説明

電歪高分子材料とその製造方法、及び電子部品

【課題】低電界の印加で所望の歪み量を得ることができ、残留分極の増加も抑制でき、かつ歪みが発生した場合に大きな力を得ることができ、絶縁耐力にも優れた電歪高分子材料とその製造方法、及び電子部品を実現する。
【解決手段】フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンとの重合比が97/3〜94/6とされたシート状の共重合体からなり、延伸倍率が1.5〜2.5倍となるように前記共重合体が所定方向に延伸処理されている。ヤング率は、好ましくは1GPa以上である。上記電歪高分子材料は、共重合体を作製した後、該共重合体を溶媒中に溶解させて溶解液を作製し、その後、該溶解液をシート状に成形加工して成形体を作製し、該成形体を所定方向に1.5〜2.5倍延伸させることにより製造することができる。第1及び第2の素子本体2a、2bが上記電歪高分子材料で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電歪高分子材料とその製造方法、及び電子部品に関し、より詳しくは、人工筋肉等の使用に適した電歪高分子材料とその製造方法、及び前記電歪高分子材料を使用した電歪アクチュエータ等の電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工筋肉は、ロボット、介護機器、リハビリ機器等への応用が注目されており、盛んに研究されているが、この種の人工筋肉材料は、低電界の印加で所望の歪み量を得ることができ、かつ、歪みが発生したときに容易には弾性変形しない剛性の高い材料が望まれる。
【0003】
このような状況下、電歪材料は、電界強度の二乗に比例する歪みが生じることから、低電界の印加で大きな歪み量を得ることが可能と考えられる。その中でも電歪高分子材料は、小型・軽量化が可能であることから、人工筋肉への応用が期待されている。
【0004】
そして、非特許文献1には、フッ化ビニリデン(vinylidene fluoride;以下、「VDF」という。) とクロロトリフルオロエチレン(chlorotrifluoroethylene;以下、「CTFE」という。)との重合比が88/12の共重合体、すなわちpoly(VDF−CTFE)(以下、「P(VDF−CTFE)」という。)からなる電歪高分子材料が記載されている。
【0005】
この非特許文献1では、歪み量が印加電界の略二乗に比例して直線的に増加し、250MV/mの電界を印加した場合の電歪による歪み量が5.5%であり、かつ820MPaのヤング率を有する電歪高分子材料が記載されている。ここで、歪み量は、歪み前の原材料の全長に対する歪みを百分率で表記したものであり、例えば、1mmの全長に対し、電界が印加されて1μm歪むと歪み量は0.1%(=1/1000×100)ということになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Qiming Zhang, Zhongyang Chang, “Electropolymers for Mechtronics and Artificial Muscles”,Handbook of Organics and Photonics, volume 0, アメリカ合衆国、American Scientific Publishers, 2006, p.35-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1は、250MV/mの高電界を印加した場合に歪み量が5.5%の高分子材料を得ることができるものの、ヤング率(縦弾性係数)が820MPa程度と低い。すなわち、歪が発生して大きく変位しても、ヤング率が低く、比較的小さな応力負荷で容易に弾性変形する。このため歪みが発生したときに大きな力を発揮することができず、人工筋肉用の電歪高分子材料としては、未だ不十分である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、低電界の印加で所望の歪み量を得ることができ、残留分極も小さく、かつ歪みが発生した場合に大きな力を安定的に得ることができ、絶縁耐力にも優れた電歪高分子材料とその製造方法、及び電歪アクチュエータ等の電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
電歪材料の場合、歪ませるためには分極させる必要があるが、抗電界が低いと低電界での印加で分極させることができる。したがって、抗電界は低いのが望ましい。また、印加電界が「0」の状態における残留歪みは極力小さいのが望ましく、したがって、延伸させても残留分極が小さいのが望まれる。
【0010】
一方、PVDFは強誘電性を有する圧電材料として知られており、該PVDFをシート状に延伸させることにより、常誘電相(β相)から強誘電相(α相)に転移する。
【0011】
しかしながら、PVDF単独では、延伸させた場合に残留分極が増加する傾向にあり、しかも電歪定数が低いため、所望の大きな歪み量を得ようとした場合、斯かる歪み量を得る前に素子が破壊されてしまうおそれがある。
【0012】
そこで、本発明者が鋭意研究を行なったところ、VDF中に重合比で4〜6%のCTFEを含ませて共重合体を作製し、この共重合体を所定の延伸倍率で延伸させることにより、延伸前に比べて残留分極が増加するのを抑制でき、しかも素子が破壊されることなく所望の大きな歪み量を得ることができるという知見を得た。しかも、低電界で歪ませることができ、ヤング率も大きく、歪みが発生して大きく変位した場合であっても、剛性が高く容易には弾性変形しない大きな力を得ることができ、かつ絶縁耐力の優れた電歪高分子材料を得ることができるという知見も併せて得た。
【0013】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る電歪高分子材料は、VDFとCTFEとの重合比が97/3〜94/6とされたシート状の共重合体からなり、延伸倍率が1.5〜2.5倍となるように前記共重合体が所定方向に延伸処理されていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の電歪高分子材料は、ヤング率が1GPa以上であることを特徴としている。
【0015】
さらに、本発明に係る電歪高分子材料の製造方法は、VDFとCTFEとの重合比が97/3〜94/6に調製された共重合体を作製し、該共重合体を溶媒中に溶解させて溶解液を作製した後、該溶解液をシート状に成形加工して成形体を作製し、該成形体を所定方向に1.5〜2.5倍延伸させたことを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る電子部品は、上記電歪高分子材料が使用されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電歪高分子材料によれば、VDFとCTFEとの重合比が97/3〜94/6とされたシート状の共重合体からなり、延伸倍率が1.5〜2.5倍となるように前記共重合体が所定方向に延伸処理されているので、低電界の印加で所望の歪み量を得ることができ、残留分極の増加を抑制でき、しかもヤング率が大きく、歪みが生じても大きな力を発揮でき、かつ絶縁耐力の優れた電歪高分子材料を得ることができる。
【0018】
また、ヤング率が1GPa以上であるので、大きな歪みが生じても応力負荷に対し容易には弾性変形しない剛性の高い電歪高分子材料を得ることができる。
【0019】
本発明の電歪高分子材料の製造方法によれば、VDFとCTFEとの重合比が97/3〜94/6に調製された共重合体を作製し、該共重合体を溶媒中に溶解させて溶解液を作製した後、該溶解液をシート状に成形加工して成形体を作製し、該成形体を所定方向に1.5〜2.5倍延伸させたので、延伸前に強誘電体とすることができ、さらに延伸させることにより、より強誘電性の優れた電歪高分子材料を得ることができる。
【0020】
また、本発明の電子部品によれば、上記電歪高分子材料が使用されているので、低電界の印加で所望の歪み量を有し、しかも歪んだときにも大きな力を発揮でき、かつ良好な絶縁耐力を有する人工筋肉等の用途に適した電歪アクチュエータ等の電子部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る電歪高分子材料を使用して製造された電子部品としての電歪アクチュエータの一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例1における電歪高分子材料の平面図である。
【図3】試料番号1におけるP(VDF−CTFE)の2倍延伸後のDEヒステリシス曲線を延伸前のDEヒステリシス曲線と共に示した特性図である。
【図4】試料番号2におけるPVDFの2倍延伸後のDEヒステリシス曲線を延伸前のDEヒステリシス曲線と共に示した特性図である。
【図5】実施例2で作製した変位測定用試料の正面図である。
【図6】図5の変位測定用試料の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0023】
図1は本発明に係る電歪高分子材料を使用して製造された電子部品としての電歪アクチュエータの一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【0024】
この電歪アクチュエータ1は、第1の素子本体2aの上下両面にはPt、Ni、Au等からなる電極3a、3bが形成されると共に、第1の素子素体2aの下面には電極3bを挟むような形態で第2の素子本体2bが貼着されている。
【0025】
また、電歪アクチュエータ1は、基端が支持部材4で支持されており、電極3a、3bに電圧を印加することにより、先端が電歪効果によって矢印X方向に変位するように構成されている。
【0026】
そして、上記第1及び第2の素子本体2a、2bは、本発明の電歪高分子材料で形成されている。
【0027】
すなわち、上記電歪高分子材料は、化学式(A)で表されるVDFと化学式(B)で表されるCTFEの重合比が97/3〜94/6となるように調製されたシート状の共重合体で形成されている。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
ここで、VDFとCTFEとの重合比を97/3〜94/6としたのは以下の理由による。
【0031】
VDFの重合体であるPVDFは、シート状に延伸させることにより、常誘電体相(α相)から強誘電体相(β相)に転移し、強誘電体材料となる。
【0032】
しかしながら、PVDF単独では、延伸処理を行った場合、延伸前のPVDFに比べ、抗電界Ecは略同等に低下させることはできるが、残留分極Prが大きくなり、したがって残留歪みが大きくなる。しかも、PVDF単独では電歪定数が低く、電界を印加していった場合、所望の歪み量が得られる前に素子が破壊されてしまうおそれがある。
【0033】
しかるに、本発明者が鋭意研究を行なったところ、VDFに粘弾性の高いCTFEを混合させて共重合体を生成することにより、抗電界Ecを低く維持しつつ残留分極Prを延伸前と同程度に抑制できることが分かった。
【0034】
そこで、本電歪高分子材料は、VDFにCTFEを混合させた共重合体、すなわちP(VDF−CTFE)で構成している。
【0035】
ただし、延伸による残留分極Prの増加を抑制し、所望の電歪定数を確保するためには、CTFEの含有量は、重合比で少なくとも3%以上は必要である。
【0036】
一方、CTFEを重合比で6%以上含ませると、粘弾性が過度に高くなってヤング率が1GPa未満に低下し、かつ耐電圧が大幅に低下する。
【0037】
そこで、本実施の形態では、VDFとCTFEの重合比が97/3〜94/6となるように調製したシート状の共重合体を使用している。
【0038】
また、前記共重合体は、数式(1)で示す延伸倍率Zが、1.5〜2.5倍となるように所定方向に延伸処理されている。
【0039】
Z=x/x …(1)
ここで、xは延伸前のシート長、xは延伸後のシート長である。
【0040】
すなわち、上述したようにVDFとCTFEの重合比が97/3〜94/6からなるシート状の共重合体を延伸させることにより、残留分極が小さくヤング率の大きな強誘電体材料を得ることができる。
【0041】
しかしながら、延伸倍率Zが1.5倍未満の場合は、十分な強誘電性を得ることができず、電界を印加していった場合、所望の歪み量を得る前に素子が破壊されてしまうおそれがある。一方、延伸倍率Zが2.5倍を超えると、シートに薄肉化箇所が生じ、高電界での絶縁性を確保するのが困難になるおそれがある。
【0042】
そこで、本実施の形態では延伸倍率Zが1.5〜2.5倍となるように延伸処理している。
【0043】
このように本実施の形態では、電歪高分子材料が、VDFとCTFEとの重合比が97/3〜94/6とされたシート状の共重合体からなり、延伸倍率が1.5〜2.5倍となるように前記共重合体が所定方向に延伸処理されているので、抗電界が低く、延伸前に比べて残留分極の増加が抑制され、かつヤング率が大きく絶縁耐力に優れた電歪高分子材料を得ることができ、これにより大振幅による所望の電歪特性を有する電歪アクチュエータを得ることが可能となる。
【0044】
そして、この電歪高分子材料は、以下のようにして製造することができる。
【0045】
まず、VDFとCTFEとの重合比が97/3〜94/6に調製された共重合体P(VDF−CTFE)を作製する。次いで、この共重合体が10〜20重量%となるように、エアモータ等の撹拌機を使用して溶剤中に溶解させ、溶解液を作製する。
【0046】
ここで、溶剤としては特に限定されるものではないが、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)やN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等を好んで使用することができる。
【0047】
次に、ドクターブレード法等を使用して、この溶解液を成形加工し、所定厚み(例えば、10〜20μm)のシート状の成形体を作製し、乾燥させる。
【0048】
その後、成形体の両端を所定冶具で保持し、1.5〜2.5倍の長さとなるように延伸させる。そしてこれにより、シート厚みが延伸前の約1/1.5〜1/2.5の長さの電歪高分子材料を製造することができる。
【0049】
このように上記電歪高分子材料は、所定重合比の共重合体P(VDF−CTFE)を溶媒中に溶解させ、その後シート成形した成形体を1.5〜2.5倍の長さとなるように延伸させているので、延伸前の段階で強誘電体とすることができ、さらに延伸させることにより、より強誘電性が向上した電歪高分子材料を得ることができる。
【0050】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。電歪高分子材料の分子量についても、特に限定されるものではなく、例えば、20万〜60万の分子量の共重合体P(VDF−CTFE)を好んで使用することができる。また、上記実施の形態では、電子部品として電歪アクチュエータを例示したが、その他のチップ型電歪部品も同様に適用可能であるのはいうまでもない。
【実施例1】
【0051】
〔試料の作製〕
VDFとCTFEとの重合比が96/4に調製されたP(VDF−CTFE)からなる共重合体を用意した。
【0052】
そして、P(VDF−CTFE)が10〜20重量%となるように、P(VDF−CTFE)をDMF中にエアモータを使用して数時間溶解させ、溶解液を得た。
【0053】
次いで、ドクターブレード法を使用し、厚みが10〜20μmの成形体を作製し、70℃の温度で乾燥させた。
【0054】
次に、得られた成形体を所定寸法に切断し、その後、両端を保持し、110℃の加熱下、成形体寸法の2倍の長さとなるように水平横方向に延伸させ、これにより試料番号1の電歪高分子材料を得た。
【0055】
尚、この電歪高分子材料の厚みは、前記成形体の厚みの約1/2、すなわち5〜10μmであった。
【0056】
次いで、図2に示すように、試料番号1の電歪高分子材料11を長さL1が30mm、幅Wが20mmとなるように切断し、端面からの距離tが2mmとなるように、スパッタ法で電歪高分子材料11の上下両面にPt電極12を形成した。
【0057】
また、比較例として、P(VDF−CTFE)に代えてPVDF単独を使用した以外は、試料番号1と同様の方法・手順で、試料番号2の電歪高分子材料を作製した。
【0058】
〔試料の評価〕
試料番号1及び2について、東陽テクニカ社製FCE−1型を使用し、延伸前と2倍延伸後のDEヒステリシス曲線を測定した。
【0059】
図3は試料番号1のDEヒステリシス曲線を示している。図中、実線が2倍延伸後試料であり、破線が延伸前試料である。また、Pr1、Pr1′はそれぞれ2倍延伸後試料及び延伸前試料の残留分極、Ec1、Ec1′はそれぞれ2倍延伸後試料及び延伸前試料の抗電界である。
【0060】
また、図4は試料番号2のDEヒステリシス曲線を示している。図中、実線が2倍延伸後の試料であり、破線が延伸前の試料である。また、Pr2、Pr2′はそれぞれ2倍延伸後試料及び延伸前試料の残留分極、Ec2、Ec2′はそれぞれ2倍延伸後試料及び延伸前試料の抗電界である。
【0061】
図4から明らかなように、2倍延伸後試料の抗電界Ec2は、約85MV/mであり、延伸前試料の抗電界Ec2′(≒120MV/m)に比べ、小さくなっているが、2倍延伸後試料の残留分極Pr2は延伸前試料の残留分極P2′に比べて増加しており、残留歪みが延伸前に比べ大きくなると考えられる。
【0062】
これに対し試料番号1は、図3から明らかなように、抗電界に関しては、試料番号2と同様、2倍延伸後試料は約85MV/mと延伸前試料に比べて小さくなっており(Ec1<Ec1′)、しかも残留分極も延伸前試料に比べ、同等程度に抑制されている(Pr1≒Pr1′)。
【0063】
すなわち、試料番号1の試料は、試料番号2の試料に比べ、延伸処理を行うことにより、抗電界は略同等に小さくなり、かつ残留分極の増加も抑制されている。したがって低電界で歪ませることができ、かつ試料番号2の試料に比べ、残留歪みの小さい電歪高分子材料が得られることが分かった。
【0064】
また、試料番号1について、延伸前試料と2倍延伸後試料について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を使用し、強誘電体相(β相)と常誘電体相(α相)との比β/αを求めたところ、延伸前試料は2.0であったのに対し、2倍延伸後試料は12.6となり、延伸処理を行うことにより、強誘電性が大幅に向上することが分かった。
【0065】
尚、VDFとCTFEの重合比が80/20の共重合体を作製してDEヒステリシス曲線を測定しようとしたが、後述する実施例2から明らかなように、重合比を80/20にすると耐電圧が極端に低くなり、DEヒステリシス曲線を測定することができなかった。
【実施例2】
【0066】
試料番号1、2の共重合体について、〔実施例1〕に示した延伸前試料及び2倍延伸後試料に加え、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、延伸倍率が1.5倍及び2.5倍の試料を作製し、それぞれ試料番号11、12とした。
【0067】
また、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、VDFとCTFEの重合比が80/20の共重合体を作製し、延伸前試料、及び延伸倍率が1.5倍、2倍、2.5倍の試料を作製し、試料番号13とした。
【0068】
試料番号11〜13の各試料について、直流電圧を300V/sの昇圧速度で印加して耐電圧を測定した。
【0069】
また、試料番号11〜13のうち、延伸前試料及び2倍延伸後試料について、粘弾性計(レオメトリックサイエンス社製RSAIII)を使用し、ヤング率を測定した。
【0070】
さらに、試料番号11〜13のうち、延伸前試料及び2倍延伸後試料について、上下両面にPt電極12a、12bを形成した。
【0071】
一方、前記Pt電極が形成されていない延伸前試料及び2倍延伸後試料について、長さL2が25mm、幅Wが20mmに切断したシートを用意した。
【0072】
そして、図5及び図6に示すように、これらシート13をエポキシ樹脂14を介し、Pt電極12aが形成された表面に貼着し、シート13をインアクティブ層とする試料番号11〜13の各電歪アクチュエータを作製した。
【0073】
次いで、これら試料の長手方向の一方の端部を支持部材(不図示)で保持し、Pt電極12a、12bに電圧を印加して各試料を矢印B方向に歪ませる共に、レーザ変位計(キーエンス社製LK−GD500)を使用して矢印A方向にレーザ光を照射した。そしてこれにより歪み量が0.20%及び0.50%のときの印加電界を測定した。
【0074】
表1は各試料の測定結果である。
【0075】
【表1】

【0076】
試料番号12は、PVDF単独で形成されており、耐電圧は十分に大きいが、電歪定数が小さいため、歪み量が0.20%又は0.50%となる前に試料が破壊した。
【0077】
試料番号13は、CTFEの含有量が過剰であるため、耐電圧が極めて低く、歪み量が0.20%又は0.50%となる前に試料が破壊した。しかも、ヤング率も小さく、人工筋肉用の電歪材料には適さないことが分かった。
【0078】
これに対し試料番号11は、延伸処理を行うことによりヤング率は3.255GPaと延伸前(1.685GPa)に比べて飛躍的に向上し、かつ97.3MV/m及び111.9MV/mの電界を印加することにより、それぞれ歪み量が0.20%及び0.50%の電歪アクチュエータを得ることができ、破壊電界に対して十分に余裕のある印加電界で駆動できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
ロボット、介護機器、リハビリ機器等の人工筋肉用に有用である。
【符号の説明】
【0080】
2a 第1の素子本体(電歪高分子材料)
2b 第2の素子本体(電歪高分子材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンとの重合比が97/3〜94/6とされたシート状の共重合体からなり、
延伸倍率が1.5〜2.5倍となるように前記共重合体が所定方向に延伸処理されていることを特徴とする電歪高分子材料。
【請求項2】
ヤング率が1GPa以上であることを特徴とする請求項1記載の電歪高分子材料。
【請求項3】
フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンとの重合比が97/3〜94/6に調製された共重合体を作製し、該共重合体を溶媒中に溶解させて溶解液を作製した後、該溶解液をシート状に成形加工して成形体を作製し、該成形体を所定方向に1.5〜2.5倍延伸させたことを特徴とする電歪高分子材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の電歪高分子材料が使用されていることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−186849(P2010−186849A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29501(P2009−29501)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】