説明

電極内部液の気泡除去方法及び電気化学式センサ

【課題】電極内部液を収容する内部液収容部に発生する気泡を容易に除去することのできる電極内部液の気泡除去方法及び電気化学式センサを提供する。
【解決手段】本発明によれば、電極内部液を収容する内部液収容部を備える電気化学式センサにおける電極内部液の気泡除去方法は、前記電極内部液に界面活性剤を溶解する。又、本発明によれば、電極内部液を収容する内部液収容部を備える電気化学式センサは、前記電極内部に界面活性剤が溶解されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH電極などの測定電極、比較電極、或いはこれら測定電極と比較電極とが一体的に形成された複合電極などの電気化学式センサにて用いられる電極内部液の気泡除去方法及び電気化学式センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、イオン選択的感応性を有するガラス電極とされる測定電極と、比較電極とが一体的に設けられた、イオン測定用複合電極が用いられている。複合電極は、測定電極と比較電極とが一体的に形成されているため、単一の電極本体を、典型的には容器内に収容された被検液に浸漬するだけで、測定対象の濃度を測定することができる。測定対象が水素イオンであるpH複合電極をイオン測定用複合電極の典型例として挙げることができる。
【0003】
pH複合電極は、一般的には、同心的に配置される内管と外管の二重管構造(二重ガラス管構造)を有する。即ち、pH複合電極は、内側の空間が連通するように水素イオン感応性のガラス感応膜が先端に形成された内管と、この内管の外側に配置された外管とを有する。一般に、外管の先端より突出するように、内管の先端にガラス感応膜が形成される。そして、内管と、これに連結されたガラス感応膜の内側の空間(内部液収容部)には、測定電極内部液が充填される。この測定電極内部液には、測定電極内極が浸漬される。これら内管、ガラス感応膜、測定電極内極及び測定電極内部液で、測定電極としてのガラス電極が構成される。又、内管の外周と外管の内周によって規定される環状空間(内部液収容部)には、比較電極内部液が充填される。この比較電極内部液には比較電極内極が浸漬される。更に、外管には、比較電極内部液と被検液とを電気的に接続するための、セラミックなどにより形成された液絡部が封入される。これら、外管、液絡部、及び比較電極内部液で比較電極が構成される。
【0004】
又、従来、微量の被検液、或いは容積若しくは開口の小さい容器内の被検液の測定を可能とするために、ガラス電極(内管及びガラス感応膜)及び外管の径を極めて小さくした極細pH複合電極(外径3mm程度)がある。
【0005】
特に、このような極細pH複合電極では、電極を横にして保存することにより、或いは温度の変化により、測定電極内部液又は比較電極内部液を収容する空間に気泡(エアー層)が発生し易い。この気泡が発生すると、液のつながりが遮断され、電気的回路が断たれて断線状態となる。これにより、測定値が不安定になったり、或いは測定ができなくなったりすることがある。
【0006】
例えば、従来の極細pH複合電極には、内径0.8mmの内管の内側の空間内に測定電極内部液を充填し、又内管の外周と外管の内周との間の間隙が0.135mmの環状空間に比較電極内部液を充填したものがある。このような狭い空間に一度発生した気泡は、電極を垂直に立てて静置しても、或いは電極を振っても、容易には除去できない。又、気泡を除去しようと電極を強く振りすぎると、電極を破損する虞もある。
【0007】
ところで、特許文献1は、二重ガラス管の製造時に、内管に糸状体を螺旋状に巻き付け、この内管を外管に挿入して、内管の先端部を外管の内面に熔着する方法を開示する。特許文献1の発明によれば、内管の外周と外管の内周との間の環状空間に気泡が発生しても、糸状体を伝って比較電極内部液が流通し、断線を抑制することができる。
【0008】
しかしながら、斯かる先行技術では、二重管の作製に際し、糸状体を内管に巻き付ける手間が必要となる。又、比較電極内部液における綿糸などとされる糸状体の長期にわたる安定性も懸念され、その交換は極めて困難であると考えられる。更に、例えば上述のような極細複合電極などにおける測定電極内に発生する気泡に対しては何ら対応できない。
【0009】
尚、ここでは、特に、pH複合電極を例として従来の問題点を説明した。上述のように、特に、外径が極めて小さく、測定電極、比較電極における内部液収容部が極めて狭い極細複合電極において、電極内部液(測定電極内部液、比較電極内部液)の液切れが発生し易い。しかし、同様の問題は、pH電極などの測定電極が単体で形成されているもの、又、比較電極が単体で形成されているものにおいても発生する虞があり、特に、これらの電極の外径が小さい場合にはその問題は顕著となり得る。
【特許文献1】特開2004−150957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、電極内部液を収容する内部液収容部に発生する気泡を容易に除去することのできる電極内部液の気泡除去方法及び電気化学式センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は本発明に係る電極内部液の気泡除去方法及び電気化学式センサにて達成される。要約すれば、本発明は、電極内部液を収容する内部液収容部を備える電気化学式センサにおける電極内部液の気泡除去方法であって、前記電極内部液に界面活性剤を溶解することを特徴とする電極内部液の気泡除去方法である。
【0012】
本発明の一実施態様によると、前記界面活性剤は、0.01%〜1%の濃度で前記電極内部液に溶解される。前記界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤から成る群より選択されるものであってよい。又、本発明の一実施態様によると、前記電気化学式センサは、イオン測定用電極である。又、本発明の他の実施態様によると、前記電気化学式センサは、比較電極である。又、本発明の他の実施態様によると、前記電気化学式センサは、測定用電極と比較電極とを備える複合電極であり、前記測定電極が備える前記内部液収容部及び前記比較電極が備える前記内部液収容部のうちいずれか又は両方に収容する電極内部液に前記界面活性剤が添加される。前記測定用電極は、イオン測定用電極であってよい。
【0013】
本発明の他の態様によると、電極内部液を収容する内部液収容部を備える電気化学式センサにおいて、前記電極内部に界面活性剤が溶解されていることを特徴とする電気化学式センサが提供される。
【0014】
又、本発明の他の態様によると、内管と外管とを有する二重管構造を有し、前記内管の少なくとも一方の端部は封止され、又前記外管の少なくとも一方の端部は前記内管に接続されて封止され、前記内管の内側の空間に電極内部液を収容する第1の内部液収容部が形成され、前記内管と外管との間の環状の空間に内部液を収容する第2の内部液収容部が形成された電気化学式センサにおいて、前記第1、第2の内部液収容部にそれぞれ収容される電極内部液のうちいずれか一方又は両方に界面活性剤が溶解されていることを特徴とする電気化学式センサが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極内部液を収容する内部液収容部に発生する気泡を容易に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る電極内部液の気泡除去方法及び電気化学式センサを図面に則して更に詳しく説明する。
【0017】
実施例1
先ず、本発明を適用し得る電気化学式センサの一実施例として、pH複合電極について説明する。図1は本実施例のpH複合電極100の全体の外観を示す。又、図2は本実施例のpH複合電極100の要部断面を示す。
【0018】
pH複合電極100の構造自体は、前述した従来のものと特に変わるところは無い。即ち、pH複合電極100は、内管10と外管20とを備えた二重ガラス管構造を有する。特に、本実施例では、pH複合電極100は、外径が極めて小さい極細pH複合電極である。
【0019】
内管10は、軸線方向下方の内管小径部11と、この内管小径部11の上方端部に連続的且つ同軸的に形成された内管大径部12とを有する。又、内管10の下方端部には、内管11と連続的且つ同軸的に、水素イオンに感応するガラス感応膜13が形成されている。そして、内管10と、これに連結されたガラス感応膜13の内側の空間(内部液収容部)31には、測定電極内部液Iaが充填される。又、内管大径部12内には、測定電極内極14が配置され、測定電極内部液Iaに浸漬される。ガラス感応膜13は、外管20の下方端部より突出している。
【0020】
一方、外管20は、軸線方向下方の外管小径部21と、この外管小径部21の上方端部に連続的且つ同軸的に形成された外管大径部22とを有する。外管20は、内管10と同軸的に、内管10の外周から所定の間隔を開けて、内管10の周りに配置される。そして、外管小径部21の下方端部が、内管小径部11の下方端部に熔着されて封止される。そして、内管10の外周と外管20の内周との間の環状空間(内部液収容部)32には、比較電極内部液Ibが充填される。又、外管大径部22内には、比較電極内極24が配置され、比較電極内部液Ibに浸漬されている。更に、外管小径部21の下方端部近傍の側面には、セラミックスで形成された液絡部(ジャンクション)23が封入されている。液絡部23は、外管小径部21の外側から内側、即ち、環状空間32へと貫通しており、外管20とpH複合電極100外の被検液との間の電気的導通を可能とする。
【0021】
内管10、ガラス感応膜13、測定電極内極14及び測定電極内部液Iaで、測定電極としてのガラス電極1が構成される。又、外管20、液絡部23、比較電極内極24及び比較電極内部液Ibで、比較電極2が構成される。
【0022】
尚、本実施例では、外管小径部21の外径で代表されるpH複合電極の外径D1(本実施例では、ガラス感応膜13の外径と外管小径部21の外径とは略同一)は、2.8mmであった。又、内管小径部11の内径D2は0.8mmであった。又、内管小径部11の外周と外管小径部21の内径との間の間隙G1は、0.135mmであった。更に、外管小径部21と外管大径部22との連結部から、ガラス感応膜13の先端までの長さL1は69mmであった。
【0023】
そして、本発明によれば、電極内部液(測定電極内部液、比較電極内部液)Ia、Ibには、界面活性剤が添加され、溶解される。
【0024】
界面活性剤は、炭化水素鎖などの疎水基と、親水基とをあわせ持つ分子で、水に溶解した場合の界面活性剤本体のイオン性により、陰イオン系(アニオン系)、陽イオン系(カチオン系)、非イオン系のものなどがある。陰イオン系の界面活性剤(陰イオン界面活性剤)、陽イオン系の界面活性剤(陽イオン界面活性剤)は、水溶液中で電離して、界面活性剤の主体がそれぞれ陰イオン、陽イオンとなるものである。更に、非イオン系の界面活性剤(非イオン界面活性剤)は、水溶液中で電離しないものである。
【0025】
陰イオン界面活性剤としては、脂肪酸塩(セッケン)、アルファスルホ脂肪酸エステル塩(α−SF)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、アルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)、アルキル硫酸塩(AS)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(AES)、モノアルキルリン酸エステル塩(MAP)、アルキル硫酸トリエタノールアミン、アルカンスルホン酸塩(SAS)などが挙げられる。例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(Sodium Dodecylbenzenesulfonate)を好適に使用することができる。
【0026】
陽イオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジニウムクロリド、Nメチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩などが挙げられる。例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(n-Dodecyltrimethylammoniumchloride)を好適に使用することができる。
【0027】
非イオン界面活性剤としては、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)、アルキルグルコシド(AG)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(APE)などが挙げられる。例えば、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(Polyoxyethylene (10) Octylphenyl Ether)を好適に使用することができる。
【0028】
界面活性剤としては、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤のいずれを用いてもよい。又、界面活性剤は、上述して例示したものに限定されるものではない。
【0029】
即ち、本実施例の極細pH複合電極100におけるガラス電極1内或いは比較電極2内のような狭い空間に気泡(エアー層)が発生した場合にこの気泡が抜け難いのは、水の表面張力による。この表面張力を低下させれば、電極を垂直に立てた時に気泡は上昇し、容易に除去可能である。そこで、本発明では、表面張力を低下させるために、電極内部液(測定電極内部液、比較電極内部液)Ia、Ibに界面活性剤を添加する。これにより、極細pH複合電極100であっても、ガラス電極1内或いは比較電極2内での気泡を容易に除去できるようになる。
【0030】
界面活性剤は、電極内部液収容部内に発生する気泡を除去するのに十分な濃度にて電極内部液に溶解させる。典型的には、電極内部液収容部内に発生した気泡が、通常細長形状とされる電極内部液の軸線方向が略垂直になるようにした状態で、実用上十分な早さで上昇して抜けるのに十分な濃度にて電極内部液に添加する。電極内部液(測定電極内部液、比較電極内部液)Ia、Ibに対する界面活性剤の添加量は、少なすぎても界面活性剤による気泡の除去効果を得ることができない。又、電極内部液に対する界面活性剤の添加量は、電極内部液に対する溶解度の範囲で多い方が、気泡除去効果は高い方向である。しかし、界面活性剤の添加量が多すぎても、内部電極の電位の安定性、液絡部電位の発生などにおける影響が無視できなくなる。又、界面活性剤の添加量が多すぎると、通常の測定操作における振動などで容易に電極内部液が泡立つことにより、電極電位の指示値が不安定になるなどの別の問題がある。
【0031】
以下に更に詳しく説明するように、本発明者らの検討によれば、電極内部液(測定電極内部液、比較電極内部液)Ia、Ibにおける界面活性剤の濃度は、0.01%〜1%であることが好ましい。ここで、界面活性剤の濃度は、重量基準の百分率(%)で表す。
【0032】
以下、本実施例のpH複合電極100を用いて、電極内部液(測定電極内部液、比較電極内部液)Ia、Ibに界面活性剤を添加することによる、気泡の除去効果、電極電位の変動、液絡部電位の変動、泡立ちの発生状況を調べた実験例について説明する。
【0033】
(実験例1)
ベースとなる測定電極内部液(ベース測定電極内部液)Ia0として、3.3mol/L・KCl溶液+pH7緩衝液を使用した。又、ベースとなる比較電極内部液(ベース比較電極内部液)Ib0として、3.3mol/L・KCl溶液を使用した。
【0034】
−測定電極内部液−
ベース測定電極内部液Ia0に、0.01%の非イオン界面活性剤を添加した。
【0035】
先ず、気泡の抜け具合を調べた。内管小径部11の内側の空間31に故意に気泡を形成した後、pH複合電極100を垂直に立てて放置した。放置後1時間程度で気泡は上昇し、消失した。
【0036】
同時に、比較試験として、界面活性剤を添加しないベース測定電極内部液Ia0をそのまま測定電極内部液Iaとして使用して、上記と同じ試験を行った。この場合、pH複合電極100を垂直に立てて1週間放置しても気泡は残ったままであった。
【0037】
次に、ガラス電極1の電極電位の変動を調べた。即ち、測定電極内部液Iaに界面活性剤を添加することにより、ガラス電極1の電極電位の変動が考えられる。しかし、後述するように、0.01%の非イオン界面活性剤を含む測定電極内部液Iaを用いた場合、ガラス電極1の電極電位の変動は、1ヶ月経過後も1mV以内であり、ベース測定電極内部液Ia0をそのまま使用した場合と比較して、測定上問題となるような有意差は認められなかった。
【0038】
ここで、ガラス電極1の電極電位の変動は、次のようにして調べた。標準電極200として、単極の比較電極(内部電極:銀−塩化銀電極)を用意する。この標準電極200の内部液は、上記ベース比較電極内部液Ib0とする。図3(a)に示すように、標準電極とpH複合電極100のガラス電極1とを電圧計50を介して接続する。そして、標準電極200とpH複合電極100とを、3.3mol/L・KCl溶液に浸漬し、両電極間の電位差を測定する。この電位差の変動を、界面活性剤を添加する前のベース測定電極内部液Ia0をpH複合電極100のガラス電極1に充填した状態、界面活性剤を添加した3時間後、界面活性剤を添加した1ヶ月後に、それぞれ調べる。実験は、3個のpH複合電極100について行った。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、界面活性剤を添加する前に比べて、界面活性剤を添加した1ヶ月後でも、pH複合電極100のガラス電極1と標準電極との間の電位差は0.5〜0.8mVであった。このように、0.01%の非イオン界面活性剤の添加による、測定上問題となるようなガラス電極1の電極電位変動(例えば、3mVを超える電位変動)は観察されなかった。
【0041】
−比較電極内部液−
ベース比較電極内部液Ib0に、0.01%の非イオン界面活性剤を添加した。
【0042】
内管小径部11の外周と外管小径部21の内周との間の環状空間32内に故意に気泡を形成した後、pH複合電極100を垂直に立てて放置した。放置後1時間程度で気泡は上昇し、消失した。
【0043】
同時に、比較試験として、界面活性剤を添加しないベース測定電極内部液Ib0をそのまま測定電極内部液Ibとして使用して、上記と同じ試験を行った。この場合、pH複合電極100を垂直に立てて1週間放置しても気泡は残ったままであった。
【0044】
次に、比較電極2の液絡部電位の変動を調べた。即ち、比較電極内部液Ibに界面活性剤を添加することにより、比較電極2の液絡部電位の増加が考えられる。しかし、後述するように、0.01%の非イオン界面活性剤を含む比較電極内部液Ibを用いた場合、比較電極2の液絡部電位の変動は、1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液及び塩化水素溶液内においても、ベース比較電極内部液Ib0をそのまま使用した場合と比較して、最大1mV程度の差であり、測定上問題となるような有意差は認められなかった。
【0045】
ここで、比較電極2の液絡部電位の変動は、次のようにして調べた。標準電極200として、単極の比較電極(内部電極:銀−塩化銀電極)を用意する。この標準電極200の内部液は、上記ベース比較電極内部液Ib0とする。液絡部電位は、標準電極200でも発生するため、液絡部電位の絶対値を測定することは困難である。そのため、標準電極との相対的差で評価した。この差が大きいほど、標準電極200の液絡部電位に比べ、界面活性剤の添加による液絡部電位の変動が大きいことを意味する。どの程度液絡部電位の発生差があるかは、標準電極同士間での差と比較することにより評価できる。
【0046】
つまり、本例では、標準液Sとして、pH6.86のpH標準液(中性リン酸塩標準液)、pH4.01のpH標準液(フタル酸塩標準液)、pH9.18のpH標準液(ホウ酸塩標準液)、0.1mol/L・NaOH、1mol/L・NaOH、1mol/L・HClを用意する。そして、先ず、図3(b)に示すように、2つの標準電極200を電圧計50を介して接続し、pHの異なる各標準液Sに両標準電極200を浸漬して、両電極間の電位差をそれぞれ測定する。一方、標準電極200と、pH複合電極100の比較電極2とを、電圧計50を介して接続する。そして、標準電極とpH複合電極100とを上記各標準液に浸漬して、両電極間の電位差をそれぞれ測定する。実験は、3個のpH複合電極100について行った。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、標準電極間では最大0.4mVの電位であるのに対して、界面活性剤が添加された比較電極内部液Ibを用いたpH複合電極100の比較電極2と標準電極200との間の電位差は、最大で1.1mVであった。このように、0.01%の非イオン界面活性剤を添加による、測定上問題となるような比較電極2の液絡部電位の増加は観察されなかった。
【0049】
(実験例2)
次に、界面活性剤の効果的濃度について調べた。
【0050】
本例では、実験例1と同様に、ベース測定電極内部液Ia0として、3.3mol/L・KCl溶液+pH7緩衝液を用いた。又、ベース比較電極内部液Ib0として、3.3mol/L・KCl溶液を用いた。
【0051】
一般的に、pH複合電極100における測定電極内部液Ia、比較電極内部液Ibは、3.3mol/L・KClなどの高濃度塩溶液である。そのため、界面活性剤は電極内部液には溶け難い。界面活性剤には陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤などがあるが、界面活性剤の種類により高濃度塩溶液に対する溶解度が異なる。
【0052】
実験の結果から、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤のそれぞれの一例における、3.3mol/L・KCl溶液に対する溶解度は、表3に示すようになる。
【0053】
【表3】

【0054】
ここで、上記表3に示す界面活性剤を使用して、pH複合電極100における気泡の抜け具合について調べた。
【0055】
先ず、測定電極内部液Iaに添加する界面活性剤として、3.3mol/L・KCl溶液に対する溶解度が小さい陰イオン界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用し、上記実験例1で行ったのと同様にして、pH複合電極100のガラス電極1における気泡の抜け具合を調べた。即ち、内管小径部11の内側の空間31(内径0.8mm)に気泡を発生させ、pH複合電極100を垂直に立てて放置し、気泡の抜け具合を観察した。
【0056】
0.01%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムで、1時間以内に気泡が抜けた。一方、0.005%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムでは、1日放置した後でも気泡は抜けなかった。
【0057】
同様に、比較電極内部液Ibに添加する界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用し、pH複合電極100の比較電極2における気泡の抜け具合を調べた。即ち、内管小径部11と外管小径部21との間の環状の空間32(間隙0.135mm)に気泡を発生させ、pH複合電極100を垂直に立てて放置し、気泡の抜け具合を観察した。この場合も、0.01%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムで、1時間以内に気泡が抜けた。一方、0.005%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムでは、1日放置した後でも気泡は抜けなかった。
【0058】
又、同様にして、測定電極内部液Ia、比較電極内部液Ibにそれぞれ添加する界面活性剤として、3.3mol/L・KCl溶液に対する溶解度が大きい陽イオン界面活性剤であるドデシルトリメチルアンモニウムクロリドを使用し、pH複合電極100のガラス電極1、比較電極2のそれぞれにおける気泡の抜け具合を調べた。この場合も、0.01%のドデシルトリメチルアンモニウムクロリドで、1時間以内に気泡が抜けた。一方、0.005%のドデシルトリメチルアンモニウムクロリドでは、1日放置した後でも気泡は抜けなかった。
【0059】
更に、同様にして、測定電極内部液Ia、比較電極内部液Ibにそれぞれ添加する界面活性剤として、非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルを使用し、pH複合電極100のガラス電極1、比較電極2のそれぞれにおける気泡の抜け具合を調べた。この場合も、0.01%のポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルで、1時間以内に気泡が抜けた。一方、0.005%のポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルでは、1日放置した後でも気泡は抜けなかった。
【0060】
尚、0.01%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムでは、通常の測定操作における振動などでは、問題となるような泡立ちは発生しなかった。同様に、0.1%のポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルでは、通常の測定操作における振動などでは、問題となるような泡だしは発生しなかった。
【0061】
一方、陽イオン界面活性剤であるドデシルトリメチルアンモニウムクロリドは、3.3mol/L・KCl溶液に5%以上溶解する。しかし、5%のドデシルトリメチルアンモニウムクロリドでは、pH複合電極100の振動などにより、電極内部液(測定電極内部液、比較電極内部液)が泡立ちすぎ、これにより液のつながり状態が不安定となり、結果として電極電位の指示値が安定しにくくなるなど、使用上問題となることが分かった。その濃度を、1%以下とすることにより、pH複合電極100の通常の測定操作における振動などでは、問題となるような泡立ちは発生しなかった。
【0062】
(実験例3)
次に、上記表3に示す陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤を、それぞれ0.01%、1%、0.1%として、実験例1で行ったのと同様にして、ガラス電極1の電極電位の変動を調べた。その結果、ガラス電極1の電極電位の変動は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤のいずれを添加した場合も、1ヶ月経過後に−1〜−1.5mV程度である。このように、測定上問題となるようなガラス電極1の電極電位変動(例えば、3mVを超える電位変動)は観察されなかった。
【0063】
又、電極電位の変動後に、測定電極内部液Iaを、界面活性剤を添加していないベース測定電極内部液Ia0に戻して、標準電極との間の電位差を測定した。この場合、電極電位は10分程度で回復した。
【0064】
次に、上記表3に示す陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤を、それぞれ0.01%、1%、0.1%として、実施例1で行ったのと同様にして、比較電極2の液絡部電位の変動を調べた。その結果、比較電極2の液絡部電位の変動は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤のいずれを添加した場合も、±1mV程度である。このように、測定上問題となるような比較電極2の液絡部電位変動の増加は観察されなかった。
【0065】
以上説明した実験例から分かるように、気泡の除去効果、電極電位変動、液絡部電位変動、泡立ちの発生を考慮して、電極内部液(測定電極内部液、比較電極内部液)に溶解される界面活性剤の濃度は、0.01%〜1%が好ましい。
【0066】
実施例2
次に、本発明に係る他の実施例について説明する。上記実施例1では、電気化学式センサはpH複合電極であるとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0067】
例えば、実施例1で説明したような極細複合電極においては、内管小径部11の内側の空間31、内管小径部11の外周と外管小径部21の内周との間の環状空間32は極めて狭くなるため、電極を横にして保存することにより、或いは温度変化により、その空間内で気泡が発生し易い。そのため、本発明は極めて有効である。
【0068】
しかし、本発明は、pH電極などの測定電極が単体で形成されているもの、又、比較電極が単体で形成されているものにも等しく適用することができる。
【0069】
例えば、図4(a)は、細い単体のpH電極1の要部断面を示す。pH電極1は、電極指示体として支持管10の軸線方向先端に水素イオンに感応するガラス感応膜13が連続的且つ同軸的に形成されている。支持管10及びガラス感応膜13の内側の空間(内部液収容部)31には、測定電極内部液Iaが充填される。又、測定電極内部液Iaには、測定電極内極14が浸漬される。そして、この測定電極内部液Iaとして、実施例1と同様に界面活性剤が溶解されたものを使用することができる。
【0070】
又、例えば、図4(b)は、単体の比較電極2の要部断面を示す。比較電極2は、支持管20の軸線方向先端に、セラミックスから成る液絡部23が封入されている。支持管20の内側の空間(内部液収容部)32には、比較電極内部液Ibが充填される。又、比較電極内部液Ibには、比較電極内極24が浸漬される。そして、この比較電極内部液Ibとして、実施例1と同様に界面活性剤が溶解されたものを使用することができる。
【0071】
以上、本発明を具体的な実施例に則して説明したが、本発明は上述の実施態様に限定されるものではない。例えば、上記各実施例では、測定電極はpH測定電極であるとして説明したが、測定電極はこれに限定されるものではない。例えば、イオン測定用電極としては、pH電極以外のイオン選択性電極、即ち、ナトリウムイオン電極、フッ化物イオン電極、カリウムイオン電極、カルシウムイオン電極、硝酸イオン電極、アンモニア電極、炭酸ガス電極などがあげられる。又、これらの測定電極は、比較電極と組み合わされて複合電極を構成しても、単体の電極であってもよい。
【0072】
又、複合電極において、測定電極と比較電極とのいずれかの電極内部液のみに界面活性剤を添加することもできる。例えば、白金電極などとされる酸化還元電位測定電極と、比較電極とが一体的に設けられた酸化還元電位測定用複合電極において、比較電極の電極内部液に界面活性剤を添加することができる。
【0073】
又、上記各実施例では、界面活性剤が添加されるベースとなる電極内部液(測定電極内部液、比較電極内部液)は、3.3mol/L・KCl溶液(或いは、更にpH緩衝液を含むもの。)であるとして説明したが、ベースとなる電極内部液はこれに限定されるものではない。所望により飽和KCl溶液を使用してもよい。又、例えば、イオン電極を用いたイオン濃度測定においては、比較電極内部液として、硝酸カリウム溶液(ナトリウムイオン電極、塩化物イオン電極、臭化物イオン電極、シアン化物イオン電極、カドミウムイオン電極、銅イオン電極、銀イオンの各イオン電極)、酢酸リチウム溶液(カリウムイオン電極、硝酸イオン電極)が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明を適用し得る電気化学式センサの一実施例の外観図である。
【図2】図1の電気化学式センサの要部断面図である。
【図3】(a)電極電位変動の測定方法、(b)液絡部電位変動の測定方法を説明するための模式図である。
【図4】本発明を適用し得る電気化学式センサの他の実施例の要部断面図である。
【符号の説明】
【0075】
10 内管
20 外管
31 内管及びガラス感応膜の内側の空間(電極内部液収容部)
32 内管と外管との間の環状空間(電極内部液収容部)
Ia 測定電極内部液
Ib 比較電極内部液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極内部液を収容する内部液収容部を備える電気化学式センサにおける電極内部液の気泡除去方法であって、前記電極内部液に界面活性剤を溶解することを特徴とする電極内部液の気泡除去方法。
【請求項2】
前記界面活性剤は、0.01%〜1%の濃度で前記電極内部液に溶解されることを特徴とする請求項1に記載の電極内部液の気泡除去方法。
【請求項3】
前記界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤から成る群より選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極内部液の気泡方法。
【請求項4】
前記電気化学式センサは、イオン測定用電極であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の電極内部液の気泡除去方法。
【請求項5】
前記電気化学式センサは、比較電極であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の電極内部液の気泡除去方法。
【請求項6】
前記電気化学式センサは、測定用電極と比較電極とを備える複合電極であり、前記測定電極が備える前記内部液収容部及び前記比較電極が備える前記内部液収容部のうちいずれか又は両方に収容する電極内部液に前記界面活性剤が添加されることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の電極内部液の気泡除去方法。
【請求項7】
前記測定用電極は、イオン測定用電極であることを特徴とする請求項6に記載の電極内部液の気泡除去方法。
【請求項8】
電極内部液を収容する内部液収容部を備える電気化学式センサにおいて、前記電極内部に界面活性剤が溶解されていることを特徴とする電気化学式センサ。
【請求項9】
前記界面活性剤は、0.01%〜1%の濃度で前記電極内部液に溶解されていることを特徴とする請求項8に記載の電気化学式センサ。
【請求項10】
前記界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、及び非イオン界面活性剤から成る群より選択されることを特徴とする請求項8又は9に記載の電気化学式センサ。
【請求項11】
イオン測定用電極であることを特徴とする請求項8、9又は10に記載の電気化学式センサ。
【請求項12】
比較電極であることを特徴とする請求項8、9又は10に記載の電気化学式センサ。
【請求項13】
測定用電極と比較電極とを備える複合電極であり、前記測定電極が備える前記内部液収容部及び前記比較電極が備える内部液収容部のうちいずれか又は両方に収容する電極内部液に前記界面活性剤が添加されることを特徴とする請求項8、9又は10に記載の電気化学式センサ。
【請求項14】
前記測定用電極は、イオン測定用電極であることを特徴とする請求項13に記載の電気化学式センサ。
【請求項15】
内管と外管とを有する二重管構造を有し、前記内管の少なくとも一方の端部は封止され、又前記外管の少なくとも一方の端部は前記内管に接続されて封止され、前記内管の内側の空間に電極内部液を収容する第1の内部液収容部が形成され、前記内管と外管との間の環状の空間に内部液を収容する第2の内部液収容部が形成された電気化学式センサにおいて、
前記第1、第2の内部液収容部にそれぞれ収容される電極内部液のうちいずれか一方又は両方に界面活性剤が溶解されていることを特徴とする電気化学式センサ。
【請求項16】
前記界面活性剤は、0.01%〜1%の濃度で前記電極内部液に溶解されていることを特徴とする請求項15に記載の電気化学的センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−71792(P2007−71792A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261414(P2005−261414)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)