説明

電気抵抗率が高い廃棄物の処理方法

【課題】 電気抵抗率が高い廃棄物をセメントの原料や燃料の一部に利用するにあたり、電気集塵機の集塵効率が悪化する現象を改善する。
【解決手段】 電気抵抗率が高い廃棄物と電解質物質を混合してセメント製造設備に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気集塵機(EP)の集塵効率を改善し、電気抵抗率が高い廃棄物の利用を促進するための廃棄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの製造においてはセメントの原料や燃料の一部として廃棄物の利用が行われており、その量は年々増加する傾向にある。セメントを製造する原料が通常の石灰石や粘土であるときは、排ガス中のダストは大きな問題を引き起こすことなくEPにおいて分離除去されていた。しかし、電気抵抗率が高い廃棄物をセメントの原料や燃料の一部として使用すると、該廃棄物の粉砕や燃焼等で発生した粉塵が排ガス中に飛散し、EPで捕集した際に逆電離現象を起こし再飛散して捕集できずに系外に排出されてしまう現象が起きるようになった。ここで逆電離現象とは、ダスト表面の電荷が除去できずに帯電したままとなり、ダスト層から放電し、捕集したダストを再飛散させる現象をいう。
【0003】
また、下記に示す非特許文献1によると、石炭燃焼ボイラ用EPにおいては、一般に10から1011(Ω・cm)の電気抵抗率を有するダストは良好に集塵されることが記載されているが、廃棄物を使用した場合、電気抵抗率が上記範囲であってもEPの集塵状態が悪化する現象が見られた。
【非特許文献1】川村慶一等、「産業機械」59年4月号、13ページ、2.1節
【0004】
廃棄物の一例として油汚染土を挙げて更に詳しく説明する。油汚染土は、工場跡地や油流出事故などの汚染土壌であるが、油分を数パーセント含んでいることから、その処理に当たっては土壌汚染対策法による管理を受ける。油汚染土は成分的にはセメント原料として相応しい物から構成され、また、油分の焼却は処理法として相応しいものであることから、油汚染土をセメント原料や燃料の一つとして再利用することは好ましい処理方法である。しかし、油分は絶縁性であるため、油分が付着した土粒子は電気抵抗率が高く、セメント原料としてセメント製造設備に受け入れると、電気抵抗率が非常に高い粒子が排ガスと共に飛散し、前述した逆電離現象によりEPにおけるダストの集塵効率が著しく低下する現象が見られた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電気抵抗率が高い廃棄物をセメント製造用の原料や燃料の一部に利用するにあたり、EPの集塵性能を良好に保つための該廃棄物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、電気抵抗率が高い廃棄物に電解質物質を添加・混合してセメント製造用の原料や燃料の一部に利用することにより、EPにおいて集塵トラブルが改善されることを見出し、前記課題を解決した。すなわち
請求項1に記載の発明は、電気抵抗率が高い廃棄物と電解質物質を混合したものをセメント製造設備に供することを特徴とする廃棄物の処理方法であり、
請求項2に記載の発明は、前記セメント製造設備が、キルン窯尻、仮焼成炉、セメント原料の粉砕装置の少なくとも一つである請求項1に記載の廃棄物の処理方法である。
また、請求項3に記載の発明は、電気抵抗率が高い廃棄物と電解質物質の混合物であり、請求項4に記載の発明は、前記電気抵抗率が高い廃棄物に対して、前記電解質物質が固形分換算で0.1から4.0重量%である請求項3に記載の混合物であり、
請求項5に記載の発明は,前記電気抵抗率が高い廃棄物が油汚染土である請求項3または4に記載の混合物であり、
請求項6に記載の発明は、前記電解質物質が硫酸ナトリウム又は硫酸ナトリウムを含む廃物である請求項3または4に記載の混合物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電気抵抗率が高い廃棄物と電解質物質を混合するという簡単な方法で、電気集塵機による集塵効率の悪化を改善することができ、その結果、環境への悪影響を抑制し、セメント製造設備の安定運転が可能になり、廃棄物のセメント原料や燃料の一部としての有効利用が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1を用いて本発明を詳細に説明する。図1は本発明を実施するセメント製造設備の簡単な概略図であり、この設備において、キルン1、キルン窯尻2、仮焼成炉3、サイクロン4乃至7からの排ガスは、原料粉砕装置8と調湿塔10に供給される。そして、調湿塔10で調湿された排ガスは、電気集塵機(EP)11においてダストが除去された後、煙突12から排出される。一方、原料粉砕装置8に供給された排ガスは、原料粉砕装置8においてセメント原料と熱交換された後、サイクロン9で粗大粒子が捕集される。サイクロン9からの排ガスはEP11においてダストが除去された後、煙突12から排出される。
【0009】
本発明では、上記のようなセメント製造設備において電気抵抗率が高い廃棄物を処理するにあたり、該廃棄物と電解質物質を混合したものをセメント製造装置に供して該廃棄物をセメント製造用の原料や燃料の一部に使用することにより、EP11における集塵性能を良好に保つことができる。この原理は明らかでないが、廃棄物の粒子表面または粒子間に電解質物質と雰囲気水分によって導電性の皮膜が形成されることにより排ガス中のダストの電気抵抗率が低下し、これによりEP11の集塵板に付着した微粒子表面に発生した電荷の円滑な集塵板への移動が可能となり、集塵板からの微粒子の落下・捕集が容易に行なえることになったものと考えている。
【0010】
電気抵抗率が高い廃棄物としては、油で汚染された土壌や食用油精製等に使用された廃白土などの油汚染土や、石油精製に使用された触媒等が挙げられる。また、本発明でいう電気抵抗率が高い廃棄物の「高い」とは、雰囲気水分量と温度によって異なるが集塵機内で逆電離現象を生じる電気抵抗率が108から1014(Ω・cm)程度をいう。
【0011】
電解質物質としては、無機物、有機物を問わず使用できるが、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、具体的には、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。また、電解質物質としては、吸湿性のあるものが導電性の皮膜を形成する上でさらに好ましく、中でも吸湿性に加えてセメント品質への影響が少ないことから、本発明では硫酸ナトリウムが特に好ましい電解質物質である。
【0012】
電気抵抗率が高い廃棄物と電解質物質を混合する際は、予め両者を均一に混合した後セメント製造設備に供することが好ましい。
電解質物質を添加した混合物は、セメント製造設備において、キルン窯尻2、仮焼成炉3、原料粉砕装置8の少なくとも一つに供給すればよい。電気抵抗率が1010から1014(Ω・cm)程度を有する電気抵抗率が特に高い廃棄物は、キルン窯尻や仮焼成炉に供給するのが、予め廃棄物中の有機物を燃焼させ、燃焼排ガスをEPに供して電気抵抗率を下げることができるので集塵には有利である。また、電気抵抗率が高い廃棄物が大きければ、原料粉砕装置に供給するのが、該廃棄物を所望の粒度に解砕できるので有利である。
【0013】
また、電解質物質は水溶液であるほうが操作性の観点から好ましい。廃棄物が水分を含有している場合は、電解質物質は固体でも差し支えない。また、電解質物質は一種類である必要はなく、複数の電解質物質の混合物でも使用可能である。さらに、電解質物質は純物質である必要はなく、化学プロセスを始めとする各種の産業プロセスで発生する電解質物質を含む廃物も使用可能である。特に、各種の化学プロセスで使用された廃硫酸や廃水酸化ナトリウムをそれぞれ水酸化ナトリウムや硫酸で中和した際に発生する硫酸ナトリウムを含む廃液は、廃物処理及び原材料に要する費用の面からも好ましい電解質物質である。例えば、カテコールからバニリンを製造する際に副生する硫酸ナトリウムを含む廃液は、本発明における電解質物質の水溶液として非常に好ましい材料である。
【0014】
電解質物質の添加量は、廃棄物の電気抵抗率にも依存するが、少なすぎると添加効果が十分に発現せず、多すぎても添加効果が逆に低下することから、廃棄物に対して、固形分換算で0.1から4.0重量%とするのが好ましく、0.4から1.3重量%とするのがさらに好ましく、0.5〜0.7重量%にするのが特に好ましい。
【0015】
電解質物質が混合された廃棄物と通常のセメント原料のセメント製造設備への供給割合は、セメント製造設備の操業条件や製品であるセメントの品質に影響を及ぼさない範囲であれば任意に選択可能であるが、通常全体に対して電解質物質が混合された廃棄物が10重量%程度である。
【実施例】
【0016】
以下では、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更が可能である。
【0017】
[実施例1]
C重油を1質量%含んだ土壌に対して13重量%硫酸ナトリウム水溶液を固形分換算で0.39重量%添加した混合物を試料として調製した。試料をJIS B−9915に準じた電気抵抗率測定器の試料ホルダに充填した後、雰囲気水分15容積%の条件下、温度80、100、120、140℃でそれぞれ電気抵抗率を測定した。このときの試験電圧は1000Vであった。結果を表1に示す。次に各試料をセメント製造設備の仮焼成炉に供給して電気集塵機の集塵状態を確認した。その結果、集塵状態は良好であった。
【0018】
[実施例2から5、比較例1]
硫酸ナトリウム水溶液の添加量を0.65〜3.9重量%の範囲で(実施例2から5)表1記載のように変えた他は、実施例1と同様に処理した。また、比較例1として硫酸ナトリウムを添加しないで同様に処理した。結果を表1に示す。その結果、実施例2から5においてはいずれも集塵状態は良好であったのに対して、比較例1においては電気集塵機からのダストの飛散が見られた。
【0019】
【表1】

【0020】
[実施例6から8、比較例2]
C重油を5質量%含んだ粘土に対して、13重量%の硫酸ナトリウム水溶液を固形分換算で表1記載のように0.65〜3.25重量%添加した混合物を試料として調製した。試料をJIS B−9915に準じた電気抵抗率測定器の試料ホルダに充填した後、雰囲気水分15容積%の条件下、温度80、100、120、140℃でそれぞれ電気抵抗率を測定した。このときの試験電圧は1000Vであった。また、比較例2として硫酸ナトリウムを添加しないで同様に処理した。結果を表2に示す。次に各試料をセメント製造設備の仮焼成炉に供給して電気集塵機の集塵状態を確認した。その結果、実施例6から8においてはいずれも集塵状態は良好であったのに対して、比較例2においては電気集塵機からのダストの飛散が見られた。
【0021】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、電気抵抗率が高い廃棄物をセメント製造の原料や燃料の一部として使用する際に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施するセメント製造設備の簡単な概略図である。
【符号の説明】
【0024】
1.キルン
2.キルン窯尻
3.仮焼成炉
4.サイクロン
5.サイクロン
6.サイクロン
7.サイクロン
8.原料粉砕装置
9.サイクロン
10.調湿塔
11.電気集塵機(EP)
12.煙突

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気抵抗率が高い廃棄物と電解質物質を混合したものをセメント製造設備に供することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記セメント製造設備が、キルン窯尻、仮焼成炉またはセメント原料の粉砕装置の少なくとも一つである請求項1に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項3】
電気抵抗率が高い廃棄物と電解質物質の混合物。
【請求項4】
前記電気抵抗率が高い廃棄物に対して、前記電解質物質が固形分換算で0.1から4.0重量%である請求項3に記載の混合物。
【請求項5】
前記電気抵抗率が高い廃棄物が油汚染土である請求項3または4に記載の混合物。
【請求項6】
前記電解質物質が硫酸ナトリウム又は硫酸ナトリウムを含む廃物である請求項3または4に記載の混合物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−35005(P2006−35005A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213889(P2004−213889)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】