説明

電気式人工喉頭

【課題】電気式人工喉頭の振動板と頸部等とをより接触しやすいようにする。
【解決手段】振動発生部12は、把持部11の前方に連結されている。振動発生部12は、振動板31とボイスコイルモータを有して構成される。振動板31は、例えばウレタン系の樹脂により形成され、その一端面(露出面31A)が球面となっている。振動板31の露出面31Aを、露出する方向に凸状の球面としたので、電気式人工喉頭1が頸部等に対して角度を持って押し当てられても、露出面31Aの曲線半径だけ、振動板31と頸部等とが接触し易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式人工喉頭に関する。
【背景技術】
【0002】
健常者は、自らの呼気が喉頭(声門)を経由する際に声帯を振動させることにより音を発生させ、その音の周波数成分を舌・顎や唇などの調音器官で変えることにより様々な発話を行っている。この声帯の振動により発生される音は、発話の基となる音であることから、「声門音源」などと呼ばれる。
【0003】
これに対し、喉頭を摘出してしまった喉頭摘出者は、通常であれば自らの意思による発声は不可能であるが、調音器官さえ残存していれば、人工的に作り出した音を声門音源の代わりに口腔内で発生させ、または、口腔内へ送り込んでやることにより、不完全ながらも発声ができるようになる。
【0004】
このような声門音源の代わりとなる音を人工的に作り出す装置の一つに電気式人工喉頭がある。電気式人工喉頭は、声門音源の代わりとなる音を、機械的、または、電気機械的に生成し、その音を頸部や顎部(以下、適宜、頸部等と称する)の振動などを通じて口腔内に導くことによって、喉頭摘出者自らによる発声を支援する。
【0005】
図10は、従来の電気式人工喉頭101の構成例を示す図である(特許文献1参照)。電気式人工喉頭101の筐体111は、利用者の掌に収まるサイズの略円筒形をなしている。その筐体111の長手方向の一端には振動板112が露出するように配置されている。振動板112は、操作ボタン113の操作に応じて内蔵するボイスコイルモータ(図示せず)が駆動することによって振動する。
【0006】
図11は、電気式人工喉頭101の使用例を示す図である。利用者は、電気式人工喉頭101の筐体111を自らの掌で包み込むように握って、振動板112を自らの頸部等に押し当て、操作ボタン113を操作する。操作ボタン113の操作に応じて、ボイスコイルモータが駆動して振動板112が振動し、その振動が、利用者の顎部から口腔内に伝わって音が発生する。
【特許文献1】特開2000−188794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように電気式人工喉頭101による喉頭摘出者の発声は、振動板112の振動によることから、例えば振動板112と頸部等が十分に接触している必要がある。しかしながら、従来の電気式人工喉頭101の振動板112は、図10に示すように、その露出面が平らであることから、電気式人工喉頭101が頸部等に角度を持って押し当てられると、振動板112と頸部等が十分接触しない。その結果、振動板112の振動が顎部から口腔内に伝わらないので、十分な音が発生しない。
【0008】
図12は、振動板112と頸部との接触状態を示す図である。このように電気式人工喉頭101が頸部に角度(この例の場合、θ1)を持って押し当てられると、振動板112と頸部の間には、その角度に応じた隙間(接触している点から広がるような隙間)が生じる。その結果、振動板112の振動が顎部から口腔内に伝わらないので、十分な音が発生しない。
【0009】
このように従来の電気式人工喉頭101では、利用者の電気式人工喉頭101の扱い方によっては、振動板112と頸部等が十分接触しないときがあり、その結果十分な発声ができないときがある。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、電気式人工喉頭の振動を、適切に口腔内に伝えることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面の電気式人工喉頭は、振動板を露出するように支持するとともに、振動板を振動させる振動発生部と、利用者に把持される把持部であって、振動発生部が連結されている把持部と、振動発生部の振動板の振動を制御する制御部とを備える電気式人工喉頭であって、振動板の露出面は、露出する方向に凸状の球面であることを特徴とする。
【0012】
振動発生部と把持部とは、振動発生部がその半径方向に首振り可能に連結されているようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気式人工喉頭の振動を、適切に口腔内に伝えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態について、以下、図面を参照しながら説明する。本実施形態にかかる電気式人工喉頭は、声の元となる音を喉頭摘出者の口腔内で人工的に発生させる、もしくは人工的に発生した音を口腔内に導くものである。その結果、舌・顎や唇などの調音器官を通じてその音の周波数成分に変化が加えられ、利用者の口から発せられる。
【0015】
図1は、本実施形態にかかる電気式人工喉頭1の斜視図、図2は、その正面図、図3は、その左側面図である。なお電気式人工喉頭1の縦長方向を、前後方向とし、図面における「上」を「前」とし、「下」を「後」とする。
【0016】
電気式人工喉頭1は、大きくは把持部11及び振動発生部12から構成されている。
【0017】
把持部11は、利用者の掌に収まるサイズの略円筒形状をなしている。把持部11の表面には押しボタン21が設けられている。この押しボタン21は、音の発生を指示する操作子であり、接点やスプリングを含むON/OFFスイッチ52(図5参照)と連動している。把持部11の内部には、ON/OFFスイッチ52を含む各回路素子が搭載されている。
【0018】
振動発生部12は、把持部11の前方に連結されている。振動発生部12は、振動板31及びボイスコイルモータ32(図3)を有して構成されている。
【0019】
振動板31は、例えばウレタン系の樹脂により形成され、電気式人工喉頭1の前方から露出するように配置されている。振動板31の露出する面(以下、露出面31Aと称する)は、露出する方向に凸状の球面である。
【0020】
図4は、振動板31の半径方向の断面図である。振動板31の露出面31Aは、例えば電気式人工喉頭1の中心軸L上に位置するある点Cを中心とした円弧状となっている。
【0021】
振動板31は、ボイスコイルモータ32(図3)の駆動によって振動する。ボイスコイルモータ32は、両端がN極とS極にそれぞれ着磁された円柱形のマグネット41、そのマグネット41を前方及び側方から包囲する円筒形のボビン42、ボビン42の外周に巻き回されたコイル43、及びそれらを後方ならびに側方から包囲するヨーク44を有する。
【0022】
このヨーク44は前方が開口しており、その開口する部位を塞ぐように円形ゴム45が張り渡されている。そして、円形ゴム45の中央には、軸46が前後方向に貫かれ、固定されている。軸46の一端は、ボビン42に固定されている。ゴム材47は、振動板31を、振動発生部12の前方の縁の内側に固定する。
【0023】
このボイスコイルモータ32による振動板31の駆動は、フレミングの法則を利用してなされる。つまり、コイル43にパルス信号が供給されると、ヨーク44内をスライドするボビン42に加わる磁気力より前方へ押し出された軸46の他端が振動板31を打撃する。そして、コイル43へのパルス信号の供給が止まると、円形ゴム45の復元力の作用を受けて軸46が後退する。このような動作の繰り返しにより、振動板31が振動する。
【0024】
図5は、電気式人工喉頭1の回路構成を示すブロック図である。制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)から構成され、押しボタン21の押下に伴ってON/OFFスイッチ52からオン信号が供給されると、パルス信号出力部53を制御して、所定のパルス信号を、ボイスコイルモータ32に出力させる。これらを構成する各回路は、把持部11の内部に格納されている。
【0025】
以上のように、電気式人工喉頭1は構成されている。
【0026】
即ち以上のように、振動板31の露出面31Aを、露出する方向に凸状の球面としたので、電気式人工喉頭1が頸部や顎部に対して角度を持って押し当てられても、露出面31Aの曲線半径だけ、振動板31と顎部とが接触し易くなる。なお振動板31は首の部分に押し当てられることが多いが、顎の下あたりに押し当てられる場合もある。従ってここでも、振動板31が押し当てられる部分を、適宜、頸部等と称する。
【0027】
図6は、振動板31と頸部との接触状態を示す図である。図6の左側は、従来の電気式人工喉頭101の振動板112と頸部の接触状態(図12と同じ)を示し、図6の右側は、電気式人工喉頭1の振動板31と頸部の接触状態を示す。このように電気式人工喉頭1が頸部に角度(この例の場合、θ1)を持って押し当てられても、振動板31の露出面31Aが球面となっているので、従来の電気式人工喉頭101の場合に比べ、その曲線半径分、振動板31と頸部とが接触する面積が大きくなる。従って振動板31の振動を適切に口腔内に伝えることができる。
【0028】
このように、電気式人工喉頭1の振動板31と頸部等とが接触し易くなったので、電気式人工喉頭1に慣れていない人でも、適切に電気式人工喉頭1を使用することができる。
【0029】
図7は、電気式人工喉頭1の他の構成例を示す図である。この例の場合、振動発生部12は把持部11に対して、マジックテープ(登録商標)61により連結されている。なおパルス信号出力部53(図8)が出力するパルス信号は、ケーブル71を介してボイスコイルモータ32に供給される。
【0030】
マジックテープ(登録商標)61は、ループ面とフック面が2枚1組となっており、フック面のカギの部分がループ面のループに引っかかることにより、両面が接続される。即ちカギの長さやフックの大きさに応じた自由度を持って接続されるので、図7の例の場合は、振動発生部12は、把持部11に対して、外側に傾く方向(即ち半径方向)にある程度動くことができる。即ち振動発生部12と把持部11は、首振り可能に連結されている。
【0031】
従ってこの例の場合、振動板31の露出面31Aは、頸部等の表面に沿うように可動するので、図9に示すように手術の状態や個人差等により頸部等の形状が変形しても、振動板31の露出面31Aの球面構造と、振動発生部12の首振り構造によって、頸部等と振動板31の密着度を高く保つことができる。従って頸部等の形状が変形していても、振動板31の振動を適切に口腔内に伝えることができる。なお図9における頸部の形状は、図6に示す頸部の形状と比較して変形している。また図9中、点線の振動板31は、図6の右側と同じであり、可動しない場合の振動板31の状態を示し、実線の振動板31は、頸部等の表面に沿うように可動した振動板31の状態を示している。
【0032】
なお図7の例では、マジックテープ(登録商標)61で把持部11と振動発生部12を連結するようにしたが、振動発生部12が半径方向に動くことができれば、他の方法で両者を連結することもできる。
【0033】
また図1の例では、把持部11と振動発生部12が連結している場合を例として説明したが、振動発生部12と把持部11とが分離しているタイプの電気式人工喉頭に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を適用した電気式人工喉頭の斜視図である。
【図2】図1の電気式人工喉頭の正面図である。
【図3】図1の電気式人工喉頭の左側面図である。
【図4】図1の振動板の露出面を説明する図である。
【図5】図1の電気式人工喉頭の内部の構成例を示すブロック図である。
【図6】図1の振動板と頸部との接触状態を示す図である。
【図7】本発明を適用した電気式人工喉頭の他の構成例を示す図である。
【図8】図7の電気式人工喉頭の内部の構成例を示すブロック図である。
【図9】図8の振動板の動きを説明する図である。
【図10】従来の電気式人工喉頭の構成例を示す図である。
【図11】図10の電気式人工喉頭の内部の構成例を示すブロック図である。
【図12】図10の振動板と頸部との接触状態を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 電気式人工喉頭, 11 把持部, 12 振動発生部, 21 押しボタン, 31 振動板, 31A 露出面, 61 マジックテープ(登録商標)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板を露出するように支持するとともに、上記振動板を振動させる振動発生部と、
利用者に把持される把持部であって、上記振動発生部が連結されている把持部と、
上記振動発生部の上記振動板の振動を制御する制御部と
を備える電気式人工喉頭であって、
上記振動板の露出面は、露出する方向に凸状の球面である
ことを特徴とする電気式人工喉頭。
【請求項2】
請求項1に記載の電気式人工喉頭において、
上記振動発生部と前記把持部とは、上記振動発生部がその半径方向に首振り可能に連結されている
ことを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−81348(P2010−81348A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248202(P2008−248202)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(391026106)株式会社電制 (12)