説明

電気化学式アルコールセンサ

【構成】 電解質を挟んでPt系の電極触媒を用いた作用極と、Pt系の電極触媒を用いた対極とを設ける。作用極の電極触媒濃度と対極の電極触媒濃度との比を重量比で1〜4とし、作用極の面積当たりの電極触媒濃度を0.06〜0.15mg/mm2とする。
【効果】 水素やCOに対してアルコールを選択的に検出でき、かつ応答時間が短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電気化学式アルコールセンサに関し、特に水素やCOなどによる誤報を除去し、かつ応答時間を短くすることに関する。この発明のアルコールセンサは、例えば呼気中のエタノール濃度の検出に用いる。
【背景技術】
【0002】
呼気中のエタノール濃度の測定などのために、電気化学式のアルコールセンサが用いられている。またアルコールセンサを用いて、皮膚から蒸発するエタノール濃度を測定することなども知られている。エタノール濃度の測定では、例えば78ppm以上かどうかと130ppm以上かどうかを検出する。妨害ガスとして、喫煙者の場合、呼気中に最大80ppm程度のCOが含まれることがあり、内臓に疾患のある人の場合、呼気中に200ppm程度の水素が含まれることがある。これらのため、水素やCOに対する相対感度を増す必要がある。またアルコールセンサは、醸造工業での発酵の管理や、メタノール燃料電池での燃料中のメタノール濃度の管理、イソプロパノールなどのアルコール溶媒濃度の管理などにも用いることができる。そしてこれらの用途の場合も水素やCOに対する選択性が要求される。
【0003】
作用極と対極とで貴金属触媒濃度を変えることに関して、特許文献1:特開2004−212157は、作用極の触媒濃度を0.004〜0.02mg/mm2Ptとし、対極の触媒濃度を0.01mg/mm2Ptとすることを開示している。なお特許文献1のセンサは、高分子プロトン導電体膜の両面に電極を配置したもので、燃料ガス中の水素濃度の測定用のセンサである。
【特許文献1】特開2004−212157
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、水素やCOに対してアルコールを選択的に検出でき、かつ応答時間が短い電気化学式アルコールセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、液状もしくは固体の電解質を挟んで、PtもしくはPt合金からなる電極触媒を用いた作用極と、PtもしくはPt合金からなる電極触媒を用いた対極とを設けた電気化学式アルコールセンサにおいて、
作用極の電極触媒濃度と対極の電極触媒濃度との比を重量比で1〜4とし、
かつ作用極の面積当たりの電極触媒濃度を0.06〜0.15mg/mm2としたことを特徴とする。
好ましくは、作用極の電極触媒と対極の電極触媒との重量比を1.5〜2.5とし、作用極の面積当たりの電極触媒濃度を0.08〜0.12mg/mm2とする。
【発明の効果】
【0006】
図4から明らかなように、作用極(W.E.)と対極(C.E.)との電極触媒濃度の比によって、アルコールや水素、COへの感度が変化する。この比を大きくするといずれのガスへの感度も小さくなるが、感度の落ち込みは水素で最も著しく、COがこれに次ぎ、アルコールでは比較的小さい。従って作用極と対極との電極触媒濃度の比を適正な範囲内にすると、アルコールへの感度を比較的大きな値に保ちながら、水素やCOに対する相対感度を改善できる。
【0007】
次に図5から明らかなように、作用極の電極触媒濃度はセンサのアルコールに対する応答時間に影響し、作用極の面積当たりの電極触媒濃度が0.06〜0.15mg/mm2で応答時間が短くなり、0.08〜0.12mg/mm2で応答時間は特に短くなる。
そこで、作用極と対極との電極触媒濃度の比と、作用極の電極触媒濃度を適正な値とすることにより、水素やCOに対する相対感度を改善すると共に、アルコールへの感度を比較的大きな値に保ち、かつアルコールへの応答時間を短くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0009】
図1〜図6に、実施例のアルコールセンサ2とその特性とを示す。図1はアルコールセンサ2の構造を示し、4はポリプロピレンなどのハウジングで、面積が例えば1mm2の拡散孔6を備えている。なおハウジング4内への拡散制御の機構は任意である。8,10はガス拡散膜で、ここでは例えば膜厚100μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜を用い、多孔質でガスの拡散を行うと共に、作用極12や対極14を支持する。ガス拡散膜8,10の厚さは例えば40μm〜5mmが好ましい。
【0010】
作用極12や対極14はここではPt黒からなり、例えば表面積が30〜60m2/g、例えば40m2/gのPt黒をPTFEの微粉末と共にテルピネオールなどの溶媒に分散させ、ガス拡散膜8,10の表面に塗布する。そして溶媒を蒸発させ、PTFE微粉末をバインダとして、Pt黒をガス拡散膜8,10の表面に固定する。なお作用極12や対極14の形成方法は任意で、例えば作用極や対極の材料を分散させたコロイド溶液をガス拡散膜8,10により濾過して、表面にPt電極触媒を担持させてもよい。あるいはまた、作用極12や対極14をガス拡散膜8,10に担持させた後に、80〜120℃程度で熱処理しても良い。さらにPTFEなどのバインダを用いず、作用極材料や対極材料をガス拡散膜8,10上に塗布した後に、プレスを施しても良い。
【0011】
16はセパレータで、ここではポリエチレンからなる多孔質の親水性膜を用い、膜厚は例えば50μm〜5mmとし、実施例では1mmとする。ポリエチレン表面にカルボキシル基やアセチル基などの親水性基を導入することにより、多孔質のポリエチレンを親水化でき、基材はポリエチレンに限らずポリプロピレンやPTFEなどでもよい。またガラス繊維などのフィルムの表面を親水化することにより、セパレータ16としてもよい。セパレータ16に例えば硫酸を支持させるが、電解質の種類は任意である。硫酸は空気中との間で水蒸気を吸放出するため、濃度は一定ではないが、濃度の初期値は47重量%である。なおセパレータ16に代え、厚さが20〜200μm程度の高分子プロトン導電体膜を用いてもよい。作用極12や対極14はそれぞれ直径が32mmであるが、電極12,14のサイズ自体は任意である。
【0012】
実施例では電極12,14の電極触媒として共にPt黒を用いたが、例えば80wt%Pt-20wt%RuなどのPt合金の微粉末を用いてもよい。電極触媒の量は金属換算で表し、作用極や対極の表面積当たりの重量で電極触媒の量を表す。これは作用極や対極の表面積当たりの電極触媒の重量により、電極反応の種類が変化するためである。また実施例では電極触媒は貴金属微粉末としたが、貴金属微粉末をカーボンなどの単体に担持させたものを、ガス拡散膜の表面に支持させても良い。作用極12や対極14にPtから成るリード線20,21を取り付け、増幅回路22へ接続して、作用極12と対極14間の電流を増幅する。以下のデータでは、電極12,14間の電流の絶対値を示す。
【0013】
作用極や対極でのPt触媒の量を変えて、表1に示すサンプルを調製した。これらのサンプルを用いて、アルコールセンサ2の特性を測定した。測定では特にガス濃度を示さない場合、エタノール300ppmと水素300ppm並びにCO300ppmを用いた。
【0014】
表1 サンプルリスト
サンプル Pt触媒濃度(mg/mm2) 触媒濃度比 ガス感度(μA/300ppm)
No. 作用極 対極 エタノール 水素 CO
1 0.03 0.06 0.5 18 6 4
2 0.06 0.06 1.0 16 4 3
3 0.08 0.06 1.3 15 3 3
4 0.10 0.06 1.7 14 2 2
5 0.12 0.06 2.0 12 2 2
6 0.135 0.06 2.25 10 0.5 1
7 0.15 0.06 2.5 9 0 0.5

8 0.10 0.15 0.67 20 5 4
9 0.10 0.10 1.0 15 2 3
4 0.10 0.06 1.7 14 2 2
10 0.10 0.03 3.3 6 -1 0.5
11 0.12 0.03 4.0 6 -2 0
12 0.10 0.015 6.7 2 -2 0

13 0.023 0.10 0.23 25 9 7
14 0.035 0.10 0.35 20 7 5
15 0.066 0.10 0.66 20 5 4
9 0.10 0.10 1.0 15 2 3

16 0.084 0.03 2.8 6 -1 0.5
10 0.10 0.03 3.3 6 -1 0.5
11 0.12 0.03 4.0 6 -2 0
17 0.18 0.03 6.0 2.5 -2 0

18 0.06 0.01 1/6 26 10 8
19 0.10 0.05 2 11 0.5 1

* 表を見やすくするため、同じサンプルを複数回表示している.
* 図2〜図6は別々に測定したため、同じサンプルでも僅かにデータが異なることがある.
* 表のデータは図2〜図6から読み取ったもので、データの詳細は図2〜図6を優先する.
【0015】
図2に、対極でのPt触媒濃度を0.06mg/mm2に固定し、作用極のPt量を変化させた場合のガス感度を示す。作用極の触媒濃度を増すとガス感度が変化する。作用極のPt濃度を増した場合、水素感度の低下が最も著しく、CO感度の低下がこれに次ぎ、エタノール感度の低下は水素やCOに比べると緩やかである。
【0016】
図3に、作用極でのPt触媒濃度を0.1mg/mm2に固定し、対極でのPt触媒濃度を変化させた場合のガス感度を示す。対極の触媒濃度を増すほどガス感度は増加し、対極での触媒濃度が低い場合、水素感度は負となり、CO感度は0となる。これに対してエタノール感度は0まで低下することはない。
【0017】
作用極の表面積当たりのPt触媒濃度と、対極の表面積当たりでのPt触媒濃度との重量比と、ガス感度を、図4に示す。用いたサンプルは図2や図3の測定に用いたサンプルと、これ以外のものとを含んでいる。作用極と対極とでの電極触媒濃度の比を大きくすることにより、水素感度は負となり、CO感度はほぼ0となる。これに対してエタノール感度は0まで低下することはない。そこでこの比を適正な範囲とすることにより、エタノール感度をある程度の大きさに保ちながら、CO感度や水素感度を充分に小さくできる。作用極と対極とでの電極触媒濃度の比は、重量比で1〜4が好ましく、より好ましくは1.5〜2.5とし、最適値は2の付近である。
【0018】
負の水素感度が生じる原因として、セパレータ中を水素が拡散して対極側まで移動する、もしくはハウジングとセパレータとの隙間を水素が拡散する、などのことが考えられる。このようなことが生じ得るのは、セパレータの厚さが比較的薄く、例えば5mmだからである。次に作用極でのガス感度に寄与する反応は、式(1)〜式(3)の反応である。これ以外にガス感度に寄与しない副反応として、式(4)〜式(7)の反応がある。
式(4)では作用極で生成したアセトアルデヒドが酢酸へ酸化され、式(5)で酢酸とエタノールとが反応して酢酸エチルが生成する。式(5)の反応は、作用極でのエタノール濃度を低下させるので、エタノール感度を小さくする。式(6)や式(7)では、水素やCOをガス感度に寄与しないままで消費する。そこで作用極と対極とでの電極触媒の濃度比を大きくすることにより、作用極で式(4)〜式(7)の副反応が進行しやすくなる、あるいは対極で式(1)〜(3)の反応が進行し易くなり、作用極ので感度を打ち消すものとすると、相対感度の変化を説明できる。そして作用極と対極とでの電極触媒の濃度比の変化に対して、ガス種毎に異なる結果が得られることは、副反応の生じやすさやガスのクロスオーバーの起こりやすさがガス種により異なる、とすると説明できる。
【0019】
C2H5OH→CH3CHO+2H++2e- (1)
H2→2H++2e- (2)
CO+H2O→CO2+2H++2e- (3)

CH3CHO+1/2O2→CH3CHOOH (4)
CH3CHOOH+C2H5OH→CH3CHOOCH2CH3 (5)
H2+1/2O2→H2O (6)
CO+1/2O2→CO2 (7)
【0020】
図2や図3に戻ると、電極触媒の濃度が高いほど、式(4)〜式(7)の副反応が起こりやすくなるとすると、データを説明できる。また図3は、何らかの形で対極側にエタノールや水素、COなどが拡散していること、即ちクロスオーバーが生じていることを示唆している。
【0021】
次に、ガスセンサの応答性能は、作用極での電極触媒濃度に依存する。エタノール300ppmに対する、ガスの導入から応答の完了までの90%分の応答時間を、図5に示す。作用極でのPt濃度を0.06〜0.15mg/mm2とすることにより応答速度を大きくでき、特に0.08〜0.12mg/mm2とすると、応答時間は30秒程度でほぼ一定となる。このため作用極でのPt触媒濃度を0.06〜0.15mg/mm2とすることが好ましく、より好ましくは0.08〜0.12mg/mm2とする。図5では、対極でのPt触媒濃度を0.06mg/mm2としたが、対極のPt触媒濃度を0.03〜0.10mg/mm2の範囲で変更しても、90%応答時間に有意差は生じなかった。
【0022】
図6に、作用極のPt触媒濃度を0.1mg/mm2、対極のPt触媒濃度を0.05mg/mm2とした際の、エタノールと水素とCOへのガス感度を示す。ガス感度はガス濃度に対して直線性があり、70ppm程度のエタノールに対して、300ppm程度の水素やCOよりも充分高感度である。
【0023】
実施例ではPt黒を電極触媒としたが、電極触媒をPt-RuなどのPt合金(Pt量が80重量%以上)としても、結果はほぼ同様であった。また実施例では室温で特性を測定したが、0℃〜40℃程度の範囲で、エタノールに対する水素やCOの相対感度はほぼ同様であった。また温度を増すと応答速度自体は速くなるが、0℃〜40℃程度の範囲で、作用極でのPt触媒濃度が0.06〜0.15mg/mm2程度、特に0.08〜0.12mg/mm2で、エタノールへの応答速度の最大値が得られることは変わらなかった。エタノールへの応答速度また厚さ1mmのセパレータに硫酸を支持させることに代えて、膜厚40μmの高分子プロトン導電体膜を用いても、図2〜図6と同様の結果が得られた。

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例のアルコールセンサの断面図
【図2】対極のPt濃度を0.06mg/mm2Ptに固定し、作用極のPt濃度を変えた際のガス感度を示す特性図
【図3】作用極のPt濃度を0.10mg/mm2Ptに固定し、対極のPt濃度を変えた際のガス感度を示す特性図
【図4】作用極のPt濃度と対極のP濃度との比による、ガス感度の変化を示す特性図
【図5】作用極のPt濃度によるエタノール300ppmへの90%応答時間の変化を示す特性図
【図6】最適実施例でのガス感度を示す特性図
【符号の説明】
【0025】
2 アルコールセンサ
4 ハウジング
6 拡散孔
8,10 ガス拡散膜
12 作用極
14 対極
16 セパレータ
20,21 リード線
22 増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状もしくは固体の電解質を挟んで、PtもしくはPt合金からなる電極触媒を用いた作用極と、PtもしくはPt合金からなる電極触媒を用いた対極とを設けた電気化学式アルコールセンサにおいて、
作用極の電極触媒濃度と対極の電極触媒濃度との比を重量比で1〜4とし、
かつ作用極の面積当たりの電極触媒濃度を0.06〜0.15mg/mm2としたことを特徴とする、電気化学式アルコールセンサ。
【請求項2】
作用極の電極触媒と対極の電極触媒との重量比を1.5〜2.5とし、
かつ作用極の面積当たりの電極触媒濃度を0.08〜0.12mg/mm2としたことを特徴とする、請求項1の電気化学式アルコールセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−229285(P2009−229285A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75879(P2008−75879)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)