説明

電気化学素子正極電極用複合粒子、電気化学素子正極電極材料、及び電気化学素子正極電極

【課題】集電体に対して高い密着性を示し、かつ、初期容量が高く、内部抵抗が低く、高温保存特性及びサイクル特性に優れた電気化学素子正極電極を与えることのできる電気化学素子正極電極用複合粒子を提供すること。
【解決手段】ニッケルを含有する正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体を含むことを特徴とする電気化学素子正極電極用複合粒子を提供する。好ましくは、前記水溶性重合体が、酸性基として、スルホン酸基および/またはカルボキシル基を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子正極電極用複合粒子、電気化学素子正極電極材料、及び電気化学素子正極電極に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量であり、エネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能なリチウムイオン二次電池などの電気化学素子は、その特性を活かして急速に需要を拡大している。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が比較的に大きいことから携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ、電気自動車などの分野で利用されている。
【0003】
これら電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、機械的特性や生産性の向上など、より一層の改善が求められている。このような状況において、電気化学素子電極に関してもより生産性の高い製造方法が求められており、高速成形可能な製造方法及び該製造方法に適合する電気化学素子電極用材料について様々な改善が行われている。
【0004】
電気化学素子電極は、通常、電極活物質と、必要に応じて用いられる導電材とを結着剤で結着することにより形成された活物質層を集電体上に積層してなるものである。このような活物質層を形成する方法として、特許文献1,2には、電極活物質、ゴム粒子及び分散媒としての水を含む水系スラリーを得て、得られた水系スラリーを噴霧乾燥することにより粒子状の電極材料を得て、得られた電極材料を用いて電極活物質層を形成する方法が開示されている。
【0005】
一方、リチウムイオン二次電池の高性能化に向けて、正極用活物質の開発が進められており、高容量化へ向けて、ニッケル等の遷移金属を含有する正極用活物質が注目を浴びている。
このような高容量向け活物質は、活物質製造時に使用される炭酸リチウムが活物質中に残存することにより強い塩基性を示すものである。そのため、このような活物質を用いて水系スラリーとし、得られた水系スラリーを噴霧乾燥した場合には、強い塩基性により噴霧乾燥装置など製造装置が腐食してしまい、これにより、水系スラリー中に異物が混入してしまい、電極とした際に、サイクル特性などの電池特性が低下してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4219705号公報
【特許文献2】特開2010−109354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、集電体に対して高い密着性を示し、かつ、初期容量が高く、内部抵抗が低く、高温保存特性及びサイクル特性に優れた電気化学素子正極電極を与えることのできる電気化学素子正極電極用複合粒子を提供することを目的とする。また、本発明は、このような電気化学素子正極電極用複合粒子を用いて得られる電気化学素子正極電極材料、及び電気化学素子正極電極を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、ニッケルを含有する正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体を含有する複合粒子が、集電体に対して高い密着性を示し、かつ、電極とした場合に、初期容量が高く、内部抵抗が低く、高温保存特性及びサイクル特性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、ニッケルを含有する正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体を含むことを特徴とする電気化学素子正極電極用複合粒子が提供される。
本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子において、前記水溶性重合体が、酸性基として、スルホン酸基および/またはカルボキシル基を含有することが好ましい。
【0010】
本発明によれば、上記いずれかの電気化学素子正極電極用複合粒子を含んでなることを特徴とする電気化学素子正極電極材料が提供される。
また、本発明によれば、上記の電気化学素子正極電極材料から形成される活物質層を集電体上に積層してなることを特徴とする電気化学素子正極電極が提供される。
本発明の電気化学素子正極電極は、前記活物質層を前記集電体上に、加圧成形により積層してなるものであることが好ましく、ロール加圧成形により積層してなるものであることがより好ましい。
さらに、本発明によれば、上記いずれかの電気化学素子正極電極用複合粒子を製造する方法であって、前記正極活物質、前記非水溶性粒子状重合体、及び前記水溶性重合体を水に分散させてスラリーを得る工程と、前記スラリーを噴霧乾燥して造粒する工程と、を有する電気化学素子正極電極用複合粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、集電体に対して高い密着性を示し、かつ、初期容量が高く、内部抵抗が低く、高温保存特性及びサイクル特性に優れた電気化学素子正極電極を与えることのできる電気化学素子正極電極用複合粒子、ならびに、このような電気化学素子正極電極用複合粒子を用いて得られる電気化学素子正極電極材料、及び電気化学素子正極電極を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子は、ニッケルを含有する正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体を含むことを特徴とする。
【0013】
(正極活物質)
本発明で用いる正極活物質は、ニッケルを含有する活物質であればよく、特に限定されないが、本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子をリチウム系二次電池用の正極電極用の複合粒子とする場合には、ニッケルを含有する酸化物、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物などを用いることができる。これらのなかでも、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好ましく、これらは、従来よりリチウム系二次電池の正極活物質として用いられているコバルト酸リチウム(LiCoO)と比較して、高容量であるため、好適である。リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物としては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
LiNi1−x−yCo
(ただし、0≦x<1、0≦y<1、x+y<1、Mは、B、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種の元素)
【0014】
(非水溶性粒子状重合体)
本発明で用いる非水溶性粒子状重合体は、非水溶性であり、粒子形状を有する重合体であればよく特に限定されない。特に、非水溶性粒子状重合体としては、本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子内において、粒子状態を保持した状態、すなわち、正極活物質上に粒子状態を保持した状態で存在できるものが好ましい。電気化学素子正極電極用複合粒子内において、粒子状態を保持した状態で存在することにより、電子伝導を阻害することなく、正極活物質同士を良好に結着することが可能となる。なお、本発明において、“粒子状態を保持した状態”とは、完全に粒子形状を保持した状態である必要はなく、その粒子形状をある程度保持した状態であればよく、たとえば、正極活物質同士を結着した結果、これら正極活物質同士によりある程度押しつぶされたような形状となっていてもよい。
【0015】
このような非水溶性粒子状重合体としては、たとえば、分散媒として水を用いた乳化重合に得られた重合体などが挙げられ、この場合には、非水溶性粒子状重合体は、分散媒としての水に分散させた状態で用いられる。このような重合体の具体例としては、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、シリコン系重合体などが挙げられ、これらのなかでも、ジエン系重合体、アクリレート系重合体が好ましく、アクリレート系重合体が特に好ましく用いられる。
【0016】
アクリレート重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる構造単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」と記すことがある。)を含む重合体であり、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル単量体〔アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの意。以下、同様。〕の単独重合体又はこれらを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、および(メタ)アクリル酸トリデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等のカルボン酸含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のフッ素基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸リン酸エチル等のリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等が挙げられる。
【0018】
これら(メタ)アクリル酸エステル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、非水溶性粒子状重合体を電解液に対する膨潤性の低いものとすることができ、これにより、電極とした際におけるサイクル特性を向上させることができるという点より、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
【0019】
非水溶性粒子状重合体中における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは50〜95重量%であり、より好ましくは60〜90重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合を上記範囲とすることにより、電気化学素子正極電極とした際における柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとすることができる。
【0020】
また、アクリレート系重合体としては、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体と、これと共重合可能な単量体との共重合体であってもよく、このような共重合可能な単量体としては、たとえば、α,β−不飽和ニトリルモノマー、酸成分を有するビニルモノマーなどが挙げられる。
【0021】
α,β−不飽和ニトリルモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0022】
非水溶性粒子状重合体中におけるα,β−不飽和ニトリルモノマー単位の含有割合は、好ましくは3〜40重量%であり、より好ましくは5〜30重量%である。α,β−不飽和ニトリルモノマー単位の含有割合を上記範囲とすることにより、バインダとしての結着力をより高めることができる。前記α,β−不飽和ニトリルモノマー単位は、α,β−不飽和ニトリルモノマーを重合して得られる構造単位のことをいう。
【0023】
酸成分を有するビニルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、メタクリル酸、イタコン酸がより好ましい。
【0024】
非水溶性粒子状重合体中における酸成分を有するビニルモノマー単位の含有割合は、好ましくは1.0〜7.0重量%であり、より好ましくは1.5〜5.0重量%である。酸成分を有するビニルモノマー単位の含有割合を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性を向上させることができる。前記酸成分を有するビニルモノマー単位は、酸成分を有するビニルモノマーを重合して得られる構造単位のことをいう。
【0025】
さらに、アクリレート系重合体としては、上述した各単量体と共重合可能な他の単量体を共重合したものであってもよく、このような他の単量体としては、たとえば、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、芳香族ビニル系単量体、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、複素環含有ビニル化合物などが挙げられる。
【0026】
非水溶性粒子状重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000〜1000,000、より好ましくは20,000〜500,000である。非水溶性粒子状重合体の重量平均分子量を上記範囲にすることにより、電気化学素子負極電極とした場合における強度を十分なものとすることができる。なお、非水溶性粒子状重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、テトラヒドロフランを展開溶媒としたポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0027】
また、非水溶性粒子状重合体の平均粒子径は、好ましくは50〜200nm、より好ましくは60〜185nm、さらに好ましくは70〜160nmである。非水溶性粒子状重合体の平均粒子径を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性を良好なものとしながら、バインダとしての結着力を向上させることができる。
【0028】
本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子中における、非水溶性粒子状重合体の含有割合は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、さらに好ましくは0.8〜3重量部である。非水溶性粒子状重合体の含有割合を上記範囲とすることで、電気化学素子正極電極とした際におけるイオン伝導を良好なものとしながら、正極活物質同士の結着力及び集電体に対する密着性の向上効果をより高めることができる。
【0029】
(酸性基を有する水溶性重合体)
本発明で用いる酸性基を有する水溶性重合体は、酸性基を有する水溶性の重合体であればよく、特に限定されないが、酸性基として、スルホン酸基、カルボキシル基、及びリン酸基の少なくとも1つを有するものが好ましく、スルホン酸基及びカルボキシル基の少なくとも1つを有するものがより好ましく、スルホン酸基及びカルボキシル基を有するものが特に好ましい。特に、本発明で用いる酸性基を有する水溶性重合体を、スルホン酸基及びカルボキシル基を有するものとする場合には、スルホン酸基含有単量体及びカルボキシル基含有単量体、ならびに必要に応じて用いられるこれらと共重合可能な単量体を共重合して得られる共重合体が好ましい。
【0030】
本発明においては、酸性基を有する水溶性重合体は、電気化学素子正極電極用複合粒子の製造工程において、正極活物質、及び非水溶性粒子状重合体とともに、水に分散させてスラリーとした際における、分散剤及びpH調整剤として作用する。そして、本発明においては、酸性基を有する水溶性重合体の分散剤としての作用により、スラリー化した際の正極活物質の分散性を向上させる効果及び集電体との密着性を向上させる効果を実現することができる。また、これに加えて、本発明においては、スラリー化した際に、従来であれば、活物質が含有するニッケルの影響でスラリーのpHが高くなってしまうことで噴霧乾燥装置など製造装置が腐食してしまうという不具合を、酸性基を有する水溶性重合体がpH調整剤としての作用することにより有効に防止することができる。
【0031】
スルホン酸基含有単量体としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホブチルメタクリレートなどのスルホン酸基以外の官能基を有さないスルホン酸基含有化合物;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)などのアミド基とスルホン酸基とを含有する化合物;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)などのヒドロキシル基とスルホン酸基とを含有する化合物;などが挙げられる。また、これらのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを用いることもできる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)が好ましい。
【0032】
酸性基を有する水溶性重合体中のスルホン酸基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは2〜15重量%であり、より好ましくは2〜10重量%、さらに好ましくは2〜8重量%である。スルホン酸基含有単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、スラリー化した際における正極活物質の分散性向上効果及び集電体に対する密着性向上効果をより高めることができる。前記スルホン酸基含有単量体単位は、スルホン酸基含有単量体を重合して得られる構造単位のことをいう。
【0033】
カルボキシル基含有単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸;2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などのモノカルボン酸の誘導体;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸;無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などのジカルボン酸の酸無水物;メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のジカルボン酸の誘導体;などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アクリル酸、及びメタクリル酸が好ましい。
【0034】
酸性基を有する水溶性重合体中のカルボキシル基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは20〜60重量%であり、より好ましくは20〜50重量%、さらに好ましくは20〜40重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、集電体に対する密着性をより向上させることができる。前記カルボキシル基含有単量体単位は、カルボキシル基含有単量体を重合して得られる構造単位のことをいう。
【0035】
また、本発明で用いる酸性基を有する水溶性重合体は、上述したスルホン酸基含有単量体及びカルボキシル基含有単量体に加えて、(メタ)アクリル酸エステル単量体をさらに共重合したものであることが好ましい。
【0036】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、及び(メタ)アクリル酸ブチルがより好ましい。
【0037】
酸性基を有する水溶性重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは25〜78重量%であり、より好ましくは45〜75重量%、さらに好ましくは60〜70重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、集電体に対する密着性の向上効果をより高めることができる。前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる構造単位のことをいう。
【0038】
酸性基を有する水溶性重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜100,000、より好ましくは1,500〜80,000、さらに好ましくは2,000〜75,000である。重量平均分子量を上記範囲とすることにより、集電体に対する密着性の向上効果をより高めることができる。なお、酸性基を有する水溶性重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ジメチルホルムアミドの10体積%水溶液に0.85g/mlの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液を展開溶媒としたポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0039】
また、酸性基を有する水溶性重合体のガラス転移温度は、好ましくは0〜70℃であり、より好ましくは0〜50℃、さらに好ましくは0〜40℃である。ガラス転移温度を上記範囲とすることにより、電気化学素子正極電極とした場合における柔軟性を向上させることができる。
【0040】
酸性基を有する水溶性重合体の製造方法としては、特に限定さないが、たとえば、水を分散媒とする乳化重合により製造することができる。
【0041】
本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子中における、酸性基を有する水溶性重合体の含有割合は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜1.5重量部、より好ましくは0.2〜1.3重量部、さらに好ましくは0.3〜1重量部である。酸性基を有する水溶性重合体の含有割合を上記範囲とすることで、スラリー化した際における正極活物質の分散性を向上させる効果及び集電体との密着性を向上させる効果をより適切に発揮させることができ、さらには、得られるスラリーのpHをより適切な範囲とすることができる。
【0042】
また、本発明においては、上述した非水溶性粒子状重合体と、酸性基を有する水溶性重合体との割合は、「非水溶性粒子状重合体/酸性基を有する水溶性重合体」の重量比で、好ましくは70/30〜90/10、より好ましくは70/30〜85/15、さらに好ましくは70/30〜80/20である。これらの割合を上記範囲とすることにより、スラリー化した際における正極活物質の分散性をより向上させることができる。
【0043】
(導電材)
本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子は、上記各成分に加えて、必要に応じて導電材を含有していてもよい。
【0044】
導電材としては、導電性を有する粒子状の材料であればよく、特に限定されないが、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相法炭素繊維等の炭素繊維;が挙げられる。導電材の平均粒子径は、特に限定されないが、正極活物質の平均粒子径よりも小さいものが好ましく、通常、0.001〜10μm、より好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.01〜1μmの範囲である。導電材の平均粒子径が上記範囲にあると、より少ない使用量で十分な導電性を発現させることができる。
【0045】
本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子中における、導電材の含有割合は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。導電材の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる電気化学素子の容量を高く保ちながら、内部抵抗を十分に低減することが可能となる。
【0046】
(電気化学素子正極電極用複合粒子)
本発明の複合粒子は、正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体を含んでなるが、前記のそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体の3成分の、少なくとも2成分、好ましくは3成分で一粒子を形成するものである。また、複合粒子中において、酸性基を有する水溶性重合体も、粒子状で存在していてもよい。
【0047】
具体的には、前記3成分の個々の粒子の複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数個〜数十個)の正極活物質が、非水溶性粒子状重合体及び/又は酸性基を有する水溶性重合体によって結着されて塊状の粒子を形成しているものが好ましい。
【0048】
また、複合粒子としての形状及び構造は特に限定されないが、流動性の観点から、形状は球状に近いものが好ましく、構造は、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体が、複合粒子の表面に偏在することなく、複合粒子内に均一に分散する構造が好ましい。
【0049】
本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子の製造方法としては、特に限定されないが、以下に説明する噴霧乾燥造粒法によれば、本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子を比較的容易に得ることができるため、好ましい。以下、噴霧乾燥造粒法について説明する。
【0050】
まず、正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体を含有する複合粒子用スラリーを調製する。複合粒子用スラリーは、正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体、ならびに必要に応じて添加される導電材を、溶媒に分散又は溶解させることにより調製することができる。なお、この場合において、非水溶性粒子状重合体が分散媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。また、酸性基を有する水溶性重合体が水に溶解した状態である場合には、水に溶解させた状態で添加することができる。
【0051】
複合粒子用スラリーを得るために用いる溶媒としては、通常、水が用いられるが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。この場合に用いることができる有機溶媒としては、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;等が挙げられる。これらのなかでも、アルコール類が好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用することにより、噴霧乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。また、水と併用する有機溶媒の量又は種類によって、非水溶性粒子状重合体の分散性や酸性基を有する水溶性重合体の溶解性を変化させることができる。そして、これにより、複合粒子用スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率を向上させることができる。
【0052】
複合粒子用スラリーを調製する際に使用する溶媒の量は、複合粒子用スラリー中の固形分濃度が、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%の範囲となる量である。固形分濃度を上記範囲とすることにより、非水溶性粒子状重合体を均一に分散させることができるため、好適である。
【0053】
なお、本発明においては、複合粒子用スラリーに、電気化学素子正極電極用複合粒子を構成する成分としての酸性基を有する水溶性重合体を配合するため、酸性基を有する水溶性重合体のpH調整剤としての作用により、スラリー化した際に、ニッケルを含有する正極活物質の影響により、複合粒子用スラリーのpHが高くなってしまうことを有効に防止することができる。具体的には、複合粒子用スラリーのpHを、好ましくは10〜20、より好ましくは10.5〜11.5の範囲に制御することができる。複合粒子用スラリーのpHを上記範囲に制御することにより、後述する噴霧乾燥造粒工程において、ニッケルを含有する正極活物質の影響により、噴霧乾燥装置に腐食が発生してしまうことを有効に防止することができ、これにより、噴霧乾燥後の電気化学素子正極電極用複合粒子中に異物が混入してしまうことによる性能劣化を有効に防止することができる。また、噴霧乾燥装置の腐食を防止できることにより、噴霧乾燥装置の破損を防止することもできる。
【0054】
また、複合粒子用スラリーの粘度は、室温において、好ましくは10〜3,000mPa・s、より好ましくは30〜1,500mPa・s、さらに好ましくは50〜1,000mPa・sの範囲である。複合粒子用スラリーの粘度がこの範囲にあると、噴霧乾燥造粒工程の生産性を上げることができる。
【0055】
また、本発明においては、複合粒子用スラリーを調製する際に、必要に応じて、上述した酸性基を有する水溶性重合体以外の分散剤や界面活性剤を添加してもよい。
【0056】
酸性基を有する水溶性重合体以外の分散剤としては、溶媒に溶解可能な樹脂であればよく特に限定されないが、たとえば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及び、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩又はアルカリ金属塩;ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体等が挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、分散剤としては、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロース又はそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。酸性基を有する水溶性重合体以外の分散剤の使用量は、酸性基を有する水溶性重合体の含有量との関係で、「酸性基を有する水溶性重合体以外の分散剤/酸性基を有する水溶性重合体」の重量比で、3/7以下の範囲とすることが好ましい。
【0057】
また、界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオン等の両性の界面活性剤が挙げられるが、アニオン性又はノニオン性界面活性剤で熱分解しやすいものが好ましい。界面活性剤の配合量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。
【0058】
正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体、ならびに必要に応じて添加される導電材を溶媒に分散又は溶解する方法又は順番は、特に限定されない。また、混合装置としては、たとえば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等を用いることができる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0059】
次いで、得られた複合粒子用スラリーを噴霧乾燥して造粒する。噴霧乾燥は、熱風中にスラリーを噴霧して乾燥する方法である。スラリーの噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーとしては、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置が挙げられ、回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央にスラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。回転円盤方式において、円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜30,000rpm、好ましくは15,000〜30,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる電気化学素子正極電極用複合粒子の平均粒子径が大きくなる。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられるが、好ましくはピン型アトマイザーである。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。複合粒子用スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。一方、加圧方式は、複合粒子用スラリーを加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式である。
【0060】
噴霧される複合粒子用スラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。噴霧乾燥法において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、たとえば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0061】
なお、噴霧方法としては、正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体を含む複合粒子用スラリーを、一括して噴霧する方法以外にも、非水溶性粒子状重合体、酸性基を有する水溶性重合体及び必要に応じてその他添加剤を含有するスラリーを、流動している正極活物質に噴霧する方法も用いることができる。粒子径制御の容易性、生産性、粒子径分布が小さくできる、などの観点から、複合粒子の成分等に応じて最適な方法を適宜選択すればよい。
【0062】
このようにして得られる本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1〜1,000μmであり、より好ましくは1〜80μm、さらに好ましくは10〜70μmである。平均粒子径を上記範囲とすることにより、電気化学素子正極電極用複合粒子の流動性をより高めることができる。なお、電気化学素子正極電極用複合粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、SALD−3100;島津製作所製)にて測定し、算出される体積平均粒子径である。
【0063】
(電気化学素子正極電極材料)
本発明の電気化学素子正極電極材料は、上述した本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子を含んでなる。本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子は、単独で又は必要に応じて他の結着剤やその他の添加剤を含有させることで、電気化学素子正極電極材料として用いられる。電気化学素子正極電極材料中に含有される電気化学素子正極電極用複合粒子の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0064】
必要に応じて用いられる他の結着剤としては、たとえば、上述した本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子に含有される非水溶性粒子状重合体を用いることができる。本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子は、すでに結着剤としての非水溶性粒子状重合体を含有しているため、電気化学素子正極電極材料を調製する際に、他の結着剤を別途添加する必要はないが、電気化学素子正極電極用複合粒子同士の結着力をより高めるために他の結着剤を添加してもよい。また、他の結着剤を添加する場合における該他の結着剤の添加量は、電気化学素子正極電極用複合粒子中の非水溶性粒子状重合体との合計で、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。また、その他の添加剤としては、水やアルコールなどの成形助剤等が挙げられ、これらは、本発明の効果を損なわない量を適宜選択して加えることができる。
【0065】
(電気化学素子正極電極)
本発明の電気化学素子正極電極は、上述した本発明の電気化学素子正極電極材料からなる活物質層を集電体上に積層してなる。集電体用材料としては、たとえば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面からアルミニウム又はアルミニウム合金を使用するのが好ましい。また、高い耐電圧性が要求される場合には特開2001−176757号公報等で開示される高純度のアルミニウムを好適に用いることができる。集電体は、フィルム又はシート状であり、その厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜200μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。
【0066】
活物質層を集電体上に積層する際には、活物質層を電気化学素子正極電極材料をシート状に成形し、次いで集電体上に積層してもよいが、集電体上で電気化学素子正極電極材料を直接加圧成形する方法が好ましい。加圧成形としては、たとえば、一対のロールを備えたロール式加圧成形装置を用い、集電体をロールで送りながら、スクリューフィーダー等の供給装置で電気化学素子正極電極材料をロール式加圧成形装置に供給することで、集電体上で、活物質層を成形するロール加圧成形法や、電気化学素子正極電極材料を集電体上に散布し、電気化学素子正極電極材料をブレード等でならして厚みを調整し、次いで加圧装置で成形する方法、電気化学素子正極電極材料を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法などが挙げられる。これらのなかでも、ロール加圧成形法が好ましい。特に、本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子は、高い流動性を有しているため、その高い流動性により、ロール加圧成形による成形が可能であり、これにより、生産性の向上が可能となる。
【0067】
ロール加圧成形時の温度は、好ましくは0〜200℃であり、非水溶性粒子状重合体のガラス転移温度よりも20℃以上高い温度とすることがより好ましい。ロール加圧成形時の温度を上記範囲とすることにより、活物質層と集電体との密着性を十分なものとすることができる。また、ロール加圧成形時のロール間のプレス線圧は、好ましくは0.2〜30kN/cm、より好ましくは1.5〜15kN/cmである。線圧を上記範囲とすることにより、活物質層の厚みの均一性を向上させることができる。また、ロール加圧成形時の成形速度は、好ましくは0.1〜20m/分、より好ましくは4〜10m/分である。
【0068】
また、成形した電気化学素子正極電極の厚みのばらつきを無くし、活物質層の密度を上げて高容量化を図るために、必要に応じてさらに後加圧を行ってもよい。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませることにより加圧する。この際においては、必要に応じて、ロールは加熱又は冷却等、温度調節してもよい。
【0069】
このようにして得られる本発明の電気化学素子正極電極は、活物質層に、上述した本発明の電気化学素子正極電極用複合粒子を用いて得られるものであるため、活物質層と集電体との間の密着性が高く、しかも、初期容量が高く、内部抵抗が低く、高温保存特性及びサイクル特性に優れたものである。特に、本発明によれば、電気化学素子正極電極用複合粒子に、酸性基を有する水溶性重合体を配合することで、正極活物質として、ニッケルを含有する正極活物質を用いた場合でも、ニッケルを含有する正極活物質の影響による噴霧乾燥装置の腐食の発生、及びこれに起因する異物の混入による特性劣化を有効に防止でき、その結果として、上記各特性を達成できるものである。そのため、本発明の電気化学素子正極電極は、リチウムイオン二次電池などの各種電気化学素子用の正極電極として好適に用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
なお、各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
【0071】
<腐食抑制効果>
各実施例及び比較例で得られた複合粒子用スラリーを、厚み20μmのアルミニウム箔集電体上に乾燥後の膜厚が70μm程度になるように塗布し、50℃にて20分乾燥を行うことで、評価用サンプルを得た。そして、得られた評価用サンプルの10cm×10cmの範囲について、目視にて観察を行い、0.5mm以上の塗工不良が発生している箇所の数を確認することにより、腐食抑制効果についての評価を行った。なお、腐食抑制効果についての評価は、以下の基準にしたがって行なった。塗工不良の発生箇所が多いほど、腐食が進行しており、そのため、好ましくないと判断することができる。
A:塗工不良の発生箇所がなく、全体がなめらか
B:塗工不良の発生箇所が1箇所以上、5箇所未満
C:塗工不良の発生箇所が5箇所以上、10箇所未満
D:塗工不良の発生箇所が10箇所以上
【0072】
<ピール強度>
実施例及び比較例で得られた正極を、正極活物質層面を上にして固定し、正極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。そして、この測定を20回行い、その平均値を求め、これをピール強度とし、下記基準にて評価した。なお、ピール強度が高いほど、正極活物質層内における密着強度、及び正極活物質層と集電体との間の密着強度が高いと判断できる。
A:ピール強度が10N/m以上
B:ピール強度が10N/m未満、5N/m以下
C:ピール強度が5N/m未満、1N/m以下
D:ピール強度が1N/m未満
【0073】
<初期容量>
実施例及び比較例で得られたコイン型のリチウム二次電池について、室温にて、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.3Vまで充電を行ない、次いで、放電レート0.1Cにて、3.0Vまで放電することにより、0.1C放電時の電池容量を求めた。そして、得られた電池容量から、正極活物質層の単位重量当たりの容量を算出し、これを初期容量とした。初期容量の評価は、以下の基準にしたがって行なった。初期容量が高いほど、二次電池の電池容量が高くなるため、好ましい。
A:170mAh/g以上
B:150mAh/g以上、170mAh/g未満
C:130mAh/g以上、150mAh/g未満
D:100mAh/g以上、130mAh/g未満
E:100mAh/g未満
【0074】
<高温保存特性>
実施例及び比較例で得られたコイン型のリチウム二次電池について、室温にて、充電レート0.2Cとした定電流法により、4.25Vまで充電を行ない、次いで、放電レート0.2Cにて、3.0Vまで放電することにより、0.2C放電時の初期容量Cを測定した。次いで、充電レート0.2Cとした定電流法により、4.25Vまで充電を行ない、60℃、7日間保存した後、放電電圧3.0V、0.2Cの充放電レートにて充放電を行い、高温保存後の容量Cを測定した。そして、同様の試験を10セルについて行い、10セルの初期容量C及び高温保存後の容量Cから、ΔC=C/C×100(%)にしたがって容量維持率を算出し、10セルの容量維持率の平均値ΔCaveを求め、以下の基準にて、高温保存特性の評価を行った。容量維持率の平均値ΔCaveの値が高いほど高温保存特性に優れていると判断することができる。
A:ΔCaveが95%以上
B:ΔCaveが85%以上、95%未満
C:ΔCaveが70%以上、85%未満
D:ΔCaveが60%以上、70%未満
E:ΔCaveが60%未満
【0075】
<内部抵抗>
実施例及び比較例で得られたコイン型のリチウム二次電池について、室温にて、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行ない、その後、−30℃環境下で、1Cの定電流で放電を行い、放電開始10秒後の電圧降下量(ΔV)を測定することで、内部抵抗の評価を行った。放電開始10秒後の電圧降下量の値が小さいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であると判断できる。
A:電圧降下量が0.2V未満
B:電圧降下量が0.2V以上、0.3V未満
C:電圧降下量が0.3V以上、0.5V未満
D:電圧降下量が0.5V以上、0.7V未満
E:電圧降下量が0.7V以上
【0076】
<高温サイクル特性>
各実施例及び比較例で得られたコイン型のリチウム二次電池について、温度60℃の条件にて、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.3Vまで充電を行なった後、放電レート0.1Cにて、3.0Vまで放電する充放電試験を100回繰り返した。そして、1回目の充放電試験における放電容量Cap1stと、100回目の充放電試験における放電容量Cap100thとの比((Cap100th/Cap1st)×100%)である100サイクル時容量維持率を求めた。そして、得られた100サイクル時容量維持率に基づき、以下の基準にて、高温サイクル特性を評価した。なお、100サイクル時容量維持率が高いほど、高温でのサイクル試験を行った際の100サイクル目における劣化が少なく、高温サイクル特性に優れると判断できるため、好ましい。
A:100サイクル時容量維持率が95%以上
B:100サイクル時容量維持率が85%以上、95%未満
C:100サイクル時容量維持率が75%以上、85%未満
D:100サイクル時容量維持率が60%以上、75%未満
E:100サイクル時容量維持率が60%未満
【0077】
(製造例1:非水溶性粒子状重合体(A1)の製造)
重合缶Aに、イオン交換水130部を加え、ここに、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.8部及びイオン交換水10部を加え80℃に加温した。また、これとは別の重合缶Bに、アクリル酸2−エチルヘキシル78部、アクリロニトリル20部、メタクリル酸2部、及びイオン交換水377部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製した。そして、重合缶B内に作製したエマルジョンを約240分かけて、重合缶Aに逐次添加した後、約30分攪拌し、モノマー消費量が95%になった時点で冷却して反応を終了することで、非水溶性粒子状重合体(A1)の水分散液を得た。得られた非水溶性粒子状重合体(A1)は、ガラス転移温度が−30℃、分散粒子径が100nmであり、その組成は、アクリル酸2−エチルヘキシル単位77.75%、アクリロニトリル単位20.25%、及びメタクリル酸単位2%であった。また、得られた非水溶性粒子状重合体(A1)の水分散液に、4重量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、pHを10.5に調整した。
【0078】
(製造例2:酸性基を有する水溶性高分子(B1)の製造)
攪拌機付きの5MPa耐圧容器に、イオン交換水50部、炭酸水素ナトリウム0.4部、濃度30%のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.115部、メタクリル酸30部、エチルアクリレート35部、ブチルアクリレート32.5部、及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)2.5部からなる単量体混合物を仕込み、十分攪拌することで、エマルジョン水溶液を得た。また、上記とは別に、攪拌機、還流冷却管及び温度計を備えた容量1LのSUS製セパラブルフラスコに、脱塩水を予め仕込んで十分攪拌した後、70℃とし、過硫酸カリウム水溶液0.2部を添加し、ここに、上記にて得られたエマルジョン水溶液を、4時間に亘って連続的に滴下した。そして、重合転化率が90%に達したところで反応温度を80℃に変更し、さらに2時間反応を行った後、冷却して反応を停止し、酸性基を有する水溶性高分子(B1)を含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は99%であり、重量平均分子量は25,000、また、酸性基を有する水溶性高分子(B1)の組成は、メタクリル酸単位30%、エチルアクリレート単位35%、ブチルアクリレート単位32.5%及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位2.5%であった。
【0079】
(製造例3:酸性基を有する水溶性高分子(B2)の製造)
メタクリル酸30部の代わりに、アクリル酸30部を使用した以外は、製造例2と同様にして、酸性基を有する水溶性高分子(B2)を含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は99%であり、重量平均分子量は25,000、また、酸性基を有する水溶性高分子(B2)の組成は、アクリル酸単位30%、エチルアクリレート単位35%、ブチルアクリレート単位32.5%及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位2.5%であった。
【0080】
(製造例4:酸性基を有する水溶性高分子(B3)の製造)
メタクリル酸の配合量を30部から60部に、エチルアクリレートの配合量を35部から16部に、ブチルアクリレートの配合量を32.5部から14部に、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の配合量を2.5部から10部に、それぞれ変更した以外は、製造例2と同様にして、酸性基を有する水溶性高分子(B3)を含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は99%であり、重量平均分子量は30,000、また、酸性基を有する水溶性高分子(B3)の組成は、メタクリル酸単位60%、エチルアクリレート単位16%、ブチルアクリレート単位14%及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位10%であった。
【0081】
(製造例5:酸性基を有する水溶性高分子(B4)の製造)
メタクリル酸の配合量を30部から64部に、エチルアクリレートの配合量を35部から18部に、ブチルアクリレートの配合量を32.5部から17部に、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の配合量を2.5部から1部に、それぞれ変更した以外は、製造例2と同様にして、酸性基を有する水溶性高分子(B4)を含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は99%であり、重量平均分子量は50,000、また、酸性基を有する水溶性高分子(B4)の組成は、メタクリル酸単位64%、エチルアクリレート単位18%、ブチルアクリレート単位1%及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位1%であった。
【0082】
(製造例6:酸性基を有する水溶性高分子(B5)の製造)
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸2.5部の代わりに、スチレンスルホン酸2.5部を使用した以外は、製造例2と同様にして、酸性基を有する水溶性高分子(B5)を含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は99%であり、重量平均分子量は70,000、また、酸性基を有する水溶性高分子(B5)の組成は、メタクリル酸単位30%、エチルアクリレート単位35%、ブチルアクリレート単位32.5%及びスチレンスルホン酸単位2.5%であった。
【0083】
(製造例7:酸性基を有する水溶性高分子(B6)の製造)
エチルアクリレートの配合量を35部から33部に、ブチルアクリレートの配合量を32.5部から30部に、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の配合量を2.5部から7部に、それぞれ変更した以外は、製造例2と同様にして、酸性基を有する水溶性高分子(B6)を含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は99%であり、重量平均分子量は50,000、また、酸性基を有する水溶性高分子(B6)の組成は、メタクリル酸単位30%、エチルアクリレート単位33%、ブチルアクリレート単位30%及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位7%であった。
【0084】
(実施例1)
複合粒子用スラリーの製造
正極活物質としてLiNiO 100部、導電材としてのアセチレンブラック(HS−100:電気化学工業)2部、製造例1で得られた非水溶性粒子状重合体(A1)を固形分換算量で1.8部、及び、製造例2で得られた酸性基を有する水溶性高分子(B1)を固形分換算量で0.7部を混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーにて混合分散して複合粒子用スラリーを得た。なお、得られた複合粒子用スラリーのpHは10.8であった。
【0085】
正極電極用複合粒子の製造
上記にて得られた複合粒子用スラリーを、スプレー乾燥機(大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)を用い、回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度90℃の条件にて、噴霧乾燥造粒を行い、正極電極用複合粒子を得た。得られた複合粒子の平均体積粒子径は30μmであった。
【0086】
正極の製造
上記にて得られた正極電極用複合粒子を、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧4.0kN/cm)に、集電体としてのアルミニウム箔とともに供給し、成形速度15m/分で、集電体としてのアルミニウム箔上に、シート状に成形し、電極密度4.5g/cm、厚さ65μmの正極活物質層を有する正極を得た。
【0087】
リチウム二次電池の製造
上記にて得られた正極を直径16mmの円盤状に切り抜き、この正極の正極活物質層面側に直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター、対極としての金属リチウム、及びエキスパンドメタルをこの順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。次いで、この容器中に電解液(溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(20℃での容積比)、電解質:1MのLiPF)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型のリチウム二次電池を製造した。
【0088】
そして、上記にて得られた複合粒子用スラリーを用いて腐食抑制効果の評価を、正極を用いてピール強度の評価を、リチウム二次電池を用いて初期容量、高温保存特性、内部抵抗及び高温サイクル特性の評価を、それぞれ行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例2)
正極活物質として、LiNiOの代わりに、LiNi0.6Mn0.2Co0.2を使用した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子用スラリー、正極電極用複合粒子、正極及びリチウム二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例3〜6)
酸性基を有する水溶性高分子(B1)の代わりに、製造例3で得られた酸性基を有する水溶性高分子(B2)(実施例3)、製造例4で得られた酸性基を有する水溶性高分子(B3)(実施例4)、製造例5で得られた酸性基を有する水溶性高分子(B4)(実施例5)、及び製造例6で得られた酸性基を有する水溶性高分子(B5)(実施例6)を、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子用スラリー、正極電極用複合粒子、正極及びリチウム二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例7,8)
酸性基を有する水溶性高分子(B1)の配合量を、固形分換算で、1.6部(実施例7)及び0.08部(実施例8)に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子用スラリー、正極電極用複合粒子、正極及びリチウム二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例9)
酸性基を有する水溶性高分子(B1)の代わりに、製造例7で得られた酸性基を有する水溶性高分子(B6)を使用した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子用スラリー、正極電極用複合粒子、正極及びリチウム二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
正極活物質として、LiNiOの代わりに、LiCoOを使用した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子用スラリー、正極電極用複合粒子、正極及びリチウム二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例2)
酸性基を有する水溶性高分子(B1)の代わりに、カルボキシメチルセルロースを使用した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子用スラリーを製造し、次いで、正極電極用複合粒子を製造したところ、成形性に極めて劣り、正極電極用複合粒子を得ることができなかった。
【0095】
(比較例3)
非水溶性粒子状重合体(A1)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、複合粒子用スラリーを製造し、次いで、正極電極用複合粒子を製造したところ、成形性に極めて劣り、正極電極用複合粒子を得ることができなかった。
【0096】
(比較例4)
酸性基を有する水溶性高分子(B1)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、複合粒子用スラリー、正極電極用複合粒子、正極及びリチウム二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示すように、正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体を水に分散してなる複合粒子用スラリーは、いずれも金属に対する腐食が抑制されており、また、該複合粒子用スラリーを用いて得られた正極電極用複合粒子は、成形して正極とした際におけるピール強度が高く、さらには、電池とした際における初期容量、高温保存特性、内部抵抗及び高温サイクル特性に優れるものであった(実施例1〜9)。
【0099】
一方、正極活物質としてLiCoOを用いた場合には、複合粒子用スラリーとした場合に、金属に対する腐食性を示さないものの、電池とした際における初期容量が低くなる結果となった(比較例1)。
また、酸性基を有する水溶性重合体の代わりに、カルボキシメチルセルロースを用いた場合、及び非水溶性粒子状重合体を配合しなかった場合には、各評価を行えるような成形体を得ることができなかった(比較例2,3)。
さらに、酸性基を有する水溶性重合体を配合しなかった場合には、複合粒子用スラリーとした場合に、金属に対する腐食性が高く、また、成形して正極とした際におけるピール強度に劣り、さらには、電池とした際における高温保存特性、内部抵抗及び高温サイクル特性に劣る結果となった(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含有する正極活物質、非水溶性粒子状重合体及び酸性基を有する水溶性重合体を含むことを特徴とする電気化学素子正極電極用複合粒子。
【請求項2】
前記水溶性重合体が、酸性基として、スルホン酸基および/またはカルボキシル基を含有することを特徴とする電気化学素子正極電極用複合粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気化学素子正極電極用複合粒子を含んでなることを特徴とする電気化学素子正極電極材料。
【請求項4】
請求項3に記載の電気化学素子正極電極材料から形成される活物質層を集電体上に積層してなることを特徴とする電気化学素子正極電極。
【請求項5】
前記活物質層を前記集電体上に、加圧成形により積層してなることを特徴とする請求項4に記載の電気化学素子正極電極。
【請求項6】
前記活物質層を前記集電体上に、ロール加圧成形により積層してなることを特徴とする請求項5に記載の電気化学素子正極電極。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の電気化学素子正極電極用複合粒子を製造する方法であって、
前記正極活物質、前記非水溶性粒子状重合体、及び前記水溶性重合体を水に分散させてスラリーを得る工程と、前記スラリーを噴霧乾燥して造粒する工程と、を有する電気化学素子正極電極用複合粒子の製造方法。

【公開番号】特開2013−41821(P2013−41821A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160604(P2012−160604)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】