説明

電気防食用電極及びコンクリート構造物の施工方法

【課題】施工工程の複雑化及び施工期間の長期化を招くことなく、電気防食用電極と鉄筋との電気的な短絡を防止する。
【解決手段】電気防食用電極Aの構成として、電気防食用金属材料から形成された板状の電極部材1と、前記電極部材1を覆うように形成された可撓性及び絶縁性を有する保護部材2とを具備し、前記保護部材2の表面には前記電極部材まで貫通する複数の孔3が形成されている、という構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気防食用電極及びコンクリート構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来におけるコンクリート構造物の施工方法としては、図4に示すように、基礎スラブコンクリートの打設前に、捨てコンクリート10上に電気防食用のMMO(Mixed Metal Oxide:複合金属酸化物)アノード電極11を敷設し、その上部にスラブ鉄筋12を組み立て、スラブ鉄筋12とMMOアノード電極11との電気的な短絡が無いことを確認した後、基礎スラブコンクリートを打設するという施工方法が知られている。
【0003】
一般的なMMOアノード電極11は、チタン等の非消耗金属を主成分とするMMO細線をメッシュ状に織り込んで薄板状に形成したものであることが多い。電気防食とは、このようなMMOアノード電極11に正極性の電圧を印加すると共に、スラブ鉄筋12に負極性の電圧を印加して、MMOアノード電極11とスラブ鉄筋12との間に電位差を生じさせることにより、スラブ鉄筋12の腐食を防止する技術である。
【0004】
MMOアノード電極11とスラブ鉄筋12との間の距離(ギャップ)は、両者間に生じさせる電位差やコンクリートの成分等に応じて理論的に導出することが可能であり、施工時においては、予め理論的に求めておいたギャップを目標として、MMOアノード電極11上の所定位置にスラブ鉄筋12を組み立てることになる。この時、図4に示すように、スラブ鉄筋12同士を結束する番線13がMMOアノード電極11に接触しただけで、スラブ鉄筋12とMMOアノード電極11との電気的な短絡が生じてしまい、その原因特定に大きな労力と時間を費やすことになるため、スラブ鉄筋12の組み立てには細心の注意を払う必要がある。
【0005】
これに対し、例えば下記特許文献1には、鉄筋コンクリート部材の表面を覆うように絶縁性材料からなる網状部材を取り付け、当該網状部材に電気防食用の陽極を重ねて取り付け、さらに、上記網状部材及び陽極を埋め込むと共に鉄筋コンクリート部材の表面と付着するように被覆層を形成することで、鉄筋と電気防食用の陽極との電気的な短絡を防ぐ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−206953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の技術では、コンクリート構造物の施工工程として、網状部材の取り付け工程及び被覆層の形成工程を新たに追加する必要があるため、施工工程の複雑化及び施工期間の長期化を招く虞がある。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、施工工程の複雑化及び施工期間の長期化を招くことなく、電気防食用電極と鉄筋との電気的な短絡を容易に防止することが可能な電気防食用電極及びコンクリート構造物の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、電気防食用電極に係る第1の解決手段として、電気防食用金属材料から形成された板状の電極部材と、前記電極部材を覆うように形成された可撓性及び絶縁性を有する保護部材とを具備し、前記保護部材の表面には前記電極部材まで貫通する複数の孔が形成されていることを特徴とする。
また、本発明では、電気防食用電極に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記保護材の内部は層構造となっており、前記電極部材に接する層の表面には前記電極部材まで貫通する複数の孔が形成され、他の層の表面には下層まで貫通し且つ下層表面に形成された孔と重ならないように複数の孔が形成されていることを特徴とする。
また、本発明では、電気防食用電極に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記電気防食用金属材料は、チタンを主成分とする複合金属酸化物であることを特徴とする。
【0010】
一方、本発明では、コンクリート構造物の施工方法に係る第1の解決手段として、下層側コンクリート上に上記第1〜第3のいずれかの解決手段を有する電気防食用電極を敷設する第1の工程と、前記電気防食用電極の敷設後に鉄筋を組み立てる第2の工程と、前記鉄筋の組み立て後に上層側コンクリートを打設する第3の工程とを含むことを特徴とする。
また、本発明では、コンクリート構造物の施工方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記下層側コンクリートは捨てコンクリートであり、前記鉄筋はスラブ鉄筋であり、前記上層側コンクリートは基礎スラブコンクリートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電気防食用電極は、電気防食用金属材料から形成された電極部材を可撓性及び絶縁性を有する保護部材によって覆うという構成を採用している。このような構成の電気防食用電極をコンクリート構造物の施工時に使用することで、番線と電極部材との接触、つまり鉄筋と電極部材との電気的な短絡を防止することができる。この時、本発明に係る電気防食用電極を従来と同様に下層側コンクリート上に敷設するだけで良いので、特別な工程を追加する必要はなく、その結果、施工工程の複雑化及び施工期間の長期化を招くことなく、電気防食用電極と鉄筋との電気的な短絡を容易に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態における電気防食用電極Aの構成概略図である。
【図2】本実施形態におけるコンクリート構造物の施工方法の各工程を表す模式図である。
【図3】本変形例における電気防食用電極Bの構成概略図である。
【図4】従来におけるコンクリート構造物の施工方法を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における電気防食用電極Aの構成概略図である。この図1に示すように、本実施形態における電気防食用電極Aは、MMOアノード電極部材1及び保護部材2から構成されている。
【0014】
MMOアノード電極部材1は、電気防食用金属材料として例えばチタン等の非消耗金属を主成分とするMMO細線をメッシュ状に織り込んで薄板状に形成された電極部材である。なお、このMMOアノード電極部材1としては、上記のように、チタン等の非消耗金属を主成分とするMMO細線をメッシュ状に織り込んで薄板状に形成したものを使用しても良いし、MMOそのものを薄板状に形成したものを使用しても良い。また、電気防食用金属材料としては、チタン等の非消耗金属を主成分とするMMOだけでなく、被防食物である鉄筋(鉄)より自然電位が高ければ、ニッケル、鉛、錫、銅、銀、金、白金など及びこれらの合金材を使用しても良い。
【0015】
保護部材2は、MMOアノード電極部材1を覆うように形成された、例えばゴム或いはビニール等の可撓性及び絶縁性を有する部材である。この保護部材2の厚さは、必要な機械的強度に応じて適宜設定すれば良い。例えば、保護部材2としてポリ塩化ビニールを用いる場合、1mm以上の厚さに設定すれば機械的強度としては十分である。ただし、必要な柔軟性が損なわれない範囲で厚さを設定する必要がある。
【0016】
また、この保護部材2の表面には、図1に示すように、MMOアノード電極部材1までまで貫通する複数の孔3が形成されている。これらの孔3は、MMOアノード電極部材1から被防食体であるスラブ鉄筋12(後述の図2参照)に対して電位を与えるために設けられたものである。孔3の数を多くし過ぎると、スラブ鉄筋12の組み立て作業中、或いは基礎スラブコンクリート14(後述の図2参照)の打設作業中に番線13が孔3に侵入してMMOアノード電極部材1と接触する、つまりスラブ鉄筋12とMMOアノード電極部材1とが電気的に短絡する虞がある。そのため、保護部材2の表面の開口率が50%程度となるように孔3の数を設定することが好ましい。
【0017】
以上が本実施形態における電気防食用電極Aの構成に関する説明であり、以下ではこの電気防食用電極Aを用いたコンクリート構造物の施工方法について、図2を参照しながら具体的に説明する。
【0018】
図2は、本実施形態におけるコンクリート構造物の施工方法の各工程を表す模式図である。この図2において、図4と共通する部分には同一符号を付すものとする。まず、コンクリート構造物の施工方法における第1の工程として、図2(a)に示すように、下層側コンクリートとして予め打設された捨てコンクリート10上に、図1に示した電気防食用電極Aを敷設する。
【0019】
続いて、コンクリート構造物の施工方法における第2の工程として、図2(b)に示すように、電気防食用電極Aの敷設後に、予め理論的に求めておいたMMOアノード電極部材1とスラブ鉄筋12との間の距離(ギャップ)を目標として、電気防食用電極A上の所定位置にスラブ鉄筋12を組み立てる。この時、図2(b)に示すように、番線13によるスラブ鉄筋12同士の結束作業が行われるが、MMOアノード電極部材1は保護部材2によって覆われているため、番線13がMMOアノード電極部材1に接触する、つまりスラブ鉄筋12とMMOアノード電極部材1とが電気的に短絡することを防止することができる。
【0020】
続いて、コンクリート構造物の施工方法における第3の工程として、図2(c)に示すように、スラブ鉄筋12の組み立て後に、上層側コンクリートとして基礎スラブコンクリート14を打設する。このように、本実施形態における電気防食用電極Aを使用することで、スラブ鉄筋12の組み立て作業中、或いは基礎スラブコンクリート14の打設作業中に、スラブ鉄筋12とMMOアノード電極部材1との電気的な短絡発生のリスクを完全に排除することができ、計画通りの費用と工程で残りの施工を続けることができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態では、MMOアノード電極部材1を可撓性及び絶縁性を有する保護部材2によって覆うという構成を採用した電気防食用電極Aを、コンクリート構造物の施工時に使用することで、番線13とMMOアノード電極部材1との接触、つまりスラブ鉄筋12とMMOアノード電極部材1との電気的な短絡を防止することができる。この時、本実施形態における電気防食用電極Aを従来と同様に捨てコンクリート10上に敷設するだけで良いので、特別な工程を追加する必要はなく、その結果、施工工程の複雑化及び施工期間の長期化を招くことなく、電気防食用電極A(MMOアノード電極部材1)とスラブ鉄筋12との電気的な短絡を容易に防止することが可能となる。
【0022】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、以下のような変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態では、捨てコンクリート10上に電気防食用電極Aを敷設し、その上部にスラブ鉄筋12を組み立てた後、基礎スラブコンクリート14を打設する場合を例示して説明したが、本発明はこれに限らず、下層側コンクリート上に電気防食用電極を敷設する場合に、その上部に組み立てられる鉄筋との電気的な短絡を防止する技術として広く利用することができる。
【0023】
(2)上記実施形態では、図1に示したように、保護部材2によってMMOアノード電極部材1を覆う構成を例示して説明したが、保護部材2の内部を層構造としても良い。図3は、保護部材2の内部を層構造(2層構造)とする電気防食用電極Bの構成概略図(断面図)である。この図3に示すように、本変形例における電気防食用電極Bでは、MMOアノード電極部材1に接する第1の層2aの表面にはMMOアノード電極部材1まで貫通する複数の第1の孔3aが形成され、第2の層2bの表面には下層(第1の層2a)まで貫通し且つ下層表面に形成された第1の孔3aと重ならないように複数の第2の孔3bが形成されている。なお、第1の層2a及び第2の層2b共に、表面の開口率が50%程度となるように第1の孔3a及び第2の孔3bの数を設定することが好ましい。
【0024】
このように保護部材2の内部を層構造とすることにより、スラブ鉄筋12の組み立て作業中、或いは基礎スラブコンクリート14の打設作業中に番線13がMMOアノード電極部材1と接触する可能性を低くすることができる。また、保護部材2の内部を3層構造、4層構造と多層構造にする程、番線13がMMOアノード電極部材1と接触する可能性をより低くすることができる。なお、保護部材2の内部を3層構造とした場合、各層表面の開口率が計算上66.6%程度となるように、各層に孔3を形成することで、番線13がMMOアノード電極部材1と接触することをほぼ100%の確率で防ぐことができる。
【符号の説明】
【0025】
A、B…電気防食用電極、1…MMOアノード電極部材(電極部材)、2…保護部材、3…孔、10…捨てコンクリート(下層側コンクリート)、12…スラブ鉄筋(鉄筋)、13…番線、14…基礎スラブコンクリート(上層側コンクリート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気防食用金属材料から形成された板状の電極部材と、
前記電極部材を覆うように形成された可撓性及び絶縁性を有する保護部材と、
を具備し、
前記保護部材の表面には前記電極部材まで貫通する複数の孔が形成されていることを特徴とする電気防食用電極。
【請求項2】
前記保護材の内部は層構造となっており、
前記電極部材に接する層の表面には前記電極部材まで貫通する複数の孔が形成され、
他の層の表面には下層まで貫通し且つ下層表面に形成された孔と重ならないように複数の孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気防食用電極。
【請求項3】
前記電気防食用金属材料は、チタンを主成分とする複合金属酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気防食用電極。
【請求項4】
下層側コンクリート上に請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気防食用電極を敷設する第1の工程と、
前記電気防食用電極の敷設後に鉄筋を組み立てる第2の工程と、
前記鉄筋の組み立て後に上層側コンクリートを打設する第3の工程と、
を含むことを特徴とするコンクリート構造物の施工方法。
【請求項5】
前記下層側コンクリートは捨てコンクリートであり、
前記鉄筋はスラブ鉄筋であり、
前記上層側コンクリートは基礎スラブコンクリートであることを特徴とする請求項4に記載のコンクリート構造物の施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−252186(P2011−252186A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124843(P2010−124843)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】