性ペースト51を用いて、中空部材37の上面37bに取付ける。導電性ペースト51としては、例えば、カーボンペーストや銀ペースト等を用いることができる。
【0037】
具体的には、図7(a)に示すように、電子顕微鏡用試料台31の中空部材37の上面37bの端部に、導電性ペースト51を塗布する。次に、図7(b)、図7(c)に示すように、塗布した導電性ペースト51上に試料3を取付けた試料メッシュ43を中空部材37の上面37bの端部からはみ出すように載せ、試料メッシュ43を中空部材37の上面37bに固定する。図7(B)は、図7(c)に示すように試料メッシュ43が固定された電子顕微鏡用試料台31を示す側面図である。
【0038】
このように試料台に31に試料メッシュを取付けた後、図4に示すように、台座33の側面33cが、試料3の試料面3bと平行になるように、実体顕微鏡で観察しながら中空部材37を回転して方向を合わせる。最後に、固定部材39で中空部材37と軸35とを固定する。
【0039】
以上説明したように、電子顕微鏡用試料台31を用いることにより、中空部材37と軸35との相対的な位置を容易かつ正確に調整して、固定部材39により中空部材37と軸35との相対的な位置を固定することができる。これにより、試料3の測定面に対する電子線の入射角度を正確に設定することができるため、高精度のEBSD解析を行うことができる。
【0040】
なお、上述した説明では、試料メッシュ43に1つの試料3を取付けて測定を行うものとして説明したが、この例に限定されず、2つ以上の試料3を試料メッシュ43に取付けてもよい。例えば、1つの試料メッシュ43に複数の試料3を取付けた場合でも、上述したように中空部材37が軸35の円周方向に回転可能であるため、試料メッシュ43に1つの試料3を取付けた場合と比較して、より効率よく複数の試料3のEBSD測定を行うことができる。
【0041】
また、上述した説明では、中空部材37には、2つの貫通孔41が設けられ、この貫通孔41にそれぞれ固定部材39が挿入されるものとしたが、貫通孔41の数を1つ又は3つ以上としたり、挿入する固定部材39の数を適宜変更してもよい。また、軸35は、円柱形状に形成されているものとして説明したが、これに限定されず、中空部材37における中空部37aの形状に合わせて適宜することができる。
【0042】
また、試料メッシュ43は、試料3を取付けることが可能であれば、半円状に切断した形状以外にも、例えば、くし型のものや他の形状のものを使用してもよい。
<4.実施例>
【実施例】
【0043】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0044】
〔実施例1〕
(1)試料台
実施例1では、台座となるアルミニウム製の板(10mm×10mm×4mm)の中央に、軸となるアルミニウム製の円柱(直径4mm弱)を接続した。また、直径4mmの同心円部分が中空となっているアルミニウム製の中空部材(直径8mm×6mm)は、軸に挿入された状態になっている。この中空部材の本体胴部には、固定部材であるネジ止め用の貫通孔が設けられており、ネジを貫通孔へ挿入していくことで、軸と中空部材との角度、すなわち、軸と中空部材との相対位置を固定する。また、中空部材の上面は、平滑な表面状態となっている。
【0045】
(2)試料の作製及び試料の取付け
結晶方位が既知のSi基板を用いて、試料台に固定された試料の固定によるずれの大きさを確認した。
【0046】
(100)方向が観察面になるように集束イオンビーム加工観察装置(FB−2100:日立ハイテクノロジーズ製)で微小試料(20μm×3μm×5μm)をSi基板からマイクロサンプリング法で摘出して試料メッシュに固定し、観察試料を作製した。
【0047】
作製した試料を、試料台に導電性ペーストで固定し、実体顕微鏡下で試料の方向を調整した。
【0048】
(3)EBSDによる試料の方位解析
図8に示すように、SEM(ULTRA55:カールツァイス製)に搭載されたEBSDシステム(CHANEL5)を用いて試料3の方位解析を行い、Siの(100)方向に対しての傾きの大きさを測定した。
【0049】
〔比較例1〕
比較例1では、実施例1と同じ方法で観察試料を作製し、導電性ペーストによりアルミニウム(Al)製の立方体(10mm×10mm×10mm)の上面に固定した。次に、実施例1と同じEBSDシステムを用いて方位解析を行い、Siの(100)方向に対する傾きを測定した。
【0050】
実施例1及び比較例1の測定結果を以下の表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、実施例1の測定結果の方が、比較例1の測定結果よりも、試料台に固定された試料の固定によるずれの大きさが少ないことが分かる。これらの結果から、実施例1の試料台を用いることにより、高精度のEBSD解析が行えることが分かった。
【符号の説明】
【0053】
1 電子顕微鏡、3 試料、5 試料ステージ、7 電子線照射部、9 試料ホルダ、11 CCDカメラ、13 ステージ制御部、15 カメラ制御部、17 システム制御部、19 電子銃、21 集束レンズ、23 対物レンズ、25 走査コイル、31 電子顕微鏡用試料台、33 台座、34 試料台装着部、35 軸、37 中空部材、37a 中空部、39 固定部材、41 貫通孔、43 試料メッシュ、45 試料、47 プローブ、49 試料、50 デポジション膜、51 導電性ペースト、100 試料、102 測定面、104 検出器、106 試料面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡の試料ステージに装着可能な試料ホルダに取付けられる台座と、
前記台座に対して垂直に固定された軸と、
本体内部の軸方向に延びる中空部が形成されるとともに、本体胴部側面に少なくとも1つの貫通孔が形成され、該中空部を介して前記軸に対して挿入され、該軸に挿入された状態で該軸の円周方向に回転可能な中空部材と、
前記貫通孔に挿入され、前記軸と前記中空部材とを支持することにより、前記中空部材と前記軸との相対的な位置を固定する固定部材とを備え、
前記中空部材の上面に試料が取付けられることを特徴とする電子顕微鏡用試料台。
【請求項2】
前記試料ホルダに接する前記台座の下面と、前記中空部材の上面とが、平行となるように、該台座と該中空部材とが形成されており、
ステージ制御部により前記試料ステージの角度が制御されると、前記試料ホルダと、当該電子顕微鏡用試料台とを介して、電子線の入射方向に対する前記試料の測定面の角度が制御されることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡用試料台。
【請求項3】
前記試料は、FIB加工装置を用いたマイクロサンプリング法により作製されることを特徴とする請求項1又は2記載の電子顕微鏡用試料台。
【請求項4】
前記試料は、FIB−CVD法によるデポジション膜を用いて、試料メッシュに取付けられることを特徴とする請求項3記載の電子顕微鏡用試料台。
【請求項5】
前記試料メッシュは、導電性ペーストを用いて前記中空部材の上面に取付けられることを特徴とする請求項4記載の電子顕微鏡用試料台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−204367(P2011−204367A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67785(P2010−67785)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】