説明

電気炉用ダクト

【課題】既存の製鋼所等における狭い電気炉間に設置可能で、且つ、新設の製鋼所等において省スペース化を図ることが可能な電気炉用ダクトを提供する。
【解決手段】本発明は、縦方向に傾動可能な電気炉本体5を有する電気炉1と該電気炉1から発生するガス及び粉塵を吸引する集塵装置とを接続する電気炉用ダクト2であって、前記電気炉本体5と一体に傾動する傾動ダクト32と、該傾動ダクト32と縦方向に接続される固定ダクト33と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶解物を溶解させる電気炉と該電気炉から発生するガスや粉塵を吸引する集塵装置とを接続する電気炉用ダクトの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鋼所に設置された電気炉によって亜鉛メッキ鋼板等の被溶解物を溶解する際には、電気炉からガスや粉塵が発生することが知られている。従来、上記した亜鉛メッキ鋼板が少量の場合には、溶解時に発生するガスや粉塵が比較的少量であるため、ガスや粉塵を吸引するためのフードや集塵装置を設けていない電気炉も見受けられた。
【0003】
しかし、昨今の亜鉛メッキ鋼板の供給量の増加に伴い、多量の亜鉛メッキ鋼板を電気炉で溶解する場合も多くなった。このような場合には、亜鉛を含んだ大量のガスや粉塵が電気炉周辺に発生してしまい、電気炉周辺の環境を汚染する結果となっていた。また、平成21年度に厚生労働省より告示された「特定化学物質障害予防規則に係る局所排気装置の性能要件等(抑制濃度)の改正」によって、有害物質の抑制濃度が強化された。このような背景の下、電気炉周辺の環境改善の必要性が生じたため、ガスや粉塵を吸引するためのフードや集塵装置を従来の電気炉に追加するケースが見受けられるようになった。
【0004】
例えば、特許文献1には、電気炉の上面開口部の周囲にリングフードを設け、このリングフードを、吸引筒、除塵ボックス及び吸引ダクトを介して集塵装置に接続する構成が開示されている。この従来技術においては、電気炉、リングフード及び吸引筒が粉塵ボックスに回転可能に支持されることで被溶解物の出湯時に電気炉を傾動できるようになっており、吸引筒と除塵ボックスが横方向に接続されている(特許文献1の図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−199691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
殆どの製鋼所では、複数の電気炉が横方向に並設されており、このような製鋼所に上記特許文献1の構成を適用しようとすれば、電気炉と電気炉のスペース(以下、電気炉間と称す。)に吸引筒と除塵ボックスが横方向に接続されることになり、その結果、複数の電気炉と吸引筒と除塵ボックスが横方向に一列に並ぶことになる。
【0007】
ところが、電気炉に吸引フードや集塵装置が予め設置されていない製鋼所では、ダクト設置用のスペースがそもそも考慮されていないため、吸引筒と除塵ボックスを横方向に接続するのに必要なスペースよりも実際の電気炉間のスペースが狭い場合が有る。このような場合には、吸引筒及び除塵ボックスを電気炉間に設置できない問題が生じてしまう。
【0008】
加えて、新設の製鋼所においては、電気炉間を出来るだけ狭くして工場内のスペースを有効に活用したいという要請が有る。しかしながら、吸引筒と除塵ボックスを横方向に接続するだけのスペースを電気炉間に確保しようとすると、結果的に電気炉間を狭くすることができず、上記した要請を満足できないという問題も生じてしまう。
【0009】
そこで本発明の技術的課題は、既存の製鋼所等における狭い電気炉間に設置可能で、且つ、新設の製鋼所等において省スペース化を図ることが可能な電気炉用ダクトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の技術的課題を解決する為に本発明で講じた手段は以下の如くである。即ち、
(1)本発明に係る電気炉用ダクトは、縦方向に傾動可能な電気炉本体を有する電気炉と該電気炉から発生するガス及び粉塵を吸引する集塵装置とを接続する電気炉用ダクトであって、前記電気炉本体と一体に傾動する傾動ダクトと、該傾動ダクトと縦方向に接続される固定ダクトと、を備えていることを特徴としている。
【0011】
上記(1)で述べた手段によれば、
傾動ダクトと固定ダクトが縦方向に接続されることで、傾動ダクトと固定ダクトを横方向に接続する場合と比較して、電気炉用ダクトを設置するために必要な横幅を狭くすることが可能となる。これに伴って、複数の電気炉が横方向に並設された既設の製鋼所等において、電気炉間が狭い場合でも電気炉用ダクトを設置することが可能となる。また、新設の製鋼所等において、電気炉間を狭くすることが可能となり、省スペース化を実現することが可能になる。
【0012】
(2)本発明に係る電気炉用ダクトは、前記傾動ダクトと前記固定ダクトの間を密閉するシール部を備え、前記傾動ダクトには、前記固定ダクトに連通する連通口が、前記傾動ダクトの傾動姿勢に関わらず前記シール部よりも前記固定ダクト側に位置するように設けられていても良い。
【0013】
上記(2)で述べた手段によれば、
シール部を設けることで、傾動ダクトと固定ダクトの接続部分におけるガスや粉塵の洩れを防止し、電気炉から発生するガスや粉塵を、傾動ダクト及び固定ダクトを介して確実に集塵装置に吸引することが可能となる。また、固定ダクト内のシールされた箇所に傾動ダクトの連通口が常に位置することになるので、連通口よりも傾動ダクト側の部分をシール処理すれば、比較的簡単に気密状態(エアー漏れ防止状態)とすることができる。また、傾動ダクトの連通口を常に固定ダクト内に位置させることで、比較的簡素な構造で、傾動ダクト内と固定ダクト内を連通させることができる。
【0014】
(3)本発明に係る電気炉用ダクトは、前記傾動ダクトには、横向き円筒状の傾動筒部が設けられ、該傾動筒部の両側面及び周面の一部に、前記連通口が設けられていても良い。
【0015】
上記(3)で述べた手段によれば、
必要開口面積を確保して安定した流路を形成することが可能になると共に、圧力損失を小さくして集塵装置の負担の軽減を図ることが可能となる。
【0016】
(4)本発明に係る電気炉用ダクトは、前記傾動筒部の円筒の中心は、前記電気炉本体の傾動軸と同軸上に位置しても良い。
【0017】
上記(4)で述べた手段によれば、
電気炉本体の傾動に伴って傾動ダクトの傾動筒部が偏心せず、定位置で傾動することになり、例えば傾動筒部の一部を固定ダクト内に挿入するような構成を採用する場合に、傾動筒部を挿入するためのスペース(傾動ダクトの傾動方向)を小さくすることが可能となる。
【0018】
(5)本発明に係る電気炉用ダクトは、前記シール部は、前記電気炉本体の傾動軸及び前記傾動筒部の円筒の中心と同一高さに設けられていても良い。
【0019】
上記(5)で述べた手段によれば、
傾動ダクトが傾動した際でも、傾動筒部とシール部を安定して接触させることができ、エアー漏れを確実に防ぐことができる。
【0020】
(6)本発明に係る電気炉用ダクトは、前記シール部は、前記傾動筒部の円筒の中心よりも高い位置に設けられていても良い。
【0021】
上記(6)で述べた手段によれば、
連通口の形成位置の自由度が増し、連通口を容易に形成することが可能になると共に、連通口に必要とされる開口面積を容易に確保することが可能になる。
【0022】
(7)本発明に係る電気炉用ダクトは、前記固定ダクトの上端には、前記傾動ダクトの一部を挿入可能な挿入開口部が設けられ、前記シール部は、前記挿入開口部の周囲に取り付けられるパッキンによって形成されていても良い。
【0023】
上記(7)で述べた手段によれば、
比較的簡素な構成で傾動ダクトと固定ダクトの間を確実にシールしてエアー漏れを防止することができ、且つ、コストも安くすることができる。
【0024】
(8)本発明に係る電気炉用ダクトは、前記電気炉本体の上端には開口部が設けられ、前記電気炉本体と前記傾動ダクトの間には、前記開口部を囲繞するリングフードが介装されていても良い。
【0025】
上記(8)で述べた手段によれば、
電気炉から発生するガスや粉塵を、リングフードを介して集塵装置側に確実に吸引することが可能となる。
【0026】
(9)本発明に係る電気炉用ダクトは、前記電気炉は、複数個並設され、前記傾動ダクトは、前記複数個の電気炉ごとに設けられ、前記固定ダクトには、その内部空間を縦方向に区画する仕切板が設けられ、該仕切板によって区画される各空間に、前記各電気炉に対応する前記傾動ダクトが接続されていても良い。
【0027】
上記(9)で述べた手段によれば、
複数個の電気炉に対して1個の固定ダクトのみで済むため、スペースの効率的な利用が可能となり、電気炉間が非常に狭い場合でも電気炉用ダクトの設置が可能となる。
【発明の効果】
【0028】
以上の如く構成された本発明に係る電気炉用ダクトは、既存の製鋼所等における狭い電気炉間に設置可能で、且つ、新設の製鋼所等において省スペース化を図ることが可能な電気炉用ダクトを提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】各電気炉に被溶解物が投入されている状態(又は各電気炉において被溶解物が溶解されている状態)を示す外観斜視図である。
【図2】紙面右側の電気炉に被溶解物が投入され(又は紙面右側の電気炉において被溶解物が溶解され)、紙面左側の電気炉において溶湯が取鍋に出湯されている状態を示す外観斜視図である。
【図3】電気炉及び電気炉用ダクトを示す平面図である。
【図4】電気炉及び電気炉用ダクトを示す側面図である。
【図5】電気炉及び電気炉用ダクトを示す正面図である。
【図6a】(1)は、被溶解物の投入時及び溶解時において、電気炉本体が前傾していない状態を示す説明図であり、(2)は、被溶解物の溶解を終えて溶湯の出湯状態に移行する際に、電気炉本体が45度前傾した状態を示す説明図である。
【図6b】(3)は、溶湯の出湯状態において、電気炉本体が100度前傾した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、上述した本発明に係る電気炉用ダクトの実施形態を、添付した図面と共に詳細に説明する。これらの実施形態は本発明の好適な具体例であって、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限りこれらの態様に限定されるものではない。以下、説明の便宜上、図1、図2における左手前側を各部材の正面側(前側)とする。また、上下前後等の方向を示す語は、各部材が前傾していない状態を基準として用いる。
【0031】
図1、図2に示されるように、本実施形態では、横方向(左右方向)に2基の電気炉1が並設され、この2基の電気炉1間に電気炉用ダクト2が設置される場合について説明する。
【0032】
まず、電気炉1について詳細に説明する。図1等に示されるように、電気炉1は、設置面に立設される枠体3と、枠体3に傾動可能に支持される傾動床4(又は傾動作業デッキ)と、傾動床4に固定される電気炉本体5と、傾動床4の後方において枠体3に取り付けられる開閉機構6と、を備えている。
【0033】
枠体3は、略水平に配置される方形枠状の支持枠部7と、支持枠部7の四隅から下方に向かって延びる脚部8と、を備えており、電気炉本体5の四方を囲うように設けられている。支持枠部7の前部の上面には、その左右両側部に、左右一対の枠体側突起10が上方に向かって突設されている。各枠体側突起10には、挿通穴(図示せず)が左右方向に穿設されている。
【0034】
傾動床4は、鋼鉄製の板体であって、平面視略矩形状の輪郭を有している。傾動床4の下面の外周部は、枠体3の支持枠部7によって支持されている。傾動床4の下面の前端部には、その左右両側部に傾動床側突起11が下方に向かって突設されている。各傾動床側突起11には、挿通穴(図示せず)が左右方向に穿設されている。そして、枠体3の枠体側突起10の挿通穴と傾動床4の傾動床側突起11の挿通穴に傾動軸12を挿通させることで、枠体3と傾動床4が接続されると共に、傾動軸12を支点に傾動床4が傾動可能となっている。図3に最も良く示されるように、傾動軸12は、枠体3と傾動床4の前端部の左右2箇所に設けられている。なお、図1において二点鎖線Xで示されているのは、傾動軸12の軸方向(以下、「傾動軸方向」と称す。)である。
【0035】
図1等に示されるように、傾動床4の後部両隅には面取り部14が設けられており、これに伴って、枠体3の支持枠部7の後部両隅には、面取り部14と対応する位置に固定面部15が設けられている。
【0036】
傾動床4の下面側には、傾動手段(図示せず)が連結されている。傾動手段は、例えば、傾動床4の下方に垂直方向に配置された一対の油圧シリンダである。この一対の油圧シリンダは、制御装置(図示省略)によって伸縮を制御されている。具体的には、油圧回路(図示省略)を用いて一対の油圧シリンダを伸縮させ、一対の油圧シリンダのストロークを調整することで、傾動床4が傾動軸12を支点に縦方向に傾動するようになっている。傾動床4の傾動角度は、例えば、前方に0度〜100度程度まで任意に変更可能である。
【0037】
電気炉本体5は、傾動床4の中央に埋め込まれた有底筒状のるつぼである。電気炉本体5の上端には開口部16(図2の紙面左側の電気炉1参照)が設けられ、この開口部16を介して、電気炉本体5の内部の空間(以下、「炉内空間」と称す。)に例えば鋼板用素材等の被溶解物を投入できるように構成されている。電気炉本体5は、開口部16の周囲において傾動床4に固定されており、傾動床4と一体に縦方向に傾動するようになっている。
【0038】
電気炉本体5の外側面には、加熱コイル(図示省略)が巻回されている。この加熱コイルは、高周波インバータ(図示省略)と接続されている。そして、この高周波インバータから加熱コイルに供給される高周波電力により、電気炉本体5及び炉内空間に投入された被溶解物にうず電流を発生させ、このうず電流により発生するジュール熱によって、被溶解物を昇温させて溶解させる仕組みとなっている。以下、溶解させた被溶解物を「溶湯」と称す。
【0039】
図1等に示されるように、電気炉本体5の上端には、前方に向かって突出する出湯部18が設けられている。出湯部18は、上部側に開いた凹型形状であって、その凹部が出湯通路20を形成している。出湯通路20は、前上方に向かって傾斜しており、出湯通路20の基端側(後端側)が電気炉本体5の開口部16に接続され、出湯通路20の先端側(前端側)が出湯口21となっている。
【0040】
開閉機構6は、支持枠部7の固定面部15に立設された第1腕部22と、第1腕部22の上端から水平方向に延びる第2腕部23と、第2腕部23の先端に取り付けられる炉蓋24と、を備えている。第2腕部23は、基端側(第1腕部22と接続されている側)を支点に水平方向に回転できるようになっており、この第2腕部23の回転に伴って、炉蓋24によって電気炉本体5の開口部16を覆う閉塞姿勢(図2の紙面右側の電気炉1参照)と炉蓋24が電気炉本体5の開口部16を開放する開放姿勢(図2の紙面左側の電気炉1参照)とを自在に切り替えられるようになっている。炉蓋24は、第2腕部23に上面が取り付けられる大径部25及び大径部25の下側に設けられる小径部26によって構成されており、段付き円柱状を成している。
【0041】
以上のような構成の電気炉1の近傍には、オペレータが搭乗して電気炉1を操作するための電気炉操作スタンド(図示省略)が設けられている。この電気炉操作スタンドには、電気炉1、傾動手段などの各種運転スイッチなどが搭載されている。電気炉操作スタンドは、一般的には、オペレータが電気炉1の作業状態を目視できる場所、例えば、電気炉1の横側(電気炉用ダクト2とは反対側)に設けられている。
【0042】
次に、電気炉用ダクト2について詳細に説明する。
【0043】
図1等に示されるように、電気炉用ダクト2は、電気炉本体5の上方に配置されるリングフード31と、リングフード31に接続される傾動ダクト32と、傾動ダクト32に接続される固定ダクト33と、固定ダクト33と集塵装置(図示せず)を接続する連結ダクト34と、を備えている。
【0044】
リングフード31は、複数の固定手段(図示省略)によって傾動床4の上面側に固定されており、傾動床4及び電気炉本体5と一体に縦方向に傾動するようになっている。つまり、リングフード31は、傾動床4及び電気炉本体5とともに制御装置(図示せず)によって傾動姿勢を制御されている。リングフード31は、電気炉本体5の開口部16を囲繞するように設けられて中空環状を成している。リングフード31の内側には、電気炉本体5の開口部16と連通する吸引口35(図2の紙面左側の電気炉1参照)が設けられ、この吸引口35には金属製のメッシュ(図示省略)が取り付けられている。リングフード31内の空間は、複数のリングフード用仕切板36(図3参照)によって仕切られており、これにより、リングフード31内の各部における流量の均一化が図られている。
【0045】
吸引口35の上側には、平面視略円形を成す上端開口部37(図2の紙面左側の電気炉1参照)が設けられている。そして、開閉機構6が閉塞姿勢を取ると、上端開口部37が炉蓋24によって閉止され、開閉機構6が開放姿勢を取ると、上端開口部37が開放されるようになっている。なお、開閉機構6が閉塞姿勢を取った場合でも、炉内空間とリングフード31内の流路は連通している。つまり、開閉機構6の姿勢に関わらず、炉内空間とリングフード31内の流路は常時連通している。
【0046】
傾動ダクト32は、中空管状を成しており、リングフード31の側方に設けられるジョイント部40と、このジョイント部40に接続される傾動筒部41と、を備えている。
【0047】
図1等に示されるように、ジョイント部40は、略直方体形状(正確には、略平行六面体形状)を成している。ジョイント部40の左右方向外側部は、リングフード31の左右方向内側部とフランジ接続されている。これにより、リングフード31の内部空間と傾動ダクト32の内部空間が連通している。なお、リングフード31と傾動ダクト32のジョイント部40は、溶接などにより一体構成としても構わない。
【0048】
上記のように傾動ダクト32のジョイント部40とリングフード31をフランジ接続することで、傾動ダクト32は、傾動床4、電気炉本体5及びリングフード31と一体に縦方向に傾動するようになっており、溶湯の出湯時に傾動床4が0度〜100度の範囲内で前傾すると、これに伴って傾動ダクト32が0度〜100度の範囲内で前傾するようになっている。
【0049】
傾動筒部41は、横向き円筒状を成しており、その周面42の上端がジョイント部40の左右方向内側部の下端に溶接等の手段により固定されている。図4に最も良く示されるように、傾動筒部41の円筒の中心は、電気炉1に設けられた傾動軸12と側面視で同軸上に配置されている。
【0050】
図5、図6(1)等に示されるように、傾動筒部41の周面42の下部前側には、連通口44が設けられている。この連通口44は、周面42に沿った長方形状を成している。連通口44の横幅寸法は、傾動筒部41の横幅寸法よりも小さくなるように設定されており、これにより、傾動筒部41の剛性が維持されている。なお、本実施形態では、厚さ9mm程度の厚板で傾動筒部41が形成されているので、補強板などを必要としないで、周面42の連通口44の横幅寸法を出来る限り大きく設定できる。
【0051】
図4、図6(1)等に示されるように、傾動筒部41の両側面43の下部前側には、連通口45が設けられている。この連通口45は、略扇型形状を成している。連通口44と連通口45の合計開口面積は、ジョイント部40内の流路の開口面積と同程度に設定されており、これにより、圧力損失が抑制されて集塵装置の負担が軽減されている。なお、図4の矢印Yは、周面42に設けられた連通口44の範囲を示しており、図5の矢印Zは、電気炉1間の横幅を示している。
【0052】
図6(1)に示されるように、各連通口44、45は、電気炉本体5を傾動させていない状態で、傾動筒部41の下部前側に位置する。図6(2)に示されるように、各連通口44、45は、電気炉本体5を45度前傾させた状態で、傾動筒部41の下端部付近に位置する。図6(3)に示されるように、各連通口44、45は、電気炉本体5を100度前傾させた状態で、傾動筒部41の下部後側に位置する。つまり、各連通口44、45は、電気炉本体5の傾動姿勢に関わらず、常に傾動筒部41の下部(上下方向中央よりも下側部分)に位置するように形成されている。
【0053】
固定ダクト33は中空管状を成しており、傾動ダクト32と縦方向(本実施形態では上下方向)に接続されている。本実施形態では、各電気炉1に対応する一対の傾動ダクト32に対して、一個の固定ダクト33のみを設けている。固定ダクト33は、その上部に設けられる収納部46と、収納部46の下方に設けられる接続部47と、によって構成されている。図5に最も良く示されるように、固定ダクト33の内部空間は、収納部46の上端から接続部47の下端まで設けられた固定ダクト用仕切板48によって左右の空間50に縦方向に区画されている。
【0054】
収納部46の上部は略直方体形状を成し、収納部46の下部は後下方に向かって傾斜する六面体形状を成している。図4に示されるように、収納部46の上端には挿入開口部51が設けられており、この挿入開口部51を介して、各傾動ダクト32の傾動筒部41の下半分(各連通口44、45を含む部分)が、収納部46の左右の空間50にそれぞれ傾動可能に挿入されている。収納部46の側面は、傾動ダクト32の両側面43に設けられた連通口45と十分な間隔を介して対向しており、これにより、圧力の損失が抑制されている。
【0055】
本実施形態では、収納部46の前端部が、リングフード31の前方最大突出位置(リングフード31が前傾した際のリングフード31の前端位置。図4の二点鎖線a参照。)よりも後方に位置するように、固定ダクト33の前端位置が調整されている。
【0056】
図1、図4等に示されるように、収納部46には挿入開口部51(図1では不図示)の周囲にフランジ部52が設けられ、このフランジ部52の上面に、ボルトなどの固定手段(図示せず)によって調整可能な状態でパッキン53(シール部)が取り付けられている。パッキン53は、耐熱性に優れたノンアスベスト性であり、方形枠板状を成している。パッキン53には、左右一対の矩形状の貫通穴54が設けられており、この貫通穴54に各傾動ダクト32の傾動筒部41が接触状態で貫挿されている。これにより、固定ダクト33と各傾動ダクト32の間が密閉されている。貫通穴54の形成位置は、傾動ダクト32の傾動姿勢に関わらず常に傾動筒部41の周囲にパッキン53が接触するように調整されている。
【0057】
図4に最も良く示されるように、パッキン53は、電気炉1に設けられた傾動軸12及び傾動筒部41の円筒の中心と同一高さに設けられている。パッキン53は、傾動筒部41の上下方向中央に設けられており、前述のように電気炉本体5の傾動姿勢に関わらず傾動筒部41の下部に位置する各連通口44、45は、常にパッキン53の下方に位置している。
【0058】
接続部47の上端は、収納部46の下端とフランジ接続されている。接続部47には、2式のダンパー55が設けられている。図5に最も良く示されるように、各ダンパー55は、接続部47の左右の空間50にそれぞれ配置されている。
【0059】
ダンパー55の開度は、制御装置(図示せず)によって制御されている。つまり、電気炉1の作業状態に応じて必要となる設定風量が予め決められていて、その設定風量となるように、集塵装置を稼働させた状態でダンパー55の弁開度が制御装置によって調整されるようになっている。また、各ダンパー55の開度は、それぞれ別々に変更可能となっており、それぞれの電気炉1の作業状態に応じて各ダンパー55の開度を制御することで、各電気炉1への吸引風量が適宜調整されるようになっている。
【0060】
連結ダクト34は、中空管状を成している。連結ダクト34の一端は、固定ダクト33の接続部47の下端にフランジ接続されており、これにより、固定ダクト33の左右の空間50と連結ダクト34内の空間が連通している。連結ダクト34の他端は、集塵装置(図示せず)に接続されている。集塵装置には、例えば、吸気口と、ファンと、フィルターと、排気口と、が設けられており、上記した吸気口に連結ダクト34が接続されている。なお、本実施形態では、上記したファンの吸引力の変動を、各ダンパー55の開度と同期させている。
【0061】
以上の如く構成されたものにおいて、電気炉1の作業状態について説明する。電気炉1では、被溶解物の投入時の作業状態(以下、「投入状態」と称す。)、被溶解物の溶解時の作業状態(以下、「溶解状態」と称す。)、溶湯の出湯時の作業状態(以下、「出湯状態」と称す。)の各作業状態において発生するガスや粉塵の量が異なるため、夫々の状態において必要な吸引風量が設定される。一般的には、出湯状態>投入状態>溶解状態の順にガスや粉塵の発生量が多いので、集塵装置に必要とされる吸引風量も出湯状態>投入状態>溶解状態となる。
【0062】
まず、投入状態について説明する。この作業状態においては、電気炉本体5を水平姿勢で維持し、炉蓋24がリングフード31の上端開口部37を開放した状態で、炉内空間に被溶解物を投入する。また、集塵装置のファンを稼働させ、電気炉用ダクト2を介してファンの吸引力を電気炉本体5の開口部16に及ばせて、被溶解物を投入した際に発生して上昇する粉塵をリングフード31の吸引口35から電気炉用ダクト2内に吸引する。
【0063】
このリングフード31内に吸引された粉塵は、リングフード31から傾動ダクト32に流入し、各連通口44、45を介して傾動ダクト32から固定ダクト33に流入して、固定ダクト33内のダンパー55を経由した後、連結ダクト34に流入する。そして、連結ダクト34から吸気口を介して集塵装置に流入し、集塵装置内のフィルターで濾過される。この投入状態において必要となる吸引風量は中程度であり、ダンパー55の開度は、溶解状態よりは大きく出湯状態よりは小さい。
【0064】
次に、溶解状態について説明する。この作業状態においては、電気炉本体5を水平姿勢で維持し、炉蓋24がリングフード31の上端開口部37を閉止した状態で、被溶解物の溶解を行う。また、投入状態と同様に集塵装置のファンを稼働させ、電気炉用ダクト2を介して粉塵を集塵装置に吸引し、集塵装置のフィルターで濾過する。この溶解状態では、炉蓋24によってリングフード31の上端開口部37が閉止されているため、必要となる吸引風量は少なくて済み、ダンパー55の開度も他の作業状態に比べて小さい。
【0065】
次に、出湯状態について説明する。この作業状態においては、炉蓋24がリングフード31の上端開口部37を開放し、且つ、電気炉本体5を100度前傾させた状態を維持する。これにより、炉内空間の溶湯が、電気炉本体5の開口部16を介して出湯通路20に流入し、出湯口21から電気炉1の前方に配置された取鍋56(図2参照)へと吐出される。また、投入状態及び溶解状態と同様に集塵装置のファンを稼働させ、電気炉用ダクト2を介して粉塵を集塵装置に吸引し、集塵装置のフィルターで濾過する。この場合は、取鍋56からガスが大量に上昇することとなるため、必要となる吸引風量は多くなり、ダンパー55の開度も他の作業状態に比べて大きい。
【0066】
本実施形態では前記のように、傾動ダクト32と固定ダクト33が縦方向に接続されているため、傾動ダクト32と固定ダクト33を横方向に接続する場合と比較して、電気炉用ダクト2を設置するために必要な横幅を狭くすることが可能となる。これに伴って、複数の電気炉1が横方向に並設された既設の製鋼所等において、電気炉1間が狭い場合でも電気炉用ダクト2を設置することが可能となる。また、新設の製鋼所等において、電気炉1間を狭くすることが可能となり、省スペース化を実現することが可能になる。
【0067】
また、本実施形態では、パッキン53を設けているため、傾動ダクト32と固定ダクト33の接続部分におけるガスや粉塵の洩れを防止し、電気炉1から発生するガスや粉塵を、傾動ダクト32及び固定ダクト33を介して確実に集塵装置に吸引することが可能となる。
【0068】
また、本実施形態では、傾動ダクト32の傾動姿勢に関わらず各連通口44、45を常にパッキン53の下方に配置しており、固定ダクト33内のシールされた箇所に各連通口44、45が常に位置することになるので、比較的簡単に気密状態(エアー漏れ防止状態)とすることができる。また、傾動ダクト32の各連通口44、45を常に固定ダクト33内に位置させることで、比較的簡素な構造で、傾動ダクト32内と固定ダクト33内を連通させることができる。
【0069】
また、本実施形態では、横向き円筒状の傾動筒部41の周面42及び両側面43の下部に各連通口44、45が設けられているため、必要開口面積を確保して安定した流路を形成することが可能になると共に、圧力損失を小さくして集塵装置の負担の軽減を図ることが可能となる。
【0070】
また、本実施形態では、傾動筒部41の円筒の中心が電気炉本体5の傾動軸12と同軸上に位置しているため、電気炉本体5の傾動に伴って傾動ダクト32の傾動筒部41が偏心せず、定位置で傾動することになる。そのため、固定ダクト33における傾動筒部41の挿入スペース(傾動ダクト32の傾動方向)を小さくすることが可能となる。
【0071】
また、本実施形態では、パッキン53が電気炉本体5の傾動軸12及び傾動筒部41の円筒の中心と同一高さに設けられている。このような構成を採用することで、パッキン53と傾動筒部41の接触位置における傾動筒部41の円筒の接線方向(本実施形態では上下方向。図4の二点鎖線b参照。)と垂直にパッキン53が配置されることになる。そのため、傾動ダクト32が傾動した際でも、傾動筒部41とパッキン53を安定して接触させることができ、エアー漏れを確実に防ぐことができる。
【0072】
また、本実施形態では、固定ダクト33の挿入開口部51の周囲に取り付けられるパッキン53によって傾動ダクト32と固定ダクト33の間を密閉している。そのため、比較的簡素な構成で傾動ダクト32と固定ダクト33の間を確実にシールしてエアー漏れを防止することができ、且つ、コストも安くすることができる。
【0073】
また、本実施形態では、電気炉本体5の開口部16を囲繞するリングフード31を設けており、電気炉1から発生するガスや粉塵を、リングフード31を介して集塵装置側に確実に吸引することが可能となる。
【0074】
また、本実施形態では、固定ダクト33の内部空間を固定ダクト用仕切板48によって縦方向に区画し、固定ダクト用仕切板48によって区画された各空間50には、一対の電気炉1に対応する各傾動ダクト32が接続されている。このような構成を採用することで、一対の電気炉1に対して1個の固定ダクト33のみで済むため、スペースの効率的な利用が可能となり、電気炉1間が非常に狭い場合でも電気炉用ダクト2の設置が可能となる。
【0075】
本実施形態では、傾動筒部41が形成する円筒の中心と同一高さにパッキン53が設けられる場合について説明したが、他の異なる実施形態では、傾動筒部41が形成する円筒の中心よりも高い位置にパッキン53が設けられていても良い。このような構成を採用することで、各連通口44、45の形成位置の自由度が増し、各連通口44、45を容易に形成することが可能になると共に、各連通口44、45に必要とされる開口面積を容易に確保することが可能になる。
【0076】
本実施形態では、開閉機構6が枠体3に備えられる場合について説明したが、他の異なる実施形態では、開閉機構6が傾動床4に備えられていても良い。
【0077】
本実施形態では、傾動ダクト32と固定ダクト33とが上下方向に接続される場合について説明したが、他の異なる実施形態では、傾動ダクト32と固定ダクト33とが前後方向に接続されていても良いし、前上方と後下方に接続されたり後上方と前下方に接続されたりしていても良い。つまり、「縦方向」には、傾動軸12の傾動軸方向X(図1参照)と交差する平面内のあらゆる方向が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る電気炉用ダクトの技術は、複数の電気炉を備えた工場において、電気炉間が狭い製鋼所などで利用されることが見込まれるものである。
【符号の説明】
【0079】
1 電気炉
2 電気炉用ダクト
5 電気炉本体
12 傾動軸
16 開口部
31 リングフード
32 傾動ダクト
33 固定ダクト
41 傾動筒部
42 周面
43 両側面
44、45 連通口
48 固定ダクト用仕切板
51 挿入開口部
53 パッキン(シール部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向に傾動可能な電気炉本体を有する電気炉と該電気炉から発生するガス及び粉塵を吸引する集塵装置とを接続する電気炉用ダクトであって、
前記電気炉本体と一体に傾動する傾動ダクトと、
該傾動ダクトと縦方向に接続される固定ダクトと、を備えていることを特徴とする電気炉用ダクト。
【請求項2】
前記傾動ダクトと前記固定ダクトの間を密閉するシール部を備え、
前記傾動ダクトには、前記固定ダクトに連通する連通口が、前記傾動ダクトの傾動姿勢に関わらず前記シール部よりも前記固定ダクト側に位置するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電気炉用ダクト。
【請求項3】
前記傾動ダクトには、横向き円筒状の傾動筒部が設けられ、該傾動筒部の両側面及び周面の一部に、前記連通口が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気炉用ダクト。
【請求項4】
前記傾動筒部の円筒の中心は、前記電気炉本体の傾動軸と同軸上に位置することを特徴とする請求項3に記載の電気炉用ダクト。
【請求項5】
前記シール部は、前記電気炉本体の傾動軸及び前記傾動筒部の円筒の中心と同一高さに設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の電気炉用ダクト。
【請求項6】
前記シール部は、前記傾動筒部の円筒の中心よりも高い位置に設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の電気炉用ダクト。
【請求項7】
前記固定ダクトの上端には、前記傾動ダクトの一部を挿入可能な挿入開口部が設けられ、
前記シール部は、前記挿入開口部の周囲に取り付けられるパッキンによって形成されていることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の電気炉用ダクト。
【請求項8】
前記電気炉本体の上端には開口部が設けられ、
前記電気炉本体と前記傾動ダクトの間には、前記開口部を囲繞するリングフードが介装されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気炉用ダクト。
【請求項9】
前記電気炉は、複数個並設され、
前記傾動ダクトは、前記複数個の電気炉ごとに設けられ、
前記固定ダクトには、その内部空間を縦方向に区画する仕切板が設けられ、該仕切板によって区画される各空間に、前記各電気炉に対応する前記傾動ダクトが接続されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気炉用ダクト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【公開番号】特開2013−88056(P2013−88056A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229913(P2011−229913)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000101617)アマノ株式会社 (174)
【Fターム(参考)】