説明

電気伝導性および液晶性を有するピレンジオンアルキルオキシ誘導体

【課題】電気伝導性を有する新規の物質の提供。
【解決手段】ピレンジオンアルキルオキシ誘導体、例えば式4又は5で表される化合物を、液相状態から特定速度で降温して、得られる結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導性および液晶性を有するピレンジオンアルキルオキシ誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
ピレン誘導体の液晶性については下記の化合物について報告がある(非特許文献1および2)
【化6】

【0003】
また、ピレン誘導体の電気伝導性については下記の化合物において報告がある(非特許文献3)
【化7】

【0004】
さらに、ピレンジオンアルキルオキシ誘導体については非特許文献4において製造例の報告がある。
しかし、ピレンジオンアルキルオキシ誘導体の液晶性や電気伝導性については知られていない。

【非特許文献1】Liq. Cryst., 1995, 18, 707-713
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed., 2001, 40, 2060-2063
【非特許文献3】J. Mater. Chem., 2007, 17, 1392-1398
【非特許文献4】Zh. Org. Kim., 1986, 22, 1159-1163
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は電気伝導性を有する新規な物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定のピレンジオンアルキルオキシ誘導体が液晶性を有し、液晶状態の該ピレンジオンアルキルオキシ誘導体および該ピレンジオンアルキルオキシ誘導体の特定の結晶体が電気伝導性を示すことを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
本発明はすなわち、下記[1]〜[6]を提供するものである。
[1]下記一般式(I)で表される化合物の結晶であって、液相状態にある該化合物を毎分3℃〜10℃の速度で降温して液晶を得、さらに該液晶を毎分3℃〜10℃の速度で降温して得られる結晶。
【0008】
【化8】

(式中、R1は、それぞれ独立にC3-30アルキル基を示す。)
【0009】
[2]下記一般式(II)で表される化合物の結晶であって、液相状態にある該化合物を毎分3℃〜10℃の速度で降温して液晶を得、さらに該液晶を毎分3℃〜10℃の速度で降温して得られる結晶。
【0010】
【化9】

(式中、R11はそれぞれ独立にC3-30アルキル基を示す。)
【0011】
[3]X線回折スペクトルにおいて3.7、7.3、及び11.0(2θ)に主な回折ピークを有する下記式(4)で表される化合物の結晶。
【0012】
【化10】

【0013】
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の結晶を含む電荷輸送材料。
[5]下記一般式(I)で表される化合物を含む液晶を含む電荷輸送材料。
【0014】
【化11】

(式中、R1は、それぞれ独立にC3-30アルキル基を示す。)
【0015】
[6]下記一般式(II)で表される化合物を含む液晶を含む電荷輸送材料。
【0016】
【化12】

(式中、R11はそれぞれ独立にC3-30アルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明により、電気伝導性を有する新規な物質が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
一般式(I)におけるR1はそれぞれ独立にC3-30アルキル基を示すが、2つのR1が同一のアルキル基を示すことが好ましい。R1で示されるアルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる基のいずれであってもよいが、分岐鎖状、又は分岐鎖状の構造を含むことが好ましい。R1が直鎖状である場合、C8-14アルキル基が好ましく、C10-12アルキル基がより好ましい。R1が分岐鎖状である場合、C3-13アルキル基が好ましく、C5-9アルキル基がより好ましく、C7アルキル基が最も好ましい。R1が示す分岐鎖状のアルキル基としては下記式で示される基が好ましい。
【0019】
【化13】

【0020】
式中、R2及びR3はそれぞれ独立に直鎖のアルキル基を示す。
2及びR3は同一のアルキル基であることが好ましく、いずれもプロピル基であることがより好ましい。
【0021】
一般式(II)におけるR11はそれぞれ独立にC3-30アルキル基を示すが、2つのR11が同一のアルキル基を示すことが好ましい。R11で示されるアルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる基のいずれであってもよいが、分岐鎖状、又は分岐鎖状の構造を含むことが好ましい。R11が直鎖状である場合、C6-14アルキル基が好ましく、C8-12アルキル基がより好ましい。R1が分岐鎖状である場合、C3-13アルキル基が好ましく、C5-9アルキル基がより好ましく、C7アルキル基が最も好ましい。R11が示す分岐鎖状のアルキル基としては下記式で示される基が好ましい。
【0022】
【化14】

【0023】
式中、R12及びR13はそれぞれ独立に直鎖のアルキル基を示す。
12及びR13は同一のアルキル基であることが好ましく、いずれもプロピル基であることがより好ましい。
【0024】
ピレンジオンアルキルオキシ誘導体は以下の手順により製造することができる。
まず、ピレンジオンはJ. Chromatography, 1965, 20, 319-324の記載を参照してピレンより下記のスキームに従って製造することができる。
【0025】
【化15】

【0026】
得られたピレンジオンとアルキルアルコールから、Zh. Org. Kim., 1986, 22, 1159-1163に記載の方法を参照して、ピレンジオンアルキルオキシ誘導体を得ることができる。
【0027】
上記のピレンジオンアルキルオキシ誘導体は適用な再結晶用溶媒で再結晶を行うことが好ましい。再結晶用溶媒としては、特に限定されないが、例としては、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。このうち、ヘキサン又はクロロホルムが好ましく、ヘキサン及びクロロホルムの混合溶媒がより好ましい。このように得られる再結晶体はこのまま電荷輸送材料等として用いてもよいが、さらに下記の工程を経て用いることが好ましい。
【0028】
上記のように得られた上記のピレンジオンアルキルオキシ誘導体又は上記のピレンジオンアルキルオキシ誘導体の結晶を、液相状態(溶融状態)としてから、温度を徐々に下げることにより、液晶状態のピレンジオンアルキルオキシ誘導体又は、所望の電気伝導性を有する結晶を得ることができる。
液相状態(溶融状態)とするためには、該誘導体を融点以上の温度、好ましくは該融点+3℃〜該融点+10℃、より好ましくは該融点+5℃程度の温度条件下に置けばよい。
その後、液相状態の上記のピレンジオンアルキルオキシ誘導体の温度を毎分3℃〜10℃の速度で降温して液晶を得ることができる。また、さらに該液晶を毎分3℃〜10℃の速度で降温することによって電気伝導性を有する結晶を得ることができる。この際、液晶の取得を確認することなく、液相状態から連続的に降温して結晶を得てもよい。降温は、毎分3℃〜10℃の速度であればよいが、好ましくは毎分約5℃程度の速度であることが好ましい。
【0029】
示差熱分析などを行うことにより予め、液相/液晶相の転移温度、又は液晶相/結晶相の転移温度を測定しておくことも好ましい。
【0030】
上記のような過程を経ることにより所望の電気伝導性を有する液晶としてのピレンジオンアルキルオキシ誘導体及びピレンジオンアルキルオキシ誘導体の結晶を得ることが可能である。
所望の電気伝導性を有するピレンジオンアルキルオキシ誘導体の結晶は、下記一般式(I)又は(II)におけるR1又はR11が2−プロピル基である化合物(デカノールの代わりに2−プロピルアルコールを用いて下記実施例に示す化合物4及び5の合成と同様に合成したもの)の当該結晶のX線結晶構造解析の結果(図1、図2)から、ラメラ相等の中間相を発現する結晶構造であると考えられる。
【0031】
液晶としてのピレンジオンアルキルオキシ誘導体及びピレンジオンアルキルオキシ誘導体の結晶を用いて製造することのできる電荷輸送材料としては、例えば感光性ドラムに用いる例や、EL素子の電子輸送層に用いる例などが挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
【0033】
【化16】

【0034】
ピレン(関東化学社製、特級試薬)より、J. Chromatography, 1965, 20, 319-324に記載の方法で上記スキームに記載の化合物2及び3を得た。化合物2と3の1:1混合物500mg(2.15mmol)をデカノール(C10H21OH)250mlに溶解させ、これに塩化第二鉄(FeCl3)を1g(6.12mmol)加え、120℃で8時間反応を行った。反応終了後、反応液を室温まで冷まし、これに水10mlを加えた。デカノールを減圧留去し、残った固体にクロロホルム50mlを加え抽出した。有機層を水で3回、飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。クロロホルム溶液を、綿栓濾過し、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。残渣をクロロホルム:ヘキサン(5:1)に溶解させカラムクロマトグラフィで分離し、一般式(I)においてR1がC1021である化合物(化合物4)を273mg(0.50 mmol, 24%)と一般式(II)においてR11がC1021である化合物(化合物5)を245mg(0.49mmol, 23%)それぞれ得た。さらに化合物4及び5に、それぞれクロロホルム及びヘキサンの混合溶媒(体積比1:1)を用いて再結晶を行い、化合物4の結晶及び化合物5の結晶を得た。
【0035】
得られた化合物4の溶融相-液晶相-結晶相の状態のX線回折スペクトル測定を行なった。測定の温度条件は、100℃、142℃、及び150℃で、XRD測定はRIGAKUのR-AXIS2を用い、測定角(2θ)は3−25°の範囲を測定した。測定温度は、150-90 ℃とした。測定結果を図3に示す。なお、図3に示される長さの値は、測定された2θ値を、Bragg の式(λ=2dsinθ)に当てはめて算出されたdの値を示す。なお、ここで、λ=1.5408Åとした。
【0036】
さらに同様の方法で一般式(I)においてR1がC1221である化合物ならびに一般式(II)においてR11がC819及びC1221である化合物を合成した。
合成した化合物の相転移温度と相転移エネルギーを、Mac Science DSC-3100のdifferential scanning calorimeter(DSC)装置を用いる方法で測定した。測定はサンプルをアルミニウムパンに2〜5mg入れて行なった。
結果を表1及び表2に示す。
【0037】
【表1】

Iso:等方状態(溶融状態);M1:中間相状態;Cr:結晶状態
【0038】
【表2】

Iso:等方状態(溶融状態);M2:中間相状態;Cr:結晶状態
【0039】
また、得られた結晶を溶融させ液晶セルにつめ、伝導度の測定を行った。
液晶セルとしては図4の構成の液晶セルを用いた。液晶セルのガラスの厚みは1枚あたり1.1mm、ガラスの材質はソーダライムガラス、ITO膜厚は200−300 Å、セル厚は5μmであった。
各化合物を溶融させてこの液晶セルの中につめた。液晶セルを温度調節のついたヒーター(温度制御部:Mettler FP90、ホットステージ:Mettler FP82HT)に入れ、融解温度(b.p.)+5℃(化合物4は213℃、化合物5は153℃)まで温度を上げた後、毎分5℃の速度で温度を下げた。測定温度(測定点)で降温を一旦止め、10分間安定させた後にテスターを液晶セルから出ている電極につけ、5Vの電圧を印加した後、その温度における抵抗値を測定した。測定はテスター(HIOKI 3522-50 LCR HiTESTER)を用いて行った。測定された抵抗値から下記式に従って電気伝導度(б)を求めた。
【0040】
【数1】

【0041】
式中、бは電気伝導度、Lは液晶セルの厚み、Rは抵抗値、Sは面積を示す。Sは1 x 1 cm2である。
logбと温度との関係を図5に示す。
なお、結晶は、一旦溶融させた後、中間相が発現する温度範囲内で1時間温度を保持し、測定を行なった。また、連続測定の際には、10〜20分程度測定温度を保持し、温度の安定になったところを見計い、測定を行なった。
【0042】
図5に示す結果から化合物4及び5は液晶状態又は結晶状態でбが10-5.5〜10-4.8の領域にあり、半導体としての性質を有することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】一般式(I)におけるR1が2−プロピル基である化合物の結晶構造解析の結果を示す図である。
【図2】一般式(II)におけるR11が2−プロピル基である化合物の結晶構造解析の結果を示す図である。
【図3】化合物4の結晶のX線回折スペクトル測定結果を示すグラフである。
【図4】伝導度の測定に用いた液晶セルの構造を示す図である。
【図5】化合物4(左)と化合物5(右)の電気伝導度(logб)と温度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物の結晶であって、液相状態にある該化合物を毎分3℃〜10℃の速度で降温して液晶を得、さらに該液晶を毎分3℃〜10℃の速度で降温して得られる結晶。
【化1】

(式中、R1は、それぞれ独立にC3-30アルキル基を示す。)
【請求項2】
下記一般式(II)で表される化合物の結晶であって、液相状態にある該化合物を毎分3℃〜10℃の速度で降温して液晶を得、さらに該液晶を毎分3℃〜10℃の速度で降温して得られる結晶。
【化2】

(式中、R11はそれぞれ独立にC3-30アルキル基を示す。)
【請求項3】
X線回折スペクトルにおいて3.7°、7.3°、及び11.0°(2θ)に主な回折ピークを有する下記式(4)で表される化合物の結晶。
【化3】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の結晶を含む電荷輸送材料。
【請求項5】
下記一般式(I)で表される化合物を含む液晶を含む電荷輸送材料。
【化4】

(式中、R1は、それぞれ独立にC3-30アルキル基を示す。)
【請求項6】
下記一般式(II)で表される化合物を含む液晶を含む電荷輸送材料。
【化5】

(式中、R11はそれぞれ独立にC3-30アルキル基を示す。)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−242331(P2009−242331A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92729(P2008−92729)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】