説明

電気式床暖房パネルとそれを用いた電気式床暖房フロア

【課題】3線式ヒータ線を組み込んだ電気式床暖房パネルに、製品寿命を超えて継続使用しているとき等に、3線式ヒータ線に疲労断線が生じて発熱線近傍が異常発熱して出火に至るのを防止できる安全設計を組み込む。
【解決手段】3線式ヒータ線20として、通電により発熱する第1と第2の2本の発熱線21,22と検知線23との3線式ヒータを用いる。第1の発熱線21の抵抗値は第2の発熱線の抵抗値よりも小さい。第1の発熱線21と検知線23は第1の被覆樹脂24,26で被覆されており、第2の発熱線22は第1の被覆樹脂の溶融温度よりも高い溶融温度を持つ第2の被覆樹脂25で被覆されている。発熱回路は、第1の被覆樹脂24,26が溶融することにより生じる第1の発熱線21と検知線22との短絡により検知線23に流れる電流が抵抗器53に流れて発熱することに起因して溶断するヒューズ51を備えた抵抗器付き温度ヒューズ50を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱源であるヒータ線を組み込んだ電気式床暖房パネルと、その複数枚が電気的に接続して床下地面に敷き詰られて形成される電気式床暖房フロアに関する。
【背景技術】
【0002】
木質基材の裏面にヒータ線による発熱回路を組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続しながら床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房フロアは知られている(特許文献1等参照)。コントローラには、加熱エリアの特定、通電の開始と停止、定常運転モードでの温度レベル設定、などの機能が備えられ、電気式床暖房フロアの安全性を確保している。
【0003】
また、電気毛布や電気カーペットなどの面状採暖具に敷線するヒータ線として、第1と第2の2本の発熱線と1本の検知線とからなり、第1の発熱線と検知線との間には第1の溶断層が介在し、第1の発熱線と第2の発熱線との間には少なくとも第2の溶断層が介在し、第2の溶断層の材料の融点は第1の溶断層の材料の融点よりも高くされた、3線式ヒータ線が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−308202号公報
【特許文献2】特開平10−335046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気式床暖房フロアの安全運転は、通常の使用状態では充分に保証されている。しかし、一般に構造部材は、その構造上からくる寿命を当然に有しており、例えば電気式床暖房パネルの場合、10年程度の長期にわたって継続して使用されると、歩行等による荷重が繰り返し加わることで、内部に組み込んだヒータ線にひずみによる応力が繰り返しかかり、その影響で疲労断線が起こる可能性がある。断線すると断線箇所でスパークが発生して異常発熱し、燃焼を起こす恐れがある。
【0006】
本発明は、上記のように製品寿命を超えたときに起こる可能性のある、ヒータ線の断線に起因する燃焼等の不都合に対して、安全設計を施した電気式床暖房パネルおよびそれを用いた電気式床暖房フロアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための第1の発明は、木質基材の裏面にヒータ線による発熱回路を組み込んだ電気式床暖房パネルであって、前記ヒータ線は、第1と第2の2本の発熱線と1本の検知線とからなり、第1の発熱線と検知線との間には第1の溶断層が介在し、第1の発熱線と第2の発熱線との間には少なくとも第2の溶断層が介在し、第2の溶断層の材料の融点は第1の溶断層の材料の融点よりも高く、かつ第1の発熱線の抵抗値は第2の発熱線の抵抗値よりも小さい3線式ヒータ線であり、前記発熱回路は前記3線式ヒータ線と電源側との間に抵抗器付き温度ヒューズを備え、前記第1の発熱線の一方端は電源に直接接続しており、前記第2の発熱線の一方端は前記抵抗器付き温度ヒューズの温度ヒューズを介して電源に接続しており、前記検知線の一方端は前記抵抗器付き温度ヒューズにおける前記温度ヒューズの電源接続側とは反対側に接続する抵抗器に接続しており、かつ、前記抵抗器は前記第1の溶断層が溶融することにより生じる前記第1の発熱線と前記検知線との短絡により前記検知線に流れる電流が流れることにより発熱し、前記抵抗器の発熱により前記温度ヒューズが溶断するようになっており、さらに、前記第1と第2の発熱線の他方端はサーモスタットを介してあるいは介さずに互いに接続していることを特徴とする電気式床暖房パネルである。
【0008】
上記の課題を解決する第2の発明は、上記第1の発明に係る電気式床暖房パネルの複数枚が並列接続した状態で床下地面に敷き詰められていることを特徴とする電気式床暖房フロアである。
【0009】
第1の発明に係る電気式床暖房パネルおよび第2の発明に係る電気式床暖房フロアにおいて、通常の使用状態では、3線式ヒータ線の前記第2の発熱線側に接続している抵抗器付き温度ヒューズのヒューズには、発熱線の持つ抵抗値に応じた電流が流れており、前記ヒューズが溶断することなく、正常な運転が継続する。
【0010】
製品寿命を超えた長期の使用等により、電気式床暖房パネルに組み込まれた3線式ヒータ線の発熱線に疲労断線等による部分断線等が生じた場合、スパーク等の発生によりその近傍に設定値以上の発熱が生じ、そのまま使用を継続すると発火に至る恐れがある。前記第1の発明に係る電気式床暖房パネルは、発火に至るような危険が生じるのを確実に回避する。
【0011】
すなわち、第1の発明に係る電気式床暖房パネルでは、第1と第2の2本の発熱線と1本の検知線とからなる3線式ヒータ線を用いており、第1と第2の2本の発熱線のいずれかの箇所において断線が生じて設定以上の異常発熱が生じた場合、その発熱により、比較して融点の低い材料からなる第1の溶断層が溶融する。絶縁層として機能していた第1の溶断層が溶融することにより、第1の発熱線と検知線が短絡状態となる。この短絡により検知線には高い値の短絡電流が流れ、その電流が、電気式床暖房パネルに組み込まれた前記抵抗器付き温度ヒューズの抵抗器に流れることにより、抵抗器が発熱する。そして、この発熱により第2の発熱線に接続している抵抗器付き温度ヒューズの温度ヒューズが溶断する。このヒューズの溶断により、当該電気式床暖房パネルに対するコントローラからの電力の供給は完全に遮断されるので、それ以降は、断線箇所においてスパーク等が発生することはなく、燃焼に至るような事態となるのを確実に阻止される。すなわち、事故発生時に安全サイドに導かれる。
【0012】
ところで、上記のような発熱回路において、前記した第1の発熱線と検知線との短絡箇所が電源に近い箇所か遠い箇所かで、抵抗器付き温度ヒューズに取り付けた抵抗器を流れる電流および電圧が異なってくる。短絡が電源に近い箇所で起こると、抵抗器にかかる大きな電流と大きな電圧によって出力(W数)が大きくなり、抵抗器は短時間で所要の温度に昇温し、短絡後の短い時間でヒューズが溶断する。一方、短絡が電源から遠い箇所で起こると、抵抗器にかかる電流と電圧は比較して小さくなり、抵抗器が所要の温度に昇温するのに長い時間を要し、ヒューズが溶断するまでに長い時間が経過する。この時間差は、検知線と短絡する前記第1の発熱線の抵抗値に依存しており、第1の発熱線の抵抗値が大きいほど、時間差が大きくなる。本発明者らの実験の一例では、電源に近い箇所で短絡が生じた場合には20秒弱でヒューズの溶断が生じたが、電源から最も遠い場所で短絡が生じた場合には、100秒を越えても溶断が生じない場合があることを経験した。このような時間差が生じることは、安全性確保の観点から好ましくなく、長い場合でも短絡発生から60秒程度以内には、ヒューズの溶断が起こることが望まれる。
【0013】
それを解決するために、第1の発明に係る電気式床暖房パネルでは、前記3線式ヒータ線として、第1の発熱線の抵抗値が第2の発熱線の抵抗値よりも小さい3線式ヒータ線を用いることとした。それにより、第1と第2の発熱線の抵抗値が同じ場合と比較して、電源から遠い箇所で短絡が起こったときにヒューズが溶断するまでの時間を短くすることができ、例えば60秒以内とすることができる。第1の発熱線の抵抗値を第2の発熱線の抵抗値と比較してどの程度に小さい値とするかは、3線式ヒータ線として所望の発熱量が得られることと、電源に近い箇所で短絡が発生したときに流れる電流によって、採用する抵抗器付き温度ヒューズの抵抗器そのものが破壊しないことを考慮して、実際に使用する電気式床暖房パネルの設計仕様に合わせて、適宜設定すればよい。もちろん、第1の発熱線の抵抗値が低下した分、第2の発熱線の抵抗値を高くすることは、3線式ヒータ線として所望の発熱量を得るために必要である。
【0014】
なお、本発明による電気式床暖房パネルでは、3線式ヒータ線のいずれの箇所で断線による異常発熱が生じても、検知線は必ず第1の発熱線側と短絡するので、検知線に流れる電流に起因して溶断するヒューズを1個のみ第2の発熱線側に接続すればすみ、また、ダイオードも不要となるので、有効ヒータゾーンが大きくなると共に、低コストで発熱回路を構成することが可能となる。
【0015】
前記の3線式ヒータ線を採用することにより、さらに次のような作用効果がもたらされる。すなわち、前記の3線式ヒータ線は、第1と第2の2本の発熱線の一方端は電源側に接続し、他方端は互いに接続している構成であり、木質基材の裏面に3線式ヒータ線による発熱回路を組み込む作業は、発熱線を単に木質基材の裏面に形成した溝内に埋め込んでいけばよく、閉ループを作る必要がないので、電気式床暖房パネルへの発熱線の組み込み作業は簡素化され、NCによる配線も可能となる。さらに、一本の3線式ヒータ線内で、実質的に平行に走る第1と第2の2本の発熱線を電流が往復で流れることから磁界が打ち消し合うようになり、電気式床暖房パネルからの電磁波の発生もカットされる。
【0016】
上記の課題を解決するための第3の発明は、木質基材の裏面にヒータ線による発熱回路を組み込んだ電気式床暖房パネルであって、前記ヒータ線は、第1と第2の2本の発熱線と1本の検知線とからなり、第1の発熱線と検知線との間には第1の溶断層が介在し、第1の発熱線と第2の発熱線との間には少なくとも第2の溶断層が介在し、第2の溶断層の材料の融点は第1の溶断層の材料の融点よりも高く、かつ第1の発熱線の抵抗値は第2の発熱線の抵抗値よりも小さい3線式ヒータ線であることを特徴とする電気式床暖房パネルである。
【0017】
第3の発明に係る電気式床暖房パネルは、抵抗器付き温度ヒューズをパネル内に備えない点で、前記した第1の発明に係る電気式床暖房パネルと相違する。従って、第3の発明に係る電気式床暖房パネルを用いて電気式床暖房フロアを構築する場合には、電気式床暖房パネルと電源との間に別途抵抗器付き温度ヒューズを組み付けることが必要となる。
【0018】
上記の課題を解決するための第4の発明は、上記第3の発明に係る電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、床暖房用コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房フロアであって、前記床暖房用コントローラは抵抗器付き温度ヒューズを備え、電気式床暖房パネルに組み込んだ前記3線式ヒータ線の前記第1の発熱線の一方端は前記床暖房用コントローラを介して電源に直接接続しており、前記第2の発熱線の一方端は前記床暖房用コントローラに備えた前記抵抗器付き温度ヒューズの温度ヒューズを介して電源に接続しており、前記検知線の一方端は前記抵抗器付き温度ヒューズにおける前記温度ヒューズの電源接続側とは反対側に接続する抵抗器に接続しており、かつ、前記抵抗器付き温度ヒューズの抵抗器には前記第1の溶断層が溶融することにより生じる前記第1の発熱線と前記検知線との短絡により前記検知線に流れる電流が流れることにより発熱するようになっており、前記抵抗器の発熱により前記温度ヒューズが溶断するようになっていることを特徴とする。
【0019】
上記第4の発明に係る電気式床暖房フロアにおいて、上記第3の発明に係る電気式床暖房パネルに断線による異常発熱が生じた場合に、前記床暖房用コントローラに備えた抵抗器付き温度ヒューズには、上記した第1の発明に係る電気式床暖房パネルに備えた抵抗器付き温度ヒューズに生じたと同じ現象が発生し、事故発生時には確実に安全サイドに導かれる。
【0020】
さらに、第4の発明に係る電気式床暖房フロアでは、床暖房用コントローラに1つの抵抗器付き温度ヒューズを組み込むだけで、電気式床暖房フロアを確実に安全サイドに導くことができる。そのために、1枚ごとの電気式床暖房パネル、あるいは各グループ化した電気式床暖房パネル群ごとに、抵抗器付き温度ヒューズを備える場合と比較して、抵抗器付き温度ヒューズの数を減らすことができ、低コストで電気式床暖房フロアを構築することができる。また、各電気式床暖房パネルあるいは電気式床暖房パネル群は並列接続しているので、いずれの電気式床暖房パネルにおける3線式ヒータ線において断線による異常発熱が生じても、電気式床暖房フロアは確実に安全サイドに導かれる。
【0021】
なお、本発明による電気式床暖房パネルの全体形状は任意であり、矩形状、長尺状の単位ピースが長手方向に位置をずらしながら雁木状に組み付けられた形状、などを例示できる。木質基材の裏面に緩衝材層が貼着されている形態であってもよく、この形態の電気式床暖房パネルは、直貼り式の床暖房パネルとして有効に用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本願の発明によれば、製品寿命を超えたときに起こる可能性のある、発熱線の断線に起因する燃焼等の不都合に対して、有効な安全設計を施した電気式床暖房パネルが提供される。また、本発明による電気式床暖房パネルは、3線式ヒータ線の木質基材への組み込みが容易であり、部品数も少なくてすむことから、低コストでの提供が可能となる。さらに、断線による異常発熱により、発熱線と検知線との短絡箇所が電源側から遠い箇所で起こった場合にも、短い時間内に抵抗器付き温度ヒューズの温度ヒューズを溶断させることができ、より安全サイドに近づいた電気式床暖房パネルおよびそれを用いた電気式床暖房フロアが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態により説明する。図1は電気式床暖房フロアの全体を示す概略図、図2は第1の発明に係る電気式床暖房パネルの一例を説明する図、図3は第2の発明に係る電気式床暖房フロア全体の電気回路図の一例である。図4は電気式床暖房パネルに組み込まれる3線式ヒータ線を説明する図、図5は電気式床暖房パネルにおける発熱回路を説明する図、図6と図7は発熱回路に断線が発生したときの2つの態様を説明するための図である。
【0024】
電気式床暖房フロアAは、床下地10の上に、図2に一例を示すような、木質基材31の裏面に3線式ヒータ線20による発熱回路を組み込んだ電気式床暖房パネル30の複数枚を電気的に並列に接続して敷き詰めて構成され、各電気式床暖房パネル30には、外部からの商用電力がコントローラ40を介して供給される。コントローラ40は、前記特許文献1に記載のような従来知られた電気式床暖房フロアで用いられているものであってよく、加熱エリアの特定、通電の開始と停止、定常運転モードでの温度レベル設定、などの機能が備えられる。
【0025】
電気式床暖房パネル30は、図2(a)に緩衝材層を除去した状態の背面図の一例に示すように、木質基材31を有し、その裏面には配線溝が形成され、該配線溝の中には、図4に示す3線式ヒータ線20が埋め込まれている。埋め込まれた3線式ヒータ線20の一方端側は、後記する抵抗器付き温度ヒューズ50(図5参照)を介して、電源に接続するコネクタ35に接続しており、他方端側はフリーとなっている。また、木質基材31の裏面には、必須ではないが、図2(b)に示すように、遮音溝36が形成され、さらに、直貼り床材として用いることができるように、緩衝材層37が貼り付けられている。この例において緩衝材層37は、不織布層38と樹脂発泡体層39との2層構成とされている。
【0026】
図3は、電気式床暖房フロアAの電気回路図であり、交流電源は、コントローラ40から並列接続した複数枚の電気式床暖房パネル30にそれぞれ供給される。
【0027】
図4に示すように、3線式ヒータ線20は、第1の発熱線21と、第2の発熱線22と、発熱線21,22と比較して切れ難くかつ電気抵抗の小さい線(例えばニッケル線)である検知線23とからなる3線式ヒータであり、第1の発熱線21の抵抗値R1は第2の発熱線22の抵抗値R2よりも小さい。例えば、R1=175Ω、R2=405Ωである。また、各線は、発熱線の異常発熱等で溶融する非導電性材料からなる被覆樹脂24,25,26でそれぞれ被覆されている。図4(b)に示すように3本の線は寄り合わされて一本の線となり、その全体が図4(a)に示すように耐熱PVCのような断熱性のある非導電性材料からなる被覆材27により覆われている。
【0028】
被覆樹脂24,25,26は、ナイロン系樹脂あるいはポリアミド系樹脂のような熱可塑性樹脂である。ただし、第1の発熱線21を被覆する第1の被覆樹脂24と第2の発熱線22を被覆する第2の被覆樹脂25には、溶融温度の異なる樹脂が用いられており、この例で、第1の被覆樹脂24の溶融温度は180℃、第2の被覆樹脂25の溶融温度は220℃である。すなわち、第2の発熱線22は第1の被覆樹脂24の溶融温度よりも高い溶融温度を持つ第2の被覆樹脂25で被覆されている。また、検知線23を覆う被覆樹脂26には、前記した比較して溶融温度の低い第1の被覆樹脂24と同じ樹脂が用いられており、その溶融温度は180℃である。
【0029】
これらの被覆樹脂24,25,26は、通常の運転時ではそのままで存在しており、絶縁材として機能している。しかし、第1の発熱線21または第2の発熱線22に断線あるいは部分断線等が生じてスパーク等が発生して、溶融温度を超える異常加熱状態が部分的に発生したときには、溶融して絶縁機能を喪失する。
【0030】
本発明において、各電気式床暖房パネル30における発熱回路は、図5に示すような構成を備える。図5において、20は上記の3線式ヒータ線を示し、50は抵抗器付き温度ヒューズを示す。図示のように、第1の発熱線21の一方端は電源60に直接接続しており、第2の発熱線22の一方端は前記抵抗器付き温度ヒューズ50の温度ヒューズ51を介して電源60に接続している。また、前記検知線23一方端は抵抗器付き温度ヒューズ50における前記温度ヒューズの電源接続側とは反対側に接続する抵抗器53に接続している。そして、前記第1と第2の発熱線21,22の他方端はサーモスタット54を介して互いに直列に接続している。また、前記抵抗器付き温度ヒューズ50は、検知線23に流れる電流が前記した温度ヒューズ50の電源接続側とは反対側に接続する抵抗器53に流れて、抵抗器53が発熱するときに、その熱によってヒューズ51は溶断するように設計されており、この例で、抵抗器53の抵抗は1300Ωであり、また、ヒューズ51は99℃で溶断するようにされている。
【0031】
上記の発熱回路において、電気式床暖房フロアAが正常に運転している環境では、供給される電力は、第1の発熱線21と第2の発熱線22とを循環するように流れ、その発熱により床暖房が行われる。正常運転での温度制御等は前記したコントローラ40により行われる。正常運転時に検知線23には電流は流れず、またヒューズ51を流れる電流は、発熱線21,22の抵抗値に依存する小さな値であり、ヒューズ51が溶断することはない。
【0032】
製品寿命を超えてもなお継続使用していると、使用者が知らないうちに第1の発熱線21と第2の発熱線22のいずれかに部分断線が生じ、接触抵抗が異常に増加してスパーク等による異常加熱が生じる場合がある。図6は、そのような断線が第1の発熱線21において起こった場合の状態を説明している。第1の発熱線21のいずれかの箇所Pでスパーク等による異常加熱が生じたときに、その箇所の第1の被覆樹脂24は溶融し、そこに近接する検知線23を被覆する被覆樹脂26も溶融する。
【0033】
双方の被覆樹脂が溶融することにより、図6に領域Qで示すように、第1の発熱線21と検知線23とが短絡した状態となり、電流は、その短絡箇所から検知線23側に流れる。検知線23に電流が流れることにより、前記のように抵抗器53は発熱し、その熱によってヒューズ51は溶断する。ヒューズ51が溶断することよりコントローラ40から発熱回路への電力供給は完全に遮断されるので、断線箇所Pでのそれ以上の発熱やスパークは起こらない。それにより、電気式床暖房パネル30の裏面に積層した不織布層38や樹脂発泡体層39からなる緩衝材層37が着火するという事態は確実に回避される。
【0034】
図7は、断線が第2の発熱線22において起こった場合の状態を説明している。第2の発熱線22のいずれかの箇所でスパーク等による異常加熱が生じたときに、その箇所の第2の被覆樹脂25が昇温する。第2の被覆樹脂25の溶融温度は、第1の発熱線21および検知線23を被覆している第1の被覆樹脂24,26の溶融温度よりも高く設定してあるので、第2の被覆樹脂25が溶融する前に、第1の発熱線21および検知線23を被覆している第1の被覆樹脂24,26が溶融する。それにより、図6において説明したと同様に、領域Qにおいて、第1の発熱線21と検知線23とが短絡した状態となる。それにより、図6に基づき説明したと同様にして、検知線23に電流が流れ、抵抗器53が発熱して、ヒューズ51は溶断する。
【0035】
ところで、実際の電気式床暖房パネル30において、3線式ヒータ線20はかなり長いものであり、例えば、10m程度のものが通常用いられる。そのために、前記した第1の発熱線21と検知線23との短絡が、電源に近い場所で生じるか、電源から遠い場所(例えばサーモスタット54の近い場所)で生じるかで、前記短絡回路での実質的な抵抗値が異なってくる。そのために、前記したように、短絡が電源に近い箇所で起こると、抵抗器53に大きな値の電流、電圧がかかり、出力が大きくなって、抵抗器53は短時間で所要の温度(例えば99℃)に昇温し、短絡後の短い時間でヒューズ51が溶断する。一方、短絡が電源から遠い箇所で起こると、抵抗器53に流れる電流、電圧は小さくなり、抵抗器53が所要の温度に昇温するのに長い時間を要し、ヒューズ53が溶断するまでに長い時間が経過する。この時間差は、検知線23と短絡する第1の発熱線21の抵抗値に依存しており、第1の発熱線21の抵抗値が大きいほど、時間差が大きくなる。
【0036】
本発明による3線式ヒータ線20では、上記のように、第1の発熱線21の抵抗値R1は第2の発熱線22の抵抗値R2よりも小さく、例えば、R1=175Ω、R2=405Ωである。すなわち、同じ発熱量を抵抗値の同じ第1の発熱線21と第2の発熱線22で得ようとする場合と比較して、第1の発熱線21の抵抗値R1は小さな値となっている。そのために、短絡が電源から遠い箇所で起こったときにヒューズ51が溶断するまでの時間を短くすることができ、例えば60秒以内とすることができる。結果として、短絡場所に依存する温度ヒューズ51が溶断するまでの時間差を短くすることが可能となり、安全性確保の観点からより好ましいものとなる。
【0037】
本発明者らが行った実験例では、他の条件は同じであるが、抵抗値が240Ωである第1と第2の発熱線21,22を持つ3線式ヒータ線を用いた電気式床暖房パネルP1と、上記したように、第1の発熱線21の抵抗値R1が175Ω、第2の発熱線22の抵抗値R2が405Ωである3線式ヒータ線を用いた電気式床暖房パネルP2において、それぞれ電源側とサーモスタット54に近い側で短絡を生じさせた場合に、温度ヒューズ51が溶断するまでの時間に表1に示すような時間差があった。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示されるように、本発明による電気式床暖房パネルP2では、溶断までの時間差が少なくなるとともに、長くても47秒と、安全基準の思われる60秒よりも短くなっており、本発明品では安全性がさらに安全サイドに向けて確保されることがわかる。
【0040】
図3に示すように、本発明による電気式床暖房フロアAでは、上記の電気式床暖房パネル30の複数枚が並列接続した状態で床下地面に敷き詰められている。そのために、上記のようなヒューズ51の溶断は、個々の電気式床暖房パネル30において生じることとなり、他の電気式床暖房パネル30の運転には影響を与えない。必要な場合には、電気式床暖房フロアAはそのまま継続して運転することもできる。その際にも、安全性は確保される。溶断が生じた電気式床暖房パネル30のみを簡単に交換することも可能である。
【0041】
次に、図8よび図9を参照して、第3の発明に係る電気式床暖房パネル30A、およびそれを用いた第4の発明に係る電気式床暖房フロアA1について説明する。第3の発明に係る電気式床暖房パネル30Aは、パネル内に前記した「抵抗器付き温度ヒューズ50」を備えない点で、図2に基づき説明した電気式床暖房パネル30と相違する。図8に示す例において、電気式床暖房パネル30Aは、長尺状の単位ピースを長手方向に位置をずらしながら雁木状に組み付けた木質基材31を有し、その裏面にはその全面にわたるようにして連続する配線溝32が形成されている。配線溝32の中には、図4に基づき説明した3線式ヒータ線20が埋め込まれており、3線式ヒータ線20の一方端20aは、リード線、通常の温度ヒューズおよび電源線20bを介してコネクタ34、35に電気的に接続している。3線式ヒータ線20の他方端20cは、図示しないサーモスタットが取り付けられる。また、図5には示されないが、木質基材31の裏面には、図2に示した電気式床暖房パネル30と同じ緩衝材層37が貼り付けられている。
【0042】
電気式床暖房パネル30Aを用いた電気式床暖房フロアA1の一例が図9に示される。ここでは、電気式床暖房フロアA1は、前記した3枚の電気式床暖房パネル30Aからなる1組の電気式床暖房パネル群AGの複数個(図では2個)が並列接続されて形成されており、従来知られた暖房用コントローラに組み込まれている従来公知の制御装置CUに加えて前記した抵抗器付き温度ヒューズ50を備える床暖房用コントローラDが、床下地上に敷き詰めた前記電気式床暖房パネル群と外部電源との間に取り付けられている。
【0043】
そして、床暖房用コントローラDに組み込まれた抵抗器付き温度ヒューズ50は、その温度ヒューズ51の一方側を、電気式床暖房パネル30Aに埋め込んだ3線式ヒータ線20の第2の発熱線22にケーブル線3aを介して接続し、他方側を制御装置CUに接続している。また、抵抗器53は、前記3線式ヒータ線20の検知線23にケーブル線3cを介して接続している。3線式ヒータ線20の前記第1の発熱線21はケーブル線3aを介して、直接制御装置CUに接続している。
【0044】
この電気式床暖房フロアA1において、各電気式床暖房パネル30Aが正常に運転している環境では、床暖房用コントローラDから供給される電力は、各電気式床暖房パネル30Aに組み込んだ3線式ヒータ線20の第1の発熱線21と第2の発熱線22とを循環するように流れ、その発熱により床暖房が行われる。正常運転での温度制御等は前記した床暖房用コントローラDの制御装置CUにより行われる。正常運転時には3線式ヒータ線20の検知線23には電流は流れない。
【0045】
いずれかの電気式床暖房パネル30Aにおける3線式ヒータ線20において、第1の発熱線21と検知線23との間に短絡が発生したときに、前記床暖房用コントローラDに組み込まれた抵抗器付き温度ヒューズ50に生じる現象は、図5〜図6に基づき説明した抵抗器付き温度ヒューズ50に生じる現象と同じであり、説明は省略する。
【0046】
上記の電気式床暖房フロアA1では、床暖房用コントローラDに1つの抵抗器付き温度ヒューズ50を組み込むだけで、電気式床暖房フロアA1を確実に安全サイドに導くことができる。そのために、低コストで電気式床暖房フロアを構築することができる。また、各電気式床暖房パネル30Aあるいは電気式床暖房パネル群AGは並列接続しているので、いずれの3線式ヒータ線20において断線による異常発熱が生じても、電気式床暖房フロアは確実に安全サイドに導かれる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】電気式床暖房フロアの全体を示す概略図。
【図2】第1の発明に係る電気式床暖房パネルの一例を説明する図。
【図3】第2の発明に係る電気式床暖房フロア全体の電気回路図の一例を示す図。
【図4】電気式床暖房パネルに組み込まれる3線式ヒータ線を説明する図。
【図5】第1の発明に係る電気式床暖房パネルにおける発熱回路を説明する図
【図6】発熱回路に異常発熱が生じたときの第1の態様を説明する図。
【図7】発熱回路に異常発熱が生じたときの第2の態様を説明する図。
【図8】第3の発明に係る電気式床暖房パネルを説明する図。
【図9】第4の発明に係る電気式床暖房フロア全体の電気回路図の一例を示す図。
【符号の説明】
【0048】
A、A1…電気式床暖房フロア、10…床下地、20…3線式ヒータ線、21…第1の発熱線、22…第2の発熱線、23…検知線、27…被覆材、24、26…第1の被覆樹脂、25…第2の被覆樹脂、30、30A…電気式床暖房パネル、31…木質基材、36…遮音溝、37…緩衝材層、40…コントローラ、50…抵抗器付き温度ヒューズ、51…温度ヒューズ、53…抵抗器、54…サーモスタット、60…電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質基材の裏面にヒータ線による発熱回路を組み込んだ電気式床暖房パネルであって、
前記ヒータ線は、第1と第2の2本の発熱線と1本の検知線とからなり、第1の発熱線と検知線との間には第1の溶断層が介在し、第1の発熱線と第2の発熱線との間には少なくとも第2の溶断層が介在し、第2の溶断層の材料の融点は第1の溶断層の材料の融点よりも高く、かつ第1の発熱線の抵抗値は第2の発熱線の抵抗値よりも小さい3線式ヒータ線であり、
前記発熱回路は前記3線式ヒータ線と電源側との間に抵抗器付き温度ヒューズを備え、前記第1の発熱線の一方端は電源に直接接続しており、前記第2の発熱線の一方端は前記抵抗器付き温度ヒューズの温度ヒューズを介して電源に接続しており、前記検知線の一方端は前記抵抗器付き温度ヒューズにおける前記温度ヒューズの電源接続側とは反対側に接続する抵抗器に接続しており、かつ、前記抵抗器は前記第1の溶断層が溶融することにより生じる前記第1の発熱線と前記検知線との短絡により前記検知線に流れる電流が流れることにより発熱し、前記抵抗器の発熱により前記温度ヒューズが溶断するようになっており、さらに、前記第1と第2の発熱線の他方端はサーモスタットを介してあるいは介さずに互いに接続している、ことを特徴とする電気式床暖房パネル。
【請求項2】
木質基材の裏面に緩衝材層が貼着されていることを特徴とする請求項1に記載の電気式床暖房パネル。
【請求項3】
請求項1に記載の電気式床暖房パネルの複数枚が並列接続した状態で床下地面に敷き詰められていることを特徴とする電気式床暖房フロア。
【請求項4】
木質基材の裏面にヒータ線による発熱回路を組み込んだ電気式床暖房パネルであって、前記ヒータ線は、第1と第2の2本の発熱線と1本の検知線とからなり、第1の発熱線と検知線との間には第1の溶断層が介在し、第1の発熱線と第2の発熱線との間には少なくとも第2の溶断層が介在し、第2の溶断層の材料の融点は第1の溶断層の材料の融点よりも高く、かつ第1の発熱線の抵抗値は第2の発熱線の抵抗値よりも小さい3線式ヒータ線であることを特徴とする電気式床暖房パネル。
【請求項5】
請求項4に記載の電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、床暖房用コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房フロアであって、
前記床暖房用コントローラは抵抗器付き温度ヒューズを備え、電気式床暖房パネルに組み込んだ前記3線式ヒータ線の前記第1の発熱線の一方端は前記床暖房用コントローラを介して電源に直接接続しており、前記第2の発熱線の一方端は前記床暖房用コントローラに備えた前記抵抗器付き温度ヒューズの温度ヒューズを介して電源に接続しており、前記検知線の一方端は前記抵抗器付き温度ヒューズにおける前記温度ヒューズの電源接続側とは反対側に接続する抵抗器に接続しており、かつ、前記抵抗器付き温度ヒューズの抵抗器には前記第1の溶断層が溶融することにより生じる前記第1の発熱線と前記検知線との短絡により前記検知線に流れる電流が流れることにより発熱するようになっており、前記抵抗器の発熱により前記温度ヒューズが溶断するようになっていることを特徴とする電気式床暖房フロア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−287871(P2009−287871A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142496(P2008−142496)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】