説明

電気音響変換器

【課題】本発明は音響機器や映像機器、情報通信機器に使用される電気音響変換器に関するものであり、薄型化可能な電気音響変換器を提供することを目的とするものである。
【解決手段】振動板16を形成する導電体20を箔状にし、絶縁部分18aおよび18bを設けることを特徴とするものであり、絶縁部分を有する導電体だけで振動板を形成することができ、導電体自身を振動板として機能させることができるため、従来のようなコイルを保持するための基材が不要となり薄型化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種音響機器や映像機器、情報通信機器に使用される電気音響変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気音響変換器は、これが搭載されるセットとして携帯電話やステレオセット、テレビ等の電子機器、さらには自動車等の移動装置に使用されることが多かった。
【0003】
これらの電子機器は、最近の市場動向として、小型化、薄型化が図られ、特に携帯電話等の情報通信分野では、カメラ機能搭載などの高機能化とともに、従来にない小型化、薄型化が要望されるようになってきた。
【0004】
このような市場動向を背景に、これら電子機器や装置に使用されている電気音響変換器について薄型化が強く求められている。
【0005】
従来の電気音響変換器の振動系は、電気信号を入力するボイスコイルと、このボイスコイルに結合され、ボイスコイルの振動の伝達を受け、この振動を音響変換する振動板とにより構成している。
【0006】
このため、この振動板とボイスコイルとは電気音響変換器を構成する上で必要不可欠の構成部品となっている。この電気音響変換器の薄型化を図るため、電気音響変換器の一種である図3に示すような平面スピーカーの構造が提案されている。
【0007】
図3は従来の平面スピーカーの構成を示し、図3(a)は(b)および(c)におけるC-C'面での断面図、(b)は(a)におけるZ-Z'面での断面図、(c)は振動板の平面図である。
【0008】
図3において101は鉄等からなり、一方を開放した箱型のヨークである。ヨーク101の周囲は非磁性体のポリカーボネイト等の樹脂材料からなるフレーム102によって囲まれている。
【0009】
103はヨーク101の片面にその磁軸が垂直になるように設置された永久磁石であり、この永久磁石103の上部には漏洩磁束の安定を目的に鉄等からなるプレート104が載置されている。ヨーク101と永久磁石103とプレート104とから磁気回路105を構成している。
【0010】
106はプレート104から所定距離だけ離して配置された振動板であり、柔軟性に富むウレタン等からなる支持部材107によって支持されており、これにより振動板106は上下にスムーズに振幅できるように構成されている。
【0011】
また、この振動板106は、絶縁性を有するポリイミド等のフィルム基材108の片面に、アルミニウムのワイヤー等を巻回することにより形成した渦巻状ボイスコイル109を接着固定して構成されている。
【0012】
このような構成により、渦巻状ボイスコイル109に図示した方向に電流が流れると、渦巻状ボイスコイル109は磁気回路105によって形成される漏洩磁界に影響を受けるため、すなわち図中のH方向の磁束に対し、フレミングの左手の法則により、Fの方向の電磁力を受けるため、振動板106は渦巻状ボイスコイル109に流れる電流によって上下に振動し、音が発生することになる。
【0013】
また、薄型化された振動板を備えた従来のスピーカーとして、前述した振動板とボイスコイルの機能を兼ねているリボン振動板を有するリボンスピーカーが提案されており、その構成を図4に示す。
【0014】
図4は従来のリボンスピーカーの構成を示し、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【0015】
図4において、201は鉄等からなるヨーク、202は振動板に対し水平方向に着磁された永久磁石、203は鉄等からなるプレートであり、ヨーク201と、永久磁石202と、プレート203とから磁気ギャップ207が形成されるように磁気回路204を構成している。205はアルミニウムなどの導体を薄箔としたリボン振動板であり、磁気ギャップ207内に配置され、保持部206によって支持されている。
【0016】
リボン振動板205は、図中矢印方向の電流が流れると磁気回路204によって発生するh方向の磁界に対し、フレミングの左手の法則によりf方向の電磁力を受ける。このような構成により、リボン振動板205に流れる電流によって上下に振動し、音が発生することになる。
【0017】
尚、これらの発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1、2が知られている。
【特許文献1】特開2001−333493号公報
【特許文献2】特開2000−308195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら前記従来の平面スピーカーでは薄型化するために、振動板を薄くしようとすると、構成上フィルムなどの基材の上にコイルを形成させる必要があるので、基材の分厚くなってしまうことになり、振動板の薄型化を図りにくいものであった。
【0019】
また、前記従来のリボンスピーカーにおいても音圧レベルを向上させるのに必要な振動板の大きさを確保するとそれ以上に大きな磁気回路が必要となるため、スピーカー全体の小型化、薄型化を図りにくいものであった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、本発明は特に、絶縁部分を設けた薄箔状の導電体を振動板として構成させるところに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は前記特徴構成により、絶縁部分を有する導電体だけで振動板を形成することができ、導電体自身を振動板として機能させることができるため、従来のようなコイルを保持するための基材が不要となり薄型化を図ることができる電気音響変換器を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の電気音響変換器の一種であるスピーカーについて図面を用いて説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明における実施の形態1のスピーカーの構成を示し、図1(a)は(b)および(c)におけるA-A'面での断面図、(b)は(a)におけるX-X'面での断面図、(c)は振動板の平面図、(d)は振動板の断面図の一部である。
【0024】
図1(a)において、11は鉄等からなるヨークであり、底板から2枚の板が上方に突出している。ヨーク11の周囲は非磁性体のポリカーボネイト等のフレーム12によって囲まれている。
【0025】
13はヨーク11の片面にその磁軸が垂直になるように設置された永久磁石であり、この永久磁石13の上部には漏洩磁束の安定を目的に鉄等からなるプレート14が載置されている。ヨーク11と永久磁石13とプレート14とから磁気回路15を構成している。
【0026】
なお、プレート14の長さ方向についての中心軸は永久磁石13の磁軸に対し図中右側にずらして配置しておく。このように構成することによって磁気回路15において漏洩磁束の方向が図中右方向の一方向に発生することとなる。
【0027】
16はプレート14から所定距離だけ離して配設された振動板であり、柔軟性に富むウレタン等からなる支持部材17によって支持されており、これにより振動板16は上下にスムーズに振幅できるように構成されている。
【0028】
また、図1(c)、(d)において、振動板16はアルミニウム等からなる薄箔状の導電体20にスリットを入れ、帯状を形成し、その導電体20をポリイミドなどの樹脂材料の液に浸漬させ、帯状の導電体20の周囲に絶縁部分18aおよび絶縁部分18bを設けたことを特徴としている。なお、絶縁部分18aの全長は振動板16の長さより短いものとすることで振動板16の両端部分19a,19bではそれぞれ、図1に示す横方向に電気的導通が保たれた状態となっている。
【0029】
振動板16の両端部分19a,19bをフレーム12上に固定することにより、音声電気信号を入力するターミナル(図示せず)として使用することができる。このとき振動板16の両端部分19a,19bのそれぞれとターミナルとの接続には金糸線等の柔軟性に富む導電体(図示せず)を用いることが好ましい。それにより振動板16と、フレーム12上に設けられたターミナルとの間に、振動板16の上下振幅を容易に確保することができるものである。
【0030】
このように構成された本実施の形態のスピーカーは以下のように動作するものである。すなわち、ヨーク11と永久磁石13とプレート14とによる磁気回路15によって図中H方向の磁界が発生している。この磁界中では図示する方向の電流に対し、フレミングの左手の法則により、F方向の電磁力を受けるため、振動板16は導電体20に流れる電流によって上下に振動し、音が発生することになる。
【0031】
従来平面スピーカーのような例においては、ボイスコイルとしての役割を果たす渦巻状ボイスコイル109を保持するためのフィルム基材108が必要であるが、本実施の形態によれば、薄箔状の導電体20にスリットを入れ、絶縁部分18a,18bを形成させることにより、ボイスコイルとして必要な自己インダクタンスを得ることができる。これにより、振動板16を導電体20だけで形成することができるようになり、従来スピーカーにおいてボイスコイルとしての役割を果たしている導電体20自身を振動板16として機能させることができるため、従来平面スピーカーのような渦巻状ボイスコイル109を保持するためのフィルム基材108が不要となり、薄型化を図ることができる。
【0032】
さらに、従来平面スピーカーの構成では、振動板106であるフィルム基材108と導電体である渦巻状ボイスコイル109との間には原理的に、接合における振動伝達ロスが発生することになり、また、渦巻状ボイスコイル109における重量増加やジュール発熱によって接着強度が低下することにより、接合ずれや剥離が発生することがあったが、本実施の形態によればフィルム基材108を必要としない構成であることから、接合ずれや剥離は発生しない。
【0033】
また、従来平面スピーカーは振動板106の軽量化を図るために、磁気回路105による磁界の発生領域に応じ渦巻状ボイスコイル109をフィルム基材108上に形成していたので、振幅によっては磁界領域を外れることで不安定な振動になる場合があったが、本実施の形態によれば、振動板16全体にわたり導電体20が存在するため、振動板16としての振動モードを安定化させることができる構成となっている。これにより振動板16における不要共振をなくし、音圧周波数特性や歪を良好化させることができる。
【0034】
また、本実施の形態によれば、従来平面スピーカーの構成に比べ、導電体20を隙間なく一様に配置することが可能となることから、導電体20を磁界中に、占積率高く、均一に配置することができ、変換効率向上と、ローリングが発生しない安定した上下振幅を得ることができる。よって、音圧レベルの向上と歪の低域を図ることができる。
【0035】
なお、本実施の形態において振動板16を形成している導電体20には箔状のアルミニウムを用いているが、これにより振動板16の軽量化を図ることができ、より高い周波数帯域再生に適したスピーカーとすることができる。一方、導電体20に箔状の銅を用いると、耐腐食性が向上し、品質の安定が図れるスピーカーとすることができる。
【0036】
なお、導電体20にアルミニウムと銅の箔状の合金を用いることにより、前記両方の特徴を得ることができ、より広い周波数帯域に適したスピーカーとすることができる。
【0037】
なお、本実施の形態において振動板16を形成している導電体20は図1(a)において1層としているが2層以上に積層構成することによって、音圧レベルの向上を図ることができる。
【0038】
なお、本実施の形態において導電体20にアルミニウムもしくはアルミニウムと銅の合金を用いた場合、絶縁部分18aおよび18bを形成させるのに樹脂液へ浸漬させていたが、絶縁部分18aおよび18bの形成にはアルマイト処理を用いてもよい。アルマイト処理を用いることによって、防錆効果の向上を図ることができる。
【0039】
(実施の形態2)
図2は、本発明における実施の形態1における振動板16において絶縁部分18aを渦巻状に形成させたときのスピーカーの構成を示している。
【0040】
図2(a)は(b)および(c)におけるB-B'面での断面図、(b)は(a)おけるY-Y'面での断面図、(c)は振動板の平面図、(d)は振動板の断面図の一部である。
【0041】
図2(a)において、21は鉄等からなり、一方を開放した箱型のヨークである。ヨーク21の周囲は非磁性体のポリカーボネイト等の樹脂材料からなるフレーム22によって囲まれている。
【0042】
23はヨーク21の片面にその磁軸が垂直になるように設置された永久磁石であり、この永久磁石23の上部には漏洩磁束の安定を目的に鉄等からなるプレート24が載置されている。ヨーク21と永久磁石23とプレート24とから磁気回路25を構成している。
【0043】
プレート24の中心を永久磁石23の磁軸に合わせ、磁気回路25を図のように構成することによって磁束は中心から放射状方向に発生する。
【0044】
また、図2(c)、(d)において、振動板26はアルミニウム等からなる薄箔状の導電体30にスリットを渦巻状に入れ、その導電体30をポリイミドなどの樹脂材料の液に浸漬させ、実施の形態1と同様に絶縁部分28aおよび絶縁部分28bを設けたことを特徴としている。
【0045】
この振動板26はプレート24から所定距離だけ離して配設され、柔軟性に富むウレタン等からなる支持部材27によって支持されており、これにより振動板26は上下にスムーズに振幅できるように構成されている。
【0046】
振動板26の渦巻状の中心からジャンパー(図中点線部)などで導電体30を延長させ、両端部分29a,29bとし、フレーム22上に固定することにより、音声電気信号を入力するターミナル(図示せず)として使用する。このとき両端部分29a,29bのそれぞれとターミナルとの接続には金糸線等の柔軟性に富む導電体(図示せず)を用いることが好ましい。
【0047】
それにより振動板26と、フレーム22上に設けられたターミナルとの間に、振動板26の上下振幅を容易に確保することができるものである。
【0048】
このように構成された本実施の形態のスピーカーは以下のように動作するものである。すなわち、ヨーク21と永久磁石23とプレート24とによる磁気回路25によって図中H方向の磁界が発生している。この磁界中では図示する方向の電流に対し、フレミングの左手の法則により、F方向の電磁力を受けるため、振動板26は導電体30に流れる電流によって上下に振動し、音が発生することになる。
【0049】
以上のように、本実施の形態は従来の振動板106を図2(c)に示されるような振動板26に置き換えるだけで、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0050】
以上の実施の形態のように箔状の導電体自身を振動板として機能させるとともに絶縁部分18a,18b,28a,28bの形状に応じた磁気回路15,25を形成することによって電気音響変換器の薄型化が可能になるものである。
【0051】
なお、前述の説明はスピーカーについて実施したが、スピーカーに限定されることなく、レシーバやマイクロホン等、電気音響変換器については広く展開可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明にかかる電気音響変換器は薄型化が可能になるので、薄型化の必要な映像音響機器や情報通信機器等の電子機器、さらには自動車等の装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】(a)本発明の実施の形態1におけるスピーカーの断面図、(b)本発明の実施の形態1におけるスピーカーの断面図、(c)本発明の実施の形態1におけるスピーカーの振動板の平面図、(d)本発明の実施の形態1におけるスピーカーの振動板の断面図
【図2】(a)本発明の実施の形態2におけるスピーカーの断面図、(b)本発明の実施の形態2におけるスピーカーの断面図、(c)本発明の実施の形態2におけるスピーカーの振動板の平面図、(d)本発明の実施の形態2におけるスピーカーの振動板の断面図
【図3】(a)従来の平面スピーカーの断面図、(b)従来の平面スピーカーの断面図、(c)従来の平面スピーカーの振動板の平面図
【図4】(a)従来のリボンスピーカーの断面図、(b)従来のリボンスピーカーの平面図
【符号の説明】
【0054】
11,21,101,201 ヨーク
12,22,102 フレーム
13,23,103,202 永久磁石
14,24,104,203 プレート
15,25,105,204 磁気回路
16,26,106 振動板
17,27,107 支持部材
18a,18b,28a,28b 絶縁部分
19a,19b,29a,29b 両端部分
20,30 導電体
108 フィルム基材
109 渦巻状ボイスコイル
205 リボン振動板
206 保持部
207 磁気ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号が入力される箔状の導電体からなる振動板と、この振動板を駆動させる磁束発生手段と、前記振動板と前記磁束発生手段を支持するフレームとを備え、前記振動板は箔中にスリットを設けて帯状の箔帯を形成し、その箔帯を絶縁物で覆うことを特徴とする電気音響変換器。
【請求項2】
前記絶縁部分に樹脂材料を用いたことを特徴とする請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記導電体にアルミニウムまたはアルミニウムと銅の混合物を用いたことを特徴とする請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記振動板の前記絶縁物で覆う方法としてアルマイト処理を用いたことを特徴とする請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項5】
前記導電体に銅を用いたことを特徴とする請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項6】
前記スリットを設けた前記箔帯を直線状に並列接続させることを特徴とした振動板を備えた請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項7】
前記スリットを設けた前記箔帯を渦巻状に形成させることを特徴とした振動板を備えた請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項8】
前記導電体は2層以上に積層構成した請求項1記載の電気音響変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−67114(P2006−67114A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245577(P2004−245577)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】