電気的に物質を細胞内に導入する装置及び方法
【課題】細胞内に導入したい物質をパーティクル等の担体に担持させることなく直接溶液状態のままで細胞内に注入できる装置及び方法を提供する。
【解決手段】細胞内導入物質溶液を高電圧に印加した後、チューブ先端から標的細胞に滴下できる装置を用いることによって、細胞内に細胞内導入物質を注入する。
【解決手段】細胞内導入物質溶液を高電圧に印加した後、チューブ先端から標的細胞に滴下できる装置を用いることによって、細胞内に細胞内導入物質を注入する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞へ効率的に物質を導入させる装置及び方法に関する。さらに詳しくは、電気的な力を利用して、細胞内に導入したい物質を担体等に担持させることなく溶液状態のままで直接細胞内に導入することを可能にする装置及び方法であって、特定範囲の電圧に印加できるノズル状のチューブを有することを特徴とする装置、及び該装置を用いた物質の細胞内導入方法に関する。
細胞内に、DNAやRNA等の遺伝子情報を担った物質や、酵素等の蛋白、医薬品等の化学物質を導入する装置及び方法は、遺伝子治療や癌細胞のターゲティング療法等の臨床場面や基礎医学研究の場面で有用な技術手段となる。また、医学外の広範な応用生物学的な場面でも有用な手段となる。
【背景技術】
【0002】
細胞内に物質を導入する方法、特にDNAやRNA等の遺伝情報物質を細胞内に導入して行う遺伝子操作技術には多くの方法や装置が開発されている。
ペプチドグルカンやセルロース等を含む細胞壁を有する細菌類や酵母ではコンピテントセルがよく使用される。これは物質を取り込みやすい細胞にして熱ショック等で取り込ませる方法である。しかし、この方法ではこの細胞を作るために培養条件を厳密に制御し、また、凍結処理や金属イオンを含む溶液で細胞を処理しなければならない。そのために多くの手間と時間が必要である。また、特定のコロニーに直接物質を導入することができない。
動物細胞では最近、カチオン性ポリマーやリポソーム等の試薬を利用して細胞内へ物質を入れる方法が提案されている。しかし、試薬と細胞を混合する際、非常に煩雑な操作が必要であり、かつ厳密な操作が求められる。また、これらの試薬は用量によっては細胞に致死的に働く場合があり、使用範囲が限定され、使用濃度の最適化に多くの労力を要することがある。さらに、細胞壁のある細胞には導入しにくい。
これら以外にウイルスを利用して細胞に物質を導入する方法がある。しかし、ウイルスを使用する場合には煩雑な精製操作を取らなければならず、ウイルスであるために意図していない組織に物質が導入される危険がある。また、ウイルスであるため、バイオハザードの危険性も考慮する必要がある。
【0003】
細胞内へ物質を入れる装置を用いる方法としてよく知られているものにエレクトロポレーションがある(例えば、特許文献1参照)。この方法は遺伝子と細胞の懸濁した溶液に高電圧をパルス状にかけ、溶液中に含まれる遺伝子を細胞内に取り込ませる方法である。この方法は適用範囲が広く遺伝子導入効率が高い方法である。しかし、遺伝子の導入効率と細胞の致死率との間に比例関係があるため、細胞の致死と無関係に導入することができない。すなわち、パルス条件が不適切であると細胞内に目的とする物質が導入され難いだけではなく、細胞が死んでしまう欠点がある。また、トーイングといわれる溶液内への放電を防ぐため、細胞懸濁溶液の伝導度を下げなければならない。そのため遠心分離等を用いて細胞を分離し洗浄する操作が必要であり、またその操作の際に細胞が死んでいく可能性がある。さらに、パルス高電圧発生装置が高価であるという欠点も有する。
【0004】
また、細胞内へ物質を入れる方法としてパーティクルガンがある(例えば、特許文献2参照)。この方法は遺伝子を付着した金、タングステンのような微粒子を細胞に打ち込む方法である。微粒子により全体の質量を増加させ高いエネルギーで細胞に衝突させることで細胞膜や細胞壁を通過させる。
この方法は細胞膜のみでなく、細胞壁を通過でき、そのため細胞壁を有する植物等に多用されている。しかし、この方法は遺伝子を微粒子等に付着させる操作が必要であるほか、使用する微粒子、圧力開放のための破裂板等の消耗品が高価である欠点がある。さらに、微粒子を打ち込むためにプラズマ爆発や火薬、ボンベガスを使用するために装置が大掛かりになる欠点がある。また、ガスの勢いで細胞が飛散する危険がある。さらに、パーティクルが細胞内に残存するため細胞へのダメージが生じやすく、繰り返し打ち込むとパーティクルが細胞内に蓄積する欠点がある。特に遺伝子治療のような場面では、細胞内に微粒子が残存蓄積することは細胞致死の可能性が高まる点で好ましくない。また、使用する微粒子のサイズが0.5〜3μmであるため、植物や動物のような10〜100μmと比較的大型な細胞の場合は問題になりにくいが、細菌類のように1μm前後の微少な細胞の場合、適用するのが非常に困難である。
さらにこのパーティクルガンの一つとしてキャピラリーの先端から微粒子の懸濁液に高電圧を印加し、エレクトロスプレー状態にして細胞にスプレーする方法がある(例えば、特許文献3参照)。この方法は固体懸濁液を使用するためキャピラリーの先端に微粒子等による詰まりが生じる欠点がある。また、通常のパーティクルガンと同様に固体が細胞内に残留する等の欠点がある。
このような技術的事情背景から、細胞内導入物質をパーティクル等の担体に担持させる必要がなく、物質溶液のまま細胞中へ効率的に物質を注入できる装置及び方法の提供が望まれて来た。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4945050号明細書
【特許文献2】特許第2606856号公報
【特許文献3】米国特許第6093557号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細胞内導入物質をパーティクル等の担体に担持させることなく、溶液状態のまま細胞内に導入する装置及び方法を提供するものであり、特にDNAやRNA等の分子量の多い遺伝情報物質を細胞内へ導入するうえで有用な手段となる。また、担体微粒子を使用しないことから、使用した微粒子担体が細胞内に残らないうえ、対象とする細胞の大きさに関係なく適用できる。また、さらには高価なパルス高電圧発生装置を必要としないという利点も有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決できる細胞内への物質導入装置及び方法について鋭意検討した。その結果、高電圧に印加した物質溶液をチューブ先端から細胞に滴下して細胞に物質を導入する装置及び方法からなる本発明を完成するに至った。即ち本発明は、以下の(1)〜(12)に示す、電気的に物質を細胞内に導入する装置及び方法に関するものである。
(1)細胞内導入物質を含む溶液に電圧を印加した状態で、該溶液をチューブ先端から細胞に滴下し、細胞内に物質を導入する装置。
(2)細胞内導入物質を含む溶液と細胞間の電位差が0.5kVから100kVとなるように該溶液を印加する機構を有する、(1)に記載の装置。
(3)細胞内導入物質を含む溶液と細胞間の電位差がプラス又はマイナスとなるように該溶液を印加する機構を有する、(2)に記載の装置。
(4)チューブ先端の内径が0.01μmから10mmである、(1)に記載の装置。
(5)細胞内導入物質を含む溶液の分離精製を行う機構を有する、(1)〜(4)の何れかに記載の装置。
(6)細胞内導入物質を含む溶液の質量分析を行う機構を有する、(1)〜(5)の何れかに記載の装置。
(7)細胞内導入物質を含む溶液を無菌的に滴下できる機構を有する、(1)〜(6)の何れかに記載の装置。
(8)(1)〜(7)の何れかに記載の装置を用いて、細胞内導入物質を細胞内に導入する方法。
(9)細胞内導入物質がDNA, RNA, 蛋白、ペプチド、糖、脂質、薬物、標識剤、及びこれらの誘導体である、(8)に記載の方法。
(10)細胞が細胞壁に傷をつけるか細胞壁を除去したものである、(8)に記載の方法。
(11)細胞内導入物質を含む溶液が、細胞壁に傷をつけるか細胞壁を除去する物質を含むものである、(8)に記載の方法。
(12)(1)〜(7)に記載された装置又は(8)〜(12)に記載された方法によって細胞導入物質を細胞内に導入した細胞。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、導入したい物質を予め担体に担時させるような煩雑な前処理操作を施すことなく直接細胞に導入することができ、しかも、担体が細胞内に残留することもない。また、担体粒経による支配を受けないので、細菌のようなサブミクロンから数ミクロンの小さな細胞にも適用可能となる。
また、本発明の装置は高価なパルス高電圧発生装置や高価な金属微粒子や破裂板が必要でなく、1回あたりの処理費用が下がる、さらに溶液を取り扱うことから分離、精製、分析装置と複合化することができると言う効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の装置の構成を図1に示す。
装置はフィルター1とポンプ2が接続し、サンプル導入口3からチューブ4に接続している。チューブ4は高電圧ケーブルで高電圧発生装置(HV:High-Voltage Power Supply)5と接続している。さらに高電圧発生装置5のグランドは電極6と接続している。この電極にポリスチレン製シャーレが載っている。シャーレには培地とその上に細胞のコロニー10が存在している。ステンレス電極とシャーレ内部の培地はリボン状導電体7で接続されている。装置全体はクリーンユニット8内に設置してある。本発明の装置で必ず必要な構成はチューブ4と高電圧発生装置5である。細胞に導入する物質の溶液がサンプル導入口3から導入される。導入された溶液はポンプ2により、フィルター1を通過させる等して除菌した溶液又はガスを使ってチューブ4まで押し出される。チューブ4から滴下するときに高電圧発生装置5により溶液に電圧が印加される。これにより細胞に導入する物質の溶液が帯電した液滴9になる。グランド電極6に導電体7を通じて細胞はグランド電位になるため、高電圧に印加された溶液間に電位差がある。そのために滴下する溶液は細胞に向かって滴下される。このとき無菌操作になるようにクリーンユニット8が設けてある。
【0010】
さらに、単純化した本発明の装置構成を図2に示す。
装置はポンプ2、チューブ4、高電圧発生装置5、細胞が接続したグランド電極6で形成される。チューブ4と細胞が接続したグランド電極6は高電圧発生装置5に電線で接続し電位差が生じている。チューブ4から押し出された物質の溶液は高電圧発生装置により帯電した液滴9を形成し、細胞10がのった電極6に引かれて滴下される。
チューブ先端に印加する電圧は細胞との距離、チューブの大きさ、溶液流量、溶液性状等から最適値を求めて使用すれば良い。電圧で使用し易いのはチューブと細胞との電位差で0.5kVから100kV、より好ましくは1kVから20kVの範囲が望ましい。0.5kVより電圧が低いと細胞内への目的物質の導入効率が低下する。また、100kV以上高電圧にしても、物質の細胞内への導入効率に大きな差は認められず、逆に細胞を致死に至らしめる危険性が増し好ましくない。
帯電した液滴の電荷による反発力が溶液の表面張力を上回ると液滴が微細化するエレクトロスプレー状態になる。これは電圧、細胞との距離、チューブの大きさ、溶液流量、溶液性状等により形成され方が変化するが本発明の条件ではエレクトロスプレーになることが多い。本発明ではエレクトロスプレー状態になることはなんら問題がない。
【0011】
さらに装置の構造を具体的に説明する。高電圧発生装置は滴下する溶液と滴下される細胞との電位差で0.5kVから100kV発生の能力が必要である。また、安全性確保のためにアースを取ることが望ましい。また、短絡防止回路を有するものが好ましい。本発明で流れる電流量はわずかであり特に制限がない。最大でも1mAあれば十分である。高電圧発生装置5とチューブ4と細胞10がのった電極6は接続されている。接続は高電圧ケーブルで行えばよい。
滴下されるときに細胞に導入する物質の溶液に印加する電圧はプラス、マイナスどちらでもかまわない。本発明では、滴下が行われていれば放電を伴っていてもかまわないが、細胞障害が発生するような長時間にわたる放電は好ましくない。
【0012】
チューブの材料は金属、プラスチック、ガラス、セラミック等特に制限がない。ただし電気伝導性のない材料できたチューブを使用する場合には、溶液に接触する電極を備えたチューブや導電物質を表面にコーティングしたチューブを用いる必要がある。チューブの外径、長さについては特に制限がない。一方、チューブ出口の内径については液滴形成が必要であり、溶液の性質で変ってくるが0.01μmから10mmが好ましく、1μmから3mmの内径を有することがより好ましい。図3にチューブと高電圧発生装置の接続を模式的に示した。
Aに示す金属のような導電性材料をチューブに使用した場合は、チューブに電極を接続して内部に来る溶液に帯電することができる。Bはガラスのような絶縁体を使用したチューブの場合である。この場合、内部に金属のような導電性電極を入れ、溶液を帯電させる。Cは電極内部に導電対コートしてある場合でチューブ内部が高電圧発生装置と接続して溶液が帯電する。
チューブの形状はストレートだけでなく、テーパーを持つ形状でもよく、特に制限されない。また、チューブは二重管構造でもよく、溶液と共にガスを流しても良い。チューブは質量分析等で使用するエレクトロスプレー用を使用しても良い。さらに微量を流せるようにナノスプレーを使用しても良い。
チューブの先端は直角切りがよく、皮下注射に使用するような斜め切りは好ましくない。斜め切りは放電しやすく、安定的な滴下がしにくい。
滴下するためのチューブは最低1本あればよく、多数のチューブがあればより広く滴下できる。
【0013】
細胞側の電極は、チューブから滴下した溶液が細胞によくかかるようにされたものであれば特に制限はない。電極形状は円形、多角形、網目等どのような形でも問題がない。また、電極材料は金属、セラミック、プラスチック、ゲル、溶液どのような形態でも問題がない。電極はシャーレやテストチューブ等の細胞の入った容器内又はそこに滴下した溶液がかかる位置にあればよい。また、コロニー、組織、個体等の細胞集合体そのものが電極となるようにしても良い。前記した図1では金属電極上に細胞の入ったシャーレが置いてある。細胞へ溶液が効率よく滴下するためにはチューブと細胞間の電位差が好ましい範囲に取れるように接続しているのが好ましい。シャーレ等に入った細胞に滴下する場合はシャーレ内部の細胞が接触する溶液又はゲルが電極と接続していることが好ましい。細胞は溶液を均一に受けるために回転又は位置選択ができるようにステージに乗って移動してもなんら問題がない。
図4は細胞が接続したグランド電極をより具体的に示した図である。
Aはシャーレ内にゲル状培地を電極にしたもので、その上に成長したコロニー10に滴下する。シャーレ内のゲル状培地は高電圧発生装置5と接続され、滴下するチューブ4を通過する溶液との間に電位差が発生している。ゲル状培地への接続は使用するシャーレを導電物質(金属)にして接続するか、ゲル内にケーブルを差し込んで接続すればよい。Bはテストチューブの下部に電極を設け、上に細胞10の懸濁液がある。この細胞の懸濁液にチューブ4から滴下すればよい。滴下するチューブ4を通過する溶液とテストチューブに付いた電極間には電位差が発生するように高電圧発生装置5と接続すればよい。Cは生体10(又は臓器)に高電圧発生装置5が接続され、滴下するチューブ4を通過する溶液との間に電位差がある。これにより、滴下したい場所にチューブを近づけることで電位差により高速で溶液が滴下され、物質導入が期待できる。
【0014】
細胞に溶液が滴下する位置より前にマスク、レンズ、コリメーター機能を有する部品を置くことで溶液を滴下したい場所にのみ滴下できる。マスク機能としては有機高分子材料、金属、セラミックでできたスプレー範囲を決める板状(フィルム)部品が使用できる。また、レンズ、コリメーター機能としては帯電した金属マスク、誘電体マスク部品が使用できる。
図5は滴下するチューブと細胞が接続したグランド電極の間に選択的に滴下する液が落ちるようにした装置図である。
Aはマスク11が細胞の前にあり、開口している部分だけに滴下される。Bはコリオメーターとして電圧発生装置13によって帯電させた開口した導電体12を置いてある。ここには滴下するチューブと同じ極性の電位がかかっており、チューブから広がった液滴が集中して細胞に降りかかる。
【0015】
滴下する溶液を送るのに使用するポンプはチューブポンプ、シリンジポンプ、プランジャーポンプ等特に制限がない。また、溶液を滴下する場合、重力やサイホンを利用する場合は省略できる。また、高電圧を印加するため、溶液が電場に引かれてチューブから滴下することもあり、この時も省略できる。
【0016】
本発明において導入する物質は特に制限されない。細胞に取り込んで有効な物質は医薬品、農薬、抗菌剤、生体物質、金属イオン、標識試薬等が挙げられる。詳しく例を挙げるとDNA、RNA、 蛋白、ペプチド、糖、脂質、薬物、標識剤、及びこれらの誘導体等の生体高分子化合物を細胞内に非侵襲的に注入する方法として優れている。
さらに好ましくは導入する物質が遺伝情報を有する物質である。具体的にはDNA若しくはRNA、又はこれらの類似化合物、誘導体である。これらはプラスミド、ファージ、ウイルス、ウイロイド、オリゴDNA、オリゴRNA、マイクロRNA等の形態で提供される。塩基配列の大きさは特に断りがない。塩基は二本鎖、一本鎖どちらでもかまわない。
【0017】
本発明の方法により物質が細胞内へ導入される機構は明らかでないが以下のように予想している。チューブに高電圧が印加されることでチューブ先端から押し出される溶液は帯電する。これが反対の電位の細胞に向かって静電気力で引かれる。この力により速い速度で細胞にぶつかる事で細胞に物質を導入する。さらに帯電した溶液が静電的に反発して小さな液滴になるためにさらに細胞内へ透過しやすくなっている。また、細胞においては帯電液滴が衝突することで細胞内と外部で電界が不均衡になるために細胞の膜が物質を取り込みやすくなっている。このような機構を予想している。
【0018】
物質を含んだ溶液を滴下する際の雰囲気は空気、窒素、二酸化炭素、アルゴン、SF6等で、細胞に対する致死作用がなく爆発等の危険性を有さないガスであれば特に制限はない。空気、窒素は一般的で容易に使用できる。また、二酸化炭素、SF6は放電を生じにくく安定な滴下ができる。使用時の圧力は細胞が死なずに使用できれば特に制限がない。使用しやすいのは1から1Mpaの範囲で特に大気圧である。
滴下する際に他の菌の混入などの汚染を防ぐために無菌状態で行うことは非常に重要である。具体的には、滴下をケース内で行うか、若しくはクリーンユニット等を使用して行うことによって汚染を防止することができる。また、本方法によれば重力と逆方向に溶液を滴下することもできるので、滴下される細胞を上部に置いて落ちてくる汚染源の進入を防ぎながら操作を行うこともできる。
図6は無菌状態で処理するための装置の構造を示す。
AはHEPAフィルターのような清浄な環境をつくるクリーンユニット8を装置の上部に付け環境を清浄に保つ装置である。ユニットの位置は上部だけでなく側面に設置しても良い。この装置を使用することで異物混入を防止することができる。Bは細胞10を装置上部に設置することで落下してくる異物の混入を防ぐ装置14である。高電圧を印加しているのでチューブから溶液を上部の細胞に滴下することができる。
【0019】
本発明で使用する細胞は特に制限がなく、動物、植物、又は微生物の細胞何れでもよい。また、細胞だけでなく組織、臓器、生体であってもかまわない。また、卵、精子、花粉、胞子、種子のような生殖細胞類を対象にすることも当然可能である。
本発明では細胞壁を有する細胞にも適用できる。具体的には細菌、酵母、糸状菌、古細菌細胞、植物等である。これら細胞の細胞壁に傷をつけたもの、若しくは細胞壁を除去し原形質膜を露呈させたものを使用する、又は前記の状態をつくる物質共存で滴下する方法をとってもよい。具体的にはコンピテントセル、プロトプラストのような細胞壁を弱くした細胞であり、これらの細胞を作るためのCaイオン、Liイオン、Rbイオン、Csイオン、Mgイオン、Mnイオン、Znイオン等、又はセルラーゼ、ペクチナーゼ等を共存させてもよい。また、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリスペルミン、ポリリシン、ポリエチレングリコール等のポリマー、リポソーム、ミセル等の界面活性物質を共存させても良い。共存させる方法としてはこれら物質を滴下する細胞溶液内に予め添加するか、滴下段階で混合させる方法を適宜選択すればよい。
【0020】
本発明の特徴として、細胞内導入物質を溶液状態で取り扱うことが可能であるため導入する物質を予め分離装置を経由させ不純物を除去した後、連続的に供給することが可能になる。分離装置とはフィルター、液体クロマトグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー等の分離精製機能を有する装置である。また、分離精製後の送液ラインに検出器を設置して、溶液がチューブ先端に届くまでの間に検出器で溶液中に含まれる物質の種類及び量を確認することができる。設置する検出器の例としては液体クロマトグラフィーでよく、検出方法としてはRI、UV、 電気伝導度が使用できる。また、これ以外にNMR,IR、 ボルタンメトリー、クーロメトリー、蛍光分析、X線回折等の溶液分析で使用される各種の機器及び手法も適用できる。
図7、図8は分離装置と接続を示した模式図である。
フィルター1からの溶離液がポンプ2によって送られる。分離したいサンプルはサンプル注入口3より入れられ、カラム15で分離され、その後チューブ4に導入される。この時、チューブ4は高電圧発生装置5に接続していて細胞10との間に電位差が生じている。図8ではカラム15から出たところで検出器16があり、物質組成をモニタリングしながらチューブ4に導入できる。
また、重力の落下等の力を利用する場合、ポンプ2を省略することができる。サンプル注入はオートサンプラーを利用して連続的に注入することもできる。また、それに対応して細胞を交換することもできる。
【0021】
さらに本発明では直接、質量分析装置に接続できる。大気圧下で滴下する場合、差動排気構造を有する質量分析装置が必要である。検出器は四重極、二重収束、飛行時間、FT−ICR等特に指定されない。また、イオントラップ、タンデム構造を有しMSn解析ができればさらに得られる情報が増える。
図9は質量分析装置との接続、分離装置との接続をした構造である。
フィルター1からの溶離液がポンプ2によって送られる。分離したいサンプルはサンプル注入口3より入れられ、カラム15で分離され、その後チューブ4に導入される。チューブ4は二重構造になっており外側との間隙にはガス17が流れている。この時、チューブ4は高電圧発生装置5に接続していて細胞10との間に電位差が生じている。また、必要に応じカラム15に続く検出器16で溶液組成をモニタリングしながらチューブ4に導入することができる。質量分析導入入り口18はキャピラリーでイオンを導入するがその入り口には乾燥ガス19が流れている。さらにスキマー20を通り質量分析部21に導入され、質量分析が行える。スキマー20は差動排気され減圧度を上げ、質量分析部に入る。なお、上記の構造は条件によっては省略できる部分がある。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例を以て本発明を詳しく示すが、これらの例によって本発明は限定されない。
実施例1
実験装置:実験に使用する装置図を図10に示す。
装置は0.2μmのフィルター1とチューブポンプ2が接続し、サンプル導入口3からステンレス製チューブ4に接続している。ステンレスチューブ4の内径は0.18mmである。チューブは高電圧ケーブルで高電圧発生装置5と接続している。さらに高電圧発生装置のグランドは一辺200mmの正方形ステンレス電極6と接続している。この電極の中央に直径90mmのポリスチレン製シャーレが載っている。シャーレには培地とその上に大腸菌のコロニー10が存在している。ステンレス電極とシャーレ内部の培地はリボン状のステンレス7で接続している。装置全体はクリーンユニット8内に設置してある。
滴下する対象は直径9cmのポリスチレン製シャーレに入れた1.5wt%アガロースで固めたLB培地上にE.Coli JM109株を34℃で一晩培養してコンフリューエントにしたものを対象とした。この時培地の電位はグランド電位になるようステンレスリボン7を用いてシャーレ端で接続した。
【0023】
実施例2
実験装置は実施例1の装置を使用した。細胞は直径9cmのポリスチレン製シャーレに入れた1.5wt%アガロースで固めたLB培地上にE.Coli JM109株を34℃で一晩培養してコンフリューエントにしたものを対象とした。
滴下溶液はプラスミドpUC19(アンピシリン耐性遺伝子2686bp)42μg/mL TE buffer(pH8)を使用した。この溶液をサンプル注入口から100μL入れた。ポンプから空気によって溶液はステンレスチューブに80mg/minの速度で導入した。プラスミドDNAの総スプレー量は4.2μgであった。
ステンレスチューブ先端は高さ25mm(寒天培地の厚みは約5mm)から細胞に滴下した。この時、ステンレスチューブには−20kVで印加した。溶液はチューブ先端でテイラーコーンを形成し、エレクトロスプレー状態であった。この時電流は検出限界以下(10μA以下)であった。溶液滴下後、大腸菌プレートにアンピシリン(Ampiciline)50μg/mL入りLB培地2mL入れ白金耳で攪拌し、大腸菌溶液を作った。この大腸菌溶液10μLを採り、アンピシリン50μg/mL入りLB培地2mLに入れ、32℃で2日培養したところ大腸菌の増殖が見られた。このように、本発明の方法を講じることによってアンピシリン耐性を獲得した大腸菌が生成し、プラスミドが大腸菌へ入ったことが判明した。
【0024】
実施例3
ステンレスチューブをグランドとして−20kVを大腸菌プレート側に印加した以外は、実施例2と同様に実験をした。
液が滴下されると同時に火花放電が起き、電圧が数kV範囲で低下した。溶液はエレクトロスプレー状態であった。溶液滴下後、大腸菌プレートにアンピシリン50μg/mL入りLB培地2mL入れ白金耳で攪拌し、大腸菌溶液を作った。この大腸菌溶液100μLを採り、アンピシリン50μg/mL入り1.5wt%寒天LB培地に塗布して、32℃で2日培養した。アンピシリン耐性大腸菌のコロニー形成が確認でき、プラスミドが大腸菌へ入ったことが判明した。
【0025】
実施例4
実施例2及び3のアンピシリン耐性菌を培養して菌体を得、これをキアゲン社製プラスミド精製キットQIAprep Spin Miniprepを使用してプラスミドDNAを取り出した。同様にしてE.Coli JM109株をLB培地で培養した菌体もプラスミド精製キットにかけた。これらを電気泳動により相同性の確認を行った。
図11はエチジウムブロマイドで処理してUVで発光させた電気泳動の写真である。
一番左端はプラスミドpUC19である。レーンaは実施例2で得たアンピシリン耐性菌の、レーンbは実施例3で得たアンピシリン耐性菌の電気泳動像である。右端はJM109株である。実施例2,3のアンピシリン耐性株はpUC19と同じ位置にバンドが確認でき、プラスミドDNAが取り込まれていた。実験に使用したJM109株にはプラスミドのバンドが現れなかった。このように電気泳動的にもプラスミドの取り込みが確認された。
【0026】
実施例5
ポリプロピレン製の2mLテストチューブ(内径9mm)に寒天電極用ゲル(1.5wt%アガロース、60mMCaCl2、15wt%Glycerol、10mM PIPES、pH7)を0.5mL加えた。このゲルの下部に金属製画鋲を刺し電極とした。これを実施例1のステンレス製の電極上に置いた。滴下溶液はプラスミドpUC19(115μg/mL)を使用した。電極付テストチューブに大腸菌JM109株の溶液50μLを加えた。これにpUC19を50μL滴下し、その後滅菌水50μL滴下した。この時、ステンレスチューブに−3kV印加した。その後、500μLの液体Amp−LB培地を加えた。攪拌後100μLを寒天Amp−LB培地に撒き、34℃で1日培養したところ、コロニーの形成が確認できた。アンピシリン耐性大腸菌が生成し、プラスミドが大腸菌へ入ったことが判明した。
【0027】
比較例1
滴下するときに電圧は印加しなかった以外は、実施例2と同様の実験を行った。滴下後、プレート上の大腸菌を白金耳で掻き取りアンピシリン50μg/mL入りLB培地2mLに懸濁し大腸菌溶液を作った。この大腸菌溶液10μLを採り、アンピシリン50μg/mL入りLB培地2mLに植菌し32℃で2日間培養した。また、同じく大腸菌溶液を10μL採り、アンピシリン50μg/mL入り1.5wt%寒天LB培地に塗布し、32℃で2日間培養した。液体培地、寒天培地ともに組み換え菌は確認されず、細胞にプラスミドは導入されなかった。
【0028】
比較例2
テストチューブに大腸菌JM109株の溶液50μLを加えた。これにpUC19を50μL、滅菌水を50μL、さらに500μLの液体Amp−LB培地を加えた。攪拌後そのうちの100μLを寒天Amp−LB培地に撒き、34℃で1日間培養したが、コロニーは形成されず、細胞にプラスミドは導入されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】細胞内に物質を導入する装置
【図2】単純化した細胞内に物質を導入する装置
【図3】チューブと高電圧発生装置の接続
【図4】細胞が接続したグランド電極
【図5】選択的に滴下する装置
【図6】無菌状態で処理するための装置
【図7】分離装置との接続1
【図8】分離装置との接続2
【図9】質量分析、分離装置との接続
【図10】細胞内に物質を導入する装置
【図11】電気泳動写真
【符号の説明】
【0030】
1:フィルター
2:ポンプ
3:サンプル導入口
4:チューブ
5:高電圧発生装置
6:グランド電極
7:導電体リボン
8:クリーンユニット
9:液滴
10:細胞
11:マスク
12:コリオメーター
13:電圧発生装置
14:異物混入を防ぐ装置
15:カラム
16:検出器
17:ガス
18:導入入り口
19:ガス
20:スキマー
21:質量分析器
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞へ効率的に物質を導入させる装置及び方法に関する。さらに詳しくは、電気的な力を利用して、細胞内に導入したい物質を担体等に担持させることなく溶液状態のままで直接細胞内に導入することを可能にする装置及び方法であって、特定範囲の電圧に印加できるノズル状のチューブを有することを特徴とする装置、及び該装置を用いた物質の細胞内導入方法に関する。
細胞内に、DNAやRNA等の遺伝子情報を担った物質や、酵素等の蛋白、医薬品等の化学物質を導入する装置及び方法は、遺伝子治療や癌細胞のターゲティング療法等の臨床場面や基礎医学研究の場面で有用な技術手段となる。また、医学外の広範な応用生物学的な場面でも有用な手段となる。
【背景技術】
【0002】
細胞内に物質を導入する方法、特にDNAやRNA等の遺伝情報物質を細胞内に導入して行う遺伝子操作技術には多くの方法や装置が開発されている。
ペプチドグルカンやセルロース等を含む細胞壁を有する細菌類や酵母ではコンピテントセルがよく使用される。これは物質を取り込みやすい細胞にして熱ショック等で取り込ませる方法である。しかし、この方法ではこの細胞を作るために培養条件を厳密に制御し、また、凍結処理や金属イオンを含む溶液で細胞を処理しなければならない。そのために多くの手間と時間が必要である。また、特定のコロニーに直接物質を導入することができない。
動物細胞では最近、カチオン性ポリマーやリポソーム等の試薬を利用して細胞内へ物質を入れる方法が提案されている。しかし、試薬と細胞を混合する際、非常に煩雑な操作が必要であり、かつ厳密な操作が求められる。また、これらの試薬は用量によっては細胞に致死的に働く場合があり、使用範囲が限定され、使用濃度の最適化に多くの労力を要することがある。さらに、細胞壁のある細胞には導入しにくい。
これら以外にウイルスを利用して細胞に物質を導入する方法がある。しかし、ウイルスを使用する場合には煩雑な精製操作を取らなければならず、ウイルスであるために意図していない組織に物質が導入される危険がある。また、ウイルスであるため、バイオハザードの危険性も考慮する必要がある。
【0003】
細胞内へ物質を入れる装置を用いる方法としてよく知られているものにエレクトロポレーションがある(例えば、特許文献1参照)。この方法は遺伝子と細胞の懸濁した溶液に高電圧をパルス状にかけ、溶液中に含まれる遺伝子を細胞内に取り込ませる方法である。この方法は適用範囲が広く遺伝子導入効率が高い方法である。しかし、遺伝子の導入効率と細胞の致死率との間に比例関係があるため、細胞の致死と無関係に導入することができない。すなわち、パルス条件が不適切であると細胞内に目的とする物質が導入され難いだけではなく、細胞が死んでしまう欠点がある。また、トーイングといわれる溶液内への放電を防ぐため、細胞懸濁溶液の伝導度を下げなければならない。そのため遠心分離等を用いて細胞を分離し洗浄する操作が必要であり、またその操作の際に細胞が死んでいく可能性がある。さらに、パルス高電圧発生装置が高価であるという欠点も有する。
【0004】
また、細胞内へ物質を入れる方法としてパーティクルガンがある(例えば、特許文献2参照)。この方法は遺伝子を付着した金、タングステンのような微粒子を細胞に打ち込む方法である。微粒子により全体の質量を増加させ高いエネルギーで細胞に衝突させることで細胞膜や細胞壁を通過させる。
この方法は細胞膜のみでなく、細胞壁を通過でき、そのため細胞壁を有する植物等に多用されている。しかし、この方法は遺伝子を微粒子等に付着させる操作が必要であるほか、使用する微粒子、圧力開放のための破裂板等の消耗品が高価である欠点がある。さらに、微粒子を打ち込むためにプラズマ爆発や火薬、ボンベガスを使用するために装置が大掛かりになる欠点がある。また、ガスの勢いで細胞が飛散する危険がある。さらに、パーティクルが細胞内に残存するため細胞へのダメージが生じやすく、繰り返し打ち込むとパーティクルが細胞内に蓄積する欠点がある。特に遺伝子治療のような場面では、細胞内に微粒子が残存蓄積することは細胞致死の可能性が高まる点で好ましくない。また、使用する微粒子のサイズが0.5〜3μmであるため、植物や動物のような10〜100μmと比較的大型な細胞の場合は問題になりにくいが、細菌類のように1μm前後の微少な細胞の場合、適用するのが非常に困難である。
さらにこのパーティクルガンの一つとしてキャピラリーの先端から微粒子の懸濁液に高電圧を印加し、エレクトロスプレー状態にして細胞にスプレーする方法がある(例えば、特許文献3参照)。この方法は固体懸濁液を使用するためキャピラリーの先端に微粒子等による詰まりが生じる欠点がある。また、通常のパーティクルガンと同様に固体が細胞内に残留する等の欠点がある。
このような技術的事情背景から、細胞内導入物質をパーティクル等の担体に担持させる必要がなく、物質溶液のまま細胞中へ効率的に物質を注入できる装置及び方法の提供が望まれて来た。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4945050号明細書
【特許文献2】特許第2606856号公報
【特許文献3】米国特許第6093557号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細胞内導入物質をパーティクル等の担体に担持させることなく、溶液状態のまま細胞内に導入する装置及び方法を提供するものであり、特にDNAやRNA等の分子量の多い遺伝情報物質を細胞内へ導入するうえで有用な手段となる。また、担体微粒子を使用しないことから、使用した微粒子担体が細胞内に残らないうえ、対象とする細胞の大きさに関係なく適用できる。また、さらには高価なパルス高電圧発生装置を必要としないという利点も有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決できる細胞内への物質導入装置及び方法について鋭意検討した。その結果、高電圧に印加した物質溶液をチューブ先端から細胞に滴下して細胞に物質を導入する装置及び方法からなる本発明を完成するに至った。即ち本発明は、以下の(1)〜(12)に示す、電気的に物質を細胞内に導入する装置及び方法に関するものである。
(1)細胞内導入物質を含む溶液に電圧を印加した状態で、該溶液をチューブ先端から細胞に滴下し、細胞内に物質を導入する装置。
(2)細胞内導入物質を含む溶液と細胞間の電位差が0.5kVから100kVとなるように該溶液を印加する機構を有する、(1)に記載の装置。
(3)細胞内導入物質を含む溶液と細胞間の電位差がプラス又はマイナスとなるように該溶液を印加する機構を有する、(2)に記載の装置。
(4)チューブ先端の内径が0.01μmから10mmである、(1)に記載の装置。
(5)細胞内導入物質を含む溶液の分離精製を行う機構を有する、(1)〜(4)の何れかに記載の装置。
(6)細胞内導入物質を含む溶液の質量分析を行う機構を有する、(1)〜(5)の何れかに記載の装置。
(7)細胞内導入物質を含む溶液を無菌的に滴下できる機構を有する、(1)〜(6)の何れかに記載の装置。
(8)(1)〜(7)の何れかに記載の装置を用いて、細胞内導入物質を細胞内に導入する方法。
(9)細胞内導入物質がDNA, RNA, 蛋白、ペプチド、糖、脂質、薬物、標識剤、及びこれらの誘導体である、(8)に記載の方法。
(10)細胞が細胞壁に傷をつけるか細胞壁を除去したものである、(8)に記載の方法。
(11)細胞内導入物質を含む溶液が、細胞壁に傷をつけるか細胞壁を除去する物質を含むものである、(8)に記載の方法。
(12)(1)〜(7)に記載された装置又は(8)〜(12)に記載された方法によって細胞導入物質を細胞内に導入した細胞。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、導入したい物質を予め担体に担時させるような煩雑な前処理操作を施すことなく直接細胞に導入することができ、しかも、担体が細胞内に残留することもない。また、担体粒経による支配を受けないので、細菌のようなサブミクロンから数ミクロンの小さな細胞にも適用可能となる。
また、本発明の装置は高価なパルス高電圧発生装置や高価な金属微粒子や破裂板が必要でなく、1回あたりの処理費用が下がる、さらに溶液を取り扱うことから分離、精製、分析装置と複合化することができると言う効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の装置の構成を図1に示す。
装置はフィルター1とポンプ2が接続し、サンプル導入口3からチューブ4に接続している。チューブ4は高電圧ケーブルで高電圧発生装置(HV:High-Voltage Power Supply)5と接続している。さらに高電圧発生装置5のグランドは電極6と接続している。この電極にポリスチレン製シャーレが載っている。シャーレには培地とその上に細胞のコロニー10が存在している。ステンレス電極とシャーレ内部の培地はリボン状導電体7で接続されている。装置全体はクリーンユニット8内に設置してある。本発明の装置で必ず必要な構成はチューブ4と高電圧発生装置5である。細胞に導入する物質の溶液がサンプル導入口3から導入される。導入された溶液はポンプ2により、フィルター1を通過させる等して除菌した溶液又はガスを使ってチューブ4まで押し出される。チューブ4から滴下するときに高電圧発生装置5により溶液に電圧が印加される。これにより細胞に導入する物質の溶液が帯電した液滴9になる。グランド電極6に導電体7を通じて細胞はグランド電位になるため、高電圧に印加された溶液間に電位差がある。そのために滴下する溶液は細胞に向かって滴下される。このとき無菌操作になるようにクリーンユニット8が設けてある。
【0010】
さらに、単純化した本発明の装置構成を図2に示す。
装置はポンプ2、チューブ4、高電圧発生装置5、細胞が接続したグランド電極6で形成される。チューブ4と細胞が接続したグランド電極6は高電圧発生装置5に電線で接続し電位差が生じている。チューブ4から押し出された物質の溶液は高電圧発生装置により帯電した液滴9を形成し、細胞10がのった電極6に引かれて滴下される。
チューブ先端に印加する電圧は細胞との距離、チューブの大きさ、溶液流量、溶液性状等から最適値を求めて使用すれば良い。電圧で使用し易いのはチューブと細胞との電位差で0.5kVから100kV、より好ましくは1kVから20kVの範囲が望ましい。0.5kVより電圧が低いと細胞内への目的物質の導入効率が低下する。また、100kV以上高電圧にしても、物質の細胞内への導入効率に大きな差は認められず、逆に細胞を致死に至らしめる危険性が増し好ましくない。
帯電した液滴の電荷による反発力が溶液の表面張力を上回ると液滴が微細化するエレクトロスプレー状態になる。これは電圧、細胞との距離、チューブの大きさ、溶液流量、溶液性状等により形成され方が変化するが本発明の条件ではエレクトロスプレーになることが多い。本発明ではエレクトロスプレー状態になることはなんら問題がない。
【0011】
さらに装置の構造を具体的に説明する。高電圧発生装置は滴下する溶液と滴下される細胞との電位差で0.5kVから100kV発生の能力が必要である。また、安全性確保のためにアースを取ることが望ましい。また、短絡防止回路を有するものが好ましい。本発明で流れる電流量はわずかであり特に制限がない。最大でも1mAあれば十分である。高電圧発生装置5とチューブ4と細胞10がのった電極6は接続されている。接続は高電圧ケーブルで行えばよい。
滴下されるときに細胞に導入する物質の溶液に印加する電圧はプラス、マイナスどちらでもかまわない。本発明では、滴下が行われていれば放電を伴っていてもかまわないが、細胞障害が発生するような長時間にわたる放電は好ましくない。
【0012】
チューブの材料は金属、プラスチック、ガラス、セラミック等特に制限がない。ただし電気伝導性のない材料できたチューブを使用する場合には、溶液に接触する電極を備えたチューブや導電物質を表面にコーティングしたチューブを用いる必要がある。チューブの外径、長さについては特に制限がない。一方、チューブ出口の内径については液滴形成が必要であり、溶液の性質で変ってくるが0.01μmから10mmが好ましく、1μmから3mmの内径を有することがより好ましい。図3にチューブと高電圧発生装置の接続を模式的に示した。
Aに示す金属のような導電性材料をチューブに使用した場合は、チューブに電極を接続して内部に来る溶液に帯電することができる。Bはガラスのような絶縁体を使用したチューブの場合である。この場合、内部に金属のような導電性電極を入れ、溶液を帯電させる。Cは電極内部に導電対コートしてある場合でチューブ内部が高電圧発生装置と接続して溶液が帯電する。
チューブの形状はストレートだけでなく、テーパーを持つ形状でもよく、特に制限されない。また、チューブは二重管構造でもよく、溶液と共にガスを流しても良い。チューブは質量分析等で使用するエレクトロスプレー用を使用しても良い。さらに微量を流せるようにナノスプレーを使用しても良い。
チューブの先端は直角切りがよく、皮下注射に使用するような斜め切りは好ましくない。斜め切りは放電しやすく、安定的な滴下がしにくい。
滴下するためのチューブは最低1本あればよく、多数のチューブがあればより広く滴下できる。
【0013】
細胞側の電極は、チューブから滴下した溶液が細胞によくかかるようにされたものであれば特に制限はない。電極形状は円形、多角形、網目等どのような形でも問題がない。また、電極材料は金属、セラミック、プラスチック、ゲル、溶液どのような形態でも問題がない。電極はシャーレやテストチューブ等の細胞の入った容器内又はそこに滴下した溶液がかかる位置にあればよい。また、コロニー、組織、個体等の細胞集合体そのものが電極となるようにしても良い。前記した図1では金属電極上に細胞の入ったシャーレが置いてある。細胞へ溶液が効率よく滴下するためにはチューブと細胞間の電位差が好ましい範囲に取れるように接続しているのが好ましい。シャーレ等に入った細胞に滴下する場合はシャーレ内部の細胞が接触する溶液又はゲルが電極と接続していることが好ましい。細胞は溶液を均一に受けるために回転又は位置選択ができるようにステージに乗って移動してもなんら問題がない。
図4は細胞が接続したグランド電極をより具体的に示した図である。
Aはシャーレ内にゲル状培地を電極にしたもので、その上に成長したコロニー10に滴下する。シャーレ内のゲル状培地は高電圧発生装置5と接続され、滴下するチューブ4を通過する溶液との間に電位差が発生している。ゲル状培地への接続は使用するシャーレを導電物質(金属)にして接続するか、ゲル内にケーブルを差し込んで接続すればよい。Bはテストチューブの下部に電極を設け、上に細胞10の懸濁液がある。この細胞の懸濁液にチューブ4から滴下すればよい。滴下するチューブ4を通過する溶液とテストチューブに付いた電極間には電位差が発生するように高電圧発生装置5と接続すればよい。Cは生体10(又は臓器)に高電圧発生装置5が接続され、滴下するチューブ4を通過する溶液との間に電位差がある。これにより、滴下したい場所にチューブを近づけることで電位差により高速で溶液が滴下され、物質導入が期待できる。
【0014】
細胞に溶液が滴下する位置より前にマスク、レンズ、コリメーター機能を有する部品を置くことで溶液を滴下したい場所にのみ滴下できる。マスク機能としては有機高分子材料、金属、セラミックでできたスプレー範囲を決める板状(フィルム)部品が使用できる。また、レンズ、コリメーター機能としては帯電した金属マスク、誘電体マスク部品が使用できる。
図5は滴下するチューブと細胞が接続したグランド電極の間に選択的に滴下する液が落ちるようにした装置図である。
Aはマスク11が細胞の前にあり、開口している部分だけに滴下される。Bはコリオメーターとして電圧発生装置13によって帯電させた開口した導電体12を置いてある。ここには滴下するチューブと同じ極性の電位がかかっており、チューブから広がった液滴が集中して細胞に降りかかる。
【0015】
滴下する溶液を送るのに使用するポンプはチューブポンプ、シリンジポンプ、プランジャーポンプ等特に制限がない。また、溶液を滴下する場合、重力やサイホンを利用する場合は省略できる。また、高電圧を印加するため、溶液が電場に引かれてチューブから滴下することもあり、この時も省略できる。
【0016】
本発明において導入する物質は特に制限されない。細胞に取り込んで有効な物質は医薬品、農薬、抗菌剤、生体物質、金属イオン、標識試薬等が挙げられる。詳しく例を挙げるとDNA、RNA、 蛋白、ペプチド、糖、脂質、薬物、標識剤、及びこれらの誘導体等の生体高分子化合物を細胞内に非侵襲的に注入する方法として優れている。
さらに好ましくは導入する物質が遺伝情報を有する物質である。具体的にはDNA若しくはRNA、又はこれらの類似化合物、誘導体である。これらはプラスミド、ファージ、ウイルス、ウイロイド、オリゴDNA、オリゴRNA、マイクロRNA等の形態で提供される。塩基配列の大きさは特に断りがない。塩基は二本鎖、一本鎖どちらでもかまわない。
【0017】
本発明の方法により物質が細胞内へ導入される機構は明らかでないが以下のように予想している。チューブに高電圧が印加されることでチューブ先端から押し出される溶液は帯電する。これが反対の電位の細胞に向かって静電気力で引かれる。この力により速い速度で細胞にぶつかる事で細胞に物質を導入する。さらに帯電した溶液が静電的に反発して小さな液滴になるためにさらに細胞内へ透過しやすくなっている。また、細胞においては帯電液滴が衝突することで細胞内と外部で電界が不均衡になるために細胞の膜が物質を取り込みやすくなっている。このような機構を予想している。
【0018】
物質を含んだ溶液を滴下する際の雰囲気は空気、窒素、二酸化炭素、アルゴン、SF6等で、細胞に対する致死作用がなく爆発等の危険性を有さないガスであれば特に制限はない。空気、窒素は一般的で容易に使用できる。また、二酸化炭素、SF6は放電を生じにくく安定な滴下ができる。使用時の圧力は細胞が死なずに使用できれば特に制限がない。使用しやすいのは1から1Mpaの範囲で特に大気圧である。
滴下する際に他の菌の混入などの汚染を防ぐために無菌状態で行うことは非常に重要である。具体的には、滴下をケース内で行うか、若しくはクリーンユニット等を使用して行うことによって汚染を防止することができる。また、本方法によれば重力と逆方向に溶液を滴下することもできるので、滴下される細胞を上部に置いて落ちてくる汚染源の進入を防ぎながら操作を行うこともできる。
図6は無菌状態で処理するための装置の構造を示す。
AはHEPAフィルターのような清浄な環境をつくるクリーンユニット8を装置の上部に付け環境を清浄に保つ装置である。ユニットの位置は上部だけでなく側面に設置しても良い。この装置を使用することで異物混入を防止することができる。Bは細胞10を装置上部に設置することで落下してくる異物の混入を防ぐ装置14である。高電圧を印加しているのでチューブから溶液を上部の細胞に滴下することができる。
【0019】
本発明で使用する細胞は特に制限がなく、動物、植物、又は微生物の細胞何れでもよい。また、細胞だけでなく組織、臓器、生体であってもかまわない。また、卵、精子、花粉、胞子、種子のような生殖細胞類を対象にすることも当然可能である。
本発明では細胞壁を有する細胞にも適用できる。具体的には細菌、酵母、糸状菌、古細菌細胞、植物等である。これら細胞の細胞壁に傷をつけたもの、若しくは細胞壁を除去し原形質膜を露呈させたものを使用する、又は前記の状態をつくる物質共存で滴下する方法をとってもよい。具体的にはコンピテントセル、プロトプラストのような細胞壁を弱くした細胞であり、これらの細胞を作るためのCaイオン、Liイオン、Rbイオン、Csイオン、Mgイオン、Mnイオン、Znイオン等、又はセルラーゼ、ペクチナーゼ等を共存させてもよい。また、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリスペルミン、ポリリシン、ポリエチレングリコール等のポリマー、リポソーム、ミセル等の界面活性物質を共存させても良い。共存させる方法としてはこれら物質を滴下する細胞溶液内に予め添加するか、滴下段階で混合させる方法を適宜選択すればよい。
【0020】
本発明の特徴として、細胞内導入物質を溶液状態で取り扱うことが可能であるため導入する物質を予め分離装置を経由させ不純物を除去した後、連続的に供給することが可能になる。分離装置とはフィルター、液体クロマトグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー等の分離精製機能を有する装置である。また、分離精製後の送液ラインに検出器を設置して、溶液がチューブ先端に届くまでの間に検出器で溶液中に含まれる物質の種類及び量を確認することができる。設置する検出器の例としては液体クロマトグラフィーでよく、検出方法としてはRI、UV、 電気伝導度が使用できる。また、これ以外にNMR,IR、 ボルタンメトリー、クーロメトリー、蛍光分析、X線回折等の溶液分析で使用される各種の機器及び手法も適用できる。
図7、図8は分離装置と接続を示した模式図である。
フィルター1からの溶離液がポンプ2によって送られる。分離したいサンプルはサンプル注入口3より入れられ、カラム15で分離され、その後チューブ4に導入される。この時、チューブ4は高電圧発生装置5に接続していて細胞10との間に電位差が生じている。図8ではカラム15から出たところで検出器16があり、物質組成をモニタリングしながらチューブ4に導入できる。
また、重力の落下等の力を利用する場合、ポンプ2を省略することができる。サンプル注入はオートサンプラーを利用して連続的に注入することもできる。また、それに対応して細胞を交換することもできる。
【0021】
さらに本発明では直接、質量分析装置に接続できる。大気圧下で滴下する場合、差動排気構造を有する質量分析装置が必要である。検出器は四重極、二重収束、飛行時間、FT−ICR等特に指定されない。また、イオントラップ、タンデム構造を有しMSn解析ができればさらに得られる情報が増える。
図9は質量分析装置との接続、分離装置との接続をした構造である。
フィルター1からの溶離液がポンプ2によって送られる。分離したいサンプルはサンプル注入口3より入れられ、カラム15で分離され、その後チューブ4に導入される。チューブ4は二重構造になっており外側との間隙にはガス17が流れている。この時、チューブ4は高電圧発生装置5に接続していて細胞10との間に電位差が生じている。また、必要に応じカラム15に続く検出器16で溶液組成をモニタリングしながらチューブ4に導入することができる。質量分析導入入り口18はキャピラリーでイオンを導入するがその入り口には乾燥ガス19が流れている。さらにスキマー20を通り質量分析部21に導入され、質量分析が行える。スキマー20は差動排気され減圧度を上げ、質量分析部に入る。なお、上記の構造は条件によっては省略できる部分がある。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例を以て本発明を詳しく示すが、これらの例によって本発明は限定されない。
実施例1
実験装置:実験に使用する装置図を図10に示す。
装置は0.2μmのフィルター1とチューブポンプ2が接続し、サンプル導入口3からステンレス製チューブ4に接続している。ステンレスチューブ4の内径は0.18mmである。チューブは高電圧ケーブルで高電圧発生装置5と接続している。さらに高電圧発生装置のグランドは一辺200mmの正方形ステンレス電極6と接続している。この電極の中央に直径90mmのポリスチレン製シャーレが載っている。シャーレには培地とその上に大腸菌のコロニー10が存在している。ステンレス電極とシャーレ内部の培地はリボン状のステンレス7で接続している。装置全体はクリーンユニット8内に設置してある。
滴下する対象は直径9cmのポリスチレン製シャーレに入れた1.5wt%アガロースで固めたLB培地上にE.Coli JM109株を34℃で一晩培養してコンフリューエントにしたものを対象とした。この時培地の電位はグランド電位になるようステンレスリボン7を用いてシャーレ端で接続した。
【0023】
実施例2
実験装置は実施例1の装置を使用した。細胞は直径9cmのポリスチレン製シャーレに入れた1.5wt%アガロースで固めたLB培地上にE.Coli JM109株を34℃で一晩培養してコンフリューエントにしたものを対象とした。
滴下溶液はプラスミドpUC19(アンピシリン耐性遺伝子2686bp)42μg/mL TE buffer(pH8)を使用した。この溶液をサンプル注入口から100μL入れた。ポンプから空気によって溶液はステンレスチューブに80mg/minの速度で導入した。プラスミドDNAの総スプレー量は4.2μgであった。
ステンレスチューブ先端は高さ25mm(寒天培地の厚みは約5mm)から細胞に滴下した。この時、ステンレスチューブには−20kVで印加した。溶液はチューブ先端でテイラーコーンを形成し、エレクトロスプレー状態であった。この時電流は検出限界以下(10μA以下)であった。溶液滴下後、大腸菌プレートにアンピシリン(Ampiciline)50μg/mL入りLB培地2mL入れ白金耳で攪拌し、大腸菌溶液を作った。この大腸菌溶液10μLを採り、アンピシリン50μg/mL入りLB培地2mLに入れ、32℃で2日培養したところ大腸菌の増殖が見られた。このように、本発明の方法を講じることによってアンピシリン耐性を獲得した大腸菌が生成し、プラスミドが大腸菌へ入ったことが判明した。
【0024】
実施例3
ステンレスチューブをグランドとして−20kVを大腸菌プレート側に印加した以外は、実施例2と同様に実験をした。
液が滴下されると同時に火花放電が起き、電圧が数kV範囲で低下した。溶液はエレクトロスプレー状態であった。溶液滴下後、大腸菌プレートにアンピシリン50μg/mL入りLB培地2mL入れ白金耳で攪拌し、大腸菌溶液を作った。この大腸菌溶液100μLを採り、アンピシリン50μg/mL入り1.5wt%寒天LB培地に塗布して、32℃で2日培養した。アンピシリン耐性大腸菌のコロニー形成が確認でき、プラスミドが大腸菌へ入ったことが判明した。
【0025】
実施例4
実施例2及び3のアンピシリン耐性菌を培養して菌体を得、これをキアゲン社製プラスミド精製キットQIAprep Spin Miniprepを使用してプラスミドDNAを取り出した。同様にしてE.Coli JM109株をLB培地で培養した菌体もプラスミド精製キットにかけた。これらを電気泳動により相同性の確認を行った。
図11はエチジウムブロマイドで処理してUVで発光させた電気泳動の写真である。
一番左端はプラスミドpUC19である。レーンaは実施例2で得たアンピシリン耐性菌の、レーンbは実施例3で得たアンピシリン耐性菌の電気泳動像である。右端はJM109株である。実施例2,3のアンピシリン耐性株はpUC19と同じ位置にバンドが確認でき、プラスミドDNAが取り込まれていた。実験に使用したJM109株にはプラスミドのバンドが現れなかった。このように電気泳動的にもプラスミドの取り込みが確認された。
【0026】
実施例5
ポリプロピレン製の2mLテストチューブ(内径9mm)に寒天電極用ゲル(1.5wt%アガロース、60mMCaCl2、15wt%Glycerol、10mM PIPES、pH7)を0.5mL加えた。このゲルの下部に金属製画鋲を刺し電極とした。これを実施例1のステンレス製の電極上に置いた。滴下溶液はプラスミドpUC19(115μg/mL)を使用した。電極付テストチューブに大腸菌JM109株の溶液50μLを加えた。これにpUC19を50μL滴下し、その後滅菌水50μL滴下した。この時、ステンレスチューブに−3kV印加した。その後、500μLの液体Amp−LB培地を加えた。攪拌後100μLを寒天Amp−LB培地に撒き、34℃で1日培養したところ、コロニーの形成が確認できた。アンピシリン耐性大腸菌が生成し、プラスミドが大腸菌へ入ったことが判明した。
【0027】
比較例1
滴下するときに電圧は印加しなかった以外は、実施例2と同様の実験を行った。滴下後、プレート上の大腸菌を白金耳で掻き取りアンピシリン50μg/mL入りLB培地2mLに懸濁し大腸菌溶液を作った。この大腸菌溶液10μLを採り、アンピシリン50μg/mL入りLB培地2mLに植菌し32℃で2日間培養した。また、同じく大腸菌溶液を10μL採り、アンピシリン50μg/mL入り1.5wt%寒天LB培地に塗布し、32℃で2日間培養した。液体培地、寒天培地ともに組み換え菌は確認されず、細胞にプラスミドは導入されなかった。
【0028】
比較例2
テストチューブに大腸菌JM109株の溶液50μLを加えた。これにpUC19を50μL、滅菌水を50μL、さらに500μLの液体Amp−LB培地を加えた。攪拌後そのうちの100μLを寒天Amp−LB培地に撒き、34℃で1日間培養したが、コロニーは形成されず、細胞にプラスミドは導入されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】細胞内に物質を導入する装置
【図2】単純化した細胞内に物質を導入する装置
【図3】チューブと高電圧発生装置の接続
【図4】細胞が接続したグランド電極
【図5】選択的に滴下する装置
【図6】無菌状態で処理するための装置
【図7】分離装置との接続1
【図8】分離装置との接続2
【図9】質量分析、分離装置との接続
【図10】細胞内に物質を導入する装置
【図11】電気泳動写真
【符号の説明】
【0030】
1:フィルター
2:ポンプ
3:サンプル導入口
4:チューブ
5:高電圧発生装置
6:グランド電極
7:導電体リボン
8:クリーンユニット
9:液滴
10:細胞
11:マスク
12:コリオメーター
13:電圧発生装置
14:異物混入を防ぐ装置
15:カラム
16:検出器
17:ガス
18:導入入り口
19:ガス
20:スキマー
21:質量分析器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内導入物質を含む溶液に電圧を印加した状態で、該溶液をチューブ先端から細胞に滴下し、細胞内に物質を導入する装置。
【請求項2】
細胞内導入物質を含む溶液と細胞間の電位差が0.5kVから100kVとなるように該溶液を印加する機構を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
細胞内導入物質を含む溶液と細胞間の電位差がプラス又はマイナスとなるように該溶液を印加する機構を有する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
チューブ先端の内径が0.01μmから10mmである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
細胞内導入物質を含む溶液の分離精製を行う機構を有する、請求項1〜4の何れかに記載の装置。
【請求項6】
細胞内導入物質を含む溶液の質量分析を行う機構を有する、請求項1〜5の何れかに記載の装置。
【請求項7】
細胞内導入物質を含む溶液を無菌的に滴下できる機構を有する、請求項1〜6の何れかに記載の装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の装置を用いて、細胞内導入物質を細胞内に導入する方法。
【請求項9】
細胞内導入物質がDNA, RNA, 蛋白、ペプチド、糖、脂質、薬物、標識剤、及びこれらの誘導体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
細胞が細胞壁に傷をつけるか細胞壁を除去したものである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
細胞内導入物質を含む溶液が、細胞壁に傷をつけるか細胞壁を除去する物質を含むものである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜7に記載された装置又は請求項8〜12に記載された方法によって細胞導入物質を細胞内に導入した細胞。
【請求項1】
細胞内導入物質を含む溶液に電圧を印加した状態で、該溶液をチューブ先端から細胞に滴下し、細胞内に物質を導入する装置。
【請求項2】
細胞内導入物質を含む溶液と細胞間の電位差が0.5kVから100kVとなるように該溶液を印加する機構を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
細胞内導入物質を含む溶液と細胞間の電位差がプラス又はマイナスとなるように該溶液を印加する機構を有する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
チューブ先端の内径が0.01μmから10mmである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
細胞内導入物質を含む溶液の分離精製を行う機構を有する、請求項1〜4の何れかに記載の装置。
【請求項6】
細胞内導入物質を含む溶液の質量分析を行う機構を有する、請求項1〜5の何れかに記載の装置。
【請求項7】
細胞内導入物質を含む溶液を無菌的に滴下できる機構を有する、請求項1〜6の何れかに記載の装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の装置を用いて、細胞内導入物質を細胞内に導入する方法。
【請求項9】
細胞内導入物質がDNA, RNA, 蛋白、ペプチド、糖、脂質、薬物、標識剤、及びこれらの誘導体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
細胞が細胞壁に傷をつけるか細胞壁を除去したものである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
細胞内導入物質を含む溶液が、細胞壁に傷をつけるか細胞壁を除去する物質を含むものである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜7に記載された装置又は請求項8〜12に記載された方法によって細胞導入物質を細胞内に導入した細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−174720(P2006−174720A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368771(P2004−368771)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】
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