説明

電池セパレータ及び二次電池

【課題】高い親水性と高い強度を併せ持つアルカリ電池セパレータを提供することを目標とする。
【解決手段】本発明の電池セパレータ及び二次電池は、ポリプロピレン系樹脂を主構成材料とし、前記ポリプロピレン系樹脂同士が結着することによって構成された不織布にポリエチレン系樹脂表面を形成し、次いで、不織布の繊維表面にカルボキシル基を導入する処理を施し、更にスルホン化処理を施したことを特徴とする電池セパレータ及び該電池セパレータを用いた二次電池を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に好適な電池セパレータ及び二次電池に関し、例えばアルカリ二次電池に最適の電池セパレータ及びアルカリ二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素二次電池などのアルカリ二次電池は、充放電特性、過充放電特性に優れ、長寿命で繰り返し使用できる。また、内部抵抗が低く大電流特性に優れるため、電気自動車や電気工具などのバッテリー用としての利用が期待されている。
【0003】
これらの電池に用いられるセパレータには、親液性を示し電解液を保持する能力、デンドライドなどによる正極−負極間のショートを防ぐのに十分な機械強度が求められる。また、機械強度は工程上でのハンドリング性を高めるという観点からも重要な特性である。
【0004】
従来、この種の二次電池のセパレータとしては、親液性の高いポリアミド系の不織布が使われていた。しかしながら、ポリアミド系の不織布は、アルカリ電解液中でセパレータが徐々に分解されること、また分解時に発生するアンモニアが正極上で硝酸イオンに酸化され、負極上で還元されてアンモニアに戻るシャトル効果によって自己放電が大きくなるなどの問題があることが判明した(非特許文献1)。
【0005】
そこで、ポリアミド系の不織布に代わって化学的安定性に優れるポリオレフィン系の不織布がセパレータとして用いられるようになったが、ポリオレフィン系樹脂は親液性に劣るため、以下のような様々な親液化処理が提案されてきた。
【0006】
(1)界面活性剤処理
(2)コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理
(3)フッ素ガス処理
(4)アクリル酸グラフト重合処理
(5)スルホン化処理
【0007】
(1)の界面活性剤処理は、セパレータに界面活性剤を塗布する比較的容易な方法であるが、電池の充放電を繰り返すうちに界面活性剤が電解液中に溶け出し、セパレータ自身は親液性を失って電解液の保持能力が急激に低下する。
【0008】
(2)のコロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理は、各々の方法で発生させたラジカルによって樹脂表面にカルボキシル基などの極性基を導入する安価な処理方法であるが、不織布表面のみにしか親液化を行えず、親液性の持続性も悪い。
【0009】
(3)のフッ素ガス処理は、フッ素ガスを利用して極性基を樹脂に導入する。この処理では、樹脂内部まで親液化層が形成されるため、親液性の持続性が良いが、後述の自己放電抑制効果がスルホン化処理に劣る。
【0010】
(4)のアクリル酸グラフト重合処理は、アクリル酸を繊維とグラフト重合させて親液性を付与する。スルホン化処理より親液性は高く、フッ素ガス処理には劣るが親液性の持続性も高い。
【0011】
(5)のスルホン化処理は、濃硫酸やクロル硫酸、発煙硫酸、SO3ガスなどによりスルホン酸基を繊維に導入し、親液性を付与する。但し、一般に親液性はあまり高くない。
【0012】
特に、(4)アクリル酸グラフト重合処理と(5)スルホン化処理では、親液性の付与だけでなく電池の自己放電を抑制する効果も発現することが分っている。これは、シャトル効果の原因物質であるアンモニアをセパレータが吸着するためであると考えられている。このため、現在は、これらの処理のうち、親液性の持続性と自己放電抑制効果のバランスに優れるスルホン化処理が主に使われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】松田好晴、竹原善一郎 編、電池便覧(平成13)、p237-238
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第2987920号公報
【特許文献2】特許第3561032号公報
【特許文献3】特開平11−297293公報
【特許文献4】特許第2762443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、スルホン化処理には、スルホン酸基の導入とともにセパレータの炭化が進むという副作用があり、処理の度合いを強めて親液性を向上させると、機械強度が低下するという問題があった。
上記スルホン化処理に伴う機械強度の低下に対する解決手段として、スルホン化されにくい素材とスルホン化されやすい素材を組み合わせたセパレータがいくつか提案されている。
【0016】
これらは、スルホン化処理条件を穏やかな条件に抑えて、スルホン化されやすく高親液性となる素材とスルホン化されにくく強度を残した素材を混在させることによって、親液性と強度の両立を目指している。
【0017】
ここで、ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン樹脂は、結晶性でありスルホン化されにくい樹脂であるが、一般にポリプロピレンとポリエチレンを比べた場合はポリエチレンの方がスルホン化されやすい。また、他にスルホン化されやすい素材としては、ポリスチレンやポリビニルナフタレンまたはポリエーテルスルホンなどが挙げられる。
【0018】
例えば、特許文献1にはポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂を樹脂レベルで混合した後に繊維にし、低温で濃硫酸によりスルホン化したセパレータが開示されている。
【0019】
しかしながら、繊維がポリオレフィン単一成分ではなく混合成分から成るため、相溶しなかった樹脂が繊維内部に析出し繊維が不均一となるので、スルホン化処理前の繊維自体の強度が不十分となる傾向があった。
【0020】
また、表面に露出したポリスチレン樹脂にしかスルホン化がなされないのに、ポリスチレン樹脂の繊維表面への露出が十分でないため、スルホン化の効率が低くなる傾向があり、十分な親液性を得ることができていなかった。
【0021】
他にも、特許文献2に記載のセパレータは、ポリオレフィン系樹脂とポリスチレンの分割繊維を使用した不織布にスルホン化処理していた。また特許文献3に記載のセパレータは、ポリスチレン、ポリビニルナフタレンまたはポリエーテルスルホン系の連続繊維とポリオレフィン系繊維を混合した不織布にスルホン化処理していた。
【0022】
しかしながら、これらのセパレータは、繊維表面にスルホン化されやすい素材とスルホン化されにくい素材とが混在しているため、スルホン化の度合いが小さい場合にはスルホン化されにくい素材が親液性を阻害し、スルホン化の度合いが大きい場合にはスルホン化されやすい素材が強度の劣化を助長することとなり、強度と親液性を両立することはできていなかった。
【0023】
また、特許文献4には、ポリプロピレン繊維にポリエチレンの分散液をふりかけて熱結着性を付与することによって作製された不織布にスルホン化したセパレータが提案されている。他にも一般に流通しているポリプロピレンとポリエチレンの芯鞘繊維を用いた湿式不織布にスルホン化したセパレータがある。これらの不織布は表面の大部分がポリエチレンであるため高い親液性を示すが、繊維の交絡点の大部分がポリエチレンの熱融着によって形成されているため、素材的に高い強度を実現しにくいものであった。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、高い親液性と高い機械強度を両立させる電池セパレータ及び該電池セパレータを用いた電池を提供することを目的とする。
【0025】
上述した課題を解決する一手段として、本発明に係る一発明の実施の形態例は以下の構成を備える。すなわち、電池の正極と負極の間に挟まれて使用される電池セパレータであって、ポリプロピレン系樹脂を主構成材料とし、前記ポリプロピレン系樹脂同士が結着することによって構成された不織布表面にポリエチレン系樹脂表面を形成し、次いで、不織布の繊維表面にカルボキシル基を導入する処理を施し、更にスルホン化処理を施したことを特徴とする電池セパレータである。
【0026】
または、以上に記載したいずれかの電池セパレータを正極と負極の間に用いることを特徴とする電池とする。そして例えば、前記電池が、ニッケル水素蓄電池であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高い親水性と高い強度を両立させる電池セパレータ及び該電池セパレータを用いた電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる一発明の実施の形態例電池セパレータの製造工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る一発明の実施の形態例を詳細に説明する。本実施の形態例は、正極と負極の間に挟まれて使用される電池セパレータであって、ポリプロピレン系樹脂を主構成材料とし、前記ポリプロピレン系樹脂同士が結着することによって構成された不織布にポリエチレン系樹脂表面を形成し、次いで、不織布の繊維表面にカルボキシル基を導入する処理を施し、更にスルホン化処理を施したことを特徴とする電池セパレータである。
【0030】
図1を参照して、本実施の形態例のセパレータの製造工程の概略を以下に説明する。図1は本発明に係る一発明の実施の形態例の電池用セパレータの製造方法の概略を説明するための工程図である。
【0031】
まず工程S1において、任意の方法でシートを形成して基布とする。基布については、主構成材料にポリプロピレン系樹脂が用いられており、大部分の交絡点がポリプロピレン系樹脂同士の結着によって形成されていれば良い。具体的には、延伸の掛かった連続繊維から構成されるスパンボンド不織布が、高い機械特性を得る上で好適である。
【0032】
ポリプロピレン系樹脂としては、基本骨格がポリプロピレンで構成されていれば、その形状や大きさについては、電池の基本性能を阻害するものでなければどのようなものであっても良い。
【0033】
但し、アミンなど窒素含有の官能基や結合を有する構造のものは前述のポリアミド系不織布のようにシャトル効果を引き起こし、自己放電が大きくなるため好ましくない。
【0034】
次いで、工程S2でポリエチレン系樹脂エマルションの塗工などにより、基布表面にポリエチレン系樹脂層を形成する。
【0035】
前記ポリエチレン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂からなる基布の表面にポリエチレン系樹脂層を形成可能なものであれば良いので、基本骨格がポリエチレンであれば、その他の構成がどのようなものであっても十分使用できる。つまり、ポリエチレン系樹脂の分子構造中にエステル基やフェニル基などの官能基、または二重結合を有していても良い。但し、アミンなど窒素を含有する官能基や結合を有した場合、前述のシャトル効果を引き起こすため好ましくない。
【0036】
また、ポリエチレン系樹脂エマルションの分散媒としては、取扱い上の安全性、入手のし易さおよび保管時の安定性から水を用いるのが好ましい。但し、前述のように、窒素を含んでいるとシャトル効果を促進させるため、界面活性剤や分散媒に窒素を含むものは好ましくない。
【0037】
ポリエチレン系樹脂エマルションを塗工する手段としては、ポリエチレン系樹脂エマルションに基布を浸漬させる方法や、ディップ含浸など公知の手段を用いれば良い。例えば、基布にポリエチレン系樹脂エマルションを噴霧させるのも手段として有効である。
【0038】
ポリプロピレン系樹脂からなる基布に対するポリエチレン系樹脂の付着量としては、基布の坪量に対して、ポリエチレン系樹脂が0.1〜10重量%であることが好ましい。
【0039】
より好ましい範囲としては1〜5重量%であり、最適な付着量としては3重量%である。0.1重量%を下回った場合は所望の効果が得られないし、10重量%を上回った場合は基布を構成する繊維間の隙間を埋めてしまい、セパレータの気密度が高くなり、電池に組み込んだ際、内部抵抗が高くなりすぎるという懸念がある。
【0040】
その後工程S3で表面処理を行い、カルボキシル基をポリエチレン系樹脂層表面に導入する。表面処理としては、例えば、コロナ放電、あるいはプラズマ放電処理、又はUVオゾン処理のいずれかの表面処理、あるいはこれらの処理を組み合わせた処理を行っても良い。いずれかの方法により表面処理を行うことにより、続く工程S4におけるスルホン化のかかりを良くすることができる。
【0041】
ポリプロピレン系樹脂からなる基布にカルボキシル基を導入する目的は、ポリプロピレン系樹脂の樹脂表面は疎水性であるため、この疎水性樹脂表面にカルボキシル基を導入することで疎水性の樹脂表面を親水化し、後工程のスルホン化処理の効率を向上させるためである。カルボキシル基を導入する処理方法としては、コロナ放電処理や、プラズマ処理、UVオゾン処理等公知の手段であればなんでも良く、特に限定されるものではない。
【0042】
このように表層のポリエチレン系樹脂のスルホン化処理効率をさらに上げることで、ごくごく緩やかな処理条件で十分な親液性を得ることができるようになり、機械強度の劣化を最大限抑えることができる。
【0043】
その後工程S4で基布にスルホン化処理を施す。スルホン化処理の処理方法としては、熱濃硫酸、発煙硫酸、SO3ガスによる方法など公知の処理方法であれば、いずれの処理方法でも好適に使用できる。
本実施の形態例では、工程S2において基布の表面全体にムラ無くポリエチレン系樹脂コーティング層が形成されているため、このポリエチレン系樹脂コーティング層がスルホン化による基布の劣化を有効に防ぐことができる。
【0044】
また、本実施の形態例では、更に基布の劣化を最低限に抑えるため、より緩やかな条件でのスルホン化を行うが、これは、工程S3において表面処理を行っているため、スルホン化のかかりが良く、より緩やかな条件であっても十分にスルホン化ができるためである。
【0045】
このように、機械強度の高いポリプロピレン系樹脂同士が結着している不織布を基布として用い、かつ、ポリエチレン系樹脂コーティング層を形成して極緩やかな条件でスルホン化処理を行うことで、スルホン化による強度低下を防ぎ、基布の強度をそのまま残すことで、高い機械強度をもったセパレータを実現することができる。
【0046】
また、スルホン化されやすいポリエチレン系樹脂層を不織布表面全体に形成することで、スルホン化処理によって不織布表面全体に高い親液性を付与することが可能となり、高い親液性をもったセパレータを実現することができる。
つまり、これらによって高い機械強度と高い親液性を両立した電池セパレータを得ることができる。
【0047】
また、このセパレータを電池に用いることで以下のような効果が期待できる。
(a)サイクル寿命の向上
電解液への親液性が高いため、サイクル寿命の向上が期待できる。
(b)電池製造工程における不良率の減少
機械強度が高いため、ライン適性や耐バリ性が高く、電池製造工程における不良率を減少させることができる。
次に本発明にかかる一実施例を比較例と共に説明する。
【実施例1】
【0048】
目付重量53g、厚さ125μmのPP製スパンボンド不織布に、塗工率0.1重量%となるようにPEエマルション液(ケミパールM200、三井化学製)をディップ法にて塗工し、125℃で乾燥、定着させてPEをコーティングした。
次に、処理密度220Kw/mm/minでコロナ放電処理を施した。その後、10vol%のSO3ガスを含む窒素ガスと25℃で2分間反応させてスルホン化処理を行い、約10wt%のNaOH水溶液に5分間浸漬してから水洗し、70℃で乾燥してスルホン化セパレータを作製した。
【実施例2】
【0049】
PEエマルション液の塗工率を1重量%に変更した以外は、実施例1と同様の操作でスルホン化セパレータを得た。
【実施例3】
【0050】
PEエマルション液の塗工率を3重量%に変更した以外は、実施例1と同様の操作でスルホン化セパレータを得た。
【実施例4】
【0051】
PEエマルション液の塗工率を5重量%に変更した以外は、実施例1と同様の操作でスルホン化セパレータを得た。
【実施例5】
【0052】
PEエマルション液の塗工率を10重量%に変更した以外は、実施例1と同様の操作でスルホン化セパレータを得た。
【実施例6】
【0053】
PEエマルション液を「メイカテックス HP‐70」(明成化学工業製)とし、塗工率を3重量%に変更した以外は実施例1と同様の操作でスルホン化セパレータを得た。
【実施例7】
【0054】
PEエマルション液の塗工率を3重量%とし、コロナ放電処理の代わりに紫外線照度約15mV/cm2、オゾン濃度約300PPmの条件で3分間UVオゾン処理を行った以外は、実施例1と同様の操作でスルホン化セパレータを得た。
【比較例1】
【0055】
目付重量53g、厚さ125μmのPP製スパンボンド不織布に、処理密度220kw・m/minでコロナ放電処理を施した。その後、10vol%のSO3ガスを含む窒素ガスと25℃で2分間反応させてスルホン化を行い、約10wt%のNaOH水溶液に5分間浸漬してから水洗し、70℃で乾燥してスルホン化セパレータを作製した。
【比較例2】
【0056】
繊維径11μm、繊維長5mmのPP/PEの芯鞘繊維を用いて湿式法にて目付重量53g、厚さ125μmの不織布を得た。これに処理密度220kw・m/minでコロナ放電処理を施した。その後、10vol%のSO3ガスを含む窒素ガスと5℃で2分間反応させてスルホン化を行い、約10wt%のNaOH水溶液に5分間浸漬してから水洗し、70℃で乾燥してスルホン化セパレータを作製した。
【比較例3】
【0057】
目付重量53g、厚さ125μmのPP製スパンボンド不織布に、塗工率20重量%となるようにPEエマルション液をディップ法にて塗工し、125℃で乾燥、定着させてPEをコーティングした。
【0058】
セパレータの強度とスルホン化処理による強度劣化の度合いを比較するために、スルホン化前後でセパレータの引張強度の測定と強度維持率の算出を行った。引張試験は、幅15mmのサンプルを用いて、掴み間隔180mm、引張速度200mm/minで行った。
【0059】
さらに、得られたデータからセパレータの伸びにくさとスルホン化前後の強度維持率を以下の式を用いて算出した。
伸びにくさ(kgf/%)={引張強度(kgf)/伸び(%)}
強度維持率(%)={スルホン化後強度(kgf)/スルホン化前強度(kgf)}×100
【0060】
また、スルホン化処理による親水化の度合いを比較するために、70℃の30%KOH水溶液に30mm角のセパレータを浮かべ、セパレータが電解液に完全に濡れるまでの浸液時間を測定した。電解液との親和性が高いほど、浸液にかかる時間が短くなる。
【0061】
セパレータのガス透過性を評価するため、気密度を測定した。気密度は、JIS P 8117(紙及び板紙の透気度試験方法)の6mmφのアダプターを取り付けたB型測定器の下部試験片取り付け部分にセパレータ紙を押さえ付け、セパレータ紙の6mmφの部分を100mlの空気が通過するのに要する時間(分/100ml)により測定した。
【0062】
表1に、それらの結果の一覧を示す。表1はスルホン化後の強度、その維持率と浸液時間を説明するための表である。
【表1】

【0063】
表1より、実施例1から実施例5のPEコーティングを施したセパレータは、PEコーティングにより、比較例1の未塗工のPP製スパンボンド不織布と較べてスルホン化処理による強度の劣化度合いが抑えられた。さらに、PP製の基布を使用しているので比較例2の湿式不織布製のセパレータよりも高い強度を示した。
【0064】
一方、親水性という点においても、PEコーティングを施したセパレータは、比較例1のPP製スパンボンド不織布と較べて電解液との親和性が向上した。特に、PEエマルションの塗工率を10%にした実施例5のサンプルは、比較例2の湿式不織布セパレータとほぼ同じ親水性を示した。
【0065】
しかし、PEエマルションの塗工率を上げていくと、PEエマルションが繊維の隙間を埋めてしまい、気密度が増加する傾向であった。特に、比較例3のPEエマルションの塗工率を20%としたサンプルでは、気密度が急激に高くなりセパレータとして使用できないレベルとなった。
【0066】
また、毛細管現象がうまく働かなくなったためか、塗工率が10%を越えたあたりから浸液時間も増加傾向となった。浸液時間と気密度のバランスから、実施例3における塗工率3%のサンプルが電池セパレータとしては好適である事が判明した。
【0067】
「ケミパール M200」の代わりに、エステル変性PEエマルション「メイカテックスHP−70」を塗工した実施例6のサンプルも比較例1の基布と比べて、スルホン化処理後の強度維持率と親水性が向上した。
同様に、コロナ処理の代わりに、UVオゾン処理を施した実施例7のサンプルも比較例1の基布と比べて、スルホン化処理後の強度維持率と親水性が向上した。
【0068】
次に、得られたセパレータを用いて密閉型ニッケル水素電池を作製した。電池の部材としては、正極には焼結式ニッケル電極を、負極には焼結式水素吸蔵合金を、電解液には30重量%の水酸化カリウム水溶液をそれぞれ用いた。なお、比較例3のサンプルは、気密度が高く、電池用セパレータとして明らかに不適であるので除外した。
作製した密閉型ニッケル水素電池は、充電0.1C率12時間、休止0.5時間、放電0.1C率で終止電圧1.0Vとして、10サイクル充放電を繰り返し、電池初期活性を行った。
【0069】
[不良率]
上記の方法で各セパレータを用いた電池を100個ずつ作製し、その不良率を調べた。
【0070】
[自己放電試験]
初期活性を行った密閉式ニッケル水素電池を、充電0.1C率で12時間、休止0.5時間、放電0.1C率で終止電圧1.0Vとし、5サイクル繰り返した後の放電容量に対し、同条件(0.1C率)での充電後、45℃下で14日間放置したときの残存容量(0.1C率放電、終止電圧1.0V)の比を自己放電後の容量保存率とした。なお、充放電は全て25℃で行った。
【0071】
[サイクル寿命試験]
初期活性を行った密閉式ニッケル水素電池を25℃下で1.0C率、1.1時間充電し、1時間休止させた後、終止電圧を1.0Vとして1.0C率で放電して理論容量に対する利用率が80%以下になったときのサイクル数を求めた。
【0072】
【表2】

電池試験の結果を表2に示す。不良率は、比較例2のみ2%で、他は0%であった。不良の原因は、極材料のバリによってセパレータが破れたことによるショートと、電池作製時にセパレータに張力を掛けすぎたためセパレータの幅が収縮し、正負極同士が接触してしまったことによるショートであった。容量保持率は、各セパレータともあまり差異はなかった。一方、PEコーティングを施したセパレータを使用した電池は、比較例1のPEコーティング前の基布を用いた電池と比べてサイクル寿命が高くなっていた。
【0073】
これは、PEコーティングによって電解液との親和性が向上したため、電解液のドライアップが抑制されたためであると思われる。
【0074】
以上説明したように本実施例によれば、表面にPE層を形成したPP製スパンボンド不織布に、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理などの不織布表面にカルボキシル基を導入する処理を行った後にスルホン化処理を行うことによって、高い機械強度と電解液との高い親和性を併せ持った電池セパレータを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の正極と負極の間に挟まれて使用される電池セパレータであって、
ポリプロピレン系樹脂を主構成材料とし、前記ポリプロピレン系樹脂同士が結着することによって構成された不織布表面にポリエチレン系樹脂表面を形成し、次いで、不織布の繊維表面にカルボキシル基を導入する処理を施し、更にスルホン化処理を施したことを特徴とする電池セパレータ。
【請求項2】
前記不織布を構成するポリプロピレン系樹脂は乾式繊維または連続繊維から成ることを特徴とする請求項1記載の電池セパレータ。
【請求項3】
前記不織布表面にポリエチレン系エマルションを塗工することによりポリエチレン系樹脂表面を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の電池セパレータ。
【請求項4】
前記ポリエチレン系エマルションの塗布量が、前記不織布の坪量に対し、0.1〜10.0重量%であることを特徴とする請求項3記載の電池セパレータ。
【請求項5】
前記カルボキシル基の導入は、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理のいずれか少なくとも一つを施して行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電池セパレータ。
【請求項6】
前記不織布は、スパンボンド法により製造されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電池セパレータ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の電池セパレータを用いたことを特徴とする二次電池。
【請求項8】
前記二次電池が、ニッケル水素蓄電池であることを特徴とする請求項7記載の二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−18527(P2011−18527A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161842(P2009−161842)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(390032230)ニッポン高度紙工業株式会社 (41)
【Fターム(参考)】