説明

電気泳動装置、および電気泳動装置の制御方法

【課題】電気泳動による成分分離中にキャピラリ流路の異常を検出することができる電気泳動装置を提供する。
【解決手段】電気泳動装置1は、キャピラリ流路47に設けられた電極21,22から電圧を印加して、キャピラリ流路47内に注入された試料に電気泳動による成分分離を生じさせるものであって、物理量取得部71と、物理量判定部72とを備える。物理量取得部71は、キャピラリ流路47内に泳動液及び試料が注入された状態で、電極21,22に電圧が印加されている所定時点において、キャピラリ流路47に生じる電気的物理量を取得する。物理量判定部72は、物理量取得部71により取得された電気的物理量が、所定範囲に含まれるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャピラリ電気泳動法による成分分離を生じさせる電気泳動装置、および電気泳動装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料に含まれる特定成分の濃度や量を分析する装置として、キャピラリ電気泳動装置が用いられる。このキャピラリ電気泳動装置では、キャピラリ流路に泳動液が充填された後、キャピラリ流路の一端側に試料が注入される。ついで、キャピラリ流路の両端に設けられる電極に電圧が印加されることで、電極間に電流が流れて、試料に含まれる特定成分が、それぞれの電気泳動移動度でキャピラリ流路の他端側に移動する。この移動により、試料の特定成分は、他の成分から分離されて、例えば光学的手段により検出されることで、特定成分の濃度や量が分析される。
【0003】
特許文献1,2には、キャピラリ電気泳動装置の例が記載される。これら電気泳動装置では、キャピラリ流路に泳動液が正常に充填されたか否かを判定するため、泳動液の充填後、試料の注入前に、キャピラリ流路両端の電極に電圧が印加されて、電極間に流れる電流の値が計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−107915号公報
【特許文献2】特開平10−246721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャピラリ流路に試料が注入されることで、キャピラリ流路内の液体は、泳動液と試料とが混合された状態になる。つまり、キャピラリ流路内の液体の性質は、注入前後で変わる。このため、電極から同一の電圧を印加する条件下において、試料の注入前後で電極間に流れる電流は異なる。よって、試料の注入後に電気泳動を行う際には、試料の注入前とは別途、印加電圧の値を設定する必要がある。
【0006】
また、キャピラリ流路への試料の注入作業により、キャピラリ流路内の液体には、気泡が発生したり、異物が混入し得る。これらのことから、特許文献1,2のように、試料の注入前に電極間に流れる電流の値を計測したとしても、試料の注入後に、電気泳動分離のため電極に電圧が印加される際に、電圧値から期待される電流が電極間に流れないことが生じ得る。
【0007】
また、キャピラリ流路内に試料が注入された後では、電圧の印加から生じるジュール熱により、キャピラリ流路の構成部材の温度が変化する。このことによっても、電極間に期待される電流が流れなくなる虞れがある。この問題は、複数の試料を分析するために、繰り返し電圧が印加される場合に、高い可能性で生じる。また、キャピラリ流路の構成部材が配置される環境の温度が変化することでも、電極間に期待される電流が流れなくなる虞れがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、電気泳動による成分分離中にキャピラリ流路の異常を検出することができる電気泳動装置、および電気泳動装置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る電気泳動装置は、キャピラリ流路に設けられた電極から電圧を印加して、前記キャピラリ流路内に注入された試料に電気泳動による成分分離を生じさせる電気泳動装置であって、
前記キャピラリ流路内に泳動液及び試料が注入された状態で、前記電極に電圧が印加されている所定時点において、前記キャピラリ流路に生じる電気的物理量を取得する物理量取得部と、
前記電気的物理量が、所定範囲に含まれるか否かを判定する物理量判定部と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記物理量取得部は、前記電極への電圧の印加が開始された時点において、前記電気的物理量を取得することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記物理量判定部により、前記電気的物理量が前記所定範囲に含まれないと判定された場合に、前記キャピラリ流路を洗浄するための洗浄信号を出力する洗浄判定部をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記キャピラリ流路の構成部材を交換するための交換信号を出力する交換部をさらに備え、
前記物理量取得部は、前記電極に電圧が印加されている所定時点のたびごとに、前記電気的物理量を取得し、
前記物理量判定部は、前記物理量取得部により前記電気的物理量が取得されるたびに、該電気的物理量が、前記所定範囲に含まれるか否かを判定し、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量が前記所定範囲に含まれないと判定されるたびに、前記洗浄判定部は、前記洗浄信号を出力し、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量が前記所定範囲に含まれないと連続して判定された回数が、第1の所定回数に至ったときには、前記洗浄信号は出力されずに、前記交換部が、前記交換信号を出力することを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記物理量取得部が取得する前記電気的物理量を記憶する記憶部と、
前記キャピラリ流路の構成部材の温度を調節するための温度調節信号を出力する温度調節部とをさらに有し、
前記物理量取得部は、前記電極に電圧が印加されている間に、前記キャピラリ流路に生じる電気的物理量を、所定の時間間隔で取得し、
前記物理量取得部により前記電気的物理量が取得されるたびに、前記物理量判定部は、前記電気的物理量と、過去に前記記憶部に記憶された前記電気的物理量との差分を算出して、該差分が所定値を超えたか否かを判定し、
前記物理量判定部により、前記差分が前記所定値を超えたと判定された場合に、前記温度調節部は、前記温度調節信号を出力することを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記キャピラリ流路の構成部材を交換するための交換信号を出力する交換部をさらに備え、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量の差分が所定値を超えたと判定されるたびに、前記温度調節部による前記温度調節信号の出力が実行され、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量の差分が所定値を超えたと判定された回数が、第2の所定回数に至ったときには、前記温度調節信号の出力は実行されずに、前記交換部が、前記交換信号を出力することを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記物理量取得部が取得する前記電気的物理量を記憶する記憶部と、
前記電極に印加される電圧の大きさを変更させる電圧変更部とをさらに有し、
前記物理量取得部は、前記電極に電圧が印加されている間に、前記キャピラリ流路に生じる電気的物理量を、所定の時間間隔で取得し、
前記物理量取得部により前記電気的物理量が取得されるたびに、前記物理量判定部は、前記電気的物理量と、過去に前記記憶部に記憶された前記電気的物理量との差分を算出して、該差分が所定値を超えたか否かを判定し、
前記物理量判定部により、前記差分が前記所定値を超えたと判定された場合に、前記電圧変更部は、前記電極に印加される電圧の補正値を算出して、前記電極に印加される電圧の大きさを、前記補正値に変更することを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記電圧変更部は、前記過去に記憶された前記電気的物理量との前記差分が前記所定値を超えていない前記電気的物理量に基づき、前記補正値を算出することを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記電圧変更部は、予め設定される前記電気的物理量の目標値に基づき、前記補正値を算出することを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記キャピラリ流路の構成部材を交換するための交換信号を出力する交換部をさらに備え、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量の差分が所定値を超えたと判定されるたびに、前記電圧変更部による前記電極への印加電圧の変更が実行され、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量の差分が所定値を超えたと判定された回数が、第2の所定回数に至ったときには、前記電極への印加電圧の変更は実行されずに、前記交換部が、前記交換信号を出力することを特徴とする。
【0019】
好ましくは、前記記憶部に記憶された前記電気的物理量に基づき、次回に前記電極に印加する電圧の値を算出する電圧値算出部を備え、
前記電気泳動装置は、前記電圧算出部が算出した電圧を前記電極に印加することを特徴とする。
【0020】
好ましくは、前記電気的物理量は、前記電極への電圧の印加により、前記電極間に流れる電流の値であることを特徴とする。
【0021】
好ましくは、前記キャピラリ流路と、前記キャピラリ流路の端に連結して溶液を蓄積することができるリザーバと、を有するマイクロチップと、
前記キャピラリ流路へ前記溶液を分注する分注手段と、
前記リザーバの外部から、該リザーバの内部および前記キャピラリ流路の内部にある前記溶液を吸引する吸引手段と、
を備えることを特徴とする。
【0022】
好ましくは、前記分注手段は、前記リザーバの内部および前記キャピラリ流路の内部にある前記溶液を吸引する吸引手段を兼ねることを特徴とする。
【0023】
好ましくは、前記リザーバを介して前記キャピラリ流路と連通し、前記キャピラリ流路とは異なる流路である補助路と、
前記補助路と連通するリザーバを外部から封止する封止部と、
前記補助路の他端部から前記リザーバの内部および前記キャピラリ流路の内部にある前記溶液を吸引する第2の吸引手段と、
を備えることを特徴とする。
【0024】
本発明の第2の観点に係る電気泳動装置の制御方法は、キャピラリ流路に設けられた電極から電圧を印加して、前記キャピラリ流路内に注入された試料に電気泳動による成分分離を生じさせる電気泳動装置の制御方法であって、
前記キャピラリ流路内に泳動液及び試料が注入された状態で、前記電極に電圧が印加されている所定時点において、前記キャピラリ流路に生じる電気的物理量を取得する物理量取得ステップと、
前記電気的物理量が、所定範囲に含まれるか否かを判定する物理量判定ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0025】
好ましくは、前記電気泳動装置には、前記キャピラリ流路と、前記キャピラリ流路の端に連結して溶液を蓄積することができるリザーバと、を有するマイクロチップが設けられ、
前記リザーバおよび前記キャピラリ流路に前処理液を充填する充填工程と、前記キャピラリ流路の両端のいずれか一方の前記リザーバの外部から、前記充填工程で該リザーバおよび分離流路に充填された該前処理液を吸引して、該リザーバおよび分離流路から該前処理液を排出する排出工程と、を少なくとも1回ずつ含む洗浄工程と、
前記キャピラリ流路に緩衝液を充填し、測定対象である試料を前記キャピラリ流路に分注する分注工程と、
前記キャピラリ流路の両端に電圧を印加して電気泳動を行う工程と、
前記電気泳動の測定結果を検出する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0026】
好ましくは、前記排出工程は、試料を分注する側の前記リザーバの外部から、前記分注工程において前記試料を分注するときに用いる分注手段で前記前処理液を吸引することを特徴とする。
【0027】
好ましくは、前記排出工程は、前記リザーバを外部から封止し、前記リザーバを介して前記キャピラリ流路と連通し、該キャピラリ流路とは異なる流路である補助路の、該キャピラリ流路から遠い方の端の外部から該キャピラリ流路の内部の前記前処理液を吸引することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、キャピラリ流路に生じる電気的物理量が所定範囲に含まれるか否かの
判断が、キャピラリ流路内に泳動液及び試料が注入された状態で実行される。よって、泳
動液と試料との混合により、キャピラリ流路内の液体の性質が変化することに合わせて、
試料の注入作業により、キャピラリ流路内の液体に、気泡等が発生することや、さらには
、マイクロチップに温度上昇が生じることで、電極間に期待される電流が流れないことが
検出される。よって、電気泳動による成分分離中にキャピラリ流路の異常を検出すること
ができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電気泳動装置の構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態1に係る電気泳動装置の電源構成を示す回路図である。
【図3】実施の形態1に係る電気泳動装置で実行される処理を示すフローチャートである。
【図4】電圧印加開始時の判定処理で、電流値の判定に用いられる閾値(電流値の範囲)を示す図である。
【図5】電圧印加中の判定処理で、電流値の差分の判定に用いられる閾値(電流値の差分)を示す図である。
【図6】電圧印加開始時の判定処理を示すフローチャートである。
【図7】電圧印加中の判定処理を示すフローチャートである。
【図8】電圧印加中の判定処理で取得された電流値が記録されるテーブルを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る電気泳動装置の構成を示す概略図である。
【図10】実施の形態2に係るマイクロチップの構成概略図である。(a)は平面図、(b)は(a)のX−X断面図、(c)は(a)のY−Y断面図である。
【図11】実施の形態2に係る電気泳動装置の、マイクロチップを含む概略部分図である。
【図12】実施の形態2に係る電気泳動装置で実行される処理を示すフローチャートである。
【図13】実施の形態2に係る電気泳動装置で実行される前処理工程の洗浄工程の一部を示すフローチャートである。
【図14】実施の形態2の変形例に係る電気泳動装置の構成を示す概略図である。
【図15】実施の形態2の変形例に係る電気泳動装置の、マイクロチップを含む概略部分図である。
【図16】本発明の実施の形態3に係る電気泳動装置の構成を示す概略図である。
【図17】実施の形態3に係る電気泳動装置の、マイクロチップを含む概略部分図である。
【図18】実施の形態3に係る電気泳動装置で実行される前処理工程の洗浄工程の一部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態に係る電気泳動装置の構成を示す概略図である。図2は、実施の形態1に係る電気泳動装置の電源構成を示す回路図である。
【0031】
電気泳動装置1は、貯槽部2、分注手段3、マイクロチップ4、検出装置5、温度調節装置6、制御装置7、電源部8、電圧計9、及び電流計10を備える。本実施形態においては、電気泳動装置1は、キャピラリ電気泳動法による成分分離を行う。なお、図1においては、理解の便宜上、電源部8、電圧計9、及び電流計10を省略する。
【0032】
貯槽部2は、泳動液槽11、精製水槽12、洗浄液槽13を備える。泳動液槽11には、泳動液L1が溜められる。泳動液L1は、キャピラリ電気泳動法においていわゆるバッファとして機能する液体であり、たとえば、100mMりんご酸−アルギニンバッファ(pH5.0)+1.5%コンドロイチン硫酸Cナトリウムである。精製水槽12には、精製水L2が溜められる。洗浄液槽13には、洗浄液L3が溜められる。
【0033】
分注手段3は、試料Spを、キャピラリ電気泳動が行われるキャピラリ流路47に注入し、さらには、試料Spを分析に適した状態に希釈する機能を有する。分注手段3は、試料容器14、希釈槽15、シリンジ16、およびノズル17を備える。
【0034】
試料容器14は、ガラス製の採血管18と、採血管18の開口に取り付けられる蓋60とを備える。採血管18には、全血である試料Spが収容される。希釈槽15は、試料Spを分析に適した濃度に希釈するために設けられる。シリンジ16には、ノズル17が接続される。ノズル17は、例えばステンレスから形成され、試料容器14の蓋60を貫通可能である。ノズル17は、蓋60を貫通しやすくするために、先端が斜めに切断されて、鋭利な形状を呈する。ノズル17は、シリンジ16の吸気動作および排気動作によって、試料Spを吸入および排出可能である。ノズル17は、図示しない駆動機構に支持される。この駆動機構の作動により、ノズル17は、試料容器14への挿入および引き抜き、希釈槽15への進入および退出、キャピラリ流路47への進入および退出が可能である。
【0035】
マイクロチップ4は、キャピラリ流路47を構成する部材であり、例えばシリカから形成される。キャピラリ流路47の断面は、例えば、直径が25〜100μmの円形、または辺の長さが25〜100μmの矩形であることが好ましいが、キャピラリ電気泳動法を行うのに適した形状および寸法であればこれに限定されない。
【0036】
キャピラリ流路47の一端には、導入孔19が設けられ、キャピラリ流路47の他端には、排出孔20が設けられる。試料Sp、泳動液L1、精製水L2、および洗浄液L3は、導入孔19からキャピラリ流路47に充填される。キャピラリ流路47に充填された試料Sp、泳動液L1、精製水L2、および洗浄液L3は、排出孔20から排出される。
【0037】
キャピラリ流路47には、一端側及び他端側に電極21及び電極22が設けられる。電極21は、導入孔19から露出しており、電極22は、排出孔20から露出している。
【0038】
検出装置5は、キャピラリ流路47内で試料Spから分離された特定成分を分析するために設けられ、キャピラリ流路47のうち、導入孔19よりも排出孔20に近い側に配置される。検出装置5は、例えば、光源(図示略)および受光部(図示略)からなり、光源の光を試料Spに照射し、試料Spからの反射光を受光部によって受光する。これにより、試料Spの吸光度が測定される。
【0039】
制御装置7は、電気泳動装置1の各部を制御するために設けられる。制御装置7は、制御部23と、外部記憶部24と、主記憶部25と、入出力部26とを備える。
【0040】
制御部23は、CPU(Central Processing Unit)等から構成され、外部記憶部24に記憶されているプログラムに従って、電気泳動の成分分離に係る処理を実行する。
【0041】
外部記憶部24は、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD−RAM(Digital Versatile Disc Random-Access Memory)、DVD−RW(Digital Versatile Disc ReWritable)等の不揮発性メモリから構成される。外部記憶部24は、制御部23に処理を行わせるためのプログラムを予め記憶し、また、制御部23の指示に従って、制御部23から供給されたデータを記憶し、また、記憶したデータを制御部23に供給する。
【0042】
主記憶部25は、RAM(Random-Access Memory)等から構成される。主記憶部25は、外部記憶部24に記憶されているプログラムをロードし、制御部23の作業領域として用いられる。
【0043】
入出力部26は、入出力インタフェース等から構成され、電気泳動装置1の各部や、図2に示す情報表示手段としてのPC(Personal Computer)27との信号の送受信が可能である。
【0044】
温度調節装置6は、制御装置7の制御によりマイクロチップ4を冷却或いは加熱することで、マイクロチップ4の温度を調整可能である。
【0045】
電気泳動装置1には、三方弁28,29,30,31が設けられる。三方弁28,29,30,31は、それぞれ3つの接続口(図示略)を有し、これらの接続口どうしの連通状態および遮断状態が、制御装置7により制御される。
【0046】
泳動液槽11は、流路32を介して三方弁28に接続される。精製水槽12および洗浄液槽13は、流路33,34を介して三方弁30に接続される。希釈槽15は、流路35を介して三方弁28に接続され、流路36を介して三方弁31に接続される。三方弁28は、流路37を介して三方弁29に接続される。三方弁30は、分岐流路38を介して三方弁29,31に接続される。
【0047】
キャピラリ流路47の導入孔19は、流路39を介して三方弁29に接続される。流路39において、キャピラリ流路47の導入孔19に接続される下流側部分には、ピンチバルブ40が設けられる。ピンチバルブ40は、制御装置7によって開閉が制御され、キャピラリ流路47への液体の流入を、許容および遮断可能である。
【0048】
キャピラリ流路47の排出孔20は、流路41を介して三方弁31に接続される。流路41において、キャピラリ流路47の排出孔20に接続される上流部分には、ピンチバルブ56が設けられる。ピンチバルブ56は、制御装置7によって開閉が制御され、キャピラリ流路47からの液体の排出を、許容および遮断可能である。
【0049】
三方弁31の下流側には、流路42が設けられる。流路42の排出口は、廃液ボトル43内に配置される。廃液ボトル43は、使用済みの液体を貯蔵するために設けられる。廃液ボトル43には、吸引ポンプ44が接続される。吸引ポンプ44は、制御装置7の制御により負圧を発生する。この負圧は、三方弁31から分岐流路38および流路41を経由して、キャピラリ流路47に作用する。
【0050】
図2に示すように、電極21,22は、電線45を介して電源部8に接続される。電源部8と電極21との間には、スイッチ46が設けられる。スイッチ46は、制御装置7によりON/OFF制御され、この制御により、電源部8から電極21,22への電圧の印加が可能である。以下の説明では、電源部8は、電極21が正極に、電極22が負極になるように電圧が印加される例を説明するが、電源部8は、これとは反対の極性で電圧を印加する機能を有していてもよい。
【0051】
電圧計9は、電源部8から電極21,22に印加される電圧の値を計測する。電流計10は、電極21,22間に流れる電流の値を計測する。電圧計9及び電流計10の計測値は、制御装置7に出力される。
【0052】
次に、電気泳動装置1で実行される処理について説明する。図3は、電気泳動装置1で実行される処理を示すフローチャートである。このフローは、洗浄工程S11、充填工程S12、分注工程S13、分離工程S14、および分析工程S15に大別される。
【0053】
洗浄工程S11は、キャピラリ流路47を洗浄する工程である。具体的には、制御装置7からの信号によって、三方弁30は、流路33,34と分岐流路38とが連通する状態に切り替えられる。また、三方弁29は、分岐流路38と流路39とが連通する状態に切り替えられる。ピンチバルブ40は開状態とされ、ピンチバルブ56は閉状態とされる。三方弁31は、分岐流路38と廃液ボトル43とが連通する状態に切り替えられる。以上の状態で、制御装置7は、吸引ポンプ44を作動させて、負圧を生じさせる。この負圧の発生により、キャピラリ流路47内に、精製水L2および洗浄液L3が充填され、該充填された精製水L2および洗浄液L3は、廃液ボトル43に排出される。なお、洗浄工程S11は、キャピラリ流路47に洗浄液L3を流した後に、精製水L2を流すように実施されてもよい。
【0054】
充填工程S12は、電気泳動を実現するための泳動液L1をキャピラリ流路47に充填する工程である。具体的には、制御装置7からの信号により、三方弁28は、流路32と流路37とが連通し、流路32,37と流路35とが遮断される状態に切り替えられる。また、三方弁29は、流路37と流路39とが連通し、流路37,39と分岐流路38とが遮断される状態に切り替えられる。ピンチバルブ40,56及び三方弁31は、洗浄工程S11と同じ状態に維持される。以上の状態で、制御装置7が、吸引ポンプ44を作動させることで、泳動液L1が、導入孔19を通じてキャピラリ流路47内に充填される。
【0055】
分注工程S13は、試料Spを導入孔19からキャピラリ流路47内に注入する工程である。
【0056】
具体的には、制御装置7の信号により、上述した駆動機構(図示略)が作動して、ノズル17に蓋60を貫通させて、ノズル17の先端が採血管18内の試料Spに漬けられる。ついで、制御装置7が、シリンジ16に吸気動作をさせることで、ノズル17内に試料Spが吸引される。
【0057】
一方、制御装置7は、三方弁28を、流路32と流路35とが連通する状態に切り替え、図示しないポンプを用いて圧力を発生させることにより、希釈槽15に泳動液L1を導入する。ついで、制御装置7は、上述した駆動機構を作動させることで、ノズル17を蓋60から抜き出し、ノズル17の先端を、希釈槽15の泳動液L1に漬ける。ついで、制御装置7は、シリンジ16に排気動作をさせることにより、希釈槽15に試料Spを導入する。このとき、試料Spと泳動液L1との攪拌を促進するために、シリンジ16に吸気動作と排気動作を繰り返し実行させることが好ましい。試料Spは、例えば、ヘモグロビンを含む全血である。泳動液L1は、血球膜を破壊する溶血作用を発揮する溶血成分を含んでおり、希釈槽15内で試料Spと攪拌されることで、試料Spの血球を溶血する。
【0058】
ついで、制御装置7は、シリンジ16に吸気動作をさせることで、希釈槽15で希釈された試料Spを、ノズル17内に吸引する。ついで、上述した駆動機構を作動させることで、ノズル17の先端を、キャピラリ流路47の導入孔19に侵入させる。この状態で、制御装置7が、シリンジ16に排気動作をさせることにより、導入孔19に希釈された試料Spが導入される。以上により、キャピラリ流路47で電気泳動法による分析が可能な状態になる。なお、分析対象である試料Spの希釈が必要ではない場合には、希釈工程を経ることなく、分注工程S13が実施されてもよい。
【0059】
分離工程S14は、キャピラリ流路47に充填された試料Spに含まれる特定成分であるヘモグロビンを分離する工程である。
【0060】
具体的には、図2に示す回路において、制御装置7の信号により、スイッチ46がON状態に切り替えられて、電源部8から電極21,22に電圧が印加される(ステップS101:図3)。この際には、電圧計9の計測値が所定値になるように、電源部8の出力値が調整される。電極21,22に電圧が印加されることで、電極21,22間に電流が流れ、キャピラリ流路47内の液体(泳動液L1及び試料Spの混合液)に、電極21から電極22へと向かう電気浸透流が発生する。これにより、ヘモグロビンには、固有の電気泳動移動度に応じた移動が生じる。電気泳動移動度は物質によって異なるため、ヘモグロビンは、試料Spに含まれる他の成分とは異なる速度で、電極21から電極22に向かって移動する。
【0061】
分析工程S15は、分離された特定成分であるヘモグロビンの量もしくは濃度などを検出する工程である。具体的には、制御装置7の信号により、検出装置5は、上述の光源(図示略)から波長が415nmの光を照射して、その反射光を上述の受光部によって受光する。上記光源から光が照射された部分(図1の黒丸部分)を、試料Spから分離されたヘモグロビンが通過すると、上記受光部の受光状態から把握される吸光度が変化する。この変化を制御装置7が処理することで、ヘモグロビンの量もしくは濃度が検出される。制御装置7の外部記憶部24には、この検出結果が電気泳動による成分分離の分析結果として記憶される。
【0062】
本実施の形態の電気泳動装置1は、図3の処理を繰り返して、試料Spの電気泳動分離を複数回行うため、キャピラリ流路47への泳動液L1及び試料Spの注入や、電極21,22への電圧の印加を、複数回行うことが可能である。
【0063】
ここで、図3の処理が繰り返して実行される過程では、各回の分注工程S13で、キャピラリ流路47内の泳動液L1に試料Spが混合することで、キャピラリ流路47内の液体の電気抵抗が変化する。
【0064】
また分注工程S13では、試料Spをキャピラリ流路47内に注入する作業、すなわちノズル17を導入孔19に侵入させて、ノズル17から試料Spを排出する作業により、キャピラリ流路47内の液体には、気泡が発生したり、異物が混入し得る。このことによっても、キャピラリ流路47内の液体の電気抵抗は変化する。
【0065】
また、分離工程S14では、電極21,22に電圧が印加されることで(ステップS101)、マイクロチップ4にジュール熱が蓄積して、マイクロチップ4の温度が上昇する。この温度上昇により、キャピラリ流路47内の液体(泳動液L1・試料Spの混合液)は、加熱されて、電気抵抗が変化する。また、マイクロチップ4が配置される環境の温度が変化することでも、キャピラリ流路47内の液体は、温度が変化して、電気抵抗が変化する。
【0066】
上記電気抵抗の変化により、電極21,22間に期待される電流が流れない状態で、電気泳動分離が行われることを防止するため、分離工程S14では、ステップS102〜S112の判定処理が実行される。ステップS102〜S112の判定処理では、キャピラリ流路47に生じる電気的物理量、すなわち、電極21,22間に流れる電流値(電流計10の計測値)が用いられる。
【0067】
ステップS102〜S112の判定処理を実行するため、図2に示すように、制御装置7では、物理量取得部71、物理量判定部72、記憶部73、洗浄判定部74、交換部75、温度調節部76、電圧変更部77、及び電圧値算出部78が構成される。
【0068】
物理量取得部71、物理量判定部72、洗浄判定部74、交換部75、温度調節部76、電圧変更部77、及び電圧値算出部78は、外部記憶部24に記憶されたプログラムに従って、制御部23が処理を実行することで実現される。記憶部73は、主記憶部25の一部に記憶領域の構造体として保持される。
【0069】
ステップS102〜S112の判定処理には、ステップS101の電圧印加開始時点で実行される判定処理(ステップS102〜S106:以下、電圧印加開始時の判定処理)と、電圧の印加が開始されてから、試料Spの分析(ヘモグロビンの量や濃度の検出)が完了するまでの間に実行される判定処理(ステップS107〜S112:以下、電圧印加中の判定処理)とが含まれる。
【0070】
電圧印加開始時の判定処理では、電圧の印加開始時に電流計10が計測した電流値が、所定範囲に含まれるか否か判定される(ステップS102)。電流値が所定範囲に含まれないと判定された場合(ステップS102でNG)、電極21,22への電圧の印加が停止される(ステップS103)。この後、キャピラリ流路47を洗浄するための洗浄信号が出力されて(ステップS105)、洗浄工程S11が実行される。この処理は、キャピラリ流路47内の液体への気泡の発生やゴミ等の異物の混入、マイクロチップ4の温度上昇、環境温度の変化により、電極21,22間に期待される電流が流れない場合に、分離工程S14を中止することを目的とする。さらには、キャピラリ流路47内を洗浄することで、キャピラリ流路47内から気泡や異物を除去することを目的とする。
【0071】
ステップS102の判定は、ステップS101で電圧が印加されるたびに実行される。そして、ステップS102でNGと判定されるたびに、電圧の印加が中止されて(ステップS103)、洗浄信号が出力される(ステップS105)。
【0072】
ステップS102でNGと判定されることが連続して第1の所定回数(以下、N回と記す)繰り返された場合には、電圧の印加が中止された後、ステップS104でYESと判定される。この場合、洗浄信号は出力されずに、マイクロチップ4の交換信号が出力される(ステップS106)。この処理は、ステップS105の洗浄ではキャピラリ流路47内に混入した異物を除去できない場合や、マイクロチップ4の装置寿命がきた場合に、マイクロチップ4を交換することを目的とする。
【0073】
以下、電圧印加開始時の判定処理による制御の具体例を、図4を用いて説明する。なお以下では、ステップS102でNGと判定されることが連続して4回繰り返された場合(N回が4回である場合)に、ステップS104でYESと判定されるものとする。
【0074】
図4は、ステップS102の判定に用いられる閾値を示す図である。黒丸で示す電流値I〜I10は、図3の処理が繰り返される過程において、その1〜10回目で電流計10から取得される電流値である。閾値は、電流値Ik以上、電流値Ij以下の範囲に設定される。上記の閾値は、この範囲の大きさの電流が電極21,22間に流れた場合に、ヘモグロビンの電気泳動移動度が所望値になるものである。
【0075】
1,2回目に取得される電流値I,Iは、閾値の範囲に含まれている。よって1,2回目の処理では、ステップS102(図3)でOKと判定され、後述のステップS107に移行する。
【0076】
3回目に取得される電流値Iは、閾値の範囲に含まれていない。よって3回目では、ステップS102でNGと判定されて、電圧の印加が中止される(ステップS103)。
【0077】
また3回目までに、電流値が閾値の範囲に含まれない(ステップS102でNG)と連続して判定される回数は、1回(3回目のNG)のみであり、4回に至っていない。よって3回目では、ステップS104でNOと判定されて、洗浄信号が出力される(ステップS105)。
【0078】
4,5,6回目に取得される電流値I,I,Iは、閾値の範囲に含まれている。よって、4,5,6回目の処理では、1,2回目と同様、ステップS102でOKと判定されて、ステップS107に移行する。
【0079】
7,8,9回目に取得される電流値I,I,Iは、閾値の範囲に含まれていない。よって、7,8,9回目では、ステップS102でNGと判定されて、電圧の印加が中止される(ステップS103)。
【0080】
また9回目までに、ステップS102でNGと連続して判定される回数は、3回(7,8,9回目のNG)であり、4回に至っていない。よって7,8,9回目では、ステップS104でNOと判定されて、洗浄信号が出力される(ステップS105)。
【0081】
10回目に取得される電流値I10も、閾値の範囲に含まれていない。よって、10回目でも、ステップS102でNGと判定されて、電圧の印加が中止される(ステップS103)。
【0082】
10回目まででは、ステップS102でNGと連続して判定される回数が、4回(7,8,9,10回目のNG)に至る。よって、ステップS104ではYESと判定されて、マイクロチップ4の交換信号が出力される(ステップS106)。
【0083】
次に、電圧印加中の判定処理(ステップS107〜S112)について説明する。ステップS107〜S112では、所定の時間間隔で、電流計10が計測する電流値が取得される。電流値が取得されるたびに、該電流値と、過去に計測された電流値との差分が算出されて、差分が所定値を超えていないかどうかが判定される(ステップS107)。
【0084】
電流値の差分が所定値を超えたと判定された場合には(ステップS107でNG)、マイクロチップ4の温度を調節するための温度調節信号が出力される(ステップS109)。また、電極21,22に印加される電圧の大きさが、補正値に変更される(ステップS110)。この処理は、マイクロチップ4の温度変動等により、電極21,22間を流れる電流に大きな変化が生じた場合に、マイクロチップ4の温度を調節したり、電圧値を変更することで、電流値を目標値近傍に安定させることを目的とする。
【0085】
電流計10から取得される電流値に大きな変動が連続して生じたことで、ステップS107でNGと連続して判定される回数が第2の所定回数(以下、N回と記す)に至ったときには、ステップS108でYESと判定される。この場合、温度調節信号の出力や電圧値の変更は実行されずに、電圧の印加が中止されて(ステップS111)、マイクロチップ4の交換信号が出力される(ステップS112)。この処理は、温度調節や電圧値の変更では、マイクロチップ4の温度変動を抑えきれない場合に、分離工程S14を中止して、マイクロチップ4を交換することを目的とする。
【0086】
以下、電圧印加中の判定処理による制御の具体例を、図5を用いて説明する。なお、以下の説明では、ステップS107でNGと連続して4回判定された場合(N回が4回である場合)に、ステップS108でYESと判定されるものとする。
【0087】
図5は、電圧印加中の判定処理において、ステップS107の判定に用いられる閾値ΔIsを示す図である。
【0088】
電圧印加中の判定処理では、上述のように電流計50から所定の時間間隔で電流値が取得される。図5に示すΔI〜ΔI10は、その1〜10回目に取得される電流値に基づき算出される差分を示す。また、図5に示す破線は、電極21,22に印加される電圧値の変動を示す。
【0089】
1,2回目で算出される差分ΔI,ΔIは、閾値ΔIsを超えていない。よって、1,2回目では、ステップS109,S110の温度調節や電圧値の変更等の制御は行われず、ステップS101で印加される電圧値V1が維持される。
【0090】
3回目では、閾値ΔIsを超える差分ΔIが算出されているため、ステップS107でNGと判定される。また3回目まででは、NG回数が1回(3回目のNG)であるため、ステップS108ではNOと判定される。よって3回目では、温度調節信号が出力されて(ステップS109)、電圧値がV2に変更される(ステップS110)。
【0091】
4回目の差分ΔIは、電圧値がV2である状態で算出されたものであり、閾値ΔIsを超えていない。よって4回目では、温度調節や電圧値の変更等の制御は行われず、電圧値はV2に維持される。また5,6回目についても、差分ΔI ,ΔIが、閾値ΔIsを超えていないため、電圧値はV2に維持される。
【0092】
7,8,9回目では、閾値ΔIsを超える差分ΔI,ΔI,ΔIが算出されている。よって7,8,9回目では、ステップS107でNGと判定される。また9回目まででは、ステップS107でNGと連続して判定された回数が、3回(7,8,9回目のNG)である。よって7,8,9回目では、ステップS108でNOと判定されることで、温度調節信号が出力されて(ステップS109)、7,8,9回目のステップS110で、電圧値が、V3,V4,V5に変更される。なお、8,9回目の差分ΔI,ΔI は、電圧値がV3,V4である状態で算出されたものである。
【0093】
10回目では、電圧値がV5である状態で、差分ΔI10が算出され、差分ΔI10は、閾値ΔIsを超えている。よって10回目でも、ステップS107でNGと判定される。また10回目では、ステップS107でNGと連続して判定された回数が、4回(7,8,9,10回目のNG)に至る。よって10回目では、ステップS108でYESと判定される。これにより、電圧の印加が中止されて(ステップS111)、マイクロチップ4の交換信号が出力される(ステップS112)。
【0094】
以下、電圧印加開始時及び電圧印加中の判定処理の詳細について説明する。図6は、電圧印加開始時の判定処理を示すフローチャートである。図6の処理は、図3のステップS101で電圧が印加されることに応じて開始される。図6の処理は、物理量取得部71、物理量判定部72、記憶部73、洗浄判定部74、及び交換部75により実行される。また図6の処理を実行するために、図4に示す閾値の下限値Ik及び上限値Ijが、記憶部73に記憶される。
【0095】
また図3,図6において、ステップS102,S203が対応し、ステップS103,S207が対応し、ステップS104,S210が対応し、ステップS105,S211が対応し、ステップS106,S212が対応する。
【0096】
まず、記憶部73に記憶されている変数iが読み出される(ステップS201)。
【0097】
ついで、物理量取得部71により、電圧の印加開始時に電流計10が計測した電流値が取得される(ステップS202)。
【0098】
ついで、物理量判定部72により、電流値が、閾値の範囲(電流値Ik以上、電流値Ij以下の範囲)に含まれるか否かが判断される(ステップS203)。
【0099】
電流値が閾値の範囲に含まれると判断された場合(ステップS203でYES)、変数iが0にリセットされる(ステップS204)。
【0100】
ついで、変数iや、ステップS202で取得された電流値が、記憶部73に記憶されて(ステップS205,S206)、電圧印加中の判定処理(図3のステップS107)に移行する。
【0101】
一方、ステップS203で、電流値が閾値の範囲に含まれないと判定された場合(ステップS203でNO)、電極21,22への電圧の印加が中止される(ステップS207)。具体的には、図2のスイッチ46がOFFにされる。
【0102】
ついで、変数iに1が加算されて(ステップS208)、変数iが記憶部73に上書き記憶される(ステップS209)。
【0103】
ついで、変数iが、所定値Nであるか否かが判断される(ステップS210)。
【0104】
変数iが、所定値Nではないと判断された場合(ステップS210でNO)、洗浄判定部74により、洗浄信号が出力されて(ステップS211)、洗浄工程S11(図3)が実行される。
【0105】
一方、変数iが、所定値Nであると判断された場合(ステップS210でYES)、交換部75により、マイクロチップ4の交換信号が、PC27(図2)に出力される(ステップS212)。これにより、PC27の画面上には、マイクロチップ4の交換を促す画像が表示されて、ユーザにマイクロチップ4の交換を要することが通知される。マイクロチップ4の交換が行われた後では、ユーザが電気泳動装置1を操作することで、変数iが0にリセットされて、洗浄工程S11が開始される。
【0106】
図3の処理の繰り返しにより、図6の処理が再度実行される際には、前回のステップS205,S209で記憶された変数iが、ステップS201で読み出される。変数iは、ステップS203の判定結果に応じて、0、或いは、1が加算された値で、ステップS205,S209で記憶される。上記の変数iの読み出し・記憶により、図3の処理が繰り返される過程で、ステップS203でNOと連続して判断された回数が、カウントされる。そして図6の処理の各回では、上記カウント値により、ステップS210の判定が行われる。
【0107】
次に、電圧印加中の判定処理の詳細について説明する。図7は、電圧印加中の判定処理を示すフローチャートである。図7の処理は、図6のステップS206で、電流値が記憶部73に記憶されることに応じて開始される。図7の処理は、物理量取得部71、物理量判定部72、記憶部73、交換部75、温度調節部76、電圧変更部77、及び電圧値算出部78により実行される。また図7の処理を実行するために、図5に示す閾値ΔIsが、記憶部73に記憶される。
【0108】
また図3,図7において、ステップS107,S305が対応し、ステップS108,S309が対応し、ステップS109,S310が対応し、ステップS110,S312が対応し、ステップS111,S313が対応し、ステップS112,S314が対応する。
【0109】
まず、変数jが0に設定される(ステップS301)。
【0110】
ついで、物理量取得部71により、電流計10の計測値が取得される(ステップS302)。ステップS302は、所定の時間間隔で実行され、ステップS303以降の処理は、ステップS302で電流値が取得されるたびに実行される。
【0111】
ついで、物理量判定部72により、過去のステップS306(或いは図6のS206)で記憶された電流値が読み取られる(ステップS303)。1回目のステップS303では、ステップS206で記憶された電流値I1が読み取られる。
【0112】
ついで、物理量判定部72により、ステップS302で取得された電流値と、ステップS303で読み取られた電流値との差分が算出される(ステップS304)。電極21,22間を流れる電流に大きな変化が生じたときには、電流値の差分は、大きな値に算出される。
【0113】
ついで、物理量判定部72により、ステップS304で算出された差分が、閾値ΔIsを超えていないかどうかが判断される(ステップS305)。
【0114】
ステップS305で、差分が閾値ΔIsを超えていないと判断された場合(ステップS305でYES)、ステップS302で取得された電流値が、記憶部73に記憶される(ステップ306)。
【0115】
図8は、ステップS306で電流値が記録されるテーブルを示す。図8のテーブルには、ステップS206(図6)で記憶された電流値Iを初期値として、ステップS302の1,2,4,5,6回目で取得された電流値I11,I12 ,I14 ,I15 ,I16が記録されている。これらは、直前のステップS306で記憶された電流値との差分が閾値ΔIsを超えていない電流値である。
【0116】
図8のテーブルでは、ステップS302の3回目に取得された電流値が、記録されていない。これは、上記3回目に取得された電流値と、ステップS302の2回目に取得された電流値I12との差分ΔI(図5)が、閾値ΔIsを超えていたためである。
【0117】
また例えば、ステップS302の4回目に取得された電流値 I14 は、ステップS302の2回目に取得された電流値I12 との差分ΔI(図5)が、閾値ΔIsを超えていなかったため、図8のテーブルに記録されている(ステップS306で記憶されている)。
【0118】
ステップ306の後では、分析時間が経過したか否かが判断される(ステップS307)。分析時間とは、ステップS101で電圧の印加が開始された時点から、ヘモグロビンが、光の照射部分(図1の黒丸部分)を通過するまでに要する時間である。分析時間は、例えば、ステップS306で記憶した電流値と、ヘモグロビンの電気移動度と、導入孔19から光照射部までの長さL(図1)とから算出される。
【0119】
分析時間が経過していないと判断された場合(ステップS307でNO)、ステップS301に移行して、ステップS301からの処理が繰り返される。
【0120】
この繰り返しの過程で、ステップS305で差分が閾値ΔIsを超えたと判定された場合(ステップS305でNO)、ステップS308に移行する。
【0121】
ステップS308では、変数jに1が加算され、続くステップS309では、変数jが所定値Nであるか否かが判断される(ステップS309)。すなわち、ステップS302で電流値が取得されるたびに、ステップS303〜S305が行われた結果、ステップS305でNOと連続して判定された回数が、N回に至ったか否かが判断される。
【0122】
上記NOと判定された回数がN回に至っていないと判定された場合(ステップS309でNO)、温度調節部76により、マイクロチップ4の温度を調節するための温度調節信号が出力される(ステップS310)。温度調節装置6(図1)は、温度調節信号が入力されることで、マイクロチップ4を冷却或いは加熱して、マイクロチップ4の温度を調節する。
【0123】
ついで、電圧変更部77により、電極21,22に印加される電圧の補正値が算出される(ステップS311)。ステップS311では、まず、図8のテーブルに記録された電流値のうち、直近に記録された電流値が読み取られる。例えば、図7の処理が3回目のときには、2回目の電流値I12が読み取られる。ついで、この値I12の電流を電極21,22間に発生させ得る電圧値が、上記補正値として算出される。なお、予め電流の目標値が設定されて、この大きさの電流を発生させ得る電圧値が、上記補正値として算出されてもよい。
【0124】
ついで、電圧変更部77により、電極21,22に印加される電圧の大きさを、ステップS313の補正値に変更するための電圧変更信号が出力される(ステップS312)。これにより、電極21,22に印加される電圧の値が、ステップS311で算出された補正値に変更される。
【0125】
この後、ステップS302に移行することで、ステップS302からの処理が繰り返される。
【0126】
先のステップS310〜S312により、電極21,22間を流れる電流に大きな変化が生じなくなった場合、上記繰り返しの処理では、ステップS305でYESと判断されて、ステップS301に移行し、変数jが0にリセットされる。
【0127】
一方、先のステップS310〜S312によっても、電流の変化が小さくならない場合には、再びステップS305でNOと判断されることで、変数jに1が加算される(ステップS308)。この後、ステップS310〜S312が再度実行されて、ステップS302に移行し、ステップS305の判定が行われる。
【0128】
ステップS305でNOと繰り返し判断される場合には、このたびに、変数jに1が加算されて、変数jの値が大きくなっていく。
【0129】
そして、ステップS306でNOと連続して判断される回数が、N回に至ったことで、変数jが所定値Nになった場合には(ステップS309でYES)、スイッチ46がOFFに切り替えられて、電極21,22への電圧の印加が中止される(ステップS313)。これにより、分離工程S14が中止される。ついで、交換部75により、マイクロチップ4の交換信号が出力される(ステップS314)。これにより、PC27の画面上に、マイクロチップ4の交換を促す画像が表示され、マイクロチップ4の交換が行われる。この後、ユーザの操作により、洗浄工程S11が実行される。
【0130】
また、ステップS309でYESと判定されることなく、ステップS307でYESと判断されるまで、図7の処理が繰り返された場合には、電圧値算出部78により、次回のステップS101(図3)の印加電圧の値が算出される(ステップS315)。ステップS315では、ステップS306で記憶された電流値に基づき、電圧値が算出される。
【0131】
ついで、ステップS315で算出された電圧値が記憶部73に記憶される(ステップS316)。ステップS316で記憶される電圧値は、次回のステップS101で、記憶部73から読み出されて、この大きさの電圧が、電極21,22に印加される。
【0132】
本実施の形態によれば、電極21,22間に流れる電流の値が所定範囲(電流値Ik以上、電流値Ij以下の範囲)に含まれるか否かの判断(図6のステップS203)が、キャピラリ流路47内に泳動液L1及び試料Spが注入された状態で実行される。よって、泳動液L1と試料Spとの混合により、キャピラリ流路内の液体の性質が変化することや、試料の注入作業により、キャピラリ流路47内の液体に気泡が発生したり異物が混入することや、マイクロチップ4に温度上昇が生じることや、マイクロチップ4の周囲の環境温度が変わることで、電圧の印加開始時に、電極21,22間に期待される電流が流れないことが検出される(ステップS203でNO)。よって、電気泳動による成分分離中にキャピラリ流路の異常を検出することができる。
【0133】
さらに、ステップS203で、電流値が所定範囲に含まれないと判定された場合には(ステップS203でNO)、電極21,22への電圧の印加が中止されて(ステップS207)、洗浄信号が出力される(ステップS211)。よって、上記期待される電流が流れない状態で、電気泳動分離が行われることが防止されて、気泡等の発生したキャピラリ流路47内の液体が交換される。
【0134】
また、マイクロチップ4の温度が高くなった場合には、キャピラリ流路47内の液体の電気抵抗が変化することで、電極21,22間に流れる電流の値は大きくなる。この場合には、図6の処理が繰り返される過程で、ステップS203でNOと連続して判定されることが、N回に至ることで(ステップS210でYES)、マイクロチップ4の交換信号が出力される(ステップS212)。このため、高温のマイクロチップ4が、電気泳動分離のため継続して使用されることが回避される。
【0135】
また、電極21,22に電圧が印加されている間に、マイクロチップ4の温度が大きく変化した場合には、図7のステップS305で、電流値の差分が閾値ΔIsを超えたと判定されて(ステップS305でNO)、マイクロチップ4の温度を調節するための温度調節信号が出力される(ステップS310)。これにより、マイクロチップ4の温度調節が行われるため、電極21,22間に流れる電流を安定させる上で有利になる。
【0136】
また上記と同様、電圧が印加されている間に、マイクロチップ4の温度が大きく変化した場合には、電圧変更信号が出力され(ステップS312)、電極21,22に印加する電圧の値が変更される。これにより、マイクロチップ4の温度変化が大きく生じても、電極21,22間に流れる電流に生じる変化は小さく抑えられる。
【0137】
また、ステップS305では、電流値の差分が閾値ΔIsを超えていないと判定された場合(ステップS305でYES)のみ、ステップS306で電流値が記憶される。ステップS312では、電圧変更信号の出力により、電極21,22間に流れる電流の値が、直近のステップS306で記憶された値に変更される。よって、電極21,22間に流れる電流は、ステップS305で差分が閾値ΔIsを超えていないと判定されたときの値に制御される。これにより、電極21,22間に流れる電流を、目標値近傍に制御することが可能になる。
【0138】
また、電極21,22に電圧が印加されている間に、マイクロチップ4に大きな温度変化が繰り返し生じた場合には、このたびごとに、電極21,22間に流れる電流に変化が生じることで、ステップS305で算出される電流値の差分は、大きな値になる。この場合、ステップS305でNOと連続して判定されることが、N回に至ることで(ステップS309でYES)、電圧の印加が中止される(ステップS313)。よって、ステップS310〜S312の温度調節や電圧値の変更では、マイクロチップ4の温度変動を抑えきれない場合に、分離工程S14(電気泳動分離を生じさせる工程)を中止させることができる。
【0139】
また、ステップS313で電圧の印加が中止された後では、マイクロチップ4の交換信号が出力されて(ステップS314)、マイクロチップ4の交換が促される。これにより、温度変化の大きく生じたマイクロチップ4が、継続して使用されることが防止される。
【0140】
また、ステップS306で記憶された電流値に基づき、次回のステップS101で電極21,22に印加する電圧の値が設定される(ステップS315,S316)。これにより、分離工程S14の各回で、電極21,22間に流れる電流を目標値近傍に制御する上で有利になる。
【0141】
なお、実施の形態1は以下のように種々改変が可能である。
【0142】
例えば、図6のステップS202で、電流値が取得される時点は、必ずしも、電圧の印加開始時点に限らず、電圧印加中の任意の時点に設定され得る。
【0143】
また上記実施の形態1では、電流計10が計測した電流値に基づき、図6,7の処理が実行されるが、電流値に代わる電気的物理量として、例えば、電極22,23に印加される電圧の値(電圧計9の計測値)が用いられてもよい。また、電極21,22に印加される電圧値と、電極21,22間に流れる電流値とを乗じた電力量が用いられてもよい。図2の構成では、電流計10の計測値を取得するタイミングにあわせて、電圧計9の計測値を取得し、これら電流計10及び電圧計9の計測値を乗じることで、電力量を取得できる。上記電力量を用いる場合には、電源部8の出力の変動も考慮した制御が実現され得る。
【0144】
また上記実施の形態1では、図6のステップS211の洗浄信号の出力は、ステップS203でNOと判定されるたびに実行されるが、ステップS203でNOと判定される回数が、ある値に至った場合に、実行されてもよい。
【0145】
また上記実施の形態1では、ステップS212の交換信号の出力は、ステップS203でNOと判定される回数が連続してN回に至った場合に実行されるが、ステップS203でNOと判定される累積回数が、ある値に至った場合に実行されてもよい。
【0146】
また上記実施の形態1では、図7のステップS310の温度調節信号の出力や、ステップS311,S312の電圧補正値の算出・電圧変更信号の出力は、ステップS305で電流値の差分が閾値を超えた(ステップS305でNO)と判定されるたびに、実行されるが、ステップS306でNOと判定される回数が、ある値に至った場合に実行されてもよい。
【0147】
また、ステップS305でNOと判定された場合、ステップS310の温度調節信号の出力と、ステップS311,S312の電圧補正値の算出・電圧変更信号の出力とのいずれか一方のみが実行されてもよい。
【0148】
また上記実施の形態1では、ステップS313,S314の電圧印加の中止や交換信号の出力は、ステップS305でNOと判定される回数が連続してN回に至った場合に実行されるが、ステップS305でNOと判定される累積回数が、ある値に至った場合に実行されてもよい。
【0149】
また、キャピラリ流路47の本数は、任意に設定され得る。キャピラリ流路47が複数設けられる場合には、各キャピラリ流路47毎に図3,6,7の処理が実行される。キャピラリ流路47の構成は、いわゆるストレート型のものに限定されず、たとえば、2つの流路が交差したクロスインジェクション型のものであってもよい。試料Spとしては、全血に代表されるヘモグロビンを含むものに限定されず、たとえばDNA、RNA(リボ核酸)、タンパク質を含むものであってもよい。
【0150】
(実施の形態2)
図9は、本発明の実施の形態2に係る電気泳動装置80の構成を示す概略図である。実施の形態2に係る電気泳動装置80は、貯液槽81、試料槽82、廃液槽83、分注部84、マイクロチップ85、電極86,87、検出部88、ポンプ(圧力発生手段)89、吸引ポンプ90、三方弁91ないし93、流路94ないし流路96、制御部97および電源部98を備える。マイクロチップ85は、キャピラリ流路99、導入孔100、排出孔101を備える。
【0151】
貯液槽81には、貯液L、例えば、泳動液、精製水、洗浄液などが貯められる。試料槽82には、試料液Kが貯められる。試料液Kは、電気泳動装置80で分析を行うための特定成分を含むサンプルであり、測定に適した処理、例えば、希釈や混合などが行われた状態に処理された状態にされる。廃液槽83には、使用済みの液体が貯蔵される。
【0152】
分注部84は、マイクロチップ85のキャピラリ流路99に、試料槽82の試料液Kを注入する。
【0153】
ポンプ89は圧力を発生する。ポンプ89が発生した圧力は、三方弁93を経由して流路95,96に付与される。ポンプ89により、各流路および各機能部を含む電気泳動装置80の内部に、溶液を移送することができる。
【0154】
図10は、実施の形態2に係るマイクロチップの構成概略図である。図10(a)は平面図、図10(b)は図10(a)のX−X断面図、図10(c)は図10(a)のY−Y断面図である。
【0155】
マイクロチップ85は、例えば、樹脂を材料とした基板にキャピラリ流路99となる微細な流路が形成されたものである。マイクロチップ85は、基板85aと基板85bとを接合することで形成される。基板85aは、キャピラリ流路99が形成されたベースとなる部分である。基板85bには、キャピラリ流路99に対応する位置に導入孔100および排出孔101が形成されている。
【0156】
実施の形態2では、キャピラリ流路99の断面は、一辺が40μmの正方形に設定され、キャピラリ流路99の長さは、30mm程度に設定される。キャピラリ流路99の断面や長さの寸法は、上述の値に限定されるものではない。
【0157】
キャピラリ流路99には、導入孔100および排出孔101が形成されている。導入孔100は、キャピラリ流路99の一端に設けられ、導入孔100に、分注部84より試料液Kが導入される。また、実施の形態2では、導入孔100に、試料液Kの他に、泳動液、精製水、洗浄液などの貯液Lの導入が可能である。排出孔101は、キャピラリ流路99の他端に設けられ、排出孔101から、キャピラリ流路99に充填された試料液Kや貯液Lが排出される。
【0158】
導入孔100が基板85aを貫通し、キャピラリ流路99と接するまでの空間部分をリザーバR1という。同様に、排出孔101側の空間部分(排出孔101が基板85aを貫通し、キャピラリ流路99と接するまでの空間部分)を、リザーバR2という。
【0159】
また、キャピラリ流路99には、その両端に電極86と電極87が設けられている。実施の形態2においては、電極86は、導入孔100に露出しており、電極87は、排出孔101に露出している。
【0160】
検出部88は、キャピラリ流路99において試料液Kから分離された特定成分を分析する。検出部88は、キャピラリ流路99のうち、導入孔100よりも排出孔101に近い側の部分に設けられている。検出部88は、たとえば光源および受光部を備える。検出部88は、光源からの光を試料液Kに照射し、透過光を受光部によって受光することにより吸光度を測定し、特定成分を分析することができる。
【0161】
図11は、実施の形態2に係る電気泳動装置の、マイクロチップ85を含む概略部分図である。図11は、図10(b)と同様、マイクロチップ85が、図10(a)のX−X線で切断された状態を示す。
【0162】
吸引ポンプ90は、キャピラリ流路99の溶液を、流路95側から吸引力P1で吸引することができる。吸引ポンプ90を作動させると、キャピラリ流路99の溶液は、流路95に向けて吸引力P1の力で吸引され、廃液槽83に排出される。
【0163】
吸引ポンプ90で吸引力P1を加え、キャピラリ流路99の溶液を吸引する。このとき、マイクロチップ85の基板85aと基板85bは、互いに引き合うように力が加わる。この力の向きは、基板85aと基板85bとを接合するために、基板85aと基板85bとを密着して加圧するときに加える力の向きと同じである。このため、吸引ポンプ90に吸引力P1を生じさせることで、基板85aと基板85bとが剥がれるおそれを少なくすることができる。
【0164】
溶液の移送を行うポンプ89に、吸引ポンプ90の機能、すなわち、キャピラリ流路99の溶液を吸引する機能を生じさせてもよい。この場合、三方弁93の開閉が制御されることで、流路95とポンプ89とが連通した状態で、ポンプ89に吸引力P1を生じさせることで、ポンプ89は吸引ポンプ90と同様の機能を生じる。このようにすることで、吸引ポンプ90を省略して、電気泳動装置80を設計することが可能となる。
【0165】
キャピラリ流路99の内部にある溶液を排出するには、溶液を吸引ではなく吐出により行うこともできる。仮に、キャピラリ流路99の溶液を吐出する場合を考えると、溶液により、キャピラリ流路99を内部から外部へ向けて加圧する力が働く。すなわち基板85aと基板85bとの接合面が剥がれるのを促進する方向に力が加わり、マイクロチップ85への負荷が大きくなる。キャピラリ流路99の溶液を吐出ではなく吸引する場合は、基板85aと基板85bとが互いに引き合う向きに力が加わり、基板85a,85bの接合面が剥がれるおそれがなくなる。そのため、キャピラリ流路99の内部にある溶液を排出するには、吐出ではなく吸引により行うことが望ましい。
【0166】
ただし、キャピラリ流路99の溶液を、一方側から吸引し他方側から吐出する場合であって、吸引する力が吐出する圧力よりも大きい場合は、基板85aと基板85bには、互いに引き合うように力が加わる。このように吸引する際に吐出する圧力を補助的に加える場合に限り、吐出する圧力を吸引力と併用して用いてもよい。
【0167】
電気泳動装置80の上述の各部の動作は、制御部97により制御される。制御部97は、たとえばCPU、メモリ、入出力インターフェースなどによって構成される。
【0168】
電気泳動装置80には、三方弁91、92が設けられている。三方弁91、92は、それぞれ3つの接続口を有しており、これらの接続口どうしの連通状態および遮断状態が、制御部97によって独立に制御される。
【0169】
貯液槽81および試料槽82は、三方弁91,92を介して、流路94または流路96と接続している。三方弁91,92は、制御部97によって開閉が制御されており、キャピラリ流路99との連通状態および遮断状態が独立に制御される。流路94は、マイクロチップ85のキャピラリ流路99に繋がり、流路96は廃液槽83に繋がる。
【0170】
図11に示すように、流路94から導入孔100(すなわちリザーバR1部分)に導入された液は、キャピラリ流路99を流れ、排出孔101(すなわちリザーバR2)を介して流路95へ流れる。
【0171】
電源部98は、電極86および電極87に接続されて、1.5kV程度の電圧を、電極86,87に印加する。例えば、電源部98は、電極86が正極に、電極87が負極になるように電圧を印加するが、これとは反対の極性で、電圧を印加する機能を有していてもよい。
【0172】
以下に、図9ないし図13を用いて、実施の形態2に係る電気泳動装置80で実行される処理を説明する。図12は、電気泳動装置80で実行される処理を示すフローチャートである。このフローは、前処理工程(ステップS1)と分析工程(ステップS2)とに大別される。
【0173】
前処理器具の洗浄工程(ステップS11)は、前処理工程(ステップS1)の最初に行う工程で、電気泳動装置80を連続して使用する場合において、前回使用した電気泳動装置80の各部の洗浄を行う工程である。その後、試料導入のための分注工程(ステップS12)を行う。
【0174】
より詳しくは、洗浄工程(ステップS11)は、前処理液の充填(ステップS111)および前処理液の排出(ステップS112)に分けられ、例えば洗浄液や精製水などの前処理液をキャピラリ流路99内に通液させることで、洗浄を行う。
【0175】
本発明の実施の形態2では、次の方法で、前処理液の充填を行う。図13は、実施の形態2に係る電気泳動装置80で実行される前処理工程の洗浄工程の一部である、前処理液の充填に係る工程を示すフローチャートである。前処理液の充填(ステップS111)は、前処理液の充填1(ステップJ1)として説明する。
【0176】
まず、流路94より導入孔100を介して、キャピラリ流路99に前処理液を導入し、同時に、該導入した前処理液を排出孔101を介して流路112へ排出することで、キャピラリ流路99に前処理液を通液する(ステップJ11)。
【0177】
そして、吸引ポンプ90で、キャピラリ流路99を通液する前処理液に向けて、吸引力P1の力で吸引する(ステップJ12)。すると、キャピラリ流路99の前処理液は、勢いよく、排出孔101に向けて流れて、リザーバR2に流れ込むことで、リザーバR2に前処理液を充填できる。通液によりキャピラリ流路99は前処理液で充填され、かつ、リザーバR2も前処理液で充填される(ステップJ13)。このとき、キャピラリ流路99を前処理液が流れることで、キャピラリ流路99を洗浄できる。また、排出孔101のリザーバR2へ充分に前処理液は流れ込むことで、リザーバR2を洗浄できる。
【0178】
前処理液の充填(ステップS111)を終え、再度、キャピラリ流路99を吸引ポンプ90を用いて吸引力P1の力で吸引する。キャピラリ流路99の前処理液は、前回の分析で用いた試料液Kなどの汚れを洗浄しながら、流路112を介して廃液槽83へ排出される(ステップS112)。前処理液の排出を吸引により行うことで、キャピラリ流路99に残存した前処理液を全て排出することができる。このため、次にキャピラリ流路99へ充填する溶液(泳動液)と前処理液とが混合するおそれがなく、洗浄効率を高くできる。
【0179】
分注工程(ステップS12)は、電気泳動を実現するための泳動液および試料液Kを、キャピラリ流路99に充填する工程である。まず、キャピラリ流路99に泳動液を充填する(ステップS121)。次に、充分に泳動液で満たされたキャピラリ流路99へ、試料液Kを、分注部84で分注する(ステップS122)。
【0180】
なお、泳動液を充填する(ステップS121)際にも、前処理液を充填する際と同様に、吸引ポンプ90で吸引してもよい。キャピラリ流路99およびリザーバR2を、泳動液で充填する場合にも、吸引ポンプ90で吸引することにより、確実に充填することができる。
【0181】
前処理工程(ステップS1)を終えると、分析工程(ステップS2)を実行する。分析工程(ステップS2)は、分離工程(ステップS21)および検出工程(ステップS22)からなる。
【0182】
分離工程(ステップS21)は、試料液Kに含まれる特定成分を、電気泳動により分離する工程である。分離工程(ステップS21)では、泳動液が充填されたキャピラリ流路99に試料液Kが導入され、電極86,87に電圧が印加されることで、電気泳動を行う。分離工程では、ステップS121で泳動液が確実に充填されていることで、試料液Kの導入が行いやすくなり、より精度良く、分離工程(ステップS21)を行うことができる。
【0183】
電気泳動による分離は、具体的には、制御部97の指示により、電極86が正極に、電極87が負極になるように、電源部8から電極86,87に電圧を印加することで、泳動液に電極86から電極87へと向かう電気浸透流を発生させることで、実現される。このとき、特定成分には、固有の電気泳動移動度に応じて、電極86から電極87に向かう移動が生じる。
【0184】
検出工程(ステップS22)は、分離された特定成分の量もしくは濃度などを検出する工程である。具体的には、制御部97の指示により、検出部88は、キャピラリ流路99の特定の位置において、たとえば光源から波長が415nmの光を照射し、その透過光を受光部によって受光する。キャピラリ流路99の特定の位置を特定成分が通過すると、受光部で受光する光(吸光度)が変化し、その変化により特定成分の濃度や量を検出することができる。この分析結果がたとえば記憶部(図示せず)に記憶されるなどして、検出工程(ステップS22)は終了する。以上の工程により、前処理工程(ステップS1)および分析工程(ステップS2)を終え、電気泳動装置80を用いた分析が完了する。
【0185】
なお、実施の形態2では、図2に示した、物理量取得部71、物理量判定部72、記憶部73、洗浄判定部74、交換部75、温度調節部76、電圧変更部77、及び電圧値算出部78が、制御部97(図9)に構成されて、これら各部により、図3のステップS101〜S112や、図6,図7の処理が実行される。図3のステップS101は、分離工程(ステップS21)で、電極86,87に電圧が印加されることに応じて実行される。
【0186】
図14は、実施の形態2の変形例に係る電気泳動装置140の構成を示す概略図である。図15は、実施の形態2の変形例に係る電気泳動装置140の、マイクロチップ141を含む概略部分図である。実施の形態2の変形例では、吸引ポンプ113が導入孔100側に設けられる。その他の構造は、図9および図11に示す電気泳動装置80と同じである。
【0187】
吸引ポンプ113は、流路94に設けられる。吸引ポンプ113は、導入孔100側から吸引力P2でキャピラリ流路99の貯液Lや試料液K(まとめて溶液という)を吸引することで、キャピラリ流路99の溶液を排出する。
【0188】
実施の形態2では、キャピラリ流路99に前処理液を通液することで、ある程度、キャピラリ流路99が前処理液で満たされたときに、吸引ポンプ113に吸引力P2を生じさせて、キャピラリ流路99の前処理液を吸引する。これにより、前処理液が流路94に向けて吸い上げられることで、前処理液をリザーバR1に充填することができる。
【0189】
吸引ポンプ113に吸引力を生じさせて、キャピラリ流路99の前処理液を吸引するとき、すなわち、流路94からキャピラリ流路99への前処理液の供給を一旦停止するときには、制御部97により、流路94,96が連通するように、三方弁92が切り替えられる。これにより、吸引ポンプ113の吸引により、流路94に流れた前処理液は、流路96に向けて流れ、最終的に、廃液層83へ流れ込む。キャピラリ流路99の前処理液を排出する際も同様に、前処理液が廃液槽83へ流れるように、制御部97により三方弁92が切り替えられる。吸引ポンプ113の吸引が終了する際には、制御部97により三方弁92が切り替えられて、前処理液が流路94からキャピラリ流路99に流れる状態になる。
【0190】
なお、溶液の移送を行うポンプ89に、吸引ポンプ113の機能、すなわち、キャピラリ流路99の溶液を吸引する機能を生じさせるようにしてもよい。この場合、三方弁92,93の開閉が制御されることで、流路94,96とポンプ89とが連通した状態で、ポンプ89に吸引力P2を生じさせることで、ポンプ89は吸引ポンプ113と同様の機能を生じる。このようにすることで、吸引ポンプ113を省略して、電気泳動装置140を設計することができる。
【0191】
洗浄工程(ステップS11)の前処理液の充填(ステップS111)の、吸引ポンプ113での、キャピラリ流路99の前処理液を吸引する工程(ステップJ12)を行うことで、リザーバR1の内部を前処理液で確実に充填させることができる。
【0192】
なお、前処理液を充填する工程と同様に、ステップS121においても、吸引ポンプ90の吸引により、泳動液の充填が行われてもよい。これにより、キャピラリ流路99およびリザーバR1を泳動液で充填する場合にも、より確実に充填することができる。
【0193】
実施の形態2の変形例では、流路94を介して導入孔100側から吸引を行っているが、流路94とは異なる別の流路であって、導入孔100と連通する流路を備えて、導入孔100側から吸引を行ってもよい。このようにすることで、排出孔101側の洗浄だけでなく導入孔100側の洗浄も合わせて行われるため、キャピラリ流路99内の洗浄効果を高めることができる。
【0194】
以上説明したように、実施の形態2によれば、前処理工程(特に洗浄工程)において、マイクロチップの流路への機械的負荷を少なくし、かつ、洗浄効率を向上することができる。
【0195】
キャピラリ流路およびリザーバの洗浄において、細部への溶液の充填が不充分となりやすく、洗浄が行われないところがあったが、吸引することで、溶液の充填を確実に行えるようにした。その結果、洗浄が行き届くようになり、洗浄効率が向上する。
【0196】
また、キャピラリ流路を流れる溶液を吸引することで、キャピラリ流路の洗浄効率を高めることができる。さらに、キャピラリ流路を吸引し、溶液をキャピラリ流路から一旦排出することで、次に用いる溶液との混合がなくなり、洗浄効率を高めることが可能となる。
【0197】
上述したように、洗浄効率が向上することにより、マイクロチップはクリーンな状態を維持できる。このため、分析時において、繰り返し使用することが可能となり、また、廃棄までの使用回数を多くすることが可能となる。
【0198】
さらに、洗浄の際に吸引することで、マイクロチップへの負担を低減することができ、マイクロチップの基板の接合面の剥がれのおそれがなく、マイクロチップの耐久性が向上する。その結果、分析時に繰り返し使用できるようになり、使用回数を多くすることができる。
【0199】
(実施の形態3)
図16は、本発明の実施の形態3に係る電気泳動装置150の構成概略図である。図17は、実施の形態3に係る電気泳動装置150の、マイクロチップ151を含む概略部分図である。実施の形態3に係る電気泳動装置150では、キャピラリ流路99の貯液Lを吸引するための予備の流路を備える。その他の構造は、図9および図11に示す、実施の形態2に係る電気泳動装置80と同じである。
【0200】
マイクロチップ151は、リザーバR1を介してキャピラリ流路99と連通する補助路120と、補助路120の他端部に形成された補助孔121とを、図10および図11に示すマイクロチップ85の構成に追加して備える。なお、補助孔121が基板85aを貫通し、補助路120と接するまでの空間部分をリザーバR3という。
【0201】
リザーバR3は、補助路120を介してキャピラリ流路99と連結し、かつ、キャピラリ流路99から遠い方の補助路120端部に位置する。リザーバR3から補助路120を介してキャピラリ流路99の内部にある貯液Lなどの溶液を吸引することができる。
【0202】
補助路120の端部に備えられた吸引ポンプ131を用いて吸引力P3の力で吸引すると、補助路120を介してリザーバR3へ前処理液が流れ込む。このとき、リザーバR1の補助路120と接続する箇所近辺の前処理液は吸引力P3の力で吸引される。
【0203】
リザーバR3は、リザーバR1、R2と異なり、溶液で充填する必要はない。分析時においては、貯液Lはキャピラリ流路99のみを流れるため、補助路120およびリザーバR3は、洗浄時以外に使用することがないためである。
【0204】
リザーバR1、R2は底角部分の溶液の移動が起こりにくく、特にキャピラリ流路99側とは対になる底角部分は溶液を流しにくい箇所である。言い換えると、底角部分は、前回の分析試料などが残存しやすい箇所である。特にリザーバR1のキャピラリ流路99側とは対になる底角部分は分析試料の残存が起こりやすく、その箇所に補助路120を設け、溶液の流れを発生させることで、リザーバR1の洗浄効率を高めることが可能となる。
【0205】
また、補助路120を備えた側のリザーバR1を吸引することができ、リザーバR1の溶液の充填を行いやすくする効果がある。
【0206】
キャピラリ流路99の溶液を排出しやすくなり、次に用いる溶液との混合のおそれがなく、より洗浄効率を高めることができる。
【0207】
次に、図12および図16ないし図18を用いて、実施の形態3に係る電気泳動装置150で実行される処理について説明する。処理の基本的な流れは、実施の形態2で説明した処理と同じである。
【0208】
図18は、実施の形態3に係る電気泳動装置150で実行される前処理工程の洗浄工程の一部を示すフローチャートである。以下、前処理液の充填(ステップS111)は、前処理液の充填2(J2)として説明する。
【0209】
まず、流路94より導入孔100を介して、キャピラリ流路99に前処理液を導入し、同時に、排出孔101を介して流路112から排出させ、キャピラリ流路99に前処理液を通液する(ステップJ21)。
【0210】
そして、吸引ポンプ90で、キャピラリ流路99を通液する前処理液に向けて、吸引力P1の力で吸引する(ステップJ22)。すると、キャピラリ流路99の前処理液は勢いよく排出孔101へ向けて流れ、リザーバR2にも流れ込み、リザーバR2に前処理液を充填することができる。
【0211】
一旦、キャピラリ流路99への前処理液の通液を停止し(ステップJ23)、リザーバR1,R2およびキャピラリ流路99が前処理液で充填された状態で、封止部材130で導入孔100側の空間部、つまり、リザーバR1を外部から覆い封止する(ステップJ24)。そして、吸引ポンプ131で補助路120を介してキャピラリ流路99に吸引力P3の力で吸引し、キャピラリ流路99を流れる前処理液を吸引する(ステップJ25)。
【0212】
その後、リザーバR1を覆い封止した封止部材130を外し、再度、流路94より導入孔100を介して、キャピラリ流路99に、前処理液を通液する(ステップJ26)。
【0213】
そして、吸引ポンプ90に吸引力P1を発生させることで、キャピラリ流路99を流れる前処理液を吸引する(ステップJ27)。通液によりキャピラリ流路99は前処理液で充填され、かつ、リザーバR1、R2も前処理液で充填される(ステップJ28)。
【0214】
以上説明したように、実施の形態3に係る電気泳動装置によれば、前処理工程の、特に洗浄工程において、マイクロチップの流路への機械的負荷を少なくし、かつ、洗浄効率を向上することができる。
【0215】
また、キャピラリ流路やリザーバへ、溶液を充分に満たすことができるようになり、細部への洗浄が可能となり、洗浄効率が向上する結果、分析時の繰り返し使用が可能となり、その繰り返しの回数も増大する。また、洗浄の際に吸引することで、マイクロチップへの負担を低減することができ、マイクロチップの基板の接合面の剥がれのおそれがなく、マイクロチップの耐久性が向上する。
【0216】
さらに、リザーバを介して、キャピラリ流路とは異なる流路(補助路)を設けることで、リザーバの底角部分およびその近辺に、溶液の流れを発生させ、より洗浄効率を高めることが可能となる。また、キャピラリ流路に残存する溶液を排出し、次に贈入する溶液との混合を防止できるので、より洗浄効率を高めることができる。
【0217】
実施の形態3では、導入孔側に補助路を備えた場合を例に挙げて説明したが、排出孔側に備えてもよく、両方に備えてもよい。また、補助路側から洗浄時の前処理液を排出することで、洗浄時の汚れの再付着を防止することができる。
【0218】
本実施の形態に係る電気泳動装置は、上述した例に限定されるものではない。本発明に係る電気泳動装置の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。例えば、流路の設計や貯槽部の数、各機能部を配置する位置、各機能の形状などは、用途に合わせて設計することができる。
【0219】
また、本実施の形態に係る例として、説明の便宜上、吸引ポンプの数を1つとしているが、マイクロチップのキャピラリ流路への導入側および排出側の両方に備えてもよい。また、キャピラリ流路の両端のリザーバに、補助路を連通してもよく、任意に設定可能である。
【0220】
キャピラリ流路の本数は、1本に限らず複数であってもよい。キャピラリ流路の構成は、いわゆるストレート形状に限定されず、2つの流路が公差したクロスインジェクション形状であってもよい。
【0221】
キャピラリ電気泳動法を用いて分析を行い、検出するデータについて、クロマトグラムに対するものをエレクトロフェログラム、溶出時間に対するものを移動時間として、データ解析して算出されたパラメータを指標として用いることができる。エレクトロフェログラムの測定対象は標準試料と直近の検体とし、このエレクトロフェログラムの取得により得られたパラメータにより、マイクロチップの洗浄および交換を管理してもよい。算出は、フィッティング演算などのピーク同定演算を使用し、ピーク分離度やリテンションタイム、半値幅などを指標とする。
【0222】
また、キャピラリ流路を洗浄するために電気泳動装置に設けられる洗浄手段は、実施の形態1〜3に示すように、洗浄液を貯留し、洗浄信号が出力されることに応じて、前記洗浄液をキャピラリ流路に充填する手段に限定されない。例えば、水道水をキャピラリ流路に充填可能な洗浄手段が電気泳動装置に設けられてもよい。この場合、洗浄手段は、洗浄信号が出力されることに応じて、キャピラリ流路内に水道水を充填し、キャピラリ流路の洗浄を行う。
【0223】
本発明における分析工程で行う分析は、キャピラリ電気泳動法を用いたものに限定されず、たとえば、微量液体クロマトグラフィ法を用いたものであってもよい。この場合、分離工程では、カラムにおける分離、溶出、反応などが実施され、検出工程では、反応生成物の検出を行う。
【符号の説明】
【0224】
1,80,140,150 電気泳動装置
2 貯槽部
3 分注手段
4,85,141,151 マイクロチップ
5 検出装置
6 温度調節装置
7 制御装置
8,98 電源部
9 電圧計
10,50 電流計
11 泳動液槽
12 精製水槽
13 洗浄液槽
14 試料容器
15 希釈槽
16 シリンジ
17 ノズル
18 採血管
19,100 導入孔
20,101 排出孔
21,22,86,87 電極
23,97 制御部
24 外部記憶部
25 主記憶部
26 入出力部
27 PC
28,29,30,31,91,92,93 三方弁
32,33,34,35,36,37,39,
41,42,94,95,96,112 流路
38 分岐流路
40,56 ピンチバルブ
43 廃液ボトル
44,90,113,131 吸引ポンプ
45 電線
46 スイッチ
47,99 キャピラリ流路 60 蓋
71 物理量取得部
72 物理量判定部
73 記憶部
74 洗浄判定部
75 交換部
76 温度調節部
77 電圧変更部
78 電圧値算出部
81 貯液槽
82 試料槽
83 廃液槽
84 分注部
85a,85b 基板
88 検出部
89 ポンプ
120 補助路
121 補助孔
130 封止部材
K 試料液
L1 泳動液
L2 精製水
L3 洗浄液
R1,R2,R3 リザーバ
Sp 試料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリ流路に設けられた電極から電圧を印加して、前記キャピラリ流路内に注入された試料に電気泳動による成分分離を生じさせる電気泳動装置であって、
前記キャピラリ流路内に泳動液及び試料が注入された状態で、前記電極に電圧が印加されている所定時点において、前記キャピラリ流路に生じる電気的物理量を取得する物理量取得部と、
前記電気的物理量が、所定範囲に含まれるか否かを判定する物理量判定部と、
を備えることを特徴とする電気泳動装置。
【請求項2】
前記物理量取得部は、前記電極への電圧の印加が開始された時点において、前記電気的物理量を取得することを特徴とする請求項1に記載の電気泳動装置。
【請求項3】
前記物理量判定部により、前記電気的物理量が前記所定範囲に含まれないと判定された場合に、前記キャピラリ流路を洗浄するための洗浄信号を出力する洗浄判定部をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気泳動装置。
【請求項4】
前記キャピラリ流路の構成部材を交換するための交換信号を出力する交換部をさらに備え、
前記物理量取得部は、前記電極に電圧が印加されている所定時点のたびごとに、前記電気的物理量を取得し、
前記物理量判定部は、前記物理量取得部により前記電気的物理量が取得されるたびに、該電気的物理量が、前記所定範囲に含まれるか否かを判定し、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量が前記所定範囲に含まれないと判定されるたびに、前記洗浄判定部は、前記洗浄信号を出力し、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量が前記所定範囲に含まれないと連続して判定された回数が、第1の所定回数に至ったときには、前記洗浄信号は出力されずに、前記交換部が、前記交換信号を出力することを特徴とする請求項3に記載の電気泳動装置。
【請求項5】
前記物理量取得部が取得する前記電気的物理量を記憶する記憶部と、
前記キャピラリ流路の構成部材の温度を調節するための温度調節信号を出力する温度調節部とをさらに有し、
前記物理量取得部は、前記電極に電圧が印加されている間に、前記キャピラリ流路に生じる電気的物理量を、所定の時間間隔で取得し、
前記物理量取得部により前記電気的物理量が取得されるたびに、前記物理量判定部は、前記電気的物理量と、過去に前記記憶部に記憶された前記電気的物理量との差分を算出して、該差分が所定値を超えたか否かを判定し、
前記物理量判定部により、前記差分が前記所定値を超えたと判定された場合に、前記温度調節部は、前記温度調節信号を出力することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気泳動装置。
【請求項6】
前記キャピラリ流路の構成部材を交換するための交換信号を出力する交換部をさらに備え、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量の差分が所定値を超えたと判定されるたびに、前記温度調節部による前記温度調節信号の出力が実行され、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量の差分が所定値を超えたと判定された回数が、第2の所定回数に至ったときには、前記温度調節信号の出力は実行されずに、前記交換部が、前記交換信号を出力することを特徴とする請求項5に記載の電気泳動装置。
【請求項7】
前記物理量取得部が取得する前記電気的物理量を記憶する記憶部と、
前記電極に印加される電圧の大きさを変更させる電圧変更部とをさらに有し、
前記物理量取得部は、前記電極に電圧が印加されている間に、前記キャピラリ流路に生じる電気的物理量を、所定の時間間隔で取得し、
前記物理量取得部により前記電気的物理量が取得されるたびに、前記物理量判定部は、前記電気的物理量と、過去に前記記憶部に記憶された前記電気的物理量との差分を算出して、該差分が所定値を超えたか否かを判定し、
前記物理量判定部により、前記差分が前記所定値を超えたと判定された場合に、前記電圧変更部は、前記電極に印加される電圧の補正値を算出して、前記電極に印加される電圧の大きさを、前記補正値に変更することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電気泳動装置。
【請求項8】
前記電圧変更部は、前記過去に記憶された前記電気的物理量との前記差分が前記所定値を超えていない前記電気的物理量に基づき、前記補正値を算出することを特徴とする請求項7に記載の電気泳動装置。
【請求項9】
前記電圧変更部は、予め設定される前記電気的物理量の目標値に基づき、前記補正値を算出することを特徴とする請求項7に記載の電気泳動装置。
【請求項10】
前記キャピラリ流路の構成部材を交換するための交換信号を出力する交換部をさらに備え、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量の差分が所定値を超えたと判定されるたびに、前記電圧変更部による前記電極への印加電圧の変更が実行され、
前記物理量判定部により、前記電気的物理量の差分が所定値を超えたと判定された回数が、第2の所定回数に至ったときには、前記電極への印加電圧の変更は実行されずに、前記交換部が、前記交換信号を出力することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の電気泳動装置。
【請求項11】
前記記憶部に記憶された前記電気的物理量に基づき、次回に前記電極に印加する電圧の値を算出する電圧値算出部を備え、
前記電気泳動装置は、前記電圧算出部が算出した電圧を前記電極に印加することを特徴とする請求項5乃至10のいずれか1項に記載の電気泳動装置。
【請求項12】
前記電気的物理量は、前記電極への電圧の印加により、前記電極間に流れる電流の値であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の電気泳動装置。
【請求項13】
前記キャピラリ流路と、前記キャピラリ流路の端に連結して溶液を蓄積することができるリザーバと、を有するマイクロチップと、
前記キャピラリ流路へ前記溶液を分注する分注手段と、
前記リザーバの外部から、該リザーバの内部および前記キャピラリ流路の内部にある前記溶液を吸引する吸引手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の電気泳動装置。
【請求項14】
前記分注手段は、前記リザーバの内部および前記キャピラリ流路の内部にある前記溶液を吸引する吸引手段を兼ねることを特徴とする請求項13に記載の電気泳動装置。
【請求項15】
前記リザーバを介して前記キャピラリ流路と連通し、前記キャピラリ流路とは異なる流路である補助路と、
前記補助路と連通するリザーバを外部から封止する封止部と、
前記補助路の他端部から前記リザーバの内部および前記キャピラリ流路の内部にある前記溶液を吸引する第2の吸引手段と、
を備えることを特徴とする請求項13または14に記載の電気泳動装置。
【請求項16】
キャピラリ流路に設けられた電極から電圧を印加して、前記キャピラリ流路内に注入された試料に電気泳動による成分分離を生じさせる電気泳動装置の制御方法であって、
前記キャピラリ流路内に泳動液及び試料が注入された状態で、前記電極に電圧が印加されている所定時点において、前記キャピラリ流路に生じる電気的物理量を取得する物理量取得ステップと、
前記電気的物理量が、所定範囲に含まれるか否かを判定する物理量判定ステップと、
を備えることを特徴とする電気泳動装置の制御方法。
【請求項17】
前記電気泳動装置には、前記キャピラリ流路と、前記キャピラリ流路の端に連結して溶液を蓄積することができるリザーバと、を有するマイクロチップが設けられ、
前記リザーバおよび前記キャピラリ流路に前処理液を充填する充填工程と、前記キャピラリ流路の両端のいずれか一方の前記リザーバの外部から、前記充填工程で該リザーバおよび分離流路に充填された該前処理液を吸引して、該リザーバおよび分離流路から該前処理液を排出する排出工程と、を少なくとも1回ずつ含む洗浄工程と、
前記キャピラリ流路に緩衝液を充填し、測定対象である試料を前記キャピラリ流路に分注する分注工程と、
前記キャピラリ流路の両端に電圧を印加して電気泳動を行う工程と、
前記電気泳動の測定結果を検出する工程と、
を備えることを特徴とする請求項16に記載の電気泳動装置の制御方法。
【請求項18】
前記排出工程は、試料を分注する側の前記リザーバの外部から、前記分注工程において前記試料を分注するときに用いる分注手段で前記前処理液を吸引することを特徴とする請求項17に記載の電気泳動装置の制御方法。
【請求項19】
前記排出工程は、前記リザーバを外部から封止し、前記リザーバを介して前記キャピラリ流路と連通し、該キャピラリ流路とは異なる流路である補助路の、該キャピラリ流路から遠い方の端の外部から該キャピラリ流路の内部の前記前処理液を吸引することを特徴とする請求項17または18に記載の電気泳動装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−68234(P2012−68234A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173139(P2011−173139)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)