説明

電波吸収体及びその設計方法

【課題】一もしくは複数の界面から電波反射層を見込んだ入力インピーダンスを面上で局所的にランダム化することにより、電波吸収性能を向上させた電波吸収体を実現する。
【解決手段】従来の層構造を有する電波吸収体では、各層について均一な厚み及び均一な電気定数のみをパラメータとして電波吸収体を実現していたが、本発明では電波吸収体を構成する各層の電気定数、層の厚みもしくは界面の傾きを連続的な確率分布あるいは離散的な確率分布にしたがって局所的に変化させ、局所的に入力インピーダンスをランダム化することにより、電波吸収特性をより向上させた電波吸収体の実現を可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波反射層と電波吸収層を有する層構造の電波吸収体及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波吸収体は、電波暗室内での電波散乱抑制、各種構造体によるレーダ偽像防止、レーダ反射断面積低減、ETCの誤作動防止、電波機器の人体への影響を計測するための人体ファントム用部材への使用等を目的として近年広く産業界でその需要が増大している。
【0003】
層構造を有する一般的な電波吸収体は、図1(A)に示すように、入射電波の透過を阻止し反射するための電波反射層1、電波のエネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有する電波損失材をフィラーとしてバインダーに混入した電波吸収層2、入力インピーダンスの整合を行う電波整合層3、及び外部環境から各層を保護するための電波表面層4から構成される。
【0004】
電波吸収層及び電波整合層は複数あってもよい。また、電波表面層については、電波吸収層もしくは電波整合層で代用してもよい。さらに、電波整合層を電波吸収層で代用してもよい。
【0005】
電波吸収体による電波の吸収メカニズムの説明としては、電波を波動として扱う場合と幾何光学的なレイとして扱う場合があるがいずれも結果は同じである。図4を用いて幾何光学的に説明すると以下のようになる。
【0006】
入射電波であるレイ6は電波吸収体表面でフレネルの法則に従い、一部がレイ7として反射され残りがレイ8として透過する。透過したレイ8は各層の界面5で反射及び透過を繰り返し、途中の電波吸収層2では吸収減衰し、電波反射層1まで達すると全反射される。
【0007】
全反射されたレイ9は電波吸収体表面に達するまで前記透過レイ8と同様の過程を経て吸収体表面に達するとその一部が透過し、残りが再反射される。この一連のレイ群の伝搬過程により、全体として電波が吸収される。
【0008】
一方、電波を波動として扱う場合は分布定数回路でモデル化することにより、その電波吸収量S[dB]は、入射面での電波の振幅反射率Γを用いて下記式(1)及び(2)で求められる。
【数1】

【数2】

【0009】
ここで、Zinは入射面から電波吸収体内部を見たときの規格化入力インピーダンスであり、光速度、入射電波の周波数、電波吸収体表面での電波の入射角、各層の厚み、及び各層の電気定数の複素関数である。従って、振幅反射率Γも振幅と位相を有する複素関数となる。
【0010】
電波吸収量を大きくするためには、電波吸収層を厚くするとともに損失材の量を多くして電波の熱への変換効率を高めることが通常考えられる。
【0011】
しかし、単純に電波吸収層を厚くし損失材の量を多くするだけでは、電波吸収体と空気のインピーダンスの不一致により電波吸収体表面での電波の反射量が増大し、吸収性能は良くならない。
【0012】
従来インピーダンスのマッチングをよくするために、
1.電波吸収体表面から電波反射層に向かって誘電率や透磁率である電気定数を連続的に変化させる、
2.多層化する、
3.層間界面に二次元的な構造物を挟む、
4.界面に周期的凹凸をつける、
等の解決手法が提案されている。各手法の代表的な文献を特許文献1乃至3に提示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−119643号公報
【特許文献2】特許第4108677号公報
【特許文献3】特開2004−207506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
電波吸収体の各層の厚みが場所的に均一であれば、前記分布定数回路を用いてモデル化できるため、従来型の電波吸収体では各層の厚みが均一という条件下で最適値を求めていた。
【0015】
一方、電波吸収体各層界面もしくは電波吸収体表面(空気と電波吸収体との界面)に導体パッチ、導体ホール、凹凸などを配列することによる、電波吸収特性の改善策が近年提案されているが、いずれも周期的な構造に限定されていた。このように従来の電波吸収体の実現にあたっては、上記条件の範囲内で設計していたため、電波吸収特性向上も限定される問題があった。
【0016】
本発明は、上記の点に鑑み、一もしくは複数の界面から電波反射層を見込んだ入力インピーダンスを界面上で非周期的に変化させることにより、電波吸収性能を向上させた新しいタイプの電波吸収体及びその設計方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のある態様は、電波吸収体である。この電波吸収体は、
電波反射層と電波吸収層と電波整合層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層とからなる電波吸収体であって、
少なくとも一つの界面から前記電波反射層側を見込む入力インピーダンスが場所的に非周期的に変化し、その変化量が平均と分散を有する確率分布に従うことを特徴とする。
【0018】
前記入力インピーダンスの変化が、電波吸収体を構成する各層のうち少なくとも一つの層の電気定数の場所的な変化で実現されるとよい。
【0019】
前記入力インピーダンスの変化が、電波吸収体を構成する各層のうち少なくとも一つの層の厚みの場所的な変化で実現されるとよい。
【0020】
前記電気定数の実部、虚部もしくは前記厚みの少なくとも一つが連続的に変化し、その値の確率分布が連続一様分布、正規分布、指数分布、t分布、カイ二乗分布、ガンマ分布、ベータ分布、F分布、アーラン分布、三角分布、ラプラス分布、レイリー分布、ロジスティック分布、バレード分布、もしくはワイブル分布のいずれか一つであるとよい。
【0021】
セル構造を有し、前記電気定数の実部、虚部もしくは前記厚みの少なくとも一つがセルごとに離散的に変化し、その値の確率分布が離散一様分布、二項分布、ポアソン分布、負の二項分布、ベルヌーイ分布、超幾何分布、多項分布、もしくはジップ分布のいずれか一つであるとよい。
【0022】
前記セル構造において、セル形状が多角形であるとよい。
【0023】
前記セル構造において、前記電波表面層が複数種の塗装であるとよい。
【0024】
電波反射層と電波吸収層と電波整合層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層とからなる電波吸収体であって界面から前記電波吸収層側を見込む入力インピーダンスが場所的に均一である基準電波吸収体と比較して、所定周波数範囲及び所定入射角度範囲における電波吸収量が大きいとよい。
【0025】
本発明の別の態様は、電波吸収体の設計方法である。この方法は、
電波反射層と電波吸収層と電波整合層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層とからなる電波吸収体であって界面から前記電波吸収層側を見込む入力インピーダンスが場所的に均一である基準電波吸収体を仮想的にセル構造に分割し、前記基準電波吸収体を構成する各層のうち少なくとも一つの層の電気定数の実部もしくは虚部又は厚みの少なくとも一つをセルごとに変化させたものを設計値とする電波吸収体の設計方法であって、
平均と分散を有する確率分布に従う確率変数をセルごとに発生させて、その発生した確率変数に基づいて前記電気定数の実部もしくは虚部又は前記厚みの少なくとも一つの変化量をセルごとに決定することを特徴とする。
【0026】
前記平均と分散を有する確率分布が、離散一様分布、二項分布、ポアソン分布、負の二項分布、ベルヌーイ分布、超幾何分布、多項分布、もしくはジップ分布のいずれか一つであるとよい。
【0027】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電波吸収体の局所的な電気定数、局所的な層の厚み、もしくは局所的な界面の傾きを設計パラメータに取り込むことにより、従来設計できなかった局所入力インピーダンスの非周期変化が実現可能となり、これにより従来よりも高性能の電波吸収体及びその設計方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(A)は層構造を有する電波吸収体の構造断面図。(B)は本発明に係る電波吸収体の第1の実施の形態であって、界面上の局所入力インピーダンス(Zin)が場所的にランダムに連続的に変化している様子を示す説明図。(C)は本発明に係る電波吸収体の第1の実施の形態であって、界面上の局所入力インピーダンスが場所的にランダムに離散的に変化している様子を示す説明図。
【図2】(A)は本発明に係る電波吸収体の第2の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層の電気定数が場所的にランダムに連続的に変化している様子を示す説明図。(B)は本発明に係る電波吸収体の第3の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層の電気定数が場所的にランダムに離散的に変化している様子を示す説明図。
【図3】(A)は本発明に係る電波吸収体の第4の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層の厚みがランダムに連続的に変化している様子を示す断面図。(B)は本発明に係る電波吸収体の第5の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層の厚みがランダムに離散的に変化している様子を示す断面図。(C)は本発明に係る電波吸収体の第6の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層間界面の傾きがランダムに離散的に変化している様子を示す断面図。
【図4】一般的な層構造を有する電波吸収体における、電波をレイとしてみた場合の伝搬の様子を示した概念図。
【図5】(A)は同一のΓ/Nを有する振幅反射率ベクトル群の和を示した説明図。(B)は互いに異なる振幅反射率ベクトル群の和を示した説明図。
【図6】(A)は層間界面で発生する二次球面波の位相差が一定の場合に、散乱波の等位相面が平面であることを示した説明図。(B)は層間界面で発生する二次球面波の相互の位相差がランダムの場合に、散乱波の等位相面が曲面であることを示す説明図。
【図7】(A)は本発明に係る実施例1の電波吸収体の第一層目における各セルごとの誘電率の実部分布図。(B)は前記実施例1の電波吸収体の電波吸収特性の電磁界シミュレータによる結果を示す説明図。
【図8】(A)は本発明に係る実施例2の電波吸収体の第一層目における各セルごとの厚み分布図。(B)は前記実施例2の電波吸収体の電波吸収特性の電磁界シミュレータによる結果を示す説明図。
【図9】(A)は本発明に係る実施例3の電波吸収体の第一層目における各セルごとの厚み分布図。(B)は前記実施例3の電波吸収体の電波吸収特性の電磁界シミュレータによる結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0031】
一もしくは複数の界面から電波反射層を見込んだ入力インピーダンスは一般に、層の電気定数、層の厚み、層間界面と入射電波の成す入射角により変化する。したがって、本発明の実施の形態に係る電波吸収体では、電波吸収体を構成する各層の電気定数、層の厚み、界面の傾きを連続的もしくは離散的に場所的にランダムに変化させている。すなわち、本発明の実施の形態は、一もしくは複数の界面から電波反射層を見込んだ入力インピーダンスが場所的にランダムに変化していることを特徴とするものである。なお、界面は、電波吸収体の表面すなわち空気層と電波吸収体との境界面を含んでもよい。
【0032】
図1(A)は、層構造を有する電波吸収体の構造断面図である。図1(B)は、本発明に係る電波吸収体の第1の実施の形態であって、界面上の局所入力インピーダンス(Zin)が場所的にランダムに連続的に変化している様子を示す説明図である。図1(C)は、本発明に係る電波吸収体の第1の実施の形態であって、界面上の局所入力インピーダンスが場所的にランダムに離散的に変化している様子を示す説明図である。
【0033】
図2(A)は、本発明に係る電波吸収体の第2の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層の電気定数が場所的にランダムに連続的に変化している様子を示す説明図である。図2(B)は、本発明に係る電波吸収体の第3の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層の電気定数が場所的にランダムに離散的に変化している様子を示す説明図である。
【0034】
図3(A)は、本発明に係る電波吸収体の第4の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層の厚みがランダムに連続的に変化している様子を示す断面図である。図3(B)は、本発明に係る電波吸収体の第5の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層の厚みがランダムに離散的に変化している様子を示す断面図である。図3(C)は、本発明に係る電波吸収体の第6の実施の形態であって、電波吸収体を構成する一もしくは複数の層間界面の傾きがランダムに離散的に変化している様子を示す断面図である。
【0035】
本発明者は、一もしくは複数の界面から電波反射層を見込んだ入力インピーダンスを層間界面上で場所的にランダムに変化させた場合、従来の入力インピーダンスが一様な電波吸収体に較べて電波吸収量や電波吸収帯域が改善されることを見いだした。入力インピーダンスと電波反射率の観点からこの吸収原理について以下詳述する。
【0036】
従来の層構造電波吸収体では、振幅反射率Γは電波吸収体表面で一様な定数であったが、本発明の実施の形態では層の厚み、電気定数、界面の局所的な傾きが場所ごとにランダム変動することにより局所入力インピーダンスZinがランダムとなり、局所振幅反射率Γも電波吸収体表面上のランダム関数となる。
【0037】
一例として面積Sを有する電波吸収体の表面を仮想的に面積Snを有するN個のセルに分割し、各セルの入力インピーダンスをランダム化した場合を考える。遠方界領域における反射率は、下記式(3)に示すように、個々のセルの振幅反射率Γnと、面積の重み付けをした係数αnとの積の総和となる。
【0038】
【数3】

【0039】
ただし、Γnはセルの位置と観測点間の距離差に伴う位相差を考慮したものとする。この式で従来の電波吸収体は、αn=1/N,Γn=Γであり、フェーザー表示すると図5(A)に示すように同一のΓ/Nを有する複素数である振幅反射率(符号10で示す)がN個、コヒーレントに加算されている。
【0040】
一方、本発明の実施の形態では、Γnの振幅は従来のものよりも大きくなるものもあるが、位相がランダムであるため、それらを加算したものは図5(B)に示すように、前記コヒーレントに加算した従来の電波吸収体の反射率よりも小さくなる場合がある。
【0041】
また、ホイヘンスの原理によれば、図6に示すように入射レイ6及び波面11を有する平面入射波が各セルに照射されると、各セルを波源とする2次球面波が発生し、界面近傍ではこれらの合成として散乱波が形成される。従来の電波吸収体界面においては、この2次球面波が相関性を持って加算されるため、図6(A)に示すようにその波面12は平面状となりレイ7も空間的に同一方向を有する。
【0042】
一方、本実施の形態の電波吸収体では、前記2次球面波の相関性が小さいため、合成された波面12は図6(B)に示すように凹凸状を有する曲面となりレイ7は拡散散乱され、鏡面反射方向の反射率は減少し、レイの伝搬長が伸長することにより電波吸収減衰の効果が大きくなる。
【0043】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0044】
(1) 電波吸収体の電気定数、局所的な層の厚み、もしくは局所的な界面の傾きを界面上の場所ごとの設計パラメータとして取り込むことにより、従来設計できなかった局所入力インピーダンスのランダム化が実現可能となり、これにより従来よりも高性能の電波吸収体が実現することができる。
【0045】
(2) さらに、層の厚みもしくは界面の傾きを場所的に変化させた結果として層間界面が粗面となる場合は、層間界面の密着度が増し、隣接層が剥がれにくいという副次的な効果も期待できる。
【0046】
(3) また、電波的な欺瞞性を高めるために航空機等に電波吸収塗料を塗布し、さらに可視光における欺瞞も行うためにトップコートとして複数種の塗装(例えば迷彩塗装)を施した場合、局所的な電気特性が同じである従来の電波吸収塗料では、複数種の塗装の局所的なインピーダンスの変化に追従できず電波吸収特性が劣化する可能性もあるが、本実施の形態では対応可能となる。
【0047】
以下に、本実施の形態の手法により設計した実施例に係る電波吸収体の吸収性能について、FVTD法を用いた電磁界シミュレータによる結果を示す。
【実施例1】
【0048】
垂直入射において8GHzに吸収ピークを有するように設計された一辺長が150mm、第一層及び第二層の厚みがそれぞれ1mm、第一層の誘電率が14.5−j0.44、第二層の誘電率が5.0−j0.445、第一層及び第二層の透磁率がそれぞれ2.1−j1.95の二層構造電波吸収層を電波反射層で裏打ち(電波到来方向よりみて第一層の裏面に電波反射層を配置)した電波吸収体を基準電波吸収体とする。この基準電波吸収体を一辺長30mmの25個のセルに分割し、第一層の電気定数のうち誘電率の実数部を図7(A)に示すようにセルごとに変化させたものが本実施例の電波吸収体である。変化量は、離散一様確率分布に従いランダム化したものである。すなわち、離散一様分布に従う確率変数をセルごとに発生させて変化量としている。垂直入射における本実施例の電波吸収体の電波吸収量を基準電波吸収体の電波吸収量と対比して図7(B)に示す。
【0049】
図から明らかなように、本手法による電波吸収体は基準電波吸収体よりも吸収性能が向上しており、本手法の有効性が確認された。
【実施例2】
【0050】
前記基準電波吸収体において、電波吸収層の全体厚みを2mmに固定し、第一層の厚みを図8(A)に示すようにセルごとに変化させたものが本実施例の電波吸収体である。変化量は、離散一様分布に従いランダム化したものである。すなわち、離散一様分布に従う確率変数をセルごとに発生させて変化量としている。垂直入射における本実施例の電波吸収体の電波吸収特性を基準電波吸収体の電波吸収量と対比して図8(B)に示す。この場合も、実施例1と同様に本手法を適用する前よりも吸収性能が向上しており、本手法の有効性が確認された。
【実施例3】
【0051】
前記基準電波吸収体において、電波吸収層の全体厚みを2mmに固定し、第一層の厚みを図9(A)に示すように、実施例2とは異なる分布にした場合の垂直入射における電波吸収特性を図9(B)に示す。この場合も、実施例2と同様に本手法を適用する前よりも吸収性能が向上しており、本手法の有効性が確認された。
【0052】
以上、実施の形態及び実施例を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。
【0053】
本発明の各実施例においては、矩形状の同一面積のセルを用いているが、面積及び形状は任意でもよく、面積を微細化した極限においては、厚み変化は連続となり厚みの確率分布も離散分布から連続分布に移行する。なお、形状の別の例としては三角形や六角形等の多角形が挙げられる。
【0054】
厚みは離散一様分布に従う乱数を発生させ生成したが、他の平均と分散を有する離散確率分布(例えば二項分布、ポアソン分布、負の二項分布、ベルヌーイ分布、超幾何分布、多項分布、もしくはジップ分布)に従ってもよい。連続分布の場合も同様に、連続一様分布に限らず、正規分布、指数分布、t分布、カイ二乗分布、ガンマ分布、ベータ分布、F分布、アーラン分布、三角分布、ラプラス分布、レイリー分布、ロジスティック分布、バレード分布、もしくはワイブル分布その他に従ってもよい。
【0055】
各実施例においては垂直入射についての設計例を示したが、任意の角度の斜入射についても、同様の設計手法により従来よりも電波吸収性能の向上を図ることが可能である。また、各実施例においては8GHzを吸収ピークとして6〜10GHzを主な吸収範囲としたが、吸収ピーク及び主な吸収範囲は任意であり、例えばVHF帯、UHF帯、SHF帯その他の周波数帯から適宜選択可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
従来の層構造電波吸収体では、層に関して均一な電気定数、均一な厚み、周期的な構造パターンという三種類の設計パラメータのみで電波吸収体を設計実現していたが、本発明は層の局所的厚み、界面の局所的な傾き又は局所的な電気定数の不均一化という概念を取り入れることにより設計条件範囲を広げることを提案し、従来に較べ電波吸収特性をより向上させた電波吸収体を実現できる。
【符号の説明】
【0057】
1 電波反射層
2,2A,2B 電波吸収層
3 電波整合層
4 電波表面層
5 電波吸収体の界面
6 入射レイ
7 反射レイ
8 透過レイ
9 全反射レイ
10 各セルの反射率のフェーザー表示
11 入射電波の波面
12 反射電波の波面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波反射層と電波吸収層と電波整合層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層とからなる電波吸収体であって、
少なくとも一つの界面から前記電波反射層側を見込む入力インピーダンスが場所的に非周期的に変化し、その変化量が平均と分散を有する確率分布に従うことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記入力インピーダンスの変化が、電波吸収体を構成する各層のうち少なくとも一つの層の電気定数の場所的な変化で実現されることを特徴とする請求項1記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記入力インピーダンスの変化が、電波吸収体を構成する各層のうち少なくとも一つの層の厚みの場所的な変化で実現されることを特徴とする請求項1記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記電気定数の実部、虚部もしくは前記厚みの少なくとも一つが連続的に変化し、その値の確率分布が連続一様分布、正規分布、指数分布、t分布、カイ二乗分布、ガンマ分布、ベータ分布、F分布、アーラン分布、三角分布、ラプラス分布、レイリー分布、ロジスティック分布、バレード分布、もしくはワイブル分布のいずれか一つであることを特徴とする請求項2又は3記載の電波吸収体。
【請求項5】
セル構造を有し、前記電気定数の実部、虚部もしくは前記厚みの少なくとも一つがセルごとに離散的に変化し、その値の確率分布が離散一様分布、二項分布、ポアソン分布、負の二項分布、ベルヌーイ分布、超幾何分布、多項分布、もしくはジップ分布のいずれか一つであることを特徴とする請求項2又は3記載の電波吸収体。
【請求項6】
前記セル構造において、セル形状が多角形であることを特徴とする請求項5記載の電波吸収体。
【請求項7】
前記セル構造において、前記電波表面層が複数種の塗装であることを特徴とする請求項5又は6記載の電波吸収体。
【請求項8】
電波反射層と電波吸収層と電波整合層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層とからなる電波吸収体であって界面から前記電波吸収層側を見込む入力インピーダンスが場所的に均一である基準電波吸収体と比較して、所定周波数範囲及び所定入射角度範囲における電波吸収量が大きいことを特徴とする請求項1から7のいずれか記載の電波吸収体。
【請求項9】
電波反射層と電波吸収層と電波整合層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層と電波表面層とからなる電波吸収体、もしくは電波反射層と電波吸収層とからなる電波吸収体であって界面から前記電波吸収層側を見込む入力インピーダンスが場所的に均一である基準電波吸収体を仮想的にセル構造に分割し、前記基準電波吸収体を構成する各層のうち少なくとも一つの層の電気定数の実部もしくは虚部又は厚みの少なくとも一つをセルごとに変化させたものを設計値とする電波吸収体の設計方法であって、
平均と分散を有する確率分布に従う確率変数をセルごとに発生させて、その発生した確率変数に基づいて前記電気定数の実部もしくは虚部又は前記厚みの少なくとも一つの変化量をセルごとに決定することを特徴とする電波吸収体の設計方法。
【請求項10】
前記平均と分散を有する確率分布が、離散一様分布、二項分布、ポアソン分布、負の二項分布、ベルヌーイ分布、超幾何分布、多項分布、もしくはジップ分布のいずれか一つであることを特徴とする請求項9記載の電波吸収体の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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