説明

電子顕微鏡

【課題】
本発明は、試料から放出される電子の検出効率と、エネルギーフィルタのエネルギー弁別能力の両立を実現することを目的とする。
【解決手段】
本発明では、上記目的を達成するために、エネルギーフィルタを、少なくとも2つの円筒を含むように構成し、この2つの円筒を、電子ビームの光軸方向に延びる電極とし、その2つの電極の少なくとも一部が、試料からみて同じ高さに位置付けられるように構成した。このような構成によれば、試料から放出される電子の検出効率の向上と、エネルギーフィルタのエネルギー弁別能力向上の両立を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡に関し、特に試料から放出された電子をエネルギー弁別するエネルギーフィルタを備えた走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microsope:SEMと略す) は、電界放出形の電子源から放出された電子を加速し、静電または磁界レンズを用いて細い電子ビーム(一次電子ビーム)とし、この一次電子ビームを観察する試料上に二次元状に走査し、一次電子ビーム照射で試料から二次的に発生する二次電子または反射電子等の二次信号電子を検出し、検出信号強度を一次電子ビームの走査と同期して走査されるモニターの輝度変調入力とすることで二次元の走査像を得る。
【0003】
近年、半導体産業の微細化が進んだことから、SEMが光学顕微鏡に代わって、半導体素子製作のプロセスまたはプロセス完成後の検査(例えば電子ビームによる寸法測定や電気的動作の検査)に使われるようになった。絶縁物が使われている半導体産業の試料(ウェハ)では、絶縁物ウェハが帯電し、ウェハ表面電位がウェハホルダの電位と一致しない状況が発生している。ウェハ表面電位の変動は一次電子ビームの入射エネルギー変動と倍率誤差を発生し、寸法誤差の要因となっている。
【0004】
このウェハの表面帯電を検出する手法として、従来から試料から放出される電子をエネルギー弁別するエネルギーフィルタが用いられている。その代表的な例が特許文献1に開示されている。
【0005】
【特許文献1】WO99/46798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、種々の形態のエネルギーフィルタが開示されている。しかしながら以下のような問題がある。例えば、特許文献1にはメッシュフィルタを複数段配置することによって、試料から放出される電子のエネルギーフィルタリングを行うことが開示されているが、メッシュ電極は物理的な大きさをもっているため、電子がメッシュに衝突してしまい、検出効率を低下させるという問題がある。
【0007】
また、特許文献1には2つの電極から構成されたエネルギーフィルタを用いて、エネルギーフィルタリングを行うことが開示されているが、2つの電極の外部から、電界が侵入するため、エネルギーフィルタリングを行うための負電位領域が制限され、エネルギー分解能が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は、試料から放出される電子の検出効率と、エネルギーフィルタのエネルギー弁別能力の両立を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記目的を達成するために、エネルギーフィルタを、少なくとも2つの円筒を含むように構成し、この2つの円筒を、電子ビームの光軸方向に延びる電極とし、その2つの電極の少なくとも一部が、試料からみて同じ高さに位置付けられるように構成した。
【発明の効果】
【0010】
以上のような構成によれば、エネルギーフィルタの電子通過開口を制限することなく、外部からの電界の侵入を防止することができるため、試料から放出される電子の検出効率向上と、エネルギーフィルタのエネルギー弁別能力向上の両立を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に、本例によるSEMの実施例を示した。電界放出陰極11と引出電極12との間に引出電圧を印加することで、一次電子ビーム1を生成する。更に一次電子ビーム1は、加速電極13に印加される電圧によって加速される。
【0012】
絞り15を通過した一次電子ビーム1はコンデンサレンズ14によって収束され、上走査偏向器21,下走査偏向器22で走査偏向を受ける。上走査偏向器21,下走査偏向器22の偏向強度は、対物レンズ17のレンズ中心を支点として試料23上を二次元走査するように調整されている。調整つまみ16は、絞り15を移動させる。
【0013】
偏向を受けた一次電子ビーム1は、対物レンズ17の通路に設けられた加速円筒18でさらに後段加速電圧19の加速をうける。後段加速された一次電子ビーム1は、対物レンズ17のレンズ作用で試料23上に細く絞られる。
【0014】
試料23を配置するための試料台24には、リターディング電圧25が印加されており、試料23に到達する一次電子ビーム1は、対物レンズ17を通過するときに比べて減速する。
【0015】
一次電子ビーム1が試料23を照射すると二次電子2乃至3が発生する。ここで考慮する二次信号は二次電子と反射電子である。対物レンズ17と試料23間に作られている電界は、発生した二次信号に対しては加速電界として作用するため、対物レンズ17の通路内に吸引され、対物レンズ17の磁界でレンズ作用を受けながら上昇する。対物レンズ
17内を通過した二次電子2乃至3は走査偏向器21,22を通過し、エネルギーフィルタ40に入射する。
【0016】
エネルギーフィルタ40は、円筒41の内部に同心状に薄肉の円筒42を備え、円筒
41と42にはリターディング電圧25とフィルタ電源45の重畳したフィルタ電圧を印加している。
【0017】
円筒42を配置したことで、円筒41の上下開口から浸透するグランド電圧の影響が緩和され、一様なフィルタ電圧が形成できている。このため、エネルギーの等しい二本の二次電子2及び3の透過,不透過が、フィルタへの入射位置に依存せず、エネルギー分解能が向上する。
【0018】
円筒41,42を通過した電子は、二次電子変換電極29に衝突し、二次電子4を発生させる。この二次電子4は、偏向電極26が形成する偏向電界によって、シンチレータ5側に偏向される。二次電子4の衝突によって、シンチレータ5は光を発生し、ライトガイド6,光電子増倍管7に導かれて電気信号に変換,増幅される。
【0019】
シンチレータ5等からなる検出器は、円筒41,42より電子源側に配置される。偏向コイル28は、偏向電極26が形成する偏向電界と、一次電子ビーム光軸に対して直交する方向に、磁界を形成し、偏向電界による一次電子ビームの偏向をキャンセルする偏向を行う。
【0020】
以下に、エネルギーフィルタ40の具体的な構造について説明する。
【0021】
図2は、一重円筒からなるエネルギーフィルタの構成と問題点を模式的に示している。リターディング電圧25が印加された試料23で発生した二次電子2及び3は走査偏向器の円筒20を通り抜けて、エネルギーフィルタの円筒41に入射する。円筒41にはリターディング電圧25とフィルタ電源45の重畳したフィルタ電圧を印加している。
【0022】
円筒41の内部が一様にフィルタ電圧による電位分布となることが望ましいが、実際には円筒の上下開口から周辺の電極(円筒20及びメッシュ30)のグランド電圧が浸透し、一様な電位分布が形成できない。このため、エネルギーの等しい二本の二次電子2及び3の透過,不透過が、フィルタへの入射位置に依存しており、エネルギー分解能を劣化させる原因となっている。
【0023】
一重円筒からなるエネルギーフィルタのエネルギー分解能を向上させるために、フィルタ円筒41の径を縮小する、或いは径の一部を狭くすることが考えられる。フィルタ円筒の径を縮小すれば、外部からの電界の浸透を抑制することができるが、光軸から大きく離れた二次電子や反射電子の軌道を制限することになるため、エネルギーフィルタによって弁別した電子(例えば反射電子)からなる画像のS/Nが低下するだけではなく、エネルギーフィルタを使用しない条件でも、像のS/Nが低下する。
【0024】
フィルタ円筒41の径を縮小することなく、エネルギー分解能を向上する例として、図3のように円筒41の開口を覆うようにメッシュ44を複数枚張ることが考えられる。本方式を用いても、メッシュ44のフレーム部によって、二次電子の透過率が低下し、エネルギーフィルタを使用しない条件でも、像のS/Nが低下してしまう。
【0025】
以上のような観点から、以下に示す例では、フィルタ円筒の径を縮小することなく、フィルタ円筒内に一様な電位分布を形成するために、円筒を複数重ねることを提案する。
【0026】
図4は上記した本例の特徴的構成を示している。リターディング電圧25が印加された試料23で発生した二次電子2及び3は走査偏向器の円筒20を通り抜けて、エネルギーフィルタの円筒41に入射する。円筒41の内部に同心状に薄肉の円筒42を配置した。円筒41と42にはリターディング電圧25とフィルタ電源45の重畳したフィルタ電圧を印加している。円筒42を配置したことで、円筒41の上下開口から浸透するグランド電圧の影響が緩和され、一様なフィルタ電圧が形成できている。このため、エネルギーの等しい二本の二次電子2及び3の透過,不透過が、フィルタへの入射位置に依存せず、エネルギー分解能が向上する。
【0027】
円筒41,42は、一次電子ビーム1の照射方向(光軸方向)に延びる電極であって、その2つの電極の少なくとも一部が、試料23から見て同じ高さに位置付けられている。図4は、円筒41,42は光軸方向に全く同じ長さであり、全く同じ高さに位置付けられる例を説明する図であるが、円筒41,42の間に、一様な電位分布が、一次電子線の光軸方向に所定長さ形成されるように配置されれば、必ずしも円筒41,42は同じ長さである必要はない。また、少なくともその一部同士が試料に対して同じ高さに配置され、且つその間において、所定長さの一様な電位分布が形成されていれば、完全に同じ高さに位置付ける必要はない。
【0028】
但し、円筒41,42の長さが違ったり、配置高さに違いがある場合、試料から放出される電子の軌道を変えてしまい、電子の検出効率を低下させてしまう可能性があるので、円筒41,42は光軸方向に同じ長さであって、同じ高さに位置付けられることが望ましい。
【0029】
円筒41,42は一次電子ビーム光軸が、円筒の中心を通過するように形成され、その壁面は、一次電子ビーム光軸に平行に形成されている。なお、本例でいうところの一次電子ビーム光軸とは、偏向を受けない一次電子ビームが通過する通過軌道である。
【0030】
更に、図4は円筒41,42が、一次電子ビーム光軸を、360°方向に完全に包囲する(円筒側部に穴がないように構成する)ように形成されている例を示す図であるが、これに限られることはなく、例えば円筒の壁面をメッシュ状に構成しても良いし、複数の板状体、或いはリング状体を円筒状に配置して、実質的な円筒を形成するようにしても良い。
【0031】
但し、ここで注意しなければならないのは、円筒外部からの他の電界が、円筒内に形成される一様な電位分布に大きな影響を与えないように形成することが必要である。例えば、円筒41側部に大きな開口がある場合、そこから外部電界が円筒内部に染み出す可能性がある。これによって、外部電界が染み出した領域のエネルギー分解能が低下する。
【0032】
このような開口が円筒のある方向にのみ形成されている場合、その開口近傍と、それ以外の領域では、エネルギー分解能に違いが生ずる。即ち、試料からの電子の放出方向によって、エネルギー弁別能力に違いが生ずるという問題が生ずる。
【0033】
以上のような問題を解消するためには、円筒41,42を一次電子ビーム光軸に対し、軸対称に構成することが望ましい。
【0034】
本例によれば、フィルタ円筒の径を縮小することなく、分解能の高いエネルギーフィルタを作成することが出来る。この結果、光軸から大きく離れた反射電子及び二次電子を検出でき、エネルギーフィルタによって弁別した反射電子からなる反射電子像のS/Nが向上するだけではなく、エネルギーフィルタを使用しない条件でもS/Nの高い像を得ることが出来る。
【0035】
図5は、より具体的な円筒41,42の構成例である。円筒42は支柱43によって、円筒41に固定されている。支柱43は、一次電子ビームの光軸に対して、垂直な方向の面積を極力減らすように、細い部材によって形成されている。このような構成によって、電子の検出効率の低下を抑制しつつ、円筒42を配置することができる。円筒42は、円筒41に電気的に接続されているため、円筒41に印加される電圧と同じ電圧が印加される。
【0036】
上記説明では、円筒を2重にする例について説明したが、これに限らず、3重以上にすることも可能である。但し、円筒の数が増えるごとに、試料から放出する電子の検出効率は低下するため、検出効率と、エネルギーフィルタのエネルギー弁別能力とのトレードオフによって、適正なエネルギーフィルタの形状や大きさを決定することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例で説明するエネルギーフィルタを有する走査電子顕微鏡の全体構成図。
【図2】一重円筒からなるエネルギーフィルタの問題点を説明する図。
【図3】フィルタ円筒の開口を覆うようにメッシュを複数枚張る事で、エネルギー分解能を向上した場合の問題点を説明する図。
【図4】実施例で説明するエネルギーフィルタを用いた場合の効果を説明する図。
【図5】エネルギーフィルタを構成する円筒の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0038】
1…一次電子ビーム、2,3…二次電子、4…二次電子が生成した新たな二次電子、5…シンチレータ、11…電界放出陰極、12…引出電極、13…加速電極、14…コンデンサレンズ、15…絞り、16…調整つまみ、17…対物レンズ、18…加速円筒、19…後段加速電圧、20…走査偏向器の円筒、21…上走査偏向器、22…下走査偏向器、23…試料、24…試料台、25…リターディング電圧、26…静電偏向電極、27…静電偏向電極(メッシュ)、28…偏向コイル、29…二次電子変換電極、30…グランド電極(メッシュ)、40…エネルギーフィルタ、41,42…フィルタ円筒、43…支柱、45…フィルタ電源、49…フィルタに電圧を印加した際の等電位線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを試料に照射することによって、当該試料から放出される電子をエネルギー弁別するエネルギーフィルタを備えた電子顕微鏡において、
前記エネルギーフィルタは、少なくとも2つの円筒を含み、当該2つの円筒は前記電子ビームの光軸方向に延びる電極であって、その2つの電極の少なくとも一部が、前記試料からみて同じ高さに位置付けられていることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記2つの円筒状電極には、負電圧が印加されることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1において、
前記2つの円筒状電極は、前記電子ビームの光軸に対し、軸対称な筒状であることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1において、
前記2つの円筒は、前記電子ビーム光軸方向に同じ長さであって、前記試料から見て同じ高さに位置付けられていることを特徴とする電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−286207(P2006−286207A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100479(P2005−100479)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】