説明

電波吸収体およびその製造方法

【課題】 多孔質層中の電波吸収性フィラーの分布が均一で電波吸収効率が高く、室内外の壁や衝立、各種電子機器などに容易に装着可能であり、かつ軽量な電波吸収体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 基材の少なくとも一方の面上に、電波吸収性フィラーを含有する多孔質層を設けた電波吸収体であって、多孔質層が、樹脂、電波吸収性フィラーおよび溶剤を含有する塗工液を塗工後、湿式凝固法により形成された電波吸収体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波吸収体、およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、室内外の壁や衝立、各種電子機器などに容易に装着可能であり、かつ、電波吸収効率が高く軽量な電波吸収体(組立て型電波吸収体用途やλ/4型電波吸収体用途の抵抗皮膜等)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や無線LAN、ITS(ETC、DSRCなど)、ICタグ・カード等の無線認識(RFID)技術の向上にともなって誤信やセキュリティー等の問題が懸念されており、電波を適宜吸収または/および遮断できる加工性の優れた電波吸収体の必要性が高まっている。
このような市場のニーズに対して、電波吸収体に関する次のような技術が提案されている。
特許文献1には、熱可塑性樹脂、水溶解性気泡形成材、水溶解性高分子化合物および機能性物質を混合・混練した加熱混合物をそのまま、または押出、射出成形により所定形状の成形体とし、これを水または温水中に浸漬することで水溶解性気泡形成材、および水溶解性高分子化合物を抽出除去して、多孔質を形成する技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、軟質樹脂発泡体の連続気泡内に電波吸収材料を後から含浸し、発泡体の厚みを1/2〜1/20に圧縮したシート状の電波吸収材が提案されている。
これらの特許文献に記載された電波吸収体は、電波吸収性フィラーを含有あるいは保持する層を多孔質にすることにより入射する電波が層内でより拡散されるので、同量の導電性フィラーを多孔化していない層に含有する電波吸収体に比べて、電波の吸収効率が高いものである。
【0004】
しかしながら、特許文献1の発明では、所定形状の成形体を経てその成形体自体を多孔質化するため、携帯電話等のフレームなどの既存の物品に対しては、その表面に直接に多孔質層を形成することが困難であった。また、特許文献1の手法で、ある程度の多孔質化を施すことは可能であるが、高い電波吸収性を期待できるほどの多孔質化を施すことはできなかった。
また、特許文献2では、軟質樹脂発泡体を圧縮したものをそのまま電波吸収材として用いるため、耐水性に劣り、電波吸収性が低下してしまうという問題があった(電波吸収材の中には、吸湿性の高い物質があり、該物質が水分を吸収した場合、電波吸収性能が低下する性質がある)。また、軟質ウレタンフォーム樹脂発泡体にカーボン分散スラリーを含浸後、余分なスラリーを絞り出す工程が存在するため、カーボン自体が絞り出されてしまい、使用するカーボンにロスが生じてしまうという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−327082号公報
【特許文献2】特開2002−185178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多孔質層中の電波吸収性フィラーの分布が均一で電波吸収効率が高く、室内外の壁や衝立、各種電子機器などに容易に装着可能であり、かつ軽量な電波吸収体およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の電波吸収性フィラー、樹脂、溶媒を含む塗工液を基材に塗工し、特定の溶媒を用いて湿式凝固法により多孔質化することで、その目的を達成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)基材の少なくとも一方の面上に、電波吸収性フィラーを含有する多孔質層を設けた電波吸収体であって、多孔質層が、樹脂、電波吸収性フィラーおよび溶剤を含有する塗工液を塗工後、湿式凝固法により形成されたものであることを特徴とする電波吸収体、
(2)基材として、フィルムを用いる上記(1)の電波吸収体、
(3)乾燥後の多孔質層の厚みが、5〜500μmである上記(1)の電波吸収体、
(4)電波吸収性フィラーが導電性材料からなる上記(1)の電波吸収体、および
(5)基材上に、樹脂、電波吸収性フィラーおよび溶剤を含有する塗工液を塗工後、湿式凝固法により電波吸収性フィラーを含有する多孔質層を設けることを特徴とする電波吸収体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、
1.電波吸収性材料を含む塗工層を、湿式凝固法により凝固させ、多孔質化することにより、表面積が大きくなり、表層に露出するカーボンも多くすることができ、電波吸収性を高めることが可能となる。
2.湿式凝固法を用いることで、他の多孔質化を施す方法に比し、より一層の多孔質化を施すことが可能であり、表面積を大きくさせ、カーボンの露出を大きくすることができる。
3.湿式凝固法により、均一に塗工した塗工層中の電波吸収性フィラーの分布を偏らせることなく塗工層をゲル化し、凝固させた塗工層中に均一に電波吸収性フィラーを固定することができるので、性能のバラツキの少ない電波吸収体を定常的に生産することができる。
4.電波吸収性フィラーの濃度を高めることができるため、圧縮操作等の必要がない。
5.電波吸収性フィラーを含有する塗工層を湿式凝固によりディッピングするため、フィルムだけでなく、立体成形品の表面に対しても、自在に電波吸収性フィラーを含有する層をコートすることができる。
6.多孔質層中において、電波吸収性フィラーの分布を偏らせることなく均一な濃度分布でもって電波吸収性フィラーの濃度をコントロールすることが容易なので、組立て型電波吸収体用途やλ/4型電波吸収体用途の表面抵抗皮膜など、様々な電波吸収特性に応じたそれぞれの電波吸収体を容易に製造することができる。
7.多孔質層の一定面積あたりの厚み方向の電波吸収性フィラーの濃度は、塗工液中の樹脂固形分と電波吸収性フィラーとの配合比で決めることができ、湿式凝固法による多孔化工程に影響されず、湿式凝固法による多孔化工程では、多孔質層の面積あたり厚み方向の電波吸収性フィラーの濃度変化を考慮することなく、電波吸収体の比重の調整や多孔化による吸収性能調整を考慮すればよい。
8.湿式凝固法により、電波吸収性フィラーの単位面積当たりの含有量、および多孔質層の厚みを自由に調節することが可能であり、それぞれの波長に応じた電波吸収体を作製することができる。
9.多孔質層表面の孔から繋がる多孔質層内の空隙は、多孔質層の厚み方向に長い形状とすることにより、多孔質層表面上から入射する電波をより効率よく多孔質層内に拡散することができるので、電波の吸収効率が優れている。
10.基材にプラスチックフィルムや金属板等を用いた場合には、その基材自体が耐水性であるため、フィルム面を外側とすることにより、水などの浸入を防ぐことができ、電波吸収性能を低下させることがない。
11.基材に電磁波シールド特性を有する金属板やアルミ蒸着層を用いた場合、内外部からの電波の通過を抑え、シールド性も期待できる。
等の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の電波吸収体は、基材上に、電波吸収性フィラーを含有する多孔質層を設けた電波吸収体において、多孔質層が、樹脂、電波吸収性フィラーおよび溶剤を含有する塗工液を塗工後、湿式凝固法により形成したものであることを特徴とする。
本発明の電波吸収体に用いられる基材は、本発明に係わる塗工液のコーティングが可能であれば、特に制限はなく、シート状のものに限らず、成形体(シート状のものを成形したものを含む)等を使用することができる。たとえば、プラスチックフィルム、コート紙またはラミネート紙を用いた一般紙、金属フィルム、繊維布等を挙げることができる。なかでも、プラスチックフィルム等が好適に用いられる。
プラスチックフィルムとしては、例えば安価な工業用ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやポリプロピレン(PP)等のオレフィン系フィルムが主に挙げられる。
また、プラスチックフィルム基材は、実用上、その密度が0.5〜2.0g/cm3、好ましくは0.7〜1.5g/cm3の範囲にあることが望ましい。
【0011】
また、本発明における塗工液に用いられる電波吸収性フィラーとしては、導電性材料、磁性材料、誘電性材料、透磁性材料等からなる粉体や繊維状物質が挙げられる。
導電性材料としては、ケッチェンブラックやアセチレンブラックといったカーボンブラック、炭素繊維、ニッケル、銅、鉄等の各種金属粉、金属繊維等があり、導電性に優れたものであれば特に制限はないが、中でもカーボンブラックが好ましく、その中でも特にケッチェンブラックが好適に用いられる。カーボンブラックは、平均粒径が10nm〜80μm、好ましくは20〜300nmの範囲にあることが望ましい。
磁性材料としては、粉状の軟質磁性体、例えば、Fe−Ni合金等の金属系のもの、MO・Fe23(Mは一般に2価の金属であるが、1価と3価の場合もある)で表される酸化物フェライト、Fe−Al系、Fe−Si−Al系のセンダスト、カーボニル鉄等が挙げられる。
誘電性材料としては、チタン酸バリウム、酸化チタン等の金属化合物、ポリエチレン系繊維等の各種樹脂繊維が挙げられる。
また、透磁性材料としては、珪素を含有する金属粉末、パーマアロイ、アモルファスカーボン等が挙げられる。
これら電波吸収性フィラーは、電波特性に応じて吸収する周波数帯を種々選択でき、導電性材料、磁性材料、誘電性材料、透磁性材料等からなるそれらのフィラーを混合し適宜、使用することができる。
【0012】
本発明における塗工液に用いる溶媒としては、電波吸収性フィラーを含有あるいは保持する多孔質層を形成する樹脂を溶解するものであれば特に制限はなく、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルオキシドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上混合して用いてもよい。
【0013】
また、塗工液に用いる樹脂としては、例えば、アクリル系、スチレン系、ウレタン系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系又はそれらの共重合体からなる樹脂を挙げることができる。例えば、特殊変性ウレタン樹脂を用いた場合、湿式凝固法にてゲル化する際に残留するイソシアネート基(NCO)が水と反応して微量の炭酸ガスが発生することにより、より微細な多孔質層を形成することができる。
【0014】
さらに、塗工液中の電波吸収性フィラーを均一に分散させるため、界面活性剤等を用いることが好ましい。
例えば、界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の何れでも可能である。
アニオン系の例としては、アルキルスルホン酸塩系、アルキルベンゼンスルホン酸系、高級アルコール硫酸エステル系,高級アルキルエーテル硫酸エステル系等があげられる。
カチオン系の例としては、ジメチルアルキルベンジルアンモニウニウム塩系,スチレンアクリル第4級アンモニウム塩系、塩化ベンザルコニウム,ドデシルアミン塩酸等のアルキルアミン,トリメチルアミノエチルアルキルアミドハロゲニド等があげられる。
ノニオン系の例としては、酸化エチレン系、多価アルコール脂肪酸エステル系、ポリエチレンイミン系および脂肪酸アルキロールアミド系等があげられる。
さらには、基材面との塗工性および接着性を向上させるため、濡れ剤やその他接着剤等の助剤も添加することが望ましい。また、電波吸収体としての性能を低下させない限り、導電性粉末に加えて、難燃剤や防カビ剤、滅菌剤、抗菌剤等のフィラーを添加することができる。
【0015】
多孔質層を製造する場合は、上記塗工液を基材上に塗布したものを、塗工液の溶媒には相溶性があるが、樹脂は不溶の溶媒を入れた凝固浴中に浸漬処理する湿式凝固法により、電波吸収性フィラーを含有する多孔質層を形成する。
上記、凝固浴に用いる、塗工液の溶媒には相溶性があり樹脂には不溶の溶媒は、水、エタノール、メタノール、又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上混合して用いてもよい。また、この凝固浴に用いる溶媒には、樹脂が不溶である範囲まで、塗工液の溶媒を混合してもよい。
塗工液に用いる溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を、樹脂は不溶の溶媒として水を用いると、製造工程上、取り扱いが非常に容易である。塗工層中の樹脂をゲル化、凝固する湿式凝固法の工程で、塗工液中のDMFは凝固浴の水中に拡散され、凝固浴はDMF/水混合液になる。
【0016】
<塗工液の調製>
塗工液組成の配合比は、質量比で、以下の範囲を例示することができる。
*樹脂:10〜20質量部
*電波吸収性フィラー:1〜30質量部、好ましくは3〜15質量部、更に好ましくは6〜11質量部
*界面活性剤:0.5〜3質量部
*溶媒:30〜140質量部
樹脂を溶解させる方法、電波吸収性フィラーを分散させる方法には特に制限はなく、通常の方法を用いることができ、スリーワンモーター、スターラー等で攪拌する。攪拌時間は、濃度、種類によって異なるが、おおよそ1〜10時間程度である。その際、加熱攪拌することが好ましい。
<塗工方法>
塗工液を塗布する手段は特に制限はされないが、リバースロールコーター法、エアナイフコーター法、グラビアコーター法、ブレードコーター法などの公知の方法を用いることができる。
【0017】
基材上に多孔質層を湿式凝固法によって形成後、乾燥する。乾燥条件としては、通常、温度70±20℃、乾燥時間10±5秒の範囲で行なわれる。乾燥後の多孔質層の厚みは使用条件等によって適宜きめられるが、基材の片面につき、通常5〜500μmが好ましく、13〜300μmがより好ましい。
【0018】
上記製造方法で得られた乾燥後の多孔質層中の電波吸収性フィラーの固形分濃度は、20〜60質量%、好ましくは30〜50質量%程度が望ましい。
多孔質層表面に形成される孔の径は、1〜10μm程度が好ましく、表面の孔からつながる多孔質層内の空隙は、アスペクト比[多孔質層の厚み/孔径]が1.5〜100であることが好ましい。
電波吸収性フィラーは、多孔質層の樹脂中、および空隙部分では少なくとも粒子の一部が樹脂に取り込まれていない状態で分布することが好ましい。このように、空隙に少なくとも粒子の一部をさらした状態で固定された電波吸収性フィラーは、電波吸収時にフィラーの伸縮運動が妨げられることなく活発になるために、このようなフィラーが存在することによって電波吸収性能がより向上する。電波吸収性フィラーを上記のように分布させるためには、ビーズミル等の分散機で該フィラーを分散させることが効果的である。
【0019】
さらに、本発明の電波吸収体は、塗工層表面に帯電防止処理を施すことで、より効果的な電波吸収性能を発揮することができる。さらに、該電波吸収体は、別種類の電波吸収体である、ウレタンフォーム含浸タイプ、フェライト、またはゴム状電波吸収シートと複合することで、広範囲の電波吸収特性を発揮することもできる。
また、該電波吸収体は、電磁波シールド特性を有する金属板やアルミ蒸着層などと複合することで、電波吸収と電磁波シールドの効果を併せ持つこともできる。又、電波吸収体と金属板またはアルミ蒸着層の間を吸収しようとする電波の1/4に設定することで、λ/4型電波吸収体とすることが出来る。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、フィルム状電波吸収体の性能は、以下に示す方法に従って評価した。
反射減衰率:
次の2つの用途に区分して、その反射減衰率を測定した。
1.フェライト複合電波吸収体用途
36インチ高のピラミッド型に組み立てた不燃紙の外側に電波吸収体を貼り付け、フェライト板(品名:フェライトタイル(ニッシンボウエンジニアリング社製))と複合した場合の電波吸収性能をNRLアーチテスト法にて測定した。
2.λ/4型電波吸収体用途
拡大導波管に、電波吸収体のサンプル(1cm×2cm)及びスペーサーを装填し、電波吸収性能をネットワークアナライザー(HP社製)で測定した。
また、本発明の電波吸収体の標準タイプの表面電顕写真を図1に、および断面写真を図2に示す。図より、多孔質の孔径は、1〜10μm程度と推定される(図1)。また、多孔質層の厚みは30μmである(図2)。
【0021】
実施例1
平均粒径34nmのカーボン粉末(ケッチェンブラック)(品名:EC600JD;ライオン(株)製)5質量部およびバインダー樹脂としてスチレンアクリル樹脂(品名:トーヨーAS;東洋スチレン(株)製)14質量部を、DMF134質量部中に界面活性剤(品名:サーヒィノールCT−136;信越化学(株)製)1質量部程度と共に攪拌混合後、PETフィルム(200mm×200mm、厚み50μm)上にハンドアプリケータにて塗工した。塗工後速やかに水に浸漬し、塗工層表面をゲル化させ、最終塗工厚みを70μmとした。塗工層比重0.8前後の多孔質層を有するフィルム状電波吸収体が得られた。該フィルム状電波吸収体10cm2中に含まれるカーボン量は約110mgである。
得られたフィルム状電波吸収体の、フェライト複合電波吸収体用途の反射減衰率を測定し、その結果を表1に記載した。
【0022】
比較例1
平均粒径34nmのカーボン粉末(ケッチェンブラック)(品名:EC600JD;ライオン(株)製)10質量部およびバインダー樹脂としてスチレンアクリル樹脂(品名:トーヨーAS;東洋スチレン(株)製)14質量部を、酢酸エチル−トルエン−MEK混合溶剤(容量比で3:4:3)134質量部中に界面活性剤(品名:サーヒィノールCT−136;信越化学(株)製)1質量部程度と共に攪拌混合後、PETフィルム(200mm×200mm、厚み50μm)上に塗工した。塗工層表面を乾式法にて乾燥させ、最終塗工厚みをそれぞれ55μmとした。塗工層比重1.0前後の非多孔質層のフィルム状電波吸収体が得られた。該フィルム状電波吸収体10cm2中に含まれるカーボン量は、約110mgとした。
得られたフィルム状電波吸収体の、フェライト複合電波吸収体用途の反射減衰率を測定し、その結果を表1に記載した。
【0023】
実施例2
最終塗工厚みをそれぞれ70,100,130μmとした以外は、実施例1と同様にして、塗工層比重0.8前後の多孔質層を有するフィルム状電波吸収体を得た。該フィルム状電波吸収体10cm2中に含まれるカーボン量はそれぞれ、約220、320、420mgである。
得られたフィルム状電波吸収体の、λ/4型電波吸収体用途の反射減衰率を測定し、その結果を表2に記載した。
【0024】
実施例3
実施例1において、PETフィルム(200mm×200mm、厚み50μm)の代わりに、PETフィルムを一辺100mmの立方体になるように折り曲げ、接するフィルム端部をポリエステル樹脂で熱融着した立方体筒状成形物を塗工液中にディッピングして、立法体筒状成形物の表裏面に塗工液を塗工し、塗工後速やかに水に浸漬し、塗工層表面をゲル化させ、最終塗工厚みを表裏合わせて130μmとした。
得られたフィルム状電波吸収体の、λ/4型電波吸収体用途の反射減衰率を測定し、その結果を表2に記載した。
【0025】
比較例1
平均粒径34nmのカーボン粉末(ケッチェンブラック)(品名:EC600JD;ライオン(株)製)10質量部およびバインダー樹脂としてスチレンアクリル樹脂(品名:トーヨーAS;東洋スチレン(株)製)14質量部を、酢酸エチル−トルエン−MEK混合溶剤(容量比で3:4:3)134質量部中に界面活性剤(品名:サーヒィノールCT−136;信越化学(株)製)1質量部程度と共に攪拌混合後、PETフィルム(200mm×200mm、厚み50μm)上に塗工した。塗工層表面を乾式法にて乾燥させ、最終塗工厚みをそれぞれ55,80,105μmとした。塗工層比重1.0前後の多孔質層を有するフィルム状電波吸収体が得られた。該フィルム状電波吸収体10cm2中に含まれるカーボン量は、実施例1同様、それぞれ、約220、320、420mgとした。
得られたフィルム状電波吸収体の、λ/4型電波吸収体用途の反射減衰率を測定し、その結果を表2に記載した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
上記結果により、湿式凝固法を用いた方が、カーボン含有量が同等であった場合には、高い電波吸収性能を発揮することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施態様の一例を示す、標準タイプの表面電顕写真である。
【図2】本発明の実施態様の一例を示す、標準タイプの断面電顕写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面上に、電波吸収性フィラーを含有する多孔質層を設けた電波吸収体であって、多孔質層が、樹脂、電波吸収性フィラーおよび溶剤を含有する塗工液を塗工後、湿式凝固法により形成されたものであることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
基材として、フィルムを用いる請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
乾燥後の多孔質層の厚みが、5〜500μmである請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項4】
電波吸収性フィラーが導電性材料からなる請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項5】
基材上に、樹脂、電波吸収性フィラーおよび溶剤を含有する塗工液を塗工後、湿式凝固法により電波吸収性フィラーを含有する多孔質層を設けることを特徴とする電波吸収体の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−80498(P2006−80498A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229998(P2005−229998)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】