説明

電気泳動装置

【課題】1本の分離流路によって広い範囲の電気泳動による良好な分離を得ることができるようにする。
【解決手段】制御部18には、第1分離媒体を用いた電気泳動(第1電気泳動)を行なうように構成された第1電気泳動手段20、及び第1電気泳動後に第2分離媒体を用いた電気泳動(第2電気泳動)を行なうように構成された第2電気泳動手段22が設けられている。第1電気泳動時、第2電気泳動時にそれぞれ分離流路28の所定の位置に電気泳動により分離したサンプル成分の検出を行なう検出部10が設けられている。検出部10の検出信号に基づいて演算処理を行なう演算処理部24が設けられている。演算処理部24は、第1電気泳動時の検出部10の検出信号により得られる一定範囲の解析結果と第2電気泳動時の検出部10の検出信号により得られる一定範囲の解析結果を互いの重複部分を重ね合わせて結合し、1つの解析データとする処理を行なうように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動分析を行なうための電気泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャピラリを用いた電気泳動分析は、タンパク質やDNAなどの分析に適しており、臨床医学や医薬品、環境物質のモニタリング等の用途に広く利用されている。特に、微細加工技術により形成したマイクロチップ型の電気泳動デバイスは取り扱いの容易さなどから広く用いられている。
【0003】
一般的なマイクロチップ型電気泳動デバイスは、石英ガラス基板などの透明基板に形成された1本の分離流路を備え、その一端部にサンプルを分注するためのサンプルウエルが設けられ、その上部にリザーバが設けられている。分離流路の他端部にもウエルが設けられ、その上部にもリザーバが設けられている。分離流路内に分離媒体とサンプルを注入した後、両リザーバにバッファ液を充填し、そのバッファ液内に電極を挿入して電圧を印加することで、分離流路においてサンプルの電気泳動を行なう。
【0004】
しかし、電気泳動によってDNAの配列の解析を行なう場合、1本の分離流路を用いた1回の電気泳動でDNAの全ての領域の分離が得られるわけではない。短鎖から長鎖まで広いレンジでDNAを良好に分離させるためには、相当の長さをもつ分離流路が必要であり、電気泳動デバイスや電気泳動装置が大型化するなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−241523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明者はマイクロチップに2本の分離流路を設け、それらの流路に分離特性の異なる分離媒体を注入して電気泳動を行なうようにした電気泳動装置を提案している(特許文献1参照。)。マイクロチップに設けられた2本の分離流路は互いに長さが同じであるが、短鎖DNAを良好に分離させる分離媒体と長鎖DNAを良好に分離させる分離媒体を各流路において用いることにより、短鎖DNAと長鎖DNAとを良好に分離させ、短い分離流路で幅広い領域での解析結果を得ることができる。
【0007】
本発明は、1本の分離流路によって広い範囲の電気泳動による良好な分離を容易に得ることができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気泳動装置は、第1領域に属する塩基配列の分離に適した分離特性をもつ第1分離媒体を貯留するための第1分離媒体貯留部と、第1領域と一部分が重複する第2領域に属する塩基配列の分離に適した分離特性をもつ第2分離媒体を貯留するための第2分離媒体貯留部と、電気泳動を行なうための1つの分離流路を有する電気泳動デバイスの分離流路に第1分離媒体及び第2分離媒体のいずれか一方を注入するための分離媒体注入機構と、サンプルを分離流路に注入するためのサンプル注入機構と、分離媒体と試料が注入された分離流路の両端に所定電圧を印加するための電圧印加部と、分離流路の所定の位置において電気泳動により分離された成分を検出するための検出部と、分離媒体注入機構、サンプル注入機構、電圧印加部及び検出部を制御する制御部であって、第1分離媒体を分離流路に注入するとともにサンプルを分離流路に注入し、分離流路の両端に所定電圧を印加することによりサンプルの第1電気泳動を実行するように構成された第1電気泳動手段、及び第1電気泳動の後に第2分離媒体を分離流路に注入するとともにサンプルを分離流路に注入し、分離流路の両端に所定電圧を印加することによりサンプルの第2電気泳動を実行するように構成された第2電気泳動手段を有する制御部と、第1電気泳動時と第2電気泳動時の検出部による第1領域と第2領域の解析結果を互いの重複部分を重ね合わせて結合し解析データを作成する演算処理部と、を備えたものである。
【0009】
「第1領域」、「第2領域」とは、電気泳動によって分離された核酸の一定範囲の塩基数を意味し、例えば第1領域は短鎖側の領域、第2領域は長鎖側の領域である。短鎖側、長鎖側とは、明確な基準が存在するものではなく、第1領域と第2領域の相対的な関係によるものである。
【0010】
なお、第1電気泳動と第2電気泳動では、泳動のための印加電圧を同一にすることができる。その場合は電源装置の設定を変更することなく両電気泳動を実行することができるので、構成も操作も簡単である。それに対し、第1電気泳動と第2電気泳動で印加電圧を異ならせることもできる。分離する塩基配列の領域に応じて分離能と泳動時間からそれぞれに適した電気泳動条件に設定することができる。
【0011】
本発明は、1種類のサンプルについての電気泳動処理の回数を2回に限定するものではない。例えば、第1分離媒体又は第2分離媒体と一部分が重複する第3領域に属する塩基配列の分離に適した分離特性をもつ第3分離媒体を貯留するための第3分離媒体貯留部をさらに備え、制御部は第2電気泳動のさらに後に第3分離媒体を分離流路に注入するとともにサンプルを分離流路に注入し、分離流路の両端に所定電圧を印加することによりサンプルの第3電気泳動を実行するように構成された第3電気泳動手段をさらに有し、演算処理部は第1電気泳動から第3電気泳動までの解析結果を互いに重複部分を重ね合わせて結合して解析データを作成するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気泳動装置は、従来の電気泳動装置と同様に一本の分離流路を備えた電気泳動デバイスを用いて電気泳動を行なうものであり、各部を制御するための制御部に、第1領域に属する塩基配列の分離に適した分離特性をもつ第1分離媒体と第2領域に属する塩基配列の分離に適した分離特性をもつ第2分離媒体をそれぞれ用いて第1電気泳動と第2電気泳動を実行するための第1及び第2電気泳動手段を設け、演算処理部により第1電気泳動時と第2電気泳動時の検出部による第1領域と第2領域の解析結果を互いの重複部分を重ね合わせて結合し解析データを作成するようにしたので、既存の電気泳動装置の構成を大幅に変更することなく広い塩基数の範囲の正確な解析データを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電気泳動装置の一実施例を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例で使用されるマイクロチップの一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は分離流路に沿う方向における断面図である。
【図3】同実施例の動作の一例を示すフローチャートである。
【図4】同実施例の装置により解読可能な塩基数の範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び図2を用いて電気泳動装置の一実施例について説明する。
この電気泳動装置は、図2に示されている試料の電気泳動を行なうための1本の分離流路28を備えたマイクロチップ(電気泳動デバイス)26を用いるものである。マイクロチップ26は2枚の透明基板26a,26bが貼り合わされて構成されており、その接合面に分離流路28が形成されている。分離流路28の一端にサンプルウエル30、他端に廃液ウエル34が設けられている。サンプルウエル30の上部にサンプルウエル30よりも大容量の第1リザーバ32が設けられ、廃液ウエル34の上部に廃液ウエル34よりも大容量の第2リザーバ36が設けられている。
【0015】
このマイクロチップ26に対して直接的に処理を行なう構成として、分離媒体注入機構2、試料分注機構4、バッファ液分注機構6及び電圧印加部8が設けられている。この電気泳動装置は分離媒体として第1分離媒体と第2分離媒体を使用するため、第1分離媒体貯留部12aと第2分離媒体貯留部12bを備えている。一般に、DNAシーケンスの鎖長解析では、高濃度の分離媒体を用いると短鎖DNAは良好に分離されるものの、長鎖DNAの分離が悪くなる。一方で、低濃度の分離媒体を用いると、長鎖DNAは良好に分離されるものの、短鎖DNAの分離が悪くなる。そこで、短鎖DNAを良好に分離させるための第1分離媒体と、長鎖DNAを良好に分離させるための第2分離媒体を用いる。第1分離媒体の分離能(第1領域)と第2分離媒体の分離能(第2領域)は互いに一部が重複している。分離能とは良好に分離させることができる塩基配列数の範囲である。
【0016】
分離媒体注入機構2は、貯留部12a,12bのいずれかから第1又は第2の分離媒体の吸引と吐出を行なうことができるノズルとともに、分離媒体を分注したリザーバの上面を封止して加圧空気により分離媒体を分離流路28に注入することができる加圧機構を備えている。試料分注機構4は試料貯留部14からの試料の吸引と吐出を行なうことができるノズルを備えている。バッファ液分注機構6はバッファ液貯留部16からのバッファ液の吸引と吐出を行なうことができるノズルを備えている。分離媒体注入機構2、試料分注機構4及びバッファ液分注機構6のノズルとして1つのノズルを洗浄しながら共用することができる。電圧印加部8は2本の電極と両電極間に電圧を発生させる電圧発生回路を備えている。
【0017】
分離媒体注入機構2、試料分注機構4、バッファ液分注機構6及び電圧印加部8を制御するための制御部18が設けられている。制御部18には、第1分離媒体を用いた電気泳動(第1電気泳動)を行なうように構成された第1電気泳動手段20、及び第1電気泳動後に第2分離媒体を用いた電気泳動(第2電気泳動)を行なうように構成された第2電気泳動手段22が設けられている。
【0018】
第1電気泳動時、第2電気泳動時にそれぞれ分離流路28の所定の位置に電気泳動により分離したサンプル成分の検出を行なう検出部10が設けられている。検出部10としては、例えば、光学的な蛍光検出、UV(紫外線)吸収検出、化学発光検出、作用電極と検出電極を設けた電気化学検出、あるいは分離流路末端から工レクトロスプレイ法によりイオン化して質量分析計で検出するなどの方法によりサンプル成分の検出を行なうものが挙げられる。
【0019】
検出部10の検出信号に基づいて演算処理を行なう演算処理部24が設けられている。演算処理部24は、図4に示されているように、第1電気泳動時の検出部10の検出信号に基づいて得られる一定範囲の解析結果と第2電気泳動時の検出部10の検出信号に基づいて得られる一定範囲の解析結果とを互いの重複部分を重ね合わせて結合し、1つの解析データとする処理を行なうように構成されている。
【0020】
この実施例の電気泳動装置の動作の一例について図2及び図3を用いて説明する。
まず、サンプルウエル30に第1分離媒体を供給する(ステップS1)。サンプルウエル30の上面を封止しながら加圧することにより、第1分離媒体を分離流路28内に注入する(ステップS2)。このとき、第1分離媒体が廃液ウエル34側に溢れだすまで第1リザーバ32内を加圧する。なお、分離媒体の供給及び加圧は廃液ウエル34から行なってもよい。
【0021】
サンプルウエル30、第1リザーバ32、廃液ウエル34及び第2リザーバ36の第1分離媒体を吸引ノズルにより吸引して除去することにより、分離流路28内にのみ第1分離媒体を残す(ステップS3)。サンプルウエル30に試料を分注し、第2リザーバ36にバッファ液を分注する(ステップS4)。サンプルウエル30内及び第2リザーバ36内にそれぞれ電極を挿入し、両電極間に所定の電圧を印加することにより試料を分離流路28内に導入する(ステップS5)。その後、サンプルウエル30内に残存する試料を吸引ノズルで吸引して除去し、第1リザーバ32にバッファ液を分注する(ステップS6)。
【0022】
第1リザーバ32内及び第2リザーバ36内にそれぞれ電極を挿入し、両電極間に所定電圧を印加することにより第1電気泳動を行なう(ステップS7)。この第1電気泳動では、サンプルDNAの短鎖側の領域の解析結果を得ることができる。
【0023】
第1電気泳動が終了した後、分離流路28、サンプルウエル30、第1リザーバ32、廃液ウエル34及び第2リザーバ36の内部を例えば純水などの洗浄液を用いて洗浄する(ステップS8)。
【0024】
第1分離媒体の場合と同じ要領で、第2分離媒体を分離流路28内にのみ第2分離媒体を残す(ステップS9〜S11)。サンプルウエル30に第1電気泳動と同じ試料を分注し、第2リザーバ36にバッファ液を分注する(ステップS12)。サンプルウエル30内及び第2リザーバ36内にそれぞれ電極を挿入し、両電極間に所定の電圧を印加することにより試料を分離流路28内に導入する(ステップS13)。その後、サンプルウエル30内に残存する試料を吸引ノズルで吸引して除去し、第1リザーバ32にバッファ液を分注する(ステップS14)。
【0025】
第1リザーバ32内及び第2リザーバ36内にそれぞれ電極を挿入し、両電極間に所定電圧を印加することにより第2電気泳動を行なう(ステップS15)。この第1電気泳動では、サンプルDNAの長鎖側の領域の解析結果を得ることができる。第2電気泳動で得た解析結果と第2電気泳動で得た解析結果を重複する塩基数部分を重ね合わせて結合することにより、1つの解析データを作成する(ステップS16)。
【0026】
なお、この実施例では、1種類の試料に対して第1分離媒体を用いた第1電気泳動と第2分離媒体を用いた第2電気泳動の2回の電気泳動を行なうものとなっているが、3種類以上の分離媒体を用いて3回以上の電気泳動を行ない、各電気泳動で得られた解析結果を結合して1つの解析データを作成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
2 分離媒体注入機構
4 試料分注機構
6 バッファ液分注機構
8 電圧印加部
10 検出部
12a 第1分離媒体貯留部
12b 第2分離媒体貯留部
14 試料貯留部
16 バッファ液貯留部
18 制御部
20 第1電気泳動手段
22 第2電気泳動手段
24 演算処理部
26 マイクロチップ
28 分離流路
30 サンプルウエル
32 第1リザーバ
34 廃液ウエル
36 第2リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1領域に属する塩基配列の分離に適した分離特性をもつ第1分離媒体を貯留するための第1分離媒体貯留部と、
前記第1領域と一部分が重複する第2領域に属する塩基配列の分離に適した分離特性をもつ第2分離媒体を貯留するための第2分離媒体貯留部と、
電気泳動を行なうための1つの分離流路を有する電気泳動デバイスの前記分離流路に前記第1分離媒体及び第2分離媒体のいずれか一方を注入するための分離媒体注入機構と、
サンプルを前記分離流路に注入するためのサンプル注入機構と、
分離媒体と試料が注入された前記分離流路の両端に所定電圧を印加するための電圧印加部と、
前記分離流路の所定の位置において電気泳動により分離された成分を検出するための検出部と、
前記分離媒体注入機構、サンプル注入機構、電圧印加部及び検出部を制御する制御部であって、前記第1分離媒体を前記分離流路に注入するとともにサンプルを前記分離流路に注入し、前記分離流路の両端に所定電圧を印加することによりサンプルの第1電気泳動を実行するように構成された第1電気泳動手段、及び第1電気泳動の後に前記第2分離媒体を前記分離流路に注入するとともにサンプルを前記分離流路に注入し、前記分離流路の両端に所定電圧を印加することによりサンプルの第2電気泳動を実行するように構成された第2電気泳動手段を有する制御部と、
第1電気泳動時と第2電気泳動時の前記検出部による前記第1領域と第2領域の解析結果を互いの重複部分を重ね合わせて結合し解析データを作成する演算処理部と、を備えた電気泳動装置。
【請求項2】
前記第1分離媒体又は第2分離媒体と一部分が重複する第3領域に属する塩基配列の分離に適した分離特性をもつ第3分離媒体を貯留するための第3分離媒体貯留部をさらに備え、
前記制御部は第2電気泳動のさらに後に前記第3分離媒体を前記分離流路に注入するとともにサンプルを前記分離流路に注入し、前記分離流路の両端に所定電圧を印加することによりサンプルの第3電気泳動を実行するように構成された第3電気泳動手段をさらに有し、
前記演算処理部は前記第1電気泳動から第3電気泳動までの解析結果を互いに重複部分を重ね合わせて結合して解析データを作成するように構成されている請求項1に記載の電気泳動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202805(P2012−202805A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67415(P2011−67415)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)