説明

電気かみそり

【課題】容易に製造し得る電気かみそりの可動内刃を提供することを課題とする。
【解決手段】固定外刃6と、固定外刃6の内面に摺接する可動内刃7とを備え、可動内刃7を、シート状の金属薄板9と、金属薄板9を逆U字状に保持するホルダー10とから構成し、金属薄板9は、電鋳法で形成したシート状の内刃ブランク27を、塑性加工を施して逆U字状に折り曲げて形成する。
【効果】可動内刃を電鋳加工により形成しているので、複雑な波形状で薄肉に形成することができるので、髭剃り時に好適な髭剃り音を発生させることができ、使用者の使用勝手を向上させることができると共に、加工時に生じる凹部に油等を溜めることができ、固定外刃との接触抵抗を低減してより良好な髭剃り動作を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気かみそりに関し、特にその可動内刃の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電気かみそりの可動内刃として、金属薄板を逆U字状に湾曲させ、湾曲部に開口部を形成し、開口部縁に刃部を形成したものが知られている。
【0003】
金属薄板に刃部を形成するには、エッチングによって加工する方法(特許文献1)と、予め形成された開口部に対して、刃部をエッチングや精密研磨で形成する方法がある。
【0004】
前者の場合は、刃部を含む全ての角部が鋭角になり、組み立て時等において危険なため、刃部以外の鋭角部は研磨等の後加工を施す必要がある。
【0005】
また、後者の場合は、予め金属薄板をプレス加工によって内刃の形状に打ち抜き、次にエッチングや精密研磨によって刃部を形成しなければならない。
【0006】
前者、後者のいずれの場合も、2つ以上の種類の異なる加工が必要であり、加工が複雑になる問題があった。
【0007】
また、エッチング行程において、ピンホールやオーバーエッチング等の不良は、検出が困難であり、これらの不良は、刃部を形成した金属薄板を逆U字状に湾曲させる際に折損する虞がある。従って、製造コストを抑えるための前提となる、高い歩留まりでの大量生産には大きな支障となるものであった。
【特許文献1】特開2004−329765
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、容易に製造し得る電気かみそりの可動内刃を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の手段は、固定外刃と、該固定外刃の内面に摺接する可動内刃とを備え、前記可動内刃を、シート状の金属薄板と、該金属薄板を逆U字状に保持するホルダーとから構成し、前記金属薄板は、電鋳法で形成したシート状の内刃ブランクを、塑性加工を施して逆U字状に曲げ形成したことを特徴とする。
【0010】
前記可動内刃の金属薄板は、電鋳法で形成したシート状の内刃ブランクを、逆U字状に湾曲した状態で加熱した後急冷させて逆U字状に形成することが好ましい。
【0011】
前記可動内刃の金属薄板は、髭を誘い込む開口部を形成して開口部縁を刃部とし、該刃部を波形状に形成することが好ましい。
【0012】
さらに、前記刃部に、のこぎり状の刃を形成することが好ましい。
【0013】
本発明の第2の手段は、固定外刃と、該固定外刃の内面に摺接する可動内刃とを備え、前記可動内刃を、シート状の金属薄板と、該金属薄板を逆U字状に保持するホルダーとから構成し、前記金属薄板は、曲面に形成された母材に電鋳加工することにより形成されたシート状の内刃ブランクにより構成したことを特徴とする。
【0014】
前記可動内刃の金属薄板は、髭を誘い込む開口部を形成して開口部縁を刃部とし、該刃部を波形状に形成することが好ましい。
【0015】
さらに、前記刃部に、のこぎり状の刃を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成によれば、可動内刃を電鋳加工により形成しているので、開口部(刃部)を複雑な形状に形成することができ、髭の逃げを防止して髭剃り性能を向上させることができると共に、強度、剛性を向上させて耐久性等を向上させることができる。また、薄肉に形成することができるので、髭剃り時に好適な髭剃り音を発生させることができ、使用者の使用勝手を向上させることができると共に、加工時に生じる凹部に油等を溜めることができ、固定外刃との接触抵抗をより低減してより良好な髭剃り動作を行うことができる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
【0018】
図1及び図2において、電気かみそりは、本体ケース1とその上部に設けたヘッド部2などを主な構造体としている。前記本体ケース1の前面には、モータ起動用のスイッチボタン3が配置されている。前記本体ケース1の上端部から、後述する2つの可動内刃7を横方向に往復移動させるための駆動軸4が突出しており、該駆動軸4は本体ケース1に内蔵したモータと往復駆動機構(いずれも図示せず)によって駆動される。
【0019】
前記ヘッド部2は、本体ケース1の上端部に着脱自在に取り付けられた上面部及び下面部が開口した略矩形状のヘッド部ケース5と、該ヘッド部ケース5の上面開口から臨出してヘッド部ケース5に取り外し可能に配設された2つの固定外刃6及び前記駆動軸4に着脱可能に取り付けられ固定外刃6の内側にて固定外刃6に摺接する可動内刃7とによって構成される。
【0020】
前記可動内刃7は、図3及び図4に示すごとく、複数の開口部8が平行に並んだ孔列を有し、逆U字状に湾曲した長方形状の金属薄板9と、該金属薄板9を逆U字状湾曲に保形するホルダー10とによって構成される。前記金属薄板9は、端部に形成した複数の透孔11にホルダー10に形成した凸部12をかしめ固定することにより一体的に構成される。前記金属薄板9は、後述するように、図4に示される内刃ブランク27を逆U字状に湾曲させることにより形成される。
【0021】
前記金属薄板9は、図4に示すごとく、幅方向の中央部に密なるピッチで多数の開口部8が平行に並んでおり、開口部8の周縁は細かい波形形状(のこぎり状)に形成されており、前記開口部8縁に刃部が形成されている。
【0022】
以下に、図5に基づいて、前記金属薄板9の製造方法を説明する。前記金属薄板9は、電鋳加工にて形成する。電鋳加工は、図5(a)に示すように、銅板製の基材21にフォトレジスト層22を塗布形成し、乾燥した後、フォトレジスト層22の表面にパターンフィルム23を密着させ、焼き付け、現像、乾燥の各処理を行って、図5(b)に示すように、基材21上にパターン膜24が残る1次ブランクを得る。次に前記1次ブランクを電着漕に浸漬して、図5(c)に示すように、パターン膜24で覆われていない基材21の表面に1次電鋳層25を成長させて2次ブランクを得る。この時、1次電鋳層25の厚みがパターン膜24の厚みより分厚くなるまで電鋳を行う。1次電鋳層25を形成する電鋳金属としては、ニッケル、或いはニッケル−コバルト合金などが適用できる。
【0023】
前記1次電鋳層25が形成された図5(c)に示される2次ブランクを重クロム酸カリウム水溶液に浸漬して、1次電鋳層25の表面に剥離促進処理を施す。この2次ブランクを再び電着漕に浸漬して、図5(d)に示すように、1次電鋳層25の外面に2次電鋳層26を形成する。2次電鋳層26を2次ブランクから剥離することにより、図5(e)に示すように、シート状の内刃ブランク27が得られる。この内刃ブランク27を、図6(a)または図6(b)に示すように、治具28によって湾曲させ、湾曲させた状態のまま熱劣化臨界温度に数分から数10分間加熱し、その後、水に浸けるなどして常温に急冷することにより、断面形状が略逆U字状に自己保持された金属薄板9を形成することができる。尚、内刃ブランク27は、可動内刃9に構成された状態では、図5(e)における下方側の面が固定外刃6との摺接面となる。
【0024】
前記1次電鋳層25の厚みは、パターン膜24の厚みより大きいので、得られた2次電鋳層26は、1次電鋳層25の周縁部分においてパターン膜24側へ回り込む。この2次電鋳層26(内刃ブランク27)の回り込み部分の間に凹部28が形成されるので、この内刃ブランク27から得られる金属薄板9からなる可動内刃9と固定外刃6との接触面積を減らして接触抵抗を低減することができる。また、この凹部28に油等を溜めることができ、固定外刃6と可動内刃9の耐摩耗性を向上させることができると共に、固定外刃6と可動内刃9との接触抵抗を低減することができる。
【0025】
尚、本実施形態では、2次電鋳層26の各刃部(開口部8間)の幅は、固定外刃6の各刃部(開口部間)の幅0.18mmの約2倍に設定されており、凹部28に油等を十分に溜めることができる。固定外刃6においては、髭を開口部に誘い込みやすくするために、開口部の開口率を大きくする必要があるが、開口率を大きくすると、開口部に皮膚も誘い込む虞があり、開口部の開口率を大きくしてなおかつ開口部への皮膚の誘い込みの虞をなくすためには、固定外刃6の各刃部の幅を狭くする必要が生じる。従って、固定外刃6を電鋳法で形成しても、凹部の幅が狭くなるため、十分な油とを溜めることができず、十分な効果を得ることができない。
【0026】
一方、可動内刃9は、固定外刃6よりも開口部8の開口率及び皮膚の誘い込み等の制約を考慮する必要がなく、上述した通り刃部の幅を広く形成することができるので、凹部28の幅を大きくとることができ、凹部28を油溜として活用することができる。
【0027】
可動内刃9を構成する2次電鋳層26の厚みは、エッチング加工により形成される刃が0.25mmであるのに対して、略半分の厚みに形成することができる。従って、髭剃り時に、好適な音を発生させることができ、使用者に快適な髭剃り感を与えることができる。
【0028】
可動内刃9の開口部8は、図4に示されるごとく、細かい波形形状に形成されているので、開口部8に誘い込まれた髭が開口部8縁を滑ることなく固定外刃6との間で切断することができ、髭を効率的に切断することができる。また、可動内刃9の開口部8を細かい波形形状に形成することで、2次電鋳層26の各刃部が波形形状となるため、刃部を直線状に形成したものに比較して髭を切断する方向の強度を向上させることができ、2次電鋳層26(内刃ブランク27)を薄く形成しているにもかかわらず、可動内刃9を十分な強度に形成することができる。
【0029】
図7は、金属薄板9の他の実施形態を示し、開口部8の形状を異ならせたものであり、開口部8の周縁を波状に形成し、その波状に形成された縁部に、さらに細かい波形形状がのこぎり状に形成されている。
【0030】
この構成では、開口部8間の刃部の形状が上記実施形態に比較して大きく屈曲しているため、刃部の髭を切断する方向の強度を向上させることができ、可動内刃9の強度をより向上させることができる。また、髭の逃げをより確実に防止して、より良好な髭剃りを行うことができる。
【0031】
尚、上記実施形態においては、平板状の基材21を用いたが、基材21を湾曲状に形成し、湾曲状の基材21に上記と同様の処理を施して、湾曲状の内刃ブランク27(金属薄板9)を形成し、こうして得られた金属薄板9をホルダー10に装着して断面形状が略逆U字状に保持された可動内刃7を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】電気かみそりの斜視図である。
【図2】電気かみそりの分解斜視図である。
【図3】可動内刃の分解斜視図である。
【図4】内刃ブランクの正面図である。
【図5】内刃ブランクの製造方法を説明する断面図である。
【図6】内刃ブランクを積極して金属薄板を製造する方法を説明する断面図である。
【図7】内刃ブランクの他の実施形態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0033】
6 固定外刃
7 可動内刃
8 開口部
9 金属薄板
10 ホルダー
27 内刃ブランク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定外刃と、該固定外刃の内面に摺接する可動内刃とを備え、前記可動内刃を、シート状の金属薄板と、該金属薄板を逆U字状に保持するホルダーとから構成し、前記金属薄板は、電鋳法で形成したシート状の内刃ブランクを、塑性加工を施して逆U字状に曲げ形成したことを特徴とする電気かみそり。
【請求項2】
前記可動内刃の金属薄板は、電鋳法で形成したシート状の内刃ブランクを、逆U字状に湾曲した状態で加熱した後急冷させて逆U字状に形成したことを特徴とする請求項1記載の電気かみそり。
【請求項3】
前記可動内刃の金属薄板は、髭を誘い込む開口部を形成して開口部縁を刃部とし、該刃部を波形状に形成したことを特徴とする請求項1記載の電気かみそり。
【請求項4】
前記刃部に、のこぎり状の刃を形成したことを特徴とする請求項3記載の電気かみそり。
【請求項5】
固定外刃と、該固定外刃の内面に摺接する可動内刃とを備え、前記可動内刃を、シート状の金属薄板と、該金属薄板を逆U字状に保持するホルダーとから構成し、前記金属薄板は、曲面に形成された母材に電鋳加工することにより形成されたシート状の内刃ブランクにより構成したことを特徴とする電気かみそり。
【請求項6】
前記可動内刃の金属薄板は、髭を誘い込む開口部を形成して開口部縁を刃部とし、該刃部を波形状に形成したことを特徴とする請求項5記載の電気かみそり。
【請求項7】
前記刃部に、のこぎり状の刃を形成したことを特徴とする請求項6記載の電気かみそり。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate