説明

電気泳動デバイス及び電気泳動分析装置

【課題】デッドボリュームを大きくすることなく分離流路への分離媒体の充填の際に必要な構成及び処理を簡易化する。
【解決手段】電気泳動デバイスは分離流路2を備えている。分離流路2の途中に分離媒体を供給するための分離媒体注入部10が設けられている。分離媒体注入部10に分離媒体充填機構16を接続することにより、分離媒体を分離流路2の一端2aに繋がる一端側流路4と他端2bに繋がる他端側流路6に同時に注入する。電気泳動により分離されたサンプル成分の検出は分離流路2上に設けられた検出位置12で検出器14により検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離流路及びその分離流路の一端部に設けられたサンプルリザーバを備え、分離流路の両端に電圧を印加することによりサンプルリザーバに注入されたサンプルの電気泳動分離を行なうための電気泳動デバイスと、その電気泳動デバイスを使用した電気泳動分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に従来のマイクロチップ型の電気泳動デバイスの一例を示す。
この電気泳動デバイスは2枚の透明基板52,54が重ね合わされて構成され、内部に分離流路56が形成されている。分離流路56の一端にサンプルウエル56a、その上部にサンプルリザーバ58が設けられている。また、分離流路56の他端に廃液ウエル56b、その上部に廃液リザーバ60が設けられている。
【0003】
図5の電気泳動デバイスを用いた電気泳動処理の一例を図6を用いて説明する。
まず、分離媒体を吐出するノズルから分離媒体をサンプルウエル56a内に吐出する(ステップS11)。分離媒体吐出ノズルを移動させた後、サンプルウエル56aの上面を封止しながらサンプルウエル56aに向けてエアーを供給できる機構を用い、サンプルウエル56aの上面を封止しながらエアーによる圧力によってサンプルウエル56aの分離媒体を分離流路56内に送り込む(ステップS12,S13)。このとき、サンプルリザーバ58とは反対側の廃液ウエル56b側に分離媒体が出てくるまで分離媒体を圧送して、分離流路56内を分離媒体で満たす。なお、分離流路56への分離媒体の充填は廃液ウエル56b側から行なうことも可能である。
【0004】
吸引ノズルでウエル56a,56b内の分離媒体を吸引し、分離流路56内にのみ分離媒体を残す(ステップS14)。廃液リザーバ60にバッファ液を充填し、サンプルウエル56aにサンプルを分注する(ステップS15,S16)。ウエル56a,56bの液内に電極を挿入して分離流路56の両端間に電圧を印加することによりサンプルの導入を行なう(ステップS17)。その後、サンプルウエル56aのサンプルを除去し(ステップS18)、サンプルリザーバ58にバッファを注入する(ステップS19)。電極をリザーバ58,60に挿入して分離流路56の両端に電圧を印加することにより電気泳動を行なう(ステップS20)。電気泳動終了後、同じマイクロチップを用いて新たなサンプルの電気泳動を行なう場合は、ステップS11に戻ってステップS20までの動作を繰り返す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許5635050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5に示した電気泳動デバイスでは、分離流路56への分離媒体を充填するための分離媒体充填機構として、分離媒体を吐出するノズルのほかに、ウエル56a又は56bの上面を封止しながらエアーを供給することができる特殊な機構が必要であり、装置の構成が複雑になっていた。また、分離流路への分離媒体の充填において、分離媒体をノズルから吐出する工程とウエルの上面を封止してエアーを供給する工程の2つの工程を経る必要があった。しかし、ウエルの上面は面積が大きいために完全に封止することは容易でなく、分離流路56への分離媒体充填時にウエル上面の封止が完全でないと、分離流路56への分離媒体の充填が不完全になったり、分離媒体内に気泡が混入したりするなどして分析結果の再現性が悪くなる。
【0007】
さらに、複数のサンプルの電気泳動を連続的に行なう場合には、サンプルごとに、分離媒体をノズルから吐出する工程とウエルの上面を封止してエアーを供給する工程の2つの工程を経る必要があり、分離媒体の充填不良や分離媒体への気泡の混入といった問題の危険性がさらに高まる。したがって、そのような問題の危険性を低減するためには、分離流路への分離媒体充填機構の構成を簡易化して分離媒体充填時にリザーバを介してウエル上面を封止しなくてもよい構造にすることが望ましい。
【0008】
他方、マイクロチップ型でない電気泳動デバイスでは、分離流路への分離媒体の充填に際してリザーバ上面の封止工程が不要のものが提案されている(特許文献1参照。)。その提案の装置では、分離媒体充填機構と分離流路との間にバルブを設け、分離流路に分離媒体を充填するとはそのバルブを開き、その後に電気泳動を行うときはそのバルブを閉じる。その構成では、分離媒体を分離流路に充填する際にリザーバ上面を封止するといった動作がないため、分離媒体に気泡が混入する危険性はない。しかし、この構成では、バルブが流路上に存在するため、デッドボリュームが大きくなって分離媒体の使用量が多くなってしまうという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、デッドボリュームを大きくすることなく分離流路への分離媒体の充填の際に必要な構成及び処理を簡易化することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、両端に電圧を印加することによって一端に導入したサンプルの電気泳動分離を行なうための分離流路と、分離流路の途中に設けられ、分離流路のうちの試料導入側の一端部までの一端側流路と他端部までの他端側流路に同時に分離媒体を注入するための分離媒体注入部と、を備えている電気泳動デバイスである。この構成によれば、分離媒体注入部が分離流路途中に接続されているため、複数回の分析を繰り返す場合でも分離媒体注入部に分離媒体充填機構を接続した状態にしておくことができ、分離媒体注入のたびに分離媒体充填機構を接続することによる分析流路の分離媒体中への空気の混入の可能性が抑えられる。また、分離媒体充填のたびにウエルの上面を封止するといった操作が不要になる。
【0011】
本発明の電気泳動分析装置は、本発明の電気泳動デバイスを用いるものであって、電気泳動デバイスの分離媒体注入部から分離流路に分離媒体を充填する分離媒体充填機構と、電気泳動デバイスの分離流路の両端間に電気泳動のための電圧を印加する電圧印加部と、電気泳動デバイスの分離流路で電気泳動分離されたサンプル成分を検出する検出器とを少なくとも備えており、分離流路への分離媒体の充填、分離流路でのサンプルの電気泳動分離、及び電気泳動分離されたサンプル成分の検出を含む一連の操作を、分離媒体充填機構を電気泳動デバイスの分離媒体注入部に接続した状態で複数回繰り返すものである。
【0012】
本発明の電気泳動デバイスにおいて、一端側流路上に分離成分を検出するための検出位置が設けられる場合には、連続的に繰り返される電気泳動分析の際に一端側流路内における分離媒体の置換が確実に行なわれることが好ましい。一端側流路内に前回の電気泳動で使用した分離媒体やサンプル成分が残存していると、次回のサンプル測定結果に大きな影響を与えるからである。それに対し、分離流路の他端側流路内にそのような残存物が存在していたとしても、一端側流路内に残存していた場合に比べて測定結果に与える影響は小さい。そこで、一端側流路上に分離成分を検出するための検出位置が設けられる場合には、分離流路の他端側流路の流路抵抗を一端側流路と同じか又はそれよりも高く設定することが好ましい。そうすれば、分離媒体注入部から分離媒体が注入されたときに一端側流路と他端側流路のそれぞれに流れる分離媒体の流量は同じか一端側流路のほうが大きくなり、一端側流路内における分離媒体の流量を確保して一端側流路内における残存物の存在を抑制できる。
【0013】
本発明の電気泳動デバイスでは、分離媒体注入部から注入された分離媒体が分離流路の一端側流路と他端側流路に同時に注入されるため、一端側流路に分離媒体が完全に充填されるまでに他端側流路に分離媒体が完全に充填されてしまうと、一端側流路に分離媒体が完全に充填されるまでの間に他端側流路から分離媒体が無駄に排出されてしまうことになる。そこで、分離媒体注入部から注入された分離媒体が両流路内に同時に充填されるか、又は一端側流路が先に充填を完了するように分離流路の一端側流路と他端側流路の長さ及び流路抵抗が設定されていることが好ましい。そうすれば、分離媒体の無駄を小さくすることができる。
【0014】
分離流路の他端部にその他端から排出された液を貯留しておくためのリザーバが設けられており、そのリザーバは一端側のサンプル側リザーバよりも容量が大きく、廃液される分離媒体の複数回分を貯留できる大きさに設定されていることが好ましい。そうすれば、電気泳動後に分離流路の他端から廃液された分離媒体をその都度回収することなく次の電気泳動を行なうようにすることも可能となる。これにより、複数のサンプルについて電気泳動を連続的に繰り返して行なう場合に分離媒体の回収動作を少なくすることができ、稼働率が向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分離媒体注入部が分離流路途中に設けられているため、分離媒体の充填に際してウエル上面を封止するといった工程が不要であり、分離媒体充填機構の構成を従来よりも簡易化することができる。分離媒体注入部に分離媒体充填機構を接続した状態でも分離流路の両端に電圧を印加することが可能なため、分離媒体充填機構を接続したまま電気泳動を行なうことができる。これにより、分離媒体充填機構を分離媒体注入部に接続したまま複数のサンプルの電気泳動を連続的に繰り返して行なうことが可能となり、分離流路への分離媒体の充填精度が向上し、分離媒体への気泡の混入の危険性が低減して、電気泳動による分析結果の再現性が向上するとともに、稼働率が向上する。また、分離媒体注入部から注入された分離媒体は分離流路の一端側と他端側へ同時に注入される構成であるため、分離媒体の注入先を一端側と他端側との間で切り替えるためのバルブなどの機構が不要であり、デッドボリュームを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施例の電気泳動デバイスを用いた電気泳動分析装置の一実施例の構成を概略的に示す流路構成図である。
【図2】マイクロチップ型の電気泳動デバイスの一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は分離流路の一端側流路に沿って切断したときの断面図、(C)は分離媒体吐出シリンジを接続した状態を示す分離流路の一端側流路に沿って切断したときの断面図である。
【図3】マイクロチップ型の電気泳動デバイスの他の例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は分離流路に沿って切断したときの断面図、(C)は分離媒体吐出シリンジを接続した状態を示す分離流路に沿って切断したときの断面図である。
【図4】図2の電気泳動デバイスを用いた電気泳動処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図5】従来のマイクロチップを用いた電気泳動デバイスのマイクロチップ部分の一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は分離流路に沿って切断したときの断面図である。
【図6】図5の電気泳動デバイスを用いた電気泳動処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
電気泳動分析装置の一実施例の概略的な構成を図1を参照しながら説明する。
電気泳動分析装置は電気泳動デバイスを使用するものであり、電気泳動デバイスは図1では要部のみが概略的に示されている。電気泳動デバイスの分離流路2は、一端2aと他端2bとの間に電圧が印加されることにより一端2aに導入されたサンプルの電気泳動分離がなされる。分離流路2の途中には分離媒体を供給するための分離媒体注入部10が設けられており、分離媒体注入部10から分離流路2に分離媒体が注入される。分離流路2の一部には電気泳動により分離されたサンプル成分が検出される検出位置12が設けられている。
【0018】
電気泳動分析装置は、電気泳動デバイスの分離媒体注入部10から分離流路2に分離媒体を充填する分離媒体充填機構16と、電気泳動デバイスの分離流路2の一端2aと他端2bとの間に試料導入及び電気泳動のための電圧を印加する電圧印加部18と、電気泳動デバイスの分離流路2で電気泳動分離されたサンプル成分を検出位置12で検出する検出器14とを少なくとも備えている。
【0019】
そして、この電気泳動分析装置は、分離流路2への分離媒体の充填、分離流路2でのサンプルの電気泳動分離、及び電気泳動分離されたサンプル成分の検出を含む一連の操作を、分離媒体充填機構16を電気泳動デバイスの分離媒体注入部12に接続した状態で複数回繰り返すものである。この一連の操作を行うために操作を制御する制御装置(図示略)を設け、一連の操作を自動的に行うようにすることができる。そのような制御装置はこの電気泳動分析装置に専用のコンピュータにより、又は外部に接続されたパーソナルコンピュータ等の汎用のコンピュータにより実現することができる。
【0020】
また、この一連の操作は、その一部を手動で行うようにすることもできる。
【0021】
電気泳動デバイスの分離流路2は、一端2aと他端2bとの間に電圧印加部18によって電圧を印加することにより一端2aに導入されたサンプルの電気泳動分離を行なう流路である。分離流路2の途中には分離媒体を供給するための分離媒体注入部10が設けられている。分離媒体注入部10に分離媒体充填機構16を接続することにより、分離媒体を分離流路2のうち試料導入側の一端2aまでの一端側流路4と他端2bまでの他端側流路6に同時に注入することができる。電気泳動により分離されたサンプル成分の検出は検出位置12で検出器14により検出するように構成されている。なお、図1では検出位置12が一端側流路4上に設けられているが、他端側流路6上に設けられていてもよい。
【0022】
検出位置12が一端側流路4上に設けられている場合、他端側流路6よりも一端側流路4における前回の分離媒体等の残存の危険性を低減することが重要である。そこで、一端側流路4に注入される分離媒体の流量が十分に得られるように、分離流路2の一端側流路4と他端側流路6の流路抵抗は両者が同じか他端側流路のほうが高くなるように設定されていることが好ましい。一端側流路4と他端側流路6の流路抵抗は各流路の長さや内径を調節することにより制御できる。両流路4,6の流路抵抗の調整により一端側流路4で一定流量以上の分離媒体の流量を確保することにより、連続的に繰り返してサンプルの電気泳動を行なう場合の一端側流路4における分離媒体の置換効率が向上する。
【0023】
また、分離媒体注入部10から注入された分離媒体の充填が一端側流路4と他端側流路6で同時に完了するように、両流路4,6の長さと内径が設定されていることが好ましい。分離媒体の充填が一端側流路4と他端側流路6で同時に完了するとは、両流路4,6に注入された分離媒体の先頭が同時に分離流路2の一端2aと他端2bに到達することを意味する。一端側流路4には次のサンプルのために新しい分離媒体が完全に充填されなければならないので、他端側流路6での分離媒体の充填が先に完了するようになっていると、一端側流路4での分離媒体の充填が完了するまでの間、他端側流路6から分離媒体が排出され続けることになるので、分離媒体を無駄に消費してしまう。両流路4,6での分離媒体の充填が同時に完了するように設定されているか、少なくとも一端側流路4での分離媒体の充填が先に完了するように設定されていれば、そのような分離媒体の無駄な消費をなくすことができる。
【0024】
次に、マイクロチップ型の電気泳動デバイスの一例を図2を用いて説明する。
この電気泳動デバイスは2枚の透明基板26,28が積層されて構成され、内部に上面から見てV字型の分離流路30が形成されている。分離流路30は基板26に形成された溝により構成されている。分離流路30の一端に試料導入用のサンプルウエル30aが設けられ、他端に廃液ウエル30bが設けられている。透明基板26の上面のサンプルウエル30aの上部の位置にサンプルリザーバ34が設けられ、廃液ウエル30bの上部の位置に廃液リザーバ36が設けられている。なお、この例では電気泳動デバイスを2枚の基板26,28で構成し、一方の基板に流路用の溝を形成しているが、2枚の基板間にPDMS(ポリジメチルシロキサン)などからなる流路形成シートを挟み込み、その流路形成シートに流路を貫通溝として形成してもよい。
【0025】
基板26の分離流路30のV字型頂点部分の位置に貫通穴からなる分離媒体注入部38が設けられている。分離媒体注入部38の上面と分離媒体充填機構である分離媒体吐出シリンジ39のノズル下面を、分離媒体注入部38を構成する貫通穴の縁の周囲面に密着させて封止することにより、分離媒体吐出シリンジ39を分離流路30のV字頂点部分に接続することができる。分離媒体注入部38は内径の小さい貫通穴により構成されているため、分離媒体注入部38と分離媒体吐出シリンジ39の接続部分の封止が容易であり、分離流路への気泡の混入を防止することができる。分離媒体吐出シリンジ39のノズル下面と分離媒体注入部38を構成する貫通穴の縁の周囲面との密着性を高めるために、ノズル下面にシール部材としてOリング39aが設けられている。
【0026】
分離流路30において分離媒体注入部38が設けられているV字型頂点部分から一端30aまでの流路32が図1における一端側流路4に相当し、V字型頂点部分から他端30bまでの流路33が他端側流路6に相当する。この例では、流路32と流路33は互いに同じ流路抵抗をもつように同じ流路長さと同じ内径をもつように設定されている。両流路32,33の流路抵抗と長さが同じであるため、分離媒体充填機構39により分離流路30のV字頂点部分の分離媒体注入部38から注入された分離媒体が分離流路30の両端30a,30bにほぼ同時に到達し、分離媒体の無駄な消費が抑制される。
【0027】
また、廃液リザーバ36はサンプルリザーバ34よりも大きい容量を備えている。廃液リザーバ36は電気泳動に必要なバッファ液の量よりも多量の液を貯留することができ、分離媒体吐出シリンジ39によって注入される新たな分離媒体によって流路33の端部30bから押し出された古い分離媒体の複数回分を貯留できる容量をもっている。
【0028】
分離媒体とバッファ液との組成に大きな違いがない場合には、電気泳動時のサンプルリザーバ34及び廃液リザーバ36への電極挿入位置を毎回一定の位置にしておけば、廃液リザーバ36のバッファ液に古い分離媒体が混合されていても分離流路30の両端30a,30b間の抵抗値はほとんど変化しないため、廃液リザーバ36のバッファ液に混合された分離媒体が電気泳動の測定結果にほとんど影響しない。すなわち、この例のように、廃液リザーバ36の容量を大きくして複数回分の古い分離媒体を貯留できるようにしておけば、廃液リザーバ36に廃液された分離媒体を除去する操作を行うことなく連続的に繰り返して電気泳動を行なうことができる。
【0029】
また、分離流路30をV字型にしてサンプルリザーバ34と廃液リザーバ36の位置を近い位置に設けることにより、バッファ液の供給や液の吸入といった処理を行なうノズルや電圧を印加するための電極を、単一軸上でかつ短い距離で駆動することができるので、このデバイスを処理する装置の構成を簡単にできるという効果もある。
【0030】
なお、分離流路はV字型でなくてもよく、図3に示されているように、直線状にしてもよい。図3の例ではリザーバ34,36が円筒形状になっているが、リザーバ34,36の形状はどのような形状であってもよい。この例では、検出位置が他端側流路33上に設けられているが、サンプルの分離に十分な泳動距離が確保できる場合には一端側流路32上に設けられていてもよい。
【0031】
次に、図2の電気泳動デバイスを用いた電気泳動処理の一例を図4のフローチャートを用いて説明する。
【0032】
この電気泳動では、一例として、分離媒体としてLPA(リニアポリアクリルアミド)を用い、バッファ液としてTTE(トリス−TAPS(tetrapentylammonium 3-{tris (hydroxymethyl) methylamino}-1-propanesulfate)−EDTA)を用いるが、それらに限ったものではない。
【0033】
まず、分離媒体を供給するために、シリンジのノズル下面にOリングのついた分離媒体吐出シリンジ39を用いる。そのシリンジ39のノズル下面のOリングを、分離媒体注入部38を構成する貫通穴の縁の周囲の面に押しあてることにより、分離媒体吐出シリンジ39を分離流路30に接続する(ステップS1)。所定量の分離媒体を吐出するように分離媒体吐出シリンジ39を吐出駆動して分離流路30の両流路32,33内に分離媒体を充填する(ステップS2)。分離媒体吐出シリンジ39からの分離媒体の吐出量は、両流路32,33内に分離媒体を充填することができる量よりも多めの量に設定されており、分離流路30の両端30a,30bからは少量の分離媒体が溢れ出る。
【0034】
分離媒体注入部38に分離媒体吐出シリンジ39のノズルが接続されていても、分離流路30の両端30a,30b間の抵抗値には影響しないため、分離媒体吐出シリンジ39のノズルは分離媒体注入部38に接続したままとする。
【0035】
一端部のサンプルウエル30aに溢れ出た分離媒体を吸引ノズルによって吸引し除去(ステップS3)した後、サンプルウエル30aに所定量のサンプルを供給する(ステップS4)。廃液リザーバ36へのバッファ液の充填については、1回目の電気泳動では廃液リザーバ36にバッファ液が充填されていないため、廃液リザーバ36にバッファ液を供給し、2回目以降の電気泳動では廃液リザーバ36にすでにバッファ液が存在するので、改めて廃液リザーバ36へのバッファ液の充填を行わず、すでに存在するバッファ液を利用する(ステップS5,S6)。
【0036】
次に、サンプルウエル30a内のサンプルと廃液リザーバ36内のバッファ液に電極を挿入して電圧を印加し、分離流路32の一端へのサンプル導入を行なう(ステップS7)。サンプルを分離流路30の一端の分離媒体中に導入した後、サンプルウエル30aに残ったサンプルを吸引ノズルによって吸引し除去する(ステップS8)。その後、サンプルリザーバ34に所定量のバッファ液を供給する(ステップS9)。
【0037】
その後、サンプルリザーバ34内のバッファ液と廃液リザーバ36内のバッファ液に電極を挿入して電圧を印加し、電気泳動を行ない(ステップS10)、分離流路30の一端側流路32上の所定の検出位置に検出器を配置して電気泳動により分離したサンプル成分の検出を行なう。検出方法としては、例えば、検出位置における光学的な蛍光検出、UV(紫外線)吸収検出、化学発光検出、作用電極と検出電極を設けた電気化学検出、あるいは分離流路末端から工レクトロスプレイ法によりイオン化して質量分析計で検出するなどの方法がある。
【0038】
電気泳動が終了した後、連続して次のサンプルの電気泳動を行なう場合には、2回目以降の電気泳動の処理としてステップS2からの動作を繰り返し行なう。すなわち、電気泳動用の電極を各リザーバ34,36から一旦移動させ、分離媒体吐出シリンジ39から所定量の分離媒体を吐出して一端側流路32内及び他端側流路33内の分離媒体の置換を行なう(ステップS2)。前回の電気泳動で使用された古い分離媒体は両流路32,33から押し出されて各リザーバ34,36に排出される。
【0039】
サンプルウエル30a内のバッファ液や分離媒体などの液を吸引ノズルにより吸引して除去し(ステップS3)、サンプルウエル30aに所定量のサンプルを供給する(ステップS4)。廃液リザーバ36内にはバッファ液のほかに他端側流路33から押し出された古い分離媒体やサンプルも含まれているが、バッファ液の量に対して少量であり、バッファ液と分離媒体の組成に大きな差がないため、廃液リザーバ36内のバッファ液の入れ替えは行なわない。その後は、1回目の電気泳動動作と同様に、この状態でサンプルウエル30aと廃液ウエル30bの液内に電極を挿入して電圧を印加し、サンプルを分離流路30の一端の分離媒体中に導入し(ステップS7)、サンプルウエル30a内の残留サンプルを吸引ノズルにより吸引して除去した後(ステップS8)、サンプルリザーバ34にバッファ液を供給して(ステップS9)、サンプルリザーバ34と廃液リザーバ36のバッファ液内に電極を挿入して電圧を印加し、サンプルの電気泳動を行なう(ステップS10)。
【符号の説明】
【0040】
2,30 分離流路
2a,30a 分離流路一端
2b,30b 分離流路他端
4,32 一端側流路
6,33 他端側流路
10,38 分離媒体注入部
12 検出位置
14 検出器
16,39 分離媒体充填機構
18 電圧印加部
26,28 透明基板
34 サンプルリザーバ
36 廃液リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に電圧を印加することによって一端に導入したサンプルの電気泳動分離を行なうための分離流路と、
前記分離流路の途中に設けられ前記分離流路のうちの試料導入側の前記一端部までの一端側流路と他端部までの他端側流路に同時に分離媒体を注入するための分離媒体注入部と、を備えている電気泳動デバイス。
【請求項2】
前記一端側流路上に分離成分を検出するための検出位置が設けられ、
前記他端側流路の流路抵抗は前記一端側流路と同じか又はそれよりも高く設定されている請求項1に記載の電気泳動デバイス。
【請求項3】
前記一端側流路と分離流路の長さ及び流路抵抗は、前記分離媒体注入部から注入された分離媒体が両流路内に同時に充填されるように設定されている請求項1又は2に記載の電気泳動デバイス。
【請求項4】
前記分離流路の他端部に該他端から排出された液を貯留しておくためのリザーバが設けられており、該リザーバは前記一端側のサンプル注入用リザーバよりも容量が大きく、廃液される分離媒体の複数回分を貯留できる大きさに設定されている請求項1から3のいずれか一項に記載の電気泳動デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電気泳動デバイスと、
前記電気泳動デバイスの分離媒体注入部から分離流路に分離媒体を充填する分離媒体充填機構と、
前記電気泳動デバイスの分離流路の両端間に電気泳動のための電圧を印加する電圧印加部と、
前記電気泳動デバイスの分離流路で電気泳動分離されたサンプル成分を検出する検出器と、を少なくとも備え、
分離流路への分離媒体の充填、分離流路でのサンプルの電気泳動分離、及び電気泳動分離されたサンプル成分の検出を含む一連の操作を、前記分離媒体充填機構を前記電気泳動デバイスの分離媒体注入部に接続した状態で複数回繰り返す電気泳動分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−202888(P2012−202888A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69166(P2011−69166)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)