説明

電気音響変換器

【課題】 アルミニウムを合金化してもアルミニウムの純度を高くし、軽量化を維持しつつも十分な機械的強度をもたせ、巻線にあたり断線を防止し、アルミニウムの純度が高ので導電率も良好なマグネットワイヤーにてなるボイスコイルを用い、高効率で、低消費電力の電気音響変換器を提供する。
【解決手段】 本発明では、電気音響変換器のボイスコイルとして、引張強さ200MPa以上、伸び1.0%以上、かつ導電率が58%IACS以上の特性を有するマグネットワイヤーを用いた。このマグネットワイヤーは、化学組成が、Fe:0.2〜1.0重量%、Zr:0.01〜0.10重量%であり、残余がAlおよび不可避不純物からなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は音響機器の一種であるスピーカやマイクロホン等の電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体オーディオ、デジタルポータブルオーディオ、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器の発展に伴い、これら使用機器の長時間連続使用が求められ低消費電力化、バッテリーの長寿命化が課題となっている。これらの機器に使用される電気音響変換器にも低消費電力が要求され、すなわち高能率化が求められている。
【0003】
電気音響変換器の能率を上げる方法として例えばスピーカを例としてあげると一般的には、駆動力を大きくする,振動板の面積を大きくする,振動系質量を軽くすることがあげられている。
【0004】
駆動力を大きくする方法として磁束密度を大きくする方法がとられる。磁束密度を大きくするためには、マグネットを大きくすることや、高性能なマグネットを使用することが考えられるが、これらの方法は製品の大きさ、質量が増加したり、製品のコストアップにつながる。
【0005】
振動板の面積を大きくすることは、非常に有効な方法であるが小型化が求められる製品に対しては不向きである。
【0006】
振動系質量を軽くすることは、振動系を構成する部品である振動板、ボイスコイルの質量を軽くすることである。振動板とボイスコイルの質量比率において振動板質量の占める割合が比較的大きな大口径スピーカでは、振動板の軽量化が重要となり振動板の軽量化により効果を得ることができる。
【0007】
しかし、振動板の質量の割合が小さいすなわちボイスコイルの質量の割合が大きい小口径、小型のスピーカにおいてはボイスコイルの軽量化が重要となる。
一般的にスピーカに用いられるボイスコイルは、導体に比重が8.89である銅を用いられている。また、銅より軽量である比重2.70のアルミニウムを用いることもある。(特許文献1)
【特許文献1】特開昭52−127226
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、アルミニウムは、強度が低いため、ワイヤーの細線化が困難であり、導体径がφ0.13mm以下のマグネットワイヤーは工業的に普及されていない。
【0009】
また、ボイスコイルを作製する巻線加工時に強度不足のため断線が起こりやすい、という問題があった。
【0010】
また、これらの改善としてアルミニウムの引張強さを高める方法として、アルミニウムを合金化する方法があるが、一般的には導電率が低下してしまう。
【0011】
例えばアルミニウムに対して、マグネシウムを添加したアルミニウム合金は、適量のマグネシウムを添加することで、200MPa以上の引張強さを得ることが可能であるが、導電率が50%IACS以下に低下してしまうため、エネルギー損失が大きくなってしまうという問題がある。
【0012】
従来の他のアルミニウム合金においても、同様に、強度を高めると添加した元素の影響により導電率が大きく低下してしまう。このように、導電率が低下するとジュール熱によるエネルギー損失が大きくなるため、能率が低下する。
【0013】
また、ワイヤーの径を太くすることで、導電率の低さを補うことができるが、ボイスコイルの重量が増加してしまうため能率が低下する。
【0014】
以上のように、導電率が低下すると能率が低下するので好ましくない。
【0015】
また、アルミニウムを芯材として外周に銅被覆を施した銅クラッドアルミニウム線がある。この銅クラッドアルミニウム線も引張強度は銅線よりも低くボイスコイル作製時の巻き線加工で強度不足により断線しやすいという問題があった。また、銅が外周に被覆されているので比重は、3.6程度とアルミニウム線より大きく軽量化すなわち高能率化の点ではアルミニウム線よりも劣っている。
【0016】
この発明は上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、アルミニウムを合金化してもアルミニウムの純度を高くし、軽量化を維持しつつも十分な機械的強度をもたせ、巻線にあたり断線を防止し、アルミニウムの純度が高いので導電率も良好なマグネットワイヤーにてなるボイスコイルを用い、高効率で、低消費電力の電気音響変換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために、請求項1の発明は、磁気ギャップを有する磁気回路と、前記磁気ギャップに配置されたボイスコイルと、このボイスコイルによって駆動される振動板とを備えた電気音響変換器において、前記ボイスコイルは、アルミニウム合金を導体としたマグネットワイヤーからなり、その特性は、引張強さ200MPa以上、伸び1.0%以上、かつ導電率が58%IACS以上であることを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の電気音響変換器において、前記マグネットワイヤーの導体であるアルミニウム合金の化学組成が、Fe:0.2〜1.0重量%、Zr:0.01〜0.10重量%であり、残余がAlおよび不可避不純物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来強度不足のため、アルミニウム線をボイスコイルに用いることができなかった電気音響変換器に対して本発明の構成とすることでアルミニウム合金線をボイスコイルとして使用することができ、電気音響変換器としての変換効率をあげることができる。
【0019】
すなわち、本発明者らが鋭意研究を行った結果、純度99.95%以上の純度を有するアルミニウムに、FeおよびZrを特定の割合で微量添加することで、アルミニウムの特徴である低比重および良好な導電性を維持しつつ、機械的強度が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
具体的には、本発明に係るアルミニウム合金は、Feを0.2〜1.0重量%、好ましくは0.2〜0.7重量%、特に好ましくは0.3〜0.6重量%、Zrを0.01〜0.10重量%、好ましくは0.01〜0.05重量%、特に好ましくは0.02重量%前後含有し、かつ、残余がAl及び0.05重量%以下の不可避不純物で構成されるものである。
【0021】
ここで、Al母材として、純度が99.95%以上の純アルミニウムを用いるのは、純度が99.95%よりも低いと、良好な導電率が得られないためである。
【0022】
本発明のアルミニウム合金は、母材となる純アルミニウムの純度と、FeおよびZrの重量比とを規定したことにより、純アルミニウムと略同等の良好な導電率が得られ、従来のアルミニウム合金のようにジュール熱の発生に伴うエネルギー損失が多くなるということはない。よって、このアルミニウム合金を用いたマグネットワイヤーを適用した電気音響変換器等の装置のエネルギーの高効率化、すなわちエネルギー効率の向上を図ることができる。
【0023】
また、Al以外の元素(Fe、Zr等)の含有量は、最大でも1%強であるため、本考案のアルミニウム合金の比重は純アルミニウムと略同等である。よって、このアルミニウム合金を用いたマグネットワイヤーを電気音響変換器等の装置に適用しても、マグネットワイヤーの重量割合は純アルミニウムの場合と略同等であり、その結果、装置全体の重量を小さくすることができ、エネルギー効率の向上を図ることができる。
【0024】
本発明のアルミニウム合金を用いたマグネットワイヤーは、引張強さが大きいので、ワイヤーの細線化が可能である。また、引張強度が大きいので、ボイスコイル巻線加工時の断線の問題がなく製造することができる。
【0025】
また、引張強さが大きいにもかかわらず、導電率が高いので、高能率化の妨げにはならない。
【0026】
本発明のアルミニウム合金線を導体とするマグネットワイヤーからなるボイスコイルを用いることにより、従来の銅線を導体とするマグネットワイヤーからなるボイスコイルと比較してボイスコイルの質量を減らすことができる。このボイスコイルを例えばスピーカに用いると、銅線のボイスコイルからなる従来のスピーカと比べて大きな音圧が得られ高能率となり、低消費電力等に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
[実施の形態1]
電気音響変換器は、周知のように、ヨーク、プレート、マグネット等からなり、磁気ギャップを有する磁気回路と、その磁気ギャップに振動可能に配設されたボイスコイルと、ボイスコイルによって駆動される振動板等を備えて構成されている。
【0028】
本発明では上記構成の電気音響変換器のボイスコイルは、アルミニウム合金を導体としたマグネットワイヤーからなり、その特性は、引張強さ200MPa以上、伸び1.0%以上、かつ導電率が58%IACS以上のものを用いている。
【0029】
そして、このマグネットワイヤーの導体であるアルミニウム合金の化学組成が、Fe:0.2〜1.0重量%、Zr:0.01〜0.10重量%であり、残余がAlおよび不可避不純物であることを特徴としている。
【0030】
マグネットワイヤーとしては、アルミニウム、銅、銅合金、銅クラッドアルミニウム、アルミニウム合金(5050)等種々のものが存在する。
【0031】
これら各種マグネットワイヤーの諸特性を表1に示す。実施例1は、本発明のアルミニウム合金線、従来例1は、従来より用いられていたアルミニウム線、従来例2は、一般的な銅線、従来例3は、一般的な銅線よりも高強度を目的に用いられている銅合金線、従来例4は、アルミニウム導体の外周に銅被覆を施した銅クラッドアルミニウム線、従来例5は、高強度のアルミニウム合金(5050系)を用いた線である。なお、これらのマグネットワイヤーは導体の外周に電気絶縁層及び接着のための接着層の処理を定法により施されている。
【0032】
表1から明らかなように、実施例1の本考案アルミニウム合金線の引張強さは、ほぼ同じ導電率の従来例1のアルミニウム線の2.2倍、従来例4の銅クラッドアルミニウム線の1.9倍である。また、従来主流に使用されている従来例2の銅線の1.5倍、高強度銅線として用いられている従来例3とほぼ同じである。また、従来例5の高強度のアルミニウム合金線は、本発明の実施例1とほぼ同じ引張強さを有しているが、導電率は実施例1の0.8倍と低い。
【0033】
ここで各種導線を用いてボイスコイルを使用したスピーカを作製した場合の音圧の比較を実測及び計算により行った。スピーカの仕様は後述する。
【0034】
その結果、従来例2の銅線を基準に音圧の変化をみると実施例1の計算値では、3.0dB大きい結果となった。また、スピーカを作製した実測値も3.0dBであり計算値と一致した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1のマグネットワイヤーを用いて内径φ7mm、巻幅1.7mm直流抵抗32Ωのボイスコイルを試作した。なお、ボイスコイルの巻幅および直流抵抗を略一致させるために実施例1では、導体径φ0.04mm、従来例2、従来例3はφ0.035mmにて試作した。また、従来例1のワイヤーは導体径φ0.04mm程度の細線は工業的に生産されておらず試作は行なえなかった。
【0037】
上記のマグネットワイヤーを所定の巻線機を用いて回転数1500rpmにて試作した。このとき巻線時にワイヤーの断線が発生しない限界張力を計測したところ表2の様であった。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例1のアルミニウム合金線では、従来例2よりも大きく、従来例3とほぼ同じレベルの限界張力でありおおよそ引張強さに依存していることがわかる。したがって、仮に従来例1でφ0.04mmの線があったとしても引張強さの低い従来例1は、実施例1に比べて限界張力も著しく低くなると推測される。
【0040】
巻線時の限界張力を大きくできることは、巻線回転数を早くすることができ生産性の向上につながる。また、巻幅、直流抵抗が安定し品質の向上にもつながるので好ましい。
【0041】
また、試作したボイスコイルの質量は、実施例1は6.2mg、従来例2は17.1mg、従来例3は16.4mgであり約6割の軽量化となった。
【0042】
また、試作したボイスコイルを用いて外径φ16mmのスピーカを定法により作製した。振動板の質量は、20mgであり実施例1のボイスコイルを用いた場合の振動系質量は27mg、実施例3および4のボイスコイルでは、略38mgであり約3割の軽量化が計られた。
【0043】
実施例1および従来例2のボイスコイルを用いたスピーカの周波数特性を図1に示す。図1によると実施例1は、従来例2に比べて同一入力で約3dB音圧が大きく高能率化が図られている。
【0044】
これらの実施例1および従来例2のボイスコイルを用いたスピーカをJIS規格に従って所定入力の10mW入力で連続負荷試験を行ったところ、600時間経過してもいずれもボイスコイルの断線は発生せず、なんら問題なく製品として使用することができる。
【0045】
以上のように実施例1において、マグネットワイヤーとして、引張強さ230.8MPa,伸び2.6%,導電率60%IACSのものを用いて極めて好適な結果が得られたことを鑑みれば、少なくとも引張強さ200MPa以上,伸び1.0%以上,導電率58%IACS以上であれば実用上問題がないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例1にかかるボイスコイルを用いたスピーカと表1に示した従来例2の周波数特性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ギャップを有する磁気回路と、前記磁気ギャップに配置されたボイスコイルと、このボイスコイルによって駆動される振動板とを備えた電気音響変換器において、前記ボイスコイルは、アルミニウム合金を導体としたマグネットワイヤーからなり、その特性は、引張強さ200MPa以上、伸び1.0%以上、かつ導電率が58%IACS以上であることを特徴とする電気音響変換器。
【請求項2】
前記マグネットワイヤーの導体であるアルミニウム合金の化学組成が、Fe:0.2〜1.0重量%、Zr:0.01〜0.10重量%であり、残余がAlおよび不可避不純物であることを特徴とする請求項1記載の電気音響変換器。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−86694(P2006−86694A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268084(P2004−268084)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000112565)フオスター電機株式会社 (113)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】