説明

電気泳動ゲルカセット及びコーム

カセットと、少なくとも1つのくさび形歯を有するコームとを備えたゲル電気泳動用装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、先願の米国特許仮出願第61/237,287号(2009年8月26日出願)、第61/237,195号(2009年8月26日出願)、第61/236,795号(2009年8月25日出願)、及び第61/236,293号(2009年8月24日出願)から35 U.S.C. §119(e)の利益を主張するものであり、それらの内容を参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
本発明は、ゲル消耗品に関する。
【背景技術】
【0003】
ゲル電気泳動は、DNA、RNA、ポリペプチド、及びタンパク質のような生体分子を分離するための一般的な手順である。ゲル電気泳動において、該分子は、かけられた電場により分子がフィルタリングゲル中を移動する速度によって、バンドに分離される。
【0004】
この技術において用いられる基本的なユニットは、ガラスチューブに封入されたゲル、又はガラス若しくはプラスチックプレート間にスラブとして挟まれたゲルから構成される。ゲルは、オープンモレキュラーネットワーク構造を有し、電気伝導性の緩衝化溶液で飽和されている細孔を規定している。これらの細孔は、移動する高分子がゲルを通過するのに十分に大きい。
【0005】
ゲルは、チャンバー中にバッファー溶液と接触するように置かれ、ゲルと電力供給源のカソード又はアノードとの間を電気的に接触させる。高分子及び追跡用色素を含有するサンプルが、ゲルの上に置かれる。電位をゲルに印加すると、サンプルの高分子及び追跡用色素は、ゲルの底辺に向かって移動する。電気泳動は、追跡用色素がゲルの末端に到達する直前に停止する。次いで、分離された高分子のバンドの位置を測定する。追跡用色素及びサイズが既知の高分子と比べて、特定のバンドが移動した距離を比較することによって、他の高分子のサイズを測定することができる。
【0006】
ポリアクリルアミドゲルが、一般的に電気泳動に使用される。電気泳動に好適な他のゲルとしては、アガロースゲル及びデンプンゲルがある。ポリアクリルアミドゲル電気泳動、言い換えればPAGEが一般的である。なぜなら、このゲルは、光学的に透明で、電気的に中性であり、そして孔径の範囲に応じて作製され得るからである。
【0007】
PAGEゲルの作製方法は周知である。B. Hames and D. Rickwood, Gel Electrophoresis of Proteins (2d ed. Oxford University Press, 1990);A. Andrews, Electrophoresis (2nd ed. Oxford University Press, 1986)を参照されたい。一般的に、アクリルアミドモノマー、ビスアクリルアミドなどの架橋剤、ゲルバッファー、及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの変性剤(modifying agent)を含有するストック溶液を準備する。これらのストック溶液は、ゲルが必要とされるまで保存することができる。ゲルを作製するためには、ストック溶液を、種々の構成要素の最終的な所望濃度に応じた比率で水と混合する。
【0008】
電気泳動ゲルのための型を作製するために、典型的にはガラスが使用されている。しかしながら、ガラスは、脆く、特定の形状への成形が難しく、高価であるという欠点を有している。射出成形などのプロセスによりプラスチック材料からゲル型を形成することがより簡便で経済的である。しかし、電気泳動ゲルを鋳造するためのプラスチック型の使用は、分離した高分子バンドの分解能の低下の原因となる可能性がある。高分子バンドの分解能低下は、ゲルの内部よりも型と接触したゲルの表面上で高分子がより速く移動することに起因しうる。ゲル表面と内部との移動速度のばらつきは、高分子バンドの不鮮明化をもたらす可能性がある。
【0009】
ゲル内で起こりうる分解能の低下に加えて、現在のゲル(例えばSDS-PAGEゲル)の作製及び実施のための方法の別の欠点は、ゲルの使用が、ゲルにローディング可能なサンプル量に制限されるということである。より多量のサンプルをゲルにアプライできる能力を有することが望ましい。従って、より厚みの増したゲルを作製し、又はゲルの厚みが増すのと比例してウエル容量が増大するウエルを有するゲルを製造することが望まれている。しかし、これにより所定の電界強度のために比例的に大きな電流を必要とするゲルが生じる。所定の電界強度のための大きな電流は、ゲル内で生じる高熱につながり、これはまた分解能及び性能の低下をもたらしうる。厚みのあるゲルにより生じる別の問題は、下流の用途、例えばウエスタンブロッティングにおいて、タンパク質バンドがより非効率的にトランスファーされることである。
【0010】
ゲル中のサンプル容量を増大させるための1つの解決策は、特定の幅及びゲル厚みのウエルの深さを増すことである。しかし、容量の増大は、ゲルを超えたサンプル高さの増大を生じ、より厚みのあるタンパク質バンド開始ゾーンと低い分解能に至る。積層ゲル高さが比例的に増加した場合、続いて、分解ゲル長さは比例的に低下し、また所定のゲルカセット内の分解能の低下の原因にもなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、現在の方法のウエル容量の少なくとも2倍のサンプル容量を保持することができるウエルを有し、一方で、特定の幅及び厚みの標準的なウエルと同じゲル超サンプル高さを維持する、特定の厚さのゲルを製造することが可能なゲルカセットを開発することが有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書では、ゲルカセットと、少なくとも1つのくさび形歯を有するコームとを備えたゲル電気泳動用装置が提供される。いくつかの実施形態では、上記ゲルカセットは、保持板及び仕切り板を含んでいてよい。上記ゲルカセットは、上記仕切り板又は保持板の少なくとも1つの外側面から延びるへりを含む。いくつかの実施形態では、上記くさび形歯は、少なくとも40μLの容量を有する。いくつかの実施形態では、上記カセットは、少なくとも1つの内側面を備えており、該内側面はコーティングで被覆されていてもよい。いくつかの実施形態では、上記コーティングは、酸素干渉コーティング、例えば、SiO又はSiO2の少なくとも1つである。いくつかの実施形態では、上記コームは、該コームに陥凹部を含み、該陥凹部は、ゲル形成中にゲル内の皮膜(skin)の形成を防止するように設計されている。
【0013】
さらに本明細書では、1mmゲル内にサンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有するコームを備えたゲル電気泳動用装置であって、該サンプルウエルの大きさが、標準コームによって形成されるサンプルウエルを有するゲルより少なくとも10%大きいものである、上記ゲル電気泳動用装置が提供される。
【0014】
本明細書では、1mmゲル内にサンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有するコームを備えたゲル電気泳動用装置であって、該サンプルウエルの大きさが、標準コームによって形成されるサンプルウエルを有するゲルより少なくとも100%大きいものである、上記ゲル電気泳動用装置が提供される。いくつかの実施形態では、標準ミニゲル10歯コームによって形成されるサンプルウエルは、37.5μLの容量を有する。
【0015】
さらに本明細書では、1mmゲル内にサンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有する10歯ミニゲルコームを備えたゲル電気泳動用装置であって、該サンプルウエルが少なくとも70μLの容量を有する、上記ゲル電気泳動用装置が提供される。
【0016】
サンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有するコームを備え、該サンプルウエルが、標準ゲルサンプルウエルより少なくとも10%多いサンプルを受容するように設計されている、上記ゲル電気泳動用装置が提供される。いくつかの実施形態では、上記装置は、鮮明なバンドを有するゲルを形成するように設計されている。いくつかの実施形態では、上記装置は、高分解能を有するゲルを形成するように設計されている。
【0017】
本明細書では、ゲルカセットの少なくとも1つの外側面からある角度を成して延びるへりを有する該ゲルカセットと、少なくとも1つのくさび形歯を有するコームとを備えたゲル電気泳動用装置が提供される。
【0018】
さらに本明細書では、キャビティーを有するゲルカセットと、コームと、コーム上に設けられる少なくとも1つの歯とを備えたゲル電気泳動用装置であって、少なくとも1つの歯の少なくとも片側が傾斜しており、少なくとも1つの歯は、上記キャビティーの縁から少なくとも0.335インチの地点に位置する、上記装置が提供される。
【0019】
本明細書では、サンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有するコームを備え、該サンプルウエルが、標準ゲルサンプルウエルより少なくとも10%多いサンプルを受容するように設計されている、上記ゲル電気泳動用装置が提供される。いくつかの実施形態では、上記装置は、鮮明なバンド若しくは高分解能のバンド又はその両方として、所望の成分を分離するゲルを形成するように設計することができる。
【0020】
参照による組み込み
本明細書に記載するすべての刊行物、特許、及び特許出願は、個々の刊行物、特許、又は特許出願が各々明示的かつ個別に、参照により組み込まれることが示されているのと同程度に、参照により本明細書に組み込むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本教示内容の様々な実施形態による組立てゲルカセットの実施形態を示す図である。
【図2A】本教示内容の様々な実施形態による仕切り板の実施形態を示す図である。
【図2B】本教示内容の様々な実施形態による保持板の実施形態を示す図である。
【図3】本教示内容の様々な実施形態による組立てゲルカセットの実施形態を示す図である。
【図4】本教示内容の様々な実施形態によるカセットの実施形態及びコームの実施形態を示す図である。
【図5A】コームの実施形態の様々な面を示す。
【図5B】コームの実施形態の様々な面を示す。
【図5C】コームの実施形態の様々な面を示す。
【図6】ゲルの画像を示す図である。
【図7】2つの異なるゲルタイプから得られた結果の比較を示す図である。
【図8A】本教示内容の様々な実施形態による単一ウエルコームの側面図である。
【図8B】本教示内容の様々な実施形態による単一ウエルコームの断面図である。
【図8C】本教示内容の様々な実施形態による単一ウエルコームの底面図である。
【図9A】本教示内容の様々な実施形態の9ウエルコームの側面図である。
【図9B】本教示内容の様々な実施形態の9ウエルコームの断面図である。
【図9C】本教示内容の様々な実施形態の9ウエルコームの底面図である。
【図10A】本教示内容の様々な実施形態の10ウエルコームの側面図である。
【図10B】本教示内容の様々な実施形態の10ウエルコームの断面図である。
【図10C】本教示内容の様々な実施形態の10ウエルコームの底面図である。
【図11A】本教示内容の様々な実施形態の12ウエルコームの側面図である。
【図11B】本教示内容の様々な実施形態の12ウエルコームの断面図である。
【図11C】本教示内容の様々な実施形態の12ウエルコームの底面図である。
【図12A】本教示内容の様々な実施形態の15ウエルコームの側面図である。
【図12B】本教示内容の様々な実施形態の15ウエルコームの断面図である。
【図12C】本教示内容の様々な実施形態の15ウエルコームの底面図である。
【図13A】本教示内容の様々な実施形態の17ウエルコームの側面図である。
【図13B】本教示内容の様々な実施形態の17ウエルコームの断面図である。
【図13C】本教示内容の様々な実施形態の17ウエルコームの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の新規な特徴のいくつかを特許請求の範囲に詳細に記載する。本発明の特徴及び利点については、本発明の原理が使用される例示的実施形態を記載する以下の詳細な説明、並びに添付の図面を参照にして、さらに明瞭に理解されるであろう。
【0023】
本明細書では、ゲルカセットと、少なくとも1つのくさび形歯を有するコームとを備えたゲル電気泳動用装置が提供される。該ゲルカセットは、保持板及び仕切り板を含んでいてよい。上記板は、射出成型などの方法によって形成することができる。任意の好適なプラスチックを用いて上記板を形成することができ、例示の目的でのみ挙げると、ポリマー、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルポリプロピレン、及び酢酸セルロース又は各種コポリマーがある。いくつかの実施形態では、上記プラスチックは、組立てカセット内部のゲルが見えるように、透明なプラスチックであってもよい。いくつかの実施形態では、上記カセットは、ガラスプレートから構成してもよいし、あるいは1枚のガラスプレートと1枚のプラスチックプレートから構成してもよい。いくつかの実施形態では、上記装置は、各種プレート表面上に平らに延びるプレキャストゲルを形成するように設計してもよい。平らに延びるプレキャストゲルを形成する能力は、製品の出荷及び貯蔵について、並びにユーザーによる日常の取り扱いに際して、有益であろう。さらに、本ゲルカセットは、ゲル製造中に、オートローディング機械内で平らにすることができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、上記仕切り板は、該板両側の長さ、該板底部の長さのいずれか、又は該板の両側及び底部の両方に沿って位置する一続きの特徴、すなわち突起、若しくはポストを有する。該ポストは、板の周囲に均一のシールを形成するために、組立てプロセス中にエネルギー方向制御器として機能しうる。いくつかの実施形態では、上記仕切り板の底部分にスロットを配置してもよく、またいくつかの実施形態では、スロットは、上記板の厚みにまで延びるものでものいし、延びないものでもよい。該スロットは、上記カセット内部でゲルをバッファー、例えばアノードバッファーに暴露することによって、電気泳動中の電気回路を完成する、又は完成を助けることができる。ゲルの形成中、上記スロットは、シーラント、例えばテープ、エポキシ樹脂、ポリマー、導電性ポリマー又はその他の好適なシーラントでシールすることにより、ゲルの硬化前に組立てカセットからゲル材料が漏れるのを防ぐことができる。いくつかの実施形態では、仕切り板は、リッジを含んでいてもよく、該リッジは、保持板上のスペーサーと一緒にゲルキャビティーを形成する。いくつかの実施形態では、上記シーラントは、カセットの組立て前に仕切り板に存在していてもよいし、あるいは、該シーラントは、組立てカセットにゲル材料を充填する前にユーザーが組立てカセット上のスロットに塗布してもよい。ゲルが形成された後、非導電性シーラントを用いた場合には該シーラントを除去することにより、ゲルをバッファーに暴露させて、電気回路を完成する、又は完成を助けることができる。上記仕切り板の上部において、上部面は、組立てカセットの取り扱いを容易にするために、取っ手又は曲面を含んでいてもよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、上記板の少なくとも1つ、例えば、保持板は、その内側面に位置するスペーサーを有していてもよい。該スペーサーは、任意の好適な形状のスペーサー、例えば、内側面に位置する、ほぼU字型の上方に延びるスペーサーであってよい。いくつかの実施形態では、上記スペーサーは、1枚の板の内側面に配置して、他方の板の内側面と接触させてもよい。いくつかの実施形態では、スペーサーは、両板の内側面にそれぞれ配置してもよく、カセットが形成されると、2つのスペーサーが互いに接触するようにしてもよい。上記スペーサー(1又は複数)は、仕切り板と保持板を一緒に組み立ててカセットを形成すると、両板同士の間に隙間を維持するのを助ける役割も果たしうる。上記保持板と仕切り板を一緒に組み立てる場合、これら板の内側面は、スラブ形状をしたキャビティーを形成するが、このキャビティーは、上に延びるスペーサーによってシールすることができる。いくつかの実施形態では、仕切り板に位置するリッジが、該仕切り板と保持板との間にシールを形成する。いくつかの実施形態では、上記スペーサー及びリッジの両方がゲルキャビティーをシールする。いくつかの実施形態では、上記保持板及び仕切り板は、プラスチック製の単一部品として製造してもよい。いくつかの実施形態では、上記保持板及び仕切り板は、2つの個別部品であってもよく、これらを一緒に連結する。これら2つの個別部品は、板同士を結合する任意の好適なメカニズムによって互いに連結することができ、このようなメカニズムとして例示の目的でのみ挙げると、接着剤、圧力固定、溶接、粘着剤、クランプ、クリップ、又はその他任意の好適なメカニズムがある。キャビティーの厚みは、スペーサーの高さによって決定することができる。いくつかの実施形態では、上記仕切り板と保持板によって形成されるキャビティーは、厚さ約1mmのゲルを形成することが可能なゲル材料を保持することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、へりが上記板の1つの外側面からある角度を成して延びることにより、開口部を形成してもよい。ゲル材料を該開口部からカセットに入れることができる。さらに、ゲル内にサンプルウエルを形成する構造を、上記開口部からゲル材料に導入してもよい。いくつかの実施形態では、上記へりは、板の1つの外側面からある角度を成して、例えば該板の外側面に対して直角の面から約70度の角度で、又は該板の表面から20度の角度で延びるものであってもよい。いくつかの実施形態では、上記角度は、約15度〜約25度、約10度〜30度、約5度〜35度、又はその他任意の好適な角度であってよい。いくつかの実施形態では、上記へりは、上記板の外側面から約45度未満の角度で延びるものであってもよい。突起部を上記保持板の外側面に配置して、上記へりを支持することもできる。いくつかの実施形態では、該突起部はまた、溶接済みカセットを倉庫内で積み重ねるのを容易にしうるため、製造プロセスを補助する。いくつかの実施形態では、組立てカセットは、少なくとも片側に少なくとも1つのへりを有して、ゲル内にウエルを形成するためのコームを収容することができる開口部を形成する。ここで上記コームは、本明細書に記載するコームのいずれかのように、くさび形の形状をしている。いくつかの実施形態では、へりを上記開口部の両側に配置してもよく、このとき、コームのV字型の歯を収容するようにV字型の開口部を形成する。いくつかの実施形態では、上記カセットの開口部は、両側が平坦な開口部を有していてもよいが、該開口部は、板の面の1つから延びるへりを必要とせずに、コームのくさび形歯又はV字型歯を収容するのに十分な幅を有する。
【0027】
本装置のいくつかの実施形態では、上記カセットは、少なくとも1つの内側面を有し、該内側面はコーティングで被覆されていてもよい。該コーティングは、酸素干渉コーティング(プラスチックプレートの表面からゲルへの拡散を低減して、酸素拡散速度の有意な局部的変動を防止する酸素遮断層を形成するコーティング)であってよく、例示の目的でのみ挙げると、例えばSiOx、SiO、又はSiO2を含むコーティングがある。いくつかの実施形態において、上記コーティングは、実質的に透明であってよい。上記内側面は、手で、又は機械的にコーティングしてよく、2つの個別板がカセット内に形成されるいくつかの実施形態では、両板をカセットに組み立てる前又はその後に、コーティングを実施することができる。いくつかの実施形態では、上記カセットの内側面は、蒸発(evaporation)若しくは蒸着(vapor deposition)、スパッター蒸着、化学蒸着、プラズマ促進化学蒸着、又はこれらの組合せを用いて真空下でコーティングすることができる。いくつかの実施形態では、付着させるコーティングは、厚さが約5,000Å未満の厚さのものとすることができる。
【0028】
ゲルの調製中に、上記仕切り板のスロットをシールしてもよい。該スロットは、任意の好適なシーラント、例えばテープ、エポキシ樹脂、接着剤、ポリマー化合物、又はその他任意の好適なシーラントでシールすることができる。該シーラントは、導電性シーラントであってもよいし、導電性でなくてもよい。いくつかの実施形態では、シーラントは、パーマネントシーラント又は除去可能なシーラントのいずれでもよい。スロットをシールした後、カセットを鉛直方向に保持することができ、ゲル形成混合物を、開口部から、保持板と仕切り板との間に形成されるキャビティー中に流し込む。ゲル混合物は、仕切り板及び保持板の内側面と接触していてもよい。
【0029】
本明細書では、1mmゲル内にサンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有するコームを備えたゲル電気泳動用装置であって、該サンプルウエルの大きさが、標準コームによって形成されるサンプルウエルを有するゲルより少なくとも約10%大きい、上記装置がさらに提供される。いくつかの実施形態では、標準コームによって形成されるサンプルウエルの大きさは、37.5μLである。いくつかの実施形態では、くさび形ウエルコームによって形成されるサンプルウエルの大きさは、少なくとも41μLであってよい。いくつかの実施形態では、くさび形ウエルによって形成されるサンプルウエルの大きさは、少なくとも約50μL、少なくとも60μL、少なくとも約70μL、少なくとも約75μLであってよい。
【0030】
本明細書では、サンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有するコームを備えたゲル電気泳動用装置であって、該サンプルウエルが、標準ゲルサンプルウエルより少なくとも約10%多いサンプルを受容するように設計されている、上記装置がさらに提供される。サンプルの容量が増すことによって、ゲルに損傷を引き起こすことなく、より多くのサンプルをゲルにローディングすることができ、しかも鮮明かつ高分解能のバンドを変わらずに生成することが可能になる。さらには、サンプルウエル開口部が大きいことから、特殊な抜取りゲルローディング用ピペットチップではなく、標準ピペットチップを用いてサンプルをローディングするのを容易にすることができる。
【0031】
ゲルを形成するためのゲル材料を組立てカセットの開口部に流し込んだ後、コームを組立てカセットの開口部に、そしてゲル材料へと挿入することができる。コームの挿入の深さは、コームの縁と、カセットに設けられた開口部の肩部によって限定することができる。いくつかの実施形態では、コームの挿入深さは、へりの前縁に位置するコームによってさらに限定することができる。ゲルが成形されたら、上記コームを取り出すことができ、ゲルには各歯の位置に空隙が残る。各空隙は、サンプル容量を有するサンプルウエルを形成する。
【0032】
いくつかの実施形態では、上記コームは、くさび形歯を有することができる。くさび形歯を有するコームは、ゲルにくさび形ウエルを形成することができる。いくつかの実施形態では、くさび形歯は、歯の先端に平坦な面を有する。歯の平坦な底面は、平坦な底面を有するサンプルウエルを形成する。サンプルウエルの平坦な底面は、積層されたサンプルバンドの前縁となり、これは最終的に、標準コームによって形成されるバンドと同様に平坦で、しかもこれらのバンドと類似したバンドに分離しうる。くさび形歯を備える上記コームのゲル材料への挿入によって形成されるくさび形ウエルは、サンプルウエルの上部においてウエルにより大きい開口部を賦与することができ、これによって、単一ピペット又はマルチチャンネルピペットの標準ピペットチップを用いてウエルに容易に到達することが可能になる。さらに、くさび形ウエルは、より多量のサンプルをより薄いゲル(例えば、厚さ約1mmのゲル)にローディングすることも可能にする。上記コームは、本明細書で既述したカセットのいずれと一緒に用いてもよいし、又はゲルを形成するための任意の他の好適なカセットと一緒に用いてもよい。
【0033】
くさび形歯によって形成される、ゲル内のくさび形ウエルは、標準コームを用いて形成されるウエルの容量より少なくとも10%大きい容量となりうる。いくつかの実施形態では、標準コームは、約37.5μLの容量を有するウエルを形成しうる。いくつかの実施形態では、くさび形ウエルは、標準コームを用いて形成されるウエルより少なくとも20%大きい、少なくとも50%大きい、少なくとも100%大きい、少なくとも150%大きい、少なくとも175%大きい、少なくとも200%大きい、少なくとも250%大きい容量を有しうる。いくつかの実施形態では、くさび形ウエルコームによって形成されるサンプルウエルの大きさは、少なくとも41μLとなりうる。いくつかの実施形態では、くさび形ウエルによって形成されるサンプルウエルの大きさは、少なくとも約45μL、少なくとも約55μL、少なくとも60μL、少なくとも約70μL、少なくとも約75μL、少なくとも90μL、少なくとも約100μL、少なくとも約110μL、少なくとも約130μLである。
【0034】
さらに、くさび形ウエルは、エッジ効果を軽減すると同時に、電気泳動中のバンドの鮮明度及び分解能を維持又は改善しながら、より多量のサンプルをローディングすることを可能にする。くさび形歯コームの歯によって形成されるウエルのくさび形設計は、ゲルの両側にサンプルを近づけないようにしながら、より多くのサンプルをウエルにローディングすることを可能にする。ゲルの末端に向かって位置するサンプルは、鮮明なバンド、又は高分解能を有するバンドを形成しない可能性がある。前記のような位置へのウエルの配置によって、ゲルに形成されるバンドが、バンドの末端で上方に折り返す、すなわち「スマイルの形(smile)」になる可能性、又はバンドの縁で下方に折り返す、すなわち「しかめっ面の形(frown)」になる可能性が減少する。さらに、本明細書に記載の装置を用いて形成されるくさび形ウエルは、サンプルウエルの底部と比較してサンプルウエルの上部の方が大きな断面積を有する。断面積が増加するため、任意の所与の定電圧、電流又はワット数で、サンプルウエルの底部と比較してサンプルウエルの上部の方が、低い電圧降下を形成する。この領域での低い電圧降下、すなわち低い電界強度は、ウエル及び/若しくはゲルの断面が薄い箇所、又はサンプルのローディング量全体を通じて同じ厚さのウエルを有するゲル、より優れたサンプル積層をもたらしうる。
【0035】
いくつかの実施形態において、上記ゲルカセットは、ミニゲルカセットの場合、約10cm x 10cmである。ゲルカセット内に収容されるゲルは、長さ(泳動長さ)約7cm x幅約8cmである。ゲルカセット及び該ゲルカセット内のゲル泳動は、任意の好適な長さであってよい。いくつかの実施形態では、該ゲルカセットの幅は、少なくとも10個のウエルを有するゲルにおけるエッジ効果を軽減するのに十分大きいものでよい。いくつかの実施形態では、組立てカセットは、カセットの外周囲の周りに延びる隙間を含んでいてもよい。該隙間は、ゲル取出しのためのカセットの開口を容易にすることができる。いくつかの実施形態において、上記ゲルカセットは、ゲルナイフで開いてもよいし、手で開いてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、コームは、10歯コーム、すなわち、ゲルに10個のサンプルウエルを形成するのに用いられるコームであってよい。いくつかの実施形態では、上記コームは、少なくとも単一歯のコーム、少なくとも2歯のコーム、少なくとも5歯のコーム、少なくとも7歯のコーム、少なくとも9歯のコーム、少なくとも10歯のコーム、少なくとも12歯のコーム、少なくとも15歯のコーム、少なくとも17歯のコーム、少なくとも20歯のコーム、あるいは好適な数の歯を有するその他任意のコームであってよい。いくつかの実施形態では、該コームは、任意の好適なプラスチックから成形することができ、こうしたプラスチックとして、限定するものではないが、ポリマー、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルポリプロピレン、酢酸セルロース、コポリマー、ポリカーボネート、又はその他任意の好適な材料がある。いくつかの実施形態では、歯の寸法は、コームの長さに沿って均一であってもよいし、あるいは、該歯は、コームの長さに沿って様々な寸法を有していてもよい。歯は、カセットのくさび形開口部と同じ形状であってもよいし、又は同じ形状でなくてもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、歯と反対側のコームの縁は、カセットへのコームの挿入及び該カセットからのコームの取出しを容易にすることができるハンドルとして機能しうる。いくつかの実施形態では、上記縁は湾曲していてもよい。上記コームは、裏面と表(おもて)面をさらに含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、表面及び裏面は一体(solid)である。いくつかの実施形態では、上記コームの表面は、陥凹空隙を有し、これは、ユーザーによるコームのつかみを容易にして、ユーザーによるカセットへのコームの挿入、並びに、ゲル及びウエルが形成された後のカセットからのコームの取出しを容易にする。
【0038】
I.カセット
図1は、組立てゲルカセット100の実施形態を示す。組立てゲルカセット100は、2つのプラスチックプレート、すなわち保持板104と仕切り板102とを含む。これらの板は、射出成型などの方法によって形成することができる。任意の好適なプラスチックを用いて上記板102、104を形成することができる。電気泳動ゲル型を形成するのに適したプラスチックとしては、ポリマー、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルポリプロピレン、及び酢酸セルロース、又は各種コポリマーがある。いくつかの実施形態では、上記プラスチックは、組立てカセット100内部のゲルが見えるように、透明なプラスチックであってもよい。いくつかの実施形態では、上記カセット100は、ガラスプレートから構成されていてもよいし、あるいは1枚のガラスプレートと1枚のプラスチックプレートから構成されていてもよい。
【0039】
図2Aを参照にして、内側面206を有する仕切り板202の一実施形態を示す。いくつかの実施形態では、上記仕切り板は、板204の両側の長さ、及び該板の底部の長さに沿って位置する一続きの特徴、すなわち、突起若しくはポスト240を有する。上記ポスト240は、仕切り板202から突出していてもよく、仕切り板202を保持板(図2Bの204)に取り付けると、ポスト240が保持板と連結するようにしてもよい。図2Aに示すように、仕切り板202は、仕切り板202の両側を下方に延び、その底部を横断するリッジ241をさらに含んでいてもよい。該リッジは、組立てカセット上のゲルキャビティーをシールするのに用いることができる。いくつかの実施形態では、仕切り板202の底部分にスロット214を配置してもよく、またいくつかの実施形態では、該スロットは、板204の厚さにまで延びるものでもよいし、延びないものでもよい。スロット214は、上記カセット内部でゲルをバッファー、例えばアノードバッファーに暴露することにより、電気泳動中の電気回路を完成するか、又は完成を助けることもできる。上記板の裏面には、溝242が存在しても、存在しなくてもよい。さらに、カットアウト244、246を板の裏面248に設けることにより、上記スロットを塞ぐ一切のシーラントの除去を容易にすることが可能である。仕切り板202の上部において、上部面252は、図2Aに示すように、取っ手又は曲面を含んでいてもよく、これによって組立てカセットの取り扱いを容易にする。
【0040】
図2Bは、内側面208を有する保持板204の実施形態を示す。いくつかの実施形態では、保持板204は、ほぼU字型に上に延びるスペーサー210を備えていてもよく、該スペーサーは、保持板の内側面208に位置し、該内側面は仕切り板202と接触していてもよい。U字型スペーサー210はさらに、保持板204と仕切り板202が一緒に組み立てられてカセットを形成すると、両板同士の間隔を決定するのを助ける、又は両板同士の隙間を維持する役割も果たしうる。上記仕切り板202と保持板204が一緒に組み立てられると、両板の内側面206、208は、スラブ形状をしたキャビティーを形成するが、このキャビティーは、上に延びるスペーサー210によって境界される。組立ての間、スペーサー210、仕切り板204のリッジ241(図2B)のいずれか、又はスペーサー210及びリッジ241の両方がキャビティーをシールすることができる。キャビティーの厚さは、U字型スペーサー210の高さによって決定される。いくつかの実施形態では、仕切り板202と保持板204によって形成されるキャビティーは、厚さ1mmのゲルを形成することが可能なゲル材料を含み、閉じ込めることができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、へり216が、板の1つの外側面からある角度を成して延びて、例えば図2Bに示すように保持板204の外側面217から開口部を形成する。上記へりは、さらに第1肩部236及び第2肩部238のそれぞれと、前縁258を含む。突起部254、256を保持板の外側面217に配置して、へり216を支持することもできる。いくつかの実施形態では、突起部254、256は、溶接済みカセットを倉庫内で積み重ねるのを容易にし、製造プロセスを促進する。いくつかの実施形態では、組立てカセットは、少なくとも片側に少なくとも1つのへり216を有していてもよく、これにより、ゲルにウエルを形成するためのコームを収容することができる開口部を形成する。ここで上記コームは、本明細書に記載するコームのいずれかのようなくさび形をしている。いくつかの実施形態では、へりは上記開口部の両側に位置してもよく、この場合、V字型の開口部を形成する。
【0042】
保持板304と仕切り板302から形成される組立てカセット300を図3に示す。保持板304と仕切り板302を組み立てることによって形成される開口部312は、組立てカセット300の上部に配置してよい。いくつかの実施形態では、保持板304と仕切り板302によって形成される開口部312は、片側が平坦であるのに対し、該開口部の反対側は、組立てカセットの開口部がくさび形の歯又はV字型の歯を有するコームを受容することができるように設計されている。
【0043】
いくつかの実施形態では、保持板304及び仕切り板302は、プラスチック製の単一部品として製造してもよい。いくつかの実施形態では、保持板304及び仕切り板302は、互いに連結される2つの個別部品であってもよい。これら2つの個別部品は、板を結合するための任意の好適なメカニズムによって互いに連結することができ、このようなものとして例示の目的でのみ挙げると、接着剤、圧力固定、溶接、粘着剤、クランプ、クリップ、又はその他任意の好適なメカニズムがある。
【0044】
ゲルの調製中に、仕切り板302のスロット314をシールしてもよい。スロット314は、任意の好適なシーラント、例えばテープ、エポキシ樹脂、接着剤、ポリマー化合物、又はその他任意の好適なシーラントでシールすることができる。該シーラントは、導電性シーラントであってもよいし、導電性でなくてもよい。いくつかの実施形態では、シーラントは、パーマネントシーラント又は除去可能なシーラントのいずれでもよい。スロット314をシールした後、カセット300を鉛直方向に保持することができ、ゲル形成混合物を開口部312から、保持板304と仕切り板302との間に形成されるキャビティー362中に流し込む。ゲルが成形された後、電気回路を導電性シーラント材料によって形成してもよいし、あるいは、シーラントをカセットの外側から除去して、カセット内部のゲルをバッファー溶液に暴露することにより、電気回路を完成することもできる。
【0045】
ゲル混合物は、仕切り板302及び保持板304の内側面306、308とそれぞれ接触させることができる。いくつかの実施形態では、仕切り板302及び保持板304の内側面306、308をそれぞれコーティングしてもよい。いくつかの実施形態では、両板の内側面306、308の片面又は両面を、SiOxのような酸素干渉コーティング、例えば、SiO若しくはSiO2、又はこれらの任意の組合せあるいはその他任意の好適なコーティングで被覆することができ、こうしたコーティングは、プラスチック板の表面からゲルへの拡散を低減して、酸素拡散速度の有意な局部的変動を防止する酸素遮断層を形成することができる。プラスチック製ゲル型をコーティングするための方法は、米国特許第5,685,967号(その全文を参照により本明細書に組み込むものとする)に見出すことができる。いくつかの実施形態では、コーティングは実質的に透明であってもよい。内側面306、308は、手で、又は機械的にコーティングしてよく、カセットが2つの個別板から形成されるいくつかの実施形態では、両板をカセットに組み立てる前又はその後に、コーティングを実施することができる。いくつかの実施形態では、カセットの内側面306、308は、蒸発若しくは蒸着、スパッター蒸着、化学蒸着、プラズマ促進化学蒸着、又はこれらの任意の組合せを用いて真空下でコーティングすることができる。いくつかの実施形態では、付着させるコーティングは、厚さが約5,000Å未満の厚さのものとすることができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、ゲルカセットは、ミニゲルカセットの場合、約10cm x 10cmである。ゲルカセット内に収容されるゲルは、長さ(泳動長さ)約7cm x幅約8cmである。ゲルカセット及び該ゲルカセット内のゲル泳動は、任意の好適な長さであってよい。いくつかの実施形態では、組立てカセットは、カセット300の外周囲の周りに延びる隙間360を含んでいてもよい。隙間360は、ゲル取出しのためのカセットの開口を容易にすることができる。
【0047】
ゲルにサンプルをローディングした後、ウエルにサンプルを含むゲルカセットを電気泳動装置内に配置することができるが、該装置は、保持板及び仕切り板の外縁の間に液密シールを形成する。電気泳動装置に配置した後、電極バッファーをアノードタンク(シールした仕切り板の後ろに形成される)及びカソードタンク(シールした保持板の後ろに形成される)中に導入する。電圧を電気泳動装置に印加すると、カソードタンクからサンプルウエル及びゲルを通じてアノードタンクへとアニオンが流れるのに対し、カチオンが底部へと、アノードタンクから、ゲルを通じて流れる。ゲルカセットは、任意の好適な電気泳動装置又はシステムと一緒に用いることができ、このようなものとして、2009年8月26日に提出された米国特許仮出願第61/237,287号に記載のシステム(その内容は、全文を参照により本明細書に組み込むものとする)がある。
【0048】
II.コーム
図4に示すように、ゲル材料を組立てカセット400の開口部に流し込んだ後、コーム420を組立てカセットの開口部に挿入して、コームの歯がゲル材料の上部と接触するようにする。コーム420の挿入の深さは、コーム420のエッジ432、434と、カセット400に位置する開口部の肩部436、438によって限定することができる。いくつかの実施形態では、コーム420の挿入深さは、へり416の前縁458に位置するコーム420によってさらに限定することができる。ゲルを成形した後、上記コームを取り出すことができ、各歯の位置に空隙が残る。コームの歯によって形成される空隙が、ゲルにおけるサンプルウエルである。
【0049】
図5A〜5Cは、本明細書に記載するゲルカセットと一緒に用いられるコーム520の実施形態の様々な面である。いくつかの実施形態では、コーム520は、図5A〜5Cに示すように、くさび形歯522を有していてよい。くさび形歯522を有するコーム520は、ゲルにくさび形ウエルを形成することができる。くさび形歯を有するコームのゲルへの挿入によって形成されるくさび形ウエルは、ウエルの上部においてウエルにより大きい開口部を賦与することができ、これにより、単一ピペット又はマルチチャンネルピペットの標準ピペットチップを用いてより容易にウエルに到達することが可能になる。さらに、くさび形ウエルは、より多量のサンプルをより薄いゲル(例えば、厚さ約1mmのゲル)にローディングすることも可能にする。コーム520は、本明細書で既述したカセットのいずれと一緒に用いてもよいし、ゲルを形成するためのその他任意の好適なカセットと一緒に用いてもよい。
【0050】
くさび形歯によって形成される、ゲル内のくさび形ウエルは、標準コームを用いて形成されるウエルの容量より少なくとも10%大きい容量となりうる。いくつかの実施形態では、くさび形ウエルは、標準コームを用いて形成されるウエルより少なくとも20%大きい、少なくとも50%大きい、少なくとも100%大きい、少なくとも150%大きい、少なくとも175%大きい、少なくとも200%大きい、少なくとも250%大きい容量を有しうる。さらに、くさび形ウエルは、電気泳動中のバンドの鮮明度及び分解能を維持又は改善しながら、より多量のサンプルをローディングすることを可能にする。
【0051】
いくつかの実施形態では、コーム520は、図5A及び図5Cに示すように、9歯コームである。いくつかの実施形態では、該コームは、少なくとも単一歯のコーム、少なくとも2歯のコーム、少なくとも5歯のコーム、少なくとも7歯のコーム、少なくとも9歯のコーム、少なくとも10歯のコーム、少なくとも12歯のコーム、少なくとも15歯のコーム、少なくとも17歯のコーム、少なくとも20歯のコーム、あるいは好適な数の歯を有するその他任意のコームであってよい。いくつかの実施形態では、コームは、任意の好適なプラスチックから成形することができ、こうしたプラスチックとしては、限定するものではないが、ポリマー、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルポリプロピレン、酢酸セルロース、コポリマー、ポリカーボネート、又はその他任意の好適な材料がある。いくつかの実施形態では、歯の寸法は、コームの長さに沿って均一であってよく、あるいは、歯は、コームの長さに沿って様々な寸法を有していてもよい。歯522は、カセットのくさび形開口部と同じ形状であってもよいし、同じ形状でなくてもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、歯522の反対側に位置するコームの縁520は、湾曲した縁524であってよい。湾曲した縁524によって、カセットへのコーム520の挿入及び該カセットからの取出しを容易にすることができる。コーム520は、裏面526と表(おもて)面528をさらに含んでよい。いくつかの実施形態では、表面528及び裏面526は一体(solid)である。コーム520の裏面526は、仕切り板402(図4)の内側面406とぴったり重なっていてもよいし、コーム520の表面は、保持板404(図4に示す)のへり416の前縁458と一直線に並んでいてもよい。いくつかの実施形態では、コーム520の表面528は、陥凹空隙558を有し、これはコーム520の裏面526と一緒にコーム520のつかみを容易にすることにより、ユーザーによるカセットへのコームの挿入を容易にする。ゲル及びウエルが形成された後、陥凹空隙558はさらに、ユーザーによるカセットからのコーム520の取出しも容易にする。コームのいくつかの実施形態では、上記コームは、コームがカセットと接触するコーム裏面に陥凹部を有する。いくつかの実施形態では、陥凹部は、電気泳動ゲルのサンプルウエルにおける重合ゲル形成を阻止するのを助ける。陥凹部は、形状的に誘導される毛管力を排除することから、ゲル成形プロセス中に、サンプルウエルにおける「皮膜(skin)」の形成を防止する上で役立つ。さらに、陥凹部は、サンプルをウエルにローディングする際、ピペットチップによってサンプルウエルに一切のゲル材料が押し込まれるのを防止することにより、サンプルのローディングに問題がないようにする上で役立つ。
【0053】
図5A及び図5Cに示すように、いくつかの実施形態では、コーム520の歯522は、コームの最初と最後のウエルが、コームの縁から好適な距離を置いて位置するように製造することができる。コームの縁から好適な距離を置いて歯を配置することにより、ウエルがゲルの両側から好適な距離の地点に位置するゲルを形成することができ、これによって、バンドの質、分解能、及び鮮明度を高めることができる。こうしたウエルの配置によって、ゲルに形成されるバンドが、バンドの末端で上方に折り返す、すなわち「スマイルの形(smile)」になる可能性、又はバンドの縁で下方に折り返す、すなわち「しかめっ面の形(frown)」になる可能性、あるいは水平方向の真直度からそれて、斜めになる可能性が減少する。
【0054】
図5Bは、図5A及び図5Cに示すコーム520の断面を横から見た図である。図5Bに見られるように、くさび形歯522は、くさび形コーム522で形成されるウエルが、ゲルの上部末端で広く、かつウエルの底部末端で狭くなる、又は細くなるように、歯の長さ方向に傾斜している。ゲルに形成されるサンプルウエルの深さは、コームの先端からエッジ532までの歯522の傾斜部分の高さと同じ深さであり、傾斜面を有する歯同士の隙間によってさらに画定される。
【0055】
いくつかの実施形態では、くさび形歯の底面534は、約0.04cmの深さであってよい(矢印で示す)。いくつかの実施形態では、底面534は、約0.03インチ〜約0.05インチであってよい。歯535の上部は、約0.18インチであってよい。いくつかの実施形態では、歯535の上部は、約0.15〜約0.2インチであってよい。くさび形歯の少なくとも1つの表面533は、歯の底面と平行な平面から70度の角度を成して延びていてよい。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの表面533は、上記底面から約45度〜約90度の角度を成して延びていてよい。
【0056】
図8A〜図8Cは、本教示内容の様々な実施形態による単一ウエルコームの側面図、断面図、及び底面図であり、該構成に用いることができる様々な寸法(インチ)、及び角度を示す。図8Bは、図8Aに示す直線A−Aに沿って得られる断面図である。
【0057】
図9A〜図9Cは、本教示内容の様々な実施形態による9ウエルコームの側面図、断面図、及び底面図であり、該構成に用いることができる様々な寸法(インチ)、及び角度を示す。図9Bは、図9Aに示す直線A−Aに沿って得られる断面図である。
【0058】
図10A〜図10Cは、本教示内容の様々な実施形態による10ウエルコームの側面図、断面図、及び底面図であり、該構成に用いることができる様々な寸法(インチ)、及び角度を示す。図10Bは、図10Aに示す直線A−Aに沿って得られる断面図である。
【0059】
図11A〜図11Cは、本教示内容の様々な実施形態による12ウエルコームの側面図、断面図、及び底面図であり、該構成に用いることができる様々な寸法(インチ)、及び角度を示す。図11Bは、図11Aに示す直線A−Aに沿って得られる断面図である。
【0060】
図12A〜図12Cは、本教示内容の様々な実施形態による15ウエルコームの側面図、断面図、及び底面図であり、該構成に用いることができる様々な寸法(インチ)、及び角度を示す。図12Bは、図12Aに示す直線A−Aに沿って得られる断面図である。
【0061】
図13A〜図13Cは、本教示内容の様々な実施形態による17ウエルコームの側面図、断面図、及び底面図であり、該構成に用いることができる様々な寸法(インチ)、及び角度を示す。図13Bは、図13Aに示す直線A−Aに沿って得られる断面図である。
【実施例】
【0062】
III.実施例
2009年8月24日に提出された米国特許仮出願第61/236,293号(該文献はその全文を参照により本明細書に組み込むものとする)に記載されているように、標準NOVEX(登録商標)1.5mmミニカセット及びコームを用いて、また図1〜4及び図10A〜10Cにおける本明細書に記載の試験1.0mmくさびウエルカセット及びコームを用いて、4〜12%ゲルを成形した。NOVEX(登録商標)カセットにおけるゲルは、標準(平板)1.5nm、10ウエルコームを用いて作製した。試験カセットにおけるゲルは、10ウエルくさび形コームを用いて作製した。NOVEX(登録商標)カセットゲル及び試験カセットゲル各々の5レーンに、NuPAGE(登録商標)サンプルバッファーで希釈した5μLのMARK 12(商標)非染色標準液を最終量37.5μLまでローディングした。各ゲルの5レーンの各々に、37.5μLの希釈標準液をローディングして、ゲルにローディングした標準液の量を比較することにより、ゲルの性能を評価できるようにした。各ゲルを150mAで個別に泳動させた。くさび形ウエルのゲルは15分かけて泳動させ、1.5mmゲルは21分にわたって泳動させた。泳動の終了後、SIMPLY BLUE SAFESTAINを用いてゲルを染色して、フラットベッドスキャナーで画像化した後、NonLinear Dynamics Total Lab Software Version TL100を用いて分析した。このソフトウエアは、バンドの鮮明度を分析する目的で用いた。バンドの鮮明度は、ピーク発生の自動機能を用いて測定したが、ここで、上記ソフトウエアはピークの起点と終点を決定する。ピークの終点と起点との差は、バンドの鮮明度と相関しており、これをミリメートルで記録する。結果は、1.0mmくさび形ウエルゲルのバンド(図6A)が1.5mm標準ミニゲルのバンド(図6B)と同じくらい鮮明であることを示している。いくつかの実施形態では、サンプルは任意の好適な染料及び染色方法によって染色することができ、例えば、2008年5月16日に提出された米国特許出願第12/122,607号、2009年8月25日に提出された米国特許仮出願第61/236,795号に記載されているものがある。尚、両文献はその全文を参照により本明細書に組み込むものとする。
【0063】
図7は、希釈したMARK12標準液について1.5mmミニカセットゲル及び標準コームを用いた場合と、くさび形ウエルカセット及びコームを用いた場合のバンド鮮明度の比較を示す。MARK12標準液は、12のバンドを含むが、最初の10のバンドのみを各レーンについて分析するか、又は比較した。MARK12標準液のバンドのいくつかは、1.5mmゲルにおいて、特にゲルの縁で波状に見える。比較したバンドは、図6A及び図6Bに示す通りである。全5ウエル(n=5)を横断するバンドの鮮明度及び標準偏差をy軸に示し、バンドの位置をx軸に沿って示す。図7は、NOVEX(登録商標)カセットの使用と比較して、試験カセットを用いた方が、概して性能が高くなっていることを示している。
【0064】
本発明の好ましい実施形態を本明細書に示し、説明してきたが、これらの実施形態が例示目的で記載されていることは当業者には明らかであろう。当業者は、本発明を逸脱することなく、多数の改変、変更及び代用を実施可能であろう。本明細書に記載した本発明の実施形態の多様な変形は、本発明を実施するのに使用することができることを理解すべきである。以下に示す特許請求の範囲が本発明の範囲を定めるものとし、また、特許請求の範囲内の方法及び構造物並びにそれらの同等物は本発明の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルカセットと、
少なくとも1つのくさび形歯を有するコームと
を備えたゲル電気泳動用装置。
【請求項2】
ゲルカセットが保持板及び仕切り板を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
ゲルカセットが、仕切り板又は保持板の少なくとも1つの外側面から延びるへりを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
くさび形歯が少なくとも40μLの容量を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
カセットが少なくとも1つの内側面を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
少なくとも1つの内側面がコーティングで被覆されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
コーティングが酸素干渉コーティングである、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
酸素干渉コーティングが、SiO又はSiO2の少なくとも1つから選択される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
1mmゲル内にサンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有するコームを備えたゲル電気泳動用装置であって、該サンプルウエルの大きさが、標準コームによって形成されるサンプルウエルを有するゲルより少なくとも10%大きいものである、上記装置。
【請求項10】
サンプルウエルの大きさが、標準コームによって形成されるサンプルウエルを有するゲルより少なくとも100%大きいものである、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
標準ミニゲル10歯コームによって形成されるサンプルウエルが、37.5μLの容量を有する、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
1mmゲル内にサンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有する10歯ミニゲルコームを備えたゲル電気泳動用装置であって、該サンプルウエルが少なくとも70μLの容量を有する、上記装置。
【請求項13】
標準ゲルサンプルウエルより少なくとも10%多いサンプルを受容するように設計されたサンプルウエルを形成するように設計されたくさび形歯を有するコームを備えたゲル電気泳動用装置。
【請求項14】
鮮明なバンドを有するゲルを形成するように設計されている、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
高分解能を有するゲルを形成するように設計されている、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
コーム上に陥凹部を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
陥凹部が、ゲル形成中に皮膜の形成を防止するように設計されている、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
ゲルカセットの少なくとも1つの外側面からある角度を成して延びるへりを有するゲルカセットと、
少なくとも1つのくさび形歯を有するコームと
を備えたゲル電気泳動用装置。
【請求項19】
キャビティーを有するゲルカセットと、
コームと
を備えたゲル電気泳動用装置であって、該コームが、コーム上に設けられる少なくとも1つの歯を含み、少なくとも1つの歯の少なくとも片側が傾斜しており、少なくとも1つの歯は、上記キャビティーの縁から少なくとも0.335インチの地点に位置する、上記装置。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図8C】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図11C】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図12C】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図13C】
image rotate


【公表番号】特表2013−502598(P2013−502598A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526920(P2012−526920)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/046506
【国際公開番号】WO2011/028532
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(502221282)ライフ テクノロジーズ コーポレーション (113)