説明

電気光学装置及び電子機器

【課題】液晶表示装置等の電気光学装置において、応力の発生を抑制することにより、色むらを改善し、表示画像の高品位化を図る。
【解決手段】電気光学装置は、素子基板(10)及び対向基板(20)間に電気光学物質(50)を挟持してなる電気光学パネル(100)と、対向基板の前記素子基板との対向面とは反対側の面に貼り合わされた防塵用基板(400)とを備える。対向基板及び防塵用基板のうち一方は正極の線膨脹係数を有する第1の材料からなり、他方の基板は負極の線膨脹係数を有する第2の材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液晶装置等の電気光学装置、及びこれを備えてなる、例えば液晶プロジェクター等の電子機器の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電気光学装置の一例である液晶パネルを、液晶プロジェクターにおけるライトバルブとして用いる場合、ライトバルブの表面にごみや埃等(以下、適宜“粉塵”と称する)が付着すると、映写幕上にその粉塵の像もまた投影されてしまうため、表示画像の品質が低下するおそれがある。このため、液晶パネルを構成する基板の外表面に防塵用のガラス板が設けられる場合がある。
【0003】
ここで、液晶パネルの動作時において、光源光が有する光エネルギーが液晶パネルに吸収されることによって、装置内部において発熱が生じることがある。また、液晶パネルに防塵用のガラス板を接着剤で貼り合わせる際に、接着剤を固化するために加熱する場合がある。このように、液晶パネルや防塵用のガラス板が高温に曝される際、これらの部材には熱収縮又は熱膨張による応力が発生する。このような応力は、液晶パネルに歪みを発生させ、例えば、電気光学パネルを構成する基板間の距離(即ち、素子基板及び対向基板間のギャップ)が変化することによって、表示画像に色むらを生じさせてしまう。
【0004】
例えば特許文献1では、防塵用のガラス板と電気光学パネルとの接着部を小さく形成することによって、応力を軽減し、表示画像における色むらを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−98683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1では、接着部を小さく形成する必要があるため、従来のように防塵用のガラス板と電気光学パネルとの間にベタ状に接着部を形成する場合に比べて、接着部を形成するための工程が複雑化してしまうという技術的問題点がある。また、接着部の形成面積が小さいため、防塵用のガラス板及び電気光学パネル間の貼り合わせ強度が小さくなってしまうという技術的問題点がある。
【0007】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、発熱時における応力の発生を抑制することにより、色むらが少なく高品位な画像表示が可能な電気光学装置、及びこれを備えてなる電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気光学装置は上記課題を解決するために、素子基板及び対向基板間に電気光学物質を挟持してなる電気光学パネルと、前記対向基板の前記素子基板との対向面とは反対側の面に貼り合わされた防塵用基板とを備え、前記対向基板及び前記防塵用基板のうち一方の基板は正極の線膨脹係数を有する第1の材料からなり、前記対向基板及び前記防塵用基板のうち他方の基板は負極の線膨脹係数を有する第2の材料からなる。
【0009】
本発明に係る電気光学パネルは、素子基板及び対向基板間に電気光学物質を挟持してなる。電気光学パネルは、その動作時には表示領域に対して、例えば、白色ランプ等の光源から光が照射される。電気光学パネルは、例えば表示領域に入射した光を画素単位で変調することにより画像表示を実現する。表示領域には、例えば複数の画素がマトリクス状に配置されており、走査信号を供給する走査線及び画像信号を供給するデータ線に夫々電気的に接続されている。各画素は、画像信号の電位に応じて、対向配置された液晶等の電気光学物質の配向状態を制御する。
【0010】
本発明に係る防塵用基板は、対向基板の素子基板との対向面とは反対側の面に貼り合わされている。防塵用基板は、例えば、電気光学パネルの外表面(即ち、対向基板の素子基板と対向しない側)に貼り合わされることにより、電気光学パネルの表面に付着したごみや埃等が、画像の品質を低下させてしまうことを防止する。尚、防塵用基板は接着剤などを介して電気光学パネルに貼り合わせられていてもよい。この場合、接着材は光透過率や熱伝導率の高い材料を用いることが好ましい。
【0011】
本発明では特に、対向基板及び防塵用基板のうち一方は正極の線膨脹係数を有する第1の材料からなり、対向基板及び防塵用基板のうち他方の基板は負極の線膨脹係数を有する第2の材料からなる。このように対向基板及び防塵用基板の材料として互いに逆極性の線膨脹係数を有する材料を選択することにより、発熱時に生ずる応力を軽減することができる。つまり、対向基板及び防塵用基板において発熱時に生ずる応力は、互いに相殺するように生ずる。
【0012】
尚、本発明では、対向基板及び防塵用基板を形成する材料を好適な線膨脹係数を選択することによって、応力を軽減することができるため、対向基板及び防塵用基板間に広く接着部を形成することが可能である。従って、上述の背景技術における技術的問題点を解消しつつ、電気光学パネルにおける色むらを軽減することが可能である。
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、発熱時における応力の発生を抑制することにより、色むらが少なく高品位な画像表示が可能な電気光学装置を実現することができる。
【0014】
本発明の電気光学装置の一の態様では、前記素子基板は、前記対向基板と同じ極性の線膨脹係数を有する材料からなる。
【0015】
この態様によれば、発熱時に素子基板及び対向基板において同様又は類似のパターンで応力が生じる。即ち、素子基板及び対向基板間において歪みが生じにくい。従って、発熱時に素子基板及び対向基板間のギャップが変化を防止し、表示画像における色むらを効果的に軽減することができる。
【0016】
本発明の電気光学装置の他の態様では、前記防塵用基板の前記対向基板との貼り合わせ面とは反対側に該防塵用基板と接するように設けられた遮光板を備え、該遮光板は、前記防塵用基板を形成する材料とは逆極性の線膨脹係数を有する材料からなる。
【0017】
この態様によれば、遮光板が防塵用基板の前記対向基板との貼り合わせ面とは反対側に該防塵用基板と接するように設けられている。つまり、防塵用基板は、対向基板と遮光板との間に挟み込まれるように配置される。ここで、遮光板は、電気光学パネルの表示光を出射する側に備えられることにより、電気光学パネルの表示領域を少なくとも部分的に規定する板状部材である。遮光板は、光反射率の低い材料から形成される。ここで、「光反射率の低い」とは、遮光板の周囲に配置される他の部材を形成する材料に比べて、光反射率が低いことを意味する。
【0018】
本態様では特に、当該遮光板は、防塵用基板を形成する材料とは逆極性の線膨脹係数を有する材料からなる。このように遮光板及び防塵用基板の材料として互いに逆極性の線膨脹係数を有する材料を選択することにより、発熱時に生ずる応力を軽減することができる。つまり、遮光板及び防塵用基板において発熱時に生ずる応力は、互いに相殺するように生ずる。従って、発熱時に電気光学装置内において生ずる応力をより効果的に軽減することができ、色むらの少ない高品位な画像表示が可能な電気光学装置を実現することができる。
【0019】
尚、遮光板は、正極の線膨脹係数を有する材料から形成される場合、例えばオーステナイト系ステンレスを材料として用いるとよい。この場合、オーステナイト系ステンレスの代表的な鋼種である、SUS304(典型的な線膨脹係数は17.3×10−6(/℃))や、SUS430(典型的な線膨脹係数は10.4×10−6(/℃))を用いるとよい。
【0020】
本発明の電気光学装置の他の態様では、前記第1の材料は石英であり、前記第2の材料はネオセラムである。
【0021】
この態様によれば、正極の線膨脹係数を有する第1の材料として石英(典型的な線膨脹係数は、約0.30〜0.60×10−6(/℃)である。)を用いると共に、負極の線膨脹係数を有する第2の材料としてネオセラム(典型的な線膨脹係数は、約−0.85〜−0.10×10−6(/℃)である。)を用いることにより、上述の各種態様を好適に実現することができる。
【0022】
本発明の電気光学装置の他の態様では、前記電気光学パネルは、反射型である。
この態様によれば、本発明に係る電気光学パネルは、例えば表示領域に入射した光を画素単位で変調した後、Al(アルミニウム)膜等の反射膜によって反射することにより画像を表示する反射型の電気光学パネルである。
【0023】
本発明の電子機器は上記課題を解決するために、上述した本発明の電気光学装置(但し、その各種態様も含む)を備える。
【0024】
本発明の電子機器によれば、上述した本発明に係る電気光学装置を具備してなるので、色むらが少ない高品質な画像を表示可能な投射型表示装置、テレビ、携帯電話、電子手帳、ワードプロセッサー、ビューファインダー型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルなどの各種電子機器を実現できる。
【0025】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされ
る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係る電気光学装置が備える液晶パネルの全体構成を示す平面図である。
【図2】図1のH−H´線断面図である。
【図3】本実施形態に係る電気光学装置が備える液晶パネルの画像表示領域を構成するマトリクス状に形成された複数の画素における各種素子、配線等の等価回路図である。
【図4】本実施形態に係る電気光学装置の全体構成を示す斜視図である。
【図5】本実施形態に係る電気光学装置の具体的な構成を示す断面図である。
【図6】本実施形態に係る電気光学装置が備える見切り板の構成を示す平面図である。
【図7】本実施形態に係る電気光学装置の各部材に印加される応力を模式的に示す拡大断面図である。
【図8】本実施形態に係る電気光学装置の対向基板及び防塵基板における、発熱時に生ずる応力の分布を模式的に示す平面図である。
【図9】電気光学装置を適用した電子機器の一例たるプロジェクターの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0028】
<電気光学装置>
まず、本実施形態に係る電気光学装置が備える反射型の液晶パネル100について、図1から図3を参照して説明する。液晶パネル100は、本発明に係る「電気光学パネル」の一例である。尚、以下の実施形態では、駆動回路内蔵型のTFT(Thin Film Transistor)アクティブマトリクス駆動方式の反射型液晶パネルを例にとる。
【0029】
まず、本実施形態に係る電気光学装置が備える液晶パネル100の全体構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る電気光学装置が備える液晶パネル100の全体構成を示す平面図である。図2は、図1のH−H´線断面図である。
【0030】
図1及び図2において、液晶パネル100において、TFTアレイ基板10と対向基板20とが対向配置されている。TFTアレイ基板10は本発明に係る「素子基板」の一例であり、対向基板20は本発明に係る「対向基板」の一例である。TFTアレイ基板10及び対向基板20は共に、正極の線膨張係数を有する材料である石英から形成されている。ここで、石英は本発明に係る「第1の材料」の一例であり、典型的な線膨脹係数は、約0.30〜0.60×10−6(/℃)である。なお、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)の場合は、TFTアレイ基板10としてシリコン基板が用いられる。
【0031】
TFTアレイ基板10と対向基板20との間には、本発明の「電気光学物質」の一例である液晶層50が封入されている。液晶層50は、例えば一種又は数種類のネマティック液晶を混合した液晶からなり、一対の配向膜間で所定の配向状態をとる。
【0032】
TFTアレイ基板10と対向基板20とは、複数の画素電極が設けられた画像表示領域10aの周囲に位置するシール領域に設けられたシール材52により、相互に接着されている。
【0033】
シール材52は、両基板を貼り合わせるための、例えば紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂等からなり、製造プロセスにおいてTFTアレイ基板10上に塗布された後、紫外線照射、加熱等により硬化させられたものである。シール材52中には、TFTアレイ基板10と対向基板20との間隔(即ち、基板間ギャップ)を所定値とするためのグラスファイバー或いはガラスビーズ等のギャップ材が散布されている。尚、ギャップ材を、シール材52に混入されるものに加えて若しくは代えて、画像表示領域10a又は画像表示領域10aの周辺に位置する周辺領域に、配置するようにしてもよい。
【0034】
シール材52が配置されたシール領域の内側に並行して、画像表示領域10aの額縁領域を部分的に規定する遮光性の額縁遮光膜53が、対向基板20側に設けられている。対向基板20側に設けられた額縁遮光膜53は、後述する防塵基板400上に設けられた遮光板の一例である見切り板600と共に画像表示領域10aを規定する。尚、防塵基板400及び見切り板600についての説明は後に詳述する。
【0035】
周辺領域のうち、シール材52が配置されたシール領域の外側に位置する領域には、TFTアレイ基板10の一辺に沿って、データ線駆動回路101及び外部回路接続端子102が設けられている。走査線駆動回路104は、この一辺に隣接する2辺に沿い、且つ、額縁遮光膜53に覆われるように設けられている。更に、このように画像表示領域10aの両側に設けられた二つの走査線駆動回路104間を接続するために、TFTアレイ基板10の残る一辺に沿い、且つ、額縁遮光膜53に覆われるようにして複数の配線105が設けられている。
【0036】
TFTアレイ基板10上における対向基板20の4つのコーナー部に対向する領域には、両基板間を上下導通材107で接続するための上下導通端子106が配置されている。これらにより、TFTアレイ基板10と対向基板20との間で電気的な導通をとることができる。
【0037】
図2において、TFTアレイ基板10上には、駆動素子である画素スイッチング用のTFTや走査線、データ線等の配線が作り込まれた積層構造が形成されている。この積層構造の詳細な構成については図2では図示を省略してあるが、この積層構造の上に、反射電極となる反射型の画素電極9aが設けられている。画素電極9aは典型的にはアルミニウムなどの光反射性の高い材料により、画素毎に所定のパターンで島状に形成され、入射光を反射する。なお、透過型液晶パネルの場合には、画素電極9aは、ITO等の透明材料から形成される。
【0038】
画素電極9aは、対向電極21に対向するように、TFTアレイ基板10上の画像表示領域10aに形成されている。TFTアレイ基板10における液晶層50の面する側の表面、即ち画素電極9a上には、配向膜16が画素電極9aを覆うように形成されている。
【0039】
対向基板20におけるTFTアレイ基板10との対向面上には、ITO等の透明材料からなる対向電極21が複数の画素電極9aと対向するように形成されている。また、画像表示領域10aにおいてカラー表示を行うために、開口領域及び非開口領域の一部を含む領域に、図2には図示しないカラーフィルターが形成されるようにしてもよい。対向基板20の対向面上における、対向電極21上には、配向膜22が形成されている。なお、透過型の液晶装置と同様に、対向基板20上に格子状又はストライプ状に遮光膜を形成し、非開口領域を設けてもよい。
【0040】
尚、図1及び図2に示したTFTアレイ基板10上には、上述したデータ線駆動回路101、走査線駆動回路104等の駆動回路に加えて、画像信号線上の画像信号をサンプリングしてデータ線に供給するサンプリング回路、複数のデータ線に所定電圧レベルのプリチャージ信号を画像信号に先行して各々供給するプリチャージ回路、製造途中や出荷時の当該液晶パネル100の品質、欠陥等を検査するための検査回路等を形成してもよい。
【0041】
次に、本実施形態に係る液晶パネル100の画素部の電気的な構成について、図3を参照して説明する。ここに図3は、本実施形態に係る電気光学装置が備える液晶パネルの画像表示領域を構成するマトリクス状に形成された複数の画素における各種素子、配線等の等価回路図である。
【0042】
図3において、画像表示領域10aを構成するマトリクス状に形成された複数の画素の各々には、画素電極9a及びTFT30が形成されている。TFT30は、画素電極9aに電気的に接続されており、液晶パネル100の動作時に画素電極9aをスイッチング制御する。画像信号が供給されるデータ線6aは、TFT30のソースに電気的に接続されている。データ線6aに書き込む画像信号S1、S2、・・・、Snは、この順に線順次に供給しても構わないし、相隣接する複数のデータ線6a同士に対して、グループ毎に供給するようにしてもよい。
【0043】
TFT30のゲートには、走査線3aが電気的に接続されており、液晶パネル100は、所定のタイミングで、走査線3aにパルス的に走査信号G1、G2、・・・、Gmを、この順に線順次で印加するように構成されている。画素電極9aは、TFT30のドレインに電気的に接続されており、スイッチング素子であるTFT30を一定期間だけそのスイッチを閉じることにより、データ線6aから供給される画像信号S1、S2、・・・、Snが所定のタイミングで書き込まれる。画素電極9aを介して液晶に書き込まれた所定レベルの画像信号S1、S2、・・・、Snは、対向基板に形成された対向電極との間で一定期間保持される。
【0044】
液晶層50(図2参照)を構成する液晶は、印加される電圧レベルにより分子集合の配向や秩序が変化することにより、光を変調し、階調表示を可能とする。例えば、ノーマリーホワイトモードであれば、各画素の単位で印加された電圧に応じて入射光に対する透過率が減少し、ノーマリーブラックモードであれば、各画素の単位で印加された電圧に応じて入射光に対する透過率が増加され、全体として液晶パネル100からは画像信号に応じたコントラストをもつ光が出射される。
【0045】
ここで保持された画像信号がリークすることを防ぐために、画素電極9aと対向電極21(図2参照)との間に形成される液晶容量と並列に蓄積容量70が付加されている。蓄積容量70は、画像信号の供給に応じて各画素電極9aの電位を一時的に保持する保持容量として機能する容量素子である。蓄積容量70の一方の電極は、画素電極9aと並列してTFT30のドレインに電気的に接続され、他方の電極は、定電位となるように、電位固定の容量線300に電気的に接続されている。蓄積容量70によれば、画素電極9aにおける電位保持特性が向上し、コントラスト向上やフリッカーの低減といった表示特性の向上が可能となる。
【0046】
次に、本実施形態に係る電気光学装置の全体構成について、図4及び図5を参照して説明する。ここに図4は、本実施形態に係る電気光学装置の全体構成を示す斜視図である。尚、図4以降の図では、図1及び図2に示した液晶パネル100における詳細な部材を適宜省略して図示している。
【0047】
図4において、本実施形態に係る電気光学装置は、液晶パネル100と、フレキシブル基板200と、フレーム310と、ヒートシンク320とを備えて構成されている。
【0048】
液晶パネル100の外部接続端子102には、フレキシブル基板200が接続されている。フレキシブル基板200は、上述の液晶パネル100の電気光学動作に要する種々の制御信号を送るための信号配線を含む基板であり、例えばポリイミド等の基材に信号配線等がパターニングされることによって形成されている。尚、フレキシブル基板200上には、液晶パネル100を駆動するための駆動回路の少なくとも一部を含む駆動用ICチップ等が配置されていてもよい。尚、フレキシブル基板200の液晶パネル100に接続された一端とは反対側の他端は、フレーム310及びヒートシンク320の外側に引き出されており、液晶パネル100の電気光学動作に要する種々の制御信号を供給するための外部回路(図示省略)に接続されている。
【0049】
フレーム310は、画像表示領域10aが設けられている表示面側から、液晶パネル100を保持する。フレーム310は、液晶パネル100を保持する保持部材としての機能に加えて、液晶パネル100の入射光及び反射光を制限する見切り部材としても機能する。本実施形態では特に、フレーム310は、例えば鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム等の熱導電性に優れた金属を含んで構成することにより、次に説明するヒートシンク320と共に液晶パネル100の放熱部材としても機能するように形成されている。
【0050】
ヒートシンク320は、表示面の反対側に位置する背面側から、液晶パネル100を保持する。ヒートシンク320は、液晶パネル100において発生した熱を放熱するための放熱部325を有している。これにより、液晶パネル100に熱が蓄積することによって液晶パネル100の動作不良等の種々の不具合が発生することを防止することができる。ヒートシンク320は、放熱効果を高めるために熱伝導性の高い材料、例えば、鉄、銅、アルミニウム等を含んで構成するとよい。
【0051】
フレーム310及びヒートシンク320は、図不示の接合部において互いに接合されている。ここでの接合は、例えば、フレーム310に設けられた凹部とヒートシンクに設けられた凸部とを嵌合させることによって行われてもよいし、接着剤やネジ等を用いて行われてもよい。
【0052】
続いて、本実施形態に係る電位光学装置のより具体的な構成について、図5を参照して説明する。図5は、本実施形態に係る電気光学装置の具体的な構成を示す断面図である。
【0053】
図5において、液晶パネル100及びフレーム310は、接着剤510によって互いに接着されている。接着剤510は、液晶パネル100の表面から側面にまで設けられている。液晶パネル100の表示面(即ち入射光が照射される側の面)には、防塵基板400が設けられている。防塵基板400は、本発明に係る「防塵用基板」の一例である。防塵基板400は、透明接着剤540によって、液晶パネル100における対向基板20に接着されている。防塵基板400は、対向基板20のTFTアレイ基板10に対向しない側に貼り付けられており、これは本発明に係る「対向基板の素子基板に対向しない側に設けられた」の一例である。防塵基板400の対向基板20との貼り合わせ面と反対側の面には、画像表示領域10aを部分的に規定する見切り板600が防塵基板400と接するように設けられている。見切り板600は、図示しない係合部においてフレーム310と係合されている。防塵基板400は、本発明に係る「第2の材料」の一例であるネオセラムから形成されている。ここで、ネオセラムは負極の線膨脹係数(典型的な線膨脹係数は、約−0.85〜−0.10×10−6(/℃)である。)を有する材料であり、対向基板20の材料である石英とは逆の極性の線膨脹係数を有している。見切り板600は、オーステナイト系ステンレスの代表的な鋼種である、SUS304(典型的な線膨脹係数は17.3×10−6(/℃))から形成されている。尚、見切り板600に用いる材料としては、他のオーステナイト系ステンレスの代表的な鋼種であるSUS430(典型的な線膨脹係数は10.4×10−6(/℃))を用いてもよい。
【0054】
ここで、図6を参照して、本実施形態に係る電気光学装置が備える見切り板600の平面的な形状について説明する。図6は、本実施形態に係る電気光学装置が備える見切り板600の構成を示す平面図である。
【0055】
見切り板600は、画像表示領域10aを囲うように設けられており、画像表示領域10a以外の領域に光が入射してしまうことを防止する。見切り板600は、見切り板600の周囲に配置されている、例えばフレーム310等の部材に比べて光反射率の低い材料から形成されている。
【0056】
図5に戻り、液晶パネル100及びヒートシンク320は、グリス520によって互いに接着されている。このグリス520は、空気より高い熱伝導性を有しており、液晶パネル100において発生した熱を、効率よくヒートシンク320に伝達することが可能とされている。よって、放熱部325における放熱効果を高めることができる。
【0057】
また、フレーム310及びヒートシンク320間にも、グリス530が充填されている。このため、フレーム310からヒートシンク320に効率的に熱を伝達することができる。即ち、液晶パネル100からフレーム310に伝達された熱を、効率的にヒートシンク320の放熱部325で放熱することが可能となる。
なお、本実施形態に係るグリス520、530は、液晶パネル100及びヒートシンク320間並びにフレーム310及びヒートシンク320間を充填するように塗布したが、それぞれ一部にのみグリス520、530を塗布してもよいし、液晶パネル100及びヒートシンク320間並びにフレーム310及びヒートシンク320間にはグリス520、530を塗布しなくてもよい。また、グリス520及びグリス530は、それぞれ熱伝導性を有する部材であればよく、例えば、グリスに代えて又は加えて熱伝導性を有するシートや接着剤等を用いることができる。
【0058】
次に、本実施形態に係る電気光学装置の内部に生ずる応力の分布について、図7を参照して説明する。ここに図7は、本実施形態に係る電気光学装置の各部材に印加される応力を模式的に示す拡大断面図である。
【0059】
電気光学装置の動作により、電気光学装置の内部において発熱が生じると、電気光学装置を構成する各部位において熱膨張又は熱収縮が起こる。対向基板20は、正極の線膨脹係数を有する材料である石英から形成されているため、膨脹しようとする方向に変形する。このとき、対向基板20の内部に生じる応力を、図7において矢印aで模式的に図示している。一方、防塵基板400は、負極の線膨脹係数を有する材料であるネオセラムから形成されているため、収縮しようとする方向に変形する。このとき、防塵基板400の内部に生じる応力を、図7において矢印bで模式的に図示している。
【0060】
ここで、図8は、本実施形態に係る電気光学装置の対向基板及び防塵基板における、発熱時の応力の分布を模式的に示す模式図である。
【0061】
上述のように、対向基板20では、発熱時に膨脹しようとする方向に応力が生じる。この応力は、石英という材料の特性により、図8(a)に示すように、対向基板20の中心部から外側に向かって放射状に広がるように分布する。一方、防塵基板400では、発熱時に収縮しようとする方向に応力が生じる。この応力は、ネオセラムという材料の特性により、図8(b)に示すように、防塵基板400の中心部の周囲を同心円状に広がるように分布する。
【0062】
ここで、図8(c)は、発熱時に対向基板20及び防塵基板400において生じる応力を、同一平面に重ねて示す模式図である。点線1aで囲んで示すように、放射状に分布する対向基板20における応力と、同心円状に分布する防塵基板400における応力とは、互いに直交する。従って、対向基板20における応力と防塵基板400における応力は、互いに相殺されることによって軽減される。その結果、発熱時に応力によって生じる対向基板20及び防塵基板400における歪み(例えば、素子基板10及び対向基板20間のギャップが変化すること)を抑制することができ、液晶パネル100の表示画像における色むらを解消し、画質を向上させることができる。
【0063】
再び図7に戻って、見切り板600は、正極の線膨脹係数を有する材料であるオーステナイト系ステンレスから形成されているため、膨脹しようとする方向に変形する。このとき、対向基板20の内部に生じる応力を、図7において矢印cで模式的に図示している。一方、上述したように、防塵基板400では、発熱時に収縮しようとする方向に応力が生じる。この応力は、ネオセラムという材料の特性により、図8(b)に示すように、防塵基板400の中心部の周囲を同心円状に広がるように分布する。発熱時における防塵基板400と見切り板600において生じる応力は、上述の対向基板20と防塵基板400とにおいて生じる応力と同様に、互いに相殺することによって軽減される。
【0064】
尚、対向基板20、防塵基板400及び見切り板600の材料、サイズ等は、これら全体で見た場合に、発熱時における応力が相殺されることにより、打ち消されるように選択するとよい。つまり、対向基板20、防塵基板400及び見切り板600間における応力のベクトル和がゼロに近づくように設定することにより、応力をより効果的に軽減可能である。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、発熱に伴う応力を軽減することによって、色むらが生じにくく高品位な画像表示が可能な電気光学装置を実現することが可能である。
【0066】
<電子機器>
次に、上述した電気光学装置である液晶装置を各種の電子機器に適用する場合について説明する。ここでは、本発明に係る電子機器として、投射型液晶プロジェクターを例にとる。図9は、本実施形態に係る投射型液晶プロジェクターの図式的断面図である。
【0067】
図9において、本実施形態に係る液晶プロジェクター1100は、夫々RGB用の液晶ライトバルブ100R、100G及び100Bの3枚を用いた複板式カラープロジェクタとして構築されている。液晶ライトバルブ100R、100G及び100Bの各々は、上述した反射型の液晶装置が使用されている。
【0068】
図9に示すように、液晶プロジェクター1100では、メタルハライドランプ等の白色光源のランプユニット1102から投射光が発せられると、2枚のミラー1106、2枚のダイクロイックミラー1108及び3つの偏光ビームスプリッタ(PBS)1113によって、RGBの3原色に対応する光成分R、G及びBに分けられ、各色に対応する液晶ライトバルブ100R、100G及び100Bに夫々導かれる。尚、この際、光路における光損失を防ぐために、光路の途中にレンズを適宜設けてもよい。そして、液晶ライトバルブ100R、100G及び100Bにより夫々変調された3原色に対応する光成分は、クロスプリズム1112により合成された後、投射レンズ1114を介してスクリーン1120にカラー映像として投射される。
【0069】
尚、液晶ライトバルブ100R、100B及び100Gには、ダイクロイックミラー1108及び偏光ビームスプリッタ1113によって、R、G、Bの各原色に対応する光が入射するので、カラーフィルターを設ける必要はない。
【0070】
図9を参照して説明した電子機器の他にも、モバイル型のパーソナルコンピューターや、携帯電話、液晶テレビ、ビューファインダー型、モニタ直視型のビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた装置等が挙げられる。そして、これらの各種電子機器に、本発明の電気光学装置を適用可能なのは言うまでもない。
【0071】
本発明は、上述の実施形態で説明した反射型の液晶装置以外にも、透過型液晶装置、プラズマディスプレイ(PDP)、電解放出型ディスプレイ(FED、SED)、有機ELディスプレイ、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)、電気泳動装置等にも適用可能である。
【0072】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電気光学装置、及び該電気光学装置を備えた電子機器もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0073】
3a…走査線、6a…データ線、9a…画素電極、10…TFTアレイ基板、10a…画像表示領域、20…対向基板、30…TFT、50…液晶層、100…電気光学パネル、101…データ線駆動回路、102…外部回路接続端子、104…走査線駆動回路、200…フレキシブル基板、310…フレーム、320…ヒートシンク、325…放熱部、400…防塵ガラス、510…接着剤、520…グリス、540…透明接着剤、600…見切り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子基板及び対向基板間に電気光学物質を挟持してなる電気光学パネルと、
前記対向基板の前記素子基板との対向面とは反対側の面に貼り合わされた防塵用基板と
を備え、
前記対向基板及び前記防塵用基板のうち一方の基板は正極の線膨脹係数を有する第1の材料からなり、前記対向基板及び前記防塵用基板のうち他方の基板は負極の線膨脹係数を有する第2の材料からなることを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記素子基板は、前記対向基板と同じ極性の線膨脹係数を有する材料からなることを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記防塵用基板の前記対向基板との貼り合わせ面とは反対側に該防塵用基板と接するように設けられた遮光板を備え、
該遮光板は、前記防塵用基板を形成する材料とは逆極性の線膨脹係数を有する材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記第1の材料は石英であり、前記第2の材料はネオセラムであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記電気光学パネルは、反射型であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電気光学装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の電気光学装置を具備する電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−150226(P2011−150226A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12894(P2010−12894)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】