説明

電気化学式ガスセンサ、及びその作用極

【課題】糜爛性ガスを選択的かつ高い感度で検出することができる電気化学式ガスセンサを提供すること。
【解決手段】作用極部材10と、対極22とを電解液24に浸漬して構成された電気化学式ガスセンサにおいて、作用極が炭素繊維からなるシート状の基材11の平均粒径4ナノメートル以下の金(Au)の粒子12を分散、保持させて構成されている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス透過性膜に形成した酸化触媒を作用極としてガスの濃度を検出する電気化学式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学式ガスセンサは、撥水性を備えた通気性多孔質膜に導電性酸化触媒層を形成した作用極と、対極、及び参照極とを電解液に浸漬して構成されている。
導電性酸化触媒層としては通常、白金黒が使用されているが、選択性が低く、特にマスタードやルイサイトなどの糜爛性ガスに対する感度が低く、これらのガスに対する感度の向上を求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであってその目的とするところは糜爛性ガスを選択的かつ高い感度で検出することができる電気化学式ガスセンサを提供することである。
本発明の他の目的は上記電気化学式ガスセンサに適した作用極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を達成するために本発明においては、作用極と、対極とを電解液に浸漬して構成された電気化学式ガスセンサにおいて、前記作用極が炭素繊維からなるシート状の基材の平均粒径4ナノメートル以下の金(Au)の粒子を分散、保持させて構成されている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、マスタードガスのような糜爛性ガスを高い選択性と感度で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
図中符号10は、本発明が特徴とする作用極部材で、電解液24を収容するケース20のガス取り入れ口21に液密状態で固定されており、被測定ガスの濃度に応じて対極22との間に電解電流を生じるように構成されている。なお図中符号23は参照極である。
【0007】
作用極部材10は、例えば炭素繊維をパンチングや圧縮によりシート状に形成して構成された導電性と通気性を有する基材11と、この基材を構成する繊維の間に平均粒径4ナノメートル以下の金(Au)の粒子12を分散、保持させて構成されている。
なお、必要に応じて電解液の漏れを防止するために被測定ガス流入側に通気性と撥水性を備えた多孔質シート13を密着させてもよい。
【0008】
上記金の粒子を分散、保持させる方法は、塩化金酸をNaBH4により還元して加熱により平均粒径4ナノメートルまで成長させて粒子状とし、この金粒子を揮発性を有する液体、例えばトルエンに懸垂させて基材11に均一に含浸させ、最後に300℃程度に加熱して液体を揮散させ工程からなる。
【0009】
このように分散された金粒子12は、基材を構成する各繊維11aの表面に分散し、繊維は金粒子により修飾されていることが透過電子顕微鏡(TEM)により確認できた。
【0010】
次に厚さ0.3mmの基材を0.1g用意し、これに金粒子の修飾量を異ならせた作用極部材を製作してセンサとしてのベースラインドリフト、及び被測定ガス(マスタードガス)に対する感度との関係を調査したところそれぞれ図2(a)、及び図2(b)のような結果となった。
【0011】
すなわち、図2(a)からも明らかなように金粒子の修飾量とベースラインドリフトとはほぼ比例関係にあり、また図2(b)からも明らかなようにマスタードガスに対して最大感度を示す金粒子の修飾量は厚さ0.3mm、0.1gの基材に換算して1μgがピークであることが判明した。
【0012】
すなわち、金粒子の修飾量とS/N比との関係は、図3に示すように厚さ0.3mm、0.1gの基材に対して金粒子0.5μgがピークであることがわかった。
【0013】
これらの結果を踏まえて厚さ0.3mm、0.1gの基材に金粒子を0.5μg程度分散させた作用極部材を製作してマスタードガスに対する応答性、及び直線性を調査した。応答性は、図4に示すように白金黒を使用した通常の電気化学式ガスセンサよりも速かった。
【0014】
一方、マスタードガスの濃度と検出値は、図5に示すようにほぼ直線性を維持することが確認できた。
【0015】
最後に各種ガスに対する干渉性を調査したところ表1のような結果となった。すなわち大気中に存在するCO、NO、NO2、SO2、Cl2、NH3などのガスに対してはきわめて感度が低く、また半導体材料ガス(AsH3、B2H6、PH3、SiH4)に対しても感度も低かった。このことからマスタードを高い感度と選択性で検出できることが確認できた。
【0016】
【表1】

【0017】
なお、上述の実施例においては電解液の漏洩を確実に防止するため被測定ガス流入側に撥水性を備えた通気性多孔質膜を配置しているが、導電性基材が十分な撥水性を備えている場合には不要であることは明らかである。また上述の実施例においては参照極を備えた3極式について説明したが、作用極部材と対極だけの2極式のガスセンサの作用極として使用しても同様の作用効果を奏することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図(a)、(b)は、それぞれ本発明の電気化学式ガスセンサの一実施例を示す断面図、及び作用極部材を拡大して示す図面に代える写真である。
【図2】図(a)、(b)はそれぞれ金粒子の修飾量とベースラインドリフト、及び信号強度との関係を示す線図である。
【図3】金粒子の修飾量とS/N比との関係を示す線図である。
【図4】応答性を示す図である。
【図5】被測定ガスの濃度と出力との関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0019】
10 作用極部材 11 導電性と通気性とを有する繊維からなる基材 12 平均粒径4ナノメートル以下の金(Au)の粒子 13 多孔質シート 22 対極 24 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極と、対極とを電解液に浸漬して構成された電気化学式ガスセンサにおいて、
前記作用極が炭素繊維からなるシート状の基材の平均粒径4ナノメートル以下の金(Au)の粒子を分散、保持させて構成されている電気化学式ガスセンサ。
【請求項2】
前記作用極のガス流入側に通気性と撥水性を備えたガス透過膜が密着して配置されている請求項1に記載の電気化学式ガスセンサ。
【請求項3】
炭素繊維からなるシート状の基材の平均粒径4ナノメートル以下の金(Au)の粒子を分散、保持させて構成された電気化学式ガスセンサ用作用極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−85130(P2010−85130A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251957(P2008−251957)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術総合研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)