説明

電気掃除機用吸込具の回転ブラシおよびこれを用いた吸込具

【課題】 電気掃除機用吸込具に用いられる回転ブラシにおいて、異形断面糸を用いても線状ブラシの毛倒れを有効に抑制しつつ、集塵性能のさらなる向上を図る。
【解決手段】 回転ブラシは、回転軸体の周囲に軸線方向に沿って設けられる、複数の線状ブラシ11を備えており、この複数の線状ブラシ11には、毛材として、円状または楕円状の断面形状を有する標準断面糸100と、凸部および凹部の少なくとも一方を含む断面形状を有する異形断面糸110とが混合して用いられている混合線状ブラシ11Aが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気掃除機用吸込具の回転ブラシおよびこれを用いた吸込具に関する。
【背景技術】
【0002】
電気掃除機用吸込具には、被掃除面から塵埃を集める能力(集塵能力)を向上させるために回転ブラシを備えているものが知られている。例えば、被掃除面がじゅうたんからなるじゅうたん面であれば、じゅうたんのパイル内に塵埃が入り込むことが多いので、回転ブラシでパイル中から塵埃を掻き出してから吸引する。これにより、吸込具の掃除性能を向上することができる。
【0003】
ところで、被掃除面としては、前記じゅうたん面だけでなく、板張りの床面または畳面等、さまざまな種類が存在する。また、被掃除面そのものは完全に平坦ではなく凹凸を含む場合もある。そこで、従来から、多種類の被掃除面に対応可能とする吸込具が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、回転体の周囲に設けられた縮れ毛のブラシ毛から構成される線状ブラシを備える吸込具が開示されている。この吸込具においては、ブラシ毛の先端部近傍が略球体状に形成されており、また、ブラシ毛本体として、断面に凹凸を有する異形断面糸が用いられている。
【0005】
前記吸込具の構成であれば、ブラシ毛の先端が略球体状であるので、じゅうたん上の繊維質の塵埃を略球体状の部分に引っかけてじゅうたんのパイルから外す(掻き出す)ことができる。それゆえ、パイルに絡みついた塵埃を効率良く掃除することができる。また、ブラシ毛の本体が異形断面糸であるので、じゅうたんのパイルに接触したときに絡みついた塵埃に接触する面積が多くなる。それゆえ、回転ブラシによる塵埃の掻き取り性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3624889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の回転ブラシにおいては、異形断面糸で構成された線状ブラシが被掃除面と接触することによって、ブラシ毛に毛倒れが生じるおそれがある。
【0008】
回転ブラシは、回転体の周囲に線状ブラシが起立した状態で構成されているが、当該線状ブラシを構成するブラシ毛の剛性が高ければ、被掃除面と接触しても線状ブラシの起立状態は維持される。ところが、特許文献1に開示されるブラシ毛は、先端が略球体状であるが、本体がその断面に凹凸を有する異形断面糸であるので、略同径の通常断面の糸と比べて剛性が低下してしまう。その結果、電気掃除機の使用環境、累積使用時間等の条件によっては、異形断面糸の線状ブラシに毛倒れが生じるおそれがある。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、電気掃除機用吸込具に用いられる回転ブラシにおいて、異形断面糸を用いても線状ブラシの毛倒れを有効に抑制しつつ、集塵性能のさらなる向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電気掃除機用吸込具の回転ブラシは、前記の課題を解決するために、電気掃除機用吸込具内に回転可能に設けられる回転軸体と、当該回転軸体の周囲に軸線方向に沿って設けられる、複数の線状ブラシと、を備え、当該複数の線状ブラシのうち少なくとも一つは、毛材として、円状または楕円状の断面形状を有する標準断面糸と、凸部および凹部の少なくとも一方を含む断面形状を有する異形断面糸とが混合して用いられている混合線状ブラシである構成である。
【0011】
前記構成においては、前記異形断面糸は、Y字状、V字状、X字状、三角形状、および矩形状の群から選択される少なくとも1種の断面形状を有するものである構成であってよい。
【0012】
また前記構成においては、前記混合線状ブラシ以外の前記線状ブラシは、標準断面糸のみからなる単毛線状ブラシである構成であってよい。
【0013】
また前記構成においては、一つの前記線状ブラシは、線状に毛材を植毛してなる毛材列を、複数隣接して配置させて構成されてよい。
【0014】
また前記構成においては、前記混合線状ブラシは、異形断面糸のみからなる異形毛材列と、標準断面糸のみからなる標準毛材列、および、標準断面糸および異形断面糸が混合されてなる混合毛材列の少なくとも一方と、から構成されてよい。
【0015】
また前記構成においては、前記混合線状ブラシは、外側の毛材列が前記標準毛材列または混合毛材列で構成され、かつ、内側の毛材列が前記異形毛材列で構成されてよい。
【0016】
また前記構成においては、前記混合線状ブラシは、外側の毛材列が前記異形毛材列で構成され、かつ、内側の毛材列が前記標準毛材列または前記混合毛材列で構成されてよい。
【0017】
また前記構成においては、前記毛材列は、毛材を束状にまとめた毛材株を線状に並べたものとして構成されており、当該毛材株として、異形断面糸のみからなる異形毛材株と、標準断面糸のみからなる標準毛材株、および、標準断面糸および異形断面糸が混合されてなる混合毛材株の少なくとも一方と、が用いられる構成であってよい。
【0018】
また前記構成においては、前記混合毛材列は、前記異形毛材株と、前記標準毛材株または前記混合毛材株とを、予め設定された配列パターンで繰り返し並べて構成されてよい。
【0019】
また前記構成においては、互いに隣接する前記混合毛材列において、各混合毛材列に含まれる前記標準毛材株同士または前記混合毛材株同士が隣接しないように、前記配列パターンが設定されている構成であってよい。
【0020】
また前記構成においては、前記混合線状ブラシは、前記異形毛材株から見て前記回転軸体の回転方向側に前記標準毛材株または混合毛材株が位置するように、複数の毛材列が隣接配置されて構成されてよい。
【0021】
また前記構成においては、一つの前記混合線状ブラシに含まれる前記標準断面糸は、前記毛材の断面積比で15%以上60%以下の範囲内となっている構成であってよい。
【0022】
また本発明には、前記構成の回転ブラシを備えている電気掃除機用吸込具も含まれる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明では、電気掃除機用吸込具に用いられる回転ブラシにおいて、線状ブラシの毛倒れを有効に抑制しつつ、集塵性能のさらなる向上を図ることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る回転ブラシおよび電気掃除機用吸込具を備える電気掃除機の構成の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す吸込具の具体的な構成の一例を示す斜視図である。
【図3】図2に示す吸込具の下面の構成の一例を示す下面図である。
【図4】図2に示す吸込具の内部構成の一例を示す水平方向の断面図である。
【図5】図2に示す吸込具の内部構成の一例を示す垂直方向の縦断面図である。
【図6】(a)は、図1ないし図5に示す吸込具が備える回転ブラシの構成の一例を示す横断面図であり、(b)は、(a)に示す回転ブラシが備える線状ブラシの構成の一例を示す模式的斜視図である。
【図7】(a)は、図6(b)に示す線状ブラシの毛材として用いられる異形断面糸の構成の一例を示す模式的断面図であり、(b)は、前記異形断面糸の構成の他の例を示す模式的断面図であり、(c)は、前記毛材として用いられる標準断面糸の構成の一例を示す模式的断面図である。
【図8】(a)および(b)は、図6(b)に示す混合線状ブラシにおける毛材列および毛材株の配置例を示す模式的平面図であり、(c)は、単毛線状ブラシにおける毛材列および毛材株の一例を示す模式的平面図である。
【図9】図6(b)に示す線状ブラシにおける毛材株の植毛の一例を説明する模式図である。
【図10】図6(b)に示す混合線状ブラシにおける毛材列または毛材株の配置の具体的な例を示す模式的平面図である。
【図11】図6(a)に示す回転ブラシを用いて被掃除面の磨き性を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0026】
[電気掃除機の構成例]
まず、本発明の実施の形態に係る回転ブラシおよび電気掃除機用吸込具を備える電気掃除機の一例について、図1を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施の形態に係る電気掃除機用吸込具(以下、単に吸込具と略す。)は、例えば、キャニスター型電気掃除機30(以下、単に電気掃除機30と略す。)に備えられている。電気掃除機30は、掃除機本体31、吸引ホース32、手元操作部33、吸引延長管34、および吸引ノズル35、並びに本実施の形態に係る吸込具20を備えている。
【0028】
掃除機本体31は、内部に図示されない電動送風機および集塵室を内部に備えているとともに、両側部に一対のホイール36を備えている。また、掃除機本体31の後部には、内部に収納可能に電源コード37を備えているとともに、前部には、吸引ホース32を接続するための本体接続管38を備えている。本体接続管38には吸引ホース32の一端が着脱自在に接続され、また吸引ホース32の他端には吸引延長管34が接続されている。
【0029】
吸引延長管34は伸縮可能に構成され、その一端に吸引ホース32の他端が着脱自在に接続され、他端に吸込具20が着脱自在に接続されている。なお、吸引ホース32の他端の上面には手元操作部33が設けられており、下面には吸引ノズル35が着脱自在に取り付けられている。吸引ノズル35は、吸引延長管34の代わりに、吸引ホース32の他端に取り付け可能となっている。
【0030】
掃除機本体31内の電動送風機が動作することで、本体接続管38から掃除機本体31内に向かって吸引力が発生する。それゆえ、掃除機本体31につながる吸引ホース32の内部、吸引延長管34の内部、並びに吸込具20の図示しない吸込口(後述)にも吸引力が発生する。また、掃除機本体31は、一対のホイール36により被掃除面上を移動自在となっている。
【0031】
電気掃除機30の使用時には、まず、使用者は、電源コード37を掃除機本体31から引き出して先端の電源プラグを電源差込口に差し込み、手元操作部33を操作して、掃除機本体31の電源を入れる。これにより、電動送風機が動作して吸込具20の吸込口に吸引力が発生するので、使用者は手元操作部33等を把持して、必要に応じて掃除機本体31も移動させつつ被掃除面上で吸込具20を移動させることで、被掃除面の塵埃を吸い込むことができる。吸込具20から吸い込まれた塵埃は、吸引延長管34、吸引ホース32、本体接続管38を介して掃除機本体31内の集塵室に集められることになる。
【0032】
なお、図1に示す電気掃除機30における具体的な構成、すなわち、掃除機本体31、吸引ホース32、手元操作部33、吸引延長管34、および吸引ノズル35等の具体的な構成については特に限定されず、電気掃除機の分野で公知の各種構成を好適に用いることができる。
【0033】
[吸込具の構成例]
次に、吸込具20の代表的な構成の一例について、図2ないし図5を参照して具体的に説明する。なお、本実施の形態では、図2ないし図5に示すように、吸込具20において、吸引延長管34が接続される側を「後」とし、その反対側を「前」とする。
【0034】
図2に示すように、本実施の形態に係る吸込具20は、吸込具本体21、吸込具接続管22、およびジョイント部23から構成されている。吸込具本体21は細長い平板状であって、長手方向の中央の後側にジョイント部23を介して吸込具接続管22が接続されている。ジョイント部23は、吸込具本体21に対して吸込具接続管22を上下左右の方向に移動可能に接続している。吸込具接続管22は、吸引延長管34(あるいは吸引ホース32)の他端に接続可能に構成されている。
【0035】
吸込具本体21は、図3に示すように、下面の前側に設けられる吸込口21aを有している。吸込口21aは、吸込具本体21の長手方向に沿って位置する矩形状の開口であり、その内部に回転ブラシ10が設けられている。また、図4および図5に示すように、吸込具本体21内と吸込具接続管22との間には、ジョイント部23を介して前後方向に吸込風路20aが形成されており、この吸込風路20aの一端が吸込口21aとなっている。なお、吸込風路20aの他端は、吸込具接続管22の後端の開口であるホース接続口22aとなっており、吸込具接続管22に吸引延長管34が接続されることで、吸込風路20aを介して吸込口21aに吸引力が生じる。
【0036】
また、図3に示すように、吸込具本体21は、上面側は略矩形であるが下面側は、その中央後部が突出した形状を有している。この突出部分の上側には、図5に示すように、ジョイント部23が位置している。そして、吸込具本体21の下面には、一対の前方輪24および一対の後方輪25が設けられている。前方輪24は、吸込口21aの後側、すなわち、吸込具本体21の長手方向の両側部の後側に位置しており、後方輪25は、前記突出部分の後側に位置している。これら前方輪24および後方輪25によって吸込具20は被掃除面上を容易に移動することができる。
【0037】
吸込口21a内に設けられる回転ブラシ10は、複数の線状ブラシ11および回転軸体12から構成されている。図4に示すように、回転軸体12は、吸込具本体21の長手方向に平行になるように配置され、一端である駆動端13にブラシ駆動機構26が設けられ、ブラシ駆動機構26はブラシ駆動モータ27につながっている。本実施の形態では、ブラシ駆動機構26は、ブラシ駆動モータ27の回転軸と駆動端13とを両端とするように巻き回される駆動ベルトであり、ブラシ駆動モータ27の回転駆動力を回転軸体12に伝達する。ブラシ駆動モータ27は配線によりブラシ駆動回路部28に電気的に接続されている。また、回転ブラシ10の他端である支持端14は、吸込具本体21内の軸受構造に対して回動自在に支持されている。
【0038】
図4に示す構成では、ブラシ駆動モータ27は、軸方向が回転軸体12に平行となるように吸込具本体21内の一方の側部(図中向かって左側)の後方に位置している。そして、ブラシ駆動モータ27から見て吸込風路20aを介して反対側の側部(図中向かって右側)にブラシ駆動回路部28が位置している。ブラシ駆動回路部28とブラシ駆動モータ27を接続する配線は、吸込風路20aの上面を横断するように配されている。
【0039】
したがって、吸込具本体21内では、前側に回転ブラシ10が配置され、後側に回転ブラシ10に略平行となるような位置関係でブラシ駆動モータ27、配線、ブラシ駆動回路部28が並んで配置されている。それゆえ、回転ブラシ10の一端(駆動端13)とブラシ駆動モータ27の回転軸とが前後に並んで位置するので、駆動端13と回転軸とは、前後に配されるブラシ駆動機構26によってつながれることになる。
【0040】
回転ブラシ10を構成する線状ブラシ11は、図3および図4に示すように、回転軸体12の周囲に軸線方向(長手方向)に沿って設けられている。線状ブラシ11は、回転軸体12の軸線方向に延伸するように設けられていれば、本実施の形態では、その中央部が端部よりも後側に突出するように湾曲したり折れ曲がったりしている。これによって、回転ブラシ10の回転によって被掃除面から掻き出された塵埃が、吸込口21aの中央部に集められるので、当該中央部につながる吸込風路20aに塵埃を集めて効率的に吸い込ませることができる。なお、線状ブラシ11の具体的な構成については後述する。
【0041】
前記構成の吸込具20による集塵動作の一例について図1および図5を参照して説明する。使用者が手元操作部33を操作することで電気掃除機30の運転が開始されれば、電動送風機が動作して掃除機本体31内から吸込口21aまで吸引力が生じる。これに伴ってブラシ駆動回路部28がブラシ駆動モータ27を回転させるので、ブラシ駆動モータ27の回転駆動力がブラシ駆動機構26を介して回転ブラシ10の駆動端13に伝達され、これによって、回転ブラシ10の回転が開始される。
【0042】
そして、使用者が手元操作部33を把持して吸込具20を適宜移動させることにより、吸込口21aから床面上の塵埃が吸引される。このとき被掃除面がじゅうたん面であれば、図5のブロック矢印Rで示すように、回転ブラシ10の被掃除面への当接部位が前から後に回転し、線状ブラシ11がじゅうたんから塵埃を掻き出す。なお、被掃除面が板張りの床面等のように平滑な面であれば、回転ブラシ10により被掃除面を磨くことができる。
【0043】
そして前述したように、線状ブラシ11は、中央部が端部よりも後側に向かって突出しているので、回転ブラシ10の回転に伴って、掻き出された塵埃は吸込口21aの中央部に集められる。この中央部には吸込風路20aがつながっているので、図5のブロック矢印Sで示すように、集められた塵埃は吸込風路20a内に吸い込まれ、前述したように、吸引延長管34および吸引ホース32を介して掃除機本体31内の図示されない集塵室に集塵される。
【0044】
なお、本実施の形態では、回転ブラシ10は、ブラシ駆動モータ27により回転駆動される構成となっているが、本発明はこれに限定されない。回転ブラシ10を構成する回転軸体12は、吸込具20内に回転可能に設けられていればよく、例えば、吸込風路20aの一部に設けられるエアタービンを駆動源として回転軸体12を回転駆動する構成であってもよいし、吸込口21aに生じる吸引力に由来する風を線状ブラシ11が受けることにより、回転軸体12が回転する構成であってもよい。また、線状ブラシ11は、必ずしも中央部が後側に突出するような形状になっていなくてもよく、回転軸体12の軸線方向に並行であってもよいし、軸線方向に傾斜してもよいし、螺旋状になっていてもよい。
【0045】
[回転ブラシの構成例]
次に、回転ブラシ10の代表的な構成の一例について、図6(a),(b)ないし図8(a)〜(c)を参照して具体的に説明する。
【0046】
本実施の形態に係る回転ブラシ10は、図6(a)に示すように、6本(6条)の線状ブラシ11を備えている構成であるが、これら線状ブラシ11のうち、3本は混合線状ブラシ11Aであり、残りの3本は単毛線状ブラシ11Bである。混合線状ブラシ11Aと単毛線状ブラシ11Bとは、回転軸体12の外周に交互に設けられている。
【0047】
本実施の形態では、回転軸体12は、回転ブラシ10の回転軸となる軸部12aと、軸部12aの周囲に線状ブラシ11を固定配置するための軸体本体12bとから構成されている。線状ブラシ11は、植毛基材112に植毛されており、本実施の形態では、この植毛基材112を軸体本体12b内に埋め込むように固定することで、線状ブラシ11が回転軸体12に固定配置されている。
【0048】
本実施の形態に係る線状ブラシ11は、図6(b)に示すように、複数の毛材列111から構成されている。図6(b)では、例えば3本の毛材列111を隣接して配置させることにより1本の線状ブラシ11が構成されている。1本(1条)の毛材列111は、毛材を束状にまとめた毛材株113を線状に並べたものとして構成されている。
【0049】
本実施の形態では、線状ブラシ11のうち混合線状ブラシ11Aにおいては、毛材として標準断面糸と異形断面糸とが混合して用いられている。本実施の形態に係る回転ブラシ10には、この混合線状ブラシ11Aが少なくとも1本含まれていればよく、回転ブラシ10および吸込具20の用途等に応じて複数本含まれていればよい。標準断面糸は、円状または楕円状の断面形状を有する糸材であって、回転ブラシ10の毛材として一般的に用いられているものである。一方、異形断面糸は、その断面形状中に凸部および凹部の少なくとも一方を含む糸材である。
【0050】
具体的な異形断面糸としては、図7(a)に示すように、断面形状がY字状の異形断面糸110A、断面形状に略V字状の凹部Pcを有する異形断面糸110B、もしくは断面形状がX字状の異形断面糸110Cが挙げられる。これら異形断面糸110A〜110Cは、断面形状中に凹部Pcを少なくとも含んでいるので、負の曲率を含む断面形状を有するものということができる。異形断面糸110Bは断面形状に略V字状の凹部Pcを含むのみであるが、異形断面糸110Aは断面形状に3つの凹部Pcを含んでおり、それゆえ各凹部Pcの間に3つの凹部Pcが形成されている。また、異形断面糸110Cは断面形状に4つの凹部Pcを含んでおり、それゆえ各凹部Pcの間に4つの凸部Psが形成されている。
【0051】
また、他の異形断面糸としては、図7(b)に示すように、断面形状が矩形状の異形断面糸110D、もしくは断面形状が略三角形状の異形断面糸110Eが挙げられる。これら異形断面糸110D,110Eは、断面形状中に凸部Psのみを含んでいる。異形断面糸110Dは4つの凸部Psを有しているが、各凸部Psの間には凹部Pcは形成されていない。異形断面糸110Eは3つの凸部Psを有しているが、各凸部Psの間には凹部Pcは形成されていない。
【0052】
これら異形断面糸は、図7(c)に示すような、断面形状が円形状の標準断面糸100Aまたは楕円状の標準断面糸100Bと比較して、被掃除面に対する接触点が多くなるため塵埃の保持性が高くなり、特に図7(a)に示すような凹部Pcを有するものであれば、線状ブラシ11における塵埃の保持性をさらに向上させることができる。
【0053】
ここで、回転ブラシ10は、被掃除面に接触する部位が吸込具20の後側、すなわち吸込風路20aの位置する側に移動するように回転する(図5参照)。それゆえ、回転ブラシ10に異形断面糸を有する線状ブラシ11が含まれていれば、被掃除面上に存在する塵埃を異形断面糸で絡め取り、後方の吸込風路20aに受け渡すことができる。したがって、毛材として見れば、異形断面糸は、単に塵埃の除去性を向上させるだけでなく、被掃除面上の塵埃を絡め取ることから、磨き性あるいは拭き取り性に優れたものとなる。
【0054】
ただし、異形断面糸は、標準断面糸100A,100Bよりも断面積が小さくなること相対的に剛性に欠ける。そのため、異形断面糸からなる線状ブラシ11が回転軸体12に対して起毛した状態(図6(a)参照)であっても、被掃除面に対する強い接触または累積的な接触等によって徐々に傾斜した状態(毛倒れ状態)に陥りやすい。異形断面糸が毛倒れしてしまうと、異形断面糸の先端が被掃除面に接触しにくくなるので、前述した塵埃の保持性を確保できず、それゆえ、磨き性あるいは拭き取り性を十分に実現できなくなってしまう。
【0055】
線状ブラシ11の毛倒れを防ぐためには、毛材(異形断面糸)を短くすることが想定されるが、回転ブラシ10およびブラシ駆動機構26の構造上、毛材を短くすることは実質的に困難である。例えば、毛材を短くする代わりに回転軸体12を太くすれば、回転軸体12の外周が被掃除面に接触するおそれがある。また、被掃除面は、必ずしも平坦な面ではなく、ある程度の凹凸が存在することも多いため、毛材を短くすると、被掃除面の凹凸に十分対応できなくなる。それゆえ、回転ブラシ10および吸込具20の具体的な構成に応じて、ある程度の長さの毛材を用いる必要が生じる。
【0056】
そこで、本実施の形態においては、図6(a)に示すように、回転軸体12の周囲に設けられる複数の線状ブラシ11の少なくとも一つ(図6(a)では3つ)が、毛材として標準断面糸および異形断面糸とを混合して用いた混合線状ブラシ11Aとなっている。この混合線状ブラシ11Aでは、相対的に剛性の低い異形断面糸を、剛性の高い標準断面糸で支持することができる。特に、異形断面糸と標準断面糸とを混在させているため、異形断面糸の周囲を標準断面糸で支持または補強することが可能となる。それゆえ、毛材として異形断面糸を用いても線状ブラシ11の毛倒れを有効に抑制することができる。
【0057】
さらに、回転ブラシ10が混合線状ブラシ11Aを備えていると、回転ブラシ10に糸または紐等が巻き付いた場合であっても、容易に除去することが可能となる。回転ブラシ10は回転しながら被掃除面に接触するため、被掃除面に塵埃として例えば糸が存在していると、回転に伴って糸を巻き取ってしまう。この状態では、糸は、線状ブラシ11の毛材の間に食い込んだ上で回転軸体12の周囲に巻き付くことになる。毛材が剛性の高い標準断面糸であれば、糸は毛材により締め付けられ容易に外れないので、糸の巻き付き状態が固定化されてしまう。それゆえ、回転ブラシ10から糸を取り除くことは、通常容易ではない。
【0058】
しかしながら、回転ブラシ10が混合線状ブラシ11Aを備えていれば、当該混合線状ブラシ11Aには、剛性の低い異形断面糸が含まれているため、毛材の間に糸が食い込んだとしても、毛材による締め付けの程度が小さい。それゆえ、毛材の間から糸を外すことも容易となり、回転ブラシ10に巻き付いた糸を容易に取り外すことが可能となる。
【0059】
本実施の形態では、線状ブラシ11の好ましい構成として、図6(b)に示すように、複数の毛材列111を隣接配置させた構成を挙げているので、混合線状ブラシ11Aの具体的な構成としては、図8(a)に示すように、標準断面糸のみからなる標準毛材列111Bと、異形断面糸のみからなる異形毛材列111Cとを隣接配置させた構成、あるいは、図8(b)に示すように、異形毛材列111Cと、標準断面糸および異形断面糸が混合されてなる混合毛材列111Aとを隣接配置させた構成を挙げることができる。
【0060】
なお、1本(1条)の毛材列111は、複数の毛材株113を一列に並ぶように植毛基材112に植毛して構成されているので、図8(a)〜(c)においては、1株の毛材株113を、円形の図形またはY字形状の図形で模式的に示しており、これら毛材株113の一列の並びを1本(1条)の毛材列111A〜111Cとして模式的に示している。円形の図形は、標準断面糸のみから構成される標準毛材株113Bを示しており、Y字形状の図形は、異形断面糸のみから構成される異形毛材株113Cを示しており、円形およびY字形状の図形が隣接したもの(図8(b)において破線で囲んだ図形のセット)は、標準断面糸および異形断面糸が混合された混合毛材株113Aを示している。
【0061】
ここで、本実施の形態に係る回転ブラシ10においては、図6(a)に示すように、複数の線状ブラシ11のうち混合線状ブラシ11A以外のものは、標準断面糸のみからなる単毛線状ブラシ11Bであることが好ましい。これは、被掃除面が平坦面(板張り面等)であれば、被掃除面の磨き性または拭き取り性を良好なものにするとともに、被掃除面がじゅうたん面であれば、塵埃の掻き取り性を良好なものとするためである。
【0062】
異形断面糸のみからなる線状ブラシ11と標準断面糸のみからなる線状ブラシ11(単毛線状ブラシ11B)とを比較した場合、前者は被掃除面の磨き性または拭き取り性には寄与するものの、じゅうたん面における塵埃の掻き取り性にはほとんど寄与できない。じゅうたん面においては、じゅうたんのパイル内に入り込んだ塵埃を掻き出す必要があるので、じゅうたん面の掃除には、剛性の高い毛材(標準断面糸)を用いた後者の線状ブラシ11を用いる必要がある。
【0063】
そこで、じゅうたん面でも良好な掃除性能を確保するために、回転ブラシ10には、混合線状ブラシ11Aだけでなく標準断面糸からなる単毛線状ブラシ11Bが含まれることがより好ましい。混合線状ブラシ11Aの一例が図8(a),(b)に示すような3本(3条)の毛材列111A〜111Cからなっていれば、単毛線状ブラシ11Bの一例としても、図8(c)に示すように3本の標準毛材列111Bからなる構成を挙げることができる。
【0064】
ここで、図6(a)に示すように、混合線状ブラシ11Aの毛材の長さに対して、単毛線状ブラシ11Bの毛材の長さは短い方が好ましい。混合線状ブラシ11Aは、被掃除面を磨いたり拭き取ったりするために用いられるが、単毛線状ブラシ11Bはじゅうたん面において塵埃を掻き出すために用いられる。それゆえ、剛性の高い標準断面糸は、磨きまたは拭き取りを行う被掃除面(板張りの床面等)に強く接触しないように短い方が好ましい。逆に、剛性の低い異形断面糸は、被掃除面に十分接触して磨き性あるいは拭き取り性を十分に発揮できるように長い方が好ましい。
【0065】
なお、毛材として用いられる異形断面糸110の具体的な構成は特に限定されず、その断面形状は、図7(a)または(b)に示すような、Y字状、V字状、X字状、三角形状、または矩形状の中から少なくとも1種の形状が選択されればよい。したがって、1本(1条)の混合毛材列111Aあるいは異形毛材列111C中に2種以上の異形断面糸110が含まれてもよい。それゆえ、1本(1条)の混合線状ブラシ11A中においても、毛材として2種以上の異形断面糸110がもちいられてもよい。また、異形断面糸110の断面形状は、前記5種以外の形状であってもよいことは言うまでもない。
【0066】
また、本実施の形態では、回転ブラシ10が備える複数の線状ブラシ11のうち混合線状ブラシ11Aと単毛線状ブラシ11Bとが同数であるが、本発明はこれに限定されず、吸込具20の用途に応じて、混合線状ブラシ11Aの本数を増やしてもよいし、逆に単毛線状ブラシ11Bの本数を増やしてもよい。また、混合線状ブラシ11Aの毛材の長さに対して単毛線状ブラシ11Bの毛材がどの程度の短くてよいのか(あるいは各毛材の長さの比)については、特に限定されず、吸込具20の用途に応じて適宜設定することができる。
【0067】
[毛材株の構成例]
次に、本実施の形態において混合線状ブラシ11Aに用いられる毛材株113A〜113Cについて、図7(a)〜(c)に加えて、図9を参照して具体的に説明する。
【0068】
毛材株113A〜113Cは、図9に示すように、複数本の標準断面糸100または異形断面糸110を束ねて折り曲げたものとなっており、折り曲げ部分が植毛基材112に固定されることで、当該植毛基材112に植毛されている。なお、図9では、説明の便宜上、1本の標準断面糸100または異形断面糸110を折り曲げたものを1株として図示しているが、実際には複数本を折り曲げて1株とする。
【0069】
混合毛材株113Aは、図9に示すように、異形毛材株113Cに隣接して標準毛材株113Bを植毛した構成となっている。これにより、剛性の低い異形断面糸110は、剛性の高い標準断面糸100により支持または補強されるので、毛倒れが有効に抑制される。ここで、異形断面糸110としては、標準断面糸100と外径が同じものを用いてもよいし、図9に示すように、標準断面糸100よりも外径の小さい(細い)ものを用いてもよい。より細い異形断面糸110を用いることで、被掃除面に対する異形断面糸110の接触本数を増やすことができるので、混合線状ブラシ11Aによる被掃除面の磨き性あるいは拭き取り性をより向上させることができる。
【0070】
一例を挙げると、1株の標準毛材株113Bおよび1株の異形毛材株113Cにより1株の混合毛材株113Aが構成される場合、標準毛材株113Bとして、18本の標準断面糸100からなるもの(したがって1株に用いられる毛材の本数は9本)を用いることができ、異形毛材株113Cとして、160本の異形断面糸110からなるもの(したがって1株に用いられる毛材の本数は80本)を用いることができる。
【0071】
なお、混合毛材株113Aとしては、図9に示すような、標準毛材株113Bおよび異形毛材株113Cを1株ずつ隣接させたものではなく、異形断面糸110および標準断面糸100を混合して束ねて折り曲げたものであってもよい。したがって、混合毛材株113Aとしては、実質的に1株と見なせる毛材の集合の中に、異形断面糸110および標準断面糸100が含まれているものを用いればよく、具体的な構成は特に限定されない。
【0072】
また、混合毛材株113Aを構成する標準毛材株113Bと異形毛材株113Cとの位置関係も特に限定されないが、一つの好ましい構成例として、図9に示すように、外側に異形毛材株113Cを植毛し、その内側に標準毛材株113Bを植毛する例が挙げられる。これにより、異形毛材株113Cを標準毛材株113Bで補強することができるので、異形毛材株113Cの毛倒れを防止できるとともに、除塵性能の向上を図ることができる。
【0073】
毛材株113A〜113Cに用いられる標準断面糸および異形断面糸の具体的な構成は特に限定されない。回転ブラシ10の分野では、毛材(標準断面糸)としては、公知の樹脂(例えばナイロン樹脂等)を押出成形して所定の長さに切断したものを好適に用いることができる。したがって、図7(a)に示す異形断面糸110A〜110Cも、図7(b)に示す異形断面糸110D,110Eも、図7(a),(b)に示す形状を有するダイスから樹脂を押出成形したものとして製造することができる。もちろん、所望の断面形状の異形断面糸110を製造できるのであれば、公知の他の製造方法を用いることができる。
【0074】
毛材として用いられる標準断面糸および異形断面糸の具体的な直径(外径)については特に限定されず、回転ブラシ10の分野で公知の範囲を好適に用いることができる。例えば、本実施の形態では、図7(c)に示す標準断面糸100Aとしては、7.39×10-122 の直径のものを用いており、例えば図7(a)に示す異形断面糸110Aとしては、1.36×10-122 の外径のものを用いているが、この例に限定されないことはいうまでもない。
【0075】
また、前記の例のように、異形断面糸は標準断面糸よりも細いものを用いることで、被掃除面の磨き性または拭き取り性を向上することができるが、異形断面糸の太さは特に限定されない。標準断面糸の直径を1としたときに、異形断面糸の外径は、好ましくは、例えば1/10〜1/1の範囲内に設定することができるが、もちろんこの範囲内に限定されない。前記の例では、異形断面糸110Aは、標準断面糸100Aの1/5.4の太さとなっている。
【0076】
なお、混合線状ブラシ11Aに用いられる毛材株113の組合せは特に限定されず、異形毛材株113Cと標準毛材株113Bとの組合せ、異形毛材株113Cと混合毛材株113Aとの組合せ、異形毛材株113Cと標準毛材株113Bと混合毛材株113Aとの組合せ、並びに、標準毛材株113Bと混合毛材株113Aとの組合せを挙げることができる。すなわち、毛材株113を用いて構成される混合線状ブラシ11Aに異形断面糸が含まれていれば、毛材株113の組合せは特に限定されない。
【0077】
標準毛材株113Bまたは混合毛材株113Aは、異形毛材株113Cを支持または補強して毛倒れを抑制または回避するために用いられる。ただし、回転ブラシ10および吸込具20の用途等に応じて、確保すべき掃除性能も異なるので、異形断面糸を含むことによる被掃除面の磨き性または拭き取り性の程度もさまざまである。それゆえ、混合線状ブラシ11A全体として見たときに、標準断面糸が異形断面糸を支持または補強できるように、これら毛材が混合していればよく、混合線状ブラシ11Aに異形毛材株113Cが常に含まれている必要はない。
【0078】
なお、混合線状ブラシ11Aに用いられる全ての毛材中における異形断面糸と標準断面糸との比率については、回転ブラシ10および吸込具20の具体的構成、用途等に応じて適宜設定することができる。この点については、次の[混合線状ブラシの構成例]で詳述する。
【0079】
[混合線状ブラシの構成例]
次に、混合線状ブラシ11Aの具体的な構成例について、図8(a),(b)に加えて図10および図11を参照して具体的に説明する。
【0080】
混合線状ブラシ11Aは、図8(a)に模式的に示すように、標準毛材列111Bおよび異形毛材列111Cから構成されてもよいし、混合毛材列111Aおよび異形毛材列111Cから構成されてもよいし、図示されないが、毛材列111A〜111Cの全てを含むように構成されてもよいが、異形断面糸の毛倒れを有効に抑制または防止する観点から、毛材列111A〜111Cの好ましい配置を例示することができる。
【0081】
例えば、図8(a),(b)あるいは図10(a)に示すように、混合線状ブラシ11Aは、外側の毛材列111が標準毛材列111Bまたは混合毛材列111Aで構成され、かつ、内側の毛材列111が異形毛材列111Cで構成されていることが好ましい。異形毛材列111Cの外周を標準毛材列111Bまたは混合毛材列111Aで囲むように、これら毛材列111を配置することで、異形毛材列111Cの毛倒れを有効に抑制または回避することができる。
【0082】
なお、図8(a),(b)に示す例は毛材列111が3本(3条)の例であり、図10(a)に示す例は、毛材列111が4本(4条)の例であるが、吸込具20の用途に応じて、内側の異形毛材列111Cの本数を増減することができる。また、図10(a)〜(d)においては、円形の図形は、標準毛材株113Bだけでなく混合毛材株113Aも示すものとする。また、ここでいう外側または内側は、図8(a),(b)または図10(a)に示す模式的構成から明らかなように、混合線状ブラシ11Aの長手方向の外側または内側を示すものであり、混合線状ブラシ11Aの端部における外側または内側を指すものではない。
【0083】
あるいは、図10(b)に示すように、混合線状ブラシ11Aは、外側の毛材列111が異形毛材列111Cで構成され、かつ、内側の毛材列111が標準毛材列111Bまたは混合毛材列111Aで構成されてもよい。この構成は、図8(a),(b)または図10(a)に示す構成とは反対となるが、外周の異形毛材列111Cを内側の標準毛材列111Bまたは混合毛材列111Aで支持または補強することになるので、混合線状ブラシ11Aにおいて内部の毛材列111A,111Bが骨格のように機能することになる。
【0084】
あるいは、図10(c)に示すように、混合線状ブラシ11Aを構成する混合毛材列111Aが、混合毛材株113Aにより構成されるのではなく、異形毛材株113Cと、標準毛材株113Bまたは混合毛材株113Aとを、予め設定された配列パターンで繰り返し並べて構成されたものであってもよい。この構成では、混合線状ブラシ11Aに含まれる毛材株113A〜113Cの位置を分散させることが可能になるので、混合線状ブラシ11Aの全体的な剛性を向上させることが可能となる。
【0085】
ここで、図10(c)では2株の異形毛材株113Cと1株の標準毛材株113Bまたは混合毛材株113Aとにより一つの配列パターンが構成されているが、前記配列パターンの具体的な順番は特に限定されず、吸込具20の用途等に応じて好適な配列パターンを設定することができる。ただし、好ましい配列パターンの例としては、互いに隣接する混合毛材列111Aにおいて、各混合毛材列111Aに含まれる標準毛材株113B同士または混合毛材株113A同士が隣接しないように、前記配列パターンが設定されている構成が挙げられる。言い換えれば、互いに隣接する混合毛材列111Aにおいて、毛材株113の種類が互い違いになるように配列パターンが設定されている構成であると好ましい。標準毛材株113Bまたは混合毛材株113Aの機能の一つが、異形毛材株113Cを支持または補強することにあるので、これら毛材株113A,113Bが隣接しないように分散配置させることで、混合線状ブラシ11A全体の剛性を向上することができる。
【0086】
また、図10(d)に示すように、混合線状ブラシ11Aにおいては、異形毛材株113Cから見て回転軸体12の回転方向(図中ブロック矢印R)側に標準毛材株113Bまたは混合毛材株113Aが位置するように、複数の毛材列111が隣接配置されて構成されてもよい。図10(d)に示す例では、回転方向の上流側に標準毛材列111Bまたは混合毛材列111Aを配置させ、下流側に異形毛材列111Cを配置させている構成を例示しているが、もちろんこれに限定されず、特に図10(c)に示すような、異形毛材株113Cと、標準毛材株113Bまたは混合毛材株113Aとを、予め設定された配列パターンで繰り返し並べて構成された混合毛材列111Aにおいて、このような配置を採用すると好ましい。これにより、異形毛材株113Cの毛倒れをより一層有効に抑制または回避することが可能となる。
【0087】
さらに、混合線状ブラシ11Aにおいては、全ての毛材中に含まれる標準断面糸の比率を好ましい範囲内に設定することで、回転ブラシ10(および吸込具20)の掃除性能をさらに向上させることができる。具体的には、一つの混合線状ブラシ11Aに含まれる標準断面糸は、毛材の断面積比で15%以上60%以下の範囲内となっていることが好ましく、20%以上55%以下の範囲内となっていることがより好ましく、22%以上52%以下の範囲内となっていることがさらに好ましい。
【0088】
言い換えると、一つの混合線状ブラシ11Aに含まれる標準断面糸と異形断面糸との比率を断面積比で表せば、標準断面糸/異形断面糸=15/85〜60/40の範囲内であると好ましく、20/80〜55/45の範囲内であるとより好ましく、22/78〜52/48の範囲内であるとさらに好ましい。全毛材中の標準断面糸の好ましい比率は、回転ブラシ10の具体的な構成、または吸込具20に想定される被掃除面(用途)に応じて異なるものの、標準的には、前記範囲内に入れば良好な掃除性能を実現することが可能である。なお、前記比率の好ましい範囲については、後述する実施例でより具体的に説明する。
【0089】
ここで、全ての毛材中における標準断面糸の本数についても好ましい比率を設定することができる。ただし、前述したように、標準断面糸の直径に対する異形断面糸の外径は、適宜設定することができるので、標準断面糸および異形断面糸の太さの組合せに応じて、好ましい本数の比率も微妙に異なってくる。本実施の形態では、全毛材中の標準断面糸の本数が3%以上20%以下の範囲内を、一つの好ましい比率の範囲として挙げることができる。なお、この範囲は、前記[毛材株の構成例]で説明した標準断面糸および異形断面糸の太さを基準とするものである。
【0090】
なお、本実施の形態では、混合線状ブラシ11Aは、複数の毛材列111を隣接配置した構成となっており、毛材列111は複数の毛材株113を一列に並べた構成となっているが、混合線状ブラシ11Aおよび毛材列111の構成はこれに限定されない。例えば、毛材株113も毛材列111も構成しないように、標準断面糸および異形断面糸を植毛して単一の混合線状ブラシ11Aを構成してもよいし、単一の混合線状ブラシ11Aが複数の毛材列111から構成されていても、各毛材列111は、毛材株113を構成しないように標準断面糸および異形断面糸を一列にまとめて植毛した構成であってもよい。すなわち、混合線状ブラシ11Aは、回転軸体12の周囲に軸線方向に沿って設けられる線状のブラシ部材であって、毛材として標準断面糸および異形断面糸が混合されて用いられる構成であればよく、毛材列111は線状に毛材を植毛したものであればよい。
【実施例】
【0091】
本発明を実施例および図11に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0092】
[回転ブラシの構成]
本実施例では、代表的な回転ブラシ10である、6本(6条)の線状ブラシ11を備える回転ブラシ10(図6(a)参照)を用いた。6本の線状ブラシ11に含まれる混合線状ブラシ11Aとしては、2本の混合毛材列111Aを隣接配置したものを用いた。
【0093】
[毛材および毛材株の構成]
混合毛材列111Aに含まれる異形断面糸としては、断面形状がY字形状のもの(Y字断面糸、図7(a)参照)を、標準断面糸としては、断面形状が円形のものを用いた。Y字断面糸としては、外径が1.36×10-122 であるナイロン樹脂製の押出成形糸を用い、標準断面糸としては、直径が7.39×10-122 であるナイロン樹脂製の押出成形糸を用いた。
【0094】
また、異形断面糸は、単独で異形毛材株113Cとして用いるとともに、標準断面糸とともに混合毛材株113Aとして用いた(図8(b)および図9参照)。異形毛材株113Cとしては、Y字断面糸を80本束ねて折り曲げて構成される1株160本のものを用いた。また、混合毛材株113Aとしては、標準断面糸を9本束ねて折り曲げて構成される1株18本の標準毛材株113Bと前記混合毛材株113Aとを隣接して植毛したものを用いた。
【0095】
[毛材列の構成]
混合毛材列111Aとしては、異形毛材株113Cと混合毛材株113Aとを所定の配列パターンで一列に植毛することで1本の混合毛材列111Aを構成した。このときの配列パターンは、互いに隣接する混合毛材列111Aにおいて、各混合毛材列111Aに含まれる混合毛材株113A同士が隣接しないように設定した(図10(c)参照)。
【0096】
[被掃除面の磨き性の評価]
被掃除面として木材製の平坦な床面(板張りの床面)を準備し、人工的な微細な塵埃として小麦粉を散布した。電気掃除機(パナソニック製、製品番号:MC−PA210GX)に、回転ブラシ10を備える吸込具20を装着し、前記被掃除面を一往復し、その後の被掃除面における塵埃の除去状態を目視で確認した。ほとんどの塵埃が除去されて被掃除面が良好に磨かれていれば「◎」、十分に塵埃が除去されて被掃除面が好適に磨かれていれば「○」、大部分の塵埃が除去されて被掃除面の磨きが確認できれば「△」、塵埃の除去が不十分で被掃除面の磨きが確認できなければ「×」として評価した。
【0097】
[実施例1]
混合線状ブラシ11Aは、回転ブラシ10の掃除性能のうち、被掃除面の磨き性または拭き取り性に寄与するものであるが、被掃除面がじゅうたん面である場合には、掃除性能のうち塵埃の掻き出し性が重要となるので、回転ブラシ10は単毛線状ブラシ11Bが備えていることが望ましくなる。吸込具20に想定される被掃除面が、板張りの床面等の平滑面のみであれば、回転ブラシ10には単毛線状ブラシ11Bは含まれていなくてもよいが、吸込具20に想定される被掃除面が平滑面およびじゅうたん面の双方であれば、単毛線状ブラシ11Bを含んでいることが好ましい。また、回転ブラシ10が備える線状ブラシ11の本数(条数)は複数であればよいので、理論上、2〜3本程度から10本以上の範囲までが想定される。
【0098】
そこで、本実施例では、被掃除面が平滑面およびじゅうたん面の双方である場合を想定し、6本の線状ブラシ11の全てを混合線状ブラシ11Aとした回転ブラシ10を準備し、当該回転ブラシ10を備える吸込具20を用いて、混合線状ブラシ11Aに含まれる標準断面糸の比率を変化させて被掃除面の磨き性を評価した。その結果を図11に示す。
【0099】
[実施例2]
本実施例では、被掃除面が実質的に平滑面のみである場合を想定し、6本の線状ブラシ11のうち3本のみを混合線状ブラシ11Aとした回転ブラシ10を準備した。当該回転ブラシ10は、図6(a)に示すように、混合線状ブラシ11Aと単毛線状ブラシ11Bとを交互に配置させたものとした。当該回転ブラシ10を備える吸込具20を用いて、混合線状ブラシ11Aに含まれる標準断面糸の比率を変化させて被掃除面の磨き性を評価した。その結果を図11に示す。
【0100】
[結果]
図11に示すグラフでは、実施例1の結果を破線で示し、実施例2の結果を実線で示している。グラフの縦軸は磨き性を示し、横軸はグラフの下部に記載しているようにY字断面糸の植毛比率を断面積比で示しており、グラフの上部に記載しているように標準断面糸の植毛比率を示すものでもある。
【0101】
このグラフの結果から明らかなように、実施例1および2で評価を行った範囲内、すなわちY字断面糸が40〜85%の範囲内であれば、少なくとも被掃除面の磨き性は「△」で評価される。したがって、本発明においては、混合線状ブラシ11Aの全毛材中で標準断面糸が15〜60%の範囲内で含まれていれば、異形断面糸を十分に支持できるため、十分な磨き性を発揮できることがわかる。
【0102】
さらに、実施例1の結果では、Y字断面糸の比率が70〜75%の範囲内で磨き性にピークが見られ、少なくとも約60〜約78%の範囲内で磨き性を「◎」で評価することができる。一方、実施例2の結果では、Y字断面糸の比率が55〜60%の範囲内で磨き性にピークが見られ、少なくとも約47〜約68%の範囲内で磨き性を「◎」で評価することができる。また、実施例1および2の少なくとも一方で磨き性を「○」と評価できる範囲は、Y字断面糸が45〜80%の範囲内であることがわかる。
【0103】
それゆえ、混合線状ブラシ11Aの全毛材中に含まれる標準断面糸が20〜55%の範囲内であれば、少なくとも一方の実施例で磨き性が「○」になるためより好ましく、22〜52%の範囲内であれば、少なくとも一方の実施例で磨き性を「◎」で評価できるため、さらに好ましいことがわかる。
【0104】
また、図11に示す結果から、想定される被掃除面の種類および回転ブラシ10に含まれる混合線状ブラシ11Aの本数によって好ましい範囲に違いが出ることがわかる。それゆえ、標準断面糸の比率の好ましい範囲は、前記の3つの範囲に段階的に絞り込まれるように設定される必要はなく、条件に応じて、上限または下限を組み合わせて設定することができる。
【0105】
例えば、被掃除面として平滑面およびじゅうたん面の双方が想定される用途に限定したときには、標準断面糸の比率の上限を約43%(Y字断面糸の比率が約57%)に、下限を約22%(Y字断面糸の比率が約78%)に設定すれば、磨き性を「◎」で評価できる範囲を特定できる。また、被掃除面として平滑面のみが想定される用途に限定したときには、標準断面糸の比率の上限を約53%(Y字断面糸の比率が約47%)に、下限を約33%(Y字断面糸の比率が約67%)に設定すれば、磨き性を「◎」で評価できる範囲を特定できる。
【0106】
あるいは、種々の条件に応じて、標準断面糸の比率の上限を60%に、下限を約32%に設定してもよいし、上限を55%に、下限を15%に設定してもよいし、上限約52%に、下限を15%に設定してもよい。本実施例においては、少なくとも、磨き性を「△」以上で評価することができる範囲であれば、標準断面糸の比率として好ましい範囲であるということができる。
【0107】
なお、図11に示す結果は、標準断面糸の比率の好ましい範囲を実験的に証明するものであるが、標準断面糸の比率が60%を超えていたり15%を下回っていたりしても、本願発明の効果が得られないわけではないことはいうまでもない。回転ブラシ10または吸込具20の具体的な構成によっては、混合線状ブラシ11Aに含まれる標準断面糸の比率を増やしたり減らしたりするように調整することが可能であるため、本発明は、少なくとも、複数の線状ブラシ11に混合線状ブラシ11Aが1本(1条)以上含まれていれば、適切な効果を奏することができるものとなっている。
【0108】
また、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態、実施例、複数の変形例等にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、回転ブラシを備える電気掃除機用吸込具、並びに、当該吸込具を備える電気掃除機の分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0110】
10 回転ブラシ
11 線状ブラシ
11A 混合線状ブラシ
11B 単毛線状ブラシ
12 回転軸体
20 吸込具
30 電気掃除機
100,100A,100B 標準断面糸(毛材)
110,110A〜110E 異形断面糸(毛材)
111 毛材列
111A 混合毛材列
111B 標準毛材列
111C 異形毛材列
113 毛材株
113A 混合毛材株
113B 標準毛材株
113C 異形毛材株
Ps 凸部
Pc 凹部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気掃除機用吸込具内に回転可能に設けられる回転軸体と、
当該回転軸体の周囲に軸線方向に沿って設けられる、複数の線状ブラシと、を備え、
当該複数の線状ブラシのうち少なくとも一つは、毛材として、円状または楕円状の断面形状を有する標準断面糸と、凸部および凹部の少なくとも一方を含む断面形状を有する異形断面糸とが混合して用いられている混合線状ブラシであることを特徴とする、回転ブラシ。
【請求項2】
前記異形断面糸は、Y字状、V字状、X字状、三角形状、および矩形状の群から選択される少なくとも1種の断面形状を有するものであること特徴とする、請求項1に記載の回転ブラシ。
【請求項3】
前記混合線状ブラシ以外の前記線状ブラシは、標準断面糸のみからなる単毛線状ブラシであることを特徴とする、請求項1に記載の回転ブラシ。
【請求項4】
一つの前記線状ブラシは、線状に毛材を植毛してなる毛材列を、複数隣接して配置させて構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の回転ブラシ。
【請求項5】
前記混合線状ブラシは、
異形断面糸のみからなる異形毛材列と、
標準断面糸のみからなる標準毛材列、および、標準断面糸および異形断面糸が混合されてなる混合毛材列の少なくとも一方と、から構成されていることを特徴とする、請求項4に記載の回転ブラシ。
【請求項6】
前記混合線状ブラシは、外側の毛材列が前記標準毛材列または混合毛材列で構成され、かつ、内側の毛材列が前記異形毛材列で構成されていることを特徴とする、請求項5に記載の回転ブラシ。
【請求項7】
前記混合線状ブラシは、外側の毛材列が前記異形毛材列で構成され、かつ、内側の毛材列が前記標準毛材列または前記混合毛材列で構成されていることを特徴とする、請求項5に記載の回転ブラシ。
【請求項8】
前記毛材列は、毛材を束状にまとめた毛材株を線状に並べたものとして構成されており、
当該毛材株として、
異形断面糸のみからなる異形毛材株と、
標準断面糸のみからなる標準毛材株、および、標準断面糸および異形断面糸が混合されてなる混合毛材株の少なくとも一方と、が用いられることを特徴とする、請求項5に記載の回転ブラシ。
【請求項9】
前記混合毛材列は、前記異形毛材株と、前記標準毛材株または前記混合毛材株とを、予め設定された配列パターンで繰り返し並べて構成されていることを特徴とする、請求項8に記載の回転ブラシ。
【請求項10】
互いに隣接する前記混合毛材列において、各混合毛材列に含まれる前記標準毛材株同士または前記混合毛材株同士が隣接しないように、前記配列パターンが設定されていることを特徴とする、請求項9に記載の回転ブラシ。
【請求項11】
前記混合線状ブラシは、前記異形毛材株から見て前記回転軸体の回転方向側に前記標準毛材株または混合毛材株が位置するように、複数の毛材列が隣接配置されて構成されていることを特徴とする、請求項5に記載の回転ブラシ。
【請求項12】
一つの前記混合線状ブラシに含まれる前記標準断面糸は、前記毛材の断面積比で15%以上60%以下の範囲内となっていることを特徴とする、請求項1に記載の回転ブラシ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の回転ブラシを備えていることを特徴とする、電気掃除機用吸込具。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate