説明

電極活物質及び二次電池

【課題】エネルギー密度が大きく高出力で、充放電を繰り返しても容量低下の少ないサイクル特性の良好な電極活物質及び二次電池を実現する。
【解決手段】電極活物質は、一般式(I)、(II)に示すように、2つ以上の不飽和五員環構造を構成単位中に含有した有機化合物を有している。式中、n、qは2〜50の整数、pは1〜50の整数、R、R、X及びXは任意の置換基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極活物質及び二次電池に関し、より詳しくは有機化合物を使用した電極活物質、及び該電極活物質の電池電極反応を利用して充放電を繰り返す二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ等の携帯用電子機器の市場拡大に伴い、これら電子機器のコードレス電源としてエネルギー密度が大きく長寿命の二次電池が待望されている。
【0003】
そして、このような要求に応えるべく、リチウムイオン等のアルカリ金属イオンを荷電担体とし、その電荷授受に伴う電気化学反応を利用した二次電池が開発されている。特に、エネルギー密度の大きなリチウムイオン二次電池は、現在では広く普及している。
【0004】
二次電池の構成要素のうち電極活物質は、充電反応、放電反応という電池電極反応に直接寄与する物質であり、二次電池の中心的役割を有する。すなわち、電池電極反応は、電解質中に配された電極と電気的に接続された電極活物質に電圧を印加することにより、電子の授受を伴って生じる反応であり、電池の充放電時に進行する。したがって、上述したように電極活物質は、システム的には二次電池の中心的役割を有する。
【0005】
そして、上記リチウムイオン二次電池では、正極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物を使用し、負極活物質として炭素材料を使用し、これらの電極活物質に対するリチウムイオンの挿入反応、及び脱離反応を利用して充放電を行っている。
【0006】
しかしながら、上記リチウムイオン二次電池は、正極におけるリチウムイオンの移動が律速となるため、充放電の速度が制限されるという問題があった。すなわち、上述したリチウムイオン二次電池では電解質や負極に比べて正極の遷移金属酸化物中でのリチウムイオンの移動速度が遅く、このため正極での電池反応速度が律速となって充放電速度が制限され、その結果、高出力化や充電時間の短時間化には限界があった。
【0007】
そこで、このような課題を解決すべく、近年、有機化合物を正極活物質とする二次電池が提案されている。そして、これら有機化合物のうち有機ラジカル化合物を利用した二次電池の研究開発が盛んに行われている。
【0008】
例えば、特許文献1には、ニトロキシルラジカル化合物、オキシラジカル化合物、及び窒素原子上にラジカルを有する窒素ラジカル化合物を使用した二次電池用活物質が提案されている。
【0009】
この特許文献1では、ラジカルとして安定性の高いニトロキシルラジカル等を使用した実施例が記載されており、例えばニトロニルニトロキシド化合物を含む電極層を正極とし、リチウム張り合わせ銅箔を負極として二次電池を作製し、繰り返し充放電したところ10サイクル以上にわたって充放電が可能であることが確認されている。
【0010】
また、特許文献2には、2つのケトン基をオルト位の位置関係で有するフェナントレンキノン化合物を含有した電極活物質が提案されている。
【0011】
特許文献2では、前記フェナントレンキノン化合物を含有した電極活物質で正極活物質を形成し、リチウムイオンを挿入したグラファイト層で負極活物質を形成し、コイン型電池を作製している。そして、充放電試験を行ったところ、可逆的な充放電反応が進行し、5サイクルまでは大きな容量劣化は見られなかったと記載されている。
【0012】
また、特許文献3には、特定のチオール構造を有する蓄電デバイス用電極活物質が提案されている。
【0013】
この特許文献3では、正極活物質を特定のチオール構造を有する電極活物質で形成し、負極をリチウム金属で形成してコイン電池を作製している。そして、充放電試験を行ったところ、120Ah/kgの容量密度を得ることができ、50サイクル後も容量劣化がなかったと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−207249号公報(段落番号〔0278〕〜〔0282〕)
【特許文献2】特開2008−222559号公報(段落番号〔0018〕、〔0072〕〜〔0076〕)
【特許文献3】特開2008−112630号公報(請求項1、段落番号〔0042〕〜〔0048〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1では、ニトロキシルラジカル化合物等の有機ラジカル化合物を電極活物質に使用しているものの、充放電反応は、1つの電子のみが関与する1電子反応に限定されている。すなわち、有機ラジカル化合物の場合、2電子以上の電子が関与する多電子反応を起こさせると、ラジカルが安定性を欠いて分解等が生じ、ラジカルが消失して充放電反応の可逆性が失われる。このため、特許文献1の有機ラジカル化合物では、1電子反応に限定せざるを得ず、高容量が期待できる多電子反応を実現するのは困難である。
【0016】
また、特許文献2は、正極活物質に前記フェナントレンキノン化合物を含有した電極活物質を使用しているものの、酸化還元状態での安定性が十分ではなく、容量も不足しているため、未だ実用化には至っていないのが現状である。
【0017】
さらに、特許文献3は、正極活物質に特定のチオール構造を含有した電極活物質を使用しているものの、特許文献2と同様、酸化還元状態での安定性が十分ではなく、容量も不足しているため、未だ実用化には至っていないのが現状である。
【0018】
このように特許文献1〜3のような従来の二次電池では、有機ラジカル化合物やフェナントレンキノン化合物、特定のチオール構造を有する化合物を電極活物質に使用したとしても、多電子反応による高容量化と充放電サイクルに対する安定性を両立させることは難しく、したがって、未だ十分に大きなエネルギー密度を有し、高出力でサイクル特性が良好、かつ長寿命の電極活物質を実現できていないのが現状である。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、エネルギー密度が大きく高出力で、充放電を繰り返しても容量低下の少ないサイクル特性の良好な電極活物質及び二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、電池電極反応によって充放電を繰り返す二次電池の活物質として使用できる有機化合物を得るべく鋭意研究したところ、2つ以上の不飽和五員環構造を構成単位中に含有する有機化合物は、多電子反応が可能である上に酸化還元反応の安定性にも優れ、少ない分子量で多くの電気量を充電することができるという知見を得た。
【0021】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る電極活物質は電池電極反応によって充放電を繰り返す二次電池の活物質として使用される電極活物質であって、2つ以上の不飽和五員環構造を構成単位中に含有する有機化合物を有していることを特徴としている。
【0022】
本発明の電極活物質は、具体的には、前記有機化合物が、一般式
【0023】
【化4】

【0024】
(ただし、式中、R、Rは、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アルキルアミノ基、チオアリール基、チオアルキル基、複素環基、ホルミル基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、及びハロゲン原子の少なくともいずれか1種を示し、互いに連結して飽和若しくは不飽和の環を形成する場合を含む。X、XはCH、CF、O、S、SO、Se、及びN−R(Rは水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アルキルアミノ基、チオアリール基、チオアルキル基、複素環基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基及びハロゲン原子のうちの少なくとも1種を示す。)を示し、互いに連結して飽和若しくは不飽和の環を形成する場合を含む。)
で表わされる不飽和五員環構造を含有していることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の電極活物質は、前記有機化合物が、一般式
【0026】
【化5】

【0027】
(ただし、nは2〜50の整数である。)
で表わされることを特徴としている。
【0028】
本発明の電極活物質は、前記有機化合物が、一般式
【0029】
【化6】

【0030】
(ただし、pは1〜50の整数であり、qは2〜50の整数である。)
で表わされることを特徴としている。
【0031】
また、本発明の電極活物質は、前記pが偶数であることを特徴としている。
【0032】
さらに、本発明の電極活物質は、前記pと前記qの総計が偶数であることを特徴としている。
【0033】
また、本発明に係る二次電池は、上述したいずれかに記載の電極活物質が、前記電池電極反応の少なくとも放電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちのいずれかに含まれることを特徴としている。
【0034】
また、本発明の二次電池は、正極、負極、及び電解質を有し、前記正極が、前記電極活物質を有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0035】
本発明の電極活物質によれば、2つ以上の不飽和五員環構造を構成単位中に含有する有機化合物を有しているので、多電子反応が可能である上に酸化還元反応に対する安定性にも優れ、少ない分子量で高容量密度のサイクル特性が良好な電極活物質を得ることができる。
【0036】
また、本発明の二次電池によれば、上記電極活物質が、電池電極反応の少なくとも放電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちのいずれかに含まれるので、多電子反応と充放電サイクルに対する安定性を両立させることができ、エネルギー密度が大きく高出力で、充放電を繰り返しても容量低下の少ないサイクル特性の良好な長寿命の二次電池を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る二次電池としてのコイン型電池の一実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0039】
本発明の電極活物質は、2つ以上の不飽和五員環構造を構成単位中に含有する有機化合物を有している。そしてこれにより2電子以上の多電子反応が可能である上、酸化還元反応の安定性を向上させることができ、エネルギー密度が大きく、安定性に優れた二次電池を得ることができる。
【0040】
前記不飽和五員環構造は、一般式(1)で表わすことができる。
【0041】
【化7】

【0042】
ここで、R、Rは、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アルキルアミノ基、チオアリール基、チオアルキル基、複素環基、ホルミル基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、及びハロゲン原子の少なくともいずれか1種を示し、互いに連結して飽和若しくは不飽和の環を形成する場合を含む。また、X、XはCH、CF、O、S、SO、Se、及びN−R(Rは水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アルキルアミノ基、チオアリール基、チオアルキル基、複素環基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基及びハロゲン原子のうちの少なくとも1種を示す。)を示し、互いに連結して飽和若しくは不飽和の環を形成する場合を含んでいる。
【0043】
尚、R、R及びRの炭素数を50以下としたのは、これらR、R及びRの炭素数が50を超えると、分子量が過度に増大し、容量密度の低下を招くおそれがあるからである。
【0044】
そして、上記一般式(1)の範疇に含まれる不飽和五員環構造としては、例えば化学式(1A)〜(1E)で表わされる置換基を挙げることができる。
【0045】
【化8】

【0046】
そして、上記一般式(1)を含有した有機化合物としては、例えば、一般式(2)で示される物質が挙げられる。
【0047】
【化9】

【0048】
ここで、nは2〜50の整数が好ましい。すなわち、nが1の場合は充放電反応時に複数のカチオンを生成させるのが困難となり、多電子反応が生じないおそれがある。一方、nが50を超えると、分子量が過度に増大し、容量密度の低下を招くおそれがある。
【0049】
そして、一般式(2)の範疇に属する有機化合物としては、環状構造を有する化学式(2A)〜(2J)に示す有機化合物を挙げることができる。
【0050】
【化10】

【0051】
【化11】

【0052】
【化12】

【0053】
また、上記一般式(1)を含有した有機化合物としては、一般式(3)で示される物質を挙げることもできる。
【0054】
【化13】

【0055】
ここで、pは1〜50の整数、qは2〜50の整数が好ましい。尚、p、qを50以下としたのは、p、qが50を超えると、分子量が過度に増大し、容量密度の低下を招くおそれがあるからである。また、qを2以上の整数としたのは、上述したnの場合と同様(一般式(2)参照)、充放電反応時に複数のカチオンを生成させるのが困難となり、多電子反応が生じないおそれがあるからである。
【0056】
また、少なくともpは偶数であるのが好ましく、より好ましくはpとqの総計が偶数であるのが望ましい。これは少なくともpを偶数、より好ましくはpとqの総計を偶数とすることにより、有機化合物が共鳴構造となって安定化するからである。
【0057】
そして、上記一般式(3)の範疇に属する有機化合物としては、環状モノオン構造を有する化学式(3A)〜(3K)で表わされる有機化合物や、環状ジオン構造を有する化学式(3A′)〜(3P′)で表わされる有機化合物を挙げることができる。
【0058】
【化14】

【0059】
【化15】

【0060】
【化16】

【0061】
【化17】

【0062】
【化18】

【0063】
【化19】

【0064】
【化20】

【0065】
上記電極活物質は、電気化学的な酸化反応により、カチオンが生成するものと考えられる。
【0066】
化学反応式(4)は、化学式(3A)で示された2,3,4,5-テトラキス[1,3-ジチオール-2-イリデン]シクロペンタノンの予想される充放電反応の一例を示している。
【0067】
【化21】

【0068】
このように2,3,4,5-テトラキス[1,3-ジチオール-2-イリデン]シクロペンタノン(I)の一分子が4個の電子と反応して(II)で示すカチオンを生成するので、一電子反応の場合に比べ容量密度を大きくすることができる。
【0069】
尚、上記電極活物質を構成する有機化合物の分子量は、特に限定されないが、不飽和五員環構造以外の部分が大きくなると単位質量あたりに蓄電できる容量、すなわち容量密度が小さくなる。不飽和五員環構造を構成単位中に有する有機化合物の重合体として利用する場合には分子量や分子量分布は特に限定されない。
【0070】
次に、前記電極活物質を使用した二次電池について記述する。
【0071】
図1は、本発明に係る二次電池の一実施の形態としてのコイン型二次電池を示す断面図であって、本実施の形態では、本発明の電極活物質を正極活物質として使用している。
【0072】
電池缶1は、正極ケース2と負極ケース3とを有し、該正極ケース2及び負極ケース3は、いずれも円盤状の薄板形状に形成されている。正極集電体を構成する正極ケース2の底部中央には、電極活物質をシート状に成型した正極4が配されている。そして、正極4上には微多孔膜、織布、不織布などの多孔性のシートまたはフィルムで形成されたセパレータ5が積層され、さらにセパレータ5には負極6が積層されている。負極6としては、例えば、銅箔にリチウムの金属箔を重ね合わせたものや、黒鉛やハードカーボン等のリチウム吸蔵材料を銅箔に塗布したものを使用することができる。負極6には金属からなる負極集電体7が積層されるとともに、該負極集電体7には金属製ばね8が載置されている。そして、電解質9が内部空間に充填されると共に、負極ケース3は金属製ばね8の付勢力に抗して正極ケース2に固着され、ガスケット10を介して封止されている。
【0073】
次に、上記二次電池の製造方法の一例を詳述する。
【0074】
まず、電極活物質を電極形状に形成する。例えば、電極活物質を導電補助剤、及び結着剤と共に混合し、溶媒を加えてスラリーとし、該スラリーを正極集電体上に任意の塗工方法で塗工し、乾燥することにより正極を形成する。
【0075】
ここで、導電補助剤としては、特に限定されるものでなく、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等の炭素繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子などを使用することができる。また、導電補助剤を2種類以上混合して用いることもできる。尚、導電補助剤の正極4中の含有率は10〜80質量%が望ましい。
【0076】
また、結着剤も特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース等の各種樹脂を使用することができる。
【0077】
さらに、溶媒についても、特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等の塩基性溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、アセトン等の非水溶媒、メタノール、エタノール等のプロトン性溶媒、さらには水等を使用することができる。
【0078】
また、有機溶剤の種類、有機化合物と有機溶剤との配合比、添加剤の種類とその添加量等は、二次電池の要求特性や生産性等を考慮し、任意に設定することができる。次いで、この正極4を電解質9に含浸させて該正極4に前記電解質9を染み込ませ、その後、正極集電体を構成する正極ケース2の底部中央の正極4を載置する。次いで、前記電解質9を含浸させたセパレータ5を正極4上に積層し、さらに負極6及び負極集電体7を順次積層し、その後内部空間に電解質9を注入する。そして、負極集電体7上に金属製ばね8を載置すると共に、ガスケット10を周縁に配し、かしめ機等で負極ケース3を正極ケース2に固着して外装封止し、これによりコイン型二次電池が作製される。
【0079】
尚、上記電解質9は、正極(電極活物質)4と対向電極である負極6との間に介在して両電極間の荷電担体輸送を行うが、このような電解質9としては、室温で10−5〜10−1S/cmのイオン伝導度を有するものを使用することができ、例えば、電解質塩を有機溶剤に溶解させた電解液を使用することができる。
【0080】
ここで、電解質塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiCSO3、Li(CFSON、Li(CSON、Li(CFSOC、Li(CSOC等を使用することができる。
【0081】
また、有機溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ一ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン等を使用することができる。
【0082】
また、電解質9には、固体電解質を使用してもよい。固体電解質に用いられる高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリロニトリル系重合体、さらにはポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体、及びこれらのアクリレート体やメタクリレート体の重合体等を挙げることができる。また、これらの高分子化合物に電解液を含ませてゲル状にしたものを電解質9として使用したり、或いは電解質塩を含有させた高分子化合物のみをそのまま電解質9に使用してもよい。
【0083】
二次電池の電極活物質は、充放電により可逆的に酸化もしくは還元されるため、充電状態、放電状態、あるいはその途中の状態で異なる構造、状態を取るが、本実施の形態では、前記電極活物質は、少なくとも放電反応における反応出発物(電池電極反応で化学反応を起こす物質)、生成物(化学反応の結果生じる物質)、及び中間生成物のうちのいずれかに含まれている。
【0084】
このように本実施の形態によれば、多電子反応する上記電極活物質を使用して二次電池を構成しているので、エネルギー密度が大きく、安定性に優れた二次電池を得ることができる。
【0085】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。例えば、電極活物質の主体となる有機化合物についても、上記列挙した化学式(2A)〜(2J)、(3A)〜(3K)、(3A′)〜(3P′)はその一例であって、これらに限定されるものではない。すなわち、少なくとも不飽和五員環構造を構成単位中に含有していれば、化学反応式(4)と略同様の電池電極反応が進行し、エネルギー密度が大きく、安定性に優れた所望の二次電池を得ることが可能である。
【0086】
また、本実施の形態では、コイン型二次電池について説明したが、電池形状は特に限定されるものでないのはいうまでもなく、円筒型、角型、シート型等にも適用できる。また、外装方法も特に限定されず、金属ケースや、モールド樹脂、アルミラミネートフィルム等を使用してもよい。
【0087】
また、本実施の形態では、不飽和五員環構造を構成単位中に有する有機化合物を正極活物質に使用したが、負極活物質に使用するのも有用である。
【0088】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0089】
〔有機化合物の合成〕
下記の合成スキーム(A)に従い、2,3,4,5-テトラキス[1,3-ジチオール-2-イリデン]シクロペンタノン(以下、「合成物A」という。)を合成した。
【0090】
【化22】

【0091】
すなわち、化合物(3A)(4.62g、10.0mmol)をジクロロメタン(CHCl)150mLに溶解し、N−ブロモスクシンイミド(以下、「NBS」という。)(3.56g、20mmol)を加えた。そして、室温にて2時間反応させ、化合物(3A)を6.18g作製した。尚、収率は100%であった。
【0092】
次に、Ni[P(CBr(595mg、0.80mmol)、(CP(423mg、1.6mmol)、Zn−Cu(1.31g、20mmol)を不活性ガス雰囲気下で80mLのテトラヒドロフラン(以下、「THF」という。)に溶解させ触媒を調製した。次いで、CO雰囲気下で撹拌しながら化合物(3A)のTHF溶液を80mL加え、6時間撹拌を行い、1.45gの化合物(3A)を得た。
【0093】
次に、化合物(3A)(475mg、0.5mmol)とLiBr・HO(2.10g、20mmol)を70mLのヘキサメチルリン酸トリアミド[(CHN]P=O)(HMPA)に溶解させ、12時間加熱撹拌を行った。そして、反応溶液を室温まで冷やし、200mLの純水に投入して析出物をろ別し、減圧乾燥を行って赤褐色の合成物(3A)を作製した。
【0094】
〔二次電池の作製〕
上記合成物A:100mg、導電補助剤としてのグラファイト粉末:200mg、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン樹脂:100mgをそれぞれ秤量し、全体が均一になるように混合しながら混練し、混合物を得た。そして、この混合体を加圧成形し、厚さ約150μmのシート状部材を作製した。
【0095】
次に、このシート状部材を、真空中80℃で1時間乾燥した後、直径12mmの円形に打ち抜き、合成物Aを主体とする正極(正極活物質)を作製した。次に、この正極を電解液に含浸し、該正極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、モル濃度が1.0mol/LのLiPF(電解質塩)を含有した有機溶剤であるエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液を使用した。尚、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネートの混合比率は、体積%でエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7とした。
【0096】
次に、この正極を正極集電体上に載置し、前記電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムからなる厚さ20μmのセパレータを前記正極上に積層し、さらに銅箔の両面にリチウムを貼布した負極をセパレータ上に積層した。
【0097】
次いで、負極上にCu製の負極集電体を積層した後、内部空間に電解液を注入した。その後負極集電体上に金属製ばねを載置すると共に、周縁にガスケットを配置した状態で負極ケースを正極ケースに接合し、かしめ機によって外装封止した。そしてこれにより、正極活物質として合成物A、負極活物質として金属リチウムを有する密閉型のコイン型電池を作製した。
【0098】
〔二次電池の動作確認〕
以上のように作製した二次電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.2Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で1.5Vまで放電した。その結果、充放電電圧が3.6V及び3.2Vの2箇所で電圧平坦部を有し、放電容量が0.2mAhの二次電池であることが確認された。この容量から電極活物質当たりの容量密度を計算したところ、210Ah/kgであった。
【0099】
一方、二次電池の理論容量密度Q(Ah/kg)は、数式(1)で表わされる。
【0100】
【数1】

【0101】
ここで、Zは電池電極反応に関与した電子数、Wは電極活物質の分子量である。
【0102】
合成物Aの分子量は484.8であるから、電池電極反応に関与する電子数Zを4とすると、数式(1)より理論容量密度は221Ah/kgとなる。したがって、合成物Aは、構成単位当たり少なくとも4電子以上が関与する多電子反応をしていることが確認された。
【0103】
その後、上記二次電池について、4.2〜1.5Vの範囲で充放電を繰り返したところ、10サイクル後においても初期の80%以上の容量を確保することができた。すなわち、充放電を繰り返しても容量低下の少ない安定性に優れた二次電池を得ることができることが分かった。
【0104】
また、同様に作製した二次電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電した後、電圧を印加したまま保持し、168時間後に0.1mAの定電流で放電した。その結果、放電容量は充電後すぐに放電した場合に比べて減少したが、80%以上を維持することができた。すなわち、自己放電の少ない安定性に優れた二次電池を得ることができた。
【実施例2】
【0105】
〔有機化合物の合成〕
下記の合成スキーム(B)に従い、テトラキス[1,3-ベンゾジチオール−2−イリデン]シクロペンタノン(以下、「合成物B」という。)を合成した。
【0106】
【化23】

【0107】
すなわち、化合物(3G)(990mg、3.0mmol)をジクロロメタン120mLに溶解し、NBS(1.07g、6.0mmol)を加えた。そして、室温にて2時間反応させ、化合物(3G)を1.30g作製した。尚、収率は89%であった。
【0108】
次に、Ni[P(CBr(223mg、0.30mmol)、(CP(157mg、0.60mmol)、Zn−Cu(493mg、7.6mmol)を不活性ガス雰囲気下で40mLのTHFに溶解させ触媒を調製した。次いで、CO雰囲気下で撹拌しながら化合物(3G)のTHF溶液を20mL加え、6時間撹拌を行い、暗褐色の化合物(3G)を430mg得た。
【0109】
〔二次電池の作製〕
上記合成物Bを正極活物質に使用した以外は、〔実施例1〕と同様の方法で二次電池を作製した。
【0110】
〔二次電池の動作確認〕
以上のように作製した二次電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.2Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で1.5Vまで放電した。その結果、充放電電圧が4.0V及び3.3Vの2箇所で電圧平坦部を有し、放電容量が0.22mAhの二次電池であることが確認された。この容量から電極活物質当たりの容量密度を計算したところ、150Ah/kgであった。
【0111】
一方、合成物Bの分子量は685.0であるから、電池電極反応に関与する電子数Zを4とすると、理論容量密度は156Ah/kgとなる。したがって、合成物Bは構成単位当たり少なくとも4電子以上が関与する多電子反応をしていることが確認された。
【0112】
その後、上記二次電池について、4.2〜1.5Vの範囲で充放電を繰り返したところ、10サイクル後においても初期の80%以上の容量を確保することができた。すなわち、充放電を繰り返しても容量低下の少ない安定性に優れた二次電池を得ることのできることが分かった。
【0113】
また、同様に作製した二次電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電した後、電圧を印加したまま保持し、168時間後に0.1mAの定電流で放電した。その結果、放電容量は充電後すぐに放電した場合に比べて減少したが、80%以上を維持することができた。すなわち、自己放電の少ない安定性に優れた二次電池を得ることができた。
【比較例】
【0114】
関東化学社製、シクロペンタノンを80℃で30分間減圧乾燥し、電極活物質とした。
【0115】
[二次電池の作製]
正極活物質にシクロペンタノンを使用した以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0116】
[二次電池の動作確認]
以上のように作製した二次電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.2Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で1.8Vまで放電したところ、電圧平坦部が存在せずに電圧が低下した。したがって二次電池としては適していないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
エネルギー密度が大きく高出力で、充放電を繰り返しても容量低下の少ないサイクル特性が良好で安定した二次電池を実現する。
【符号の説明】
【0118】
4 正極
6 負極
9 電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池電極反応によって充放電を繰り返す二次電池の活物質として使用される電極活物質であって、
2つ以上の不飽和五員環構造を構成単位中に含有した有機化合物を有していることを特徴とする電極活物質。
【請求項2】
前記有機化合物は、一般式
【化1】

(ただし、式中、R、Rは、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アルキルアミノ基、チオアリール基、チオアルキル基、複素環基、ホルミル基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、及びハロゲン原子の少なくともいずれか1種を示し、互いに連結して飽和若しくは不飽和の環を形成する場合を含む。X、XはCH、CF、O、S、SO、Se、及びN−R(Rは水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アルキルアミノ基、チオアリール基、チオアルキル基、複素環基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基及びハロゲン原子のうちの少なくとも1種を示す。)を示し、互いに連結して飽和若しくは不飽和の環を形成する場合を含む。)
で表わされる不飽和五員環構造を含有していることを特徴とする請求項1記載の電極活物質。
【請求項3】
前記有機化合物は、一般式
【化2】

(ただし、nは2〜50の整数である。)
で表わされることを特徴とする請求項2記載の電極活物質。
【請求項4】
前記有機化合物は、一般式
【化3】

(ただし、pは1〜50の整数であり、qは2〜50の整数である。)
で表わされることを特徴とする請求項2記載の電極活物質。
【請求項5】
前記pは、偶数であることを特徴とする請求項4記載の電極活物質。
【請求項6】
前記pと前記qの総計は、偶数であることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の電極活物質。
【請求項7】
前記請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電極活物質が、前記電池電極反応の少なくとも放電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちのいずれかに含まれることを特徴とする二次電池。
【請求項8】
正極、負極、及び電解質を有し、前記正極が、前記電極活物質を有していることを特徴とする請求項7記載の二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−228050(P2011−228050A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95076(P2010−95076)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000134637)株式会社ナード研究所 (31)
【Fターム(参考)】