説明

電気化学セル

【課題】信頼性が高く高容量な電気化学セルを提供する。
【解決手段】電気化学セルは、凹状容器1と、凹状容器1の底部における複数のビアホールの各々に形成された複数のビア配線L2と、凹状容器1の外側底面に形成された正極用外部端子と、凹状容器1の開口部に接合されたシールリング2と、シールリング2に接合され、開口部を封口する蓋3とを備える。凹状容器1はセラミックからなり、シールリング2と蓋3とは金属からなる。凹状容器1の内側底面には、複数のビア配線L2における一方の端面を覆う保護膜9が形成され、凹状容器1、シールリング2、および、蓋3によって形成される空間には、正極7及び負極6と電解質10とが収納され、電解質10は、液体状またはゲル状である。複数のビア配線L2の各々では、一方の端面が保護膜9を介して正極7に電気的に接続され、他方の端面が底部内の層間配線L1を介して正極用外部端子と電気的に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面実装可能な電気化学セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面実装可能な電気化学セル(電気二重層キャパシタおよび電池)は、時計機能のバックアップ電源や半導体メモリのバックアップ電源などに使用されている。こうした小型の電気化学セルでは、半導体メモリの不揮発化、時計機能素子の低消費電力化に伴い、大容量、大電流の必要性が減ってきている一方、環境的配慮や実装機器の小型化に伴い、リフローハンダ付けに対する耐性や実装面積の縮小化などに対する要求が強くなっている。
【0003】
上記電気化学セルの実装では、あらかじめプリント基板上のハンダ付けを行う部分にハンダクリーム等を塗布し、その部分に電気化学セルを載置する。あるいは、プリント基板に電気化学セルを載置後、ハンダ付けを行う部分にハンダ小球(ハンダバンプ)を供給する。次いで、ハンダ付部分がハンダの融点以上(例えば、200〜260℃)になるように設定された高温雰囲気の炉内に、電気化学セルを搭載したプリント基板を通過させる。そして、ハンダを溶融させて、電気化学セルのハンダ付けを行う。このため、電気化学セルには、リフローハンダ付けに対する熱的耐性や機械的耐性が強く望まれている。
【0004】
また、従来、電気化学セルのケースには、コインやボタンのような丸い形状が採用されている。こうした電気化学セルでは、上記リフローハンダ付けを行うために、ケースの外側面にあらかじめ端子等を溶接しておく必要がある。しかも、プリント基板には、端子用のデットスペースを設ける必要がある。このため、電気化学セルには、実装機器の小型化に伴い、その実装面積の縮小化が強く望まれている。
【0005】
そこで、熱的耐性や縮小化の要求に対応すべく、特許文献1の電気化学セルは、ケースに凹状のセラミック容器(以下単に、凹状容器という。)を用い、その凹部(収納室)に電極及び電解質を収納する。そして、凹状容器の外側底面に設けた金属膜を端子として利用する。
【0006】
特許文献1の端子は、凹部内に形成された内部端子と、凹状容器の外側面に形成された外部端子を有し、凹部に配置された正極と外部端子との間を電気的に導通させる。こうした端子は、凹状容器を構成する板状のセラミックグリーンシートと、枠状のセラミックグリーンシートを用いて以下のように形成する。すなわち、板状セラミックグリーンシートの上面に、融点の高いタングステンやモリブデンを主体とした材料のパターン印刷を施す。次いで、該パターンを有した板状セラミックグリーンシート上に枠状セラミックグリーンシートを貼り合せ、2枚を約1,500℃で一括焼結する。これによって、内部端子と外部端子の双方を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−216952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記端子を構成する材料は、液体などの電解質と接触すると、充電や放電電流によって腐食する。腐食が進行すると、ついには断線して機能しなくなる。
こうした問題は、内部端子上に、内部端子を電解質から保護する保護膜を形成し、該保護膜の保護によって回避可能と考えられる。この保護膜は、アルミニウムや炭素を主体とした腐食が少ない材料を用い、蒸着、スパッタ、溶射、噴射、ペースト塗布などの方法で形成することができる。しかし、いずれの方法も粒子を堆積させた膜のため、微小なピンホールを有することがある。この結果、保護膜にピンホールのないものでは、長時間良好な特性を示すが、ピンホールのあるものでは、徐々に電解質が保護膜中を浸透し、ついには内部端子を腐食して端子を断線させる。ピンホールの発生は、保護膜の膜厚を厚くすることにより低減できると考えられるが、膜形成に時間がかかり電気化学セルが高価になる。また、保護膜の厚み相当分の電極厚みを減らさなければならないため、電気化学セルの容量が減ってしまう。
【0009】
本発明はこれらの欠点を解決し、信頼性が高く高容量な電気化学セルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、凹状容器と、前記凹状容器の底部における複数のビアホールの各々に形成された複数のビア配線と、前記凹状容器の外側底面に形成された外部端子と、前記凹状容器の開口部に接合されたシールリングと、前記シールリングに接合され、前記開口部を封口する蓋と、を備える電気化学セルであって、前記凹状容器はセラミックからなり、前記シールリングと前記蓋とは金属からなり、前記凹状容器の内側底面には、前記複数のビア配線における一方の端面を覆う保護膜が形成され、前記凹状容器、前記シールリング、及び、前記蓋によって形成される空間には、一対の電極と電解質とが収納され、前記電解質は、液体状またはゲル状であり、前記複数のビア配線の各々では、前記一方の端面が前記保護膜を介して前記一対の電極の一方に電気的に接続され、他方の端面が前記底部内の配線を介して前記外部端子と電気的に接続される電気化学セルを提供する。
【0011】
また、上記電気化学セルにおいて、前記底部は、第1底部と、前記第1底部に積層された第2底部とを備え、前記配線は、前記第1底部と前記第2底部との間に形成された層間配線であり、前記第1底部、前記第2底部、前記層間配線、及び、前記複数のビア配線は、一括焼結して形成されていることが好ましい。
【0012】
また、上記電気化学セルにおいて、前記複数のビア配線は、前記凹状容器の前記内側底面における中央近傍に形成されていることが好ましい。
また、上記電気化学セルにおいて、前記セラミックは、アルミナ、窒化ケイ素、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、ムライト及びこれらの複合材料からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましい。
【0013】
また、上記電気化学セルにおいて、前記ビア配線及び前記配線は、タングステン、モリブデン、ニッケル、金及びこれらの複合材料からなる群から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ単層または複数層からなるものであっても良い。
【0014】
また、上記電気化学セルにおいて、前記シールリングは、コバールからなることが好ましい。
また、上記電気化学セルにおいて、前記蓋は、コバールからなることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態における電気化学セルの断面図。
【図2】本発明の第1実施形態における凹状容器の斜視図。
【図3】本発明の第1実施形態における電気化学セルの分解図。
【図4】比較例における凹状容器の斜視図。
【図5】本発明の第2実施形態における電気化学セルの断面図。
【図6】本発明の第2実施形態における凹状容器の斜視図。
【図7】本発明の第2実施形態における凹状容器の底面図。
【図8】本発明の第2実施形態における電気化学セルの分解図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
本発明を具体化した第一実施形態の電気化学セル(電気二重層キャパシタおよび電池)を図1〜図4に従って説明する。図1は、電気化学セルの断面図、図2は、該電気化学セルを構成する凹状容器の斜視図、図3は、該電気化学セルの分解図を示す。
【0017】
図1において、電気化学セルは、凹状容器1を有している。図2において、凹状容器1は、上方を開放した箱体状のセラミックからなる容器であって、四角板状の底部1aと、底部1aの外縁に沿う四角枠状の壁部1bを有している。凹状容器1には、アルミナ、窒化ケイ素、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化アルミ、ムライト及びこれらの複合材料からなる群から選ばれた少なくとも1種類を含むセラミックを用いることができる。また、凹状容器1には、ガラスやガラスセラミックスなどの耐熱材料も用いることができる。このような材料を用いた凹状容器1は、リフローハンダ付けに対する優れた耐熱性を有し、封口された状態の凹部(収納室)の気密性を向上させる。図3において、こうした凹状容器1は、例えば、底部1aに対応するセラミックグリーンシートと、壁部1bに対応するセラミックグリーンシートとを積層して一括焼結し、積層体として形成することができる。
【0018】
図1において、凹状容器1の開口部には、四角枠状のシールリング2が接合されている。シールリング2には、熱膨張係数がセラミックの熱膨張係数と近いコバールなどを用いることができる。このシールリング2は、Ag−Cu合金やAu−Cu合金などのロウ材4で凹状容器1に接合されている。
【0019】
シールリング2の上側には、四角板状の蓋3が接合されている。蓋3には、熱膨張係数がセラミックの熱膨張係数と近いコバールや42alloyなどの合金にニッケルメッキを施したものを用いることができる。このような材料を用いた蓋3は、例えば、抵抗シーム溶接、レーザーシーム溶接、電子ビーム溶接などによってシールリング2に溶接させることができ、封口された状態の凹部の気密性を向上させる。
【0020】
凹状容器1の凹部(収納室)には、その底面側から順に、正極7、セパレータ8、負極6が積層されて、電解質10が充填されている。
負極6と正極7には、電気化学セルを電気二重層キャパシタとして使用する場合に、それぞれおが屑、椰子殻、ピッチなどを賦活処理して得られる活性炭粉末を、適当なバインダーと一緒にプレス成型、または圧延ロールしたものを用いることができる。また、フェノール系、レーヨン系、アクリル系、ピッチ系などの繊維を、不融化および炭化賦活処理して活性炭または活性炭繊維とし、これをフェルト状、繊維状、紙状、または焼結体状にして用いてもよい。またポリアニリン(PAN)やポリアセンなども利用できる。
【0021】
また、負極6には、電気化学セルを電池として使用する場合に、炭素、リチウム−アルミニウムなどのリチウム合金、シリコンやシリコン酸化物など従来から知られている活物質に適当なバインダーと導電助剤であるグラファイトを混合したものを用いることができる。
【0022】
また、正極7には、電気化学セルを電池として使用する場合に、リチウム含有マンガン酸化物、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、リチウム含有チタン酸化物、三酸化モリブデン、五酸化ニオブなど、従来から知られている活物質に適当なバインダーと導電助剤であるグラファイトを混合したものを用いることができる。
【0023】
セパレータ8には、大きなイオン透過度を有し、機械的強度を有する絶縁膜を用いることができる。リフロー炉での実装と、蓋3の溶接による熱影響を考慮すると、セパレータ8には、熱的、機械的耐性に優れたガラス繊維を用いることができるが、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチエンなどの樹脂を用いてもよい。
【0024】
電解質10は、公知の電気二重層キャパシタや非水電解質二次電池に用いられる液体状、ゲル状のものが好ましい。
液体状及びゲル状の電解質10に用いられる有機溶媒には、アセトニトリル、ジエチルエーテル、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボーネート、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、γ−ブチロラクトン(γBL)などがある。
【0025】
液体状及びゲル状の電解質10に含まれる材料には、(C254PBF4、(C374PBF4、(CH3)(C253NBF4、(C254NBF4、(C254PPF6、(C254PCF3SO4、(C254NPF6、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO22]、チオシアン塩、アルミニウムフッ化塩、リチウム塩などを用いることができるが、これらに限定するものではない。また、ゲル状の電解質には、液体にポリマーゲルを含浸させたものがある。ポリマーゲルとしては、ポリエチレンオキシド、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデンが適しているが、これらに限定するものではない。
【0026】
また、電解質には、イオン性液体とも呼ばれる常温溶融塩も使用することができる。常温溶融塩は、揮発性が低いため、蓋3を溶接する際の熱による電解質の揮発をなくすことができる。また、常温溶融塩に有機溶媒を混合し、常温や低温での電気伝導度を調整してもよい。常温溶融塩は、下記カチオンとアニオンの組み合わせからなる。
【0027】
電気二重層キャパシタに用いる常温溶融塩には、イミダゾリウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピロリウムカチオン、ピロリニウムカチオン、ピロリジニウムカチオンが適している。中でも、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン(EMI+)は電気伝導率が特に高くキャパ
シタ電解質に適している。
【0028】
イミダゾリウムカチオンには、ジアルキルイミダゾリウムカチオンとトリアルキルイミダゾリウムカチオンが含まれる。具体的には、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン(DMI+)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン(EMI+)、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムカチオン(MEI+)、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムカチオン(MBI+)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン(BMI+)、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムカチオン(TMI+)、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムカチオン(DMEI+)、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン(DMPI+)、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン(BDMI+)などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0029】
ピリジニウムカチオンとしては、N−エチルピリジニウムカチオン(EP+)、N−n−ブチルピリジニウムカチオン、N−s−ブチルピリジニウムカチオン、N−n−プロピルピリジニウムカチオン、1−エチル−2−メチルピリジニウムカチオン、1−n−ヘキシル−2−メチルピリジニウムカチオン、1−n−ブチル−4−メチルピリジニウムカチオン、1−n−ブチル−2,4−ジメチルピリジニウムカチオンなどを用いることができるが、これらに限定されない。
【0030】
ピラゾリウムカチオンとしては、1,2−ジメチルピラゾリウムカチオン、1−エチル−2−メチルピラゾリウムカチオン、1−プロピル−2−メチルピラゾリウムカチオン、1−ブチル−2−メチルピラゾリウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
ピロリウムカチオンとしては、1,1−ジメチルピロリウムカチオン、1−エチル−1−メチルピロリウムカチオン、1−メチル−1−プロピルピロリウムカチオン、1−ブチル−1−メチルピロリウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
ピロリニウムカチオンとしては、1,2−ジメチルピロリニウムカチオン、1−エチル−2−メチルピロリニウムカチオン、1−プロピル−2−メチルピロリニウムカチオン、1−ブチル−2−メチルピロリニウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
ピロリジニウムカチオンとしては、1,1−ジメチルピロリジニウムカチオン、1−エチル−1−メチルピロリジニウムカチオン、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムカチオン、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
アニオンには、AlCl、AlCl、HF、NO、NO、BF、PF、AsF、SbF、NbF、TaF、CHCO、CFCO、CCO、CHSO、CFSO、CSO、N(CFSO、N(CSO、C(CFSO、N(CN)が用いられる。
【0035】
図2及び図3において、凹状容器1の外側底面には、正極7に対応する共通外部端子としての正極用外部端子5b1と、負極6に対応する負極用外部端子5b2とが形成されている。正極用外部端子5b1と負極用外部端子5b2は、それぞれ凹状容器1の底面から凹状容器の外周面に延設され、対応する電極に接続される。これら正極用外部端子5b1及び負極用外部端子5b2は、図示しないプリント基板に接続される端子であって、電気化学セルをプリント基板にリフローハンダ付けする際に利用される。
【0036】
図3において、底部1aの上面であって、底部1aと壁部1bとの間の層には、一対の内層配線5cが形成されている。一対の内層配線5cは、底部1aの外縁に沿って延びる帯状に形成されて、共通する正極用外部端子5b1に接続されている。
【0037】
底部1aの上面であって、凹部に対応する領域には、互いに離間する6本の内部端子5aが帯状に配列形成されている。6本の内部端子5aの各々は、前記内層配線5cの形成方向に沿って互いに離間するように併設されている。6本の内部端子5aの各々は、底部1aと壁部1bとの間の層で、いずれか一方の内層配線5cに共通接続されている。
【0038】
すなわち、6本の内部端子5aの各々は、凹状容器1の凹部で電気的に絶縁されている。そして、6本の内部端子5aの各々は、電解質10と触れない部分で、正極用外部端子5b1に共通接続されている。
【0039】
これによって、6本の内部端子5aの各々は、すべての内部端子5aが断線しない限り、凹状容器1の内部と正極用外部端子5b1との間の電気的接続を維持させることができる。
【0040】
内部端子5aは、その数量(本数)が多くなると、電気化学セルの電気的機能を損なう可能性を低くする。一方、内部端子5aは、その数量(本数)が過度に多くなると、隣接する内部端子5aとの間の距離が過度に短くなる。内部端子5a間の距離が過度に短くなると、内部端子5aは、パターン形成時のマスクズレなどによって、内部端子5a間の短絡を招く。そのため、内部端子5aの数量(本数)は、内部端子5aの位置精度に応じたピッチで形成するのが好ましい。
【0041】
これら内部端子5a、正極用外部端子5b1及び内層配線5cには、それぞれタングステン、モリブデン、ニッケル、金及びこれらの複合材料からなる群から選ばれた少なくとも1種類を用いることができ、かつ単層または複数層で構成することができる。
【0042】
これら内部端子5a、正極用外部端子5b1及び内層配線5cは、以下のように形成するのが好ましい。すなわち、底部1aに対応するセラミックグリーンシートに、融点の高いタングステンやモリブデンをパターン印刷する。そして、該セラミックグリーンシート上に壁部1bに対応するセラミックグリーンシートを重ね合わせ、高温で一括焼結する。これによって、露出する内部端子5a及び正極用外部端子5b1と、内層の内層配線5cを一括形成することができる。次いで、露出する内部端子5a及び正極用外部端子5b1上に、ニッケルメッキと金メッキを施す。すると、ハンダ付け性がよく、高い電気導電性を有した正極用外部端子5b1を形成できると同時に、高い電気導電性を有した内部端子5aを形成できる。
【0043】
本実施形態では、これら内部端子5a、正極用外部端子5b1及び内層配線5cによって端子が構成される。
図1において、凹状容器1の凹部の底面であって、前記内部端子5aと前記正極7との間には、保護膜9が形成されている。保護膜9は、耐腐食性が高く、導電性を有した薄膜であって、凹状容器1の凹部底面にのみ形成されている。保護膜9は、前記内部端子5aの全体を覆うように積層されて、各内部端子5aと電解質10との間の接触を抑制し、充電や放電による内部端子5aの腐食を抑制する。この保護膜9には、耐腐食性が高く、低抵抗材料であるアルミニウムまたは炭素を主体とした材料を用いることができる。アルミニウムからなる保護膜9は、JISにより規定された純アルミニウム系、Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Mg系合金などを用いた蒸着、スパッタ、溶射、ペースト塗布などの方法で形成することができる。特に、蒸着やスパッタで形成したアルミニウムの保護膜9は、ピンホールが少ない点で好ましい。また、グラファイトなどの炭素からなる保護膜9は、内側底面に熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂)中に分散した導電性接着剤を塗布し、硬化させたものを利用することができる。導電性接着剤からなる保護膜9は、凹状容器1と正極7との間の接着層としても利用することができる。また、保護膜9は、そのピンホールを減らすために、これらを積層してもよい。
【0044】
これによって、複数の内部端子5aの各々は、保護膜9の分だけ、その電解質10との間の接触を抑制させることができる。この結果、複数の内部端子5aの各々は、より長期にわたり、凹状容器1の内部と正極用外部端子5b1との間の電気的接続を維持させることができる。
【0045】
次に、上記電気化学セルを製造する製造方法について以下に説明する。なお、以下では、上記電気化学セルを、縦×横×厚みが5mm×3mm×1mmの電気二重層キャパシタに具体化しているが、これに限定されるものではない。
【0046】
まず、底部1aに対応するアルミナセラミックグリーンシートに、端子に対応するパターンを印刷する。すなわち、タングステンペーストを用いて、6本の内部端子5a、正極用外部端子5b1、負極用外部端子5b2及び一対の内層配線5cに対応するパターンを印刷する。内部端子5aに対応するパターンは、例えば、幅が0.3mm、ピッチが0.3mmである。
【0047】
次いで、他のアルミナセラミックグリーンシートを打ち抜き、壁部1bに対応するアルミナセラミックグリーンシートを形成する。そして、底部1a及び壁部1bに対応する2枚のアルミナセラミックグリーンシートを貼り合せた後、約1500℃で一括焼結する。これによって、凹状容器1を形成することができる。また、凹状容器1の内層に、一対の内層配線5cを形成することができる。
【0048】
凹状容器1及び内層配線5cを形成すると、凹状容器1の開口部に、コバールからなるシールリング2をAg−Cuのロウ材4で接合する。次いで、凹状容器1の表面に露出する金属部分に、ニッケルメッキ、金メッキを施す。これによって、シールリング2の表面に、溶接するときの接合材をメッキ成膜することができる。また、タングステン−ニッケル−金からなる内部端子5aと、正極用外部端子5b1及び負極用外部端子5b2を形成することができる。すなわち、電気化学セルの端子を形成することができる。
【0049】
凹状容器1と端子を形成すると、凹状容器1の凹部底面に、純アルミニウムのスパッタ成膜を施し、厚みが5μmのアルミニウム膜を成膜する。また、該アルミニウム膜上に、フェノール樹脂にグラファイトを分散させた導電性接着剤を塗布して硬化させる。これによって、アルミニウム膜と導電性接着層の2層からなる厚みが50μmの保護膜9を形成する。
【0050】
次いで、厚さが0.1mmのコバールの板材にニッケルメッキを施して4.5mm×2.5mmのサイズに打ち抜き、蓋3を形成する。
また、市販の活性炭にグラファイトとポリテトラフルオロエチエンを9:1:1の割合で混合して圧延し、厚みが200μmの活性炭シートを形成する。そして、活性炭シートを四角形に打ち抜き、正極7と負極6を形成する。
【0051】
正極7と負極6を形成すると、正極7と保護膜9を前記導電性接着剤で接着し、蓋3と負極6を前記導電性接着剤で接着する。
正極7と負極6をそれぞれ保護膜9と蓋3に接着したあと、ガラス繊維製のセパレータ8を正極7の上に配置させる。次いで、プロピレンカーボネート(PC)に(CNBFを1mol/L溶かした電解質10を凹状容器1に注入する。そして、蓋3をシールリング2上に配置し、蓋3上の2点をスポット抵抗溶接により仮止めした後、2つのローラー電極がある抵抗シーム溶接機で蓋3の全周を窒素雰囲気中で溶接する。
【0052】
これによって、電気化学セルを電気二重層キャパシタとして作成することができる。そして、6本の内部端子5aの各々を、それぞれ電解質10と触れない部分で正極用外部端子5b1に接続させることができる。
【0053】
次に、上記電気化学セルの作用について以下に説明する。なお、以下では、上記電気化学セルを電気二重層キャパシタに具体化しているが、これに限定されるものではない。
まず、上記電気二重層キャパシタ(実施例)と比較するための二種類の電気二重層キャパシタ(比較例1及び比較例2)を、以下のように形成する。
【0054】
すなわち、図4に示すように、凹状容器1の内側底面に、1本だけ内部端子5aを形成する。そして、保護膜9の厚みを上記実施形態と同じ50μmだけ形成し、その他は上記実施形態と同様の構成にして、比較例1の電気二重層キャパシタを作成する。
【0055】
また、図4に示すように、凹状容器1の内側底面に、1本だけ内部端子5aを形成する。そして、保護膜9の厚みを250μmとし、正極7と負極6の厚みを100μmとし、その他は上記実施形態と同様の構成にして、比較例2の電気二重層キャパシタを作成する。
【0056】
次いで、各電気二重層キャパシタ(実施例、比較例1、比較例2)の各々を、ピーク温度が260℃のリフロー炉に通し、リフローハンダ付けを行う。そして、各電気二重層キャパシタの初期容量と故障率を計測する。
【0057】
各電気二重層キャパシタの初期容量は、正極−負極間に2.5Vを印加して充電を行った後、5μAの定電流で放電を行い、正極−負極間の電圧が2Vになるまでの時間から算出する。
【0058】
各電気二重層キャパシタの故障率は、それぞれ100個の電気二重層キャパシタの容量測定に基づいて算出する。すなわち、70℃の恒温槽内に載置した各電気二重層キャパシタの正極−負極間に2.5Vの電圧を1000時間加え続けた後、初期容量を測定したときと同条件で容量測定を行う。そして、初期容量の10%以下になったものを故障とみなし、各電気二重層キャパシタの故障率を算出する。これら試験の結果を表1に示す。
【0059】
表1において、比較例1(内部端子5aが1本で保護膜9が50μmのもの)では、1000時間経過後の容量で初期容量の10%以下になるものが20%ある。これらの内部抵抗を測定すると、その値は無限大であり、透過X線で内部端子5aを観察すると、断線していた。
【0060】
比較例2(内部端子5aが1本で保護膜9が250μmのもの)では、1000時間経過後の容量で初期容量の10%以下になるものが5%ある。但し、比較例2では、故障率が比較例1よりも小さいものの、正極7や負極6を薄くした分だけ、その容量が少なくなる。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例(内部端子5aが6本で保護膜9が50μmのもの)では、1000時間経過後の容量で初期容量の10%以下になるものが、100個の中で0個である。透過X線でこれらの内部端子5aを観察すると、6本すべて断線していないものや、6本のうち1本が断線しているものがあったが、6本すべてが断線しているものはなかった。
【0063】
このように、内部端子5aが電解質10との接触で腐食する材料であっても、故障が少なく信頼性が高い電気二重層キャパシタを提供することができる。なお、実施例や比較例では、電気化学セルを電気二重層キャパシタに具体化したが、電気化学セルを電池に具体化しても、同様の効果が得られる。
【0064】
本実施形態は、以下の利点を有する。
(1)電気化学セルの端子は、電解質10を収納する凹部に、互いに離間する6本の内部端子5aを有する。6本の内部端子5aの各々は、凹状容器1の凹部の外側、すなわち電解質10と触れない部分で、内層配線5cに共通接続される。内層配線5cは、凹状容器1の外周面で正極用外部端子5b1に共通接続される。従って、内部端子5aが電解質10との接触によって腐食する場合であっても、すべての内部端子5aが腐食して断線しない限り、電気化学セルの電気的特性を維持させることができる。この結果、信頼性が高く高容量な電気化学セルを提供することができる。
【0065】
(2)一対の内層配線5cは、凹状容器1の外周面で正極用外部端子5b1に接続される。従って、いずれか一方の内層配線5cが腐食して電解質10が外部端子5bに到達する場合であっても、該電解質10を揮発させることができる。この結果、外部端子5bの腐食を確実に回避させることができる。
【0066】
(3)6本の内部端子5aの各々は、それぞれ電解質10と接触する側に保護膜9を有している。保護膜9は、6本の内部端子5aの全体を覆うように積層されている。保護膜9は、耐腐食性がよく、低抵抗材料であるアルミニウムまたは炭素を主体とした材料で形成されている。従って、6本の内部端子5aの各々は、それぞれ保護膜9を介する分だけ、電解質10との間の接触を抑制し、充電や放電による腐食を抑制させることができる。この結果、電気化学セルの信頼性を、さらに向上させることができる。
【0067】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第二実施形態を、上記第一実施形態との相違点を中心に、図5〜図8に従って説明する。図5は第二実施形態の電気化学セルの断面図、図6は該電気化学セルを構成する凹状容器の斜視図、図7は該凹状容器の底面図、図8は該電気化学セルの分解図を示す。
【0068】
図5及び図6において、凹状容器1の底部には、その底面側から順に、四角板状の第1底部1a1と第2底部1a2が備えられている。
図7及び図8に示すように、第1底部1a1の底面には、正極7に対応する共通外部端子としての正極用外部端子5b1と、負極6に対応する負極用外部端子5b2が形成されている。正極用外部端子5b1と負極用外部端子5b2は、第一実施形態と同じく、それぞれ凹状容器1の底面から凹状容器の外周面に延設されて対応する電極に接続される。
【0069】
図8において、第1底部1a1と第2底部1a2との間には、6本の層間配線L1が形成されている。6本の層間配線L1の各々は、凹状容器1の外側面で正極用外部端子5b1に共通接続されて、第1底部1a1の上面略中央に導かれている。各層間配線L1には、タングステン、モリブデン、ニッケル、金及びこれらの複合材料からなる群から選ばれた少なくとも1種類を用いることができ、かつ単層または複数層で構成することができる。
【0070】
第2底部1a2には、第1底部1a1と凹部(収納室)との間を貫通する6本のビア配線L2が形成されている。6本のビア配線L2の各々は、第2底部1a2の中央近傍に形成されて、対応する前記層間配線L1に接続されている。6本のビア配線L2の各々は、対応する上部端面のみを凹部底面に露出している。
【0071】
第二実施形態では、各ビア配線L2の上部端面が、それぞれ対応する内部端子5aを構成している。また、これらビア配線L2と層間配線L1が、内層配線5cを構成している。
【0072】
各ビア配線L2には、タングステン、モリブデン、ニッケル、金及びこれらの複合材料からなる群から選ばれた少なくとも1種類を用いることができ、かつ単層または複数層で構成することができる。これによれば、凹状容器1とビア配線L2を一括焼結して形成することができる。あるいは、このビア配線L2には、炭素と樹脂を混合したペーストを用いることもできる。これによれば、凹状容器1を一括焼結した後に、各ビアホールをペーストで充填させることができ、その加工精度を向上させることができる。しかも、電解質10との接触による腐食を、さらに抑制させることができる。
【0073】
このビア配線L2からなる内部端子5aは、第一実施形態と同じく、数量(本数)が多くなるほど、電気化学セルの電気的機能を、より長期にわたり維持させることができる。しかも、ビア配線L2からなる内部端子5aは、第一実施形態の内部端子5aに比べて、凹部底面に露出する面積を、より小さくすることができる。そのため、ビア配線L2からなる内部端子5aは、パターン形成時のマスクズレなどによる内部端子5a間の短絡を抑制させるとともに、その電解質10との接触頻度を低下させる。
【0074】
凹状容器1の凹部底面であって、各ビア配線L2(内部端子5a)と正極7との間には、第一実施形態と同じく、保護膜9が形成されている。
保護膜9は、凹状容器1の凹部側面にマスクを施し、該凹部内にスパッタ、溶射、ペースト塗布などを施すことによって形成される。こうした方法で成膜される保護膜9は、凹部底面の縁で凹部中央近傍よりも粗な膜質(ピンホールを多く含んだ膜質)を呈する。そのため、本実施形態の内部端子5aは、その形成位置が第2底部1a2の中央近傍である分だけ、粗な膜質の保護膜9を回避し、より良質な保護膜9によって保護される。
【0075】
本実施形態は、第一実施形態の利点(1)〜(3)と同様の利点に加えて、以下の利点を有する。
(4)電気化学セルの端子は、電解質10を収納する凹部底面に、互いに離間する6本のビア配線L2を有する。6本のビア配線L2の各々は、上部端面(内部端子5a)のみを凹部底面に露出して正極7に共通接続される。従って、ビア配線L2からなる内部端子5aは、その露出面積を小さくする分だけ、電解質10との接触頻度を低下させることができる。この結果、電気化学セルの信頼性を、さらに向上させることができる。
【0076】
(5)しかも、同一の総面積からなる内部端子5aを形成する場合には、各内部端子5aの面積を縮小できる分だけ、内部端子5aの数量を増大させることができる。従って、電気化学セルの信頼性を、さらに向上させることができる。
【0077】
(6)6本のビア配線L2の各々は、その形成位置が、第2底部1a2の中央近傍になる。従って、内部端子5aが第2底部1a2の中央近傍に形成される分だけ、全ての内部端子5aを、より良質の保護膜9によって保護させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹状容器と、
前記凹状容器の底部における複数のビアホールの各々に形成された複数のビア配線と、
前記凹状容器の外側底面に形成された外部端子と、
前記凹状容器の開口部に接合されたシールリングと、
前記シールリングに接合され、前記開口部を封口する蓋と、
を備える電気化学セルであって、
前記凹状容器はセラミックからなり、
前記シールリングと前記蓋とは金属からなり、
前記凹状容器の内側底面には、前記複数のビア配線における一方の端面を覆う保護膜が形成され、
前記凹状容器、前記シールリング、及び、前記蓋によって形成される空間には、一対の電極と電解質とが収納され、
前記電解質は、液体状またはゲル状であり、
前記複数のビア配線の各々では、
前記一方の端面が前記保護膜を介して前記一対の電極の一方に電気的に接続され、
他方の端面が前記底部内の配線を介して前記外部端子と電気的に接続される
ことを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記底部は、
第1底部と、前記第1底部に積層された第2底部とを備え、
前記配線は、前記第1底部と前記第2底部との間に形成された層間配線であり、
前記第1底部、前記第2底部、前記層間配線、及び、前記複数のビア配線は、一括焼結して形成されている
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記複数のビア配線は、前記凹状容器の前記内側底面における中央近傍に形成されている
請求項1または請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記セラミックは、アルミナ、窒化ケイ素、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、ムライト及びこれらの複合材料からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含む
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記ビア配線及び前記配線は、タングステン、モリブデン、ニッケル、金及びこれらの複合材料からなる群から選ばれる少なくとも1種類からなり、かつ単層または複数層からなる
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記シールリングは、コバールからなる
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記蓋は、コバールからなる
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電気化学セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−21372(P2013−21372A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−237855(P2012−237855)
【出願日】平成24年10月29日(2012.10.29)
【分割の表示】特願2010−165378(P2010−165378)の分割
【原出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】