説明

電気接点用潤滑組成物

【課題】電気接点部の接触抵抗の安定化及び耐硫化性を損なうことなく軽作動及び作動力変化を低減すると共に耐久性を改良した潤滑組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の電気接点用潤滑組成物は、(A)基油としてポリジメチルシリコーンオイル100重量部と、(B)増稠剤としてシリカ粉1.0重量部〜20重量部と、(C)前記ポリジメチルシリコーンオイルと相溶性の異なる添加油1.0重量部〜15重量部と、(D)フッ素樹脂微粉末0.01重量部〜5.0重量部と、(E)一般式RSH(Rは炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSRSH(Rは炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物0.01重量部〜1.0重量部と、を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気接点用潤滑組成物に関し、特に、電子機器などの機構部品(スイッチ、エンコーダー、位置センサなど)の摺動電気接点及びそれに近接する摺動部分に用いられる電気接点用潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子機器などの機構部品(スイッチ、エンコーダー、位置センサなど)の摺動電気接点の保護及びそれに近接する摺動部分に用いられる潤滑組成物は、シリコーンオイルや合成油をシリカ粉や金属石鹸で増稠した潤滑剤である。電気的な接続の安定性のためには、シリコーンオイルを用いた潤滑剤は有効ではあるが(特許文献1)、硫化水素のような腐食性ガスの遮断性については欠点があり、これを補うために硫化防止剤を用いることが一般的である。
【0003】
しかしながら、硫化防止剤の添加によって表面に皮膜を形成するため潤滑性は良くなるものの接触抵抗は不安定となり、静止状態の接続安定性は確保されても、外部からの衝撃振動や摺動時のような動的な接続安定性は劣化してしまう。また、接続安定性が良いということは、潤滑性に劣るということであり、摺動による接点金属同士の接触が激しくなり動作が重くなり著しく摩耗が生じる。さらに、最近の電気接点の荷重は軽くなり、シリコーンオイルを用いた接点であっても接続安定性に障害を及ぼすことが知られている。
【0004】
一方、炭化水素油を始めとした合成油の場合には、シリコーンオイルに比較して潤滑油膜が強く、潤滑性は良好であるが接触抵抗は安定しづらい傾向にある。過去のアナログ回路では静止接続の安定性だけも機能してきたが、近年のデジタル信号処理が電子回路の主流となっている中では使用に耐えない。特に近年の軽薄短小化の電気・電子機器の動向にあって、接触荷重も軽量化し、軽い操作が必要とされるようになって来ると一層この要求は高くなっている。
【0005】
また、電気・電子機器の使用環境が幅広くなって来ると共に保存温度条件などに要求されるレベル・時間が増加する傾向にある。また、機器の大きさが小さくなって来ると内部発熱に伴う電子機構部品に印加される温度は上昇して来ている。電気的接続を維持しつつ潤滑性能を向上させるためには、フッ素オイルやエステル化合物、硫黄系化合物といった極圧剤を加える方法やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの固体潤滑剤を加える方法が挙げられる。しかしながら、軽荷重の接点の場合には、一般的な極圧添加剤のようなものは荷重圧力が一点に集中するものではないため、その効果は期待できない。また、高温時には潤滑剤自体の流動性が良くなり、特に固体や相溶性の無い添加剤の場合には接触部から添加剤と共に排除されてしまい、直接金属同士の接触が発生し初動の作動力が重くなってしまうため不適切である。また、PTFEなどの固体潤滑剤は、単体で使用した場合に温度に影響しないものであるが、オイル中に分散させた場合には、前述の極圧添加剤と同様に排除されてしまい、やはり初動の作動力が重くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−232433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの提案による方法は、電気・電子機器の温度上昇が比較的小さい場合には有効であった。しかしながら、近年では100℃近くの温度に置かれる機器も多くなり、さらに連続100時間を越えて放置されることもあり、従来よりも厳しい条件に摺動部がさらされるようになった。その結果、電気接点を始めとして接触部の潤滑剤が流失や酸化といった変化変質が発生し、作動力が急激に増加し致命的な状態として動作不能状態(「かじり付き」と称する)となることもある。
【0008】
荷重の軽重では、これらの状態の差異はあるものの、かじり付きは温度があるレベルを越えると発生する。これを改善するために強固な潤滑膜を構成する添加剤を加える方法や多量に添加剤を用いる方法が提案されるが、これらの方法では電気的接続を害し、接点障害を生じてしまう。
【0009】
十数g程度の軽荷重接点において、電気的な接続の安定性を静止状態並びに摺動状態において確保でき、高温状態の長期放置されても作動力を安定させることのできる潤滑組成物が求められている。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、電気接点部の接触抵抗の安定化及び耐硫化性を損なうことなく軽作動及び作動力変化を低減すると共に耐久性を改良した潤滑組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、(A)基油としてポリジメチルシリコーンオイル100重量部と、(B)増稠剤としてシリカ粉1.0重量部〜20重量部と、(C)前記ポリジメチルシリコーンオイルと相溶性の異なる添加油1.0重量部〜15重量部と、(D)フッ素樹脂微粉末0.01重量部〜5.0重量部と、(E)一般式RSH(Rは炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSRSH(Rは炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物0.01重量部〜1.0重量部と、を含有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、電子機器などの機構部品の摺動電気接点、及びそれに近接する摺動部分に用いた場合に、基油と相溶性の異なる添加油により、基油により生成される油膜を破り易くさせているので、電気接点部の接触抵抗の安定化を図ることができ、フッ素樹脂微粉末により潤滑性能を発揮することができ、オルガノチオール化合物により耐硫化性を発揮することができる。また、各成分の含有量を調整することにより、接触抵抗の安定化や耐硫化性を損なわずに長期の作動耐久性を格段に向上させることができる。
【0013】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記シリカ粉と前記添加油との間の重量比が1:5以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記ポリジメチルシリコーンオイルは、25.0℃における粘度が500cSt〜10,000cStであるポリジメチルシリコーンオイルの1種又は複数種の混合油であることが好ましい。
【0015】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記シリカ粉がフュームドシリカであり、比表面積が50m/g〜300m/gであることが好ましい。
【0016】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記添加油が平均組成式RSiO(4−a)/2(Rは置換又は非置換の1価の炭化水素基であり、aは1.9〜2.7の数であり、分子中におけるケイ素原子1個あたりの平均値を示す)で表わされるポリオルガノシリコーンオイル1種又は複数種の混合油であることが好ましい。
【0017】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記添加油がポリオルガノシリコーンオイルであり、25.0℃における粘度が10cSt〜500cStであることが好ましい。この場合においては、本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記ポリオルガノシリコーンオイルがアルキル変性シリコーンオイルであることが好ましい。
【0018】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記添加油がフッ素系油であり、98.9℃における粘度が1cSt〜50cStであることが好ましい。
【0019】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記添加油が脂肪族炭化水素系油であり、98.9℃における粘度が1cSt〜20cStであることが好ましい。
【0020】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記オルガノチオール化合物が炭素数10〜20のオルガノメルカプタンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、電子機器などの機構部品(スイッチ、エンコーダー、位置センサなど)の摺動電気接点及びそれに近接する摺動部分に用いた場合に、接触力数gfの軽荷重の接点であっても電気接点部の接触抵抗の安定化及び耐硫化性を損なうことなく、軽作動及び作動力変化を低減すると共に、耐久性を格段に向上せしめ極めて信頼性の高い電気接点を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の電気接点用潤滑組成物は、(A)基油としてポリジメチルシリコーンオイル100重量部と、(B)増稠剤としてシリカ粉1.0重量部〜20重量部と、(C)前記ポリジメチルシリコーンオイルと相溶性の異なる添加油1.0重量部〜15重量部と、(D)フッ素樹脂微粉末0.01重量部〜5.0重量部と、(E)一般式RSH(Rは炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSRSH(Rは炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物0.01重量部〜1.0重量部と、を含有することを特徴とする。
【0023】
本発明の電気接点用潤滑組成物において、主成分をなす基油(A)としては、シリコーンオイルとして通称されるポリジメチルシリコーンオイルを用いる。ポリジメチルシリコーンオイルとしては、潤滑組成物の流動性、潤滑効果、粘性抵抗などを考慮して、温度25℃において500cSt〜10,000cStの粘度を有することが望ましい。このようなポリジメチルシリコーンオイルは、1種類であっても良く、複数種の混合油であっても良い。なお、複数種の混合油の場合、それぞれ異なる粘度の油の混合物であっても良い。また、ポリジメチルシリコーンオイルの分子形状は、直鎖状であっても良く、分枝状であっても良い。
【0024】
本発明の電気接点用潤滑組成物において、基油(A)に適度の稠度を付与する増稠剤(B)としては、シリカ粉を用いる。この増稠剤(B)は、適度の稠度を付与すること、塗布容易性や潤滑性などを考慮して、基油(A)成分100重量部に対して1.0重量部〜20重量部の範囲で用いる。シリカ粉を適度な配合量で配合すると、粒径が数nm〜数μmと小さいので、電気接点の接続を損なうことなく、却って表面に形成された汚染皮膜や酸化皮膜を削り取り、除去するため有効である。
【0025】
シリカ粉としては、煙霧質シリカ、沈殿シリカ、シリカエアロゲルなどを挙げることができ、フュームドシリカが好適である。フュームドシリカの場合、比表面積が50m/g〜300m/gであることが特に有効である。また、フュームドシリカの場合には、オルガノシラン、ポリオルガノシリコーンオイル、オルガノシラザンなどで表面処理したものを用いても良い。シリカ粉は1.0重量部〜20重量部の範囲で用いることが好ましい。
【0026】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、前記ポリジメチルシリコーンオイルと相溶性の異なる添加油(C)を含有する。この添加油は、電気接点用潤滑組成物において潤滑性能を補助する役割の他、基油が作り出す油膜を適度に破れ易くする働きがある。このため「相溶性の異なる添加油」とは、基油のポリジメチルシリコーンオイルと親和度が比較的低い、すなわち、基油(A)と組成式が異なる、もしくは基油(A)と添加油の溶解パラメーター(SP値)の差が絶対値0.3〜1.5の範囲であって、粘度が(A)の平均粘度に対して500cSt(25.0℃)以上の差を有する異質の添加油を意味する。この添加油(C)は、潤滑性能や基油が作り出す油膜の破れ易さなどを考慮して、基油(A)成分100重量部に対して1.0重量部〜15重量部の範囲で用いる。
【0027】
この添加油としては、ポリオルガノシリコーンオイル、脂肪族炭化水素油、フッ素系油などが挙げられる。ポリオルガノシリコーンオイルとしては、平均組成式RSiO(4−a)/2で表わされる。このポリオルガノシリコーンオイルは、1種でも良く、複数種の混合油でも良い。前記平均組成式中、ケイ素原子に結合した有機基Rとしては、置換又は非置換の1価の炭化水素基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの炭素数が1〜30のアルキル基;フェニル基のようなアリール基;β−フェニルエチル基のようなアラルキル基やクロロメチル基、トリフルオロプロピル基などの置換1価の炭化水素基が例示される。なお、Rは同一のものでも、2種以上の異なるものでも良い。また、前記平均組成式中、aは1.9〜2.7の数であり、分子中におけるケイ素原子1個あたりの平均値を示す。また、これらの有機基のうち、合成のし易さ及び耐熱性などから、50%以上がメチル基であることが好ましい。
【0028】
これらポリオルガノシリコーンオイルは、揮発性、潤滑性能、電気的接続安定性(接触抵抗)、粘性抵抗などを考慮して、温度25℃において10cSt〜500cStの粘度を有することが望ましい。この粘度は、基油(A)の粘度よりも低いことが望ましい。このようなポリオルガノシリコーンオイルは、1種類であっても良く、複数種の混合油であっても良い。なお、複数種の混合油の場合、それぞれ異なる粘度の油の混合物であっても良い。また、ポリオルガノシリコーンオイルの分子形状は、直鎖状であっても良く、分枝状であっても良い。また、ポリオルガノシリコーンオイルは、石油系の添加剤との親和性から、アルキル変性シリコーンオイルであることが好ましい。
【0029】
脂肪族炭化水素油としては、流動パラフィン、ポリα−オレフィンオリゴマー、オレフィンコポリマー、鉱物油などが挙げられる。この脂肪族炭化水素油は、潤滑性能、電気的接続安定性(接触抵抗)、粘性抵抗などを考慮して、98.9℃における粘度が1cSt〜20cStであることが好ましい。この粘度は、基油(A)の粘度よりも低いことが望ましい。
【0030】
フッ素油としては、パーフルオロアルカン、ポリ三フッ化エチレン、パーフルオロポリエーテルなどが挙げられる。特に、パーフルオロポリエーテルは、他のオイルとも親和性は低いが比較的混合し易く、組成物の性状の安定性にも優れている。このフッ素油は、流動性、電気的接続安定性(接触抵抗)などを考慮して、98.9℃における粘度が1cSt〜50cStであることが好ましい。この粘度は、基油(A)の粘度よりも低いことが望ましい。
【0031】
なお、これらの添加油は、それぞれ単独で用いても良く、配合範囲の中で混合して用いても良い。
【0032】
本発明の電気接点用潤滑組成物において、上述したように、増稠剤(B)は、適度の稠度を付与するものであり、添加油(C)は、基油(A)と相溶性の異なるものであり、基油(A)により生成した膜を切れ易くするものである。このような添加油(C)が多すぎると基油と混合せずに分離してしまう。このため、基油(A)と添加油(C)とを混ざり合わせてグリース形態としつつ、しかも基油(A)により生成した膜を切れ易くするためには、増稠剤(B)と添加油(C)との間の重量比を適度に調整することが望ましい。例えば、増稠剤(B)であるシリカ粉と添加油(C)との間の重量比が1:5以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、フッ素樹脂微粉末(D)を含有する。このフッ素樹脂微粉末(D)は、潤滑性能、特に60℃を越える温度域での潤滑性に効果があり、潤滑性能の安定化に必要である。フッ素樹脂微粉末としては、電気接点に異物として障害にならないことを考慮して、基油(A)成分100重量部に対して0.01重量部〜5.0重量部の範囲で用いる。フッ素樹脂微粉末の平均粒径は、0.05μm〜20μmであることが好ましい。
【0034】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、一般式RSH(Rは炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSRSH(Rは炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物(E)を含有する。このオルガノチオール化合物(E)は、耐硫化性を発揮する成分であり、耐硫化性、接触抵抗値の安定性などを考慮して、基油(A)成分100重量部に対して0.01重量部〜1.0重量部、好ましくは0.05重量部〜0.5重量部の範囲で用いる。
【0035】
オルガノチオール化合物のうち、一般式RSHで表わされるオルガノチオール化合物(オルガノメルカプタン)は、蒸気圧、接触抵抗の安定性などを考慮して、炭素数10〜20、好ましくは14〜18の範囲のものであることが好ましい。このようなオルガノメルカプタンの例としては、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタン、β−ナフタレンチオールなどが挙げられる。
【0036】
オルガノチオール化合物のうち、一般式HSRSHで表わされるオルガノジチオール化合物は、蒸気圧、接触抵抗の安定性などを考慮して、炭素数3〜16の範囲のものであることが好ましい。このようなオルガノジチオールの例としては、1,3−トリメチレンジチオール、1,4−テトラメチレンジチオール、1,5−ペンタメチレンジチオール、1,6−ヘキサメチレンジチオール、1,8−オクタメチレンジチオール、1,10−デカメチレンジチオールなどが挙げられる。
【0037】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、基油成分及び添加油成分を混合し、さらに増稠剤成分を混合し、そこにフッ素樹脂微粉末及びオルガノチオール化合物を加えて調合する。また、本発明の電気接点用潤滑組成物においては、本発明の効果を損なわない量的、質的範囲内で、他の添加物、例えば酸化防止剤などを混合しても良い。
【0038】
このように、本発明の電気接点用潤滑組成物は、電子機器などの機構部品の摺動電気接点、及びそれに近接する摺動部分に用いた場合に、基油と相溶性の異なる添加油により、基油により生成される油膜を破り易くさせているので、電気接点部の接触抵抗の安定化を図ることができ、フッ素樹脂微粉末により潤滑性能を発揮することができ、オルガノチオール化合物により耐硫化性を発揮することができる。また、各成分の含有量を調整することにより、接触抵抗の安定化や耐硫化性を損なわずに長期の作動耐久性を格段に向上させることができる。
【0039】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、部とあるのはいずれも重量部を表し、粘度は断りが無い限り25℃における値を示す。また、最終的に粘度を合わせ込むのではなく、添加量を維持したため、仕上がった潤滑組成物の粘度は実施例毎に違いがある。
【0040】
(実施例1)
基油として粘度5,000cStのポリジメチルシリコーンオイル100重量部に対して、これと相溶性の異なる添加油として、低粘度(50cSt)のメチルフェニルシリコーンオイル10重量部を加えて調整した。この油にシリカ粉3重量部でまず増粘した後、添加剤としてフッ素樹脂微粉末0.5重量部、ステアリルメルカプタン0.05重量部を加えて、最後に三本ロールでグリース様になるまで練り仕上げた。このようにして実施例1の電気接点用潤滑組成物を得た。なお、シリカ粉/添加油の重量比は0.3であった。また、各成分の重量比は下記表1に示す。
【0041】
実施例1の電気接点用潤滑組成物について、初期接触抵抗、初期作動力、作動寿命、硫化特性を調べた。その結果を下記表2に示す。作動寿命は、電気接点用潤滑組成物を4回路のプッシュスイッチの接点に薄く塗布して試験し、動作回数1万回、10万回の時点での接触抵抗値、ノイズ及び作動力の値で判定した。作動寿命については、スイッチを毎分約30回動作する専用試験装置で動かした。また、接触抵抗の測定は、YHP社ミリオームメーター4338Bを用いた。また、ノイズは5V、500μAでオシロスコープを用いてバウンス状態を測定した。
【0042】
作動力評価は初期の基準値に対して以下の内容である。
基準値<+ 10%:◎
基準値<+ 30%:○
基準値<+ 50%:△
基準値<+100%:×
基準値>+100%:××
【0043】
接触抵抗値、ノイズの評価は以下の内容である。
30mΩ以下かつノイズ無:◎
50mΩ以下かつノイズ無:○
100mΩ以下かつノイズ小:△
100mΩ以上かつノイズ小:×
100mΩ以上かつノイズ大:××
【0044】
また、電気接点用潤滑組成物について高温放置特性も調べた。すなわち電気接点用潤滑組成物を1回路のプッシュスイッチの接点に薄く塗布し、汎用の恒温槽において85℃の条件に250時間、500時間放置後の接触抵抗値、ノイズ及び作動力の値で判定した。
【0045】
作動力評価は初期の基準値に対して以下の内容である。
基準値<+ 10%:◎
基準値<+ 30%:○
基準値<+ 50%:△
基準値<+100%:×
基準値>+100%:××
【0046】
接触抵抗値、ノイズの評価は以下の内容である。
30mΩ以下かつノイズ無:◎
50mΩ以下かつノイズ無:○
100mΩ以下かつノイズ小:△
100mΩ以上かつノイズ小:×
100mΩ以上かつノイズ大:××
【0047】
硫化特性は、電気接点用潤滑組成物を4回路のプッシュスイッチの接点に薄く塗布し、山崎精機社製硫化試験機を用いて試験し、硫化水素1ppm、40℃、相対湿度70〜75RH%の環境に240時間放置した後の接触抵抗値と接点部の変色状態から判定した。判定の内容は以下の内容である。なお、変色の程度は目視の判断である。
50mΩ以下かつ変色軽微:◎
100mΩ以下かつ変色小:○
200mΩ以下かつ変色中:△
200mΩ以上かつ変色大:×
【0048】
(実施例2〜実施例8、比較例1〜比較例7)
下記表1に示す各成分を所定の配合量で配合し、三本ロールでグリース様になるまで練り仕上げて実施例2〜実施例8、比較例1〜比較例7の電気接点用潤滑組成物を得た。実施例2〜実施例8、比較例1〜比較例7の電気接点用潤滑組成物について、初期接触抵抗、初期作動力、作動寿命、硫化特性を調べた。その結果を下記表2に併記する。
【表1】

【表2】

【0049】
表2から分かるように、比較例1の電気接点用潤滑組成物は、初期接触抵抗や作動寿命が悪かった。これは、基油(A)と相溶性の異なる添加油(C)の量が少ないために、基油(A)により生成した油膜が切れにくくなっていたからであると考えられる。比較例2の電気接点用潤滑組成物は、作動寿命が短かった。これは、フッ素樹脂微粉末の添加量が多いので、電気接点に異物として障害になったためであると考えられる。比較例3の電気接点用潤滑組成物は、作動寿命が短かった。これは、オルガノチオール化合物の添加量が多いので、接触抵抗値が不安定になったためであると考えられる。比較例4の電気接点用潤滑組成物は、潤滑組成物として機能していなかった。これは、増稠剤に対する添加油の添加量が多いので、基油と添加油とが分離してしまったためであると考えられる。比較例5の電気接点用潤滑組成物は、作動寿命が短かった。これは、増稠剤に対する添加油の添加量が少ないので、基油により生成された油膜を効率良く破れなかったためであると考えられる。
【0050】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、電子機器などの機構部品(スイッチ、エンコーダー、位置センサなど)の摺動電気接点及びそれに近接する摺動部分に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基油としてポリジメチルシリコーンオイル100重量部と、
(B)増稠剤としてシリカ粉1.0重量部〜20重量部と、
(C)前記ポリジメチルシリコーンオイルと相溶性の異なる添加油1.0重量部〜15重量部と、
(D)フッ素樹脂微粉末0.01重量部〜5.0重量部と、
(E)一般式RSH(Rは炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSRSH(Rは炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物0.01重量部〜1.0重量部と、
を含有することを特徴とする電気接点用潤滑組成物。
【請求項2】
前記シリカ粉と前記添加油との間の重量比が1:5以下であることを特徴とする請求項1記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項3】
前記ポリジメチルシリコーンオイルは、25.0℃における粘度が500cSt〜10,000cStであるポリジメチルシリコーンオイルの1種又は複数種の混合油であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項4】
前記シリカ粉がフュームドシリカであり、比表面積が50m/g〜300m/gであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項5】
前記添加油が平均組成式RSiO(4−a)/2(Rは置換又は非置換の1価の炭化水素基であり、aは1.9〜2.7の数であり、分子中におけるケイ素原子1個あたりの平均値を示す)で表わされるポリオルガノシリコーンオイル1種又は複数種の混合油であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項6】
前記添加油がポリオルガノシリコーンオイルであり、25.0℃における粘度が10cSt〜500cStであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項7】
前記ポリオルガノシリコーンオイルがアルキル変性シリコーンオイルであることを特徴とする請求項6記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項8】
前記添加油がフッ素系油であり、98.9℃における粘度が1cSt〜50cStであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項9】
前記添加油が脂肪族炭化水素系油であり、98.9℃における粘度が1cSt〜20cStであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項10】
前記オルガノチオール化合物が炭素数10〜20のオルガノメルカプタンであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。

【公開番号】特開2010−195958(P2010−195958A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43758(P2009−43758)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】