電気泳動装置及び方法、並びに電気泳動部材及び試料分注プローブ
【課題】試料注入量を微量化する。
【解決手段】基板の一方の板材には分離流路が一本の溝として形成され、他方の板材には流路の両端に対応する位置に小リザーバとなる貫通穴が形成されて、電気泳動部材が構成されている。両板材は、流路が内側になり流路の両端が前記リザーバとつながるように張り合わされて、一体の基板となっている。板材上には、前記リザーバの位置にそれぞれ前記リザーバよりも大きな径をもつ大リザーバが接合されている。
【解決手段】基板の一方の板材には分離流路が一本の溝として形成され、他方の板材には流路の両端に対応する位置に小リザーバとなる貫通穴が形成されて、電気泳動部材が構成されている。両板材は、流路が内側になり流路の両端が前記リザーバとつながるように張り合わされて、一体の基板となっている。板材上には、前記リザーバの位置にそれぞれ前記リザーバよりも大きな径をもつ大リザーバが接合されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生化学、分子生物学、臨床などの分野において、例えばDNAシーケンシングなど、極微量のタンパク質や核酸、薬物などを高速かつ高分解能に分析する電気泳動分離に用いる電気泳動部材、それを用いた電気泳動装置及び方法、並びに試料分注プローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
極微量のタンパク質や核酸などを分析する場合には、従来から電気泳動装置が用いられている。その代表的なものとしてキャピラリー電気泳動装置があるが、キャピラリー電気泳動装置の取扱いが煩雑であるという欠点を補って分析の高速化、装置の小型化を目的として基板内部に流路をもつ電気泳動部材、いわゆるマイクロ流体デバイスが提案されている。そのマイクロ流体デバイスの例を図12に示す。
【0003】
図12に示されるように、マイクロ流体デバイス1は、一対の板材を張り合わせた基板の接合面に、マイクロマシニング技術により互いに交差する試料導入用のローディング流路3と泳動分離用の分離流路5とを形成し、一方の板材にはその流路3,5の端に対応する位置に貫通穴をアノードリザーバ7a、カソードリザーバ7c、サンプルリザーバ7s、ウエイストリザーバ7wとして設けたものである。このようなマイクロ流体デバイスは、2本の溝(channel)が交差して形成されていることから、クロスチャネル・マイクロチップ(Cross-channel Micro-chip)とも呼ばれる。
【0004】
このマイクロ流体デバイス1を用いて電気泳動を行なう場合には、分析に先立って、例えばシリンジを使った圧送により、いずれかのリザーバ、例えばアノードリザーバ7aから流路3,5内及びリザーバ7a,7c,7s,7w内に泳動媒体を充填する。
【0005】
これまでのマイクロ流体デバイスを用いた電気泳動法は、図12のようにクロスインジェクターデザインの流路を基本としている(特許文献1〜4参照。)。クロスインジェクション法では、次の手順で試料を導入している。
1)サンプルリザーバ7sの泳動媒体を除去し、そこに試料を注入する。
2)ローディング流路3に試料を均一にかつクロス部9で試料が分離流路5側に広がらないように、試料を電気泳動的に導入する。このとき、ピンチングなど電圧を複数箇所に印加しながら導入するか、あるいはDNAシーケンシングなどの1塩基分離以上の高分離を達成するための粘調ゲルの場合はピンチングの操作は必要なく、ローディング流路に電圧を印加するだけでよい。
3)電圧印加を分離流路5側に切り替え、かつローディング流路3にもクロス部9から逆方向に試料が移動するよう電圧を印加して、クロス部9の試料のみを分離流路5に導入して電気泳動分離を行なう。
【0006】
電気泳動装置その他の分析装置への試料注入は、ノズルに試料を吸引した後、分析装置の所定の位置にそのノズルから試料を吐出することにより行なっている。
【特許文献1】特開2002−131279号公報
【特許文献2】特開2002−131280号公報
【特許文献3】特開2002−310990号公報
【特許文献4】特開2003−166975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クロスインジェクション法では分離流路5に導入される試料はサンプルリザーバ7sに注入される試料のごく一部である。したがって、サンプルリザーバ7sに注入する試料量は比較的多く、通常は5〜20μL(マイクロリットル)を注入している。DNAシーケンシングなどの生体試料は微量しか得られないこともある。クロスインジェクション法では必要な試料量を微量化、例えば数10nL〜数μLというような微量の注入試料量を実現することは困難である。
【0008】
また、ノズルに試料を吸引した後、そのノズルから試料を吐出する試料注入方法では、極微量の試料を注入することは困難である。
本発明の目的は、上述の問題点に鑑み、微量な試料を扱うことのできる電気泳動部材、それを用いた電気泳動装置及び方法、並びに試料分注プローブを提供することである。
本発明の他の目的及び利点は後に続く発明の詳細な説明により明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の局面によれば、微量の試料を分析できるように試料の利用効率を高めるように構成された電気泳動部材が構成される。そのための本発明の電気泳動部材は、基板内部に少なくとも1つ設けられ、それぞれが1本の流路からなり、両端間に電圧が印加されることによりその流路に沿って試料が電気泳動分離する分離流路と、分離流路の両端部に配置され分離流路と通じる液溜め用第1リザーバと、分離流路の両端のうち、試料注入側の端部においてその端部側の第1リザーバの内側に設けられた試料注入用の第2リザーバとを備えている。
【0010】
第2リザーバは第1リザーバより径の小さい窪みとして形成することができる。その場合、第2リザーバの内壁が親水性、第1リザーバの少なくとも底面が疎水性となっていることが好ましい。
【0011】
また、第2リザーバは第1リザーバの底面上に形成してもよい。すなわち、第1リザーバの底面のうち、分離流路とつながる部分の周辺部が親水性、その外側が疎水性となるように表面処理がなされていることにより、第1リザーバの底面上に第2リザーバが形成されているようにすることができる。
第1リザーバ及び第2リザーバ内には予め一体化された電極を設けておくことができる。
この電気泳動部材は、1つの基板に1つの分離流路を備えたものであってもよく、共通の基板に複数の分離流路が形成されたものであってもよい。
【0012】
本発明の第2の局面によれば、本発明の電気泳動装置は、電気泳動部材として本発明のものを使用し、分離流路の両端間に泳動電圧を印加する電源装置と、微量試料を試料注入用第2リザーバに分注するための試料分注プローブと、分離流路の試料注入側とは反対側の端部に配置され、分離流路に沿って泳動してきた試料成分を検出する検出装置とを備えたものである。
【0013】
本発明の第3の局面によれば、試料分注プローブが微量の試料を注入できるようにした。その試料分注プローブは、先端に窪み又は溝をもち、毛細管現象と表面張力の一方又は両方を利用して微量の試料を採取して分注するものである。
【0014】
その試料分注プローブは、本発明の電気泳動装置だけでなく、従来のクロスインジェクション方式による電気泳動装置を初め、他の分析装置においても微量の試料注入を行なう際には利用することができるものである。
【0015】
本発明の第4の局面によれば、電気泳動方法において、本発明の電気泳動部材を用い、以下のステップを行なうことにより電気泳動分離を行なう。
前記分離流路に泳動媒体を充填するステップ、
試料注入側の第1リザーバから試料注入用第2リザーバに試料を注入し、他方の第1リザーバに泳動バッファを満たし、電気泳動的に試料を流路内に導入するステップ、
試料導入後、試料注入用第2リザーバ内の試料をそのままにして試料注入側の第1リザーバに泳動バッファを満たすステップ、及び
分離流路の両端間に泳動電圧を印加して泳動分離を行なうステップ。
この場合、試料注入用第2リザーバに試料を注入するステップで注入された試料が試料注入用第2リザーバ内に残存していても、残存試料を除去したり洗浄したりすることはしない。そして、泳動バッファを注入して試料を希釈し、そのまま泳動分離を行なう。本発明では、サンプルが注入された後、試料が除去や洗浄されなくても、泳動パターンに影響はない。したがって、電気泳動部材の操作が容易である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の局面によれば、電気泳動部材は分離流路と交差するローディング流路を備えていない。試料は試料注入用第2リザーバに注入され、分離流路に直接導入される。ローディング流路に試料を導入することがないので、分析に必要な試料量を微量化することができる。
【0017】
また、クロスインジェクション法による試料導入では、試料ローディング流路中でも試料が泳動分離する。ローディングバッファの組成によってはローディング流路中でスタッキング(濃縮)現象を生じ、ローディング流路中に不均一な試料分布が生じてしまう。分離流路に導入される試料はローディング流路に導入された試料の一部である。したがって、分離流路5に導入された試料が元の試料の組成を忠実に反映しない虞がある。
それに対し、本発明の電気泳動部材によれば、ローディング流路を備えた従来のクロスインジェクション法と比べると、ローディング流路におけるスタッキングは生じず、試料濃度分布は均一になり、試料は濃度分布を維持して分離流路に導入される。
【0018】
本発明では、第2リザーバは第1リザーバより径の小さい窪みとして形成することができる。第2リザーバの内壁が親水性、第1リザーバの少なくとも底面が疎水性となっていることが好ましい。したがって、試料を選択的に第2リザーバ内に凝集させることができ、注入された試料を有効に分離流路に導入することができるようになる。
【0019】
第1リザーバの底面のうち分離流路とつながる部分の周辺部が親水性、その外側が疎水性となるように表面処理がなされている。この構成により、第1リザーバの底面上に第2リザーバを形成するのが容易になる。
両第1リザーバ内に予め一体化された電極を設けておけば、試料量が微量でも試料を確実に電極と接触させることができるようになる。
【0020】
本発明の第3の局面によれば、試料分注プローブは、毛細管現象と表面張力の一方又は両方を利用して微量の試料を採取して分注することができるので、ノズルに試料を吸入し吐出する従来の方法と比べると微量の試料を注入するのが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1(A),(B)は本発明の第1の実施例による電気泳動部材を表わす。
基板は一対の板材10a,10bが接合されたものである。一方の板材10aには分離流路12が一本の溝として形成されている。流路12の幅は100nm〜1000μm、好ましくは50〜90μmであり、深さは100nm〜1000μm、好ましくは20〜40μmである。他方の板材10bには流路12の両端に対応する位置に第2リザーバとなる貫通穴14aと14bがそれぞれ形成されている。第2リザーバは直径が10μm〜3mm、好ましくは50μm〜2mmであり、数10nL〜数μLの試料を注入するのに適した大きさをもっている。両板材10aと10bは、流路12が内側になり流路12の両端が第2リザーバ14a,14bとつながるように張り合わされて、一体の基板となっている。
【0022】
板材10b上には、第2リザーバ14a,14bの位置にそれぞれ第1リザーバ16aと16bが接合されている。第1リザーバは第2リザーバ14a,14bよりも大きな径をもつ円筒状の部材であり、板材10b上に接合されている。第2リザーバ14a,14bがそれぞれ第1リザーバ16a,16bの穴の中心部に位置するように第1リザーバ16a,16bが位置決めされている。
【0023】
図2(A),(B)は本発明の第2の実施例による電気泳動部材を表わす。
この実施例では、他方の板材10bに流路12a、12bが貫通穴として形成され、それぞれが分離流路12の両端とつながっている。第1リザーバ16a,16bはそれぞれ底のある円筒状部材により構成され、それぞれの底面中央部に第2リザーバ14a、14bとして第1リザーバ16a,16bの径より小さい径の貫通穴が形成されている。第2リザーバ14a、14bがそれぞれ流路12a、12bとつながるように第1リザーバ16a,16bが板材10b上に取りつけられている。
【0024】
図1(A),(B)、図2(A),(B)の実施例において、少なくとも試料注入側の第2リザーバ14a(ここでは“a”がついている方を試料注入側とする。)の内壁が親水性、第1リザーバ16aの底面又は底面から内壁面にかけて疎水性となっていることが好ましい。
【0025】
図3は本発明の第3の実施例による電気泳動部材の試料注入側を拡大して示したものであり、第2リザーバ14aは第1リザーバ16aの底面上に形成されている。すなわち、第1リザーバ16aの底面のうち、分離流路12とつながる部分12aの周辺部(14aとして示されている領域)が親水性、その外側が疎水性となるように表面処理がなされている。これにより、注入された試料は親水性処理が施された部分に保持されることなり、その親水性領域が第2リザーバ14aとなる。その親水性領域14aの大きさは、保持される試料量が数10nL〜数μLとなるのに適した大きさをもっている。
【0026】
そのような親水性と疎水性の表面処理としては、種々の方法を挙げることができる。例えば、基板としてガラス板を使用した場合には、酸で処理することにより親水性を持たせることができ、フッ素樹脂などの樹脂コーティング、シランカップリング剤処理などにより疎水性を持たせることができる。また、基板板材10bとして親水性の材質、第1リザーバ16aとして疎水性の材質を使用することによっても親水性と疎水性の性質をもたせることができる。
【0027】
図4は本発明の第4の実施例による電気泳動部材を表わす。図1(A)〜3の実施例では、電極は第1リザーバ16a、16bとは別体として用意され、第1リザーバ16a、16bに収容された泳動バッファにそれぞれ電極が浸される。図4の実施例では電極20a、20bは第1リザーバ16a,16bから第2リザーバ14a,14bに延びるように予めこの電気泳動部材と一体に形成されている。
【0028】
電極20a、20bは白金からなる金属層又は金属線からなるものである。電極20a、20bを金属層により形成するには、金属層を堆積法やスパッタリング法により形成した後、リゾグラフィーとエッチングによりパターン化する。この場合、図4のように第1リザーバ16a、16bの内壁面が開口部に向かって広がるように傾斜しているのが好ましく、それにより金属層の形成が容易になる。電極20a、20bの他の形態としては、金属線を樹脂により埋設して固着することにより第1リザーバ16a,16bと一体化したものを挙げることができる。電極20a、20bは第2リザーバ14a,14bにおいて試料又は泳動バッファと接触するように露出し、かつ第1リザーバ16a,16bの外部で電源装置のリード線に接続されるように露出して形成されている。
【0029】
図5(A)から(C)は本発明のさらに他の実施例による電気泳動部材を表わす。
図1(A)から図4の実施例では基板に一本の分離流路12が形成されている。図5(A)から(C)の実施例では複数の分離流路12が共通の基板に形成されている。図5(A)から(C)では複数の分離流路12が互いに交差しないように配列されている。分離流路12のそれぞれの一端に第2リザーバ14aが設けられて試料が注入されるようになっており、それぞれの他端は共通の第1リザーバ16bに接続されている。一端側の第1リザーバ16aは全ての第2リザーバ14aが配置されている領域を覆って共通の1つの大きいリザーバとなっている。その斜視図を表わす図5(C)に示されるように、全ての第2リザーバ14aは共通の第1リザーバ16a内に設けられ、第1リザーバ16aとつながっている。他端側の共通の第1リザーバ16bも全ての分離流路12の他端側の開口が配置されている領域を覆って共通の1つの大きいリザーバとなっており、全ての分離流路12の他端側の開口が第1リザーバ16bとつながっている。
【0030】
電極は第1リザーバ16a,16bにそれぞれ予め設けておいてもよく、電極を別途挿入するようにしてもよい。また、試料注入側では第2リザーバ14aごとに電極を設けておいてもよく、別途挿入するようにしてもよい。
【0031】
基板を構成する板材10a,10bの材質としては、石英ガラス、ホウ珪酸系ガラス、樹脂などを用いることができる。泳動分離された成分を光学的に検出する場合には透明材質を選択する。光以外の検出手段を使用する場合は、板材10a,10bの材質は透明なものに限定されるものではない。
【0032】
分離流路12はリソグラフィーとエッチング(ウエットエッチング及びドライエッチング)により形成することができる。また第2リザーバ14a,14b又は流路12a,12bとなる穴はサンドブラストやレーザドリルなどの方法により形成することができる。
【0033】
図6は図1(A)〜3の電気泳動部材を用いた電気泳動装置を概略的に示したものである。
電気泳動部材30が温調プレート32上に配置されている。電気泳動部材30の基板も温調プレート32も共に透明な材質で形成されており、温調プレート32は加熱装置と温度制御装置を備えて一定温度に保たれている。
【0034】
34はゲル充填機構であり、電気泳動部材30に泳動ゲルを充填するためのものである。ゲル充填機構34はゲルを吐出するノズル36と、ゲルの吸入と吐出を行なうシリンジ38とを備えている。ノズル36は平面内のX、Y方向と垂直方向のZ方向に移動できるように支持され、第1リザーバ16a又は16bから第1リザーバ及び流路に泳動ゲルを充填する。
【0035】
カソード側で第1リザーバ16aの底部の第2リザーバに試料を注入するために分注機構40が配置されている。分注機構40は平面内のX、Y方向と垂直方向のZ方向に移動することができる。分注機構40のノズル42は試料を収納しているサンプルプレートとしてのマイクロタイタープレート44の任意のウエルの位置と、第1リザーバ16a内の第2リザーバの位置との間を移動して、プレート44上のウエル内の試料を第2リザーバに注入できるようになっている。46は分注ノズル42を洗浄するためのポートである。洗浄液48がポンプ50で供給され、ドレインへ排出されており、ノズル42をその洗浄ポート46に漬すことによって洗浄することができる。
【0036】
第2リザーバから分離流路への試料導入と、導入された試料の電気泳動分離のための電圧印加のために、高電圧電源装置52が設けられている。電源装置52には電極54a、54bが接続されている。電極54aは第1リザーバ16a内の泳動バッファ又は第2リザーバ内の試料に挿入され、電極54bは第1リザーバ16b内の泳動バッファに挿入されて電圧が印加される。
【0037】
電気泳動媒体30の分離流路12で試料注入用第2リザーバと反対側の端部側の位置で、泳動分離されてきた試料成分を検出するために多色蛍光検出系56が温調プレート32の下方に配置されている。検出系56からは例えばアルゴンレーザなどの光源からの励起光が分離流路12に照射され、その励起光により励起されて発生した蛍光が光学系56により検出される。サンプルとして例えばDNAサンプルが分析されるときは、末端塩基別に4種類の蛍光色素で標識されたDNA断片が泳動分離され、それぞれの蛍光色素を検出するために4種類の蛍光波長で検出が行なわれる。
【0038】
58はこの電気泳動装置の制御と検出系56が受光した蛍光信号に基づいてデータ処理を行なうための制御・データ処理装置としてのパーソナルコンピュータ(PC)である。パーソナルコンピュータ58により電気泳動媒体30への泳動ゲル充填、試料注入、電圧印加などの各部の操作が制御され、光学系56による蛍光検出信号の取得、その取得した蛍光信号に基づく泳動パターンの作成、及び塩基配列決定がなされる。
【0039】
泳動分離された成分の検出は蛍光光度法により行なっているが、他の検出方法として吸光光度法、電気化学的方法又は電気伝導度法などの手段により行なうこともできる。
【0040】
試料分注機構40の分注ノズル42は微量の試料を分注できるように、その先端が図7(A)又は(B)のように形成されている。
図7(A)のノズルは、その先端に窪み60を有する。その窪み60の直径は10μm〜5mm、好ましくは2mm、深さは5μm〜1mm、好ましくは200μmであり、数10nL〜数μLの試料が表面張力によってその窪み60に保持され、第1リザーバ16a内の第2リザーバに搬送されて分注される。
【0041】
図7(B)のノズルは、その先端部に空洞62が形成されている。その空洞62は先端に通じる溝64によって先端に開口されている。溝64と空洞62は、溝64から空洞62にかけて数10nL〜数μLの試料が収容されるような大きさをもっている。試料は毛細管現象によって溝64から空洞62にかけて収容され、第1リザーバ内16aの第2リザーバに搬送されて分注される。
【0042】
図8(A)及び(B)は試料分注機構40のノズルを搬送機構とともに概略的に示したものである。
図8(A)に示されるノズルは、先端に分注ノズルチップ66を備えており、そのチップ66内に試料を毛細管現象により吸入し、第1リザーバ内16aの第2リザーバへ搬送して分注する。
図8(B)に示されるノズルは、図7(B)のノズル68を先端に備えており、微量分注用のプローブとして用いられる。
【0043】
次に本発明の実施例の泳動分離を従来のクロスインジェクション法を用いた電気泳動と比較して説明する。
調整例1:DNAサンプル、泳動ゲル、バッファ
以下に説明する実施例1,2及び比較例1において、DNAサンプル、泳動ゲル、バッファとして次のものを使用した。
鋳型サンプル:pUC18プラスミドDNA
サンガー試薬:BigDie (登録商標) Ver.3.1(Applied Biosystems 社の製品)
精製:エタノール沈殿法
試料ローディングバッフア:Milli-Q水又は50〜80%ホルムアミド
泳動ゲル:2%リニアポリアクリルアミドゲル(×1TTE),7M尿素
泳動バッフア:×1 Tris−TAPS−EDTA(TTE)
【0044】
実施例1:一つの基板に一本の分離流路が形成された泳動部材を用いた本発明に基づく電気泳動
図1に示す一つの基板に1本の分離流路が形成された泳動部材を用いた。電気泳動の手順は以下のとおりである。
1)分離流路のアノード側から泳動ゲルをシリンジで加圧充填する。
2)それぞれの第1リザーバに泳動バッファを満たし、電極を浸漬して高電圧を印加(125V/cm、5分)して、ゲル中の夾雑イオンを除去するためのプレランを行なう。
3)カソード側の第1リザーバの泳動バッファを吸引後、第2リザーバにDNAサンプルを3μL注入する。
4)電極をそれぞれの第1リザーバに浸漬して、試料導入のために電圧を印加する(50V/cm、40秒)
5)試料導入後、電圧印加を一旦切り、泳動バッファをカソード側の第1リザーバに満たす。このとき、第2リザーバに試料が残っていても泳動バッファにより希釈される。
6)泳動分離のために、高電圧を印加する。このときの印加電圧は、70〜300V/cmが適当であり、一例として125V/cmとした。
7)検出部で光学的又は電気化学的に、泳動分離されたDNAサンプルの断片を時系列に検出してデータ処理を行ない、泳動分離波形を取得する。
【0045】
比較例:従来のクロスインジェクション法を用いた電気泳動
図12に示す泳動部材を用いた。電気泳動の手順は以下のとおりである。
1)分離流路のアノード側から泳動ゲルをクロス部からの3方分岐流路に均等にかつ均一になるようシリンジで加圧充填する。
2)それぞれのウエルに泳動バッファを満たし、電極を浸潰して高電圧を印加して、プレラン及びプレローディングを行なう。印加電圧及び時間は、ともに125V/cm、5分とした。
3)サンプルウェルの泳動バッファを吸引後、DNAサンプルを8μL注入した。
4)電極をサンプルリザーバとサンプルウエストリザーバに浸潰して、ローディング流路間に電圧を印加する。このときの印加電圧と時間は125V/cm、10分とした。
5)拭料導入後、電圧印加を一旦切り、アノードとカソード間に高電圧を印加する。このときの印加電圧は70〜300V/cmが適当であり、ここではI25V/cmとした。
6)上の5)項と同時に200秒間、サンプルリザーバとサンプルウエストリザーバにプルバック用電圧を印加する。このときの印加電圧は10〜100V/cmが適当であり、ここでは60V/cmとした。その200秒間の電圧印加後、電圧印加を止める。
7)検出部で光学的又は電気化学的に、泳動分離されたDNAサンプルの断片を時系列に検出してデータ処理を行ない、泳動分離波形を取得した。
【0046】
このようにして取得した泳動パターンの一例を図9(A)と9(B)に示す。図9(A)は実施例1の結果、図9(B)は比較例の結果である。これらの泳動パターンは検出部で泳動分離されたDNAサンプルに励起光を照射し、その蛍光を検出したものであり、横軸は励起光で走査したときの走査番号を表し、時間に対応している。縦軸は蛍光強度である。
図9(A)と9(B)を比較すると、本発明の実施例の方が泳動分離された各ピークの蛍光検出の信号強度が大きく、かつ良好な分離状態を示している。
【0047】
図10は実施例1と比較例とで泳動パターンの分離能を比較した結果である。菱形のデータは実施例、三角形のデータは比較例を示しており、横軸は塩基対(bp)、縦軸は分離能である。分離能は0.5以上であれば2つのピークが分離されており、0.5未満であれば2つのピークが重なって1つのピークになっていることを示している。分離能に関しては、実施例と比較例はほとんど同じパターンを示しており、ほとんど違いのないことがわかる。また、残った試料を洗浄するステップを設けなくても、残った試料の影響はない。
図11は信号強度をピーク高さで比較したものである。図9(A)と(B)からも明らかなように、実施例による結果の方か信号強度を大きくとることができることを示している。
【0048】
実施例2:共通の部材に複数の泳動路が形成された泳動部材を用いた本発明に基づく電気泳動
共通の部材に384本の泳動流路が形成された図5に示す泳動部材を用いた。電気泳動の手順は、実施例1と同様である。
【0049】
図13(A)から13(H)に、図5に示される384本の分離流路のうち、左から数えて129から135番目の分離流路の泳動パターンを示す。図13(A)から13(H)に示されるように、いずれの泳動流路においても、ベースラインの安定した良好な分離状態を示している。また、泳動流路間での泳動分離の状態も再現性がよい。各流路の巨大ピーク(分離がなくなり、すべてのサンプル断片が一つのピークとなって現れる部位)が、隣り合う流路に出ていることにより、分離流路間でのサンプルのクロストークが生じていないことがわかる。すなわち、泳動部材が複数の泳動流路を備えていて、それらがサンプル注入側で第1リザーバを共通にしているとしても、第2リザーバに注入されたサンプルは泳動バッファで希釈されるので、各分離流路での泳動パターンに影響はない。
図14に、384本の分離流路のうち代表的な流路の一つ(左から数えて129番目)の分離度を示す。図10に示す実施例1における分離度と比べてわかるとおり、図13(A)から13(H)に示される分離流路について良好な分離状態が得られた。
【0050】
本発明の電気泳動部材、それを用いた電気泳動装置及び方法、並びに試料分注プローブは、生化学、分子生物学、臨床などの分野において、極微量のタンパク質や核酸、薬物などを高速かつ高分解能に電気泳動分離するのに利用することができる。
特願2003−330614号(平成15年9月22日出願)の開示を本出願に取り込む。
本発明を特定の実施例を参照して説明しているが、その説明は例示であり、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】電気泳動部材の一実施例を示す図であり、(A)は平面図、(B)はそのX−X線位置での断面図である。
【図2】電気泳動部材の他の実施例を示す図であり、(A)は平面図、(B)はそのY−Y線位置での断面図である。
【図3】電気泳動部材のさらに他の実施例における試料注入側を拡大して示す断面図である。
【図4】電気泳動部材のさらに他の実施例を示す断面図である。
【図5】電気泳動部材のさらに他の実施例を示す図であり、(A)は流路と第1リザーバの平面図、(B)は試料注入側の第2リザーバ部分を示す一部拡大図、(C)は試料注入側の概略斜視図である。
【図6】電気泳動装置の一実施例を示す概略斜視図である。
【図7】(A),(B)はそれぞれ試料分注機構の分注ノズルの一例を示す断面図である。
【図8】(A),(B)はそれぞれ試料分注機構の分注ノズルの一例を搬送機構とともに概略的に示す断面図である。
【図9】(A)は実施例1における泳動パターンを示す図、(B)比較例における泳動パターンを示す図である。
【図10】実施例1と比較例とで泳動パターンの分離能を比較した結果を示すグラフである。
【図11】実施例1と比較例とで泳動パターンのピーク高さを比較した結果を示すグラフである。
【図12】従来の電気泳動部材を示す平面図である。
【図13】実施例2における泳動パターンを示すグラフであり、(A)は、左から数えて129番目の泳動路、(B)は同じく130番目の泳動路、(C)は同じく131番目の泳動路、(D)は同じく132番目の泳動路、(E)は同じく133番目の泳動路、(F)は同じく134番目の泳動路、(G)は同じく135番目の泳動路、(H)は同じく136番目の泳動路の泳動パターンを示す。
【図14】実施例2において左から数えて129番目の泳動路での分離能を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は生化学、分子生物学、臨床などの分野において、例えばDNAシーケンシングなど、極微量のタンパク質や核酸、薬物などを高速かつ高分解能に分析する電気泳動分離に用いる電気泳動部材、それを用いた電気泳動装置及び方法、並びに試料分注プローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
極微量のタンパク質や核酸などを分析する場合には、従来から電気泳動装置が用いられている。その代表的なものとしてキャピラリー電気泳動装置があるが、キャピラリー電気泳動装置の取扱いが煩雑であるという欠点を補って分析の高速化、装置の小型化を目的として基板内部に流路をもつ電気泳動部材、いわゆるマイクロ流体デバイスが提案されている。そのマイクロ流体デバイスの例を図12に示す。
【0003】
図12に示されるように、マイクロ流体デバイス1は、一対の板材を張り合わせた基板の接合面に、マイクロマシニング技術により互いに交差する試料導入用のローディング流路3と泳動分離用の分離流路5とを形成し、一方の板材にはその流路3,5の端に対応する位置に貫通穴をアノードリザーバ7a、カソードリザーバ7c、サンプルリザーバ7s、ウエイストリザーバ7wとして設けたものである。このようなマイクロ流体デバイスは、2本の溝(channel)が交差して形成されていることから、クロスチャネル・マイクロチップ(Cross-channel Micro-chip)とも呼ばれる。
【0004】
このマイクロ流体デバイス1を用いて電気泳動を行なう場合には、分析に先立って、例えばシリンジを使った圧送により、いずれかのリザーバ、例えばアノードリザーバ7aから流路3,5内及びリザーバ7a,7c,7s,7w内に泳動媒体を充填する。
【0005】
これまでのマイクロ流体デバイスを用いた電気泳動法は、図12のようにクロスインジェクターデザインの流路を基本としている(特許文献1〜4参照。)。クロスインジェクション法では、次の手順で試料を導入している。
1)サンプルリザーバ7sの泳動媒体を除去し、そこに試料を注入する。
2)ローディング流路3に試料を均一にかつクロス部9で試料が分離流路5側に広がらないように、試料を電気泳動的に導入する。このとき、ピンチングなど電圧を複数箇所に印加しながら導入するか、あるいはDNAシーケンシングなどの1塩基分離以上の高分離を達成するための粘調ゲルの場合はピンチングの操作は必要なく、ローディング流路に電圧を印加するだけでよい。
3)電圧印加を分離流路5側に切り替え、かつローディング流路3にもクロス部9から逆方向に試料が移動するよう電圧を印加して、クロス部9の試料のみを分離流路5に導入して電気泳動分離を行なう。
【0006】
電気泳動装置その他の分析装置への試料注入は、ノズルに試料を吸引した後、分析装置の所定の位置にそのノズルから試料を吐出することにより行なっている。
【特許文献1】特開2002−131279号公報
【特許文献2】特開2002−131280号公報
【特許文献3】特開2002−310990号公報
【特許文献4】特開2003−166975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クロスインジェクション法では分離流路5に導入される試料はサンプルリザーバ7sに注入される試料のごく一部である。したがって、サンプルリザーバ7sに注入する試料量は比較的多く、通常は5〜20μL(マイクロリットル)を注入している。DNAシーケンシングなどの生体試料は微量しか得られないこともある。クロスインジェクション法では必要な試料量を微量化、例えば数10nL〜数μLというような微量の注入試料量を実現することは困難である。
【0008】
また、ノズルに試料を吸引した後、そのノズルから試料を吐出する試料注入方法では、極微量の試料を注入することは困難である。
本発明の目的は、上述の問題点に鑑み、微量な試料を扱うことのできる電気泳動部材、それを用いた電気泳動装置及び方法、並びに試料分注プローブを提供することである。
本発明の他の目的及び利点は後に続く発明の詳細な説明により明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の局面によれば、微量の試料を分析できるように試料の利用効率を高めるように構成された電気泳動部材が構成される。そのための本発明の電気泳動部材は、基板内部に少なくとも1つ設けられ、それぞれが1本の流路からなり、両端間に電圧が印加されることによりその流路に沿って試料が電気泳動分離する分離流路と、分離流路の両端部に配置され分離流路と通じる液溜め用第1リザーバと、分離流路の両端のうち、試料注入側の端部においてその端部側の第1リザーバの内側に設けられた試料注入用の第2リザーバとを備えている。
【0010】
第2リザーバは第1リザーバより径の小さい窪みとして形成することができる。その場合、第2リザーバの内壁が親水性、第1リザーバの少なくとも底面が疎水性となっていることが好ましい。
【0011】
また、第2リザーバは第1リザーバの底面上に形成してもよい。すなわち、第1リザーバの底面のうち、分離流路とつながる部分の周辺部が親水性、その外側が疎水性となるように表面処理がなされていることにより、第1リザーバの底面上に第2リザーバが形成されているようにすることができる。
第1リザーバ及び第2リザーバ内には予め一体化された電極を設けておくことができる。
この電気泳動部材は、1つの基板に1つの分離流路を備えたものであってもよく、共通の基板に複数の分離流路が形成されたものであってもよい。
【0012】
本発明の第2の局面によれば、本発明の電気泳動装置は、電気泳動部材として本発明のものを使用し、分離流路の両端間に泳動電圧を印加する電源装置と、微量試料を試料注入用第2リザーバに分注するための試料分注プローブと、分離流路の試料注入側とは反対側の端部に配置され、分離流路に沿って泳動してきた試料成分を検出する検出装置とを備えたものである。
【0013】
本発明の第3の局面によれば、試料分注プローブが微量の試料を注入できるようにした。その試料分注プローブは、先端に窪み又は溝をもち、毛細管現象と表面張力の一方又は両方を利用して微量の試料を採取して分注するものである。
【0014】
その試料分注プローブは、本発明の電気泳動装置だけでなく、従来のクロスインジェクション方式による電気泳動装置を初め、他の分析装置においても微量の試料注入を行なう際には利用することができるものである。
【0015】
本発明の第4の局面によれば、電気泳動方法において、本発明の電気泳動部材を用い、以下のステップを行なうことにより電気泳動分離を行なう。
前記分離流路に泳動媒体を充填するステップ、
試料注入側の第1リザーバから試料注入用第2リザーバに試料を注入し、他方の第1リザーバに泳動バッファを満たし、電気泳動的に試料を流路内に導入するステップ、
試料導入後、試料注入用第2リザーバ内の試料をそのままにして試料注入側の第1リザーバに泳動バッファを満たすステップ、及び
分離流路の両端間に泳動電圧を印加して泳動分離を行なうステップ。
この場合、試料注入用第2リザーバに試料を注入するステップで注入された試料が試料注入用第2リザーバ内に残存していても、残存試料を除去したり洗浄したりすることはしない。そして、泳動バッファを注入して試料を希釈し、そのまま泳動分離を行なう。本発明では、サンプルが注入された後、試料が除去や洗浄されなくても、泳動パターンに影響はない。したがって、電気泳動部材の操作が容易である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の局面によれば、電気泳動部材は分離流路と交差するローディング流路を備えていない。試料は試料注入用第2リザーバに注入され、分離流路に直接導入される。ローディング流路に試料を導入することがないので、分析に必要な試料量を微量化することができる。
【0017】
また、クロスインジェクション法による試料導入では、試料ローディング流路中でも試料が泳動分離する。ローディングバッファの組成によってはローディング流路中でスタッキング(濃縮)現象を生じ、ローディング流路中に不均一な試料分布が生じてしまう。分離流路に導入される試料はローディング流路に導入された試料の一部である。したがって、分離流路5に導入された試料が元の試料の組成を忠実に反映しない虞がある。
それに対し、本発明の電気泳動部材によれば、ローディング流路を備えた従来のクロスインジェクション法と比べると、ローディング流路におけるスタッキングは生じず、試料濃度分布は均一になり、試料は濃度分布を維持して分離流路に導入される。
【0018】
本発明では、第2リザーバは第1リザーバより径の小さい窪みとして形成することができる。第2リザーバの内壁が親水性、第1リザーバの少なくとも底面が疎水性となっていることが好ましい。したがって、試料を選択的に第2リザーバ内に凝集させることができ、注入された試料を有効に分離流路に導入することができるようになる。
【0019】
第1リザーバの底面のうち分離流路とつながる部分の周辺部が親水性、その外側が疎水性となるように表面処理がなされている。この構成により、第1リザーバの底面上に第2リザーバを形成するのが容易になる。
両第1リザーバ内に予め一体化された電極を設けておけば、試料量が微量でも試料を確実に電極と接触させることができるようになる。
【0020】
本発明の第3の局面によれば、試料分注プローブは、毛細管現象と表面張力の一方又は両方を利用して微量の試料を採取して分注することができるので、ノズルに試料を吸入し吐出する従来の方法と比べると微量の試料を注入するのが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1(A),(B)は本発明の第1の実施例による電気泳動部材を表わす。
基板は一対の板材10a,10bが接合されたものである。一方の板材10aには分離流路12が一本の溝として形成されている。流路12の幅は100nm〜1000μm、好ましくは50〜90μmであり、深さは100nm〜1000μm、好ましくは20〜40μmである。他方の板材10bには流路12の両端に対応する位置に第2リザーバとなる貫通穴14aと14bがそれぞれ形成されている。第2リザーバは直径が10μm〜3mm、好ましくは50μm〜2mmであり、数10nL〜数μLの試料を注入するのに適した大きさをもっている。両板材10aと10bは、流路12が内側になり流路12の両端が第2リザーバ14a,14bとつながるように張り合わされて、一体の基板となっている。
【0022】
板材10b上には、第2リザーバ14a,14bの位置にそれぞれ第1リザーバ16aと16bが接合されている。第1リザーバは第2リザーバ14a,14bよりも大きな径をもつ円筒状の部材であり、板材10b上に接合されている。第2リザーバ14a,14bがそれぞれ第1リザーバ16a,16bの穴の中心部に位置するように第1リザーバ16a,16bが位置決めされている。
【0023】
図2(A),(B)は本発明の第2の実施例による電気泳動部材を表わす。
この実施例では、他方の板材10bに流路12a、12bが貫通穴として形成され、それぞれが分離流路12の両端とつながっている。第1リザーバ16a,16bはそれぞれ底のある円筒状部材により構成され、それぞれの底面中央部に第2リザーバ14a、14bとして第1リザーバ16a,16bの径より小さい径の貫通穴が形成されている。第2リザーバ14a、14bがそれぞれ流路12a、12bとつながるように第1リザーバ16a,16bが板材10b上に取りつけられている。
【0024】
図1(A),(B)、図2(A),(B)の実施例において、少なくとも試料注入側の第2リザーバ14a(ここでは“a”がついている方を試料注入側とする。)の内壁が親水性、第1リザーバ16aの底面又は底面から内壁面にかけて疎水性となっていることが好ましい。
【0025】
図3は本発明の第3の実施例による電気泳動部材の試料注入側を拡大して示したものであり、第2リザーバ14aは第1リザーバ16aの底面上に形成されている。すなわち、第1リザーバ16aの底面のうち、分離流路12とつながる部分12aの周辺部(14aとして示されている領域)が親水性、その外側が疎水性となるように表面処理がなされている。これにより、注入された試料は親水性処理が施された部分に保持されることなり、その親水性領域が第2リザーバ14aとなる。その親水性領域14aの大きさは、保持される試料量が数10nL〜数μLとなるのに適した大きさをもっている。
【0026】
そのような親水性と疎水性の表面処理としては、種々の方法を挙げることができる。例えば、基板としてガラス板を使用した場合には、酸で処理することにより親水性を持たせることができ、フッ素樹脂などの樹脂コーティング、シランカップリング剤処理などにより疎水性を持たせることができる。また、基板板材10bとして親水性の材質、第1リザーバ16aとして疎水性の材質を使用することによっても親水性と疎水性の性質をもたせることができる。
【0027】
図4は本発明の第4の実施例による電気泳動部材を表わす。図1(A)〜3の実施例では、電極は第1リザーバ16a、16bとは別体として用意され、第1リザーバ16a、16bに収容された泳動バッファにそれぞれ電極が浸される。図4の実施例では電極20a、20bは第1リザーバ16a,16bから第2リザーバ14a,14bに延びるように予めこの電気泳動部材と一体に形成されている。
【0028】
電極20a、20bは白金からなる金属層又は金属線からなるものである。電極20a、20bを金属層により形成するには、金属層を堆積法やスパッタリング法により形成した後、リゾグラフィーとエッチングによりパターン化する。この場合、図4のように第1リザーバ16a、16bの内壁面が開口部に向かって広がるように傾斜しているのが好ましく、それにより金属層の形成が容易になる。電極20a、20bの他の形態としては、金属線を樹脂により埋設して固着することにより第1リザーバ16a,16bと一体化したものを挙げることができる。電極20a、20bは第2リザーバ14a,14bにおいて試料又は泳動バッファと接触するように露出し、かつ第1リザーバ16a,16bの外部で電源装置のリード線に接続されるように露出して形成されている。
【0029】
図5(A)から(C)は本発明のさらに他の実施例による電気泳動部材を表わす。
図1(A)から図4の実施例では基板に一本の分離流路12が形成されている。図5(A)から(C)の実施例では複数の分離流路12が共通の基板に形成されている。図5(A)から(C)では複数の分離流路12が互いに交差しないように配列されている。分離流路12のそれぞれの一端に第2リザーバ14aが設けられて試料が注入されるようになっており、それぞれの他端は共通の第1リザーバ16bに接続されている。一端側の第1リザーバ16aは全ての第2リザーバ14aが配置されている領域を覆って共通の1つの大きいリザーバとなっている。その斜視図を表わす図5(C)に示されるように、全ての第2リザーバ14aは共通の第1リザーバ16a内に設けられ、第1リザーバ16aとつながっている。他端側の共通の第1リザーバ16bも全ての分離流路12の他端側の開口が配置されている領域を覆って共通の1つの大きいリザーバとなっており、全ての分離流路12の他端側の開口が第1リザーバ16bとつながっている。
【0030】
電極は第1リザーバ16a,16bにそれぞれ予め設けておいてもよく、電極を別途挿入するようにしてもよい。また、試料注入側では第2リザーバ14aごとに電極を設けておいてもよく、別途挿入するようにしてもよい。
【0031】
基板を構成する板材10a,10bの材質としては、石英ガラス、ホウ珪酸系ガラス、樹脂などを用いることができる。泳動分離された成分を光学的に検出する場合には透明材質を選択する。光以外の検出手段を使用する場合は、板材10a,10bの材質は透明なものに限定されるものではない。
【0032】
分離流路12はリソグラフィーとエッチング(ウエットエッチング及びドライエッチング)により形成することができる。また第2リザーバ14a,14b又は流路12a,12bとなる穴はサンドブラストやレーザドリルなどの方法により形成することができる。
【0033】
図6は図1(A)〜3の電気泳動部材を用いた電気泳動装置を概略的に示したものである。
電気泳動部材30が温調プレート32上に配置されている。電気泳動部材30の基板も温調プレート32も共に透明な材質で形成されており、温調プレート32は加熱装置と温度制御装置を備えて一定温度に保たれている。
【0034】
34はゲル充填機構であり、電気泳動部材30に泳動ゲルを充填するためのものである。ゲル充填機構34はゲルを吐出するノズル36と、ゲルの吸入と吐出を行なうシリンジ38とを備えている。ノズル36は平面内のX、Y方向と垂直方向のZ方向に移動できるように支持され、第1リザーバ16a又は16bから第1リザーバ及び流路に泳動ゲルを充填する。
【0035】
カソード側で第1リザーバ16aの底部の第2リザーバに試料を注入するために分注機構40が配置されている。分注機構40は平面内のX、Y方向と垂直方向のZ方向に移動することができる。分注機構40のノズル42は試料を収納しているサンプルプレートとしてのマイクロタイタープレート44の任意のウエルの位置と、第1リザーバ16a内の第2リザーバの位置との間を移動して、プレート44上のウエル内の試料を第2リザーバに注入できるようになっている。46は分注ノズル42を洗浄するためのポートである。洗浄液48がポンプ50で供給され、ドレインへ排出されており、ノズル42をその洗浄ポート46に漬すことによって洗浄することができる。
【0036】
第2リザーバから分離流路への試料導入と、導入された試料の電気泳動分離のための電圧印加のために、高電圧電源装置52が設けられている。電源装置52には電極54a、54bが接続されている。電極54aは第1リザーバ16a内の泳動バッファ又は第2リザーバ内の試料に挿入され、電極54bは第1リザーバ16b内の泳動バッファに挿入されて電圧が印加される。
【0037】
電気泳動媒体30の分離流路12で試料注入用第2リザーバと反対側の端部側の位置で、泳動分離されてきた試料成分を検出するために多色蛍光検出系56が温調プレート32の下方に配置されている。検出系56からは例えばアルゴンレーザなどの光源からの励起光が分離流路12に照射され、その励起光により励起されて発生した蛍光が光学系56により検出される。サンプルとして例えばDNAサンプルが分析されるときは、末端塩基別に4種類の蛍光色素で標識されたDNA断片が泳動分離され、それぞれの蛍光色素を検出するために4種類の蛍光波長で検出が行なわれる。
【0038】
58はこの電気泳動装置の制御と検出系56が受光した蛍光信号に基づいてデータ処理を行なうための制御・データ処理装置としてのパーソナルコンピュータ(PC)である。パーソナルコンピュータ58により電気泳動媒体30への泳動ゲル充填、試料注入、電圧印加などの各部の操作が制御され、光学系56による蛍光検出信号の取得、その取得した蛍光信号に基づく泳動パターンの作成、及び塩基配列決定がなされる。
【0039】
泳動分離された成分の検出は蛍光光度法により行なっているが、他の検出方法として吸光光度法、電気化学的方法又は電気伝導度法などの手段により行なうこともできる。
【0040】
試料分注機構40の分注ノズル42は微量の試料を分注できるように、その先端が図7(A)又は(B)のように形成されている。
図7(A)のノズルは、その先端に窪み60を有する。その窪み60の直径は10μm〜5mm、好ましくは2mm、深さは5μm〜1mm、好ましくは200μmであり、数10nL〜数μLの試料が表面張力によってその窪み60に保持され、第1リザーバ16a内の第2リザーバに搬送されて分注される。
【0041】
図7(B)のノズルは、その先端部に空洞62が形成されている。その空洞62は先端に通じる溝64によって先端に開口されている。溝64と空洞62は、溝64から空洞62にかけて数10nL〜数μLの試料が収容されるような大きさをもっている。試料は毛細管現象によって溝64から空洞62にかけて収容され、第1リザーバ内16aの第2リザーバに搬送されて分注される。
【0042】
図8(A)及び(B)は試料分注機構40のノズルを搬送機構とともに概略的に示したものである。
図8(A)に示されるノズルは、先端に分注ノズルチップ66を備えており、そのチップ66内に試料を毛細管現象により吸入し、第1リザーバ内16aの第2リザーバへ搬送して分注する。
図8(B)に示されるノズルは、図7(B)のノズル68を先端に備えており、微量分注用のプローブとして用いられる。
【0043】
次に本発明の実施例の泳動分離を従来のクロスインジェクション法を用いた電気泳動と比較して説明する。
調整例1:DNAサンプル、泳動ゲル、バッファ
以下に説明する実施例1,2及び比較例1において、DNAサンプル、泳動ゲル、バッファとして次のものを使用した。
鋳型サンプル:pUC18プラスミドDNA
サンガー試薬:BigDie (登録商標) Ver.3.1(Applied Biosystems 社の製品)
精製:エタノール沈殿法
試料ローディングバッフア:Milli-Q水又は50〜80%ホルムアミド
泳動ゲル:2%リニアポリアクリルアミドゲル(×1TTE),7M尿素
泳動バッフア:×1 Tris−TAPS−EDTA(TTE)
【0044】
実施例1:一つの基板に一本の分離流路が形成された泳動部材を用いた本発明に基づく電気泳動
図1に示す一つの基板に1本の分離流路が形成された泳動部材を用いた。電気泳動の手順は以下のとおりである。
1)分離流路のアノード側から泳動ゲルをシリンジで加圧充填する。
2)それぞれの第1リザーバに泳動バッファを満たし、電極を浸漬して高電圧を印加(125V/cm、5分)して、ゲル中の夾雑イオンを除去するためのプレランを行なう。
3)カソード側の第1リザーバの泳動バッファを吸引後、第2リザーバにDNAサンプルを3μL注入する。
4)電極をそれぞれの第1リザーバに浸漬して、試料導入のために電圧を印加する(50V/cm、40秒)
5)試料導入後、電圧印加を一旦切り、泳動バッファをカソード側の第1リザーバに満たす。このとき、第2リザーバに試料が残っていても泳動バッファにより希釈される。
6)泳動分離のために、高電圧を印加する。このときの印加電圧は、70〜300V/cmが適当であり、一例として125V/cmとした。
7)検出部で光学的又は電気化学的に、泳動分離されたDNAサンプルの断片を時系列に検出してデータ処理を行ない、泳動分離波形を取得する。
【0045】
比較例:従来のクロスインジェクション法を用いた電気泳動
図12に示す泳動部材を用いた。電気泳動の手順は以下のとおりである。
1)分離流路のアノード側から泳動ゲルをクロス部からの3方分岐流路に均等にかつ均一になるようシリンジで加圧充填する。
2)それぞれのウエルに泳動バッファを満たし、電極を浸潰して高電圧を印加して、プレラン及びプレローディングを行なう。印加電圧及び時間は、ともに125V/cm、5分とした。
3)サンプルウェルの泳動バッファを吸引後、DNAサンプルを8μL注入した。
4)電極をサンプルリザーバとサンプルウエストリザーバに浸潰して、ローディング流路間に電圧を印加する。このときの印加電圧と時間は125V/cm、10分とした。
5)拭料導入後、電圧印加を一旦切り、アノードとカソード間に高電圧を印加する。このときの印加電圧は70〜300V/cmが適当であり、ここではI25V/cmとした。
6)上の5)項と同時に200秒間、サンプルリザーバとサンプルウエストリザーバにプルバック用電圧を印加する。このときの印加電圧は10〜100V/cmが適当であり、ここでは60V/cmとした。その200秒間の電圧印加後、電圧印加を止める。
7)検出部で光学的又は電気化学的に、泳動分離されたDNAサンプルの断片を時系列に検出してデータ処理を行ない、泳動分離波形を取得した。
【0046】
このようにして取得した泳動パターンの一例を図9(A)と9(B)に示す。図9(A)は実施例1の結果、図9(B)は比較例の結果である。これらの泳動パターンは検出部で泳動分離されたDNAサンプルに励起光を照射し、その蛍光を検出したものであり、横軸は励起光で走査したときの走査番号を表し、時間に対応している。縦軸は蛍光強度である。
図9(A)と9(B)を比較すると、本発明の実施例の方が泳動分離された各ピークの蛍光検出の信号強度が大きく、かつ良好な分離状態を示している。
【0047】
図10は実施例1と比較例とで泳動パターンの分離能を比較した結果である。菱形のデータは実施例、三角形のデータは比較例を示しており、横軸は塩基対(bp)、縦軸は分離能である。分離能は0.5以上であれば2つのピークが分離されており、0.5未満であれば2つのピークが重なって1つのピークになっていることを示している。分離能に関しては、実施例と比較例はほとんど同じパターンを示しており、ほとんど違いのないことがわかる。また、残った試料を洗浄するステップを設けなくても、残った試料の影響はない。
図11は信号強度をピーク高さで比較したものである。図9(A)と(B)からも明らかなように、実施例による結果の方か信号強度を大きくとることができることを示している。
【0048】
実施例2:共通の部材に複数の泳動路が形成された泳動部材を用いた本発明に基づく電気泳動
共通の部材に384本の泳動流路が形成された図5に示す泳動部材を用いた。電気泳動の手順は、実施例1と同様である。
【0049】
図13(A)から13(H)に、図5に示される384本の分離流路のうち、左から数えて129から135番目の分離流路の泳動パターンを示す。図13(A)から13(H)に示されるように、いずれの泳動流路においても、ベースラインの安定した良好な分離状態を示している。また、泳動流路間での泳動分離の状態も再現性がよい。各流路の巨大ピーク(分離がなくなり、すべてのサンプル断片が一つのピークとなって現れる部位)が、隣り合う流路に出ていることにより、分離流路間でのサンプルのクロストークが生じていないことがわかる。すなわち、泳動部材が複数の泳動流路を備えていて、それらがサンプル注入側で第1リザーバを共通にしているとしても、第2リザーバに注入されたサンプルは泳動バッファで希釈されるので、各分離流路での泳動パターンに影響はない。
図14に、384本の分離流路のうち代表的な流路の一つ(左から数えて129番目)の分離度を示す。図10に示す実施例1における分離度と比べてわかるとおり、図13(A)から13(H)に示される分離流路について良好な分離状態が得られた。
【0050】
本発明の電気泳動部材、それを用いた電気泳動装置及び方法、並びに試料分注プローブは、生化学、分子生物学、臨床などの分野において、極微量のタンパク質や核酸、薬物などを高速かつ高分解能に電気泳動分離するのに利用することができる。
特願2003−330614号(平成15年9月22日出願)の開示を本出願に取り込む。
本発明を特定の実施例を参照して説明しているが、その説明は例示であり、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】電気泳動部材の一実施例を示す図であり、(A)は平面図、(B)はそのX−X線位置での断面図である。
【図2】電気泳動部材の他の実施例を示す図であり、(A)は平面図、(B)はそのY−Y線位置での断面図である。
【図3】電気泳動部材のさらに他の実施例における試料注入側を拡大して示す断面図である。
【図4】電気泳動部材のさらに他の実施例を示す断面図である。
【図5】電気泳動部材のさらに他の実施例を示す図であり、(A)は流路と第1リザーバの平面図、(B)は試料注入側の第2リザーバ部分を示す一部拡大図、(C)は試料注入側の概略斜視図である。
【図6】電気泳動装置の一実施例を示す概略斜視図である。
【図7】(A),(B)はそれぞれ試料分注機構の分注ノズルの一例を示す断面図である。
【図8】(A),(B)はそれぞれ試料分注機構の分注ノズルの一例を搬送機構とともに概略的に示す断面図である。
【図9】(A)は実施例1における泳動パターンを示す図、(B)比較例における泳動パターンを示す図である。
【図10】実施例1と比較例とで泳動パターンの分離能を比較した結果を示すグラフである。
【図11】実施例1と比較例とで泳動パターンのピーク高さを比較した結果を示すグラフである。
【図12】従来の電気泳動部材を示す平面図である。
【図13】実施例2における泳動パターンを示すグラフであり、(A)は、左から数えて129番目の泳動路、(B)は同じく130番目の泳動路、(C)は同じく131番目の泳動路、(D)は同じく132番目の泳動路、(E)は同じく133番目の泳動路、(F)は同じく134番目の泳動路、(G)は同じく135番目の泳動路、(H)は同じく136番目の泳動路の泳動パターンを示す。
【図14】実施例2において左から数えて129番目の泳動路での分離能を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板内部に少なくとも1つ設けられ、それぞれが1本の流路からなり、両端間に電圧が印加されることによりその流路に沿って試料が電気泳動分離する分離流路と、
前記分離流路の両端部に配置され前記分離流路と通じる液溜め用第1リザーバと、
前記分離流路の両端のうち、少なくとも試料注入側の端部においてその端部側の前記第1リザーバの内側に設けられた試料注入用の少なくとも1個の第2リザーバと、を備えた電気泳動部材。
【請求項2】
前記第2リザーバは第1リザーバより径の小さい窪みとして形成されている請求項1に記載の電気泳動部材。
【請求項3】
前記少なくとも1個の第2リザーバの内壁が親水性、前記第1リザーバの1個は少なくとも底面が疎水性となっている請求項2に記載の電気泳動部材。
【請求項4】
前記第1リザーバの1個は、その底面のうち、前記分離流路とつながる部分の周辺部が親水性、その外側が疎水性となるように表面処理がなされていることにより、その1個の第1リザーバの底面上に前記第2リザーバが形成されている請求項1に記載の電気泳動部材。
【請求項5】
前記第1リザーバ及び第2リザーバ内には一体化された電極が設けられている請求項1から4のいずれかに記載の電気泳動部材。
【請求項6】
前記分離流路は複数個設けられ、前記第1リザーバの少なくとも1個はそれらの複数の分離流路で共通になっている請求項1に記載の電気泳動部材。
【請求項7】
請求項1に記載の電気泳動部材と、
前記分離流路の両端間に泳動電圧を印加する電源装置と、
微量試料を前記試料注入用第2リザーバに分注するための試料分注プローブと、
前記分離流路の試料注入側とは反対側の端部に配置され、前記分離流路に沿って泳動してきた試料成分を検出する検出装置とを備えた電気泳動装置。
【請求項8】
前記試料分注プローブは先端に毛細管現象と表面張力の少なくとも一方を利用して微量の試料を採取して分注する手段を備えている請求項7に記載の電気泳動装置。
【請求項9】
前記手段は窪み又は溝のいずれかである請求項8に記載の電気泳動装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電気泳動部材を用い、以下のステップを含む電気泳動分離方法。
前記電気泳動部材の少なくとも1つの分離流路に泳動媒体を充填するステップ、
試料注入側の1つの第1リザーバから少なくとも1つの第2リザーバに試料を注入し、他方の第1リザーバに泳動バッファを満たし、電気泳動的に試料を流路内に導入するステップ、
試料導入後、前記試料注入用第2リザーバ内の試料をそのままにして試料注入側の第1リザーバに泳動バッファを満たすステップ、及び
前記分離流路の両端間に泳動電圧を印加して泳動分離を行なうステップ。
【請求項11】
先端に毛細管現象と表面張力の少なくとも一方を利用して微量の試料を採取して分注する手段を備えた試料分注プローブ。
【請求項12】
前記手段は窪み又は溝のいずれかである請求項11に記載の試料分注プローブ。
【請求項1】
基板と、
前記基板内部に少なくとも1つ設けられ、それぞれが1本の流路からなり、両端間に電圧が印加されることによりその流路に沿って試料が電気泳動分離する分離流路と、
前記分離流路の両端部に配置され前記分離流路と通じる液溜め用第1リザーバと、
前記分離流路の両端のうち、少なくとも試料注入側の端部においてその端部側の前記第1リザーバの内側に設けられた試料注入用の少なくとも1個の第2リザーバと、を備えた電気泳動部材。
【請求項2】
前記第2リザーバは第1リザーバより径の小さい窪みとして形成されている請求項1に記載の電気泳動部材。
【請求項3】
前記少なくとも1個の第2リザーバの内壁が親水性、前記第1リザーバの1個は少なくとも底面が疎水性となっている請求項2に記載の電気泳動部材。
【請求項4】
前記第1リザーバの1個は、その底面のうち、前記分離流路とつながる部分の周辺部が親水性、その外側が疎水性となるように表面処理がなされていることにより、その1個の第1リザーバの底面上に前記第2リザーバが形成されている請求項1に記載の電気泳動部材。
【請求項5】
前記第1リザーバ及び第2リザーバ内には一体化された電極が設けられている請求項1から4のいずれかに記載の電気泳動部材。
【請求項6】
前記分離流路は複数個設けられ、前記第1リザーバの少なくとも1個はそれらの複数の分離流路で共通になっている請求項1に記載の電気泳動部材。
【請求項7】
請求項1に記載の電気泳動部材と、
前記分離流路の両端間に泳動電圧を印加する電源装置と、
微量試料を前記試料注入用第2リザーバに分注するための試料分注プローブと、
前記分離流路の試料注入側とは反対側の端部に配置され、前記分離流路に沿って泳動してきた試料成分を検出する検出装置とを備えた電気泳動装置。
【請求項8】
前記試料分注プローブは先端に毛細管現象と表面張力の少なくとも一方を利用して微量の試料を採取して分注する手段を備えている請求項7に記載の電気泳動装置。
【請求項9】
前記手段は窪み又は溝のいずれかである請求項8に記載の電気泳動装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電気泳動部材を用い、以下のステップを含む電気泳動分離方法。
前記電気泳動部材の少なくとも1つの分離流路に泳動媒体を充填するステップ、
試料注入側の1つの第1リザーバから少なくとも1つの第2リザーバに試料を注入し、他方の第1リザーバに泳動バッファを満たし、電気泳動的に試料を流路内に導入するステップ、
試料導入後、前記試料注入用第2リザーバ内の試料をそのままにして試料注入側の第1リザーバに泳動バッファを満たすステップ、及び
前記分離流路の両端間に泳動電圧を印加して泳動分離を行なうステップ。
【請求項11】
先端に毛細管現象と表面張力の少なくとも一方を利用して微量の試料を採取して分注する手段を備えた試料分注プローブ。
【請求項12】
前記手段は窪み又は溝のいずれかである請求項11に記載の試料分注プローブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2007−506092(P2007−506092A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526816(P2006−526816)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014146
【国際公開番号】WO2005/029062
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014146
【国際公開番号】WO2005/029062
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
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