説明

電気泳動パターン出力装置、及びプログラム

【課題】複数の種類のPCR産物を混合したものを電気泳動してパターンを比較するときに、スラブゲルの画像とキャピラリ電気泳動の信号の比較を行うためのDNA泳動パターン表示装置を提供する。
【解決手段】スラブゲルでは泳動開始点付近の分離する距離が狭く、キャピラリ電気泳動では、逆にDNAフラグメントの検出信号が得られ始めたときがもっともDNAバンド間の距離が短い。そのため、バンドのピーク位置を認識し、動的計画法などの手法で両者の関係を求め、それらの相同となるピーク位置を関連付けて表示することで、ユーザが判断しやすい出力結果を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動パターン出力装置、及びプログラムに関し、複数のキャピラリまたは平板状ゲル電気泳動などの泳動分離処理から得られるDNA泳動パターンを並べて表示する電気泳動パターン出力装置、及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
異なる形状の電気泳動媒体を用いた場合や検出方法が異なる電気泳動パターンを相互に比較するためには、それぞれの泳動によって得られる性質を加味して比較する必要がある。
【0003】
従来、法的なDNA鑑定などでは、ゲルを充填したキャピラリを使用したキャピラリ電気泳動装置を用いる場合(例えば、特許文献1参照)と、平板状のゲルを用いてスラブゲル電気泳動法などを用いる場合(例えば、特許文献2参照)がある。
【0004】
さらに、それらの泳動結果は、キャピラリ電気泳動法では、泳動とともにキャピラリの末端から出てくる蛍光ラベルしたDNAのフラグメントを検出し、その濃度波形が1次元状の波形データとして得られている。また、スラブゲル電気泳動装置では、所望の電気泳動を行った後で、ガラス板ごとフラットベッドタイプのイメージスキャナにより、DNAフラグメントの分布画像が、2次元画像として得られる。
【0005】
これらの泳動結果を用いてDNA鑑定など法的な利用を行う場合、再現性や精度などに関して大変注意を要することは周知の事実である。場合によっては、キャピラリ電気泳動による波形のデータは1次元の波形データだけであるため、結果の信頼性を評価するためにスラブゲルによる電気泳動画像を得て、2次元的な画像としてパターンを複合的に比較しながら検証することもしばしば行われている。
【0006】
【特許文献1】特許第3034770号公報
【特許文献2】特許第3060001号公報
【特許文献3】特許第3283193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1次元のキャピラリ電気泳動データと2次元のスラブゲル電気泳動データとを比較する上で注意しなければならない点は、検出方法の相違によるバンドパターンの相違があるということである。一般的にキャピラリ電気泳動方式では、電気泳動の分離が終了する末端位置で分離されたDNAの量を蛍光標識して検出している。これに対し、スラブゲル電気泳動方式では、電気泳動が進んだある段階で電気泳動泳動を停止し、その停止した時点での電気泳動画像を読み取っている。この読み取り方法の違いにより、バンドパターンは異なったものとして得られる。このため、実験者は頭の中でこれらの違いを加味しながら目視で比較しているという状況である。
【0008】
このように、従来の電気泳動画像の比較方法では、目視によって泳動距離の差を考慮しながら比較しなければならないため、検証作業に時間がかかるという問題がある。また、目視作業という以上、検証のミスにより発生する誤判定のリスクを一定以上低減することが難しい。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、異なった検出方法で得られたデータであっても、目視により検証作業を容易に、かつ確実に行える画像比較情報を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、DNA泳動パターンの相互の相違量を算出しながら比較対象となるバンドパターンの位置を関連付けて表示させる。
【0011】
より具体的には、本発明の電気泳動パターン出力装置は、複数の泳動パターンの比較を支援する泳動パターン比較出力(表示)装置であって、キャピラリ電気泳動のように泳動分離後に固定された検出装置でDNAのバンドパターンを得た場合の1次元の波形情報や、スラブゲルなどを用いた、電気泳動を中止して、全体のパターンを2次元的にスキャンして得られる電気泳動画像との相互の比較のため、それぞれの泳動の特徴に基づいた泳動距離の部分的な相違量を算出する。
【0012】
本発明では、この相違量を用いて画像の特徴的な部分の関係を関係づけて表示するため、1次元の波形データだけでは識別が困難なバンドノイズなどの存在を2次元的に展開した上で裏付けを取ることが容易になり、判定の信頼性を向上できる意味で大変有効である。
【0013】
また、泳動パターンの相違量は、電気泳動によって分離して発生するバンドパターンデータをもとに、非線形に相互に比較し、最もよく適合するパラメタを探してその相違量とする。
【0014】
即ち、本発明による電気泳動パターン出力装置は、DNA電気泳動パターンを出力する電気泳動パターン出力装置であって、同一DNAデータに関して、検出方式の異なる2つの泳動パターンを入力するためのデータ入力部と、2つの泳動パターンの対応関係を算出する泳動パターン処理部と、泳動パターン処理部によって求められた対応関係が分かるように、2つの泳動パターンを出力する出力処理部と、を備える。ここで、泳動パターン処理部は、2つの泳動パターンを比較して、泳動量の差異を求めることにより対応関係を算出し、出力処理部は、泳動量の差異に対応する補正量に従って2つの泳動パターンを補正して出力する。また、泳動パターン処理部は、2つの泳動パターンに対して動的計画法を適用して泳動量の差異を求め、対応関係を算出する。さらに、泳動パターン処理部は、動的計画法適用の結果、2つの泳動パターンにおいて、一方の泳動パターンの1つのデータに他方の泳動パターンの複数のデータが対応する場合には、複数のデータの平均値を対応させる。
【0015】
さらに、本発明は、コンピュータを上記電気泳動パターン出力装置として機能させるためのプログラムも提供する。
【0016】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の処理によれば、異なった検出方法で得られたデータであっても、目視により検証作業を容易に、かつ確実に行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0019】
<DNA泳動パターン表示装置の構成>
図1は、本発明の実施形態によるDNA泳動パターン表示装置10の機能構成を示すブロック図である。図1に示すように、DNA泳動パターン表示装置10は、入力装置11と、ユーザインターフェイス部12と、データアクセス部13と、キャピラリデータ記憶部14aと、スラブゲル電気泳動画像データ記憶部14bと、キャピラリデータとスラブゲル電気泳動データを比較するために正規化処理を行うデータ前処理部15と、泳動パターン相同位置マッピング処理部16と、ディスプレイやプリンタ等の出力装置17と、を備えている。
【0020】
DNA泳動パターン表示装置10は、例えば汎用的なパーソナルコンピュータに所定のプログラムを実行させたものである。ユーザインターフェイス部12、データアクセス部13、データ前処理部15、泳動パターンマッピング処理部16は、プログラムに従ってコンピュータのプロセッサが行う動作のモジュールを表しており、これらは実際には一体としてDNA泳動パターン表示装置10のプロセッサを構成する。
【0021】
キャピラリデータ記憶部14aおよび電気泳動画像データ記憶部14bは、DNA泳動パターン表示装置10のハードディスク等の記憶装置である。入力装置11は、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等の入力手段であり、ユーザがDNA泳動パターン表示装置10に処理の指示を与えたり、キャピラリデータ18aや電気泳動画像データ18b等のデータやパラメタ(得られているデータを出力した機器の情報や光学フィルタの情報、それらの特性データ、分子サイズマーカのデータ)を入力するために用いられる。また、USB(Universal Serial Bus)インターフェイスを介して、メモリ媒体などからデータを読み込むことも可能である。ユーザによる入力装置11を介した操作はユーザインターフェイス部12によって制御される。出力装置17は、表示装置やプリンタ等である。入力されたキャピラリデータ18a及び電気泳動画像データ18bは、例えば、泳動パターンマッピング処理が行われて対応付けられてそれぞれキャピラリデータ記憶部14a及び電気泳動画像データ記憶部14bに格納されるようにしてもよい。
【0022】
<DNA泳動パターン表示装置の動作>
まず、電気泳動パターンの比較対象となるキャピラリデータ18aと電気泳動画像データ18bをUSBなどの接続手段やネットワークなどの入力装置(表示を迅速にするために、間引いたデータが入力される場合もある)11を経由して本装置10に読み込む。
【0023】
読み込まれたデータは、ユーザインターフェイス部12を経由して、それぞれキャピラリデータ記憶部14aと電気泳動画像データ記憶部14bに格納される。
【0024】
次に、比較対象のデータは、キャピラリデータ記憶部14aと電気泳動画像データ記憶部14bからそれぞれデータアクセス部13を介して取り出され、データ前処理部15に供給される。データ前処理部15では、それぞれのデータが持っているピーク時の大きさを比較し、同程度になるようにスケーリング処理(全体の体積を求めて正規化する方法と、バンドのピーク値の平均値が同じレベルになるような正規化処理)を行う。また電気泳動では、泳動距離ごとの蛍光強度のデータであるのに対して、キャピラリデータでは、時間軸に対する蛍光強度のデータであるため、それぞれ蛍光強度の最大値でスケールを合わせ、また泳動距離の最大値とキャピラリデータの泳動時間の最大値で合わせられるようにデータ数などの集計などを行う。次に、これらのデータは、泳動パターンマッピング処理部16に送られ、それぞれのパターンを詳しく比較してそれぞれ相同的な位置の対応付けを行う。
【0025】
次に、泳動パターンマッピング処理部16の処理について詳しく説明する。図2は、比較対象となる泳動パターンデータの例を示す図である。ここでは、スラブゲルを使用した2次元泳動画像22と、キャピラリ泳動を利用した1次元の波形データ21の例を示している。スラブゲルの画像は、電気泳動がある程度進んだ段階で、十分にサンプルが展開されたという状態になってから、その蛍光ラベルされたDNA分布パターンをレーザスキャナなどのイメージ読み取り装置で読み取ったものである。一方、キャピラリ電気泳動装置では、キャピラリの下端で固定されたセンサが、検出ウィンドウの所を通過する蛍光ラベルの強度を読み取り、そのピークパターンを時系列データとして得ている。
【0026】
この検出方法の違いにより、得られるDNAのパターンは少し異なったものとなる。両者は2次元データであることと1次元データであることの違いの他に、バンド間の距離の特徴が異なっている。例えば、スラブゲルの泳動画像では、下の方、つまりDNA分子の小さな方では、一塩基の差によって広い間隔があいている。しかし上方になるに従って、それらの間隔は狭くなり、徐々に詰まった感じになる。一方、キャピラリ電気泳動では、末端の固定された位置にあるセンサが検出しているため、そこを通過するまでの時間でピークパターンが決まる。低分子量での間隔よりも高分子での間隔の方がむしろ広がってくる傾向がある。
【0027】
よって、両者を比較する場合、相互の関係をよく意識しながら順番を比較しなければならないという問題がある。特に分子量の大きな部分では、スラブゲルで間隔が非常に狭くなり、逆にキャピラリ電気泳動では、間隔がどんどん広がり、比較には細心の注意が必要である。
【0028】
DNA鑑定を行う場合、徐々にキャピラリ電気泳動装置の出力で行うように進められているが、一本ごとのキャピラリのゲルの状態は厳密に同じとは限らず、さらに電気泳動では、キャピラリの温度などに影響も受けて微妙に泳動距離が変わったりすることが知られている。
【0029】
犯罪現場で採取されるDNAサンプルには、被害者、加害者など複数の人のDNAが混在している場合がある。その場合、被疑者や特定できている被害者などのDNAサンプルを同時に泳動し、それぞれの電気泳動パターンを比較する。さらに各人種ごとの集団の遺伝子型のデータベースを用いて、被疑者の遺伝子型の頻度がどの程度か、算定している。
【0030】
多くの場合、事件現場などから収集されたDNAは、加害者または被害者のものがほとんどである。しかし、2名以上と思われる遺伝子型が多数含まれることがある。このような場合、いくつかの方法で電気泳動を行い、相互比較しながら確度を上げる必要がある。例えば、キャピラリ電気泳動によって得られたラインプロファイルと、スラブゲルで電気泳動した結果を比較してみる方法がある。
【0031】
図2(a)はスラブゲルでの電気泳動画像であり、図2(b)はキャピラリ電気泳動によって得られた画像である。前者は電気泳動によってDNAフラグメントを展開し、低分子のDNAフラグメントがゲルの下部に到達したところで電気泳動を停止し、電気泳動パターンを読み取っている。一方キャピラリ電気泳動方式では、キャピラリの出口から分離されてくる蛍光標識の濃度に比例した信号を得ている。
【0032】
このため、電気泳動パターンには、若干の差が発生する。図2に示すようにスラブゲルによる電気泳動パターンでは、分子量が多くなるに従って(同図で上側に行くほど)同じ分子量の差であってもそれらの間隔が狭くなる。それに対し、キャピラリ電気泳動では、逆に分子量が大きい側(同図上部)では、間隔が広がってくる傾向を持つ。
【0033】
こういった違いがあるものの、スラブゲルでは、複数のDNAを並べて電気泳動することができ、多色で電気泳動しているキャピラリ電気泳動の方式のように標識してある蛍光物質ごとの分子量の差による補正などの必要がなく、各検体を並べてみながら正確に比較できるという特徴がある。
【0034】
また、得られた結果を評価するには、両者の画像のそれぞれ相当する場所を関連付けて表示することが有益である。例えば、図2に示されるように、相同位置補助線23を用いてそれぞれの電気泳動信号間の相同位置を示す線を引くことで、ユーザが相互のバンドの位置関係を容易に比較しながら評価を進めることができる。そのためには相同位置を求める必要がある。
【0035】
次に、この相同位置を求める方法を説明する。まず、各電気泳動パターンデータを取得し(入力されたデータをそのまま用いても良いし、一旦記憶部14a及び14bに格納されたデータを取得してもよい)、データ前処理部15において前処理を行う。前処理としては、前述の正規化処理、ピーク強調処理や、極端に高い周波数成分を持つノイズ等の影響を低減するためのスムージング処理などである。また、電気泳動の特性が既に分かっている場合は、その特性関数の逆関数を用いたデコンボリューション処理なども有効である。
【0036】
続いて、図2の24の縦の破線で示すようにスラブゲルでは、各レーンの中心線などを代表として、1次元上の蛍光濃度パターン(以下ラインプロファイル24と呼ぶ)を得る。さらに、その縦線24上のピーク位置を2次微分した信号などを用いて得ておく。キャピラリ電気泳動の信号に関しても同様にピーク位置を求めておく。
【0037】
泳動パターンマッピング処理部16は、この前処理済みの信号2種、つまり、スラブゲル電気泳動によって得られた縦線24上のラインプロファイルとキャピラリ電気泳動によって得られたラインプロファイル21と、を例えば音声認識などで用いられているのと同様の動的計画法を用いて全体の最適並置を求める。
【0038】
図6は、泳動パターンマッチング処理を説明するためのフローチャートである。まず、ステップS61において、比較する2つの波形、すなわち図2における2次元電気泳動画像の分子サイズ標準となるバンドから取得したラインプロファイル24とキャピラリ電気泳動装置からの分子サイズマーカの出力信号を、それぞれ縦横の2次元配列として並べる。また、ステップS62(詳細後述)においては、誤差累積値の配列の1行目、1列目に0を代入する。さらにステップS63(詳細後述)において、動的計画法の誤差累積値を計算する。最後にステップS64(詳細後述)において、バックトレースと呼ばれる最適並置のパスを求めている。
【0039】
ここで、動的計画法を用いた場合の計算方法について説明する。図4に計算方法の全体像を示す。縦軸には図2で示したスラブゲルの濃度情報を縦方向にスキャンして得たラインプロファイル24の情報x1, x2,…,x8(図は分かり易くするため、8個のデータを用いている)と、キャピラリ電気泳動装置からの出力21からのデータは同図横軸方向にy1,y2,…y9の9個(同様に9個のデータを示している)を同図中のテーブル41に示すように並べる。動的計画法では、相互のデータを局所ごとにすべての組み合わせで比較しながら、最も類似していると思われるペアを同図中の折れ線上のパス42に示すようにペアとなる画素を探索する計算である。この例では、x1とy1が(以下x1:y1と記す)、x2:y2がペアとなっている。y3, y4に対応するx側の固有のデータはなく、これらはすべてx2と対応付けられている。次にx3:y5となっている。以下同様にお互いの信号の類似している画素が対応付けられていることがわかる。
【0040】
計算の流れを図5を用いて説明する。図5は図4における一つのセルを抜き出したものである。i行、j列の要素が左上の位置である。動的計画法では、図4の左上の1行、1列目の位置から、それぞれの対応するデータの差の2乗値を求めながら計算を進め、両者の相違量の累積値が最小となるパスを求める方式である。この計算の詳細は以下のとおりである。まず、1行目と1列目のすべての要素における誤差の累積値Dを0とする。すなわちD(i,0)=0、ここでi=0,2,3,,,7、D(0,j)=0(ここでj=0,2,…,8)と置く。次に(0,0), (0,1), (1,0)の累積値を使って(1,1)の誤差の累積値D(1,1)を求める(詳細な計算方法は後述)。さらにその下の(1,2)、(1,3)と縦方向に連続して計算を進めることで、順次、次の列の誤差の累積値が求められるという計算方式である。もちろん、計算の順番は、縦横を入れ替えても同じである。計算する上での座標を一般化して説明するため、図5に示すように (i,j), (i,j+1), (i+1,j)、 (i+1,j+1)と表すことにする。また、最初の3点は既に誤差の累積値が求められていて、右下の座標(i+1,j+1)を求める場合について計算方法を説明する。既に求められている誤差の累積値Dは、それぞれDの後に座標を表記することで表すことにする。すると、D(i+1,j+1)は、(式1)で表わされる。
D(i+1,j+1) = {x(i+1)-y(j+1)}^2 + Min[D(i,j), D(i,j+1), D(i+1,j)] (式1)
【0041】
それぞれの格子点からの誤差の累積値Dのうち最も小さいものを選択し、次の組み合わせの誤差の2乗を加算している。この計算を継続してマトリックスを全体に計算していくことで、最右下の格子点において、全体最適並置した場合において、最小となる誤差の2乗の累積値が求められる。
【0042】
さらに、各格子ごとに、3本のパスのうち選択したパス情報を残しておく。最右下の格子からこの選択したパスを遡る(これをバックトレースという)ことで、図4に示したような最適並置のパスが求められる。
【0043】
次に実際の計算例を図7から図9に示す。図7は左端の縦軸方向にスラブゲルの数値例(15,230,〜,20)と横軸方向にキャピラリ電気泳動によって得られた数値列(11,74,〜,10)を演算した例を示したものである。累積値の最初の行と列はすべて0に設定されている。数値の最初の交差位置は15と11であるから、式1を用いて計算するとその差の2乗値は16となり、さらに上、左上、左の3個のセルのうち最小は0であるから、累積誤差は16となり、1行1列に16が代入される。ほか同様に(式1)に当てはめながら計算を続けていく。
【0044】
また、その時に選択したパスを各セルに記憶保存している。図8はその例を示したものである。本例では、上方向からのパスを最小値として選択した場合D(i,j+1)は1の値を、左上からのパスを選択した場合D(i,j)は2の値、左方向からのパスを選択した場合D(i+1,j)は3の値をそれぞれ記憶し、バックトレース時に方向を決めるために利用している。なお、計算上3つのパスのうち複数のパスで同じ最小値を取ることがある。それらに対角方向のパスが含まれる場合は対角方向を優先して選択している。例えば、図8のセル74を例にすると、セル74には16が入っており、セル71、セル72、及びセル73はいずれも0であるため、セル74のパスの値は2(図8のセル84に示すように)になる。なお、1と3すなわち上からと左からのパスが同じ値で最小値の場合、どちらを優先するかは任意であり、いずれか一方を優先するようにプログラムしてよい。このように2次元のマトリクスの左上から計算を進めて、誤差の累積値と、その格子において選択した局所最適なパス、すなわちそのセルだけで見た場合の最小値を選択しうるパスを決めながら右方向の格子へと順に計算を進める。
【0045】
このようにセルごとの局所的な最適パスを求めながら右下の最後のセルまで計算が終えると全体の最適パスを求める準備が整ったことになる。ここでバックトレースを行う。バックトレースは、最も右下のセルから開始する。セルごとに選択された局所最適パスが全体の最適パスに含まれるかどうかは、このバックトレースによってはじめて知ることができる。図8に示す矢印がバックトレースの結果である。図8では、先ず最右下は3(図8の81)である。これは左方向を選択した時の誤差が最小であったことを示す。したがって左方向に一つ遡る。するとそこには2(図8の82)が書き込まれている。2は、対角方向を選択した結果である。したがって次は左上にさかのぼる。そこには2(図8の83)がある。このように、動的計画法では、初めに格子ごとの局所最適パスを、後に使われるかどうかに関係なく計算しておき、バックトレースを行うことで初めて、全体の最適パスを求めることができる。図8の矢印で示した結果が全体の最適並置のパスとなっている。
【0046】
図9に最適並置した相互の数値の関係を示す。図9(a)では、オリジナルの数値を並置し、最適となる数値同士の関係を線分で示している。また、同図(b)には、キャピラリから得られた数値にスラブゲル側の数値をあわせなおしている。ここで、キャピラリ側の数値の30に対応するスラブゲル側の数値は32、20、40の3個が対応していたため、その平均値30.667を挿入している。さらに上下両端の対応する数値のない部分はそのまま端の数値を延長している(原則として、同じサンプルを別の装置で読んでいるにすぎないので、全体でマッチするような解を求めるのが妥当といえる。あまりにも極端にマッチしている場所が異なる場合には別の意味で問題がある可能性があり警告を表示するなどが必要となる)。
【0047】
また、図9では説明のため、数値そのものを示しているが、この部分は濃度の情報として0〜255を白から黒までの色で示すように表示するなどグラフィカルに表示することも可能である。
【0048】
最適並置が求められたら、データ前処理部15で求めてあるピーク位置情報を利用し、それぞれのバンド位置が相互にどのバンドに相当するかの関係を前項の泳動パターンマッピング処理部16で得られた動的計画法のマトリクス上で相当するピーク位置の関係をたどりながら求める。
【0049】
なお、スラブゲル電気泳動装置の画像とキャピラリ電気泳動装置の画像を並べて表示する場合は次のように行う。前述のバックトレースで求められた縦線24上のラインプロファイルとオートシーケンサ信号相互の関係を利用して、相互に補助線23を引くことで図2に示す画面表示を作成することができる。また、キャピラリ電気泳動装置の信号を基準に水平位置になるようにスラブゲル電気泳動装置の画像を縦線24を中心にその左右方向の画素をセットで、局所的に伸縮させることで、図3に示すような画像を作成することができる。もし、スラブゲル電気泳動装置の画像のゆがみが大きい場合は、縦線24を複数に増やして、それぞれ隣の縦線と順番に上記の動的計画法を適用することで、さらに細かな画像補正も可能であることは言うまでもない。
【0050】
得られた相互関係を基に、出力装置17において、図2に示すように相同位置補助線23を表示する。なお、図2においては、原画像をそのままの形状で示し、相同位置補助線によって相互のバンド位置の関係を示しているが、必要に応じて図3に示すようにスラブゲル画像の縮尺を非線形に伸縮し、キャピラリ電気泳動のラインプロファイルの画像と同じスケールで比較しやすいように表示させることもできる。実施例で説明のスラブゲル電気泳動画像(2次元電気泳動画像)とキャピラリ電気泳動装置(オートシーケンサ)の出力信号の場合、スラブゲル電気泳動画像においては分子量の大きなバンドの部分で、バンドの間隔が密になる特徴がある。この特徴を活かすことで、計算量を減らすことが可能である。図10には、両者を並置した時のマトリックス101と、それらに対して動的計画法を用いて最適並置を求めた例を示す。バックトレース後の最適マッチングのルート102は、前述の通り、2次元電気泳動画像の高分子量側でその間隔が密になる。したがって、ルート102に示すように、両者の配置が図のように、縦軸に2次元電気泳動画像からのデータを、横軸方向にキャピラリ電気泳動装置の出力信号を配置した場合、両者の最も分子量の少ないバンドの位置で全体の長さをそろえると、最適マッチングのルートは、上に凸となる。この特徴を用いれば、動的計画法の演算は、この長方形マトリクスの下三角領域に対して行わなくても、最適なマッチングを実現するルートが求められることを意味する。このことにより、動的計画法のマトリクス数は2分の1とすることができ、大幅に速度が改善できる。
【0051】
<その他の実施形態>
本発明によるDNA泳動パターン表示方法は、動的計画法を用いたが、それぞれの泳動データから得られたピーク座標の情報を用い、それらの位置の分布を滑らかにつなぐような関数を決定し、その関数を用いて画像を伸縮したり、相互のピーク位置を相同位置補助線で接続することも可能である。
【0052】
また、本発明は、実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0053】
さらに、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0054】
また、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することにより、それをシステム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納し、使用時にそのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1による、DNA泳動パターン表示装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】スラブゲルの画像とキャピラリ電気泳動の信号を並べて表示する例を示す図である。
【図3】スラブゲルの画像とキャピラリ電気泳動の信号を並べる別の例を示す図である。
【図4】動的計画法の計算原理を説明するための図である。
【図5】1つのセルの計算方法を示す図である。
【図6】動的計画法のフローチャートを示す図である。
【図7】具体的な動的計画法計算の数値例を示す図である。
【図8】バックトレースの例を示す図である。
【図9】数値の並置例を示す図である。
【図10】オートシーケンサの出力信号と2次元画像の縦線(23)データとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10・・・DNA泳動パターン表示装置、11・・・入力装置、12・・・ユーザインターフェイス部、13・・・データアクセス部、14a・・・キャピラリデータ記憶部、14b・・・電気泳動画像データ記憶部、15・・・データ前処理部、16・・・泳動パターンマッピング部、17・・・出力装置、18a・・・キャピラリデータ、18b・・・電気泳動画像データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA電気泳動パターンを出力する電気泳動パターン出力装置であって、
同一DNAデータに関して、検出方式の異なる2つの泳動パターンを入力するためのデータ入力部と、
前記2つの泳動パターンの対応関係を算出する泳動パターン処理部と、
前記泳動パターン処理部によって求められた対応関係が分かるように、前記2つの泳動パターンを出力する出力処理部と、
を備えることを特徴とする電気泳動パターン出力装置。
【請求項2】
前記泳動パターン処理部は、前記2つの泳動パターンを比較して、泳動量の差異を求めることにより前記対応関係を算出し、
前記出力処理部は、前記泳動量の差異に対応する補正量に従って前記2つの泳動パターンを補正して出力することを特徴とする請求項1に記載の電気泳動パターン出力装置。
【請求項3】
前記泳動パターン処理部は、前記2つの泳動パターンに対して動的計画法を適用して前記泳動量の差異を求め、前記対応関係を算出することを特徴とする請求項2に記載の電気泳動パターン出力装置。
【請求項4】
前記泳動パターン処理部は、前記動的計画法適用の結果、前記2つの泳動パターンにおいて、一方の泳動パターンの1つのデータに他方の泳動パターンの複数のデータが対応する場合には、前記複数のデータの平均値を対応させることを特徴とする請求項3に記載の電気泳動パターン出力装置。
【請求項5】
コンピュータを請求項1に記載の電気泳動パターン出力装置として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−38655(P2010−38655A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200136(P2008−200136)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【出願人】(597101155)株式会社ダイナコム (13)