電気化学計測チップ用電極装置
【課題】液体試料に対しても高感度で且つ信頼性の高い測定を行うことができると共に同時多点測定および使い捨てに適した電気化学計測チップ用電極装置を提供する。
【解決手段】絶縁性を有する絶縁シート12に導電性を有する複数の電極部材13が厚さ方向に貫通して保持され、電極部材13の一端部13aは測定対象物を含む液体試料Sに接触し、絶縁シート12の裏面12bより外方へ突出形成された電極部材13の他端部13bはトランスデューサ21の電極22に接触して電気的に接続される。
【解決手段】絶縁性を有する絶縁シート12に導電性を有する複数の電極部材13が厚さ方向に貫通して保持され、電極部材13の一端部13aは測定対象物を含む液体試料Sに接触し、絶縁シート12の裏面12bより外方へ突出形成された電極部材13の他端部13bはトランスデューサ21の電極22に接触して電気的に接続される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気化学計測チップ用電極装置に係り、特に、DNA、タンパク質、抗体、細胞、微生物等の生体由来物質、化学物質等の測定対象物を電気化学的手法により高感度に検出するためのトランスデューサの電極に測定対象物を接続する使い捨ての電極装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療、食品、環境分野において、サンプル中の微量な測定対象物を電気化学計測チップにより高感度に検出する技術が広く知られている。一般的に、電気化学計測チップは、サンプル中の測定対象物と選択的に相互作用する生体由来物質、化学物質等からなる分子認識素子によって修飾された電極を有している。この電極にサンプルを接触させたときに、サンプル中に分子認識素子と相互作用する物質が含まれていれば、相互作用による効果を電気化学的手法により電流値の変化等で高感度に検出することができる。
【0003】
近年急速に進歩した遺伝子解析の分野においても、例えば特許文献1に記載される技術により電気化学的手法を用いたDNA配列の決定が試みられている。この方法では、測定対象のDNAを一本鎖に変性したものと既知の塩基配列を有する一本鎖DNA(プローブDNA)とをハイブリダイゼーションにより二本鎖DNAとした後、二本鎖DNAと特異的に結合し且つ酸化還元反応に対して可逆的な挿入剤を混入することで、測定対象のDNAがプローブDNAと相補的に結合し得る配列を有するDNAであるか否かを高感度に判断することが可能となる。
【0004】
電気化学計測チップには、サンプルとの接触を行うために、例えば特許文献2に記載されるような平面電極型の電極装置が広く利用されている。この電極装置は、図15に示されるように、絶縁体基板1上に導電性材料からなる平面電極2が形成されたもので、平面電極2上にサンプルが配置され、平面電極2の電位が導電パターン3により引き出される。平面電極2および導電パターン3を印刷等の手法を用いて形成することができ、製造コストが低減されるため、使い捨ての電気化学計測チップ用電極装置として好適である。
【0005】
また、特許文献3に示されるように、集積回路チップの表面に形成された電極を用いて電気化学計測を行うことも知られている。図16に示されるように、集積回路チップ4の表面上に電極5が形成され、この電極5の上にサンプル6が配置される。この場合、集積回路チップ4に、微弱な電流を増幅するための回路を集積形成することも可能であるため、高感度の測定が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2573443号公報
【特許文献2】特開2007−278981号公報
【特許文献3】特表2003−532090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に示されるような電極装置では、サンプルに接触する平面電極2の電位を導電パターン3により引き出しているため、導電経路が長くなり、電磁ノイズ等の影響を受けやすく、感度が低下するおそれがある。また、絶縁体基板1上に平面的に平面電極2および導電パターン3が形成されるため、電極装置のサイズが大きくなり、同時多点測定を行おうとする場合に測定デバイスが大型化するという問題があった。
【0008】
一方、特許文献3に記載されたような集積回路チップ4においては、サンプル6が生体由来物質等を含む液体試料である場合に、集積回路チップ4の表面を覆う絶縁層被膜の微細なクラック等を通してサンプル6が集積回路チップ4内に浸透し、回路の電気的短絡を引き起こして測定の信頼性を低下させるおそれがある。さらに、電極5が高価な集積回路チップ4の表面上に固着されているため、電極5を集積回路チップ4と共に使い捨てにすることは難しく、また、電極5のみを集積回路チップ4から離して使い捨てにすることもできないという問題がある。
【0009】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、液体試料に対しても高感度で且つ信頼性の高い測定を行うことができると共に同時多点測定および使い捨てに適した電気化学計測チップ用電極装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る電気化学計測チップ用電極装置は、トランスデューサの表面上に形成された複数の電極に測定対象物を電気的に接続するための電気化学計測チップ用電極装置であって、絶縁性を有し且つ互いに反対方向を向いた表面および裏面を有する絶縁シートと、それぞれ導電性を有し且つ絶縁シートを厚さ方向に貫通した状態で絶縁シートに保持され、絶縁シートの表面側に位置する一端部に測定対象物が接続され、絶縁シートの裏面側に位置する他端部にトランスデューサの電極が接続される複数の電極部材とを備えたものである。
【0011】
好ましくは、複数の電極部材は、それぞれ前記他端部が絶縁シートの裏面より突出している。
複数の電極部材の少なくとも突出部が弾性を有する、あるいは、絶縁シートが弾性を有することが好ましい。絶縁シートが弾性を有する場合には、絶縁シートの裏面に粘着性を持たせることもできる。
測定対象物を含む液体試料が絶縁シートの裏面側に漏出しないように、複数の電極部材が絶縁シートに密着していることが好ましい。
複数の電極部材の一端部を導電性の生体適応被膜で覆うこともできる。
好ましくは、絶縁シートの表面上の周縁部に立設された液溜りをさらに備えている。
また、絶縁シートの裏面上の周縁部に接合された剛性を有するフレームをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、絶縁シートを厚さ方向に貫通する複数の電極部材を備え、各電極部材の一端部に測定対象物が接続され、他端部にトランスデューサの電極が接続されるので、液体試料に対しても高感度で且つ信頼性の高い測定を行うことができると共に同時多点測定および使い捨てに適した電気化学計測チップ用電極装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置を示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置を示す斜視図である。
【図3】実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置を用いた電気化学計測チップを示す断面図である。
【図4】実施の形態1における絶縁シートを製造するための金型を示す断面図である。
【図5】実施の形態1における絶縁シートを示す斜視図である。
【図6】実施の形態1における絶縁シートを示す断面図である。
【図7】電極部材の形成方法を段階的に示す断面図である。
【図8】電極部材が形成された実施の形態1における絶縁シートを示す断面図である。
【図9】実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置を示す断面図である。
【図10】実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置を示す斜視図である。
【図11】実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置をトランスデューサに取り付ける様子を示す斜視図である。
【図12】実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置を用いた電気化学計測チップを示す斜視図である。
【図13】実施の形態3に係る電気化学計測チップ用電極装置の電極部材周辺を示す断面図である。
【図14】実施の形態3の変形例に係る電気化学計測チップ用電極装置の電極部材周辺を示す断面図である。
【図15】従来の電気化学計測チップ用電極装置を示す斜視図である。
【図16】従来の他の電気化学計測チップを示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置11の構成を示す。電気化学計測チップ用電極装置11は、絶縁シート12と、この絶縁シート12に所定のピッチでマトリクス状に分布配置された複数の電極部材13を有している。絶縁シート12は、絶縁性材料から形成され、互いに反対方向を向いた表面12aと裏面12bを有している。各電極部材13は、導電性材料から形成され、絶縁シート12の表面12aから裏面12bにまで至るように絶縁シート12を厚さ方向に貫通した状態で絶縁シート12に保持されており、電極部材13の一端部13aは絶縁シート12の表面12aと同一面を構成し、他端部13bは絶縁シート12の裏面12bより外方へ突出形成されている。
【0015】
また、絶縁シート12の表面12a側に位置する電極部材13の一端部13aを覆うように導電性材料からなる生体適応被膜14が配置されている。
さらに、絶縁シート12の表面12a上の周縁部には、環状の液溜り15が立設されており、この液溜り15により、図2に示されるように、絶縁シート12の表面12a側においてそれぞれ生体適応被膜14で覆われた全ての電極部材13が囲まれている。
【0016】
このような構成を有する電気化学計測チップ用電極装置11は、図3に示されるように、トランスデューサ21の直上に配置されて使用される。
トランスデューサ21は、LSIチップにより構成され、その表面上にマトリクス状に分布配置された複数の電極22を有している。なお、これら複数の電極22の配列ピッチは、上述した電気化学計測チップ用装置11の複数の電極部材13の所定のピッチと等しく、電気化学計測チップ用電極装置11の複数の電極部材13とトランスデューサ21の複数の電極22とが1:1に対応しているものとする。
【0017】
電気化学計測チップ用電極装置11の複数の電極部材13の他端部13bが、それぞれ対応するトランスデューサ21の電極22に接触して電気的に接続される。そして、電気化学計測チップ用電極装置11の液溜り15に測定対象物を含む液体試料Sが収容される。複数の電極部材13の一端部13aを覆う生体適応被膜14の表面には、液体試料S中の測定対象物と選択的に相互作用する生体由来物質等からなる分子認識素子によって予め修飾されたビーズが予め保持されている、あるいは、生体適応被膜14が分子認識素子によって予め修飾されており、液体試料S中の測定対象物がこの分子認識素子と相互作用することにより電気化学的に生じる電流値の変化等が生体適応被膜14および電極部材13を介してトランスデューサ21の電極22に伝達され、トランスデューサ21で液体試料S中の測定対象物を高感度に検出することができる。
【0018】
なお、電気化学計測チップ用電極装置11の絶縁シート12の材料としては、シリコーンゴムを用いることができる。この他、アクリル、ポリカーボネート等の樹脂材料、ガラス、セラミックス等を使用することもできる。
電極部材13は、Ag等の導電性フィラーを含有するシリコーン系材料から形成することができる。また、導電性に優れた金属材料、例えば表面にAuメッキを施した金属材料から電極部材13を形成してもよい。
【0019】
ただし、絶縁シート12に保持された複数の電極部材13とトランスデューサ21の複数の電極22との間にそれぞれ良好な電気的接続を確立させるために、絶縁シート12と電極部材13の少なくとも一方は弾性を有することが望ましい。このようにすれば、製造時における複数の電極部材13の他端部13bの高さのバラツキおよびトランスデューサ21の複数の電極22表面の高さのバラツキを吸収してこれら両者間に良好な接続関係を形成することができ、より高精度で且つ信頼性の高い計測が可能となる。
【0020】
なお、電極部材13が弾性を有する場合には、電極部材13の全体が弾性を有する必要はなく、トランスデューサ21の電極22に接触する電極部材13の他端部13bが少なくとも弾性を有していればよい。
また、絶縁シート12が弾性を有する場合には、絶縁シート12の裏面12bが粘着性を有していれば、トランスデューサ21の直上に配置された電気化学計測チップ用電極装置11に上方から荷重を加えることにより絶縁シート12の裏面12bがトランスデューサ21の表面に張りついて固定されるため、電極部材13とトランスデューサ21の電極22との間の電気的接続の信頼性をさらに確保することができる。
【0021】
また、液溜り15に収容された液体試料Sが絶縁シート12と電極部材13との界面部分を介して絶縁シート12の裏面12b側に漏出しないように、電極部材13は絶縁シート12に密着していることが望ましい。このために、例えば、シリコーンゴムからなる絶縁シート12にシリコーン系材料を主とする電極部材13を保持させる等、絶縁シート12と電極部材13に同種の材料成分を用いることは効果的である。
電極部材13と絶縁シート12との密着性は、これらの界面部分を介して液体試料Sが漏出あるいは浸透しなければ十分であり、ガスの流通が許容されていてもよい。電極部材13と絶縁シート12との間にわずかな隙間が形成されていても、これらの界面に液体試料Sに対する親和性が低い材質からなる被膜を形成したり、界面に微小な凹凸を形成して液体試料Sに対する濡れ性を低下させることにより、液体試料Sが漏出あるいは浸透し得ないような密着性を実現することができる。
【0022】
また、電極部材13の一端部13aを覆う生体適応被膜14は、液体試料S中の測定対象物に対して化学的に安定した接触を行うためのもので、例えば、カーボンペーストの塗布により形成することができる。この他、化学的安定性を有するAu、Pt等の金属を用いて生体適応被膜14を形成することもできるが、電気化学計測チップ用電極装置11を使い捨ての態様で用いる場合には、安価なカーボンペーストが適している。
【0023】
このように、実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置11は、トランスデューサ21の直上に配置され、絶縁シート12の厚さ方向に貫通する複数の電極部材13をトランスデューサ21の複数の電極22に接触させることで、導電経路の短縮化を実現し、このため、電磁ノイズ等の影響が少なく、測定感度が犠牲になり難く、測定の高感度化を達成することができる。また、複数の電極部材13がトランスデューサ21の電極22の位置に合わせてマトリクス状に分布配置されているので、同時多点測定を可能としながらも面方向のサイズが小さい測定デバイスが実現される。さらに、絶縁シート12と電極部材13が互いに密着しており、サンプルとして用いる電解質塩溶液等の液体試料Sがトランスデューサ21と直接接触しないため、トランスデューサ21内部の回路の短絡等を引き起こすことはなく、信頼性が向上する。
【0024】
上述した電気化学計測チップ用電極装置11は、次のようにして製造することができる。
まず、図4に示されるように、絶縁シート12を成形するための凸状構造を有するSi製の金型31を作製する。凸状構造は、電極部材13を充填するための孔を形成するためのものであり、それぞれ直径100μm、高さ200μmの円柱形状を有する複数の凸部32がトランスデューサ21の複数の電極22の配置パターンと同一の配列ピッチを有したマトリクス状に分布配置されている。トランスデューサ21の複数の電極22のうち、一部の電極22のみを測定に用いる場合には、その一部の電極22の配置に合わせた凸状構造を有する金型31を作製すればよい。
金型31は、μmオーダーの構造も容易に作製可能な、いわゆるボッシュプロセスによる深堀エッチングを用いてSiの平板を加工することで作製することができる。また、金属板を精密切削加工あるいはエッチング加工して金属金型を作製してもよい。
【0025】
成形物の離型性向上のために、凸状構造が形成された金型31の表面上にフッ素樹脂系離型剤を塗布し、ガラス製平面基板33を凸状構造の上に重ね合わせて加圧し、この状態で、金型31と平面基板33との間に未硬化の二液混合、熱硬化型の付加重合型シリコーンゴムを注入する。さらに、オーブン内にて温度120℃で60分間加熱することにより、シリコーンゴムを硬化させた後、成形物を金型31から離型する。このようにして成形された絶縁シート12を図5および6に示す。金型31の凸状構造に対応した複数の貫通孔34がマトリクス状に形成されている。
なお、金型31および平面基板33を用いる代わりに、シリコーンゴムからなるシート材にレーザ加工により複数の貫通孔34を形成して絶縁シート12を作製してもよい。
【0026】
続いて、図7(A)に示されるように、下方に向けられた絶縁シート12の表面12aを、ガラスあるいはSiからなり且つ高い平面性を有する基板35の表面上に貼り付け、絶縁シート12の裏面12b側から各貫通孔34内にディスペンサ装置の注入管36を挿入してAg等の導電性フィラーを含有するシリコーン系材料37を注入する。ディスペンサ装置の注入管36は、先端外形が貫通孔34の直径100μmより小さいもので、注入管36の先端を絶縁シート12の裏面12bから深さ100μm、すなわち絶縁シート12の厚さの半分の深さにまで挿入し、この状態で注入を開始する。その後、図7(B)に示されるように、注入管36を徐々に引き上げながら導電性フィラーを含有するシリコーン系材料37の注入を続ける。これにより、図7(C)に示されるように、シリコーン系材料37を絶縁シート12の裏面12bよりも上方に突出させることができる。
【0027】
その後、オーブン内にて温度100℃で30分間加熱することにより、シリコーン系材料37を硬化させる。このようにして、図8に示されるように、複数の電極部材13が保持された絶縁シート12が作製される。各電極部材13の一端部13aは絶縁シート12の表面12aと同一面を構成し、他端部13bは絶縁シート12の裏面12bより外方へ突出している。
このとき、シリコーンゴムからなる絶縁シート12の貫通孔34に導電性フィラーを含有するシリコーン系材料37からなる電極部材13が充填されるので、絶縁シート12と電極部材13とが良好に密着することとなる。
【0028】
さらに、絶縁シート12の表面12a側に位置する電極部材13の一端部13aにカーボンペーストを塗布すると共に、絶縁シート12の表面12a上の周縁部にシリコーンゴム製の環状の液溜り15を未硬化シリコーンゴムにて接着し、オーブン内にて温度100℃で60分間加熱硬化させる。これにより、図1に示したような電気化学計測チップ用電極装置11が製造される。
【0029】
実施の形態2
図9に、実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置41の構成を示す。この電気化学計測チップ用電極装置41は、図1に示した実施の形態1の電極装置11において、絶縁シート12の裏面12b上の周縁部に、剛性を有するフレーム16を接合したものである。フレーム16は、絶縁シート12の裏面12b側に突出する全ての電極部材13の他端部13bを露出させる開口部16aが形成された平板形状を有すると共に、図10に示されるように、絶縁シート12および液溜り15の外方にまで延びる一対の延出部16bを有し、これら延出部16bにそれぞれ位置合わせ孔17が貫通形成されている。
【0030】
また、この実施の形態2においては、図11に示されるように、トランスデューサ21が固定台42上に固着されており、トランスデューサ21を挟むように固定台42の上に一対の位置合わせピン43が突出形成されている。
そして、図12に示されるように、電気化学計測チップ用電極装置41のフレーム16に形成された一対の位置合わせ孔17に固定台42の一対の位置合わせピン43を挿入させることにより、電気化学計測チップ用電極装置41とトランスデューサ21の位置合わせを行うことができる。
【0031】
トランスデューサ21を固定台42に実装する際にトランスデューサ21の複数の電極22と固定台42の位置合わせピン43との相対位置関係を予め正確に合わせると共に、電気化学計測チップ用電極装置41の複数の電極部材13とフレーム16の位置合わせ孔17との相対位置関係を予め正確に合わせておけば、フレーム16の位置合わせ孔17に固定台42の位置合わせピン43を挿入させることで、使い捨ての電気化学計測チップ用電極装置41を新たなものに交換しても、電気化学計測チップ用電極装置41の複数の電極部材13とトランスデューサ21の複数の電極22との位置合わせを容易に行うことが可能となる。
【0032】
なお、フレーム16としては、例えば、厚さ80μmのステンレス板を用い、実施の形態1で述べたように、金型31を使用した絶縁シート12の成形時にフレーム16をインサート成形することにより、絶縁シート12の裏面12bにフレーム16を接合することができる。
また、フレーム16の位置合わせ孔17の直径および固定台42の位置合わせピン43の直径は、それぞれ例えば1mmとすることができる。
【0033】
このような剛性を有するフレーム16の使用により、電気化学計測チップ用電極装置41の電極部材13とトランスデューサ21の電極22との位置合わせが可能になるだけでなく、絶縁シート12をシリコーンゴム等の柔軟性に富んだ材料から形成した場合にも、電気化学計測チップ用電極装置41をハンドリングしやすくなるという効果がもたらされる。
【0034】
実施の形態3
絶縁シート12と電極部材13の少なくとも一方は弾性を有することが望ましいが、図13に示されるように、シリコーンゴム等の弾性部材54を介在させることで、弾性の乏しい絶縁シート52に弾性の乏しい電極部材53を保持させることもできる。弾性部材54は、電極部材53の外周部を囲むように配置されている。このような構造とすれば、弾性部材54の存在により、電極部材53が絶縁シート52に対して変位可能となるので、絶縁シート52として、アクリル、ポリカーボネート、ガラス、セラミックス等の硬い材料を使用し、電極部材53として、表面にAuメッキを施した金属材料を用いても、絶縁シート52に保持された複数の電極部材53とトランスデューサ21の複数の電極22との間にそれぞれ良好な電気的接続を確立させることができる。
【0035】
また、図14に示されるように、弾性部材を介在させることなく弾性の乏しい絶縁シート62に弾性の乏しい金属部材64を直接保持させると共に金属部材64の両端部をそれぞれ絶縁シート62から突出させずに絶縁シート62の表面62aおよび裏面62bと同一面を構成させ、絶縁シート62の裏面62b側に位置する金属部材64の端部に弾性を有する導電部材65を突出形成してもよい。金属部材64と導電部材65により電極部材63が形成される。
【0036】
弾性を有する導電体64としては、例えば、Ag等の導電性フィラーを含有するシリコーン系材料を用いることができる。なお、絶縁シート62としては、アクリル、ポリカーボネート、ガラス、セラミックス等の硬い材料を、金属部材64としては、表面にAuメッキを施した金属材料を用いることができる。
このような構造としても、絶縁シート62に保持された複数の電極部材63とトランスデューサ21の複数の電極22との間にそれぞれ良好な電気的接続を確立させることが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
1 絶縁体基板、2 平面電極、3 導電パターン、4 集積回路チップ、5 電極、6 サンプル、11,41 電気化学計測チップ用電極装置、12,52,62 絶縁シート、12a,62a 表面、12b、62b 裏面、13,53,63 電極部材、13a 一端部、13b 他端部、14 生体適応被膜、15 液溜り、16 フレーム、16a 開口部、16b 延出部、17 位置合わせ孔、21 トランスデューサ、22 電極、31 金型、32 凸部、33 平面基板、34 貫通孔、35 基板、36 注入管、37 シリコーン系材料、42 固定台、43 位置合わせピン、54 弾性部材、64 金属部材、65 導電部材、S 液体試料。
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気化学計測チップ用電極装置に係り、特に、DNA、タンパク質、抗体、細胞、微生物等の生体由来物質、化学物質等の測定対象物を電気化学的手法により高感度に検出するためのトランスデューサの電極に測定対象物を接続する使い捨ての電極装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療、食品、環境分野において、サンプル中の微量な測定対象物を電気化学計測チップにより高感度に検出する技術が広く知られている。一般的に、電気化学計測チップは、サンプル中の測定対象物と選択的に相互作用する生体由来物質、化学物質等からなる分子認識素子によって修飾された電極を有している。この電極にサンプルを接触させたときに、サンプル中に分子認識素子と相互作用する物質が含まれていれば、相互作用による効果を電気化学的手法により電流値の変化等で高感度に検出することができる。
【0003】
近年急速に進歩した遺伝子解析の分野においても、例えば特許文献1に記載される技術により電気化学的手法を用いたDNA配列の決定が試みられている。この方法では、測定対象のDNAを一本鎖に変性したものと既知の塩基配列を有する一本鎖DNA(プローブDNA)とをハイブリダイゼーションにより二本鎖DNAとした後、二本鎖DNAと特異的に結合し且つ酸化還元反応に対して可逆的な挿入剤を混入することで、測定対象のDNAがプローブDNAと相補的に結合し得る配列を有するDNAであるか否かを高感度に判断することが可能となる。
【0004】
電気化学計測チップには、サンプルとの接触を行うために、例えば特許文献2に記載されるような平面電極型の電極装置が広く利用されている。この電極装置は、図15に示されるように、絶縁体基板1上に導電性材料からなる平面電極2が形成されたもので、平面電極2上にサンプルが配置され、平面電極2の電位が導電パターン3により引き出される。平面電極2および導電パターン3を印刷等の手法を用いて形成することができ、製造コストが低減されるため、使い捨ての電気化学計測チップ用電極装置として好適である。
【0005】
また、特許文献3に示されるように、集積回路チップの表面に形成された電極を用いて電気化学計測を行うことも知られている。図16に示されるように、集積回路チップ4の表面上に電極5が形成され、この電極5の上にサンプル6が配置される。この場合、集積回路チップ4に、微弱な電流を増幅するための回路を集積形成することも可能であるため、高感度の測定が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2573443号公報
【特許文献2】特開2007−278981号公報
【特許文献3】特表2003−532090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に示されるような電極装置では、サンプルに接触する平面電極2の電位を導電パターン3により引き出しているため、導電経路が長くなり、電磁ノイズ等の影響を受けやすく、感度が低下するおそれがある。また、絶縁体基板1上に平面的に平面電極2および導電パターン3が形成されるため、電極装置のサイズが大きくなり、同時多点測定を行おうとする場合に測定デバイスが大型化するという問題があった。
【0008】
一方、特許文献3に記載されたような集積回路チップ4においては、サンプル6が生体由来物質等を含む液体試料である場合に、集積回路チップ4の表面を覆う絶縁層被膜の微細なクラック等を通してサンプル6が集積回路チップ4内に浸透し、回路の電気的短絡を引き起こして測定の信頼性を低下させるおそれがある。さらに、電極5が高価な集積回路チップ4の表面上に固着されているため、電極5を集積回路チップ4と共に使い捨てにすることは難しく、また、電極5のみを集積回路チップ4から離して使い捨てにすることもできないという問題がある。
【0009】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、液体試料に対しても高感度で且つ信頼性の高い測定を行うことができると共に同時多点測定および使い捨てに適した電気化学計測チップ用電極装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る電気化学計測チップ用電極装置は、トランスデューサの表面上に形成された複数の電極に測定対象物を電気的に接続するための電気化学計測チップ用電極装置であって、絶縁性を有し且つ互いに反対方向を向いた表面および裏面を有する絶縁シートと、それぞれ導電性を有し且つ絶縁シートを厚さ方向に貫通した状態で絶縁シートに保持され、絶縁シートの表面側に位置する一端部に測定対象物が接続され、絶縁シートの裏面側に位置する他端部にトランスデューサの電極が接続される複数の電極部材とを備えたものである。
【0011】
好ましくは、複数の電極部材は、それぞれ前記他端部が絶縁シートの裏面より突出している。
複数の電極部材の少なくとも突出部が弾性を有する、あるいは、絶縁シートが弾性を有することが好ましい。絶縁シートが弾性を有する場合には、絶縁シートの裏面に粘着性を持たせることもできる。
測定対象物を含む液体試料が絶縁シートの裏面側に漏出しないように、複数の電極部材が絶縁シートに密着していることが好ましい。
複数の電極部材の一端部を導電性の生体適応被膜で覆うこともできる。
好ましくは、絶縁シートの表面上の周縁部に立設された液溜りをさらに備えている。
また、絶縁シートの裏面上の周縁部に接合された剛性を有するフレームをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、絶縁シートを厚さ方向に貫通する複数の電極部材を備え、各電極部材の一端部に測定対象物が接続され、他端部にトランスデューサの電極が接続されるので、液体試料に対しても高感度で且つ信頼性の高い測定を行うことができると共に同時多点測定および使い捨てに適した電気化学計測チップ用電極装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置を示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置を示す斜視図である。
【図3】実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置を用いた電気化学計測チップを示す断面図である。
【図4】実施の形態1における絶縁シートを製造するための金型を示す断面図である。
【図5】実施の形態1における絶縁シートを示す斜視図である。
【図6】実施の形態1における絶縁シートを示す断面図である。
【図7】電極部材の形成方法を段階的に示す断面図である。
【図8】電極部材が形成された実施の形態1における絶縁シートを示す断面図である。
【図9】実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置を示す断面図である。
【図10】実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置を示す斜視図である。
【図11】実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置をトランスデューサに取り付ける様子を示す斜視図である。
【図12】実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置を用いた電気化学計測チップを示す斜視図である。
【図13】実施の形態3に係る電気化学計測チップ用電極装置の電極部材周辺を示す断面図である。
【図14】実施の形態3の変形例に係る電気化学計測チップ用電極装置の電極部材周辺を示す断面図である。
【図15】従来の電気化学計測チップ用電極装置を示す斜視図である。
【図16】従来の他の電気化学計測チップを示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置11の構成を示す。電気化学計測チップ用電極装置11は、絶縁シート12と、この絶縁シート12に所定のピッチでマトリクス状に分布配置された複数の電極部材13を有している。絶縁シート12は、絶縁性材料から形成され、互いに反対方向を向いた表面12aと裏面12bを有している。各電極部材13は、導電性材料から形成され、絶縁シート12の表面12aから裏面12bにまで至るように絶縁シート12を厚さ方向に貫通した状態で絶縁シート12に保持されており、電極部材13の一端部13aは絶縁シート12の表面12aと同一面を構成し、他端部13bは絶縁シート12の裏面12bより外方へ突出形成されている。
【0015】
また、絶縁シート12の表面12a側に位置する電極部材13の一端部13aを覆うように導電性材料からなる生体適応被膜14が配置されている。
さらに、絶縁シート12の表面12a上の周縁部には、環状の液溜り15が立設されており、この液溜り15により、図2に示されるように、絶縁シート12の表面12a側においてそれぞれ生体適応被膜14で覆われた全ての電極部材13が囲まれている。
【0016】
このような構成を有する電気化学計測チップ用電極装置11は、図3に示されるように、トランスデューサ21の直上に配置されて使用される。
トランスデューサ21は、LSIチップにより構成され、その表面上にマトリクス状に分布配置された複数の電極22を有している。なお、これら複数の電極22の配列ピッチは、上述した電気化学計測チップ用装置11の複数の電極部材13の所定のピッチと等しく、電気化学計測チップ用電極装置11の複数の電極部材13とトランスデューサ21の複数の電極22とが1:1に対応しているものとする。
【0017】
電気化学計測チップ用電極装置11の複数の電極部材13の他端部13bが、それぞれ対応するトランスデューサ21の電極22に接触して電気的に接続される。そして、電気化学計測チップ用電極装置11の液溜り15に測定対象物を含む液体試料Sが収容される。複数の電極部材13の一端部13aを覆う生体適応被膜14の表面には、液体試料S中の測定対象物と選択的に相互作用する生体由来物質等からなる分子認識素子によって予め修飾されたビーズが予め保持されている、あるいは、生体適応被膜14が分子認識素子によって予め修飾されており、液体試料S中の測定対象物がこの分子認識素子と相互作用することにより電気化学的に生じる電流値の変化等が生体適応被膜14および電極部材13を介してトランスデューサ21の電極22に伝達され、トランスデューサ21で液体試料S中の測定対象物を高感度に検出することができる。
【0018】
なお、電気化学計測チップ用電極装置11の絶縁シート12の材料としては、シリコーンゴムを用いることができる。この他、アクリル、ポリカーボネート等の樹脂材料、ガラス、セラミックス等を使用することもできる。
電極部材13は、Ag等の導電性フィラーを含有するシリコーン系材料から形成することができる。また、導電性に優れた金属材料、例えば表面にAuメッキを施した金属材料から電極部材13を形成してもよい。
【0019】
ただし、絶縁シート12に保持された複数の電極部材13とトランスデューサ21の複数の電極22との間にそれぞれ良好な電気的接続を確立させるために、絶縁シート12と電極部材13の少なくとも一方は弾性を有することが望ましい。このようにすれば、製造時における複数の電極部材13の他端部13bの高さのバラツキおよびトランスデューサ21の複数の電極22表面の高さのバラツキを吸収してこれら両者間に良好な接続関係を形成することができ、より高精度で且つ信頼性の高い計測が可能となる。
【0020】
なお、電極部材13が弾性を有する場合には、電極部材13の全体が弾性を有する必要はなく、トランスデューサ21の電極22に接触する電極部材13の他端部13bが少なくとも弾性を有していればよい。
また、絶縁シート12が弾性を有する場合には、絶縁シート12の裏面12bが粘着性を有していれば、トランスデューサ21の直上に配置された電気化学計測チップ用電極装置11に上方から荷重を加えることにより絶縁シート12の裏面12bがトランスデューサ21の表面に張りついて固定されるため、電極部材13とトランスデューサ21の電極22との間の電気的接続の信頼性をさらに確保することができる。
【0021】
また、液溜り15に収容された液体試料Sが絶縁シート12と電極部材13との界面部分を介して絶縁シート12の裏面12b側に漏出しないように、電極部材13は絶縁シート12に密着していることが望ましい。このために、例えば、シリコーンゴムからなる絶縁シート12にシリコーン系材料を主とする電極部材13を保持させる等、絶縁シート12と電極部材13に同種の材料成分を用いることは効果的である。
電極部材13と絶縁シート12との密着性は、これらの界面部分を介して液体試料Sが漏出あるいは浸透しなければ十分であり、ガスの流通が許容されていてもよい。電極部材13と絶縁シート12との間にわずかな隙間が形成されていても、これらの界面に液体試料Sに対する親和性が低い材質からなる被膜を形成したり、界面に微小な凹凸を形成して液体試料Sに対する濡れ性を低下させることにより、液体試料Sが漏出あるいは浸透し得ないような密着性を実現することができる。
【0022】
また、電極部材13の一端部13aを覆う生体適応被膜14は、液体試料S中の測定対象物に対して化学的に安定した接触を行うためのもので、例えば、カーボンペーストの塗布により形成することができる。この他、化学的安定性を有するAu、Pt等の金属を用いて生体適応被膜14を形成することもできるが、電気化学計測チップ用電極装置11を使い捨ての態様で用いる場合には、安価なカーボンペーストが適している。
【0023】
このように、実施の形態1に係る電気化学計測チップ用電極装置11は、トランスデューサ21の直上に配置され、絶縁シート12の厚さ方向に貫通する複数の電極部材13をトランスデューサ21の複数の電極22に接触させることで、導電経路の短縮化を実現し、このため、電磁ノイズ等の影響が少なく、測定感度が犠牲になり難く、測定の高感度化を達成することができる。また、複数の電極部材13がトランスデューサ21の電極22の位置に合わせてマトリクス状に分布配置されているので、同時多点測定を可能としながらも面方向のサイズが小さい測定デバイスが実現される。さらに、絶縁シート12と電極部材13が互いに密着しており、サンプルとして用いる電解質塩溶液等の液体試料Sがトランスデューサ21と直接接触しないため、トランスデューサ21内部の回路の短絡等を引き起こすことはなく、信頼性が向上する。
【0024】
上述した電気化学計測チップ用電極装置11は、次のようにして製造することができる。
まず、図4に示されるように、絶縁シート12を成形するための凸状構造を有するSi製の金型31を作製する。凸状構造は、電極部材13を充填するための孔を形成するためのものであり、それぞれ直径100μm、高さ200μmの円柱形状を有する複数の凸部32がトランスデューサ21の複数の電極22の配置パターンと同一の配列ピッチを有したマトリクス状に分布配置されている。トランスデューサ21の複数の電極22のうち、一部の電極22のみを測定に用いる場合には、その一部の電極22の配置に合わせた凸状構造を有する金型31を作製すればよい。
金型31は、μmオーダーの構造も容易に作製可能な、いわゆるボッシュプロセスによる深堀エッチングを用いてSiの平板を加工することで作製することができる。また、金属板を精密切削加工あるいはエッチング加工して金属金型を作製してもよい。
【0025】
成形物の離型性向上のために、凸状構造が形成された金型31の表面上にフッ素樹脂系離型剤を塗布し、ガラス製平面基板33を凸状構造の上に重ね合わせて加圧し、この状態で、金型31と平面基板33との間に未硬化の二液混合、熱硬化型の付加重合型シリコーンゴムを注入する。さらに、オーブン内にて温度120℃で60分間加熱することにより、シリコーンゴムを硬化させた後、成形物を金型31から離型する。このようにして成形された絶縁シート12を図5および6に示す。金型31の凸状構造に対応した複数の貫通孔34がマトリクス状に形成されている。
なお、金型31および平面基板33を用いる代わりに、シリコーンゴムからなるシート材にレーザ加工により複数の貫通孔34を形成して絶縁シート12を作製してもよい。
【0026】
続いて、図7(A)に示されるように、下方に向けられた絶縁シート12の表面12aを、ガラスあるいはSiからなり且つ高い平面性を有する基板35の表面上に貼り付け、絶縁シート12の裏面12b側から各貫通孔34内にディスペンサ装置の注入管36を挿入してAg等の導電性フィラーを含有するシリコーン系材料37を注入する。ディスペンサ装置の注入管36は、先端外形が貫通孔34の直径100μmより小さいもので、注入管36の先端を絶縁シート12の裏面12bから深さ100μm、すなわち絶縁シート12の厚さの半分の深さにまで挿入し、この状態で注入を開始する。その後、図7(B)に示されるように、注入管36を徐々に引き上げながら導電性フィラーを含有するシリコーン系材料37の注入を続ける。これにより、図7(C)に示されるように、シリコーン系材料37を絶縁シート12の裏面12bよりも上方に突出させることができる。
【0027】
その後、オーブン内にて温度100℃で30分間加熱することにより、シリコーン系材料37を硬化させる。このようにして、図8に示されるように、複数の電極部材13が保持された絶縁シート12が作製される。各電極部材13の一端部13aは絶縁シート12の表面12aと同一面を構成し、他端部13bは絶縁シート12の裏面12bより外方へ突出している。
このとき、シリコーンゴムからなる絶縁シート12の貫通孔34に導電性フィラーを含有するシリコーン系材料37からなる電極部材13が充填されるので、絶縁シート12と電極部材13とが良好に密着することとなる。
【0028】
さらに、絶縁シート12の表面12a側に位置する電極部材13の一端部13aにカーボンペーストを塗布すると共に、絶縁シート12の表面12a上の周縁部にシリコーンゴム製の環状の液溜り15を未硬化シリコーンゴムにて接着し、オーブン内にて温度100℃で60分間加熱硬化させる。これにより、図1に示したような電気化学計測チップ用電極装置11が製造される。
【0029】
実施の形態2
図9に、実施の形態2に係る電気化学計測チップ用電極装置41の構成を示す。この電気化学計測チップ用電極装置41は、図1に示した実施の形態1の電極装置11において、絶縁シート12の裏面12b上の周縁部に、剛性を有するフレーム16を接合したものである。フレーム16は、絶縁シート12の裏面12b側に突出する全ての電極部材13の他端部13bを露出させる開口部16aが形成された平板形状を有すると共に、図10に示されるように、絶縁シート12および液溜り15の外方にまで延びる一対の延出部16bを有し、これら延出部16bにそれぞれ位置合わせ孔17が貫通形成されている。
【0030】
また、この実施の形態2においては、図11に示されるように、トランスデューサ21が固定台42上に固着されており、トランスデューサ21を挟むように固定台42の上に一対の位置合わせピン43が突出形成されている。
そして、図12に示されるように、電気化学計測チップ用電極装置41のフレーム16に形成された一対の位置合わせ孔17に固定台42の一対の位置合わせピン43を挿入させることにより、電気化学計測チップ用電極装置41とトランスデューサ21の位置合わせを行うことができる。
【0031】
トランスデューサ21を固定台42に実装する際にトランスデューサ21の複数の電極22と固定台42の位置合わせピン43との相対位置関係を予め正確に合わせると共に、電気化学計測チップ用電極装置41の複数の電極部材13とフレーム16の位置合わせ孔17との相対位置関係を予め正確に合わせておけば、フレーム16の位置合わせ孔17に固定台42の位置合わせピン43を挿入させることで、使い捨ての電気化学計測チップ用電極装置41を新たなものに交換しても、電気化学計測チップ用電極装置41の複数の電極部材13とトランスデューサ21の複数の電極22との位置合わせを容易に行うことが可能となる。
【0032】
なお、フレーム16としては、例えば、厚さ80μmのステンレス板を用い、実施の形態1で述べたように、金型31を使用した絶縁シート12の成形時にフレーム16をインサート成形することにより、絶縁シート12の裏面12bにフレーム16を接合することができる。
また、フレーム16の位置合わせ孔17の直径および固定台42の位置合わせピン43の直径は、それぞれ例えば1mmとすることができる。
【0033】
このような剛性を有するフレーム16の使用により、電気化学計測チップ用電極装置41の電極部材13とトランスデューサ21の電極22との位置合わせが可能になるだけでなく、絶縁シート12をシリコーンゴム等の柔軟性に富んだ材料から形成した場合にも、電気化学計測チップ用電極装置41をハンドリングしやすくなるという効果がもたらされる。
【0034】
実施の形態3
絶縁シート12と電極部材13の少なくとも一方は弾性を有することが望ましいが、図13に示されるように、シリコーンゴム等の弾性部材54を介在させることで、弾性の乏しい絶縁シート52に弾性の乏しい電極部材53を保持させることもできる。弾性部材54は、電極部材53の外周部を囲むように配置されている。このような構造とすれば、弾性部材54の存在により、電極部材53が絶縁シート52に対して変位可能となるので、絶縁シート52として、アクリル、ポリカーボネート、ガラス、セラミックス等の硬い材料を使用し、電極部材53として、表面にAuメッキを施した金属材料を用いても、絶縁シート52に保持された複数の電極部材53とトランスデューサ21の複数の電極22との間にそれぞれ良好な電気的接続を確立させることができる。
【0035】
また、図14に示されるように、弾性部材を介在させることなく弾性の乏しい絶縁シート62に弾性の乏しい金属部材64を直接保持させると共に金属部材64の両端部をそれぞれ絶縁シート62から突出させずに絶縁シート62の表面62aおよび裏面62bと同一面を構成させ、絶縁シート62の裏面62b側に位置する金属部材64の端部に弾性を有する導電部材65を突出形成してもよい。金属部材64と導電部材65により電極部材63が形成される。
【0036】
弾性を有する導電体64としては、例えば、Ag等の導電性フィラーを含有するシリコーン系材料を用いることができる。なお、絶縁シート62としては、アクリル、ポリカーボネート、ガラス、セラミックス等の硬い材料を、金属部材64としては、表面にAuメッキを施した金属材料を用いることができる。
このような構造としても、絶縁シート62に保持された複数の電極部材63とトランスデューサ21の複数の電極22との間にそれぞれ良好な電気的接続を確立させることが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
1 絶縁体基板、2 平面電極、3 導電パターン、4 集積回路チップ、5 電極、6 サンプル、11,41 電気化学計測チップ用電極装置、12,52,62 絶縁シート、12a,62a 表面、12b、62b 裏面、13,53,63 電極部材、13a 一端部、13b 他端部、14 生体適応被膜、15 液溜り、16 フレーム、16a 開口部、16b 延出部、17 位置合わせ孔、21 トランスデューサ、22 電極、31 金型、32 凸部、33 平面基板、34 貫通孔、35 基板、36 注入管、37 シリコーン系材料、42 固定台、43 位置合わせピン、54 弾性部材、64 金属部材、65 導電部材、S 液体試料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスデューサの表面上に形成された複数の電極に測定対象物を電気的に接続するための電気化学計測チップ用電極装置であって、
絶縁性を有し且つ互いに反対方向を向いた表面および裏面を有する絶縁シートと、
それぞれ導電性を有し且つ前記絶縁シートを厚さ方向に貫通した状態で前記絶縁シートに保持され、前記絶縁シートの前記表面側に位置する一端部に前記測定対象物が接続され、前記絶縁シートの前記裏面側に位置する他端部に前記トランスデューサの電極が接続される複数の電極部材と
を備えたことを特徴とする電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項2】
前記複数の電極部材は、それぞれ前記他端部が前記絶縁シートの前記裏面より突出している請求項1に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項3】
前記複数の電極部材は、少なくとも前記突出部が弾性を有する請求項2に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項4】
前記絶縁シートが弾性を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項5】
前記絶縁シートの前記裏面が粘着性を有する請求項4に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項6】
前記複数の電極部材は、前記測定対象物を含む液体試料が前記絶縁シートの前記裏面側に漏出しないように前記絶縁シートに密着している請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項7】
前記複数の電極部材の前記一端部が導電性の生体適応被膜で覆われた請求項1〜6のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項8】
前記絶縁シートの前記表面上の周縁部に立設された液溜りをさらに備えた請求項1〜7のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項9】
前記絶縁シートの前記裏面上の周縁部に接合された剛性を有するフレームをさらに備えた請求項1〜8のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項1】
トランスデューサの表面上に形成された複数の電極に測定対象物を電気的に接続するための電気化学計測チップ用電極装置であって、
絶縁性を有し且つ互いに反対方向を向いた表面および裏面を有する絶縁シートと、
それぞれ導電性を有し且つ前記絶縁シートを厚さ方向に貫通した状態で前記絶縁シートに保持され、前記絶縁シートの前記表面側に位置する一端部に前記測定対象物が接続され、前記絶縁シートの前記裏面側に位置する他端部に前記トランスデューサの電極が接続される複数の電極部材と
を備えたことを特徴とする電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項2】
前記複数の電極部材は、それぞれ前記他端部が前記絶縁シートの前記裏面より突出している請求項1に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項3】
前記複数の電極部材は、少なくとも前記突出部が弾性を有する請求項2に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項4】
前記絶縁シートが弾性を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項5】
前記絶縁シートの前記裏面が粘着性を有する請求項4に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項6】
前記複数の電極部材は、前記測定対象物を含む液体試料が前記絶縁シートの前記裏面側に漏出しないように前記絶縁シートに密着している請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項7】
前記複数の電極部材の前記一端部が導電性の生体適応被膜で覆われた請求項1〜6のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項8】
前記絶縁シートの前記表面上の周縁部に立設された液溜りをさらに備えた請求項1〜7のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【請求項9】
前記絶縁シートの前記裏面上の周縁部に接合された剛性を有するフレームをさらに備えた請求項1〜8のいずれか一項に記載の電気化学計測チップ用電極装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−141169(P2012−141169A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292497(P2010−292497)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:東北大学マイクロシステム融合研究開発センターシンポジウム 開催日:平成22年12月06日 主催者:東北大学
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:東北大学マイクロシステム融合研究開発センターシンポジウム 開催日:平成22年12月06日 主催者:東北大学
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
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