説明

電気自動車急速充電用ケーブルユニット

【課題】大電流通電に対応可能でありながら、取り扱い性が良好な電気自動車急速充電用ケーブルユニットを提供する。
【解決手段】両端が密封されて内部に密閉空間が設けられたコルゲートチューブ、前記両端の密封された部分を貫通する複数の絶縁電線、前記密閉空間の前記複数の被覆電線を互いに平行に束ねる集束材、前記密閉空間に冷却用冷媒を導入する冷媒導入口、及び、前記密閉空間に導入された前記冷却用冷媒を排出する冷媒排出口が、設けられている電気自動車急速充電用ケーブルユニットであって、前記絶縁電線の少なくとも一部が、導体周囲に塩化ビニル系熱可塑性エラストマーからなる下層絶縁体層とポリ四ふっ化エチレンからなる上層絶縁体層とが順次積層されて構成された絶縁線心であることを特徴とする電気自動車急速充電用ケーブルユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の充電の際に用いる、電気自動車急速充電用ケーブルユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電気自動車用急速充電器に取り付けられているケーブルは、通常、耐熱ビニールケーブルであり、その要求仕様電流値は一般的に150Aとなっている。このようなケーブルは特開平10−112349号公報(特許文献1)、あるいは、特開平10−108376号公報(特許文献2)で提案されている。
【0003】
ここで、従来の一般的な急速充電ケーブルの構造を図3に示す。この急速充電ケーブルは、軟銅可とう集合より線導体からなる導体12aの周囲に塩化ビニル樹脂からなる絶縁層12bが設けられてなる動力線12(この例では2本)と、この例では複数の、軟銅可とう集合より線導体からなる導体の周囲に塩化ビニル樹脂からなる絶縁層が設けられてなる各種信号伝達用の絶縁線心を撚り合わせたものを、さらに撚り合わせ、ポリプロピレン製の介在糸16を線心とともに撚り合わせ、不織布からなる押さえ巻きテープ17を巻いてケーブル断面形状を円形になるように整え、最外層として耐熱耐油性を有し柔軟な塩化ビニル樹脂からなるシースを設けて形成されている。
【0004】
そして、急速充電ケーブルは上述のような大電流に対応するために、太く、重く、かつ、非常に曲げにくく、取り扱いが困難なものであった。
【0005】
現在、世界的な温暖化による環境問題、石油枯渇に起因するエネルギー問題、加えて、昨今の経済危機から電気自動車のニーズが急激に高まっており、各自動車メーカーも市場を見据えて数年後の市販化の実現にむけて技術開発を加速させている。このような状況に鑑みて、急速充電器の設置と云うインフラストラクチャー整備も急ピッチで推進しなければならないが、現状の急速充電器用ケーブルは、上述の欠点を抱えており、高齢者や女性、子供或いは一部の障害者には容易に操作できないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−112349号公報
【特許文献2】特開平10−108376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、大電流通電に対応可能でありながら、取り扱い性が良好な電気自動車急速充電用ケーブルユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気自動車急速充電用ケーブルユニットは上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、両端が密封されて内部に密閉空間が設けられたコルゲートチューブ、前記両端の密封された部分を貫通する複数の絶縁電線、前記密閉空間の前記複数の被覆電線を互いに平行に束ねる集束材、前記密閉空間に冷却用冷媒を導入する冷媒導入口、及び、前記密閉空間に導入された前記冷却用冷媒を排出する冷媒排出口が、設けられている電気自動車急速充電用ケーブルユニットであって、前記絶縁電線の少なくとも一部が、導体周囲に塩化ビニル系熱可塑性エラストマーからなる下層絶縁体層とポリ四ふっ化エチレンからなる上層絶縁体層とが順次積層されて構成された絶縁線心であることを特徴とする電気自動車急速充電用ケーブルユニットである。
【0009】
また、本発明の電気自動車急速充電用ケーブルユニットは、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の電気自動車急速充電用ケーブルユニットにおいて、前記コルゲートチューブがポリウレタン系樹脂により構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の電気自動車急速充電用ケーブルユニットは、請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載の電気自動車急速充電用ケーブルユニットにおいて、前記冷媒導入口と前記冷媒排出口とが、前記コルゲートチューブの両端のうちの一方の端部に設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の電気自動車急速充電用ケーブルユニットは、請求項4に記載の通り、請求項3に記載の電気自動車急速充電用ケーブルユニットにおいて、前記冷媒導入口、または、冷媒排出口に、前記密閉空間の前記コルゲートチューブの両端のうちの他方の端部付近まで達する冷媒誘導管が接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気自動車急速充電用ケーブルユニットは冷媒供給装置と組み合わせることにより、大電流通電に対応可能でありながら、取り扱い性が良好な電気自動車急速充電用ケーブルユニットである。
【0013】
また、請求項2に記載の電気自動車急速充電用ケーブルユニットによれば、耐摩耗性、耐久性、取り扱い性が向上し、様々な冷媒を用いることができるようになる。
【0014】
また、請求項3に記載の電気自動車急速充電用ケーブルユニットによれば、冷媒供給装置との接続が容易となる。
【0015】
また、請求項4に記載の電気自動車急速充電用ケーブルユニットによれば、冷媒による冷却効果が確実に、かつ、より効果的に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明に係る電気自動車急速充電用ケーブルユニットAの中央部付近の状体を示すモデル図である。図1(a)断面図である。図1(b)部分切断説明図である。図1(c)動力用の絶縁線心の断面図である。
【図2】図2は本発明に係る電気自動車急速充電用ケーブルユニットAの両端付近の状態を説明する部分断面説明図である。
【図3】図3は従来の急速充電用ケーブルを説明するモデル図である。図3(a)断面図である。図3(b)部分切断説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電気自動車急速充電用ケーブルユニットについて、その一例Aを示したモデル図を用いて説明する。
【0018】
図1(a)は本発明の電気自動車急速充電用ケーブルユニットAの中央部分の断面図、図1(b)はその内部構成を示す部分切断説明図、図1(c)は用いる動力用の絶縁線心の断面図、図2は、本発明の電気自動車急速充電用ケーブルユニットの両端部付近の構造を示すモデル分解図である。
【0019】
両端のうち充電器側が充電器側キャップ1aと、コネクタ側がコネクタ側キャップ1bと、それぞれシリコーン系接着剤で接着されることで密封されて内部に密閉空間が設けられたコルゲートチューブ1の両端の密封された部分、すなわち充電器側キャップ1aとコネクタ側キャップ1bとを貫通する複数の絶縁電線として、2本の動力用の絶縁線心(動力線)2と、7本の各種信号伝達用の絶縁線心(信号線)3(押さえ巻きテープ4(ポリエステル系テープ)によって束ねられている)とが、管状の冷媒誘導管(ポリウレタン製)5a1とともに集束材(ガラス織維製の粗巻糸7)により互いにコルゲートチューブ1の内部空間内で平行になるように粗に束ねられており、また、この例では充電器側キャップ1aにこの密閉空間に冷却用冷媒を導入する冷媒導入口5aと密閉空間に導入されたこの冷却用冷媒を排出する冷媒排出口5bとが設けられている。管状の冷媒誘導管5a1の一端は冷媒導入口5aに接続され、他方は内部空間のコネクタ側キャップ1b付近に達している。図1(a)の6a及び6bは信号伝達用絶縁線心であり、上記絶縁電線とともに束ねられている。
【0020】
さらに動力用の絶縁線心は、図1(c)のモデル断面図に示されているように、導体2a周囲に、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)を主成分として構成される下層絶縁体層2bとポリ四ふっ化エチレンからなる、下層絶縁体層2bに比べ比較的薄い上層絶縁体層2cとが順次積層されて構成されている。
【0021】
このような構成において、塩化ビニル系熱可塑性エラストマーは低温環境(−20〜0℃程度)においてゴムと同等の柔軟性を有する。これにより、本発明で用いる動力用の絶縁線心は従来技術において用いられてきた塩化ビニル樹脂被覆絶縁線心と比較して可とう性が著しく向上する。さらにこの線心を撚りあわせず、上記のようにガラス繊維糸による粗巻のみで互いに平行に保ち、さらに、コルゲートチューブを用いて被覆電線(絶縁線心)保護させ、かつ、従来技術で用いられてきたシースによる被覆を施さないことにより、従来技術同等の保護性を得ながらケーブルとしての柔軟性も向上するので、取り扱い性は格段に向上する。
【0022】
さらに、コルゲートチューブ内の内部空間にポンプ等を用いて空気、水、または、各種冷媒を通し、例えば、コルゲートチューブ内と充電器側に設置された冷媒供給部(冷却冷媒供給部)との間で冷媒を循澤させることで、電気自動車の充電中(通電中)に絶縁線心を強割的に冷却させ、通電中の導体温度上昇を抑制させ、絶縁線心の許容電流値を拡大させることにより、一般電線・ケーブルの同一断面積の導体よりも大電漉の通電が可能となるので、従来技術より軽量な線心を用いることで安全性を犠牲にすることなく軽量化が可能となる。
【0023】
ここで、冷媒導入口5aと前記冷媒排出口5bはそれぞれ他端が上記内部空間内に開口する2つの配管の一端であり、この例ではともに充電器側に設けられ、冷媒導入口5aを有する配管である冷媒誘導管5a1の他端5a2は上記内部空間のコレクタ側端付近に開口しており、また、冷媒排出口5bとなっている配管の図示しない他端は上記バイブ空間の充電器側端付近に開口している。このため冷媒導入口5aから導入される冷媒は冷媒誘導管5a1により上記内部空間のコネクタ側端まで誘導された後、絶縁線心の被覆層に接触しながら上記内部空間の充電器側端に達した後に冷媒排出口5bから排出されるようになっているために、高い冷却効率が得られるので、より動力用の絶縁線心はより大きい電流を流すことができるようになる。
【0024】
さらに、動力用の絶縁線心に水などの冷媒が直接接触することを考慮し、塩化ビニル系熱可塑性エラストマーを主成分として構成される下層絶縁体層2bの外周に、吸水性が著しく低くかつ耐薬品性の高いポリ四ふっ化エチレンからなる薄膜(厚さが好ましくは0.1〜0.2μm)の上層絶縁体層2cを被覆することにより、冷媒による事故発生を未然に防止することができるとともに、冷媒の選択肢を広げることができる。ここで、冷媒としては冷却器で冷却された水、工業用水などを用いてもよい。ここで、実際の通電時の内部の導体の温度が25℃以下で、かつ、排出される冷媒温度が30℃以下となるように冷却条件を設定することが必要である。
【0025】
ここで、上記のようにポリ四ふっ化エチレンからなる薄膜を最外装に設けることにより、他の絶縁電線との摩擦力が小さくなるので、ケーブル全体の可とう性も向上する。
【0026】
また、外部への冷媒漏れも考慮し、コルゲートチューブ1は耐摩耗性が高く、可とう性が良好で、かつ、耐薬品性に優れるポリウしタン系樹脂を主成分として構成されることが好ましい。
【0027】
このような電気自動車急速充電用ケーブルユニットは、例えば、必要な長さに切断したコルゲートチューブ内に所定長さ、所定種類、所定本数の絶縁線心、冷媒誘導管を通した後、両端に必要な電線、冷媒誘導管に対応した貫通孔を設けたキャップをし、接着剤を用いて密閉することで、容易に作製することができる。
【0028】
さらに、本発明によれば、従来技術で多量に必要であった介在テープや巻きテープが不要になり、またケーブル製造時にユニット化することにより、すなわち、ケーブル束体を1つに部品化することにより充電器製造時の各種ケーブルロスを削減することができる。
【0029】
ここで、図3にモデル的に示した従来技術のケーブル(軟銅可とう複合より線導体を用いる)で、直流500Vで150Aの電流を流す場合には動力用絶縁線心では計算上、断面積が40mm2の導体を用いることが必要であり、このときの導体の外径は9.0mm、重量は352g/mであり、導体温度は60℃(計算値)であるが、本発明によれば、同条件で18±2℃の冷却水を用いることにより断面積が20mm2の導体を用いれば良く、このときの導体の太さは2.5mm細い6.5mmで充分であり、そのときの導体重量は従来技術に係るケーブルの導体より168g/m軽い184g/mであり、導体温度は25℃(計算値)である。
【0030】
そして、実際に、上記のように20mm2の導体を用い本発明に係る電気自動車急速充電用ケーブルユニット(長さ3m)を作製し、冷媒として高純度水(純水)、冷媒導入口温度17〜21℃、流量100mm3/分の条件で、直流500Vで150Aの電流を流したところ、溶媒の排出口温度が28〜30℃、導体温度は20〜25℃と、上記計算値同様の結果が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0031】
1 コルゲートチューブ
1a 充電器側キャップ
1b コネクタ側キャップ
2 絶縁線心(動力線)
2a 導体
2b 下層絶縁体層
2c 上層絶縁体層
3 絶縁線心(信号線)
4 押さえ巻きテープ
5a 冷媒導入口
5a1 冷媒誘導管
7 粗巻糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が密封されて内部に密閉空間が設けられたコルゲートチューブ、前記両端の密封された部分を貫通する複数の絶縁電線、前記密閉空間の前記複数の被覆電線を互いに平行に束ねる集束材、前記密閉空間に冷却用冷媒を導入する冷媒導入口、及び、前記密閉空間に導入された前記冷却用冷媒を排出する冷媒排出口が、設けられている電気自動車急速充電用ケーブルユニットであって、
前記絶縁電線の少なくとも一部が、導体周囲に塩化ビニル系熱可塑性エラストマーからなる下層絶縁体層とポリ四ふっ化エチレンからなる上層絶縁体層とが順次積層されて構成された絶縁線心である
ことを特徴とする電気自動車急速充電用ケーブルユニット。
【請求項2】
前記コルゲートチューブがポリウレタン系樹脂により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車急速充電用ケーブルユニット。
【請求項3】
前記冷媒導入口と前記冷媒排出口とが、前記コルゲートチューブの両端のうちの一方の端部に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気自動車急速充電用ケーブルユニット。
【請求項4】
前記冷媒導入口、または、冷媒排出口に、前記密閉空間の前記コルゲートチューブの両端のうちの他方の端部付近まで達する冷媒誘導管が接続されていることを特徴とする請求項3に記載の電気自動車急速充電用ケーブルユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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