説明

電極体の製造方法及び電池

【課題】電気抵抗の小さい電極体を製造する。
【解決手段】活物質塗布装置56と乾燥装置60によって、集電体12bの表面に活物質層を形成する工程Aを実施する。電圧印加装置70によって電圧を印加された一対のプレスローラ64の間を表面に活物質層が形成された集電体(電極体10b)を通過させることで、集電体12と、集電体の表面に形成された活物質層の表面との間に所定の電圧を印加する工程Bを実施する。電圧を印加することによって、集電体と活物質層との界面に生じた酸化膜や不動態膜を破壊することができる。電気抵抗の要因となる界面に生じた酸化膜や不動態膜を破壊することによって、電気抵抗を低減した電極体を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体の製造方法に関する。また、その製造方法によって製造された電極体を利用する電池に関する。
【背景技術】
【0002】
集電体の表面に活物質を主成分とする層を有する電極体が知られている。そのような電極体は、例えば電池の電極体に利用される。以下、本明細書では、「活物質を主成分とする層」を活物質層と称する。
活物質層は、正極または負極となる集電体における電子の授受を促進するために設けられる。活物質としては、例えば、Ni系酸化物のものや炭素系のものなどの物質が利用される。集電体としては、例えばアルミニウムを主成分とする金属あるいは銅を主成分とする金属が利用される。
集電体の表面に活物質を結着させて活物質層を形成するために、活物質層の成分には活物質の他に結着材を混合させる場合がある。活物質と結着材を混合した混合物を液状あるいはペースト状にして集電体に結着させる。
集電体の表面に活物質層を形成すると、活物質と集電体との界面に結着材が不動態皮膜となって生成される場合がある。あるいは、活物質そのもの、又は活物質層に含まれるその他の成分が酸化し、活物質と集電体との界面に酸化膜が生成される場合もある。
不動態皮膜や酸化膜は、電気抵抗体として作用する。従って、活物質層と集電体の界面に不動態膜や酸化膜が存在すると、それらは電極体全体の電気抵抗となる。電極体の電気抵抗は小さい方が好ましいので、不動態膜や酸化膜は除去した方が良い。
特許文献1には、電池に組み込まれた電極体の抵抗を低減するための技術が開示されている。特許文献1の技術は、電極体を組み込んだ電池の両極にパルス状の電圧あるいは電流あるいは電気量を印加することによって、電極体の集電体と活物質層の界面に生じた酸化膜を除去する。
【0003】
【特許文献1】特開平10−214636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、電極体を組み込んだ電池の両極にパルス状の電圧あるいは電流あるいは電気量を印加する。パルス状の電圧等を印加することによって、界面に生じた酸化膜を還元させて除去する。
しかし界面に生じた不動態膜や酸化膜が多い場合には、電極体を組み込んだ電池に電圧等を印加しても不動態膜や酸化膜を十分に除去できない可能性がある。電極体が電池に組み込まれた状態では、電極体は電解液に浸されており、電池の許容値以上の電圧等を印加すると、電解液等、電池を構成する物質が破壊されてしまう虞があるからである。
集電体と活物質層の界面に生じた不動態膜や酸化膜を十分に除去して電極体の電気抵抗を低減する技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、電極体の製造方法であり、集電体の少なくとも一表面に活物質を主成分とする活物質層を形成する活物質層形成工程と、集電体と集電体の表面に形成された活物質層の表面との間に所定の電圧を印加する電圧印加工程を含む。
電極体を組み込んだ電池、あるいは電極体を組み込んだ装置では、その電池あるいは装置の許容値以上の電圧を印加することはできない。しかし電池や装置に組み込む前の電極体であれば、電池や装置の許容値以上の電圧を印加することができる。電池や装置に組み込む前であれば、その電池や装置の許容する電圧値を考慮することなく許容値以上の電圧を電極体に印加することができる。集電体の少なくとも一表面に活物質を主成分とする活物質層が形成された状態の電極体に、集電体と活物質層の表面との間に所定の電圧を印加することによって、集電体と活物質層との界面に生じた不動態膜や酸化膜を十分に除去することができる。電気抵抗の少ない電極体を製造することができる。
【0006】
前記集電体は、シート状に形成されていることが好ましい。集電体をシート状に形成することによって、シート状の電極体を製造することができる。シート状の電極体は、例えば積層式や巻回式の電池を製造する上で好都合である。
【0007】
活物質層が形成された集電体は、一対のローラの間を通過させることによって所定の厚さに形成される。前記電圧印加工程は、前記一対のローラを介して所定の電圧を印加することが好ましい。
活物質層が形成された集電体(即ち電極体)は、その用途に応じて所定の厚さに形成される。電極体を一対のローラの間に通すことによって所定の厚さに圧延される。圧延される際に電極体にはその厚さ方向に圧力が加えられる。そのローラを利用して電極体に通電すると、印加された電圧と、一対のローラから集電体と活物質層の界面に加えられる物理的な圧力との相乗効果によって、界面に生じた不動態膜や酸化膜をより効果的に除去することができる。
【0008】
前記所定の電圧は、略10V以上であることが好ましい。発明者らの実験によると、前記所定の電圧は、略10V以上、より好ましくは略10V程度であると、界面に生じた不動態膜や酸化膜を十分に除去できることが判明した。
【0009】
本発明は、上記の製造方法で製造された電極体を用いた電池に具現化することもできる。この電池は、正極と負極の少なくとも一方の電極体が上記の製造方法により製造された正極用の電極体及び負極用の電極体と、セパレータを備えており、正極用の電極体と負極用の電極体は、セパレータを介して積層されていることを特徴とする。
【0010】
電池の正極用の電極体と負極用の電極体の少なくとも一方の電極体に、上記製造方法によって製造された電極体を用いることによって、内部抵抗を低減した電池を実現できる。ここでいう「電池」は、正極用の電極体と負極用の電極体をセパレータを介して積層したものを巻回したいわゆる巻回式の電池であってもよい。また、化学反応を利用する狭義の電池に限られず、コンデンサ(キャパシタ)などの様なイオン吸脱着反応を利用した蓄電式の素子であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、集電体と集電体の表面に形成された活物質層の間に生じた不動態膜や酸化膜を除去して電気抵抗を低減した電極体を製造することができる。また、本発明によれば、内部抵抗を低減した電池を実現することができる。
【実施例】
【0012】
まず、図1を参照して電気抵抗を低減した電極体の製造方法を概説する。図1(A)は、シート状の集電体12の両面に活物質を主成分とする活物質層14を形成した電極体10の模式的断面図である。図1(B)は、図1に符号Bで示した集電体12と活物質層14の界面の模式的拡大図である。図1(C)は、図1(B)の拡大図において、図1(B)に矢印30で示すように、活物質層14の表面と集電体との間に所定の電圧を印加した後の図である。なお、矢印30が示す方向は電圧を印加する方向を示すが、電圧を印加する方向は矢印30と逆向きであってもよい。矢印30は、単に活物質層14の表面と集電体12の間に電圧を印加することを示している。
電極体10の集電体12は、正極用の電極体であれば、例えばアルミニウムを主成分とする導電性材料で形成される。また、負極用の電極体であれば例えば銅を主成分とする導電性材料で形成される。
集電体12の表面に形成する活物質層14は、例えば質量比でNi系活物質85%、導電化材10%、活物質と集電体12を結着させるための結着材5%の原料を水で混合した液状又はペースト状の混合物が利用される。又は、例えば質量比で炭素系活物質95%、結着材5%の原料を水で混合した液状又はペースト状の混合物が利用される。前者は集電体がアルミニウム等を主成分として含む正極用の電極体に適しており、後者は集電体が銅等を主成分として含む負極用の電極体に適している。
図1(A)では、集電体12の両面に活物質層14が形成されている。活物質層14は、例えば、上記の混合物を集電体12の表面に塗布し、その後80℃以上の熱風にて乾燥させることで形成する。
【0013】
図1(B)は、図1に符号Bで示した集電体12と活物質層14の界面の模式的拡大図である。活物質の粒子を符号20で示す。活物質の粒子20a、20b、20cは同じ活物質の粒子を表す。添え字a、b、cは、個別の活物質の粒子の状態を説明するために付加したものである。以下では、簡単化のため、「活物質の粒子20」を単に「粒子20」と称することにする。また、図1には、一部の粒子にのみ符号20を付している。
粒子20aは、その表面の一部26aで集電体12と接触している。従って粒子20aと集電体12は、電気的に結合している。また粒子20aは、集電体12と接触している部分26aの周囲で結着材22によって集電体12と接合している。
粒子20bは、その一部26bで集電体12の表面に生じた酸化膜24と接触しており、集電体12とは直接接触していない。従って粒子20bは、集電体12とは電気的に結合していない。なお粒子20bはその一部26bの周囲で結着材22によって酸化膜24と接合している。
粒子20cは、結着材22により集電体12に結合している。しかし粒子20cの集電体12に最も近い部分26cと集電体12の間に結着材22が介在している。従って、粒子20cも集電体12とは電気的に結合されていない。なお、結着材22が集電体12上で膜状に固化したものが不動態膜である。
粒子20bと集電体12の間に介在する酸化膜24や、粒子20cと集電体12の間に介在する結着材22が電極体10の電気抵抗を生じさせる原因となる。
【0014】
図1(B)に矢印30で示すように電圧を印加すると、図1(B)で示した界面は図1(C)のように変化する。
電圧を印加すると、電気的に結合していない粒子20bと集電体12の間に電位差が生じる。電位差によって、粒子20bと集電体12の間に電界が生じる。電気は最短距離を流れようとするので、電界の強さは、粒子20bのうちの集電体12との距離が最も近い部分26bと集電体12の間が最も強くなる。この電界の作用によって、粒子20bと集電体12の間に介在する酸化膜24が破壊される。その結果、粒子20bはその一部26bで集電体12と接触することになる。粒子20bと集電体12が電気的に結合される。
同様に、粒子20cのうちの集電体12との距離が最も近い部分26cと集電体12の間に生じる電界によって、粒子20cと集電体12の間に介在した結着材22(不動態膜)が破壊される。その結果、粒子20cはその一部26cで集電体12と接触することになる。粒子20cと集電体12も電気的に結合される。
以上のように、活物質層14の表面と集電体12の間に所定の電圧を加えることで、活物質層14に含まれる活物質粒子20と集電体12との間に介在する酸化膜24や結着材22(不動態膜)を除去することができる。従って集電体12と活物質層14中の活物質粒子との総合的な接触面積が増加する。その結果、電極体10の電気抵抗を低減することができる。
集電体12と活物質層14の表面との間に電圧を印加するのは、電極体が単体の状態で行われる。従って、電極体が電池や装置などに組み込まれた状態と異なり、電池や装置の耐電圧値とは無関係に所定の電圧を電極体に印加することができる。酸化膜24や結着材22(不動態膜)を除去するのに十分な電圧を電極体に印加することができる。
【0015】
なお、界面に生じる酸化膜24や結着材22によって形成される不動態膜は、電圧を印加することによって、集電体12と粒子20との間の距離が短い箇所、換言すれば集電体12と粒子20との間の膜厚の薄い箇所から破壊される。膜厚の薄い箇所は電位差によって生じる電界が最も強くなる箇所である。酸化膜24や結着材22によって形成される不動態膜は、電界の強さによって破壊される。従って、図1(C)において、粒子20bと集電体12の間のうち、それらの距離が最も短い符号26bで示す部分に対応する酸化膜24の部位が最初に破壊される。また、粒子20cと集電体12の間のうち、それらの距離が最も近い符号26cで示す部分に対応する結着材22(不動態膜22)の部位が破壊される。酸化膜24や不動態膜22は、電圧を上げるに従い破壊される領域が広がることになる。電圧を上げすぎると結着材22全体が破壊され、活物質層が剥がれ易くなる。従って印加する電圧には適切な範囲がある。印加する電圧には適切な範囲があるが、発明者らの実験によると、印加する電圧は略10V以上で集電体から活物質層が剥離しない限度、より好ましくは略10V程度が適切であるとの知見を得た。
【0016】
図2に発明者らが行った実験の結果を示す。試験片とした電極体は、厚さ15μmのアルミニウムシートを集電体に用いた。集電体の両面に、質量比Ni系活物質85%、導電化材10%、活物質と集電体12を結着させるための結着材5%の原料を水で混合したペースト状の混合物を片面当たりの乾燥後の単位面積当たりの質量が6.4mg/cmとなるように塗布した後、80℃以上の熱風で乾燥させた。乾燥後にロールプレスを施すことによって、片面当たりの活物質層の層厚を36.5μmに形成した。
この試験片に電圧を印加したときの電極体の電気抵抗値の変化を図2に示す。電圧を印加開始直後の試験片の電気抵抗値は点aに示すように約2400Ωであった。電圧を10Vまで徐々に上げていくと電気抵抗値は点a→点b→点c→点d→点e→点f→点gと変化した。点aから点gまでは試験結果にふらつきはあるものの、傾向として電圧を上げるにつれて電極体の電気抵抗値も小さくなることがわかる。印加電圧を10Vとすると、点hに示すように電極体の電気抵抗値はほぼゼロとなった。その後、電圧をゼロまで下げても抵抗は上昇せず点jに示すようにほぼゼロのままとなった。なお、ここで「ほぼゼロ」とは、図2に示すグラフ縦軸の1000Ωのオーダーと比較してほぼゼロであることを意味する。
【0017】
上記実験結果からわかるように、集電体12の表面に活物質層14を形成した後に、集電体12と活物質層14の間に所定の電圧を印加することによって、電気抵抗を低減した電極体10を製造することができる。
集電体の表面に活物質層を有する電極体の利用物、例えば電池では、定格電圧は概ね3V程度である。従って、電極体を組み込んだ電池の両電極間に10Vの電圧を印加すると、電池自体が破壊される虞がある。電極体の製造過程で集電体12と活物質層14の間に所定の電圧を印加することによって、電気抵抗を低減した電極体を製造することができる。この電極体を利用すると、その利用物、例えば電池などの全体の電気抵抗値を低減することができる。
【0018】
<実施例1> 次に実施例1について説明する。図3は実施例に係る電極体10の製造装置100の模式図である。
この製造装置100は、集電体ロール支持装置50と、活物質塗布装置56と、乾燥装置60と、一対のプレスローラ64a、64bと、電圧印加装置70と、電極体巻取り装置68を備える。
また、各装置の間で集電体や電極体を次の装置へ案内する第1ガイドローラ52と第2ガイドローラ58と第3ガイドローラ62と第4ガイドローラ66を備える。
集電体ロール支持装置50は、シート状の集電体12bを巻回した集電体ロール12aを支持している。
活物質塗布装置56には、第1ガイドローラ52によってシート状の集電体12bが搬入される。活物質塗布装置56では、活物質層の材料となる混合物が集電体12bの表面に塗布される。混合物は前述したように、質量比でNi系活物質85%、導電化材10%、結着材5%の原料を水で混合した混合物や、質量比で炭素系活物質95%、結着材5%の原料を水で混合した混合物などである。
活物質塗布装置56内でシート状の集電体12bの表面に混合物が塗布された電極体10aは、第2ガイドローラ58によって乾燥装置60へ搬入される。乾燥装置60では、塗布された混合物を乾燥させる。塗布された混合物が乾燥し、集電体12bの表面に活物質層が形成された電極体を電極体10bと称する。
乾燥装置60から搬出された電極体10bは、第3ガイドローラ62によって、一対のプレスローラ64a、64bの間に挿入される。一対のプレスローラ64a、64bによって、電極体10bは厚さ方向に圧力が加えられて所定の厚さに延ばされる。また一対のプレスローラ64a、64bには電圧印加装置70が接続されている。電圧印加装置70によって、一対のプレスローラ64a、64bの間に電圧が加えられる。電極体10bは、一対のプレスローラ64a、64bと接触して圧力を受ける。従って一対のプレスローラ64a、64bを介して電極体10bにおける活物質層の表面と集電体の間に電圧が印加される。一対のプレスローラ64a、64bによって所定の厚さに形成され、かつ電圧を印加された電極体を電極体10cと称する。一対のプレスローラ64a、64bを通過した電極体10cは、第4ガイドローラ66によって、電極体巻取り装置68へ送られる。
電極体巻取り装置68では、完成した電極体10cがロール状に巻き取られ、電極体ロール10dとなる。
【0019】
活物質塗布装置56と乾燥装置60によって、集電体12bの表面に活物質層を形成する工程Aが実施される。電圧を印加された一対のプレスローラ64a、64bによって、集電体12bと、集電体12bの表面に形成された活物質層の表面との間に所定の電圧を印加する工程Bが実施される。
【0020】
図4に、電極体10bが一対のプレスローラ64a、64bを通過して所定の厚さの電極体10cに形成される様子を模式的に示す。
所定の厚さに形成される前の電極体10bの厚さはT1である。この厚さT1の電極体10bが一対のプレスローラ64a、64bの間を通過する際に、電極体10bはその厚さ方向に一対のプレスローラ64a、64bから圧力を受ける。電極体10bは、一対のプレスローラ64a、64bから受ける圧力によって、その厚さがT2となる。特に集電体12bより剛性の低い活物質層14がその厚さ方向に延ばされる。その結果、厚さT2の電極体10cが形成される。
また、一対のプレスローラ64a、64bには電圧印加装置70が接続されている。電圧印加装置70によって、一対のプレスローラ64a、64bの間に電圧が加えられる。従って、一対のプレスローラ64a、64bを介して、電極体10bにおける活物質層14の表面と集電体12bの間に電圧が印加される。厚さT1の電極体10bは、ローラ間に電圧が印加された一対のプレスローラ64a、64bによって、集電体12bと活物質層14との界面には電圧とともに、物理的な圧力が印加される。電圧と物理的な圧力の相乗効果によって、界面に生じた不動態膜や酸化膜をより効果的に除去することができる。
電圧印加装置70が一対のプレスローラ64a、64bに印加する電圧は、直流電圧でもよいし交流電圧でもよい。
【0021】
上記に説明した実施例の製造装置100では、集電体12bに活物質層を形成する工程Aと、集電体12bと集電体12bの表面に形成された活物質層14の表面との間に所定の電圧を印加する工程Bを一貫して実施することができる。集電体12bに活物質層14を形成する工程Aと、集電体12bと集電体12bの表面に形成された活物質層14の表面との間に所定の電圧を印加する工程Bは、別々の装置によって実施してもよい。
【0022】
<実施例2> 次に実施例2について説明する。この実施例は、内部電気抵抗を低減した電池である。
図5に電池200の縦断面図を示す。電池200は、有底円筒状であり、導電材質で形成された容器84の底部に下部絶縁部品86が配置されており、下部絶縁部品86の上に電池本体82が配置されている。電池本体82の上部には上部絶縁部品88が配置されており、その上に絶縁ガスケット90が配置されている。絶縁ガスケット90の周縁は、容器84の上部端に固着されており、容器84内に密閉空間を形成している。絶縁ガスケット90は、その中央に貫通孔90aを有している。貫通孔90aを覆うように正極端子94が配置されている。
容器84の内部には電解液が含浸されている後述のセパレータ74b、74dを含む電池本体82が収納されている。
容器84の側面外周と、上面外縁と、下面外縁を外周絶縁部品96が覆っている。
【0023】
電池本体82は、シート状の負極用電極体72cと、シート状の第1セパレータ74bと、シート状の正極用電極体76cと、シート状の第2セパレータ74dがこの順番で積層され巻回されている。図5では、積層された負極用電極体72c等が一重に巻回された状態が示してあるが、実際には何重にも巻回されている。
負極用電極体72cと正極用電極体76cは、実施例1で述べた材料により形成されている。第1セパレータ74bと第2セパレータ74dは、例えばポリエチレンの多孔シートや、ポリエチレンの多孔シートの両面にポリプロピレンの多孔シートを形成した3層構造のシートなどが用いられる。第1セパレータ74bと第2セパレータ74dは、その両側に位置する負極用電極体72cと正極用電極体76cを絶縁する役割を果たす。第1セパレータ74bと第2セパレータ74dには、電解液が含浸されている。なお、第1セパレータ74bと第2セパレータ74dのいずれか一方、あるいは両方を誘電体で構成してもよい。セパレータを誘電体で構成することによって、電池本体82をコンデンサ(キャパシタ)として機能させることができる。そうすることによって、コンデンサ(キャパシタ)に蓄電する蓄電式の電池を実現することができる。
【0024】
シート状の負極用電極体72c等が巻回された電池本体82の最外周は負極用電極体72cとなっており、容器84の内周と接している。容器84は導電材料で形成されているので、負極用電極体72cと容器84は電気的に接続されている。一方、容器84の側面外周は外周絶縁部品96で外部と絶縁され、容器84の上面は絶縁ガスケット90で外部と絶縁されている。従って、外部に露出している容器84の下面が電池200の負極端子となる。
電池本体82の正極用電極体76cと正極端子94を電気的に接続する正極リード部品92が電池200の上部に配置されている。正極リード部品92は、一端が正極用電極体76cの上部と接しており、他端が正極端子94に接している。正極リード部品92は、上部絶縁部品88を貫通し、絶縁ガスケット90の貫通孔90aを通って配置されており、正極用電極体76cと正極端子94を電気的に接続している。
電池本体82の正極用電極体76cと正極端子94は、電気的に接続されているので、正極端子94が、電池200の正極端子となる。
この電池200は、正極端子94に正、負極端子(容器84の下面)に負の電圧を印加すれば電池本体82に電気を充電することができ、充電状態で正極端子94と負極端子の間にモータや電球等の負荷を接続すれば放電することができる。
【0025】
電池200の電池本体82の製造方法を図6を参照して説明する。
図6に左側にはロール状の負極用電極体72aとロール状の第1セパレータ74aとロール状の正極用電極体76aとロール状の第2セパレータ74cが示されている。
ロール状の負極用電極体72aに巻かれている負極用電極体72bは、実施例1の図3に示す工程A、即ち、シート状の集電体の両側に活物質層が形成された状態のものであり、電圧を印加する前の電極体である。ロール状の負極用電極体72aから巻き戻された電圧印加前の負極用電極体72bは、一対の第1プレスローラ78aのローラ間を通る際に所定の厚さに圧延される。一対の第1プレスローラ78aの夫々のローラには電圧印加装置70によって電圧が印加されている。従って、電圧印加前の負極用電極体72bは、図4と同様に、一対の第1プレスローラ78aによって所定の厚さに圧延されると同時に、電圧印加前の負極用電極体72bの集電体と活物質層との間に電圧が印加される。その結果、一対の第1プレスローラ78aを通過した負極用電極体72cは、所定の厚さに圧延されるとともに、集電体と活物質層との間の酸化膜や不動態膜が破壊されて電気抵抗が低減されている。圧延され同時に電圧が印加されて電気抵抗が低減された負極用電極体72cは巻回装置81へ送られる。
ロール状の正極用電極体76aから巻き戻されたシート状の正極用電極体76bは、実施例1の図3に示す工程A、即ち、シート状の集電体の両側に活物質層が形成された状態のものであり、電圧を印加する前の電極体である。ロール状の正極用電極体76aから巻き戻された電圧印加前の正極用電極体76bは、一対の第2プレスローラ78bのローラ間を通る際に所定の厚さに圧延される。一対の第2プレスローラ78bの夫々のローラには電圧印加装置70によって電圧が印加されている。従って、電圧印加前の正極用電極体76bは、図4と同様に、一対の第2プレスローラ78bによって所定の厚さに圧延されると同時に、電圧印加前の正極用電極体76bの集電体と活物質層との間に電圧が印加される。その結果、一対の第2プレスローラ78bを通過した正極用電極体76cは、所定の厚さに圧延されるとともに、集電体と活物質層との間の酸化膜や不動態膜が破壊されて電気抵抗が低減されている。圧延され同時に電圧が印加されて電気抵抗が低減された正極用電極体76cは巻回装置81へ送られる。
ロール状の第1セパレータ74aから巻き戻されたシート状の第1セパレータ74bは一対の第1送りローラ80aによって巻回装置81へ送られる。ロール状の第2セパレータ74cから巻き戻されたシート状の第2セパレータ74dは一対の第2送りローラ80bによって巻回装置81へ送られる。
巻回装置81は、外側から負極用電極体72c、第1セパレータ74b、正極用電極体76c、第2セパレータ74dの順に積層されながら巻回されて電池本体82となる。
こうして製造された電池本体82が図5で示した電池200に用いられる。
【0026】
本実施例では、電圧印加前の負極用電極体72bと電圧印加前の正極用電極体76bと第1セパレータ74bと第2セパレータ74dを巻回して電池本体82を製造する際に、巻回前に負極用電極体72bと正極用電極体76bの夫々に電圧を印加する。電圧を印加するのは、負極用電極体72b単体あるいは正極用電極体76b単体であるので、完成した電池200の許容電圧値に関わりなく電圧を印加できる。夫々の電極体の集電体と活物質層の界面に生じた酸化膜や不動態膜を破壊するために十分な電圧を印加することができる。従って、電池本体82として巻回された負極用電極体72cと正極用電極体76cは、電気抵抗が低減されている。電気抵抗の低減された負極用電極体72cと正極用電極体76cがセパレータを介して巻回された電池本体82を図5に示す電池200に利用することによって、内部電気抵抗を低減した電池200を実現できる。
【0027】
集電体の表面に活物質層を有する電極体を利用した電池の定格電圧はせいぜい3V程度である。これは、電池内部の電解液や、電池を構成するその他の物質の耐電圧性によって規定される。従って、電極体を組み込んだ電池の両電極間に、電極体を構成する集電体と活物質層の界面に生じた酸化膜や不動態膜を破壊するために3Vを超える大きな電圧を印加すると、電池自体が破壊される虞がある。電極体を電池に組み込む前に、電極体を構成する集電体と活物質層の間に所定の電圧を印加することによって、電気抵抗を低減した電極体を製造することができる。この電気抵抗を低減した電極体を、セパレータを介して積層し、積層したものを電池本体とする電池を製造すると、内部電気抵抗を低減した電池を実現することができる。
【0028】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0029】
例えば、上記の実施例では、一対のプレスローラ64a、64bの間に電圧を印加する構成とした(図3及び図4参照)。これに代えて、集電体12とプレスローラ64aの間及び、集電体12とプレスローラ64bの間の夫々に電圧を印加するようにしてもよい。具体的には、例えば、集電体12の表面の一部に活物質層を塗布しない領域がある場合に、その領域に電圧印加装置の一方の電極を接触させ、プレスローラ64a、64bの双方に電圧印加装置の他方の電極を接続する構成とすればよい。
【0030】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1(A)は集電体に活物質層を形成した電極体の模式図である。図1(B)は、集電体と活物質層の界面の模式的拡大図である。図1(C)は、電圧を印加した後の集電体と活物質層の界面の模式的拡大図である。
【図2】電極体の試験片に電圧を印加する実験における電圧と試験片の電気抵抗との関係を示す図である。
【図3】実施例1に係る電極体の製造装置の模式図である。
【図4】電圧を印加した一対のプレスローラによる電極体の圧延の様子を説明する図である。
【図5】実施例2に係る電池の縦断面図である。
【図6】負極用電極体と正極用電極体をセパレータを介して積層した電池本体の製造工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0032】
10、10a、10b、10c:電極体
12:集電体
14:活物質層
20:活物質の粒子
22:結着材
24:酸化膜
50:集電体ロール支持装置
56:活物質塗布装置
60:乾燥装置
64a、64b:プレスローラ
68:電極体巻取り装置
70:電圧印加装置
72a:ロール状の負極用電極体
72b、72c:負極用電極体
74a、74c:ロール状のセパレータ
74b、74d:セパレータ
76a:ロール状の正極用電極体
76b、76c:正極用電極体
78a、78b:プレスローラ
80a、80b:送りローラ
81:巻回装置
82:電池本体
84:容器
86:下部絶縁部品
88:上部絶縁部品
90:絶縁ガスケット
90a:貫通孔
92:正極リード部品
94:正極端子
96:外周絶縁部品
200:電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体の製造方法であり、
集電体の少なくとも一表面に活物質を主成分とする活物質層を形成する活物質層形成工程と、
集電体と、集電体の表面に形成された活物質層の表面との間に所定の電圧を印加する電圧印加工程と、
を含むことを特徴とする電極体の製造方法。
【請求項2】
前記集電体は、シート状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電極体の製造方法。
【請求項3】
活物質層が形成された集電体は、一対のローラの間を通過させることによって所定の厚さに形成され、
前記電圧印加工程は、前記一対のローラを介して所定の電圧を印加することを特徴とする請求項2に記載の電極体の製造方法。
【請求項4】
前記所定の電圧は、略10V以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電極体の製造方法。
【請求項5】
正極と負極の少なくとも一方の電極体が請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法により製造された正極用の電極体及び負極用の電極体と、
セパレータと、を備え、
正極用の電極体と負極用の電極体は、セパレータを介して積層されていることを特徴とする電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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