説明

電気泳動ゲル製造装置及び電気泳動ゲル製造方法

【課題】含有成分の濃度勾配又はpH勾配が形成された電気泳動ゲルを高精度に製造する。
【解決手段】電気泳動ゲル製造装置は、ゲル形成領域の深さ方向に垂直な方向の開口径が、前記深さ方向の開口径よりも大きい充填口を介して、含有成分の濃度又はpHが異なるゲル溶液をゲル形成領域に順次導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動ゲル製造装置及び電気泳動ゲル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ゲルを作製する基板にシランカプリング処理を施したポリアクリルアミドゲル作製装置が記載されている。
【0003】
特許文献2には、所望のゲルを得るために、ゲル容器へのゲル(モノマー)原液の輸送流量を制御する制御手段を備えた、ポリアクリルアミドグラジエントゲルを生成するためのグラジエントメーカーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−114155号公報(1986年5月31日公開)
【特許文献2】特開昭62−167459号公報(1987年7月23日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ポストゲノムとしてプロテオソーム解析が注目を浴びている。このプロテオソーム解析とは、タンパク質の構造及び機能を対象とした大規模な研究を意味している。プロテオソームを解析するために、通常、まずタンパク質試料を個々のタンパク質に分離する。このとき、タンパク質を分離する手法の一つとして、二次元電気泳動が広く用いられている。
【0006】
二次元電気泳動とは、二段階の電気泳動によってタンパク質を二次元的に分離する手法である。例えば、一次元目は等電点電気泳動(IEF;isoelctric focusing)によって、等電点の違いによりタンパク質を分離し、二次元目はドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE;sodium dodecyl sulfate−polyacrylamidegel electrophoresis)によって、分子量の違いによりタンパク質をさらに分離する。このような二次元電気泳動は分解能が非常に高く、数千種類以上に及ぶタンパク質をスポットに分離することができる。
【0007】
このような二次元電気泳動法において用いられる、含有成分の濃度勾配(グラジエント)が形成されたグラジエントゲルや、pH勾配が形成された固定化pH勾配(IPG;Immobilized pH Gradient)ゲルは、二次元電気泳動法の分離特性を向上させる上で、極めて重要な部材である。
【0008】
特許文献1に記載のポリアクリルアミドゲル作製装置によれば、含有成分の濃度勾配又はpH勾配が形成されたゲルを形成する場合、形成される勾配にバラツキが生じ、高精度に勾配が形成されたゲルを形成することが困難である。
【0009】
また、特許文献2に記載のグラジエントメーカーは、ポリアクリルアミドグラジエントゲルの大量生産に用いられるため、高精度な勾配の形成は困難である上に、ゲル形成のための薬液のロスが問題となる。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、二次元電気泳動法に用いられる電気泳動ゲルにおいて、含有成分の濃度勾配又はpH勾配を位置再現性よく形成し、濃度勾配又はpH勾配が形成された電気泳動ゲルを高精度に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置は、上記課題を解決するために、濃度勾配又はpH勾配を有するゲルを形成するゲル形成領域と、前記ゲルを形成するために、濃度又はpHが異なるゲル溶液を前記ゲル形成領域に順次導入する充填口とを有するゲル作製部を備え、前記充填口は、前記ゲル形成領域の深さ方向に垂直な方向の開口径が、前記深さ方向の開口径よりも大きいことを特徴としている。
【0012】
本発明に係る電気泳動ゲル製造方法は、濃度勾配又はpH勾配を有するゲルを形成するために、充填口を介して濃度又はpHが異なるゲル溶液をゲル形成領域に順次導入する充填工程と、充填された前記ゲル溶液をゲル化し、前記濃度勾配又はpH勾配が形成されたゲルを形成するゲル化工程とを包含し、前記充填口は、前記ゲル形成領域の深さ方向に垂直な方向の開口径が、前記深さ方向の開口径よりも大きいことを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、ゲル作製部の充填口からゲル溶液が導入され、ゲル形成領域内に充填される。ゲル形成領域には、充填口を介して濃度又はpHが異なるゲル溶液が順次導入される。そして、充填口において、ゲル形成領域の深さ方向に垂直な方向の開口径が、深さ方向の開口径よりも大きいので、ゲル形成領域内に導入されたゲル溶液の濃度勾配又はpH勾配の歪みが充填口の上部において生じにくく、ゲル溶液の濃度勾配又はpH勾配のバラツキの発生を低減することができる。
【0014】
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置において、前記充填口の開口面積は、前記ゲル形成領域の内側に面する開口面積が、前記ゲル形成領域の外側に面する開口面積よりも大きくなるように、前記ゲル形成領域の外側から内側へと連続して大きくなっていることが好ましい。
【0015】
これにより、充填口の開口部分における気泡の付着を抑えることが可能であり、さらに、ゲル形成領域へのゲル溶液の流入に勢いがつかず、導入時のゲル溶液の濃度勾配又はpH勾配の乱れの発生を抑えることができる。
【0016】
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置において、前記ゲル形成領域の底部領域は、深さ方向に切断したときの断面積が底に向かって小さくなっていることが好ましい。これにより、充填口の上部におけるゲル溶液の濃度勾配又はpH勾配の歪みが生じにくく、ゲル溶液がゲル形成領域に均一に充填され、濃度勾配又はpH勾配のバラツキの発生を低減することができる。
【0017】
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置において、前記充填口は、前記底部領域に設けられていることが好ましい。これにより、ゲル形成領域に導入されるゲル溶液は、充填口よりも上側に順次充填されるので、ゲル溶液の充填時に濃度勾配又はpH勾配に乱れが生じにくく、かつゲル溶液のロスを最小限に抑えることができる。
【0018】
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置は、前記ゲル形成領域を前記深さ方向に切断したときの断面において、前記ゲル形成領域の前記底部領域における前記深さ方向に垂直な方向の幅は、前記ゲル形成領域の上部における前記深さ方向に垂直な方向の幅よりも狭いことが好ましい。これにより、ゲル形成領域の断面積は、底部領域の底に向かって小さくなり、充填口の上部におけるゲル溶液の濃度勾配又はpH勾配の歪みが生じにくい。その結果、ゲル溶液が均一に充填され、ゲル溶液の濃度勾配又はpH勾配のバラツキの発生を低減することができる。
【0019】
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置は、前記断面において、前記ゲル形成領域の底部領域における前記深さ方向に垂直な方向の幅は、前記充填口の前記深さ方向に垂直な方向の開口径と同一であることが好ましい。このように、充填口をゲル形成領域の底部領域の最も先端の部分に設けることによって、ゲル溶液の充填時に濃度勾配又はpH勾配に乱れが生じにくく、かつゲル溶液のロスを最小限に抑えることができる。
【0020】
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置は、前記ゲル形成領域の底部領域と前記充填口とを連結し、前記充填口と内径が同一の充填路をさらに備えていることが好ましい。これにより、ゲル溶液の充填時にゲル溶液の濃度勾配又はpH勾配に乱れが生じにくく、かつゲル溶液のロスを最小限に抑えることができる。
【0021】
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置は、前記含有成分の濃度又は前記pHを変化させて、ゲル形成領域に送るためのゲル溶液を調製するゲル溶液作製手段と、前記ゲル溶液作製手段で調製された前記ゲル溶液を、前記ゲル形成領域まで運搬するゲル溶液流路とをさらに備えていることが好ましい。これにより、含有成分の濃度又はpHが変化し、濃度勾配又はpH勾配が形成された電気泳動ゲルを高精度に製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置は、濃度勾配又はpH勾配を有するゲルを形成するゲル形成領域と、前記ゲルを形成するために、濃度又はpHが異なるゲル溶液を前記ゲル形成領域に順次導入する充填口とを有するゲル作製部を備え、前記充填口は、前記ゲル形成領域の深さ方向に垂直な方向の開口径が、前記深さ方向の開口径よりも大きいので、ゲル溶液に形成された濃度勾配又はpH勾配のバラツキを低減し、濃度勾配又はpH勾配が形成された電気泳動ゲルを高精度に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気泳動ゲル製造装置を示す概略断面図である。
【図2】濃度勾配又はpH勾配に及ぼす本発明で用いられる充填口の形状の影響を説明する説明図である。
【図3】濃度勾配又はpH勾配に及ぼす参考例の充填口の影響を説明する説明図である。
【図4】濃度勾配又はpH勾配に及ぼす参考例の充填口の影響を説明する説明図である。
【図5】ゲル作製部を図1に示すZ−Z’線において切断したときの断面図である。
【図6】図5に示す充填口部分を拡大した拡大図である。
【図7】参考例の充填口を示す図である。
【図8】濃度勾配又はpH勾配に及ぼす本発明で用いられるゲル容器の底部形状の影響を説明する説明図である。
【図9】濃度勾配又はpH勾配に及ぼす本発明で用いられるゲル容器の底部形状の影響を説明する説明図である。
【図10】濃度勾配又はpH勾配に及ぼす参考例のゲル容器の影響を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態について以下に説明する。なお、以下の実施形態の記載は、本発明の一態様を説明するものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0025】
<電気泳動ゲル製造装置100>
図1は、本発明の一実施形態に係る電気泳動ゲル製造装置100を示す概略断面図である。図1に示すように、電気泳動ゲル製造装置100は、ゲル作製部10、ゲル溶液作製手段11、ゲル溶液搬送手段12、及びゲル溶液流路13を備えている。電気泳動ゲル製造装置100は、ゲル溶液作製手段11により作製したゲル溶液を、ゲル溶液搬送手段12によりゲル溶液流路13を介してゲル作製部10に導入してゲル化し、電気泳動ゲルを製造する。
【0026】
(ゲル作製部10)
ゲル作製部10は、ゲル溶液流路13の一端に接続されており、ゲル溶液流路13の他端に接続されたゲル溶液作製手段11からのゲル溶液がゲル溶液流路13を介して順次導入される。ゲル作製部10に導入されたゲル溶液は、ゲル作製部10内においてゲル化し、電気泳動ゲルが作製される。
【0027】
ゲル作製部10は、図1に示すように、ゲル容器1、充填口2、ゲル形成領域3、底部領域4、及び底部スペーサ5を備えている。なお、図1においては、説明の便宜上、ゲル容器1をゲル形成領域の深さ方向に切断した断面図を示している。
【0028】
(ゲル溶液作製手段11)
ゲル溶液作製手段11は、所望の電気泳動ゲルを作製するためのゲル溶液を調製する。本発明において、ゲル溶液作製手段11は、特に、含有成分の濃度又はpHの異なるゲル溶液を順次調製するものである。ゲル溶液作製手段11によれば、グラジエントゲル、IPGゲル等を作製するためのゲル溶液を調製することができるが、均一濃度のポリアクリルアミドゲル等も調製可能である。
【0029】
ゲル溶液作製手段11としては、従来公知のゲル溶液作製手段を好適に利用可能である。例えば、ゲル溶液作製手段11は、1つ又は複数のゲル溶液を収容するタンクと、複数のゲル溶液を混合するミキサーとを少なくとも備えていればよい。グラジエントゲル又はIPGゲルを作製するとき、ゲル溶液作製手段11は、含有成分の濃度又はpHの異なる複数のゲル溶液を混合し、含有成分の濃度又はpHが異なるゲル溶液を順次調製する。
【0030】
このように、含有成分の濃度又はpHが異なるゲル溶液をゲル作製部10に順次導入することによって、ゲル作製部10内において濃度勾配又はpH勾配が形成されたグラジエントゲル又はIPGゲルが作製される。
【0031】
ゲル溶液作製手段11においては、上述したタンク内に、例えば濃度の異なるアクリルアミドモノマーを入れ、これらを混合することによって所望の濃度のアクリルアミドモノマーを作製する。そして、作製したモノマーを順次ゲル作製部10に導入してゲル化することによって、アクリルアミドグラジエントゲルを作製することができる。また、材料として酸性ゲル溶液と塩基性ゲル溶液とを用いて同様に混合してゲル化することによって、IPGゲルを作製することができる。また、例えば、アガロース溶液を用いてもよい。
【0032】
(ゲル溶液搬送手段12)
ゲル溶液搬送手段12は、ゲル溶液作製手段11において作製したゲル溶液を、ゲル溶液流路13を介してゲル作製部10まで搬送する。ゲル溶液搬送手段12としては、商業的に入手可能なポンプ等を好適に用いることができる。このようなポンプの例として、ペリスタポンプ、シリンジポンプ、ダイヤフラムポンプ等が挙げられる。
【0033】
なお、ゲル溶液搬送手段12としてポンプを用いることによる脈流を防止するために、ゲル溶液搬送手段12を有さず、重力方向上側に位置するゲル溶液作製手段11から重力方向下側に位置するゲル作製部10に、自然落下によりゲル溶液を搬送するように構成してもよい。
【0034】
(ゲル溶液流路13)
ゲル溶液流路13においては、ゲル溶液作製手段11が作製した、濃度又はpHが異なるゲル溶液が、ゲル作製部10まで順次運搬される。ゲル溶液流路13は、その内部をゲル溶液が送通し得るチューブ状体であればよいが、ゲル溶液がその内部でゲル化するのを抑制し得る材料により構成されていることが好ましい。例えば、商業的に入手可能なシリコンチューブ等を好適に利用可能である。ゲル溶液流路13の内径、外径等の種々の構成要素は、適宜選択することができるが、内径が、後述する充填口2の内径と同一であれば、ゲル容器1への導入時に濃度勾配又はpH勾配の乱れが生じにくく好ましい。
【0035】
ゲル溶液流路13内においては、含有成分の濃度又はpHが異なるゲル溶液が順次送液されるため、その送液方向に濃度勾配又はpH勾配が形成される。そして、ゲル溶液流路13からゲル作製部10のゲル容器1へのゲル溶液の導入は、後述するゲル容器1の底部領域4に設けられた充填口2を介して行われ、ゲル容器1の底部領域4からゲル溶液が充填され、濃度勾配又はpH勾配が形成される。
【0036】
〔ゲル容器1〕
ゲル容器1は、二枚の板状体、ゲル厚を制御するスペーサ、及び二枚の板状体の間に充填されるゲル溶液の漏れを防止するシール材により構成される。ゲル容器1において、二枚の板状体及びスペーサにより形成されたゲル形成領域3にゲル溶液が充填される。
【0037】
二枚の板状体は、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、無アルカリガラス等のガラス材料、ポリメタクリル酸メチル(PMMA;Polymethyl methacrylate)、ポリカーボネイト(Polycarbonate)等のプラスチック材料等により形成されたものであることが好ましい。
【0038】
これらの二枚の板状体は、向かい合わせに配置されてゲル容器1の側壁を構成し、ネジ、クリップ等で互いに強固に固定される。また、二枚の板状体の一方には、形成されるゲルの接着性を向上するために、商業的に入手可能なゲルボンドフィルムが貼り付けられていてもよい。ゲル厚を制御するスペーサとしては、二枚の板状体を互いに強固に固定しても厚さが変化しない素材が好ましい。例えば、所望の厚さのPMMAからなるスペーサを好適に用いることができる。
【0039】
さらに、シール材としては、Oリング、ガスケット等を用いることができる。二枚の板状体の隙間(ゲル厚に相当)をスペーサで規定し、シール材でゲル溶液の漏れを防止することから、スペーサより若干厚いシール材を用いることが望ましい。また、ゲル溶液のゲル化反応温度を制御するために、ゲル容器1に温度調節手段を設けてもよい。この場合、ゲル容器1を構成する材料として、金属、ガラス等の熱伝導に優れた素材を選択することが好ましい。
【0040】
(充填口2)
ゲル容器1の側壁(二枚の板状体のいずれか)には、ゲル溶液作製手段11により作製されたゲル溶液をゲル形成領域3に導入するための充填口2が設けられている。充填口2は、ゲル溶液流路13とゲル形成領域3とを接続し、ゲル溶液流路13を流れるゲル溶液をゲル形成領域3に導入する。一実施形態において、充填口2は、ゲル形成領域3の底部領域4に設けられている。したがって、ゲル溶液流路13から充填口2を介してゲル容器1内に導入されるゲル溶液は、ゲル容器1の底部領域4から充填され、濃度勾配又はpH勾配が形成される。
【0041】
充填口2は、ゲル形成領域3の深さ方向に垂直な方向の開口径が、当該深さ方向の開口径よりも大きい。すなわち、充填口2は、ゲル容器1内のゲル形成領域3において形成される濃度勾配又はpH勾配の形成方向に垂直な方向の開口径が、当該勾配の形成方向の開口径よりも大きい。充填口2の形状として、典型的には、濃度勾配又はpH勾配の形成方向に垂直な方向に広がる楕円形であってもよい。
【0042】
このような充填口2の形状が濃度勾配又はpH勾配に及ぼす影響を、図2〜4を参照して説明する。図2は、濃度勾配又はpH勾配に及ぼす本発明で用いられる充填口20の形状の影響を説明する説明図である。図3及び図4は、濃度勾配又はpH勾配に及ぼす参考例の充填口21及び22の形状の影響を説明する説明図である。図2〜4は、ゲル形成領域を深さ方向に切断したときの断面図を示している。
【0043】
図2に示すように、ゲル容器110は、その側壁の底部領域4に充填口20を備えており、図中矢印に示す方向にゲル溶液90が充填される。充填されるゲル溶液90は、濃度又はpHが連続的に変化し、濃度勾配又はpH勾配が形成されている。なお、図2において、ゲル形成領域内の濃度勾配又はpH勾配を、説明の便宜上実線で層状に示した。図3及び4においても同様である。
【0044】
充填口20は、ゲル形成領域の深さ方向に垂直なX方向の開口径が、深さ方向であるY方向の開口径よりも大きくなっている。したがって、充填口20の上部において、濃度勾配又はpH勾配の歪みが生じにくく、濃度勾配又はpH勾配のバラツキの発生を低減することができる。
【0045】
一方、図3に示すように、ゲル容器111に形成された参考例の充填口21は、X方向の開口径がY方向の開口径よりも小さくなっている。これにより、充填口21の上部において、充填口21のY方向の開口径分盛り上がるように、ゲル溶液91の濃度勾配又はpH勾配が大きく歪んでしまう。したがって、ゲル溶液91の濃度勾配又はpH勾配に大きなバラツキが生じる。
【0046】
また、図4に示すように、ゲル容器112に形成された参考例の充填口22は、X方向の開口径とY方向の開口径とが同一である。これにより、充填口22の上部において、充填口22のY方向の開口径分盛り上がるように、ゲル溶液92の濃度勾配又はpH勾配が歪んでしまう。したがって、ゲル溶液92の濃度勾配又はpH勾配にバラツキが生じる。
【0047】
このように、電気泳動ゲル製造装置100によれば、充填口2が、ゲル容器1内のゲル形成領域3に形成される濃度勾配又はpH勾配の形成方向に垂直な方向の開口径が、当該勾配の形成方向の開口径よりも大きいので、濃度勾配又はpH勾配のバラツキの発生を低減することができる。
【0048】
図5〜7を参照して、充填口2の一実施態様についてより詳細に説明する。図5は、ゲル作製部10を図1に示すZ−Z’線において切断したときの断面図であり、図6は、図5に示す充填口2部分を拡大した拡大図である。図7は、参考例の充填口2’を示す図である。図5及び6に示すように、ゲル容器1の側壁を貫通するように設けられた充填口2の開口面積は、ゲル形成領域3の内側に面する開口面積が、ゲル形成領域3の外側に面する開口面積よりも大きくなるように、ゲル形成領域3の外側から内側へと連続して大きくなっている。
【0049】
充填口2において、ゲル形成領域3の内側に面する開口部は、距離Aにより表される内径を有するものであり、ゲル形成領域3の外側に面する開口部は、距離Bにより表される内径を有するものである。充填口2は、距離A>距離Bとなるように設けられている。
【0050】
ゲル溶液作製手段11からゲル溶液流路13を介してゲル作製部10のゲル容器1にゲル溶液が導入されるとき、ゲル溶液流路13内等で発生した気泡が共にゲル容器1内に導入される場合がある。図7に示す参考例の充填口2’では、ゲル形成領域3の内側に面する開口面積とゲル形成領域3の外側に面する開口面積とが同一であるため、充填口2’付近に気泡が付着しやすくなってしまう。
【0051】
電気泳動ゲル製造装置100において、充填口2の開口面積は、ゲル形成領域3の内側に面する開口面積が、ゲル形成領域3の外側に面する開口面積よりも大きくなるように、ゲル形成領域3の外側から内側へと連続して大きくなっているので、充填口2の開口部分における気泡の付着を抑えることができる。
【0052】
さらに、充填口2からゲル溶液が導入されるとき、導入開始部分(ゲル形成領域3の外側に面する開口部)の開口面積が、導入完了部分(ゲル形成領域3の内側に面する開口部)の開口面積よりも大きいので、ゲル形成領域3への流入に勢いがつかず、導入時の濃度勾配又はpH勾配の乱れの発生を抑えることができる。
【0053】
また、充填口2は、ゲル形成領域3の底部領域4に設けられており、より好ましくは、ゲル形成領域3の底に接するように設けられていることが好ましい。これにより、ゲル形成領域3の充填口2よりも上方に、ゲル溶液が均一に充填され、精度良く濃度勾配又はpH勾配が形成される。ゲル形成領域3の充填口2よりも下側に充填されるゲル溶液が多いと、下側に充填された分だけ濃度勾配又はpH勾配が乱れてしまう。また、ゲル形成領域3の充填口2よりも下側に充填されたゲル溶液は、完成品において電気泳動ゲルとして用いられないデットボリュームとなり、無駄になってしまう。
【0054】
電気泳動ゲル製造装置100によれば、充填口2がゲル形成領域3の底部領域4に設けられているので、ゲル溶液の充填時に濃度勾配又はpH勾配に乱れが生じにくく、かつゲル溶液のロスを最小限に抑えることができる。
【0055】
(ゲル形成領域3)
ゲル形成領域3は、含有成分の濃度又はpHを連続的に変化させ、濃度勾配又はpH勾配が形成されたゲル溶液が充填される。ゲル形成領域は3、ゲル容器1の内側に形成される空間により定義される。ゲル容器1の底部領域4には、底部スペーサ5が設けられており、この底部スペーサ5により、ゲル形成領域3の底部領域4は、深さ方向に切断したときの断面積が底に向かって小さくなっている。
【0056】
底部領域4の形状が濃度勾配又はpH勾配に及ぼす影響について、図8〜10を参照して説明する。図8及び9は、濃度勾配又はpH勾配に及ぼす本発明で用いられるゲル容器の底部形状の影響を説明する説明図であり、図10は、濃度勾配又はpH勾配に及ぼす参考例のゲル作製容器の底部形状の影響を説明する説明図である。図8〜10は、ゲル形成領域を深さ方向に切断したときの断面図を示している。
【0057】
図8に示すように、ゲル容器200の底部領域240はV字形状であり、その先端に充填口220が設けられている。なお、図8では、底部領域240の形状のみがゲル溶液の濃度勾配又はpH勾配に及ぼす影響を説明するために、便宜上充填口220を円形で示しているが、本発明において充填口は、図2に示すようにX方向の開口径がY方向の開口径よりも大きいものであることは言うまでもない。図9についても同様である。
【0058】
ゲル容器200においては、図中矢印に示す方向にゲル溶液290が充填される。濃度又はpHが異なるゲル溶液290が順次充填され、ゲル形成領域に濃度勾配又はpH勾配が形成されている。なお、図8において、濃度勾配又はpH勾配を、説明の便宜上実線で層状に示した。図9及び10においても同様である。
【0059】
ゲル容器200において、底部領域240近傍の深さ方向に垂直な方向の幅Dは、上部側の深さ方向に垂直な方向の幅Cよりも狭くなっている。これにより、底部領域240の深さ方向の断面積は、底に向かって小さくなっている。したがって、充填口220の上部における濃度勾配又はpH勾配の歪みが生じにくく、ゲル溶液290が均一に充填され、濃度勾配又はpH勾配のバラツキの発生を低減することができる。なお、ゲル形成領域の底部領域240のV字形状部分270は、最終製品においてデッドボリュームとなり、その上方部分260が電気泳動ゲル製品となる。
【0060】
また、充填口220は底部領域240の先端に位置しており、底部領域240における深さ方向に垂直な方向の幅は、充填口220の深さ方向に垂直な方向の開口径と同一である。このように、充填口220をゲル形成領域の最も先端の部分に設けることによって、ゲル溶液の充填時に濃度勾配又はpH勾配に乱れが生じにくく、かつゲル溶液のロスを最小限に抑えることができる。
【0061】
図9に示すゲル容器201においては、底部領域241近傍の幅Dは、上部側の幅Cよりも狭く、かつ底部領域241の先端にさらに充填路281が設けられ、充填路281の先端に充填口221が設けられている。充填路281は、底部領域241と充填口221とを連結するものであり、充填路281の内径と充填口221の内径とは同一である。これにより、ゲル溶液291の充填時に濃度勾配又はpH勾配に乱れが生じにくく、かつゲル溶液291のロスを最小限に抑えることができる。なお、ゲル形成領域において、充填口221の上方から底部領域241のV字形状部分271は、最終製品においてデッドボリュームとなり、その上方部分261が電気泳動ゲル製品となる。
【0062】
一方、図10に示すゲル容器202においては、底部領域が直線形状である。したがって、ゲル溶液292の濃度勾配又はpH勾配が、充填口222の上部において盛り上がるように歪んでしまう。したがって、ゲル溶液292が均一に充填されず、濃度勾配又はpH勾配にバラツキが生じる。
【0063】
このように、電気泳動ゲル製造装置100によれば、ゲル形成領域3の深さ方向の断面積が、底に向かって小さくなっているので、濃度勾配又はpH勾配のバラツキの発生を低減することができる。
【0064】
<電気泳動ゲル製造方法>
本発明に係る電気泳動ゲル製造方法は、濃度又はpHが異なるゲル溶液を充填口を介してゲル形成領域に順次導入する充填工程と、充填されたゲル溶液をゲル化し、濃度勾配又はpH勾配が形成されたゲルを形成するゲル化工程とを包含し、充填口は、ゲル形成領域の深さ方向に垂直な方向の開口径が、深さ方向の開口径よりも大きい。すなわち、上述した電気泳動ゲル製造装置100は、本発明に係る電気泳動ゲル製造方法に用いられる電気泳動ゲル製造装置の一実施形態であり、本発明に係る電気泳動ゲル製造方法の一実施形態は、上述の実施形態及び図1〜10の説明に準ずる。
【0065】
<実施例>
本発明に係る電気泳動ゲル製造装置及び電気泳動ゲル製造方法の一実施例を、IPGゲルの製造方法を例として説明する。本実施例において、ゲル溶液作製手段11は、2種類のゲル溶液を収容するタンクを備えている。そして、一方のタンクには酸性ゲル溶液、他方のタンクには塩基性ゲル溶液を収容した。
【0066】
IPGゲルを製造するための薬液としては、アクリルアミド/ビスアクリルアミド混合溶液(混合比:37.5/1)、アクリルアミド誘導体12種(酸解離定数:1、3.1、3.6、4.4、4.6、6.2、7.0、7.4、8.5、9.3、10.3、>12)、過硫酸アンモニウム(APS;Ammonium persulfate)、テトラメチルエチレンジアミン(TEMED;N,N,N’,N’−Tetramethylethylenediamine)、グリセロール、純水を用いた。酸性ゲル溶液、塩基性ゲル溶液は、製造するIPGのpHの始点、終点の設計(仕様)により、最適化されたアクリルアミド誘導体の混合比で調整した(参考文献:P.G.Righetti:Immobilized pH gradients:theory and methodology,Elsevier,Amsterdam,1990を参照のこと)。
【0067】
まず、ゲル作製部10を構成する部品を組み立てた。ゲルボンドフィルムを装着する板と、対向する板を厚さが0.5mmのスペーサーシートを介して、ネジ(又はクリップ)で貼り合せた。
【0068】
次に、電気泳動ゲル製造装置100を組み立てた。電気泳動ゲル製造装置100は、酸性ゲル溶液及び塩基性ゲル溶液を収容した2つのタンクをグラジエントミキサー(スタティックミキサーでもよい)(ゲル溶液作成手段11)に接続し、先に組み立てたゲル作製部10をペリスタポンプ(ゲル溶液搬送手段12)を介して、シリコンチューブ(ゲル溶液流路13)に接続した。ペリスタポンプとゲル作製部10との間に、気泡抜き用の3方活栓等を介してもよい。
【0069】
次に、酸性ゲル溶液及び塩基性ゲル溶液を混合したゲル溶液(総量:3〜20mL)を、ペリスタポンプを用いて、ゲル作製部10に送液した。送液速度は、5〜20μL/秒程度とした。この時、混合したゲル溶液がゲル溶液流路13内でゲル化しないように、予めAPS及びTEMED濃度を最適化した。その後、混合したゲル溶液の充填されたゲル作製部10を、ゲル化のため、所定の温度(20〜50℃)で2時間から8時間程度静置した。
【0070】
作製したIPGゲル/ゲルボンドフィルムをゲル作製部10から取り出し、純水等を用いて洗浄した。洗浄が完了したIPGゲル/ゲルボンドフィルムを、室温で自然乾燥、又は商業的に入手可能なゲルドライヤー等で乾燥させた。
【0071】
このようにして製造した電気泳動ゲル(IPGゲル)は、pH位置の再現性も良好で、等電点分解も優れていた。また、少量のゲル溶液(20mL以下)で電気泳動ゲルを製造可能であった。したがって、ゲル溶液のロスが小さく、低コストに電気泳動ゲル(IPGゲル)を製造することができた。さらに、ゲル作製部10内における気泡の発生が抑えられ、製造する電気泳動ゲル(IPGゲル)の歩留まりが大きく改善された。
【0072】
本実施例においては、IPGゲルを製造したが、本発明によれば、ポリアクリルアミドゲルにポリアクリルアミドの濃度勾配を形成したグラジエントゲルの製造も可能である。この場合、ゲル溶液を収容するタンクには、例えば、8%アクリルアミド溶液と16%アクリルアミド溶液を収容し、上述の電気泳動ゲル製造方法に従うことにより、ポリアクリルアミドグラジエントゲルを形成可能である。また、本実施形態においては、ポリアクリルアミドゲルを例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、アガロースゲルの製造も可能である。
【0073】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、遺伝子工学を利用する種々の技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 ゲル容器
2 充填口
3 ゲル形成領域
4 底部領域
5 底部スペーサ
10 ゲル作製部
11 ゲル溶液作製手段
12 ゲル溶液搬送手段
13 ゲル溶液流路
100 電気泳動ゲル製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有成分の濃度勾配又はpH勾配を有するゲルを形成するゲル形成領域と、
前記ゲルを形成するために、含有成分の濃度又はpHが異なるゲル溶液を前記ゲル形成領域に順次導入する充填口と
を有するゲル作製部を備え、
前記充填口は、前記ゲル形成領域の深さ方向に垂直な方向の開口径が、前記深さ方向の開口径よりも大きいことを特徴とする電気泳動ゲル製造装置。
【請求項2】
前記充填口の開口面積は、前記ゲル形成領域の内側に面する開口面積が、前記ゲル形成領域の外側に面する開口面積よりも大きくなるように、前記ゲル形成領域の外側から内側へと連続して大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動ゲル製造装置。
【請求項3】
前記ゲル形成領域の底部領域は、前記深さ方向に切断したときの断面積が底に向かって小さくなっていることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の電気泳動ゲル製造装置。
【請求項4】
前記充填口は、前記底部領域に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の電気泳動ゲル製造装置。
【請求項5】
前記ゲル形成領域を前記深さ方向に切断したときの断面において、前記ゲル形成領域の前記底部領域における前記深さ方向に垂直な方向の幅は、前記ゲル形成領域の上部における前記深さ方向に垂直な方向の幅よりも狭いことを特徴とする請求項4に記載の電気泳動ゲル製造装置。
【請求項6】
前記断面において、前記ゲル形成領域の前記底部領域における前記深さ方向に垂直な方向の幅は、前記充填口の前記深さ方向に垂直な方向の開口径と同一であることを特徴とする請求項5に記載の電気泳動ゲル製造装置。
【請求項7】
前記ゲル形成領域の前記底部領域と前記充填口とを連結し、前記充填口と内径が同一の充填路をさらに備えていることを特徴とする請求項6に記載の電気泳動ゲル製造装置。
【請求項8】
前記含有成分の濃度又は前記pHを変化させて、ゲル形成領域に送るためのゲル溶液を調製するゲル溶液作製手段と、
前記ゲル溶液作製手段で調製された前記ゲル溶液を、前記ゲル形成領域まで運搬するゲル溶液流路とをさらに備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気泳動ゲル製造装置。
【請求項9】
含有成分の濃度勾配又はpH勾配を有するゲルを形成するために、充填口を介して含有成分の濃度又はpHが異なるゲル溶液をゲル形成領域に順次導入する充填工程と、
充填された前記ゲル溶液をゲル化し、前記含有成分の濃度勾配又はpH勾配が形成されたゲルを形成するゲル化工程とを包含し、
前記充填口は、前記ゲル形成領域の深さ方向に垂直な方向の開口径が、前記深さ方向の開口径よりも大きいことを特徴とする電気泳動ゲル製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−36939(P2013−36939A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175321(P2011−175321)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)