説明

電気二重層コンデンサ

【課題】自己放電が少なく広温度範囲で使用可能な電気二重層コンデンサを提供すること。
【解決手段】分極性電極と有機電解液から構成される電気二重層コンデンサにおいて、有機電解液に、添加剤としてシアノエチル化デンプンを0.01〜1.0wt%を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層コンデンサの改良に関するものであり、特に自己放電を抑制する有機電解液を用いた電気二重層コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層コンデンサは、活性炭から成る分極性電極とセパレータとを巻回したコンデンサ素子に電極液を保持させている。かかる電気二重層コンデンサは、セパレータに保持された電解液により、分極性電極の表面に電気二重層が形成される。これにより、電気二重層コンデンサはF(ファラッド)単位の大静電容量を有するものとなる。この種の電気二重層コンデンサに使用される電解液は、液体電解液が使用されており、水溶液系と非水系の2つの系に分類される。前者は硫酸あるいは水酸化カリウムの水溶液系電解液が知られており、後者はプロピレンカーボネートやγ−ブチロラクトン等の有機溶媒にテトラエチルアンモニウムのホウフッ化塩や六フッ化リン酸塩を溶質として溶解した非水系電解液(有機電解液)が知られている。
【0003】
さらに、代表的な有機電解液組成としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液があげられる。しかし、これらの有機電解液を使用した場合、自己放電が大きいという欠点を有する。
【0004】
このような問題に対し、様々な高分子電解質が研究されている。高分子電解質としては、ポリエチレンオキシドと電解質塩の複合体、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダム共重合体と電解質塩の複合体などが知られている。(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−249361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような高分子電解質では、自己放電特性は改善されるものの、室温以下でのイオン伝導度が小さい。これは、室温以下では、高分子電解質の電解液の粘度が高くなり、イオンが拡散しにくくなるためである。
【0007】
かかる室温以下でのイオン伝導度が小さい高分子電解質を電気二重層コンデンサの電解質として用いた場合、室温以下の低温における静電容量がきわめて低く、また、室温付近でも高い放電電流値を得られない(内部抵抗が高い)という欠点があった。
【0008】
本発明は、上記技術的課題に鑑みなされたもので、自己放電が少なく広い温度範囲で使用可能な電気二重層コンデンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者等は、有機電解液にシアノエチル化デンプンを溶解することで、上述した問題点を克服できるのではないかと着想した。
【0010】
かかる着想に基づく、具体的な発明は以下の通りである。
【0011】
すなわち、本発明に係る電気二重層コンデンサは、有機電解液を電解質とする電気二重層コンデンサであって、上記有機電解液が、シアノエチル化デンプンを含有する。
【0012】
上記シアノエチル化デンプンの含有量が、有機電解液全体に対して0.01〜1.0wt%であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、上記有機電解液に使用される電解質は公知のものが使用でき、電気化学的安定性、電気二重層コンデンサ等の用途および要求される耐電圧などに基づいて選択される。この電解質は、アニオンとカチオンとからなり、アニオン、カチオンの具体例としては以下のものが挙げられる。
【0014】
(1)アニオンとしては、例えば、過塩素酸、四フッ化ホウ酸、六フッ化リン酸、六フッ化砒素酸、六フッ化アンチモン酸、パーフルオロアルカン(炭素数2〜12)スルホン酸、パーフルオロアルカン(炭素数2〜12)スルホニルイミド、ヨウ化水素酸、テトラアルキル(アルキル基の炭素数2〜8)ホウ酸[例えばB(n−Cなど]、テトラハロゲン化アルミニウム(AlClなど)等を挙げることができる。
【0015】
(2)無機カチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオンおよびカルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等を挙げることができる。
【0016】
(3)有機カチオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム等のアルキル基の炭素数が1〜8のテトラアルキルアンモニウムイオン類、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、ジメチルジエチルホスホニウム、メチルトリエチルホスホニウム等のアルキル基の炭素数が1〜8のテトラアルキルホスホニウムイオン類、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム等のアルキル基の炭素数が1〜8のイミダゾリウムイオン類、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム等のアルキル基の炭素数が1〜8のイミダゾリニウムイオン類、および1,3−ジメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジニウム、1,2,3−トリメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジニウム、1−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1−メチル−1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5等の置換アルキル基の炭素数が1〜18のピリミジニウムイオン類等を挙げることができる。
【0017】
電解質としては特に限定されないが、好ましくは四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、四級アミジウム塩およびこれらの混合物である。また、二種以上の電解質を併用してもよく、その場合の重量比率は特に限定されない。
【0018】
四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、メチルトリエチルアンモニウムテトラフルオロボレート等の炭素数が1〜8のテトラアルキルアンモニウムテトラフルオロボレート類、四級ホスホニウム塩としては、例えば、テトラエチルホスホニウムテトラフルオロボレート、メチルトリエチルホスホニウムテトラフルオロボレート等の炭素数が1〜8のテトラアルキルホスホニウムテトラフルオロボレート類、四級アミジニウム塩としては、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート等の置換アルキル基の炭素数が1〜18のイミダゾリウムテトラフルオロボレート類、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウムテトラフルオロボレート、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウムテトラフルオロボレート、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウムテトラフルオロボレート等の置換アルキル基の炭素数が1〜18のイミダゾリニウムテトラフルオロボレート類、1,3−ジメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジニウムテトラフルオロボレート、1,2,3−トリメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジニウムテトラフルオロボレート、1−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7テトラフルオロボレート、1−メチル−1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5テトラフルオロボレート等の置換アルキル基の炭素数が1〜18のピリミジニウムテトラフルオロボレート類がそれぞれ挙げられる。
【0019】
さらに、これらの塩のアニオンとしてテトラフルオロボレートイオンをClO、PF、トリフルオロメタンスルホネートもしくはトリフルオロメタンスルホニルイミド等に置き換えたものが挙げられる。
【0020】
本発明における有機電解液で使用される溶媒としては公知のものが使用でき、電解質の溶解性と電気化学的安定性から適宜選択される。具体例としては以下のものが挙げられる。これらのうち2種以上を併用することも可能である。
【0021】
(1)水
(2)プロトン性極性有機溶媒
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−,iso−プロパノール、n−,sec−,i−,t−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル等の炭素数が1〜4の1価アルコール、n−,iso−ペンタノール、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等の炭素数が5〜8の1価アルコール、エチレングリコール、グリセリン等の2〜3価またはそれ以上の多価アルコール等を挙げることができる。 アミド類としては、例えば、炭素数が1〜3のホルムアミド、N−メチルホルムアミド等、炭素数が4〜8のN−プロピルホルムアミド等を挙げることができる。
フェノール類としては、例えば、[炭素数が6〜8のフェノール等、炭素数が9〜12のp−ブチルフェノール等を挙げることができる。
(3)非プロトン性極性有機溶媒
エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数が2〜6の鎖状エーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数が7〜12の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等の炭素数が2〜4の環状エーテル、4−ブチルジオキソラン、クラウンエーテル等の炭素数が5〜18の環状エーテル等を挙げることができる。 アミド類としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド、N−メチルピロリドン等を挙げることができる。 ラクトン類としては、例えば、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等を挙げることができる。 ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、アクリロニトリル等を挙げることができる。 カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができる。 スルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等を挙げることができる。
(4)その他有機溶媒
複素環式溶媒としては、例えば、N−メチル−2−オキサゾリジノン、3,5−ジメチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を挙げることができる。これらのうち好ましくは、非プロトン性極性有機溶媒である。
【0022】
また、上記テトラエチルアンモニウムを含む溶質の上記有機溶媒に対する濃度は、0.5〜3.0mol/Lの範囲が望ましく、1mol/Lがより望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、有機電解液にシアノエチル化デンプンを溶解することによって、有機電解液の粘度が高くなり、有機電解液のイオンの動きを抑制してイオンの拡散を抑えることができる。また、電極活性炭の細孔内に電解液を十分に浸透させることができる。その結果、室温も従来の電気二重層コンデンサと同等の内部抵抗を有しながら、自己放電を抑制することが可能となる。また、室温以下の低温においても、電極活性炭の細孔内に電解液を十分に浸透させることができるため、従来の電気二重層コンデンサと同等の静電容量が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0025】
(実施例1)
本実施例1に係る電気二重層コンデンサは、ヤシガラ活性炭を材料とする分極性電極とセパレータとを巻回したコンデンサ素子に有機電解液を含浸させたものである。
【0026】
上記有機電解液は、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート1.0mol/Lを溶質とし、プロピレンカーボネートを溶媒としたものである。この有機電解液に、シアノエチル化デンプンが溶解されている。シアノエチル化デンプンの重量分は、溶媒量を減らして調整した。
【0027】
本実施例1においては、シアノエチル化デンプンの含有量は、有機電解液の全量に対して0.01wt%に設定されている。
【0028】
(実施例2)
本実施例2では、上記有機電解液に対するシアノエチル化デンプンの含有量を有機電解液の全量に対して0.50wt%とした以外は、上記実施例1と同様に、電気二重層コンデンサを作製した。
【0029】
(実施例3)
本実施例3では、上記有機電解液に対するシアノエチル化デンプンの含有量を有機電解液の全量に対して1.0wt%とした以外は、上記実施例1と同様に、電気二重層コンデンサを作製した。
【0030】
(実施例4)
本実施例4では、上記有機電解液に対するシアノエチル化デンプンの含有量を有機電解液の全量に対して0.005wt%とした以外は、上記実施例1と同様に、電気二重層コンデンサを作製した。
【0031】
(実施例5)
本実施例5では、上記有機電解液に対するシアノエチル化デンプンの含有量を有機電解液の全量に対して1.5wt%とした以外は、上記実施例1と同様に、電気二重層コンデンサを作製した。
【0032】
(従来例1)
従来例では、上記有機電解液がシアノエチル化デンプンを含有していないこと以外は、上記実施例1と同様に、電気二重層コンデンサを作製した。
【0033】
表1は、上記の実施例1〜5および従来例1の電解液の内部組成を示している。
【0034】
【表1】

【0035】
また、表2は、上記の実施例1〜5および従来例1に係る電気二重層コンデンサ(定格:2.5V−22F、サイズ:16×31.5mm)の静電容量(−25℃、25℃、75℃)、25℃における内部抵抗(直列抵抗)と自己放電(満充電した電気二重層コンデンサの初期電圧と、24時間放置した後の電圧との電圧変化率)を測定した結果である。なお、測定は各10個の電気二重層コンデンサを試料とし、表中の値はその平均値を示している。
【0036】
【表2】

【0037】
表2より明らかなように、特に、実施例1〜3では、従来例1と比較して、自己放電が少なく、かつ、各温度における静電容量も同等の特性を示している。よって、有機電解液に対するシアノエチル化デンプンの含有量は、0.01〜1.0wt%の範囲内が良好であることがわかる。換言すると、例えば、実施例4のように0.01wt%未満のシアノエチル化デンプンの添加量では、内部抵抗は高くなることはないものの自己放電抑制効果がみられないので好ましくない。一方、実施例5のようにシアノエチル化デンプンの添加量が1.0wt%を超えると、自己放電抑制効果はみられるものの電解液の粘度が高くなり過ぎて内部抵抗が高くなるので好ましくない。
【0038】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
【0039】
例えば、上述の実施例においては、有機電解液を、溶媒をプロピレンカーボネートとし、溶質をテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート1mol/Lとした例について記載したが、溶媒としては他に、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートやアセトニトリル等を用いてもよい。また、テトラエチルアンモニウムのホウフッ化塩や六フッ化リン酸塩をプロピレンカーボネートやγ―ブチロラクトン等の有機溶媒で溶解した有機電解液を用いてもよい。すなわち、有機電解液は、テトラエチルアンモニウムを含む溶質を有機溶媒で溶解したものであればよい(テトラエチルアンモニウムを含む溶質の有機溶媒に対する濃度は0.5〜3.0mol/Lが望ましい)。このように、有機電解液がシアノエチル化デンプンを含有することによって、イオン拡散を抑え、シアノエチル化デンプンを含有しない場合に比べて自己放電に使われる内部電流が小さくなることが予測され、これによって自己放電を抑制する効果が期待できる。
【0040】
その他、本明細書に添付の特許請求の範囲内での種々の設計変更及び修正を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明では、自己放電が少なくなって広い温度範囲での使用が可能となるゆえ、電気二重層コンデンサとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電解液を電解質とする電気二重層コンデンサにおいて、
上記有機電解液が、シアノエチル化デンプンを含有することを特徴とする電気二重層コンデンサ。
【請求項2】
上記シアノエチル化デンプンの含有量が、0.01〜1.0wt%であることを特徴とする請求項1に記載の電気二重層コンデンサ。

【公開番号】特開2009−32876(P2009−32876A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194808(P2007−194808)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】