説明

電池電極用バインダー及び電池電極用組成物

【課題】 主に二次電池の分野で、結着力が良好、かつ電解液に対する膨潤性が低いバインダーを用いることで、放電性能、充放電サイクル特性などの良好な電池を得る。
【解決手段】 脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20重量%及び、これらと共重合可能な他の単量体20〜89.9重量%からなる単量体合計100重量部を、環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素0.1〜30重量部の存在下にて重合するにあたり、連鎖移動剤を実質的に用いることなく、乳化重合して得られた共重合ラテックスを含む二次電池電極用バインダーを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池電極用バインダー及び該電池電極用バインダーを含有する電池電極用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化がますます進んでいる。リチウムイオン若しくは、水素を可逆的に吸蔵放出する物質を電極に用いたリチウムイオン二次電池若しくは、ニッケル水素電池などは、軽量でエネルギー密度が高く、携帯電話やノートパソコンなどの携帯型電子機器用の中心的な電源として重要性が増している。これらの二次電池電極は、いずれも活物質を金属基材(以下、集電体という)上に塗布した構造を持ち、活物質を集電体に結着する結着剤として通常、ポリマーバインダーが利用されている。このポリマーバインダーには、活物質との結着性、電解液への耐性及び、電気化学的な環境下での安定性などが求められる。特にリチウムイオン二次電池の場合、従来から、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系のポリマーがこの分野に利用されているが、集電体上に電極膜を形成した際に導電性を阻害し、集電体と電極膜間の結着強度が不足するなどの問題点がある。さらにその結果、二次電池でのサイクル性が低下するなどの問題点が生じ、改良が望まれている。このため、非フッ素系ポリマーの開発が行われている。たとえば特開平5−74461号(特許文献1)には特定のブタジエン含量のスチレン/ブタジエンラテックスを用いることで、サイクル性に優れた二次電池を提供することが可能とされている。また、特開平11−25989号公報(特許文献2)には、特定組成の共重合体粒子であって、コアとシェルのガラス転移点が特定範囲のものを用いることで、結着強度等が改良可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−74461号公報
【0004】
【特許文献2】特開平11−25989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記バインダーにおいては、結着強度が依然不足しており、製造工程にて電極膜が集電体から剥がれ落ちる問題が有り、十分とはいえない。
本発明の目的は、結着強度が良好なバインダーを用いることで、製造工程での電極膜の剥離を抑制し、充放電サイクル特性の良好な電池を提供することにある。更に、該バインダーが電解液低膨潤性のため、膨潤による電極膜の構造変化が少なくなり、電極膜の導電性低下が抑えられ、その結果として、放電性能も良好な電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討した結果、本発明に至った。すなわち本発明は、下記の発明を提供する。
【0007】
脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20重量%及び、これらと共重合可能な他の単量体20〜89.9重量%からなる単量体合計100重量部を、環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素0.1〜30重量部の存在下にて重合するにあたり、連鎖移動剤を実質的に用いることなく、乳化重合して得られた共重合ラテックスを含む二次電池電極用バインダーを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電池電極用バインダーを用いることによって、結着強度が良好で、製造工程での電極膜の剥離を抑制し、充放電サイクル特性の良好な電池が得られる。更に、該バインダーが電解液に対して低膨潤性のため、膨潤による電極膜の構造変化が少なくなり、電極膜の導電性低下が抑えられ、その結果として、放電性能も良好な電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明の電池電極用バインダーにおける共重合体ラテックスの単量体組成は、脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20重量%及び、これらと共重合可能な他の単量体20〜89.9重量%から構成される。
【0010】
脂肪族共役ジエン系単量体としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0011】
脂肪族共役ジエン系単量体は全単量体中、10〜60重量%の範囲で使用されることが必要である。脂肪族共役ジエン系単量体が10重量%未満では、バインダーとしての性質を呈さない。一方、脂肪族共役ジエン系単量体が60重量%を越えると、バインダーが活物質の表面を必要以上に覆ってしまい、内部抵抗が大きくなり問題となる。好ましくは20〜50重量%である。
【0012】
エチレン性不飽和カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体は、0.1〜20重量%の範囲で使用されることが必要である。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が0.1重量%未満では、共重合体ラテックスの化学的安定性が劣り、活物質との混合工程にて凝集物が発生する。一方、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が20重量%を超えると、共重合体ラテックスの粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。好ましくは0.5〜10重量%である。
【0013】
本発明に使用される共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、などの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのエチレン系不飽和カルボン酸アミド系単量体、例えば、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、例えば、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジンなどのエチレン系不飽和アミン系単量体などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
【0014】
共重合可能なエチレン性不飽和単量体は全単量体中、20〜89.9重量%の範囲で使用されることが必要である。共重合可能なエチレン性不飽和単量体が20重量%未満では、バインダーが活物質の表面を必要以上に覆ってしまい、内部抵抗が大きくなる。一方、共重合可能なエチレン性不飽和単量体が89.9重量%を超えると、バインダーとしての性質を呈さない。好ましくは、30〜70重量%である。
【0015】
本発明における共重合体ラテックスは、上記構成の単量体100重量部を、環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素0.1〜30重量部の存在下にて、連鎖移動剤を実質的に用いることなく、乳化共重合することが必要である。
【0016】
環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素としては、シクロペンテン、シクロヘキセン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン、シクロヘプテンからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0017】
環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素は、0.1〜30重量部であることが必要である。環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素が、0.1重量部未満では、十分な結着強度が得られない。一方、環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素が30重量部を超えると、共重合体ラテックスを乳化重合する工程において、重合安定性が劣り、多量の凝集物が発生する。特に、1〜20重量部であることが好ましい。
【0018】
本発明における共重合体ラテックスを乳化重合する際、連鎖移動剤は実質的に用いない事が必要である。実質的に用いないとは、単量体合計100重量部に対して、その使用量が0.02重量部以下であることを示す。連鎖移動剤を用いると、共重合体の分子量が必要以上に低下してしまい、結着強度が低下したり、電解液に対して膨潤しやすくなり電極膜構造が変化し、それによって電極膜の導電性が低下する。その結果として、充放電サイクル特性、放電性能が低下する。
【0019】
本発明において実質的に使用しない連鎖移動剤とは、例えば、アルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α−メチルスチレンダイマーが挙げられる。
【0020】
本発明における共重合体ラテックスのゲル含有量については、70重量%以上であることが好ましい。70重量%未満では、結着力が低下し、電解液膨潤性も増加する傾向があり、好ましくない。さらに好ましくは75重量%以上であり、最も好ましくは80重量%以上である。
【0021】
本発明における共重合体ラテックスの数平均粒子径について、特に制限はないが、好ましくは0.4μm以下である。さらに好ましくは、0.35μm以下であり、最も好ましくは、0.05〜0.30μmである。
【0022】
本発明における共重合体ラテックスを乳化重合するに際しては、常用の乳化剤、重合開始剤、還元剤、酸化還元触媒、環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素以外の炭化水素系溶剤、電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
【0023】
乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、あるいはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。特に、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩が好ましい。
【0024】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムの水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイドの油溶性重合開始剤の使用が好ましい。
【0025】
還元剤としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類及びその塩、更にジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。特にL−アスコルビン酸、エリソルビン酸が好ましい。
【0026】
本発明における共重合体ラテックスを乳化重合するに際し、環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素0.1〜30重量部が必要であるが、環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素以外の炭化水素系溶剤を併用することも可能である。環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素以外の炭化水素系溶剤として、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、例えば、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン等の非環状不飽和炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などを使用することができる。
【0027】
また、その他の助剤として、必要により、例えば、老化防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤などを使用することができる。
【0028】
重合方法としては、特に制限されるものではなく、バッチ重合、セミバッチ重合、シード重合など公知の重合方法を用いることができる。また、各種成分の添加方法についても特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、パワーフィード法などを用いることができる。これにより、単量体組成物が乳化重合され、得られた共重合体が水中で分散する水分散体(共重合体ラテックス)を得ることができる。得られた共重合体ラテックスの固形分は、例えば、35〜55重量%、好ましくは、40〜50重量%である。
【0029】
本発明における共重合体ラテックスは、電池電極用バインダーとして使用されるものであり、電極活物質の粒子同士及び、電極活物質と集電体とのバインダーとして作用するものである。
【0030】
本発明の電池電極用バインダーは正極、負極それぞれの活物質と配合され電池電極用組成物として使用される。活物質の種類は特に限定されないが、例えば、非水電解液二次電池の場合、黒鉛、炭素繊維、樹脂焼成炭素、リニア・グラファイト・ハイブリット、コークス、熱分解気層成長炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン系有機半導体、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ系炭素、黒鉛ウィスカー、擬似等方性炭素、天然素材の焼成体、およびこれらの粉砕物等の炭素質材料、MnO、Vなどの遷移金属酸化物、LiCoO、LiMnO、LiNiOなどのリチウムを含む複合酸化物などがあげられ、1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
本発明の電池電極用組成物は、本発明の電池電極用バインダーを活物質100重量部(固形分)に対して0.1〜10重量部(固形分)、さらに好ましくは1〜7重量部(固形分)の割合で調製することが好ましい。本発明の電池電極バインダーの配合量が0.1重量部未満では、集電体などに対する良好な結着力が得られない傾向があり、10重量部を超えると電池として組み立てた際に過電圧が著しく上昇し、電池特性に悪影響をおよぼす傾向があり、好ましくない。
【0032】
本発明の電池電極用組成物には、必要に応じて、水溶性増粘剤などの各種添加剤が添加されていてもよい。例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどの水溶性増粘剤、ヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダなどの分散剤、ラテックスの安定化剤としてのノニオン性、アニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0033】
本発明の電池電極用組成物は、集電体に塗布、乾燥して電池電極として用いるものである。また、電池電極用組成物を集電体に塗布する方法としてはリバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法など任意のコーターヘッドを用いることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できる。
【0034】
本発明の電池電極用バインダーを用いて電池を製造する際に使用される集電体、セパレーター、非水系電解液、端子、絶縁体、電池容器等については既存のものが特に制限無く使用可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を変更しない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0036】
共重合体ラテックスの数平均粒子径測定
透過型電子顕微鏡で撮影した粒子1000個について、画像解析装置を用いて面積円相当径を測定し、数平均粒子径を算出した。
【0037】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
80℃の乾燥機にてラテックスフィルムを作製する。作製したフィルムを約1g秤量し(これをXgとする。)、これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを秤量済みの300メッシュの金網で濾過し、トルエンを蒸発乾燥させ、乾燥後重量から金網重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量する(これをYgとする。)。下記式よりゲル含量を計算した。
ゲル含量(%)=Y/X*100
【0038】
<実施例1〜3>
共重合体ラテックス1〜3の作製
耐圧製の重合反応器に、表1の添加1に示す物質を加えて65℃に昇温した。添加1の単量体の重合転化率が60%以上になった時点で、添加2に示す物質を7時間で連続添加した。その後、重合転化率が97%になるまで重合を継続した。水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整し、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、共重合体ラテックス1〜3を得た。得られた共重合体ラテックスの数平均粒子径、ゲル含有量を表1に示した。
【0039】
<比較例1〜8>
共重合体ラテックス4の作製
耐圧製の重合反応器に、表2の添加1に示す物質を加えて45℃に昇温した。添加1の単量体の重合転化率が70%以上になった時点で、添加2に示す物質を60℃で7時間にわたり連続添加した。その後、重合転化率が97%になるまで重合を継続した。水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整し、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体を除去して、共重合体ラテックス4を得た。得られた共重合体ラテックスの数平均粒子径、ゲル含有量を表2に示した。
【0040】
共重合体ラテックス5、6の作製
耐圧製の重合反応器に、表2の添加1に示す物質を加えて70℃に昇温した。添加1の単量体の重合転化率が60%以上になった時点で、添加2に示す物質を73℃で7時間にわたり連続添加した。その後、重合転化率が97%になるまで重合を継続した。水酸化カリウム水溶液でpHを7に調整し、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体等を除去して、共重合体ラテックス5、6を得た。得られた共重合体ラテックスの数平均粒子径、ゲル含有量を表2に示した。
【0041】
共重合体ラテックス7、8の作製
耐圧製の重合反応器に、表2及び表3の添加1に示す物質を加えて65℃に昇温した。添加1の単量体の重合転化率が60%以上になった時点で、添加2に示す物質を7時間で連続添加した。その後、重合転化率が97%になるまで重合を継続した。水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整し、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体等を除去して、共重合体ラテックス7、8を得た。得られた共重合体ラテックスの数平均粒子径、ゲル含有量を表2及び表3に示した。
【0042】
共重合体ラテックス9の作製
耐圧製の重合反応器に、表3の添加1に示す物質を加えて55℃に昇温した。その後、重合転化率が97%になるまで重合を継続した。アンモニア水溶液でpHを7に調整し、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体等を除去して、共重合体ラテックス9を得た。得られた共重合体ラテックスの数平均粒子径、ゲル含有量を表3に示した。
【0043】
共重合体ラテックス10の作製
耐圧製の重合反応器に、表3の添加1に示す物質を加えて65℃に昇温した。添加1の単量体の重合転化率が60%以上になった時点で、添加2に示す物質を7時間で連続添加した。その後、重合転化率が97%になるまで重合を継続した。水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整し、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体等を除去して、共重合体ラテックス10を得た。共重合体ラテックス10は、固形分50%に調整した際、共重合体ラテックス自体の粘度が非常に高く、ラテックスとしての取扱い不可と判断し、電極評価を実施しなかった。なお、得られた共重合体ラテックスの数平均粒子径、ゲル含有量は表3に示した。
【0044】
共重合体ラテックス11の作製
耐圧製の重合反応器に、表3の添加1に示す物質を加えて65℃に昇温した。添加1の単量体の重合転化率が60%以上になった時点で、添加2に示す物質を7時間で連続添加した。その後、重合転化率が97%になるまで重合を継続したが、凝集物が多発し、重合を最後まで完結することが出来なかったため、途中で重合を中止した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
正極用組成物の作成
正極活物質として、LiCoO を100重量部、導電剤としてアセチレンブラックを5重量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分で1重量部、結着剤として共重合体ラテックスを固形分で2重量部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、正極用組成物を調製した。
【0049】
負極用組成物の作成
負極活物質として平均粒子径が20μmの天然黒鉛を使用し、天然黒鉛100重量部に対して、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分で1重量部、結着剤として共重合体ラテックスを固形分で2重量部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、負極用組成物を調製した。
【0050】
正極シートの作成
各々の正極用組成物を集電体として、厚さ20μmのアルニミウム箔に塗布し、120℃で5分間乾燥後、室温でプレスして、塗工層の厚みが80μm(片面あたり)の正極を得た。
【0051】
負極シートの作成
各々の負極用組成物を集電体となる厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で5分間乾燥後、室温でプレスして、塗工層の厚みが80μm(片面あたり)の負極を得た。
【0052】
電極膜の結着力
上記の方法で得られた電極シートの表面に、ナイフを用いて、電極膜表面から集電体に達する深さまでの切り込みを、2mm間隔で縦横それぞれ6本入れ、25個(5個×5個)のマス目を有する碁盤目を形成した。この碁盤目に粘着テープを貼着して直ちに引き剥がし、電極膜の脱落の程度を下記基準にて目視評価した。結果を表4に示す。
◎:剥離なし。
○:1〜3個のマス目が剥離。
△:4〜10個のマス目が剥離。
×:11個以上のマス目が剥離。
【0053】
電極膜の表面抵抗率の測定
各実施例および各比較例の電極用組成物を、市販のポリエステルフィルムに塗工し、130℃で5分間乾燥した。さらにロールプレスにて圧延することにより、塗布した膜の厚みが約60μm、膜密度が約1.3g/cmのサンプルを得た。
三菱化学アナリテック株式会社製ロレスタ−GPにて、電極膜の表面抵抗率を測定した。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
上記の通り、本発明の電池電極用バインダーは、結着強度が良好であることから、製造工程での電極膜の剥離を抑制でき、さらに電解液による電極膜の膨潤による構造変化も抑制し、その結果、放電性能、充放電サイクル特性の良好な電池を提供することにある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20重量%及び、これらと共重合可能な他の単量体20〜89.9重量%からなる単量体合計100重量部を、環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素0.1〜30重量部の存在下にて、連鎖移動剤を実質的に用いることなく、乳化重合して得られた共重合ラテックスを含む二次電池電極用バインダー。
【請求項2】
環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素が、シクロペンテン、シクロヘキセン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン、シクロヘプテンからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の二次電池電極用バインダー。
【請求項3】
活物質100重量部に対して、請求項1もしくは2に記載の二次電池電極用バインダーを0.1〜10重量部含有する二次電池電極用組成物。

【公開番号】特開2012−212537(P2012−212537A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76802(P2011−76802)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】