説明

電極板の搬送用治具

【課題】電極板の搬送中に温度上昇による圧力上昇が生じても、電極板を含む搬送用治具内を低い水分率の状態に保つことができる電極板の搬送用治具を提供する。
【解決手段】搬送する電極板の電極板収納部に圧力調整部を備え、搬送用治具を密閉状態にした際、搬送用治具内の内部圧力の変化に応じて、密閉状態の搬送用内治具の内部圧力が一定圧力内に保たれるような範囲で圧力調整部内の空間を膨脹又は収縮させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に代表される非水系二次電池の合剤塗料を集電体上に塗布して構成される、正極板、又は、負極板、又は、正極板及び負極板などの、電極板の搬送用治具(ジグ)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器又は通信機器の小型化又は軽量化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として用いられる二次電池に対しても、小型化及び軽量化が要求されている。このため、従来のアルカリ蓄電池に代わり、従来のアルカリ蓄電池よりも高エネルギー密度で高電圧を有するリチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池が開発されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池を構成する部材としては、電極板である正極板及び負極板と、セパレータと、非水電解質とがある。正極板は、正極活物質と、導電剤と、結着剤と、増粘剤と、分散媒とを混合し、練合して得られる塗料を、正極集電体に塗着し乾燥することにより製造される。負極板は、負極活物質と、結着剤と、増粘剤と、分散媒とを混合し、練合して得られる塗料を、負極集電体に塗着し乾燥することにより製造される。正極板又は負極板の製造に用いられる塗料の分散媒としては、水、水溶液、又は、有機溶剤が用いられる。
【0004】
このようにして得られた電極板である正極板と負極板とをそれぞれ圧延し切断した後に、それぞれ、セパレータを介して渦巻状に巻回し、それらを積み重ねて積層して極板群を作製する。そして、この極板群を電池缶などの電池容器に収納したのち、電解液を電池容器内に注入(電解液を使用する場合)し、封口板などの蓋で電池容器を封止又は密閉することにより、非水系二次電池であるリチウムイオン二次電池を作製する。
【0005】
また、正極電極板及び負極電極板のそれぞれの電極の厚さ又は練合して得られる塗料の水分率等は、リチウムイオン二次電池の性能に大きく影響を及ぼし、リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化のためには、各電極性能を維持すると同時に正極電極板及び負極電極板のそれぞれの電極板を薄膜化することによって、電池容器内に巻き込まれる回数を増やし、電極板の表面積をより大きくする方法が採用されている。
【0006】
しかしながら、正極電極板及び負極電極板を製作する製造工程と、これらの電極板を電池缶などの電池容器に収納する組み立て工程となど、また電極の搬送中の工程となどにおいて、それらの電極板が空気中から吸湿すると、電極性能が劣化し、また吸湿により活物質層の膜厚が増加することで、一定サイズの電池容器内部に電極板を数多く収納することができなくなり、リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度を保つ事ができない。そのために、各電極板を製作する製造工程、組み立て工程、又は搬送工程などでも、各電極板が空気中から水分を吸湿しないように、例えば各電極板周辺の空気中の雰囲気を水分率が1000ppm以下という、極めて低露点が保たれるように管理がされている。
【0007】
近年では、リチウム二次電池の更なるコストダウンのため、各電極板の製造工程を日本で行い、電池の組立工程を海外で行うなど、製造工程と組み立て工程とが異なる場所で行われていることが多く、そのような状況中、電極板の搬送用治具中でも絶えず空気中の雰囲気を極めて低い水分率に保つように対策されている。
【0008】
例えば、この電極板の搬送用治具中でも低い水分率を維持する方法として、電極板を包装体により低い水分率の雰囲気中で密閉する方法がある。包装体を構成する包装フィルムは、アルミ箔からなる防湿層と、延伸ナイロンからなる中間層とを有している。更に、包装体の内部にクッションを備えることにより、電極板を輸送又は保管等する際、電極板を外部衝撃等による損傷から守ることができるとともに、電極板を低い水分率に保つことができ、これにより電極板の品質保証期間を長期間化することができる方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−126142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、電極板の空気中からの吸湿を防ぎつつ搬送を行うためには、前記の特許文献の通り、電極板を、クッション材、金属層、又は金属酸化物層を含む筒状の包装材などを使用して封止する方法が提案されているが、このような構成であれば、例えば搬送中に直射日光などで包装材内部の温度が急上昇した場合、包装材内部の空気が体積膨張して内部圧力が高まり、包装材の開口部が一部分開封されたり又は包装材が破裂するといった問題があった。このように前記の特許文献では、包装材内部の圧力上昇が主な原因となって、防湿性が損なうような事又は電極板自体を損傷させるような事を発生させ、搬送中の電極板の品質維持についての問題が生じていた。
【0011】
本発明は、斯かる従来の問題点を解決するために為されたもので、その目的は、電極板の搬送中に温度上昇による圧力上昇が生じても、電極板を含む搬送用治具内を低い水分率の状態に保つことができる電極板の搬送用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0013】
本発明の第1態様によれば、リチウムイオン二次電池の構成部材である電極板として電池用正極板又は電池用負極板を電極板収納部に収納した状態で搬送する電極板の搬送用治具であって、
前記搬送用内治具の前記電極板収納部に配置され、前記電極板収納部内の空間と連通可能でかつ前記搬送用内治具の前記電極板収納部の内部圧力により膨脹又は収縮可能な空間を有する圧力調整部を備え、
前記搬送用治具の前記電極板収納部内の雰囲気を水分率が1000ppm以下で前記搬送用治具の前記電極板収納部内の内部保持圧力が大気圧より1から3KPaの正圧で、かつ前記搬送用治具の前記電極板収納部内の平均温度が0から60℃の条件を維持するように前記搬送用治具の前記電極板収納部を密閉状態にした際、前記搬送用治具の前記電極板収納部内の前記内部圧力の変化に応じて、密閉状態の前記搬送用内治具の前記電極板収納部の前記内部圧力が一定圧力内に保たれるような範囲で、前記圧力調整部内の前記空間を膨脹又は収縮させる電極板の搬送用治具を提供する。
【0014】
本発明の第2態様によれば、前記圧力調整部は、風船型の袋形状の構造であり、前記袋形状で構成される空間が、前記電極板収納部の内部の空間と連通している第1の態様に記載の電極板の搬送用治具を提供する。
【0015】
本発明の第3態様によれば、前記圧力調整部は、アルミラミネート加工した材料で作製された風船型の袋形状の構造であり、前記袋形状で構成される空間が、前記電極板収納部の内部の空間と連通している第1の態様に記載の電極板の搬送用治具を提供する。
【0016】
本発明の第4態様によれば、前記圧力調整部は、前記搬送用内治具の前記電極板収納部の外側に突出して配置されている第1〜3いずれか1つの態様に記載の電極板の搬送用治具を提供する。
【0017】
本発明の第5態様によれば、前記圧力調整部は、前記搬送用内治具の前記電極板収納部の内側に配置されている第1〜3いずれか1つの態様に記載の電極板の搬送用治具を提供する。
【発明の効果】
【0018】
このような構成からなる本発明の電極板の搬送用治具によれば、搬送用治具の電極板収納部に、搬送用治具の電極板収納部の内部の圧力変化によって膨張又は収縮する圧力調整部を設けているので、搬送用治具の電極板収納部の内部の圧力変化に応じて圧力調整部内の空間を膨張又は収縮させて、密閉状態の前記搬送用内治具の電極板収納部の内部圧力を一定内に維持することができる。
【0019】
このため、本発明の電極板の搬送用治具では、搬送用治具の電極板収納部の内部の圧力上昇による搬送用治具の電極板収納部の体積膨張が、圧力調整部以外では発生せず、搬送用治具の破裂若しくは一部開封、又は、開封による搬送用治具の電極板収納部内の水分量の上昇を予防できると同時に、従来搬送用治具で用いられていたような内部圧力に耐えられるように頑丈な搬送用治具本体又は搬送用治具の扉を強力に閉封する治具等の特別の手段を設ける必要もなくなり、搬送用治具の小型軽量化及び流通コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る電極板の搬送用治具内に正極板が収納されかつ前記搬送用治具が加熱される前の状態を示す前記搬送用治具の概略平面図、及び、(b)は前記搬送用治具が加熱される前の状態を示す前記搬送用治具の概略断面図である。
【図2】(a)は本発明の前記実施形態に係る前記電極板の搬送用治具内に前記正極板が収納されかつ前記搬送用治具が加熱された状態を示す前記搬送用治具の概略平面図、及び、(b)は前記搬送用治具が加熱された状態を示す前記搬送用治具の概略断面図である。
【図3】本発明の前記実施形態に係る前記電極板の搬送用治具内に負極板が収納されかつ前記搬送用治具が加熱される前の状態を示す前記搬送用治具の概略平面図、及び、(b)は前記搬送用治具が加熱された状態を示す前記搬送用治具の概略断面図である。
【図4】本発明の前記実施形態に係る前記電極板の搬送用治具内に前記負極板が収納されかつ前記搬送用治具が加熱された状態を示す前記搬送用治具の概略平面図、及び、(b)は前記搬送用治具が加熱された状態を示す前記搬送用治具の概略断面図である。
【図5】(a)は本発明の前記実施形態の変形例に係る電極板の搬送用治具内に正極板が収納されかつ前記搬送用治具が加熱される前の状態を示す前記搬送用治具の概略平面図、及び、(b)は前記搬送用治具が加熱される前の状態を示す前記搬送用治具の概略断面図である。
【図6】(a)は本発明の前記実施形態の前記変形例に係る前記電極板の搬送用治具内に前記正極板が収納されかつ前記搬送用治具が加熱された状態を示す前記搬送用治具の概略平面図、及び、(b)は前記搬送用治具が加熱された状態を示す前記搬送用治具の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1(a)及び(b)のような電極板の搬送用治具10は、主にリチウム二次電池を構成する正極板、又は、負極板、又は、正極板及び負極板を日本から海外に船便を使って搬送、又は、場所が異なる拠点間をトラック等の車両で搬送する用途で使用されるものである。
【0024】
搬送用治具10の電極板8の一例としての正極板8Aを収納する電極板収納部10xは、耐食性のある剛体材料、例えば、ステンレス鋼などの金属製の直方体の箱形状で構成され、箱形状を構成する各矩形の面と面とのつなぎ目は気密性を確保できるように溶接で結合するか又は一体構造としている。より具体的には、搬送用治具10の電極板収納部10xは、天面10aと底面10bと両側面10cと背面10dとで構成される箱形状の電極板収納部本体10gと、電極板収納部10xの前面10eとして配置される、後述する扉7とで構成されている。電極板収納部10xの内部には、上下方向の仕切り板10hが配置されているが、上下方向の仕切り板10hの両側の空間は連通している。仕切り板10hは搬送用治具10の強度を増すために設けている。
【0025】
搬送用治具10の電極板収納部10xの内部には、ロール状に巻き付けられた正極板8Aを搬送用内治具10の電極板収納部10x内で固定するための、耐食性のある剛体材料、例えば、ステンレス鋼などの金属製でかつ例えば棒状の固定具1の一端が、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gの背面10dに固定されている。固定具1は、上下方向には底面10b及び天面10aとからそれぞれ所定間隔をあけて、また、幅方向にも両側面10cとは所定間隔をあけて配置されている。よって、各固定具1は、本体10gの前面側に向けて突出するように配置されており、正極板8Aの巻き取り部の穴8aに棒状の固定具1を前後方向に挿入して、正極板8Aが固定具1で吊り下げられた状態で電極板収納部10x内で固定されるようにしている。
【0026】
また、搬送用治具10の電極板収納部10xの前面側の開口には、前面として、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10aに対して開閉用の扉7が開閉可能に取り付けられている。取り付けられている扉7の内側には、電極板収納部10xの気密性を保持するため、気密性に優れた密閉部材(例えばブチルゴム)(図示せず)を扉7の内部面の縁側に配置して、扉7を閉じた際に、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10aと扉7とで生じる隙間を減らして、電極板収納部10xを密閉する工夫を施し、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10aと扉7との連結辺あたり、均等に配置した複数個の止め具(図示せず)により、搬送用治具10に扉7を閉じ状態に保持することができるように構成している。
【0027】
さらに、密閉した電極板収納部10xに乾燥した空気を供給する乾燥空気供給口2を電極板収納部10xの天面10aの中心部位置付近に配置して、密閉した電極板収納部10x内に残存する加湿空気を搬送用治具10外へと放出するための排気口9を電極板収納部10xの1つの側面10cの底部側に設け、電極板収納部10xの天面10aの乾燥空気供給口2から供給した乾燥空気により電極板収納部10x内の加湿空気が側面の排気口9へと追い出し、電極板収納部10x内の加湿状態を乾燥状態に効率良く変換するようにしている。乾燥空気供給口2及び排気口9は、それぞれ、手動で開閉操作可能な構造となっている。
【0028】
その他の構成として、搬送用治具10には、効率良く搬送を行えるように、電極板収納部10xの底面に複数個(例えば3個又は4個)の滑車3を備えている。また、電極板収納部10xの1つの側面10cには、搬送用治具10の搬送時に必要な取っ手4を備えている。また、電極板収納部10xの内部の状況確認するための計測器投入口5も電極板収納部10xの天面10aに備えている。計測器投入口5には、後述するように、水分計又は差圧計を設置可能として、電極板収納部10xの内部の状況、例えば、水分率又は圧力を確認可能としている。
【0029】
前記乾燥空気供給口2には、圧力調整部6の一例として、風船型の袋形状でアルミニウム材をラミネート加工した材料で作製された圧力調整部材6aを結合可能としている。圧力調整部材6aの材料としては、アルミニウム材をラミネート加工した材料に限定されるものではなく、耐熱性を有し、耐湿性に富み(湿度を全く透過しない性質を有し)、かつ、膨張収縮が可能な材料が好ましい。このような材料ならば、搬送用治具10内を所定の温度及び所定の湿度の環境に保持したままで、圧力調整部材6aが膨張収縮可能となる。圧力調整部6を乾燥空気供給口2に結合するとき、圧力調整部6と電極板収納部10xの内部との気密性を向上させるため、各結合部分を結束バンドで固定するようにするのが好ましい。圧力調整部6が破損しないためには、搬送用治具10内の温度変化によって生じる体積膨張分を見越して、事前に、圧力調整部6の可変する体積分を設定して装着している。例えば、搬送用治具10内の温度が20℃から50℃へ膨張すると、搬送用治具10内の体積が10%増える場合、その増える分に相当する空間を圧力調整部6で形成できるようにすればよい。このように、温度変化が生じる要因(例えば季節による温度変化、又は、搬送先の環境による感度変化など)を考慮して、温度上昇分に相当する空間を圧力調整部6で形成できるようにすれば、従来技術の問題点(包装材の開口部が一部分開封されたり又は包装材が破裂するといった問題)を解消することができる。
【0030】
前記した構成にかかる搬送用治具10は、一例として、以下のように使用する。
【0031】
まず、扉7をあけて、電極板収納部10xの内部の4つの固定治具1にそれぞれ正極板8Aを吊り支持して固定する。
【0032】
その後、扉7を閉めて、電極板収納部10xの本体10gの止め具により本体10gに扉7を閉じた状態に保つ。
【0033】
その後、電極板収納部10xの側面10cの排気口9を開状態にした上で、電極板収納部10xの内部の雰囲気状態を、水分率が1000ppm以下(例えば、水分率800±100ppm)、内部の平均温度が0から60℃(例えば、23±5℃)の範囲を確保するため、電極板収納部10xの上面に備え付けられている乾燥空気供給口2に、乾燥空気供給装置の乾燥空気取り入れ管(図示せず)を結合する。そして、この乾燥空気取り入れ管を通じて、乾燥空気供給装置から電極板収納部10xの内部に、乾燥した空気(例えば、温度23℃、水分率500ppm)を所定の風量(例えば風量約1.5m/分)で供給し続ける。このような運転条件で所定時間(例えば30分)経過したとき、電極板収納部10xの天面10aの計測器投入口5に設置した例えばヴァイサラ(Vaisala)株式会社製の水分計を用いて電極板収納部10xの内の雰囲気を測定し、電極板収納部10x内が所定の条件(例えば、水分率700ppmで温度23℃)となったか否かを確認する。水分率の下限値は、375ppm程度である。その理由としては、使用する乾燥空気供給装置、例えば、ドライエアー発生装置の水分率の下限値が375ppmであるからである。一例として、搬送用治具10内を露点−20℃〜−30℃、すなわち1000ppm〜375ppmで管理すればよい。
【0034】
前記所定の条件となったことが確認された後、計測器投入口5に装着したヴァイサラ(Vaisala)株式会社製の水分計を、差圧計(例えば、長野計器株式会社製、型番:DG26)に交換して計測器投入口5に設置する。その後、電極板収納部10xの側面10cの排気口9を閉状態にした直後に、電極板収納部10xの上面10aに備え付けられている乾燥空気供給口2を閉じ、乾燥空気供給口2から乾燥空気取り入れ管を取り外して乾燥空気の供給を停止する。このとき、電極板収納部10x内の内部圧力は、大気圧より1から3KPaだけ高い正圧(例えば、2.5KPaの正圧)を保持するようにしている。
【0035】
このように、4本の正極板8Aが収納された電極板収納部10x内を、搬送に適した前記雰囲気状態にした後、この電極板収納部10xの乾燥空気供給口2に、圧力調整部6の一例として、風船型の袋形状(例えば、直径φ50cmで厚さ3mm)に、アルミニウム材をラミネート加工した材料で作製された圧力調整部材6aを結合し、さらに圧力調整部材6aと電極板収納部10xの気密性を向上させるため、各結合部分を結束バンドで固定している。このように圧力調整部材6aを結合固定した状態では、圧力調整部材6aの内部の空間と電極板収納部10x内の空間とが連通可能な状態となっている。圧力調整部材6aの内部の空間と電極板収納部10x内の空間とを連通させる場合には、乾燥空気供給口2を開状態とすればよい。
【0036】
これで、搬送用治具10は搬送準備完了状態となる。
【0037】
このような構成からなる前記実施形態の電極板の搬送用治具10によれば、搬送用治具10が直射日光又は外気温度の影響で加熱されて、電極板収納部10xの内部の圧力が上昇しても、乾燥空気供給口2を開状態として電極板収納部10x内の空間と圧力調整部材6aの内部の空間とを連通させ、電極板収納部10xの内部の圧力に応じて圧力調整部材6aを膨張させれば、密閉状態の前記電極板収納部10xの内部圧力を一定内に維持することができる。また、搬送用治具10が加熱される前の状態で乾燥空気供給口2を開状態として電極板収納部10x内の空間と圧力調整部材6aの内部の空間とを連通させておけば、搬送用治具10が直射日光又は外気温度の影響で加熱されて、電極板収納部10xの内部の圧力が上昇しようとしても、乾燥空気供給口2を介して電極板収納部10x内の空間内の圧力上昇分を圧力調整部材6aの内部の空間の膨張により吸収することができて、電極板収納部10xの内部の圧力に応じて圧力調整部材6aが膨張し、密閉状態の前記電極板収納部10xの内部圧力を一定内に維持することができる。
【0038】
よって、搬送用治具10の電極板収納部10xに、電極板収納部10xの内部の圧力変化によって膨張又は収縮する圧力調整部材6aを設けているので、電極板収納部10xの内部の圧力変化に応じて圧力調整部材6aを膨張又は収縮させて、密閉状態の前記電極板収納部10xの内部圧力を一定内に維持することができる。
【0039】
このため、前記搬送用治具10では、電極板収納部10xの内部の圧力上昇による電極板収納部10xの体積膨張が、圧力調整部材6a以外では発生せず、搬送用治具10の破裂若しくは一部開封、又は、開封による電極板収納部10x内の水分量の上昇を予防できると同時に、従来搬送用治具で用いられていたような内部圧力に耐えられるように頑丈な搬送用治具本体又は搬送用治具の扉を強力に閉封する治具等の特別の手段を設ける必要もなくなり、搬送用治具10の小型軽量化及び流通コストの低減を図ることができる。
【0040】
以下、この実施形態のより具体的な構成について、実施例1及び実施例2として説明する。
【実施例1】
【0041】
搬送用治具10の高さが1.5mで、また、幅方向が1mで、奥行き方向に0.5mの大きさを有する。また、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gの主な材質としてSUS304で厚さが3mmであり、搬送用治具10の気密性を確保するためにつなぎ合わせるSUS304の矩形の面の辺をアルゴン溶接にて互いに接合した。
【0042】
更に、この搬送用治具10の電極板収納部10xの内部には、正極板8Aを搬送用内治具10の電極板収納部10x内で固定するための固定具1として、搬送用治具10の電極板収納部10xの底辺から高さ約40cmと約80cmと、また幅方向には搬送用治具10の電極板収納部10xの中心から左右にそれぞれ約25cm離れた位置とで交差する4つの箇所に、合計4本のφ10cmであるSUS系合金の固定具1の一端を電極板収納部10xの背面10dに、アルゴン溶接にてそれぞれ接合した。
【0043】
また、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gの前面側には開閉用の扉7が備え付けられている。扉7の内側には、気密性を保持するため、気密性に優れたブチルゴム(桜ゴム株式会社製、幅2cm、高さ2cm)を扉7の内部面の縁側に密閉部材として配置して、扉7を閉じた際に搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gと扉7とで生じる隙間を減らす工夫を施し、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gの連結辺あたり、均等に3つ配置した止め具(図示せず)により、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gに扉7を閉じることができる。扉7の材質としては、例えばSUS304が挙げられる。
【0044】
さらに、密閉した搬送用治具10の電極板収納部10x内に乾燥した空気を供給するための乾燥空気供給口(供給口直径φ10cm)2を、搬送用治具10の電極板収納部10xの天面10aの中心部位置付近に配置してする。密閉した搬送用治具10の電極板収納部10x内に残存する加湿空気を、搬送用治具10の電極板収納部10x外へと放出するための排気口(排気口直径φ10cm)9を、搬送用治具10の電極板収納部10xの側面10cに設けている。そして、搬送用治具10の電極板収納部10xの上面10aから供給した乾燥空気により、搬送用治具10の電極板収納部10x内の加湿空気を側面10cの排気口9から電極板収納部10x外に追い出し、搬送用治具10の電極板収納部10x内の加湿状態を乾燥状態に効率良く変換するようにした。
【0045】
今回の発明を実施した実施例1にかかる電極板の搬送用治具10の電極板収納部10xの内部の4つあるそれぞれの固定治具1には、主に、リチウム二次電池を構成する正極板(内周φ15cmの巻き取り部に正極を外周φ30cmになるまで巻きつけた正極板、幅40cm)8Aを電極板8の一例として吊り下げ固定して、搬送用治具10の電極板収納部10xの扉7を閉状態にして、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gの止め具により、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gに扉7を閉じた状態に保った。
【0046】
その後、搬送用治具10の電極板収納部10xの側面10cの排気口9を閉状態から開状態にした上で、搬送用治具10の電極板収納部10xの内部が水分率800±100ppm、内部温度23±5℃の範囲を確保するため、搬送用治具10の電極板収納部10xの上面10aに備え付けられている乾燥空気供給口2に乾燥空気取り入れ管(図面略)を結合する。そして、この乾燥空気取り入れ管を通じて乾燥した空気(温度23℃、水分率500ppm)を風量約1.5m/分で電極板収納部10x内に供給し続ける。このような運転条件で30分経過した時、搬送用治具10の電極板収納部10xの天面10aの計測器投入口5からヴァイサラ(Vaisala)株式会社製の水分計を用いて搬送用治具10の電極板収納部10x内の雰囲気を測定した結果、700ppmの水分率で温度23℃あった。
【0047】
その後、計測器投入口5に装着したヴァイサラ(Vaisala)株式会社製の水分計を、差圧計(長野計器株式会社製、型番:DG26)に交換して電極板収納部10xに設置する。その後、搬送用治具10の電極板収納部10xの側面10cの排気口9を開状態から閉状態にした直後に、搬送用治具10の電極板収納部10xの上面10aに備え付けられている乾燥空気供給口2を閉じ、乾燥空気供給口2から乾燥空気用の乾燥空気取り入れ管を取り外して乾燥空気の供給を停止した。このとき、搬送用治具10の電極板収納部10x内の内部圧力が2.5KPaの正圧を保持していた。
【0048】
このように、4本の正極板8Aが収納された搬送用治具10の電極板収納部10x内を、搬送に適した前記雰囲気状態にした後、この搬送用治具10の電極板収納部10xの乾燥空気供給口2に、風船型の袋形状(φ50cm)で厚さ3mmのアルミニウム材をラミネート加工した材料で作製された圧力調整部材6aを結合し、さらに圧力調整部材6aと搬送用治具10の電極板収納部10xの気密性を向上させるため、各結合部分を結束バンドで固定した。
【0049】
このような実施条件の元、この搬送用治具10を輸送するために工場からトラックへ積み込み作業を行うが、通常、積み込み作業の効率化の関係で、数多くの搬送用治具10をトラック前に移動させて随時積み込みを行う。このため、場合によっては、搬送用治具10が5〜20分間、工場外に待機されることで、トラックへ積み込まれる前に搬送用治具10は直射日光又は外気温度の影響で、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gが約30〜40℃に加熱されている。
【0050】
このように搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gが加熱されることが主な原因で、搬送用治具10の電極板収納部10x内の内部圧力は3KPaを越えた状態となっている。このような搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gの乾燥空気供給口2を閉状態から開状態にしたところ、図2(a)及び(b)のように搬送用治具10の電極板収納部10x内の内部圧力が2.5KPaに下がると同時に、圧力調整部材6aが約30%程度膨張した。その結果、搬送用治具10の電極板収納部10xの形状は変わらず、また従来には存在していた体積膨張して金属変形が起こる時に生じる特有の金属変形音もしなかった。
【実施例2】
【0051】
上記実施例1の構成で、図3(a)及び(b)で示すように今回の発明を実施した実施例2にかかる電極板の搬送用治具10の電極板収納部10x内部の4つあるそれぞれの固定治具1には、主に、リチウム二次電池を構成する負極板(内周φ15cmの巻き取り部に正極を外周φ25cmになるまで巻きつけた負極板、幅25cm)8Bを電極板8の一例として吊り下げ固定して、搬送用治具10の電極板収納部10xの扉7を閉状態にして、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gの止め具により、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gに扉7を閉じた状態に保った。
【0052】
その後、搬送用治具10の電極板収納部10xの側面10cの排気口9を閉状態から開状態にした上で、搬送用治具10の電極板収納部10xの内部が水分率900±100ppm、内部温度23±3℃の範囲を確保するため、搬送用治具10の電極板収納部10xの上面10aに備え付けられている乾燥空気供給口2に乾燥空気取り入れ管(図面略)を結合する。そして、この乾燥空気取り入れ管を通じて乾燥した空気(温度23℃、水分率500ppm)を風量約1.5m/分で電極板収納部10x内に供給し続ける。このような運転条件で20分経過した時、搬送用治具10の電極板収納部10xの天面10aの計測器投入口5からヴァイサラ(Vaisala)株式会社製の水分計を用いて搬送用治具10の電極板収納部10x内の雰囲気を測定した結果、800ppmの水分率で温度24℃あった。
【0053】
その後、計測器投入口5に装着したヴァイサラ(Vaisala)株式会社製の水分計を、差圧計(長野計器株式会社製、型番:DG26)に交換して電極板収納部10xに設置する。その後、搬送用治具10の電極板収納部10xの側面10cの排気口9を開状態から閉状態にした直後に、搬送用治具10の電極板収納部10xの上面10aに備え付けられている乾燥空気供給口2を閉じ、乾燥空気供給口から乾燥空気用の乾燥空気取り入れ管を取り外して乾燥空気の供給を停止した。このとき、搬送用治具10の電極板収納部10x内の内部圧力が1.2KPaの正圧を保持していた。
【0054】
このように、4本の負極板8Bが収納された搬送用治具10の電極板収納部10x内を、搬送に適した前記雰囲気状態にした後、この搬送用治具10の電極板収納部10xの乾燥空気供給2に、風船型の袋形状(φ30cm)で厚さ3mmのアルミニウム材をラミネート加工した材料で作製された圧力調整部材6aを結合し、さらに圧力調整部材6aと搬送用治具10の電極板収納部10xの気密性を向上させるため、各結合部分を結束バンドで固定し、搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gの閉状態である乾燥空気供給口2を開状態にしたところ、圧力調整部材6aが約10%程度膨張した。
【0055】
このような実施条件の元、この搬送用治具10を輸送するために工場からトラックへ積み込み作業を行い、実施例1と同じくトラックへ積み込まれる前に搬送用治具10は直射日光又は外気温度の影響で搬送用治具10の電極板収納部10xの本体10gが約30〜40℃に加熱されていた。しかしながら、図4(a)及び(b)で示すように搬送用治具10の電極板収納部10x内の内部圧力が1.2KPaと変化せず、また圧力調整部材6aは約10%から25%へ体積膨張した。その結果、実施例1と同じく、搬送用治具10の電極板収納部10xの形状は変わらず、また従来には存在していた体積膨張して金属変形が起こる時に生じる特有の金属変形音もしなかった。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。
【0057】
例えば、電極板収納部10xの上部に、圧力調整部材6aと同様な材質の剛体のカバー20(図2(a)の一点鎖線参照)を設けて、風船型の袋形状の圧力調整部材6aの全体を覆うようにしてもよい。このようすれば、搬送時又は保管時などにおいて、圧力調整部材6aを誤って破損することが防止できる。
【0058】
また、電極板収納部10xの本体10gの外側に突出するように圧力調整部材6aを配置しているが、図5及び図6に示すように、電極板収納部10xの本体10gの内側に突出するように圧力調整部材6bを配置してもよい。このようにすれば、前記したようなカバーは不要となる。この場合、電極板収納部10xの本体10gが加熱されるなどして電極板収納部10x内の内部圧力が上昇した場合には、前記実施形態の圧力調整部材6aとは逆に、圧力調整部材6bの風船が縮小する一方、電極板収納部10xの本体10gが冷却されるなどして電極板収納部10x内の内部圧力が下降した場合には、前記実施形態の圧力調整部材6aとは逆に、圧力調整部材6bの風船が膨張するように作用する。
【0059】
また、実施例1及び2に限られるものではなく、正極板8Aと負極板8Bとを混在させて搬送用治具10の電極板収納部10x内に収納することもできる。この場合も、前記したような作用効果を奏することができる
また、圧力調整部6a,6bは、電極板収納部10xの天面10aに配置しているが、これに限られるものではなく、底面10b又は側面10c又は背面10dなどの任意の面に配置するようにしてもよい。
【0060】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の電極板の搬送用治具によれば、主に、リチウム二次電池を構成する電極板の搬送時において、搬送用治具の電極板収納部の内部の圧力上昇による搬送用治具の電極板収納部の体積膨張が発生せず、搬送用治具の破裂若しくは一部開封、又は、開封による搬送用治具の電極板収納部内の水分量の上昇を予防できると同時に、従来搬送用治具で用いられていたような内部圧力に耐えられるように頑丈な搬送用治具本体又は搬送用治具の扉を強力に閉封する治具等の特別の手段を設ける必要もなくなり、搬送用治具の小型軽量化及び流通コストの低減に寄与できる。
【符号の説明】
【0062】
1 固定具
2 乾燥空気供給口
3 滑車
4 取っ手
5 計測器投入口
6 圧力調整部
6a,6b 圧力調整部材
7 扉
8 電極板
8a 正極板又は負極板の巻き取り部の穴
8A 正極板
8B 負極板
9 排気口
10 搬送用治具
10a 天面
10b 底面
10c 側面
10d 背面
10g 電極板収納部本体
10x 電極板収納部
20 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の構成部材である電極板として電池用正極板又は電池用負極板を電極板収納部に収納した状態で搬送する電極板の搬送用治具であって、
前記搬送用内治具の前記電極板収納部に配置され、前記電極板収納部内の空間と連通可能でかつ前記搬送用内治具の前記電極板収納部の内部圧力により膨脹又は収縮可能な空間を有する圧力調整部を備え、
前記搬送用治具の前記電極板収納部内の雰囲気を水分率が1000ppm以下で前記搬送用治具の前記電極板収納部内の内部保持圧力が大気圧より1から3KPaの正圧で、かつ前記搬送用治具の前記電極板収納部内の平均温度が0から60℃の条件を維持するように前記搬送用治具の前記電極板収納部を密閉状態にした際、前記搬送用治具の前記電極板収納部内の前記内部圧力の変化に応じて、密閉状態の前記搬送用内治具の前記電極板収納部の前記内部圧力が一定圧力内に保たれるような範囲で、前記圧力調整部内の前記空間を膨脹又は収縮させる電極板の搬送用治具。
【請求項2】
前記圧力調整部は、風船型の袋形状の構造であり、前記袋形状で構成される空間が、前記電極板収納部の内部の空間と連通している請求項1に記載の電極板の搬送用治具。
【請求項3】
前記圧力調整部は、アルミラミネート加工した材料で作製された風船型の袋形状の構造であり、前記袋形状で構成される空間が、前記電極板収納部の内部の空間と連通している請求項1に記載の電極板の搬送用治具。
【請求項4】
前記圧力調整部は、前記搬送用内治具の前記電極板収納部の外側に突出して配置されている請求項1〜3いずれか1つに記載の電極板の搬送用治具。
【請求項5】
前記圧力調整部は、前記搬送用内治具の前記電極板収納部の内側に配置されている請求項1〜3いずれか1つに記載の電極板の搬送用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−113707(P2011−113707A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267202(P2009−267202)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】