説明

電極板

【課題】ガス通路の外縁を電極板の形状に対応させて形成する場合でも、発電性能の高い燃料電池を形成することが可能な電極板を提供する。
【解決手段】アノード電極板220・カソード電極板230は、燃料電池の電解質膜の表面に接合される電極板である。アノード電極板220・カソード電極板230は、隣り合う2つの直角T1,T2をなす3つの辺270,271,272と、2つの直角T1,T2に挟まれる辺270に対向する対辺400とにより外周が構成される。対辺400は、平面視で点対称であり、3つの辺270,271,272のいずれにも平行ではない線分402を有する。また、対辺400は、複数の線分401,402,403で近似したときに、隣接する2つの線分401・402,402・403のなす角度θ1,θ2が、90度よりも大きく、270度よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池やリン酸形燃料電池で使用される電極板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な用途で、固体高分子形燃料電池やリン酸形燃料電池が使用されている。これら燃料電池は、複数の燃料電池セルが積層されたものであり、各燃料電池セルは、膜電極接合体をセパレータで挟み込んだ構造を有する。
【0003】
膜電極接合体は、電解質膜の一方・他方の表面にアノード電極板・カソード電極板が積層された構造を有する。アノード電極板・カソード電極板は、触媒層とガス拡散層とから構成され、触媒層が電解質膜側に位置するように、電解質膜の表面に積層される。
【0004】
膜電極接合体を挟み込む2つのセパレータのうち、一方は、燃料ガス(水素を含むガス)が流れるガス通路を構成して、該ガス通路がアノード電極板に対向するように配置される。他方のセパレータは、酸化剤ガス(空気等の酸素を含むガス)が流れるガス通路を構成して、該ガス通路がカソード電極板に対向するように配置される。
【0005】
上述の燃料電池では、例えば、アノード電極板同士又はカソード電極板同士が電解質膜に積層されたり、アノード電極板・カソード電極板が表裏を誤って電解質膜に積層されるなど、電極板の積層に誤りがある場合には、所定の電圧特性が得られない。この問題を防止するため、特許文献1〜4には、アノード電極板やカソード電極板に、積層の誤りを発見するためのマーキングを形成することが開示される。
【0006】
特許文献1では、アノード電極板・カソード電極板の一辺を直角に折れ曲がる階段状に設けることで、マーキングが形成される。アノード電極板・カソード電極板は、長方形の電極材料を、中心を通過する折れ線に沿って切断することで形成される。マーキングとなる辺は、切断の軌跡により構成される。
【0007】
また特許文献2〜4では、アノード電極板・カソード電極板の隅を直線状に切り欠くことで、マーキングが形成される。アノード電極板・カソード電極板は、長方形の電極材料を、中心を通過する直線に沿って切断した後、各分割片の隅を切り欠くことで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−179221号公報
【特許文献2】特開2003−331851号公報
【特許文献3】特開平7−183033号公報
【特許文献4】特開2002−367662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで特許文献1では、電極板の形状に対応させて、ガス通路の外縁を形成する場合、ガス通路の外縁に、電極板の辺に対向する位置で直角部が形成されて、ガスを円滑に流す通路を構成することが困難になる。この困難さから、ガス通路が、直角部でガスの滞留を生じさせるものになった場合、電極板の全体にガスを均一に供給できず、燃料電池の発電性能が低下する。また、直角部が形成された状態で、ガスの滞留の生じないガス通路を構成する場合には、ガス通路の構造が複雑になる。
【0010】
また、直角部を生じさせないことを目的として、例えば、ガス通路の外縁を電極板よりも小さな矩形状にすることが考えられる。しかしながら、このようにする場合には、電極板に、ガス通路に対面しない部分(以下、非対面部)が生じる。非対面部にはガスを供給できないため、非対面部は発電反応を生じない部分となる。よって、電極材料の無駄が生じる。
【0011】
また特許文献2〜4では、電極材料の分割片の隅を直線状に切り欠いて、マーキングを形成するため、電極材料の歩留りが低い。
【0012】
また特許文献2〜4は、電極材料を分割した後、各分割片の隅を切り欠く工程が別途必要とされる。このため、アノード電極板・カソード電極板の製造に長い時間を要し、燃料電池の製造時間の短縮を図ることが困難である。
【0013】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、ガス通路の外縁を電極板の形状に対応させて形成する場合でも、発電性能の高い燃料電池を形成することが可能な電極板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る電極板は、
燃料電池の電解質膜の表面に接合される電極板であって、
隣り合う2つの直角をなす3つの辺と、前記2つの直角に挟まれる辺に対向する対辺とにより外周が構成され、
前記対辺は、
前記電極板を平面視したときに、点対称であり、
前記3つの辺のいずれにも平行ではない部分を有し、
該対辺を複数の線分で近似したときに、隣接する2つの線分のなす角度が、90度よりも大きく、270度よりも小さいことを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記対辺は、前記隣接する2つの線分のなす角度が、135度よりも大きく、225度よりも小さいことを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記対辺は、前記隣接する2つの線分のなす角度が、150度よりも大きく、210度よりも小さいことを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記2つの直角に挟まれる辺を第1軸とし、該2つの直角に挟まれる辺と直交する辺を第2軸とする座標系で前記対辺上の座標値を求めたときに、前記対辺は、前記第2軸方向の座標の最大値と、前記第2軸方向の座標の最小値との差分が、1ミリメートル以上、10ミリメートル以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電極板は、対称な凹凸を生じる辺を有するものになり、該辺を積層の誤りを発見するためのマーキングとして用いることができる。そして上記凹凸を生じる辺は、直角部が無く、緩やかに傾きが変化するものになる。よって、ガス通路の外縁を、電極板の形状に対応させて形成する場合でも、ガスが滞留せず、ガスが円滑に流れるガス通路を、単純な構造で形成できる。これにより、電極板にガスを均一に供給して、電極板の全体で発電反応を生じさせることができる。このため、発電性能の高い燃料電池を形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る燃料電池セルを示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る膜電極接合体を示す概略図であり、(A)は膜電極接合体を示す平面図、(B)は(A)の右側から見た膜電極接合体を示す側面図、(C)は(A)の下側から見た膜電極接合体を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電極板を示す概略図であり、(A)は電極板を示す平面図、(B)は(A)の右側から見た電極板を示す側面図、(C)は(A)の下側から見た電極板を示す側面図である。
【図4】図3の電極板を拡大して示す平面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るセパレータを示す概略図である。
【図6】図3の電極板を製造するために使用する電極材料を示す概略図であり、(A)は電極材料を示す平面図、(B)は(A)の右側から見た電極材料を示す側面図、(C)は(A)の下側から見た電極材料を示す側面図である。
【図7】図6の電極材料を用いて図3の電極板を製造する工程を示す図である。
【図8】図7の電極材料を拡大して示す平面図である。
【図9】本発明の電極板の変形例を示す概略図であり、(A)は電極板を示す平面図、(B)は(A)の右側から見た電極板を示す側面図、(C)は(A)の下側から見た電極板を示す側面図である。
【図10】図9の電極板を拡大して示す平面図である。
【図11】電極材料を用いて図9の電極板を製造する工程を示す図である。
【図12】図11の電極材料を拡大して示す平面図である。
【図13】本発明の電極板の変形例を示す概略図であり、(A)は電極板を示す平面図、(B)は(A)の右側から見た電極板を示す側面図、(C)は(A)の下側から見た電極板を示す側面図である。
【図14】図13の電極板を拡大して示す平面図である。
【図15】電極材料を用いて図13の電極板を製造する工程を示す図である。
【図16】図15の電極材料を拡大して示す平面図である。
【図17】本発明の電極板の変形例を示す概略図であり、(A)は電極板を示す平面図、(B)は(A)の右側から見た電極板を示す側面図、(C)は(A)の下側から見た電極板を示す側面図である。
【図18】図17の電極板を拡大して示す平面図である。
【図19】図17の電極板の辺を拡大して示す平面図である。
【図20】電極材料を用いて図17の電極板を製造する工程を示す図である。
【図21】図20の電極材料を拡大して示す平面図である。
【図22】本発明の電極板の変形例を拡大して示す平面図である。
【図23】図22の電極板を製造するために使用する電極材料を拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付す。
【0021】
本発明の実施の形態に係る電極板は、固体高分子形燃料電池を製造するために使用される。該固体高分子形燃料電池は、図1に示す燃料電池セル100が複数積層された構造を有する。各燃料電池セル100は、膜電極接合体200を、2つのセパレータ300A,300Bで挟み込んだ構造を有する。
【0022】
図2に示すように、膜電極接合体200は、電解質膜210と、上記電極板としてのアノード電極板220・カソード電極板230とを備える。電解質膜210は、例えば水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜から構成される。電解質膜210は、アノード電極板220・カソード電極板230よりも大きなサイズに形成され、アノード電極板220・カソード電極板230に対応する形状を呈する。アノード電極板220は、電解質膜210の厚み方向の一方の表面に積層される。カソード電極板230は、電解質膜210の厚み方向の他方の表面に積層される。
【0023】
電解質膜210は、縦横の寸法が例えば10〜500mmの範囲内に設定され、厚さが例えば5〜200μmの範囲内に設定される。アノード電極板220やカソード電極板230は、縦横の寸法が例えば10〜500mmの範囲内に設定され、厚さが例えば5〜5000μmの範囲内に設定される。
【0024】
図3に示すように、アノード電極板220やカソード電極板230は、それぞれ触媒層240とガス拡散層250との積層物から構成される。触媒層240は、例えば電解質と金属担持触媒とから形成される。ガス拡散層250は、例えば多孔性材料から形成される。なお、アノード電極板220とカソード電極板230とでは使用される材料が異なる。
【0025】
触媒層240側から見たときのアノード電極板220の形状と、ガス拡散層250側から見たときのカソード電極板230の形状とは、いずれも図3(A)に示すようになり、同一である。アノード電極板220やカソード電極板230は、隣り合う2つの直角T1,T2をなす3つの辺270,271,272と、2つの直角T1,T2に挟まれる辺270に対向する対辺400とにより外周が構成される。対辺400は、積層の誤りを発見するためのマーキングとして形成されるものであり、折れ線状を呈する。対辺400は、3つの線分401,402,403からなる。
【0026】
線分401は、アノード電極板220やカソード電極板230の一方側において、相対する辺270と平行に直線状に延びる。線分402は、線分401の端点から他方側に向けて、直線状に延びる。線分402は、他方側になるほど、辺270に徐々に近づくよう傾斜する。線分403は、線分402の端点から他方側に向けて、辺270と平行に直線状に延びる。上記の線分401〜403からなる対辺400は、以下の特徴1〜4を有する。
【0027】
対辺400は、アノード電極板220やカソード電極板230を平面視したときに、点対称である(特徴1)。該点対称の対称中心は、対辺400の中央C(図4)を通過し、電極板220,230の表面に対して垂直な方向に延びる軸である。
【0028】
対辺400は、電極板220,230の他の辺270,271,272と平行ではない部分(線分402)を有する(特徴2)。
【0029】
対辺400は、複数の線分401,402,403で近似したときに、隣接する2つの線分401・402,402・403のなす角度θ,θ(図4)が、90度よりも大きく、270度よりも小さい(特徴3)。角度θ,θは、対辺400を境とする内外の角度であり、合計が360度になるものである。
【0030】
対辺400は、凹凸を肉眼で把握することができ、且つ、凹凸が大きすぎて、電極板220,230の機能が損なわれないように設定される。具体的には、図4に示すように、対辺400と相対する辺270を第1軸とし、辺270と直交する辺271を第2軸とする座標系で、対辺400上の座標値を求めたときに、対辺400は、第2軸方向の座標の最大値と、第2軸方向の座標の最小値との差分Sが、1ミリメートル以上、10ミリメートル以下である(特徴4)。
【0031】
図2に示すように、電解質膜210には、対辺400に対応する形状の辺211が形成される。アノード電極板220やカソード電極板230は、対辺400A,400Bが辺211と上下に整合するように、電解質膜210の一方・他方の表面に積層される。この配置により、膜電極接合体200では、電極板220,230の触媒層240が、電解質膜210側に位置している。
【0032】
図1に示すように、膜電極接合体200を挟み込む2つのセパレータ300A,300Bのうち、一方のセパレータ300Aは、アノード電極板220に燃料ガス(水素を含むガス)を供給するためのガス通路301Aを構成する。他方のセパレータ300Bは、カソード電極板230に酸化剤ガス(空気等の酸素を含むガス)を供給するためのガス通路301Bを構成する。
【0033】
図5に示すように、セパレータ300A,300Bは、上記のガス通路301A,301Bと、ガス供給口302A,302Bと、ガス排出口303A,303Bと、シール材304A,304Bとをそれぞれ備える。
【0034】
ガス供給口302A,302Bは、燃料ガス或いは酸化剤ガスをガス通路301A,301Bに供給する孔である。ガス排出口303A,303Bは、ガス通路301A,301B内のガスを排出する孔である。シール材304A,304Bは、それぞれ、環状を呈して、ガス通路301A,301B・ガス供給口302A,302B・ガス排出口303A,303Bの形成範囲を包囲する。シール材304A,304Bとしては、例えば、フッ素ゴムやシリコンゴムが使用される。
【0035】
図1に示す燃料電池セル100では、ガス通路301Aがアノード電極板220に対向して配置され、ガス通路301Bがカソード電極板230に対向して配置される。以上の配置により、アノード電極板220に水素ガスが供給可能になり、カソード電極板230に酸化剤ガスが供給可能になる。これにより発電反応を生じさせることができる。詳しくは、水素ガスがアノード電極板220の触媒層240に接触することにより「2H→4H++4e−」といった反応が生じる。そして、生成したH+は、電解質膜210中を移動して、カソード電極板230に達し、カソード電極板230の触媒層240で空気中の酸素と「4H++4e−+O→2HO」の反応が生じて、発電が行われる。
【0036】
本実施の形態では、上記の反応がアノード電極板220やカソード電極板230の全体で生じるように、ガス通路301A,301Bの外縁G(図5)は、電極板220,230に対応した形状に形成される。
【0037】
対辺400に対向する外縁Gの部分h(図5)は、直角部が無く、緩やかに傾きが変化している。これは、上述のように、対辺400が、点対称であり(特徴1)、電極板220,230の他の辺と平行ではない部分を有し(特徴2)、角度θ,θ(図4)が90度よりも大きく270度よりも小さく、この対辺400に対応する形状に、部分hが形成されたためである(特徴3)。部分hが緩やかに傾きが変化することで、部分hを外縁とするガス通路301の範囲は、ガス溜まりが生じず、ガスを円滑に流すものとなっている。
【0038】
また、図1に示す燃料電池セル100では、ガス通路301A,301Bを密封するために、シール材304A,304Bが電極板220,230と電解質膜210との間に挟持されている。
【0039】
燃料電池セル100は、以下の第1〜3の工程が実行されることで製造される。第1の工程では、図6に示す電極材料500A,500Bを用いて、アノード電極板220やカソード電極板230が形成される。第2の工程では、第1の工程で得られたアノード電極板220やカソード電極板230を電解質膜210に接合することで、膜電極接合体200が形成される。第3の工程では、第2の工程で得られた膜電極接合体200を2つのセパレータ300A,300Bで挟み込むことで、燃料電池セル100が形成される。以下、各工程の詳細について説明する。
【0040】
まず、第1の工程では、ガス拡散層250(図6)を構成するためのカーボンペーパーを準備し、該カーボンペーパーに触媒層240を形成することで、図6に示す電極材料500A,500Bが得られる。電極材料500A,500Bは、縦横の寸法が例えば20〜1000mmの範囲内に設定され、同一寸法の長方形を呈する。また、電極材料500A,500Bの厚さは、例えば5〜5000μmの範囲内に設定される。
【0041】
そして、アノード電極板220成形用の型と、カソード電極板230成形用の型とを準備し、これらの型を用いて電極材料500A,500Bを打ち抜くことで、図7に示すように、電極材料500A,500Bを切断線600A,600Bに沿って切断する。切断線600A,600Bは、対辺400を形成するために、以下の特徴6〜10を有するよう設定される。
【0042】
図8に示すように、切断線600は、電極材料500の中心Dを通過する線である(特徴6)。
【0043】
また、切断線600は、電極材料500を平面視したときに、点対称とされる(特徴7)。該点対称の対称中心は、電極材料500の中心Dを通過し、電極材料500の表面に対して垂直な方向に延びる軸である。
【0044】
また、切断線600は、電極材料500の辺510,511と平行ではない部分(線分602に相当)を有する(特徴8)。
【0045】
また、切断線600は、複数の線分601,602,603で近似したときに、隣接する2つの線分601・602,602・603のなす角度θ,θが、いずれも、90度よりも大きく、270度よりも小さい(特徴9)。角度θ,θは、切断線600を境とする一方側・他方側の角度であり、合計が360度になるものである。
【0046】
また、切断線600と相対する電極材料500の第1辺510を第1軸とし、第1辺510と直交する電極材料500の第2辺511を第2軸とする座標系で、切断線600上の座標値を求めたときに、切断線600は、第2軸方向の座標の最大値と、第2軸方向の座標の最小値との差分Sが、1ミリメートル以上、10ミリメートル以下になるように設定される(特徴10)。
【0047】
以上の切断線600A,600Bに沿って電極材料500A,500Bが切断されることで、アノード電極板220やカソード電極板230が形成される。これら電極板220,230は、ミラー対称の形状を呈し、切断軌跡により対辺400が構成される。アノード電極板220とカソード電極板230とは、対辺400により識別できる。例えば、触媒層240を上に向け、ガス拡散層250を下に向けたときに、対辺400が一方側に位置する電極板がアノード電極板220と識別され、対辺400が他方側に位置する電極板がカソード電極板230と識別される。なお、触媒層240とガス拡散層250とは表面の光沢により識別可能である。
【0048】
第2の工程では、まず、電解質膜210の一方・他方の表面に、アノード電極板220,カソード電極板230を積層することで、アノード電極板220・電解質膜210・カソード電極板230の積層物を構成する。この際には、電極板220,230の対辺400A,400Bが電解質膜210の辺211(図2)に整合するように、アノード電極板220やカソード電極板230の表面を積層する。これにより、アノード電極板220やカソード電極板230の触媒層240が、電解質膜210側に位置するようになる。
【0049】
ついで、アノード電極板220・電解質膜210・カソード電極板230の積層物をプレスすることで、電解質膜210の表面にアノード電極板220・カソード電極板230を接合する。以上により、膜電極接合体200が形成される。
【0050】
第3の工程では、膜電極接合体200の両側を、シール材304A,304Bを配置したセパレータ300A,300Bで挟み込む。この際には、セパレータ300A,300Bのガス通路301A,301Bが、それぞれアノード電極板220やカソード電極板230に対向するように配置される。
【0051】
本実施の形態によれば、電極板220,230の対辺400(図3)が、点対称であるため(特徴1)、電極材料500を切断して得られる電極板は、同一の形状になる。よって、電極材料500を切断して得られる電極板は、平面視で外縁が重なるよう積層することができる。このため、発電反応が生じる部分を大きく確保する上で有利である。
【0052】
また、対辺400が電極板の他の辺と平行ではない部分(線分402)を有することで(特徴2)、対辺400は、対称な凹凸を生じさせるものになる。よって、対辺400を積層の誤りを発見するためのマーキングとして使用することで、アノード電極板220同士又はカソード電極板230同士を積層する等の電極板の積層の誤りが抑制できる。
【0053】
また、対辺400は、隣接する2つの線分のなす角度θ,θ(図4)が90度よりも大きく270度よりも小さいことから(特徴3)、直角部が無く、緩やかに傾きが変化するものとなる。よって、図5に示すように、ガス通路301A,301Bの外縁Gを、電極板220,230の形状に対応させて形成する場合でも、ガス溜まりを生じず、ガスが円滑に流れるガス通路301A,301Bを、単純な構造で形成できる。これにより、電極板220,230の全体にガスを均一に供給して、電極板220,230の全体で発電反応を生じさせることが可能になる。このため、発電性能の高い燃料電池を形成することができる。また、電極板220,230の全体で発電反応が生じることから、電極材料500の無駄が生じない。
【0054】
また、図8に示す差分Sが1ミリメートル以上であることから(特徴4)、対辺400は、凹凸が肉眼で識別可能なものになる。よって、対辺400を、積層の誤りを発見するためのマーキングとして使用することで、電極板220,230の積層の誤りを抑制することができる。
【0055】
また、図8に示す差分Sが10ミリメートル以下であることから(特徴4)、対辺400の凹凸が大きすぎることで、電極板220,230の機能が損なわることが抑制される。
【0056】
また本実施の形態では、電極材料500(図6)を切断線600に沿って切断することで、マーキング(対辺400に相当)を備えた電極板を形成できる。このため、マーキングを形成するために、電極材料500を切り欠く必要がない。よって、電極材料500の歩留まりを向上させることができる。
【0057】
また、マーキングを形成する工程を別途行う必要がないため、長い時間を要せず、電極板を形成できる。よって、燃料電池の製造時間の短縮を図ることが可能になる。
【0058】
本発明は、上記の実施の形態に、特許請求の範囲において種々改変することができる。
【0059】
例えば、辺270(2つの直角T1,T2に挟まれる辺)に相対する対辺は、上記のマーキングとして、様々な点対称の形状に形成され得る。
【0060】
例えば、図9に示す対辺410A,410Bが、マーキングとしてアノード電極板220・カソード電極板230に形成されてもよい。対辺410A,410Bは、電極板220,230の一方側から他方側に向けて直線状に延び、他方側になるほど、辺270に近づくよう傾斜している。
【0061】
また、図13に示す対辺420A,420Bが、マーキングとしてアノード電極板220・カソード電極板230に形成されてもよい。対辺420は、3つの線分421,422,423からなる。
【0062】
線分421は、電極板220,230の一方側において直線状に延び、他方側になるほど辺270に徐々に近づくよう傾斜する。線分422は、線分421の端点から他方側に向けて、相対する辺270と平行に直線状に延びる。線分423は、線分422の端点から他方側に向けて直線状に延びる。線分423は、他方側になるほど辺270に徐々に近づくよう傾斜する。
【0063】
また、図17に示す対辺430A,430Bが、マーキングとしてアノード電極板220・カソード電極板230に形成されてもよい。対辺430A,430Bは、曲線部431A,431Bと、曲線部432A,432Bとからなる。曲線部431A,432Bは、電極板220,230の一方側に位置して、外向き凸状である。曲線部432A,432Bは、電極板220,230の他方側に位置して、内向き凸状である。
【0064】
対辺410,420,430(図9,図13,図17)は、上述の特徴1〜4を有する。すなわち、対辺410,420,430は、アノード電極板220・カソード電極板230を平面視したときに、点対称である(特徴1)。該点対称の対称中心は、対辺410,420,430の中央C(図10,図14,図18)を通過し、電極板220,230の表面に対して垂直な方向に延びる軸である。
【0065】
また、対辺410,420,430は、他の辺270,271,272と平行ではない部分を有する(特徴2)。すなわち図9,図17に示す対辺410,430は、全体が辺270,271,272と平行ではない。図13に示す対辺420は、線分421,422が、他の辺270,271,272と平行ではない。
【0066】
また、図9に示す対辺410は、直線であることから、複数の線分で近似したときに、隣接する2つの線分の角度θ,θ(図10)が、いずれも180度になり、90度よりも大きく270度よりも小さい(特徴3)。
【0067】
また、図13に示す対辺420は、複数の線分421,422,423で近似したときに、隣接する2つの線分421・422,422・423のなす角度θ,θ(図14)が、90度よりも大きく、270度よりも小さい(特徴3)。
【0068】
また、図19に示すように、対辺430は、複数の線分801,802,803,・・・で近似したときに、隣接する2つの線分801・802,802・803,・・・のなす角度θ,θが、90度よりも大きく、270度よりも小さい(特徴3)。
【0069】
また図10,図14,図18に示すように、対辺410,420,430と相対する辺270を第1軸とし、辺270と直交する辺271を第2軸とする座標系で、対辺410,420,430上の座標値を求めたときに、対辺410,420,430は、第2軸方向の座標の最大値と、第2軸方向の座標の最小値との差分Sが、1ミリメートル以上、10ミリメートル以下である(特徴4)。
【0070】
以上のように特徴1〜4を有する対辺410,420,430をアノード電極板220・カソード電極板230に形成する場合でも、上記実施の形態と同様の効果が得られる。
【0071】
なお、対辺410A,410Bを備えるアノード電極板220・カソード電極板230は、図11に示すように、長方形の電極材料500を切断線610に沿って切断することで形成される。
【0072】
また対辺420A,420Bを有するアノード電極板220・カソード電極板230は、図15に示すように、長方形の電極材料500を切断線620に沿って切断することで形成される。
【0073】
また、対辺430A,430Bを有するアノード電極板220・カソード電極板230は、図20に示すように、長方形の電極材料500を切断線630に沿って切断することで形成される。
【0074】
切断線610,620,630は、対辺410,420,430を形成するために、上記の特徴6〜10を有するように設定される。
【0075】
つまり、図12,図16,図21に示すように、切断線610,620,630は、電極材料500の中心Dを通過する(特徴6)。また、切断線610,620,630は、電極材料500を平面視したときに、点対称とされる(特徴7)。
【0076】
また、切断線610,620,630は、電極材料500の辺510,511と平行ではない部分を有する(特徴8)。すなわち、切断線610,630(図12,図21)は、全体が辺510,511と平行ではなく、切断線620(図16)は、線分621,623が辺510,511と平行ではない。
【0077】
また、切断線610は直線であることから、切断線610を複数の線分で近似したときに、隣接する2つの線分の角度θ,θ(図12)が、いずれも180度になり、90度よりも大きく270度よりも小さい(特徴9)。
【0078】
また、切断線620は、切断線620を複数の線分621,622,623で近似したときに、隣接する2つの線分621・622,622・623の角度θ,θ(図16)が、いずれも180度になり、90度よりも大きく270度よりも小さい(特徴9)。
【0079】
また、切断線630は、切断線630を複数の線分(図示せず)で近似したときに、隣接する2つの線分がなす角度(図19のθ,θに対応する角度)が、90度よりも大きく270度よりも小さい(特徴9)。
【0080】
また、図12,図16,図21に示すように、切断線610,620,630と相対する電極材料500の第1辺510を第1軸とし、第1辺510と直交する電極材料500の第2辺511を第2軸とする座標系で、切断線610,620,630上の座標値を求めたときに、切断線610,620,630は、第2軸方向の座標の最大値と、第2軸方向の座標の最小値との差分Sが、1ミリメートル以上、10ミリメートル以下になるように設定される(特徴10)。
【0081】
また、対辺430(図18)は、図22に示すように、両側の端点M1,M2の第2軸方向における座標が同一になるよう形成されてもよい。この場合、切断線630(図21)は、図23に示すように、両側の端点N1,N2の第2軸方向における座標が同一になるよう設定される。
【0082】
また、対辺400,410,420,430は、差分S(図4,図10,図14,図18)が1ミリメートル以上、10ミリメートル以下であるように形成されなくてもよい(特徴4を有しなくてもよい)。この場合でも、対辺400,410,420,430が、点対称であり(特徴1)、電極板220,230の他の辺と平行ではない部分を有し(特徴2)、図4,図10,図14,図19に示す角度θ,θが90度よりも大きく270度よりも小さいことで(特徴3)、対辺400,410,420,430は、直角部が無く、緩やかに傾きが変化するものとなる。このため、ガスを円滑に流すガス通路301を単純な構造で形成でき、発電性能の高い燃料電池を形成することが可能になる。
【0083】
また、対辺400,420,430は、好ましくは、隣接する2つの線分のなす角度θ,θ(図4,図14,図19)が、135度よりも大きく225度よりも小さく、より好ましくは、150度よりも大きく210度よりも小さく設定される。このようにすることで、対辺400,420,430は、さらに緩やかに傾きが変化するものになる。よって、ガスを円滑に流すガス通路を単純な構造で形成することが、より一層容易になる。以上のように対辺400,420,430の角度θ,θを設定する場合には、切断線600,620,630は、隣接する2つの線分のなす角度θ,θ(図8,図16,切断線630は図示せず)が、135度よりも大きく225度よりも小さく、或いは、150度よりも大きく210度よりも小さく設定される。
【0084】
また、本発明は、固体高分子型燃料電池に限らず、リン酸型燃料電池など、ガス通路が電極板に対向するように配置される燃料電池に適用できる。
【符号の説明】
【0085】
100 燃料電池セル
200 膜電極接合体
210 電解質膜
211 電解質膜の辺
220 アノード電極板
230 カソード電極板
240 触媒層
250 ガス拡散層
400A,400B,410A,410B,
420A,420B,430A,430B 対辺
401A,401B,402A,402B,
403A,403B,421A,421B,
422A,422B,423A,423B 線分
270A,270A,271A,271B,
272A,272B アノード電極板・カソード電極板の辺
431A,431B,432A,432B 曲線部
300A,300B セパレータ
301A,301B ガス通路
302A,302B ガス供給口
303A,303B ガス排出口
304A,304B シール材
500A,500B 電極材料
510,511 電極材料の辺
600A,600B,610A,610B,
620A,620B,630A,630B 切断線
601A,601B,602A,602B,
603A,603B,621A,621B,
622A,622B,623A,623B,
801A,801B,802A,802B,
803A,803B 線分
C 辺の中央
D 電極材料の中心
T1,T2 直角
G ガス通路の外縁
h 外縁の部分
S 差分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の電解質膜の表面に接合される電極板であって、
隣り合う2つの直角をなす3つの辺と、前記2つの直角に挟まれる辺に対向する対辺とにより外周が構成され、
前記対辺は、
前記電極板を平面視したときに、点対称であり、
前記3つの辺のいずれにも平行ではない部分を有し、
該対辺を複数の線分で近似したときに、隣接する2つの線分のなす角度が、90度よりも大きく、270度よりも小さいことを特徴とする燃料電池の電極板。
【請求項2】
前記対辺は、前記隣接する2つの線分のなす角度が、135度よりも大きく、225度よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の電極板。
【請求項3】
前記対辺は、前記隣接する2つの線分のなす角度が、150度よりも大きく、210度よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池の電極板。
【請求項4】
前記2つの直角に挟まれる辺を第1軸とし、該2つの直角に挟まれる辺と直交する辺を第2軸とする座標系で前記対辺上の座標値を求めたときに、前記対辺は、前記第2軸方向の座標の最大値と、前記第2軸方向の座標の最小値との差分が、1ミリメートル以上、10ミリメートル以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料電池の電極板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−230845(P2012−230845A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99131(P2011−99131)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】