説明

電波吸収特性測定装置

【課題】 電波吸収特性測定における送信アンテナと受信アンテナの被測定物に対する位置決めの対応関係のずれを確認でき,各アンテナの位置決めを容易化できること。
【解決手段】 送信アンテナ1,受信アンテナ2のいずれから電波を出射させるかをスイッチ21,22により切り替え可能とし,各々から電波を出射させたときの被測定物の設置面4における受信電波の強度分布を,その設置面4に配列された複数の平面アンテナ素子3各々による受信信号に基づいて測定する。さらに,2つのアンテナ各々から電波が出射された各々の場合について測定した強度分布の両測定結果を比較して,各アンテナの位置ずれを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,送信アンテナからの電波を電波吸収特性の被測定物に照射し,その反射電波を受信アンテナに入射させて測定信号を得るために用いる電波吸収特性測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機や無線LAN,ETC(自動料金収受システム)等の無線通信機器が普及し,電波の利用が広がるにつれて電波吸収体の需要も増大してきている。このような電波吸収体は,電波がほぼ垂直入射される状況のみならず,電波の入射角が大きい状況で利用される場面が増え,これに伴い,電波吸収体の電波吸収特性測定において,入射角依存性評価が要求されている。
図4は,前記入射角依存性評価のための電波吸収特性測定方法を模式的に表した図である。
図4に示すように,所定の位置に配置した被測定物11(電波吸収体)に対して送信アンテナ1からの電波を照射し,その反射電波を受信アンテナ2に入射させて測定信号を得る。その際,送信アンテナ1及び受信アンテナ2各々を,被測定物11の測定部11aを中心として,その測定部11a表面の垂線14の方向に対する両側各々に対称な角度(図中,角度a,b等)で回動させることにより,被測定物11への電波の入射角を変更し,その変更ごとに測定信号(受信アンテナ2による受信信号)を得る。これにより,被測定物11への電波の入射角度と測定信号の減衰レベルとの関係から,被測定物11の電波吸収特性の入射角依存性を評価することができる。例えば,電波を全反射する金属板等の電波吸収特性が既知である参照面(被測定物の設置面等)について予め電波の入射角度と測定信号の減衰レベルとの関係を参照データとして測定して記憶しておき,これと被測定物11についての測定信号との比較によって被測定物11の電波吸収特性の入射角度依存性を評価できる。
一般に,送信アンテナ1に対する高周波の基準信号の出力及び受信アンテナ2により受信された測定信号の入力,並びにその測定信号の信号強度や位相の測定は,ベクトルネットワークアナライザにより行われる。
また,図4に示す測定を実現する測定装置の具体例として,例えば,特許文献1の図26には,アーチ状のアンテナ支持具に送信アンテナと受信アンテナとを移動可能に取り付ける構成を有するものが示されている。
同じく,特許文献1の図27には,左右対称となる位置に配置された対となる送信アンテナと受信アンテナとを複数組設け,信号線切換機により測定信号の入力経路を切り替える構成を有するものが示されている。
【特許文献1】2002−111277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,電波吸収特性の測定では,被測定物11表面に対する送信アンテナ1による電波の照射エリア(以下,送信アンテナ対応エリアC1という)と,被測定物11表面のエリアであって受信アンテナ2が受信可能な電波が反射されるエリア,即ち,受信アンテナ2から電波を照射したときの被測定物11表面における電波の照射エリア(以下,受信アンテナ対応エリアC2という)とにずれがある場合,そのずれの分だけ受信アンテナによる受信電波の強度が下がるため,その測定信号に被測定物の電波吸収特性が正確に反映されず,測定精度が悪化するという問題点があった。
図3は,送信アンテナと受信アンテナの被測定物に対する電波照射エリアの対応関係(前記送信アンテナ対応エリアC1と前記受信アンテナ対応エリアC2とのずれ)を模式的に表したものである。
一般に,送信アンテナ1或いは受信アンテナ2がホーンアンテナである場合,これを被測定物11に対して垂直方向にその正面方向を対向させて配置すると,被測定物11表面における電波照射エリア(前記送信アンテナ対応エリアC1や前記受信アンテナ対応エリアC1)は,若干扁平した楕円形を形成する(不図示)。このような送信アンテナ1及び受信アンテナ2各々を,被測定物11の垂線方向に対して両側対称な斜め方向にその正面方向を対向させて配置すると,図3に示すように,前記送信アンテナ対応エリアC1及び前記受信アンテナ対応エリアC2は,長く伸びた楕円を形成する。そして,図3に示すように,各エリアC1,C2にずれが生じると,送信アンテナC1から送信される電波(前記送信アンテナ対応エリアC1に到達する電波)のうちの一部の反射電波が受信アンテナ2に到達せず,被測定物11の電波吸収率が,実際よりも高い値として測定されてしまう。
このような問題を回避するためには,被測定物11に対する各アンテナ1,2の位置決め精度や各アンテナ1,2の電波出射(入射)方向の精度を向上させることが考えられる。しかし,その場合,各アンテナ1,2の支持機構の剛性を高める必要があるとともに極めて高精度の位置決め機構等が必要となり,装置が大型化,高重量化,複雑化及び高コスト化するという問題点があった。さらに,前記送信アンテナ対応エリアC1や前記受信エリア対応エリアC2は目視確認できないため,それらのずれが生じていることを認識できず,測定データの信頼性確保が難しいという問題点もあった。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,シンプルな構成により,電波吸収特性測定における送信アンテナと受信アンテナの被測定物に対する位置決めの対応関係,即ち,前記送信アンテナ対応エリアC1と前記受信アンテナ対応エリアC2とのずれを確認でき,各アンテナの位置決めを容易化できる電波吸収特性測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は,2つのアンテナ各々を位置調節し,一方のアンテナからの電波を被測定物に照射させ,その反射電波を他方のアンテナに入射させて測定信号を得る電波吸収特性測定装置に適用されるものであり,前記2つのアンテナのいずれから電波を出射させるかを切り替え可能とし,前記被測定物が測定位置に配置されたときのその測定面を含む平面若しくはその近傍の平面(以下,特定平面という)における受信電波の強度分布を測定する機能を備えたものである。
これにより,前記2つのアンテナ各々(いずれか)から電波を照射した場合の各々について,前記被測定物を設置しない状態で前記特定平面における受信電波の強度分布を測定することが可能となる。そして,その強度分布は,前記2つのアンテナ各々に対応する電波の照射エリア(前記送信アンテナ対応エリアC1と前記受信アンテナ対応エリアC2)を表す(相対的に強度が高い部分が各エリアC1,C2に相当する)ことになり,送信アンテナと受信アンテナの被測定物に対する位置決めの対応関係,即ち,前記送信アンテナ対応エリアC1と前記受信アンテナ対応エリアC2とのずれを確認することが可能となる。
より具体的な構成としては,平面状に配列された複数の平面アンテナ素子を前記特定平面に配置した状態で,その平面アンテナ素子各々による受信信号に基づいて,複数の前記平面アンテナ素子の受信面における受信電波の強度分布を測定することが考えられる。
これにより,前記特定平面を物理的に走査して電波の強度分布を測定するよりも,よりシンプルな構成によって実現できる。
さらに,前記2つのアンテナの一方又は両方の位置及や向きを調節可能とし,前記2つのアンテナ各々から電波が出射された各々の場合について測定した強度分布の両測定結果を比較可能に出力,例えば,表示手段や紙等の記録媒体に各強度分布を画像として視認可能かつ対比可能に出力すれば,各アンテナの位置ずれの状況を一見して把握でき,その状況を確認しながらその位置ずれを補正するよう各アンテナの位置や向きを容易に調節できる。
これに対し,前記2つのアンテナの一方又は両方の位置及や向きを調節可能とし,前記2つのアンテナ各々から電波が出射された各々の場合について測定した強度分布の両測定結果を比較し,その比較結果に基づいて前記2つのアンテナの一方又は両方の位置や向きを,アクチュエータ等を通じて自動調節する機能を設ければ,利用者の手間が省けてより好適である。
【0005】
また,複数の前記平面アンテナ素子を用いる場合,その各々の受信信号を順次切り替えて選択し,その順次選択される信号の強度各々に基づいて,複数の前記平面アンテナ素子の受信面における受信電波の強度分布を測定することが考えられる。
これにより,前記平面アンテナ素子の受信電波を測定する手段が1入力のもので対応でき(複数入力を並行入力(多入力)できるものである必要がない),構成がシンプルとなる。
さらにこの場合,被測定物の測定の際に用いられるベクトルネットワークアナライザ,即ち,前記2つのアンテナのうちの一方のアンテナに電波を出射させる基準信号を出力するとともに他方のアンテナにより受信された測定信号を入力して信号変化を測定するベクトルネットワークアナライザ(通常は1入力)に,順次選択した信号を入力させることにより,電波分布測定と被測定物の測定とに前記ベクトルネットワークアナライザを兼用することが可能となる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば,電波吸収特性測定装置における2つのアンテナのいずれから電波を出射させるかを切り替え,被測定物が測定位置に配置されたときのその測定面を含む平面若しくはその近傍の平面(前記特定平面)における受信電波の強度分布を測定できるので,前記2つのアンテナ各々に対応する電波の照射エリア,即ち,前記送信アンテナ対応エリアC1と前記受信アンテナ対応エリアC2とのずれを確認することが可能となる。その結果,容易に各アンテナの位置決めを行うことが可能となる。しかも,問題となる位置ずれが発生しない程に各アンテナの支持機構の剛性を高めたり,極めて高精度の位置決め機構を設けたりする必要がなく,装置をシンプルな構成にできる。
例えば,平面状に配列された複数の平面アンテナ素子を前記特定平面に配置した状態で,その平面アンテナ素子各々による受信信号に基づいて,その受信面における受信電波の強度分布を測定すれば,前記特定平面を物理的に走査して電波の強度分布を測定するよりも,よりシンプルな構成によって実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施形態に係る電波吸収特性測定装置Xの概略構成を表した図,図2は電波吸収特性測定装置Xにより測定した被測定物の設置面における電波強度分布を画像出力した結果の画面例を表す図,図3は送信アンテナと受信アンテナの被測定物に対する電波照射エリアの対応関係を模式的に表した図,図4は電波吸収特性測定方法を模式的に表した図である。
【0008】
以下,図1の構成図を用いて,本発明の実施形態に係る電波吸収特性測定装置X(以下,測定装置Xという)について説明する。
測定装置Xは,送信アンテナ1及び受信アンテナ2の2つのアンテナ各々を,その角度を調節可能なフレキシブル支持部10a,10b(アンテナ位置調節手段の一例)で支持するとともに,そのフレキシブル支持部10a,10b各々の位置を不図示のリンク機構により,被測定物の設置台4の中心における垂線に対して両側に対称な位置に位置決めする位置決め機構により支持する。この位置決め機構及び前記フレキシブル支持部10a,10bの調節により,2つのアンテナ1,2の位置及び方向を調節し,前記送信アンテナ1から前記設置台4或いはその上に載置された被測定物に照射さされる電波の入射角を変更でき,さらに,その入射と対称な方向への反射電波を受信可能な位置及び方向に前記受信アンテナ2の位置を調節できる。
また,前記測定装置Xは,前記送信アンテナ1に対し,高周波の基準信号を出力して電波を出射させるとともに,その電波を前記設置台4に載置された被測定物に照射させた後の反射波を,前記受信アンテナ2を介して測定信号として入力し,電波(前記基準信号)がその進行経路において変位した場合の信号強度,位相等を測定するベクトルネットワークアナライザ7と,その測定結果に基づいて被測定物の電波吸収特性を評価(測定)するパーソナルコンピュータ等の計算機8とを備えている。この計算機8は,予めインストールされた所定の演算プログラムを実行することにより,被測定物の電波吸収特性を評価(測定)する。
【0009】
本実施の形態では,被測定物として厚みのごく薄い板状の被測定物を想定している。従って,前記設置台4の表面(被測定物の設置面)は,前記設置台4上(測定位置)に配置された被測定物の測定面を含む平面に対してごく近傍の平面である(特定平面の一例)。
前記測定装置Xは,被測定物の前記設置台4の表面(特定平面の一例)に二次元に配列され,パッチアンテナ等からなる複数の平面アンテナ素子3と,前記ベクトルネットワークアナライザ7の前記基準信号の出力端に接続され,前記2つのアンテナ(送信アンテナ1,受信アンテナ2)のいずれから電波を出射させるかを切り替え可能とする出力側スイッチ21,22(電波出力切替手段の一例)とを具備している。
また,前記測定装置Xは,複数の前記平面アンテナ素子3各々の受信信号をマイクロストリップ線路等の線路5を介して入力し,そのいずれかを選択して前記ベクトルネットワークアナライザ7の入力端側へ出力するマルチプレクサ6と,該マルチプレクサ6の出力信号(前記平面アンテナ素子3いずれかの受信信号)と,前記受信アンテナ2による受信信号(測定信号)とのいずれの信号を前記ベクトルネットワークアナライザ7の測定信号入力端に入力させるかを切り替える入力側スイッチ23とを具備している。
前記平面アンテナ素子3各々は,被測定物とほぼ同じかそれ以上の面積のプリント基板上にパターン加工により形成したものである。
例えば,プリント基板上の約40cm四方のエリアに,中心間隔を約5cmとして8行8列の前記平面アンテナ素子3を形成したもの等である。より狭い間隔でより多数の前記平面アンテナ素子3を配置すれば,より高い分解能で後述する電界強度分布の測定を行うことが可能となる。
ここで,前記平面アンテナ素子3は,測定する電波の周波数に対する利得を最適化したものとすると,測定周波数に応じてその寸法が定まる。即ち,測定周波数が高くなるほど電波の波長が短くなり,前記平面アンテナ素子3の寸法は小さくなる。このため,測定周波数によって前記平面アンテナ素子3の寸法が定まってしまうようにもみえる。しかし,受信電波の電界強度の分布(信号強度の分布)は,その絶対値ではなく,相対的な分布を測定できればよいので,測定周波数に対する最適化よりも,必要な電界強度分布のエリア分解能の確保と,前記平面アンテナ素子3の数が増えるとその信号数が増えて処理負荷が高くなり過ぎる弊害とのバランスを主観点として前記平面アンテナ素子3の寸法を定めればよい。
【0010】
以上のような測定装置Xにより,前記送信アンテナ1と前記受信アンテナ2との被測定物に対する位置決めの対応関係,即ち,前記送信アンテナ対応エリアC1と前記受信アンテナ対応エリアC2とのずれを確認することができる。以下,そのことについて説明する。
なお,以下に説明する位置ずれ確認のための測定は,全て,前記設置台4に被測定物を載置しない状態で行う。
まず,被測定物の測定の前に(或いは,後に),前記2つのアンテナ1,2の一方を前記ベクトルネットワークアナライザ7の出力端(基準信号出力端)に接続するよう,前記出力側スイッチ21,22を切り替えるとともに,前記マルチプレクサ6の出力を前記ベクトルネットワークアナライザ7の入力端(測定信号入力端)に接続するよう,前記入力側スイッチ23を切り替える。この切替は,例えば,前記計算機8を操作することにより,前記コントローラ9を介して各スイッチ21〜23に切替信号を出力することにより行う。
次に,前記マルチプレクサ6により,前記平面アンテナ素子3各々の受信信号のいずれを前記ベクトルネットワークアナライザ7に入力させるかを順次切り替えて選択し(信号切替手段の一例),その切り替え(選択)ごとに,前記ベクトルネットワークアナライザ7によって前記基準信号を出力するとともに,前記平面アンテナ素子3による受信信号を入力し,その受信信号の強度を順次測定する。前記マルチプレクサ6による前記平面アンテナ素子3の順次切り替えは,例えば,前記計算機8により,前記コントローラ9を介して前記マルチプレクサ6に対して切り替え信号を逐次出力すること等により行う。
さらに,前記計算機8により,前記マルチプレクサ6に対する切り替え信号を出力するごとに,前記ベクトルネットワークアナライザ7に対して切り替え完了信号を出力し,この信号を受けるごとに,前記ベクトルネットワークアナライザ7は,前記基準信号の出力と入力信号に基づく信号強度測定とを行う。この信号強度の測定結果は,前記計算機8に転送する。
そして,前記計算機8では,前記ベクトルネットワークアナライザ7によって測定された前記平面アンテナ素子3各々の受信信号の信号強度と,前記平面アンテナ素子3各々の配置位置とにより,複数の前記平面アンテナ素子3全体の受信面(即ち,被測定物の設置面(特定平面の一例))における受信電波の強度分布(電界強度分布)を求める(強度分布測定手段の一例)。
さらに,前記計算機8は,以上の処理を,前記2つのアンテナ1,2各々について実行した後,前記2つのアンテナ1,2各々から電波が出射された各場合における前記強度分布の両測定結果を,画像化して並べて(比較可能に)画面出力する(強度分布比較出力手段の一例)。例えば,前記平面アンテナ素子3各々の受信信号強度を対数強度に換算(デシベル換算)し,その強度に応じた色でグラフィック表示を行う。
【0011】
図2は,前記計算機8の画面に出力された,前記送信アンテナ1と前記受信アンテナ2の各々を用いた場合における前記強度分布の画像の画面出力例を表す。この例は,2.4GHz帯の電波に対して利得を最適化した前記平面アンテナ素子3を用いて,6GHz帯の電波を観測した結果を表すものである。
図2に示すように,前記送信アンテナ1と前記受信アンテナ2の各々を用いた場合について,前記平面アンテナ素子3各々の配置位置に対応した座標表示を行うとともに,被測定物の設置面の各座標における電界強度(信号強度)の分布を,色分け等により画像化したものを並べて表示する。
このように表示される前記2つのアンテナ1,2各々についての電界強度分布は,前記2つのアンテナ1,2各々に対応する電波の照射エリア(前記送信アンテナ対応エリアC1と前記受信アンテナ対応エリアC2)を表す。従って,利用者は,前記送信アンテナ1と前記受信アンテナ2の被測定物に対する位置決めの対応関係のずれを,一目瞭然に確認することが可能となる。
図2に示すような前記電界強度分布の比較出力を参照すれば,前記2つのアンテナ1,2のずれを確認できるので,そのずれがなくなるよう,前記2つのアンテナ1,2の一方又は両方の位置や方向を微調整することが容易となる。
【0012】
ここで,前記測定装置Xは,2つのアンテナ1,2の一方(図1では,前記送信アンテナ1)の前記フレキシブル支持部10a(又は10b)は,外部からの制御信号に従って駆動する駆動機構(不図示)と,前記計算機8からアンテナ方向調節用の設定信号を受け,その設定信号に従った制御信号を前記フレキシブル支持部10aに対して出力するコントローラ9とを具備している。
そして,前記測定装置Xでは,前記計算機8により,前記2つのアンテナ1,2各々から電波が出射された各場合における前記電界強度分布(強度分布測定手段による測定結果)を比較し,電波照射エリアのずれ(相対的に信号強度が高いエリアのずれ)に対応した偏差量を前記コントローラ9に出力する。これに対し,前記コントローラ9は,前記偏差量を修正する方向に一方のアンテナ(例えば,前記送信アンテナ1)の前記フレキシブル支持部10aを駆動させる。
これにより,2つのアンテナ1,2の電波照射エリアのずれ,即ち,前記送信アンテナ対応エリアC1と前記受信アンテナ対応エリアC2とのずれが修正されるように,一方のアンテナ1の向きが自動調節される(アンテナ位置自動調節手段の一例)。
なお,前記偏差量としては,例えば,前記2つのアンテナ1,2を用いた各々の場合について,前記電界強度分布における最も信号強度(電界強度)の高いエリアの中心や受信を求め,その中心や重心のx方向及びy方向の各々におけるずれ量を用いることが考えられる。或いは,前記各々の場合について,前記電界強度分布においてその信号強度が予め設定された設定強度を超えるエリア各々を求め,両エリアの重なり合わない領域の面積が最小となるように一方のエリアをx方向及びy方向にシフトさせたときのそのシフト量を用いること等も考えられる。
【0013】
また,前記測定装置Xでは,前記マルチプレクサ6により,複数の前記平面アンテナ素子3の受信信号を順次切り替えて選択し,その順次選択される信号の強度各々に基づいて前記電界強度分布を測定するので,その測定に,被測定物の測定に用いる1入力の前記ベクトルネットワークアナライザ7を兼用することが可能となり,シンプルな構成で電界強度分布測定を実現できる。
また,使用する電波がTM波(進行方向に対して磁界が横向き)とTE波(進行方向に対して電界が横向き)との両方が考えられる場合,その切り替え時に,前記平面アンテナ素子3が形成された基板(前記設置台4)を90°回転させることによって対応できる。
その他,TM波に対応する前記平面アンテナ素子と,TE波に対応する前記平面アンテナ素子との両方を基板上にパターン印刷しておき,使用する電波の種類に応じていずれのアンテナ素子を用いるかを電気的に切り替える構成としてもよい。
【0014】
以上のようにしてアンテナの位置ずれ確認のための測定及び位置ずれ調整が終了すると,前記送信アンテナ1を前記ベクトルネットワークアナライザ7の出力端(基準信号出力端)に接続するよう,前記出力側スイッチ21,22を切り替えるとともに,前記受信アンテナ2を前記ベクトルネットワークアナライザ7の入力端(測定信号入力端)に接続するよう,前記入力側スイッチ23を切り替えた後,被測定物の電波吸収特性の測定を行う。
その際,前記マルチプレクサ6の操作により,全ての前記平面アンテナ素子3の給電ポートを開放する。これにより,前記平面アンテナ素子3が形成された基板の表面(前記設置台4の表面)は,電波反射特性としては,金属板とほぼ同等とみなすことができ,被測定物についての測定信号と対比する参照データを得るための参照面として用いることができる。
【0015】
図1に示す構成では,前記2つのアンテナ1,2のいずれから電波を出射させるかを切り替え可能とするために前記出力側スイッチ21,22を設けたが,単に,信号線に設けられた着脱可能なコネクタを抜き差しすることによって切り替えるものであってもかまわない。
また,図1に示す構成では,アンテナの位置ずれの自動調整は,前記送信アンテナ1の向きのみを調節するものであるが,これに限るものでなく,前記受信アンテナ2のみ,或いは両方のアンテナ1,2の向きや,場合によってはその位置を調節するよう構成したものも考えられる。
また,図1に示す構成では,複数配列された前記平面アンテナ素子3による受信信号により,前記電界強度分布を測定するものであったが,1又は複数の平面アンテナ素子を,アクチュエータで駆動されるX−Yステージにより前記設置台4の表面で走査させ,その位置を変えるごとに受信信号の信号強度を測定し,その測定結果から前記設置台4表面の電界強度分布を測定する構成も考えられる。このような構成は,前記測定装置Xに比べ,装置が複雑になり,駆動部(走査部)が存在する分だけ耐久性の面で劣るが,実現は可能である。
【0016】
ところで,前述の実施形態では,厚みのごく薄い板状の被測定物を対象としているため,固定された前記設置台4の表面は,測定位置(前記設置台4上)に配置された被測定物の測定面を含む平面の近傍の平面であった。
しかし,被測定物の厚みが大きい場合,前記設置台4上に配置した被測定物の測定面と固定された前記設置台4の表面との位置の差異が大きくなり,アンテナの正確な位置合わせができなくなる。
このような場合,例えば,前記設置台4を昇降させる昇降機構(設置台の移動機構)を設けたものが考えられる。これにより,電波吸収特性の測定は,前記昇降機構により所定の基準位置に位置決めした前記設置台4上に被測定物を配置(載置)した状態で行い,一方,アンテナの位置合わせは,前記昇降機構により,前記設置台4を前記基準位置から被測定物の厚み分だけ上昇させた状態で,即ち,前記設置台4の表面(前記平面アンテナ素子3の配列面)を測定位置に配置された被測定物の測定面を含む平面(特定平面の一例)に位置決めした状態で行うことができる。そうすれば,被測定物の厚みが大きい場合でも,電波吸収特性の測定時の被測定物の測定面と,アンテナの位置合わせ時の前記設置台4の表面とがほぼ同一平面となり,アンテナの正確な位置合わせが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は,電波吸収特性測定装置への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る電波吸収特性測定装置Xの概略構成を表した図。
【図2】電波吸収特性測定装置Xにより測定した被測定物の設置面における電波強度分布を画像出力した結果の画面例を表す図。
【図3】送信アンテナと受信アンテナの被測定物に対する電波照射エリアの対応関係を模式的に表した図。
【図4】電波吸収特性測定方法を模式的に表した図。
【符号の説明】
【0019】
X…電波吸収特性測定装置
C1…送信アンテナによる電波照射エリア
C2…受信アンテナによる電波照射エリア
1…送信アンテナ
2…受信アンテナ
3…平面アンテナ素子
4…被測定物の設置台
5…線路
6…マルチプレクサ
7…ベクトルネットワークアナライザ
8…計算機
9…コントローラ
10a,10b…フレキシブル支持部
21,22,23…スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのアンテナ各々を位置調節可能に支持し,一方のアンテナからの電波を被測定物に照射させ,その反射電波を他方のアンテナに入射させて得た測定信号に基づいて前記被測定物の電波吸収特性を測定する電波吸収特性測定装置であって,
前記2つのアンテナのいずれから電波を出射させるかを切り替え可能とする電波出力切替手段と,
測定位置に配置された前記被測定物の測定面を含む平面若しくはその近傍の平面である特定平面における受信電波の強度分布を測定する強度分布測定手段を具備してなることを特徴とする電波吸収特性測定装置。
【請求項2】
平面状に配列された複数の平面アンテナ素子を具備し,
前記強度分布測定手段が,前記特定平面に配置された前記平面アンテナ素子各々による受信信号に基づいて,複数の前記平面アンテナ素子の受信面における受信電波の強度分布を測定してなる請求項1に記載の電波吸収特性測定装置。
【請求項3】
前記2つのアンテナの一方又は両方の位置及び/又は向きを調節可能とするアンテナ位置調節手段と,
前記2つのアンテナ各々から電波が出射された各々の場合における前記強度分布測定手段による両測定結果を比較可能に出力する強度分布比較出力手段と,
を具備してなる請求項1又は2に記載の電波吸収特性測定装置。
【請求項4】
前記2つのアンテナ各々から電波が出射された各々の場合における前記強度分布測定手段による測定結果の比較に基づいて前記2つのアンテナの一方又は両方の位置及び/又は向きを自動調節するアンテナ位置自動調節手段を具備してなる請求項1又は2に記載の電波吸収特性測定装置。
【請求項5】
前記平面アンテナ素子各々の受信信号を順次切り替えて選択する信号切替手段を具備し,
前記強度分布測定手段が,前記信号切替手段により順次選択される信号の強度各々に基づいて複数の前記平面アンテナ素子の受信面における受信電波の強度分布を測定してなる請求項2〜4のいずれかに記載の電波吸収特性測定装置。
【請求項6】
前記2つのアンテナのうちの一方のアンテナに電波を出射させる基準信号を出力するとともに他方のアンテナにより受信された測定信号を入力して信号変化を測定するベクトルネットワークアナライザを具備し,
前記強度分布測定手段が,前記信号切替手段により順次選択される信号の測定に前記ベクトルネットワークアナライザを兼用してなる請求項5に記載の電波吸収特性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−38503(P2006−38503A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215307(P2004−215307)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)