説明

電気浸透流システム

【課題】 電気浸透流か不安定になることを防ぐ。
【解決手段】 接続部分で接触する二つ以上の電気浸透流素子を含む電気浸透流システムであって、電気浸透流素子の少なくとも一つが大きな電荷比を有する電気浸透流システム。電気浸透流素子は整合する流束比を有する。電気浸透流素子の末端部は、接続部分で液に露出される表面積を増大するような形状であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、開示全体が参照によって本明細書中に組み込まれる2002年5月1日出願の本出願人らによる出願第10/137,215号(手続き書番号14129)の一部継続出願である。
【0002】
本発明は、電気化学システムに関する。
【背景技術】
【0003】
電気浸透流システム(以下EOFシステムと称する)においてはイオンを含む液体に電場が印加され、これによって液体が流れる。EOFシステムを含む多くの電気化学システムでは、システムの異なる部分を物理的に隔離してイオン的に接続するために、たとえば電極および電極成生物を作業液から分離するために、ブリッジが使用される。たとえば、米国特許第3,923,426号明細書(Theeuwes)、「キャピラリー電気泳動用電気化学検出法」(博士論文、B.S.Seoul、カンザス大学、1996年、136−141頁、電気泳動(Electrophoresis)、20巻、525−528頁(1999年)、Desiderio他、「ミクロ全分析システム2000(Micro Total Analysis Systems 2000)」、A.van den Berg編(Kluwer Academic)、Dordrecht、オランダ、2000年、213−216頁(Ramsey他)、583−590頁(Paul他)、および355−358頁(Wallenborg他)、Talanta51巻、667−675頁(2000年)、Gan他にそのようなブリッジが開示されている。Ganらの論文は中国特許第ZL97212126.9号明細書(1998年)、米国特許第6,012,902号明細書(Parce)、WO99/16162号明細書(Parce)、ケミカル・エンジニアリング・コミュニケーションズ(Chem.Eng.Commun.)、38巻、93−106頁(1985年)、Anderson他、および米国特許第5,573,651号明細書(Dasgupta他)を引用している。これらの出版物の開示全体はあらゆる目的による参照によってそれぞれ本明細書中に組み込まれる。
【0004】
一般にEOFシステムは一つ以上の電気浸透流素子(以下EOF素子と呼ぶ)を備え、各EOF素子にはかなりのサイズがあり、電荷比はほぼ0である。そのようなシステムは動作中に不安定になることはない。電荷比の大きさがゼロより大幅に大きな単一のEOF素子を含む既知のシステムも存在し、そのようなシステムでは電気浸透流が不安定になることがある。参照により開示全体が本明細書中に取り込まれるジャーナル・オブ・ケミカル・フィジックス(J.Chem.Phys.)、40巻、2212‐2222頁(1964年)、Kobatake等を参照すること。
【発明の開示】
【0005】
たとえばサイズが非常に小さいために、および/または非常に微細な細孔径を有する物質を使用しているために大きな電荷比を有するEOF素子を備えるEOFシステムが必要なことがある。多くの場合、そのようなシステムは動作中、不安定である。本発明者らは、本発明に従って、互いに組み合わされた二つ以上のEOF素子を備える電気浸透流システムにおいて、EOF素子の流束比間の差を低減することによって、不安定な流動の起因になるいかなる傾向をも制御できることを発見した。本発明は、少なくとも一つのEOF素子の電荷比が大きいときに特に有用である。EOF素子の一方または両方がEOFシステムの異なる部分、たとえば電極を含む液溜めとEOFシステムの残りの部分との間のブリッジであってもよい。
【0006】
我々はさらに本発明によって、EOFシステムを含むが、EOFシステムには限定されない電気化学システムにおいて、たとえばブリッジとして有用な新規な複数の構造を発見した。これらの新規な構造の多くは、EOF素子の一方または両方の末端部分における電流束が、末端部分の間の素子中の最大電流束よりかなり小さくなるように設計される。
【0007】
第一の態様においては、本発明は
(A)第一の末端部分A1および第二の末端部分A2を有する第一の電気浸透流(EOF)素子、
(B)第一の末端部分B1および第二の末端部分B2を有する第二の電気浸透流(EOF)素子、
(C)第二の末端部分A2および第一の末端部分B1が配置され、それによって第一および第二のEOF素子が電気的におよび液体によって接続される接続部分、
を含む新規な電気浸透流システムであって、以下の特徴
(i)第一のEOF素子の流束比と第二のEOF素子の流束比との間の差の大きさが0.5より小さい、好ましくは0.25より小さい、とくに0.1より小さい、とくに0.01より小さい、とくにほぼゼロである、
(ii)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方の電荷比の大きさ(すなわち符号を無視した値)が0.01より大きい、たとえば0.1より大きい、0.2より大きい、または0.3より大きい、
(iii)第一のEOF素子の電荷比と第二のEOF素子の電荷比との差(符号の変化があればそれを考慮して)が、0.4より小さい、好ましくは0.2より小さい、とくに0.1より小さい、とくに0.05より小さい、および/または第一のEOF素子の電荷比と第二のEOF素子の電荷比とが同じ符号を有し、第一のEOF素子の電荷比が第二のEOF素子の電荷比の0.9から1.1倍、好ましくは0.95から1.05倍、たとえば0.97倍から1.03倍である、
(iv)第一および第二のEOF素子の一方で第一の電圧降下があり、他方のEOF素子で第二の電圧降下があり、第一の電圧降下が第二の電圧降下より大幅に小さい、たとえば第二の電圧降下の10%より小さい、
(v)末端部分A2と末端部分B1との間の距離が末端部分A2および末端部分B1の少なくとも一方、好ましくは両方の最大寸法より小さい、たとえば最大寸法の0.2倍より小さい、
(vi)接続部分を通る流れの平均流線が、末端部分A2およびB1の少なくとも一方の接線方向に大きな成分、たとえば少なくとも80%の成分を有する、
(vii)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方において、第一および第二の末端部分の少なくとも一方を通る電流束が第一の末端部分と第二の末端部分との間の最大電流束よりかなり小さい、たとえば0.5倍より小さい、または0.1倍より小さい、
(viii)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が、EOF素子の有効断面積より大幅に大きい、好ましくは少なくとも1.5倍、とくに少なくとも2倍または少なくとも3倍、たとえば5から10倍である、接続液体と接触する表面積を有する、
(ix)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が、素子の最小断面積の少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、とくに少なくとも10倍、とくに少なくとも20倍、たとえば5から100倍、または10から80倍、または10から50倍、または20から50倍、または20から40倍である接続液体と接触する表面積を有する、
(x)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が接続液体と接触するセレーションを備え、セレーションが好ましくは約0.25より大きく、好ましくは約4より小さいアスペクト比を有する、
(xi)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方の第一および第二の末端部分の少なくとも一方が第一の電荷比を有する第一の物質で構成され、EOF素子の残りの少なくとも一部分が第二の電荷比を有する第二の物質で構成され、第一および第二の電荷比が好ましくは以下の条件
(a)第一および第二の電荷比の少なくとも一方が0.01より大きい、たとえば0.1より大きい、
(b)第一および第二の電荷比が同じ符号を有する、
(c)第一の電荷比が第二の電荷比の0.25から0.75倍、たとえば約0.5倍である、
の少なくとも一つを満たす、
(xii)第一および第二のEOF素子の一方を通る液体が第一の流速を有し、他方のEOF素子を通る液体が第二の流速を有し、第一の流速が第二の流速の10%より小さい、たとえば1%より小さい、たとえば実質的にゼロである、
の少なくとも一つを有するシステムを提供する。
【0008】
第二の態様においては、本発明は電気浸透流システムでの使用に適する装置であって、
(A)第一の末端部分A1および第二の末端部分A2を有する第一の電気浸透流(EOF)素子、
(B)第一の末端部分B1および第二の末端部分B2を有する第二のEOF素子、および
(C)第二の末端部分A2および第一の末端部分B1が配置された接続部分、
を含む装置であって、実質的に22℃において定常状態条件下で動作し、本質的に
(a)第一の電気浸透流(EOF)素子、
(b)第一のEOF素子の第一の末端部分A1に接続された第一の液溜め、
(c)第一の液溜め中の第一の電極、
(d)第二のEOF素子の第二の末端部分B2に接続された第二の液溜め、
(e)第二の液溜め中の第二の電極、
(f)第一および第二の電極に接続された電源、および
(g)システムを満たし、以下「本明細書中に挙げる試験溶液」と称する下記
1)pH8.5、イオン強度20mMのTRIS/HCl、
2)pH8.5、イオン強度2mMのTRIS/HCl、
3)pH8.5、イオン強度20mMのTRIS/ソルビン酸、
4)pH8.5、イオン強度2mMのTRIS/ソルビン酸、
5)pH8.5、イオン強度20mMのカリウム/HEPES、
6)pH8.5、イオン強度2mMのカリウム/HEPES、
7)pH4.5、イオン強度20mMのBIS‐TRIS/ギ酸、
8)pH4.5、イオン強度2mMのBIS‐TRIS/ギ酸、
9)pH4.5、イオン強度20mMのTRIS/ソルビン酸、
10)pH4.5、イオン強度2mMのTRIS/ソルビン酸、
11)pH4.5、イオン強度20mMのカリウム/TMBA、
12)pH4.5、イオン強度2mMのカリウム/TMBA、
13)pH6.5、イオン強度20mMのBIS‐TRIS/HCl、
14)pH6.5、イオン強度2mMのBIS‐TRIS/HCl、
15)pH6.5、イオン強度20mMのBIS‐TRIS/TMBA、
16)pH6.5、イオン強度2mMのBIS‐TRIS/TMBA、
17)pH6.5、イオン強度20mMのカリウム/MES、
18)pH6.5、イオン強度2mMのカリウム/MES、
19)pH6.5の5mMナトリウム/MES緩衝液、および
20)pH約8.25の1mM TRIS/HCl、
に挙げる試験溶液から選ばれた水溶液、
からなる電気浸透流試験システムの一部分とされると、試験システムが以下の特徴
(i)第一のEOF素子の流束比と第二のEOF素子の流束比との間の差の大きさが0.5より小さい、好ましくは0.25より小さい、とくに0.1より小さい、とくに0.01より小さい、とくにほぼゼロである、
(ii)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方の電荷比の大きさが0.01より大きい、たとえば0.1より大きい、0.2より大きい、または0.3より大きい、
(iii)第一および第二のEOF素子の一方中の液体が第一の流速を有し、他方のEOF素子中の液体が第二の流速を有し、第一の流速が第二の流速の10%より小さい、たとえば1%より小さい、たとえばゼロ流速である、
(iv)第一および第二のEOF素子の一方で第一の電圧降下があり、他方のEOF素子で第二の電圧降下があり、第一の電圧降下が第二の電圧降下より大幅に小さい、たとえば第二の電圧降下の10%より小さい、
(v)末端部分A2と末端部分B1との間の距離が末端部分A2および末端部分B1の少なくとも一方、好ましくは両方の最大寸法より小さく、たとえば最大寸法の0.2倍より小さい、
(vi)接続部分を通る平均流線が、末端部分A2およびB1の少なくとも一方の接線方向に大きな成分、たとえば少なくとも25%、好ましくは50%、たとえば少なくとも80%の成分を有する、
(vii)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方において、第一および第二の末端部分の少なくとも一方を通る電流束が第一の末端部分と第二の末端部分との間の最大電流束より大幅に小さい、たとえば0.1倍より小さい、
(viii)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が、それを含むEOF素子の有効断面積よりかなり大きい、好ましくは少なくとも1.5倍、とくに少なくとも2倍または少なくとも3倍、たとえば5から10倍である、接続液体と接触する露出された表面積を有する、
(ix)末端部分A2およびB1の少なくとも一方がセレーションを備え、セレーションが好ましくは約0.25より大きく、好ましくは約4より小さい、たとえば1から3のアスペクト比を有する、および
(x)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方の第一および第二の末端部分の少なくとも一方が第一の電荷比を有する第一の物質で構成され、それを含むEOF素子の残りの少なくとも一部分が第二の電荷比を有する第二の物質で構成され、第一および第二の電荷比が好ましくは以下の条件
(a)第一および第二の電荷比の少なくとも一方の大きさが0.01より大きい、たとえば0.1より大きい、
(b)第一および第二の電荷比が同じ符号を有する、
(c)第一の電荷比が第二の電荷比の0.25から0.75倍、たとえば約0.5倍である、
の少なくとも一つを満たす、
の少なくとも一つを有するような装置。
【0009】
第三の態様においては、本発明は末端に第一および第二の末端部分を有する導管を含む電気浸透流(EOF)素子であって、末端部分の少なくとも一方が以下の特徴
(a)EOF素子の有効断面積より大幅に大きい、好ましくは少なくとも1.5倍、とくに少なくとも2倍または少なくとも3倍、たとえば5から10倍より大きな、露出された表面積を有する、
(b)セレーションを備え、セレーションが好ましくは約0.25より大きく、好ましくは約4より小さいアスペクト比を有する、
(c)第一の電荷比を有する第一の物質で構成され、EOF素子の残りの少なくとも一部分が第二の電荷比を有する第二の物質で構成され、第一および第二の電荷比が好ましくは以下の条件
(ci)第一および第二の電荷比の少なくとも一方が0.01より大きい、たとえば0.1より大きい、
(cii)第一および第二の電荷比が同じ符号を有する、
(ciii)第一の電荷比が第二の電荷比の0.25から0.75倍、たとえば約0.5倍である、
の少なくとも一つを満たし、
(d)素子の最小断面積の少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、とくに少なくとも10倍、とくに少なくとも20倍、たとえば5から100倍、または10から80倍、または10から50倍、または20から50倍、または20から40倍の表面積を有する、
の少なくとも一つを有するEOFを提供する。
【0010】
第四の態様においては、本発明は電気浸透流システムでの使用に適する装置であって、
(A)第一の末端部分A1および第二の末端部分A2を有する第一の電気浸透流(EOF)素子、
(B)第一の末端部分B1および第二の末端部分B2を有する第二のEOF素子、および
(C)第二の末端部分A2および第一の末端部分B1が配置される接続部分、
を含み、以下の特徴
(i)末端部分A2とB1との間の距離が末端部分A2および末端部分B1の少なくとも一方、好ましくは両方の最大寸法より小さい、たとえば最大寸法の0.2倍より小さい、
(ii)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が、それを含むEOF素子の有効断面積より大幅に大きい、好ましくは少なくとも1.5倍、とくに少なくとも2倍または少なくとも3倍、たとえば5から10倍の、露出された表面積を有する、
(iii)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が、素子の最小断面積の少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、とくに少なくとも10倍、とくに少なくとも20倍、たとえば5から100倍、または10から80倍、または10から50倍、または20から50倍、または20から40倍の、露出された表面積を有する、
(iv)少なくとも末端部分A2およびB1の一方がセレーションを備え、末端部の表面積がそれを含むEOF素子の有効断面積より大幅に大きく、好ましくはセレーションが約0.25より大きく、好ましくは約4より小さいアスペクト比を有する、
(v)第一および第二の末端部分の少なくとも一方が第一の電荷比を有する第一の物質で構成され、それを含むEOF素子の残りの少なくとも一部分が第二の電荷比を有する第二の物質で構成され、第一および第二の電荷比が好ましくは以下の条件
(a)第一および第二の電荷比の少なくとも一方が0.01より大きい、たとえば0.1より大きい、
(b)第一および第二の電荷比が同じ符号を有する、
(c)第一の電荷比が第二の電荷比の0.25から0.75倍まで、たとえば約0.5倍である、
の少なくとも一つを満たす、
の少なくとも一つを有する装置を提供する。
【0011】
第五の態様においては、本発明はEOFシステムが動作中に不安定な状態に陥る可能性があるかどうかを決定する方法であって、同じ接続部分に接続された各EOF素子対間の流束比の差の大きさを決定することを含む方法を提供する。
【0012】
添付の図面中で本発明を例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上記の課題を解決するための手段およびここで説明する発明を実施するための最良の形態、以下の例および請求項において、本発明の特定の特徴を記載する。本明細書中の本発明の開示がそのような特定の特徴の全ての適切な組合せを含むことは明らかである。たとえば、本発明の特定の態様または実施態様、または特定の図、または特定の請求項の状況で特定の特徴が開示される場合には、本発明のその他の特定の態様および実施態様ならびに本発明全般との組み合わせおよび/または、本発明のその他の特定の態様および実施態様ならびに本発明全般の状況で適切な程度にその特徴を使用することができる。
【0014】
本明細書においては、用語「含む」および文法的にそれと同等な言葉は、用語「含む」の後にとくに列挙される構成部品(単数および複数)、原料(単数および複数)、工程(単数および複数)に加えて、その他の構成部品、原料、工程が任意に存在することを意味するために使用される。本明細書においては、後に数が続く用語「少なくとも」は、その数で始まる範囲(定義される変数によって、上限を有する範囲のこともあり上限のない範囲のこともある)の開始を示すために使用される。たとえば、「少なくとも1」は1以上を意味し、「少なくとも80%」は80%以上を意味する。本明細書においては、後に数が続く用語「最大」は、その数で終わる範囲(定義される変数によって、下限として1または0を有することもあり、下限のない範囲のこともある)の終了を示すために使用される。たとえば、「最大4」は4以下を意味し、「最大40%」は40%以下を意味する。本明細書においては、ある範囲が「(第一の数)から(第二の数)」または「(第一の数)−(第二の数)」のように指定されるとき、これは下限が第一の数であり上限が第二の数である範囲を意味する。
【0015】
一般的な形状の素子の有効断面積を決定するためには、導管中の多孔質媒体の若干の性質についての知識が必要である。既知の明確な形状の断面積ARRおよび長さLRRの多孔性媒体の試料を導管内で使用して、それらの性質を決定することができる。この試験試料の形状係数は既知の規定によりgRR=1/srRRである。電気伝導率sの試験液を使用すると、同じ多孔質媒体で満たされた一般的形状の素子の形状係数はg=1/srである。この素子の長さはLであり、素子の局所的軸に沿って測った一方の末端から他方の末端までの距離である。すると、素子の有効面積は次式で与えられる。
A有効=ARR(L/LRR)rRR/r)
一般的形状の素子が多孔質物質を含まない場合には、この定義は簡略化され、A有効=LsrRRとなる。
【0016】
下記の本発明の説明および請求項においては、以下の略号および定義(すでに説明したものに加えて)を使用する。特に明記しない限りこれらの量の単位は下記のものである。
A 面積 m
L 軸の長さ m
F ファラデー定数 9.65×10クーロン/モル
FN 生成係数 無次元
ρ 電気抵抗 オーム
σ 電気伝導率 モー(mho)/m
液体流束比 無次元
e 単位電荷 1.602×10−19クーロン
ε 液体誘電率、液体の比誘電率
とεとの積 ファラド/m
ε 自由空間の誘電率 8.854×10−12ファラド/m
Boltzman定数 1.38×10−23ジュール/ケルビン
T 絶対温度 ケルビン
μ 液体の動粘度 パスカル‐秒
ζ ゼータ電位 ボルト
E 電場 ボルト/m
J 電流束 アンペア/m
溶質置換流束 アンペア/m
R 電流束比 無次元
λ デバイ長さ m
Λ 動的細孔スケール m
n イオン移動度 m/ボルト‐秒
Q 流速 リットル/秒
C 濃度 数/m
I 電流 アンペア
ν 電気浸透移動度 m/ボルト‐秒
cr 電荷比 無次元
g 形状係数(=A/LF) m
k 流れコンダクタンス(=MΛg/μ) リットル/秒‐パスカル
M 細孔形状係数 無次元
P 圧力 パスカル
V 電圧 ボルト
K 負荷係数 無次元
TRIS トリス‐ヒドロキシメチル‐アミノメタン
MES 2‐モルホリノエタンスルホン酸
BIS-TRIS ビス‐2‐ヒドロキシエチル−イミノ‐トリス‐ヒドロキシメチル‐アミノメタン
HEPES 4‐2‐ヒドロキシエチル‐ピペラジン‐1‐エタンスルホン酸
HCl 塩酸
TMBA トリ‐メトキシ安息香酸
【0017】
流束比
流束比は、EOF素子を通る単位電流束あたりのイオン化溶質種の変位流束である。適切な計算および実測によって、任意の個々のEOF素子の流束比を求めることができる。しかし本発明の目的のためには、下記で図1を参照して説明するように、好ましくは特定の変数を測定し、続いて適切な計算をすることによって、動作中のEOFシステム内の同じ接続部分に接続された二つのEOF素子の流束比の間の差の大きさを求める。個別のEOF素子の流束比が取り得る範囲は−1から+1までである。下記に示す計算によると、流束比の間の差の大きさ(すなわち絶対差)が求められ、理論的に可能な範囲は0から2までである。
【0018】
図1は、第一および第二のEOF素子1および2、受動流れ素子3、液溜め6、および直流電源5に接続された電極72および82をそれぞれ含む電極液溜め7および8を備えるEOFシステムの断面図である。システムはイオン性の液体4で満たされ、イオン性の液体中をイオン電流が流れる。EOF素子1は多孔質媒質14を囲む壁13を備え、第一および第二の末端部分11および12を有する。EOF素子2は多孔質媒質24を囲む壁23を含み、第一および第二の末端部分21および22を有する。素子3は開放導管形状を形成する壁33を有し、末端部分31および32を有する。末端部分12、21および31は、濃度C9の液体4を含む接続部分9に通じている。接続部分9を通る電流はIjであり、EOF素子1からEOF素子2に向かって流れるとき正である。末端部分11は、濃度C7の液体4を含む電極液溜め7に通じる。末端部分22は、濃度C8の液体4を含む電極液溜め8に通じる。末端部分32は、濃度C6の液体4を含む液溜め6に通じる。液体4は、素子1を通って速度Q1で流れ、素子2を通って速度Q2で流れ、素子3を通って速度Q3で流れる。
【0019】
二つのEOF素子の流束比の間の差の大きさ(R1−R2)は式
R1−R2=3QkCk*F/Ij
から計算することができる。ここで、
3QkCkは、接続部分に流れ込む量Qk*Ckの各EOF素子に関する総和であり、Qkは分あたりマイクロリットルで表した流速、Ckは(i)ミリモル/リットルで表した接続部分から遠いEOF素子末端部分における濃度と(ii)ミリモル/リットルで表した接続部分における濃度との間の差、Fはファラデー定数(9.65×10クーロン/モル)、Ijはマイクロアンペアで表した接続部分を通る電流である。この量の符号は電流の符号に依存する。しかし、本発明の目的のためには、流束比の間の差の大きさは上記の計算から得られる量の符号に依存しない。
【0020】
下の表は、イオン性の液体が溶媒に溶けた単純な塩であるとき、図1のEOFシステム中の種々の可能な流れの方向(「内向き」は接続部分9の方へ向かい、「外向き」は接続部分9から遠ざかる)に対して、二つのEOF素子の間の流束比の差の大きさをどのように計算するかを示す。Q3がゼロのとき、この計算は受動流れ素子3のないシステムにも適用できる。Q1がゼロのとき、この計算はEOF素子1がブリッジであるシステムに適用できる。

例えば、上の表の最下段に示す状況では、Q2が分あたり2マイクロリットル、C8が5ミリモル/リットル、C9が4.5ミリモル/リットル、Ijが−4マイクロアンペアとすると、(R1−R2)の値は約−0.402であり、「流束比の間の差の大きさ」は0.402である。
【0021】
電流を運ぶ三つ以上のEOF素子が一つの接続部分に接続されるとき、対応する式はEOF素子の異なる対の間の流束比の差の大きさに対する別々の項を含む。順番にEOF素子の各対が電流を運ぶ唯一の素子であるようにシステムを調節することによって、素子の各対の間の流束比の差を決定することができる。あるいは、二つ以上の組の値におけるシステムを流れる電流による種々の変数の値を測定することによって、二つ以上の連立方程式を立て、これらを解いてEOF素子の異なる対の間の流束比の差の大きさを計算することができる。当業者は、自身の知識および本明細書の開示を考慮すれば、そのような計算を容易に行うことができる。
【0022】
イオン性の液体が多価または複雑な電解質であると計算法は若干異なるが、当業者は本明細書の開示に関する自身の知識を考慮すればやはり容易にそのような計算を行うことができる。
【0023】
電荷比
EOF素子の電荷比は、バルク液体のイオン強度濃度で除した表面電荷の重み付き体積当量濃度である。電荷比はEOF素子が正味の電荷を有する表面をどの程度含むかの尺度である。EOF素子のバルク液体中には等しい量の正および負の電荷があり、特定のイオンによって運ばれる電流の比率はその移動度に依存する。しかし、帯電した表面層では、どちらか一方の符号の電荷の過剰があり、任意の特定のイオンによって運ばれる電流の比率はその移動度およびそのイオンの過剰または不足の両方に依存する。この結果、異なる電荷比を有するEOF素子が直列に接続されると、素子間の接続部分においてイオン電流束中に不整合が起こる。その結果、接続部分において、EOF素子と接続液体との間の界面で濃度/拡散層が形成され、接続液体中では一種類のイオンの濃度が連続的に増大し、他方の種類のイオンの濃度が連続的に減少する。これは多くの場合、たとえば電流および/または流速の不安定性の原因となる。小さな液溜めおよび接続部分体積を有するミクロ液体システム、とくに化学分析システム、および0.7kg/cm(10psi)より大きい、たとえば7kg/cm(100psi)より大きい、または70kg/cm(1000psi)より大きい、たとえば7から700kg/cmまで(100から1000psiまで)または35から350kg/cm(500から5000psi)の圧力差の下で動作するシステム中では、不整合はとくに深刻である(したがって本発明によって提供される解決策はとくに価値がある)。
【0024】
二成分系一価電解質対によって満たされたEOF素子の場合には、電荷比(cr)は式
cr=(−8λ/Λ)sinh(eζ/2kT)
から計算することができる。ここでλはバルク液体中のデバイ長さ(メートル)、Λは動的細孔スケール(メートル)、ζはゼータ電位(ボルト)である。Λは、多孔質媒体中の流路の直径の特性を記述するために使用される。多孔性物質で満たされていない通常の導管の場合には、Λは水力学的直径に等しい。当業者はもっと複雑な電解質が使用されるときでも電荷比を計算することができる。電荷比の符号は正のこともあり、負のこともある。この式の変数の値が未知なら、以下の手順によって決定することができる。EOF素子は既知のバルク伝導率σ(モー/m)を有する液体で満たされている。液体で満たされた素子の電気抵抗(ρオーム)を決定する。形状係数(g)は方程式
g=1/σρ
から計算する。素子に印加した電位ΔVに対応して素子を流れる電気浸透流の流速Qeoを測定する。Qeoは次の式によって与えられる。
eo=εζΔVg/μ
ここで、εは液体の誘電率であり、μは液体の動的粘度である。Qeoは下記の式によっても与えられる。
eo=εζI/μσ
ここで、Iは素子に印加した電位ΔVによって素子を流れる電流である。この式および既に決定したQeo、ε、I、μおよびσの値を使用してゼータ電位ζを計算する。次に電位の代わりに圧力差ΔPを素子に印加し、素子を流れる圧力駆動流速Qを測定する。Qは次の式で与えられる。
=ΛΔPg/32μ
この式および既に決定したQ、ΔP、g、およびμの値を使用して、動的細孔スケールΛを計算する。最後に、式
cr=(−8λ/Λ)sinh(eζ/2kT)を適用して、上記で求めたパラメータを使用して電荷比を計算する。
【0025】
少なくとも一方のEOF素子の電荷比の大きさが0.01より大きい、たとえば0.1より大きい、0.2より大きいまたは0.3より大きいとき、そのようなEOF素子は不安定な動作の原因となる傾向があるので、本発明はとくに有用である。本発明のEOFシステムにおいては、あるいは本発明の第二の態様による装置を識別するために使用される試験システムにおいては、好ましくは、第一および第二のEOF素子の少なくとも一つの電荷比の大きさは0.01より大きい、たとえば0.1より大きい、0.2より大きい、または0.3より大きい。
【0026】
イオン性の液体
イオン性の液体は水性液体でもよく、有機液体でもよく、あるいは水性および有機液体の混合物でもよい。
【0027】
多くの場合に、少なくとも一種類のイオンがEOFシステムのいろいろな部分にあるすべてのイオン性の液体中に存在し、EOFシステムのいろいろな部分においてイオン性の液体の少なくともいくらか(たとえばすべて)が同じ(一般に濃度は変化するが)ことがある。しかし、従来のシステムのように、ブリッジを使用して異なるイオン性の液体の混合を制限または防いでもよい。
【0028】
多くの場合に、本発明のEOFシステムのための種々の変数の選択は、システム中を流れることになるイオン性の液体によって決定される。当業者は、自身の知識および本明細書中の開示を考慮すれば、種々の物質、EOF素子、システム構成、電源その他の間で適当な選択を容易に行うことができる。一組の状況に対して設計されたシステムが他の多くの組の状況で使用可能ではあるが最適ではないこともある。
【0029】
本発明の第三および第四の態様は、動作中のEOFシステムの部分であるか否かにかかわらず本発明の範囲内に属し、本発明の範囲内にあるかどうかを決定するために作動中のEOFシステムでの試験を必要としない、新規なEOF素子および装置を提供する。本発明の第二の態様には、本発明の範囲内にあるかどうかを決定するために試験を必要とする装置が含まれる。そのような装置を簡単に試験して、本発明の第二の態様中に開示した特徴(i)−(xi)の一つ以上を有するかどうかを決定することができる。そのような試験の手順を下記に説明する。最初に、妥当な時間枠の中で測定ができる速度で電気浸透流を作るために適する試験液および電源など、装置を動作中のEOFシステムに変換するために必要な部品を加える。試験液は本明細書中に挙げる20の試験溶液の一つである。過渡的な始動条件が終わった後、試験システムを調べて本発明の第二の態様中に開示した特徴(i)−(xi)の一つ以上を有するかどうかを調べる。試験システムは、本明細書中に指定する二十の試験液の二つ、あるいはそれよりもさらに多い、たとえば五つを使用する別々の試験においてそれらの特性の一つ以上を示す場合がある。
【0030】
導管および多孔性物質
EOF素子の一つ以上が「開放」導管、すなわち充填物質をまったく含まない導管であってもよい。しかし、一般にEOF素子は多孔性物質または複数の微細なチャンネルを部分的または全体的に取り囲む液体不透過性の壁を有する導管である。多くの場合に、適切な多孔性物質を選択することが満足すべき本発明のシステムを設計するために有用な因子である。導管中には二種類以上の多孔性物質が存在することがあり、その場合には異なる多孔性物質を長手方向および/または半径方向に分離してもよい。導管は直線状でも、あるいは規則的または不規則的な曲線状でもよい。導管の断面(すなわち流路の局所的な軸に対して直角な断面)は、たとえば円形、長方形(正方形を含む)または六角形などの閉じた断面、または溝状の断面などの開いた断面など任意の形状でよく、導管の長手方向に沿って形状および/または面積が一定であってもよく、変化してもよい。とくに以下で考察するように、末端部分を提供する目的で、導管の一方または両方の壁の末端を導管の中間部分とは異なる形状にしてもよい。導管の末端の形状は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0031】
本明細書中においては、導管の最小断面積を多孔性物質が占める最小断面の面積として定義する。本明細書中においては、10ミクロンより短い長さを有する不規則構造をすべて無視して、多孔性物質を含む導管の末端部分の表面積を電流および/または流れが通る面の幾何学的な全面積として定義する。
【0032】
導管が多孔性物質を含むとき、多孔性物質は導管から外へ伸びてもよく、導管の末端と同一平面上であってもよく、または導管内で終わってもよい。接続液体に露出される多孔性物質の面(一方または両方)は平面であってもよく、またはとくに以下で考察するように末端部分を提供する目的で形状を有してもよい。多孔性物質の末端区域の形状および配置は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
EOF素子としての使用に適する導管および多孔性物質は当業者にはよく知られており、当業者は自身の知識および本明細書の開示を考慮すれば、容易に本発明のために適する導管および多孔性物質を選ぶことができる。たとえば、ジャーナル・オブ・マテリアルズ・サイエンス・レターズ(J.Mat.Sci.Lett.)、第8巻、1371−1373頁(1989年)のジェイ・フィリップス(Philipse,J.)、サイエンス(Science)、第281巻、802−804頁(1998年)のウィンホーフェン(Wijnhoven)ら、キー・エンジニアリング・マテリアルズ(Key Engineering Materials)、第115巻、125−146頁(1996年)のティー・ヤザワ(T.Yazawa)、マイクロポラス・アンド・メソポラス・マテリアルズ(Microporous and Mesoporous Materials)、第37巻、243−252頁(2000年)のマー(Ma)ら、ジャーナル・オブ・ノンクリスタリン・ソリッズ(J.Non−crystalline Solids)、第139巻、1−13頁(1992年)のナカニシ(Nakanishi)ら、アナリティカル・ケミストリー(Anal.Chem.)、第69巻、3646−3649頁(1997年)のピーターズ(Peters)ら、ジャーナル・オブ・マイクロメカニクス・アンド・マイクロエンジニアリング(J.Micromech.Microeng.)、第7巻、14−23頁(1997年)のドロット(Drott)ら、ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサイエティー(J.Electrochem.Soc.)、第145巻、3735−3740頁(1998年)のジェッセンスキー(Jessensky)らの論文を参照することができる。多孔性物質は、たとえば、その開示全体が参照によって本明細書中に組み込まれる係属中の米国特許出願第09/942,884号(発行第20020189947号)明細書中に説明されるように、その特性、たとえばサイズおよび/またはゼータ電位の大きさを改善するために修飾された物質であってもよい。多孔性物質は導管内で作製してもよく、あるいは作製して、機械加工または切断して、それから導管内に挿入または封じ込めてもよく、あるいはマイクロチャネルアレイの場合のように、アレイが機械加工される基板の壁によってチャンネルを作製して、あらためて作製するチャンネルをまったく必要としないように多孔性の誘電体物質を機械加工してもよい。導管(またはチャンネル)内への配置前または配置後に表面特性を変えてもよい。
【0034】
EOF素子中の多孔性物質の細孔径およびゼータ電位はEOF素子の流束比および/または電荷比を決定するうえで重要な因子であり、当業者は自身の知識および本明細書の開示を考慮すれば、容易にこれらおよびその他の変数(たとえば導管および多孔性物質の物理的寸法)を関連づけて、本発明によるシステムを提供することができる。
【0035】
流速
本発明のいくつかの実施態様においては、EOF素子の一つは一つの液体を含む電極を含む液溜めと、異なる液体(「作業液体」)を含むEOFシステムの他の部分との間のブリッジである。とくにそのような実施態様においては、ブリッジを通る(電気浸透力および/または圧力差の結果として)液体の流量は、EOFシステムの残りの中の作業液体の最大流量の10%より少ない、好ましくは1%より少ない、たとえば0.01%より少ない、たとえば実質的に流速ゼロのことがある。
【0036】
電圧降下
本発明のいくつかの実施態様においては、EOF素子の一つは一つの液体を含む電極含有液溜めと、作業液体を含むEOFシステムの他の部分との間のブリッジである。とくにそのような実施態様においては、ブリッジの電圧降下はシステム中のその他のEOF素子の少なくとも一つ、あるいはそれぞれの電圧降下のたとえば0.1倍より大幅に小さい。
【0037】
末端部分の設計および配置
上記の電荷比の考察で明らかなように、大きな電荷比を有するEOF素子は接続液体と接触するEOF素子の面で濃度/拡散層を生じることがある。本発明によって、そのような任意の濃度/拡散層の厚さを減らし、ひいてはより安定したEOFシステムの動作を提供するように、EOF素子の末端部分を設計し、接続部分において種々の末端部分を互いに配置することができる。末端部分の好ましい特徴は以下を含む。
1.接続部分に配置された二つの(異なるEOF素子の)末端部分の間の最小距離は末端部分の少なくとも一方、好ましくは両方の最大寸法より小さい。
2.接続部分に配置された末端部分(異なるEOF素子の)は、接続部分を通る流れの平均流線が少なくとも一つの末端部分の接線方向に大きな成分を有するように設計され配置される。
3.EOF素子の末端部分は、少なくとも一つの末端部分を通る電流束が末端部分間の最大電流束より大幅に小さくなるように設計される。
4.接続部分におけるEOF素子の少なくとも一方の末端部分が、そのEOF素子の有効断面積よりかなり大きい、好ましくは少なくとも1.5倍、とくに少なくとも2倍または少なくとも3倍、たとえば5から10倍の、露出された表面積を有する。
5.接続部分に配置されたEOF素子の少なくとも一方の末端部分が、それを含むEOF素子の最小断面積の少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、とくに少なくとも10倍、とくに少なくとも20倍、たとえば5から100倍または10から80倍、または10から50倍、または20から50倍、または20から40倍の表面積を有する。
6.末端部分がセレーションを備え、セレーションは好ましくは約0.25より大きく、好ましくは約4より小さいアスペクト比を有する。
7.末端部分が第一の電荷比を有する第一の物質で構成され、EOF素子の残りの少なくとも一部分が第二の電荷比を有する第二の物質で構成され、第一および第二の電荷比が好ましくは少なくとも以下の条件
(i)第一および第二の電荷比の少なくとも一つは0.1より大きい、
(ii)第一および第二の電荷比が同じ符号を有する、
(iii)第一の電荷比が第二の電荷比の0.25から0.75倍、たとえば約0.5倍である、
の一つを満たす。
【0038】
図2−10は本発明による末端部分を例示し、図1と同じ参照番号を使用する。図2および3においては、末端部分12、21および22は、壁13および23から伸びる多孔性物質14および24によって提供される。末端部分12は外にフレアを形成して露出された表面積を増大する。多孔性物質24は、EOF素子2の電圧降下を減らすために厚みを増してある。
【0039】
図4においては、露出された表面積を増大するために外にフレアを付けられた多孔性物質14、24が末端部分12、21および22をそれぞれ提供する。受動素子31は短くて太い導管であり、そこでの圧力低下は無視できる。
【0040】
図5および6においては、表面積を増大するために外にフレアを付けられた多孔性物質14、24が末端部分12および21をそれぞれ提供し、末端部分は互いに直接接触して末端部分の面で囲まれるバルク液体の体積を最小にする。
【0041】
図7および8においては、多孔性物質14、24が末端部分12および21をそれぞれ提供し、露出された面はセレーションを施されている。図8に例示するように、セレーションは好ましくは上記で定義されたようであるセレーションのアスペクト比(D/P)のピッチPおよび深さDを有する。
【0042】
図9においては、第一の電荷比を有する第一の多孔性物質142、241が末端部12および21を提供し、第一の電荷比に対して上記で定義されたように関連する第二の電荷比を有する第二の多孔性物質141、242がEOF素子の残りの部分を提供する。
【0043】
図10においては、EOF素子1、2および3はEOF素子1の末端部分12の露出された面がEOF素子2と受動流れ素子3との間を流れる液体によって接線方向で洗い流されるように配置される。
【0044】
システム構成
選択肢として、EOFシステムは電気的な接地を共有して互いに並列に接続した二つ以上の直列システムを含む非常に多様な構成を有することができる。たとえば、システムは二つのブリッジ素子を備えてもよく、一つは二つの電極含有液溜めのそれぞれにつながり、一つ以上のEOF素子がブリッジ素子の間に直列に接続される。システムはまた、電流を運ばないが、液溜めからまたは液溜めに向かって液体が流れる一つ以上の受動素子を含んでもよい。たとえば、図11は図1に示したものに類似しているが、EOF素子2と、電極82を含む液溜め、および第四の受動流れ素子104との間に置かれた第三のEOF素子101および接続部分102をさらに含むシステムを示す。
【0045】
一般的な設計考慮事項
本発明の好ましい実施態様は以下の特徴の一つ以上を有する。
1.明確に定義され、したがって明確に挙動するゼータ電位に対する一価の対イオン(ゼータ電位の符号とは反対の符号を有するイオン)を使用すること。
2.ポンピング液体または輸送液体またはゼータ電位を低下させるかまたは除去する化合物を含まない作業液体を使用すること。
3.「最小」電気二重層重なりと同程度のイオン種最低濃度(すなわち動的細孔スケールの約5分の1より短い液体デバイ長さを与える濃度)を使用すること。
4.ポンピング液体または輸送液体のpHの確定および維持と適合する緩衝イオン種最低濃度を使用すること。
5.ポンピング液体または輸送液体または作業液体と適合し、ポンピング液体または輸送液体または作業液体に十分に溶解し、ポンピング液体または輸送液体または作業液体中で十分に解離しているイオン種を使用すること。
6.好ましくは単分散であり、多分散ならときに見られる大きな細孔または欠陥(たとえばクラックまたはボイド)を含まず、かなり小さな細孔をまったく含まないかまたは最小限しか含まない細孔径分布。
7.任意の添加物を含むポンピング液体または輸送液体または作業液体より導電性の低い多孔性誘電体物質を使用すること。
8.印加された電位に対して絶縁破壊せずに十分に耐える絶縁耐力を有する多孔性誘電体物質を使用すること。
9.圧縮および崩壊に耐える能力および隣接するチャンネルまたは導管の物質に結合し続ける能力の面で、印加されたかまたは生成した圧力にともに十分に耐える機械的に強い多孔性誘電体物質を使用すること。
10.任意の添加物を含むポンピング液体または輸送液体または作業液体中で化学的に抵抗力があり、不溶性である多孔性誘電体物質を使用すること。
11.絶縁体であるチャンネルまたは導管物質を使用すること、とくに物質は任意の添加物を含むポンピング液体または輸送液体または作業液体より導電性が低い方がよい。
12.印加された電位に対して絶縁破壊せずに十分に耐える絶縁耐力を有するチャンネルまたは導管物質を使用すること。
13.印加されたかまたは生成した圧力に十分に耐えるほど機械的に強く十分に厚いチャンネルまたは導管物質を使用すること。
14.任意の添加物を含むポンピング液体または輸送液体または作業液体中で化学的に抵抗力があり、不溶性であるチャンネルまたは導管物質を使用すること。
15.高い誘電率の値および低い動的粘度の値を有するポンピング液体または輸送液体または作業液体を使用すること。
16.ポンピング液体または輸送液体または作業液体、表面化学およびゼータ電位の高い値を提供する添加剤イオン種化学の組合せを使用すること。
17.純液体または純液体の非常に混合しやすい混合物であるポンピング液体または輸送液体または作業液体を使用すること。
【0046】
その他の設計考慮事項には以下の事項
1.圧力駆動流フローとして素子を通って運ばれる全流速の比率。好ましくは、拡散層の厚さを制御するために有限な流れを提供する。
2.電気浸透的に駆動される流れとして素子を通って運ばれる全流量の比率。好ましくは、拡散層の厚さを制御するために有限な流れを提供する。
3.印加された全電位のうち素子の両端に表れる電位の比率。
をほぼ同じように最小にするようにブリッジまたはその他のEOF素子の物質、細孔径および形状を選択することが含まれる。当業者は自身の知識および本明細書中の開示を考慮すれば、適当な物質および寸法の選択によってこれらの目標を促進する手順を容易に開発することができる。図11に示すような好例のシステムにおいては、素子104を通る流れの速度Qに対して下記の式を使用することができる。
Q=Qpf(1−cs)/[(1+2as)(1+b/a(1+K))]
ここで、a=g/g、b=MΛ/MΛ、c=v/v、K=k/kおよびs=σ/σ、ここでσは液の有効電気伝導率(任意の有効電荷層によって増大したバルク液体の電気伝導率)である。量Kは「負荷」係数であり、第四の素子の圧力駆動フローコンダクタンスの第二の素子のそれに対する比である。Kは高い背圧下での動作の場合のゼロから、低い背圧負荷中への流れの場合の一よりはるかに大きい値の範囲の値を取る。この式の分子は第三の素子を通る電気浸透流に起因する損失を与え、分母の第一項は第一および第三の素子の電圧降下による損失を与え、分母の第二項は第三の素子中の圧力駆動フローによる損失を与える。これらの損失は現象論的に関連し、したがって、一般にこれらの損失の一つを減らすために取られる対策はその他の損失に影響することがある。たとえば、第一および第三の素子の形状係数gを第二の素子と比較して大きくすると、小さなa値を生じる。これは第一および第三の素子中の電圧降下の効果を小さくするが、第三の素子中の圧力駆動損失の効果を増幅する。
【0047】
したがって、負荷係数(K)約1の場合について考えられる一つの手順は、輸送液の種類および組成、目標理想圧および流速を考慮して設計問題を取り扱うことである。これらによってポンピング素子物質、物理的形状および多孔性媒質特性の仕様を決める。すると、上記の式を参照して
1.流速性能の比率が約1−3δより良くなるように小さな数δを選ぶ。
2.ε√(1+K)より小さい比Λ1,3/Λを選ぶ。
3.ζ1、3σ1,3/ζσの値が約δになるようにζ1,3の値を選ぶ。
4.工程(2)との適合を維持してΛ1,3の値を再調整する。これによってζ1,3についてもシステム中の変位流束中の最小値、および好ましくは無視できるほど小さい差(すなわち、R−R1,3の値を最小にする)を探して、工程(3)を満足する新しい付随値を求める。ある範囲の溶液を見つけ、利用できる物質にもとづいて溶液を選ぶ。
5.形状比g/g1,3をほぼδとなるように選ぶ。
【0048】
負荷係数(K)が大きな値を有する場合に考えられる別の手順は以下の工程を含む。
1.流速性能が約1−3εより良くなるように小さな数εを選ぶ。
2.一より小さい比Λ1,3/Λを選ぶ。
3.ζ1,3σ1,3/ζσの値がほぼδとなるようにζ1,3の値を選ぶ。
4.工程(2)との適合を維持してΛ1,3の値を再調整する。これによってζ1,3についてもシステム中の変位流束中の最小値、および好ましくは無視できるほど小さい差(すなわち、R−R1,3の値を最小にする)を探して、工程(3)を満足する新しい付随値を求める。ある範囲の溶液を見つけ、利用できる物質にもとづいて溶液を選ぶ。
5.cより小さく、好ましくは実際的な範囲でできるだけ小さい形状比g/g1,3を選ぶ。
【0049】
EOF素子の不整合が許される程度(すなわち流束比および/または電荷比の間の差の許容される最大の大きさ)は、ある場合には作業液体の組成の変動に対するシステムの許容できる限界に関連する。たとえば、組成中の4%の変化が許容できるなら、流束比を2%以内に整合させれば十分であろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】EOFシステムの断面図である。
【図2】本発明によるEOFシステムの一部分の断面図である。
【図3】図2の線III−IIIでの断面図である。
【図4】本発明による別のEOFシステムの一部分の断面図である。
【図5】本発明による別のEOFシステムの一部分の断面図である。
【図6】図5の線VI−VIでの断面図である。
【図7】本発明による別のEOFシステムの一部分の断面図である。
【図8】図7の部分拡大図である。
【図9】本発明による別のEOFシステムの一部分の断面図である。
【図10】本発明による別のEOFシステムの部分の断面図である。
【図11】別のEOFシステムの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第一の末端部分A1および第二の末端部分A2を有する第一の電気浸透流(EOF)素子と、
(B)第一の末端部分B1および第二の末端部分B2を有する第二の電気浸透流(EOF)素子と、
(C)第二の末端部分A2および第一の末端部分B1が配置され、それによって第一および第二のEOF素子が電気的におよび液体によって接続される接続部分と、
を含む新規な電気浸透流システムであって、以下の特徴の内の少なくとも一つを有するシステム:
(i)第一のEOF素子の流束比と第二のEOF素子の流束比との間の差の大きさが0.5より小さい、
(ii)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方の電荷比の大きさが0.01より大きい、
(iii)第一および第二のEOF素子の一方中の液体が第一の流速を有し、他方のEOF素子中の液体が第二の流速を有し、第一の流速が第二の流速の10%より小さい、
(iv)第一および第二のEOF素子の一方で第一の電圧降下があり、他方のEOF素子で第二の電圧降下があり、第一の電圧降下が第二の電圧降下より大幅に小さい、
(v)末端部分A2と末端部分B1との間の距離が末端部分A2および末端部分B1の少なくとも一つの最大寸法より小さい、
(vi)接続部分を通る流れの平均流線が末端部分A2およびB1の少なくとも一方の接線方向に大きな成分を有する、
(vii)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方において、第一および第二の末端部分の少なくとも一方を通る電流束が、第一の末端部分と第二の末端部分との間の最大電流束より大幅に小さい、
(viii)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が、EOF素子の有効断面積より大幅に大きな、接続液体と接触する表面積を有する、
(ix)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が、素子の最小断面積の少なくとも2倍である、接続液体と接触する表面積を有する、
(x)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が接続液体と接触するセレーションを備える、
(xi)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方の第一および第二の末端部分の少なくとも一方が第一の電荷比を有する第一の物質で構成され、EOF素子の残りの少なくとも一部分が第二の電荷比を有する第二の物質で構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第一の末端部分A1および第二の末端部分A2を有する第一の電気浸透流(EOF)素子と、
(B)第一の末端部分B1および第二の末端部分B2を有する第二の電気浸透流(EOF)素子と、
(C)第二の末端部分A2および第一の末端部分B1が配置され、それによって第一および第二のEOF素子が電気的におよび液体によって接続される接続部分と、
を含む新規な電気浸透流システムであって、以下の特徴を有するシステム:
(i)第一のEOF素子の流束比と第二のEOF素子の流束比との間の差の大きさが0.5より小さい。
(ii)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方の電荷比の大きさが0.01より大きい。
【請求項2】
(i)第一のEOF素子と第二のEOF素子との流束比の間の差の大きさが0.1より小さく、
(ii)第一と第二のEOF素子の少なくともどちらか一方の電荷比の大きさが0.1より大きい、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
以下の特徴の内の少なくとも一つを有する請求項1または2に記載のシステム。
(i)少なくとも末端部分A2とB1のうち1つは接続液体と接触する表面領域を有し、該表面領域は素子の最小断面積の少なくとも2倍である。
(ii)末端部分A2およびB1の少なくとも一方が接続液体と接触するセレーションを備える。
(iii)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方の第一および第二の末端部分の少なくとも一方が第一の電荷比を有する第一の物質で構成され、EOF素子の残りの少なくとも一部分が第二の電荷比を有する第二の物質で構成される。
(iv)第一および第二のEOF素子がそれぞれ多孔性物質を含む導管であり、多孔性物質が第一および第二の末端部分をそれぞれ提供する。
【請求項4】
以下の特徴の内の少なくとも一つを有する請求項1から3の何れかに記載のシステム。
(i)第一および第二のEOF素子の一方の中の液体が第一の流速比を有し、他方のEOF素子中の液体が第二の流速比を有し、第一の流速比が第二の流速比の10%より小さい。
(ii)第一および第二のEOF素子の一方で第一の電圧降下があり、他方のEOF素子で第二の電圧降下があり、第一の電圧降下が第二の電圧降下より大幅に小さい。
(iii)末端部分A2と末端部分B1との間の距離が末端部分A2および末端部分B1の少なくとも一つの最大寸法より小さい。
(iv)接続部分を通る流れの平均流線が末端部分A2およびB1の少なくとも一方の接線方向に大きな成分を有する。
(v)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方において、第一および第二の末端部分の少なくとも一方を通る電流束が、第一の末端部分と第二の末端部分との間の最大電流束より大幅に小さい。
【請求項5】
(i)イオンを含有する液体を含む液溜め、
(ii)液溜め中の液体と直接接触する電極であって、第一のEOF素子の第一の末端部分が液溜め中に配置され、それによって第一のEOF素子が液溜めと第二のEOF素子との間のブリッジ素子となる電極、
をさらに含む、請求項1から4のいずれかの一つに記載のシステム。
【請求項6】
電気浸透流システム中での使用に適する装置であって、
(A)第一の末端部分A1および第二の末端部分A2を有する第一の電気浸透流(EOF)素子と、
(B)第一の末端部分B1および第二の末端部分B2を有する第二のEOF素子と、
(C)第二の末端部分A2および第一の末端部分B1が配置される接続部分と、
を含む装置であって、実質的に22℃における定常状態条件下で動作し、本質的に
(a)第一の電気浸透流(EOF)素子、
(b)第一のEOF素子の第一の末端部分A1に接続された第一の液溜め、
(c)第一の液溜め中の第一の電極、
(d)第二のEOF素子の第二の末端部分B2に接続された第二の液溜め、
(e)第二の液溜め中の第二の電極、
(f)第一および第二の電極に接続された電源、および
(g)システムを満たし、本明細書中に挙げた試験溶液から選ばれた水溶液、
からなる電気浸透流試験システムの一部分とされると、試験システムが以下の特性を有するようなものである装置:
(i)第一のEOF素子の流束比と第二のEOF素子の流束比との間の差の大きさが0.5より小さい、および
(ii)第一および第二のEOF素子の少なくとも一方の電荷比の大きさが0.01より大きい。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−267117(P2006−267117A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−127871(P2006−127871)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【分割の表示】特願2004−501799(P2004−501799)の分割
【原出願日】平成15年4月30日(2003.4.30)
【出願人】(503459408)エクシジェント テクノロジーズ, エルエルシー (12)