説明

電極の形成方法

【課題】精度良く、立体構造の側壁に電極を形成することができるようにする。
【解決手段】ガラス基板1上に形成された構造物11に対してマスク21がかぶされ、スパッタが行われる。マスク21には、それぞれの立体構造物の側壁に金属膜を生成することができるような位置に孔部が形成される。マスクスパッタが行われることにより、それぞれの立体構造物の側壁と、立体構造物の間のガラス基板1表面にAl等の金属膜が生成される。成膜後、RIE法などを用いて、それぞれの立体構造物の間に生成された金属膜の分だけ削るように全体のエッチングが行われる。本発明は、立体構造の側壁に電極膜を形成することに適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の形成方法に関し、特に、精度良く、立体構造の側壁に電極を形成することができるようにした電極の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、厚膜フォトレジスト等を利用した高アスペクト比を有する微細な立体構造(三次元構造)の開発が盛んに行われている。例えば特許文献1には、立体構造をレンズアレイの形成に応用することが記載されている。
【0003】
このような立体構造を有するデバイスの作製のため、立体構造が形成された部材に電極パタンを高精度に形成することが要求されている。立体構造の例えば側壁に電極を形成する方法としては、レジスト材料を霧状にして噴出するスプレー法を用いる方法が提案されている。
【0004】
MEMS(Micro Electro Mechanical System)等の分野では、スプレー法によって立体構造全面にレジストを塗布し、更に、スパッタ法などで立体構造全面に電極膜を成膜した後、露光・現像工程を経て、電極をパターニングする手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−40455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スプレー法を用いた場合、立体構造のアスペクト比が高いということもあって、側壁に塗布したレジストの厚みに分布が生じてしまい、パタン精度が悪くなってしまうといった問題がある。また、面積が大きな部材に対して均一に成膜することが難しいといったことや、成膜に時間が大幅にかかってしまう等の問題もある。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、精度良く、立体構造の側壁に電極を形成することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面の電極の形成方法は、基板上に形成された立体構造の上面と、それぞれの前記立体構造の間の前記基板の表面とをマスクしてスパッタを行うことによって導電膜を生成し、前記立体構造の側面に生成された第1の導電膜と、前記立体構造の間の前記基板の表面に生成された第2の導電膜のうち、前記第2の導電膜をエッチングするのにかかる時間だけ、前記基板と前記立体構造の表面のエッチングを行うステップを含む。
【0009】
前記基板上には、断面の形状が台形の前記立体構造を複数並べて形成することができる。
【0010】
前記基板上には、複数の前記立体構造を周期性を持って並べて形成することができる。
【0011】
前記スパッタを、ターゲットと前記基板の間の距離を170mm以上、プロセス圧力を0.03Pa以下として行うことができる。
【0012】
前記エッチングはドライエッチングであるようにすることができる。
【0013】
本発明の一側面においては、基板上に形成された立体構造の上面と、それぞれの前記立体構造の間の前記基板の表面とをマスクしてスパッタが行われることによって金属膜が生成される。また、前記立体構造の側面に生成された第1の金属膜と、前記立体構造の間の前記基板の表面に生成された第2の金属膜のうち、前記第2の金属膜をエッチングするのにかかる時間だけ、前記基板と前記立体構造の表面のエッチングが行われる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、精度良く、立体構造の側壁に電極を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る形成方法によって形成される電極パタンの例を示す図である。
【図2】構造物の作製の流れについて説明するフローチャートである。
【図3】電極パタンの形成の流れについて説明するフローチャートである。
【図4】電極パタンの形成の流れを示す図である。
【図5】マスクスパッタに用いられるマスクの例を示す図である。
【図6】マスクスパッタの例を示す図である。
【図7】高アスペクト比を有する構造の断面図である。
【図8】ターゲット−基板間距離の依存性を示す図である。
【図9】スパッタ粒子の平均自由工程の成膜圧力依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[立体構造について]
図1は、本発明の一実施形態に係る形成方法によって形成される電極パタンの例を示す図である。
【0017】
本発明の一実施形態に係る形成方法は、複数の立体構造11Aからなる構造物11に電極膜を形成するものである。図1において色を付けて示す立体構造11Aの側壁の部分が、電極膜が形成されている部分である。立体構造11Aの断面の形状は台形であり、図示していないが、それぞれの立体構造11Aの反対側の壁面にも電極膜が形成される。
【0018】
ガラス基板1上には、例えば10mm×10mmの範囲に、立体構造11Aが複数並行に周期的に並べて形成される。図1には4つの立体構造11Aを10mm×10mmの範囲に示しているが、例えば、立体構造11Aは、高さが100um、底辺の幅が20umといったような微細な構造である。この場合、立体構造11Aのアスペクト比は5になる。
【0019】
電極膜が側壁に生成されたそれぞれの立体構造11Aの間には、電圧の変化によって偏光特性を変化させることが可能な液体が注入される。ガラス基板1上に構造物11が形成された図1の部材は、例えば3D画像(左目用画像と右目用画像)を表示する表示デバイスに用いられる。立体構造11Aと液体からなる層は、表示デバイスの偏光バリア層として機能することになる。
【0020】
ここで、図2のフローチャートを参照して、図1に示す構造物11の作製の流れについて説明する。
【0021】
ステップS1において、スピンコーターなどに載置されたガラス基板1に樹脂が供給される。構造物11は、例えば、厚膜レジストであるエポキシ樹脂のSU-8などで作製される。このときの立体構造は側面部にテーパがあった方が、マスクスパッタ時に電極膜が成膜されやすいので、台形が望ましい。
【0022】
ステップS2において、スピンコーターにより成膜が行われ、100um厚のSU-8膜が生成される。厚膜レジストを用いて立体構造物を作製する場合について説明したが、フィルムに型等を押し当て、フィルムを成型して立体構造物を作製することも可能である。
【0023】
ステップS3において、マスクアライナーなどにより露光が行われる。
【0024】
ステップS4において、現像装置により現像が行われる。
【0025】
ステップS5において、エッチング装置によりエッチングが行われる。
【0026】
これにより、図1に示すような複数の立体構造11Aからなる構造物11がガラス基板1上に形成される。
【0027】
[電極の形成について]
図3のフローチャートを参照して、電極パタンの形成の流れについて説明する。
【0028】
ステップS11において、スパッタリング装置により、構造物11にマスクをかぶせてスパッタを行うマスクスパッタが行われる。マスクスパッタにより、立体構造11Aの側壁にAl等の金属膜が電極膜として生成される。電極膜の厚さは例えば50nmである。
【0029】
ここでは、電極膜として金属であるAlを用いているが、電極膜としての機能を有すればよいので、ITO、InGaZnOなどの透明導電膜でも構わない。これらの透明導電膜は、金属膜と比較して高い可視光透過性を有しているので、光取り出し効率等が高いなどの優位性がある。また、電極膜として、金属膜と透明導電膜を積層する手法も有効である。この場合、透明導電膜単体を用いるのと比較すると、透過率は低下するが、導電性を補完することが可能となる。
【0030】
図4Aは、電極パタンの形成対象となる部材の断面図である。図4Aに示す部材に対して、図4Bに示すようにマスク21がかぶされ、スパッタが行われる。
【0031】
マスク21は、例えばNi材料を用いた40um厚のメタルマスクである。図4において、右上から左下に向かう斜線を付している部分は立体構造11Aの断面であり、左上から右下に向かう斜線を付している部分は金属膜の断面である。
【0032】
図5Aは、マスク21の上面21Aを示す図である。
【0033】
マスク21には、立体構造11Aの上面と、立体構造11A間のガラス基板1表面とをマスクし、立体構造11Aの側壁に電極膜を生成することができるような位置に孔部が形成される。
【0034】
構造物11に対してマスク21の位置合わせが行われた場合、図5Aの孔部21aの位置は、図4Aの左端の立体構造11Aの右側壁の位置に対応する位置になる。孔部21bの位置は、図4Aの左から2つ目の立体構造11Aの左側壁の位置に対応する位置になり、孔部21cの位置は、図4Aの左から2つ目の立体構造11Aの右側壁の位置に対応する位置になる。孔部21dの位置は、図4Aの左から3つ目の立体構造11Aの左側壁の位置に対応する位置になり、孔部21eの位置は、図4Aの左から3つ目の立体構造11Aの右側壁の位置に対応する位置になる。孔部21fの位置は、図4Aの右端の立体構造11Aの左側壁の位置に対応する位置になる。
【0035】
マスク21の上面21Aには、それぞれの孔部の方向と直交する方向に補強材31A乃至31Cが設けられる。補強材31A乃至31Cが設けられることにより、マスク21の強度を高めることができ、サイズを大型なものにすることが可能になる。図5Bは、図5AのA-A’線断面図である。
【0036】
図6は、スパッタリング装置51によるマスクスパッタの例を示す図である。
【0037】
スパッタリング装置51によるマスクスパッタは、例えば、ターゲット61にAlを用い、DCパルス電源から200Wの電源を磁石62に供給することによって行われる。
【0038】
ここで、マスクスパッタによるパタン形成の精度を向上させるためには、図6において実線矢印で示すようにターゲット61から飛び出るターゲット構成原子の直進成分だけを通過させる必要がある。垂直方向に対して角度をもったターゲット構成原子がマスク21を通過すると、その分、立体構造11Aの側壁以外の部分(立体構造11A間のガラス基板1表面の部分)に電極膜が形成される確率が高くなるためである。電源を供給したとき、ターゲット61からは、様々な方向に向かってターゲット構成原子が飛び出す。
【0039】
ターゲット構成原子の直進成分だけを取り出すには、ターゲット61−ガラス基板1間の距離を長くすることと、成膜時のプロセス圧力を下げることが必要である。ここで、ターゲット61−ガラス基板1間の距離を170mm以上、プロセス圧力を0.03Pa以下にすることが望ましい。プロセス圧力を低下させることは、強磁場にしてプラズマ密度を高くすることによって実現される。ターゲット61−ガラス基板1間の距離を170mm以上、プロセス圧力を0.03Pa以下にする理由については後述する。
【0040】
マスク21を用いてスパッタを行った場合、図4Bに示すように、立体構造11A間のガラス基板1表面にも、立体構造11Aの壁面に生成された金属膜の厚さより薄いものの、金属膜が形成されてしまう。立体構造11A間のガラス基板1表面の部分は、本来、電極膜が成膜されてほしくない部分である。
【0041】
そこで、ステップS12(図3)において、エッチング装置により、RIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチング法を用いて、構造物11が形成されたガラス基板1の表面全体のエッチングが行われる。例えば、エッチングの際のRFパワーとして200W、反応性ガスとして酸素が用いられる。ここで、ステップS12では、表面のエッチング手法としてドライエッチング法を用いているが、その他に、ウェットエッチングやレーザ加工などの方法を用いることも可能である。
【0042】
その結果、図4Cに示すように、立体構造11Aの側壁に生成された金属膜と、立体構造11A間のガラス基板1表面に生成された金属膜が均等にエッチングされる。立体構造11Aの側壁の金属膜の厚さに対して、立体構造11A間のガラス基板1表面の金属膜の厚さは薄いことから、後者の金属膜が完全にエッチングされた時点でエッチングを停止することによって、立体構造11Aの側壁だけに金属膜を形成することが可能になる。すなわち、ステップS12のエッチングは、立体構造11A間のガラス基板1表面の金属膜を完全にエッチングし終わるまで続けられる。
【0043】
上述した例の場合、立体構造11Aの側壁の金属膜の厚さが45nmになった時点で、立体構造11A間のガラス基板1表面の金属膜が完全にエッチングされる。
【0044】
エッチング法としては、エッチング速度が比較的遅いドライエッチングが望ましいが、ウェットエッチングでもよい。ウェットエッチングの場合、エッチング速度を落とすために、薬液の濃度を薄めることが望ましい。
【0045】
以上のように、低圧ロングスロースパッタ法を用いたマスクスパッタと、ドライエッチングを組み合わせることにより、立体構造11Aの側壁にだけ電極膜を形成することが可能になる。スプレー法などを用いた場合のように電極膜の厚さにばらつきが生じないことから、構造物11全体を見た場合、電極パタンを高精度に形成することが可能になる。さらに、大面積に均一に、短いタクトタイムで電極膜を形成することが可能になる。
【0046】
[低圧ロングスロースパッタの条件について]
ここで、図3のステップS11において行われるマスクスパッタ(低圧ロングスロースパッタ)の条件について説明する。
【0047】
図7は、立体構造11Aと同様に高アスペクト比を有する構造の断面を示す図である。
【0048】
図7の例においては、ウェーハに幅Wのホールが形成され、ウェーハ表面と、ホールの側壁と、ホールの底面にそれぞれ膜が形成されている。ウェーハ表面の膜の厚さはaであり、ホールの底面の膜の厚さはbである。ウェーハ表面とホールの底面には高さTに相当する段差がある。
【0049】
図8のグラフは、図7に示す段差被覆性に関して、T-S(ターゲット−基板間距離)の依存性を示したものである。図8の横軸はアスペクト比T/Wを表し、縦軸は段差被覆率b/aを表す。
【0050】
図8のグラフより、ターゲット−基板間距離を、通常スパッタの60mmより長くして170mmとすることにより、段差被覆性、即ちスパッタ粒子の直進性を向上させることができ、高アスペクト比に対応することが可能になることが分かる。このことから、ターゲット−基板間距離を170mm以上にすることが望ましい。
【0051】
図9は、ターゲット−基板間距離を170mmとした場合のスパッタ粒子(ターゲット構成原子)の平均自由工程の成膜圧力依存性を示したものである。図9の横軸は成膜圧力(プロセス圧力)Paを表し、縦軸は平均自由工程λを表す。
【0052】
平均自由工程λは、スパッタ粒子が、ガス分子などに一度衝突してから、もう一度ガス分子に衝突するまでの平均距離を示したものである。平均自由工程λがターゲット−基板間距離より長ければ、スパッタ粒子は途中でガス分子に衝突することがないため、直進性を高めることが可能になる。ターゲットから飛び出したスパッタ粒子の方向は、ガス分子などと衝突することによって変わってしまう。
【0053】
図9より、ターゲット−基板間距離を170mmとした場合、平均自由工程λが170mm以上になるのは0.03Pa以下であることが分かる。このことから、成膜圧力を0.03Pa以下にすることが望ましい。
【0054】
以上より、図3のステップS11において行われるマスクスパッタは、ターゲット−基板間距離を170mm以上とし、プロセス圧力を0.03Pa以下とすることが望ましい。
【0055】
本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0056】
例えば、低圧ロングスロースパッタ法を用いたマスクスパッタとドライエッチングを組み合わせた上述した金属膜の形成方法は、断面の形状が台形の立体構造11Aだけでなく、他の形状の立体構造に金属膜を形成する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 ガラス基板, 11 構造物, 11A 立体構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された立体構造の上面と、それぞれの前記立体構造の間の前記基板の表面とをマスクしてスパッタを行うことによって導電膜を生成し、
前記立体構造の側面に生成された第1の導電膜と、前記立体構造の間の前記基板の表面に生成された第2の導電膜のうち、前記第2の導電膜をエッチングするのにかかる時間だけ、前記基板と前記立体構造の表面のエッチングを行う
ステップを含む電極の形成方法。
【請求項2】
前記基板上には、断面の形状が台形の前記立体構造が複数並べて形成される
請求項1に記載の電極の形成方法。
【請求項3】
前記基板上には、複数の前記立体構造が周期性を持って並べて形成される
請求項2に記載の電極の形成方法。
【請求項4】
前記スパッタを、ターゲットと前記基板の間の距離を170mm以上、プロセス圧力を0.03Pa以下として行う
請求項1に記載の電極の形成方法。
【請求項5】
前記エッチングはドライエッチングである
請求項1に記載の電極の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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