説明

電源コード

【課題】導体の端ランクあるいは火災により生じた短絡痕に銅の結晶組織が現れやすいようにし、CS法の適用が難しい場合でもDAS法による解析が可能な構造の電源コードを提供する。
【解決手段】絶縁体2により被覆された導体1の外周近傍に設けられた酸化銅3を備え、導体1の短絡により短絡痕が生成される際に酸化銅3が融解して混入し、その短絡痕の結晶組織にデンドライト組織が現れるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気製品の電源コードに係わり、さらに詳しくは、その導体の短絡あるいは火災によって生成された短絡痕にDAS法の適用できる結晶組織が現れやすい構造の電源コードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特定の電線の短絡に起因した車両の誤動作や火災の発生などを未然に防止するものとして、例えば、電線の被覆の内側に銅糸の編組からなる導体層に、常時、電流を制限した定電圧を印加し、この定電圧の変化を検知したときに電線の心線の短絡を検知するものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−188684号公報(第3頁、図2,3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、火災により、その発火元が電気製品であるか否かを判定する手法として、電気製品の電源コードに生じた短絡痕の一次痕・二次痕の解析がある。その解析にはDAS法とCS法の2種類があるが、DAS法は銅の結晶組織を得る必要があり、心線を銅線とする電源コードの短絡痕には、結晶組織が現れ難いため、CS法のみの判定とならざるを得ない場合が多かった。CS法の場合は、短絡痕の体積と結晶粒の大きさを測定する必要があるが、短絡痕が気泡を多く含んだりした場合、判定が難しいという課題があった。
【0005】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたもので、導体の短絡あるいは火災により生じた短絡痕に銅の結晶組織が現れやすいようにし、CS法の適用が難しい場合でもDAS法による解析が可能な構造の電源コードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電源コードは、絶縁体により被覆された導体の外周近傍に設けられた酸化銅を備え、導体の短絡により短絡痕が生成される際に酸化銅が融解して混入し、その短絡痕の結晶組織にデンドライト組織が現れるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、導体の短絡により短絡痕が生成される際に酸化銅が融解して混入し、その短絡痕の結晶組織にデンドライト組織が現れるようにしたので、DAS法による一次痕・二次痕の判定を従来と比べ容易にでき、CS法による判定も行える場合には、より判定の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態における電源コードの断面図である。
【図2】本発明の他の形態を示す電源コードの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
先ず、DAS法について概略を説明する。
DASとは、「デンドライト・アーム・スペーシング」の略であり、短絡痕の断面組織において、隣接する樹枝状の結晶組織間(二次枝間)の中心間距離である。DAS法は、前述した樹枝状の結晶組織(デンドライト組織)が観察された場合に適用され、電源コードの短絡時の雰囲気温度の推定により一次・二次痕を識別する手法である。
【0010】
その手順は、(1)火災現場から採取した電源コードの短絡痕から酸素濃度(wt%)とDAS(μm)を測定する。(2)雰囲気温度別の直線式に、測定した酸素濃度(wt%)を代入し、各雰囲気温度におけるDAS(μm)を推定する。(3)X軸を雰囲気温度、Y軸をDASとするグラフに、推定した雰囲気温度毎のDASをプロットして指数回帰曲線式を求める。(4)この指数回帰曲線式に、測定したDASを代入して電源コードの短絡時の雰囲気温度を求める。(5)その雰囲気温度から一次・二次痕の識別を行う。短絡痕が一次痕であれば発火元が電源コードと判定し、二次痕であれば火災熱によって生成されたものと判定する。
【0011】
ところで、DAS法による短絡痕の解析は、前述の如くデンドライト組織が観察された場合に適用されるが、心線を銅(導体)とする電源コードの短絡痕にはデンドライト組織が現れ難い。その要因として、デンドライトは純銅部と酸化銅および銅の共晶部との対比により現れ易いことから、ほぼ純銅からなる心線では共晶部が生成し難く現れ難い。なお、デンドライト組織が観察されない場合、セルサイズ法(CS法)が適用される。
【0012】
そこで、本発明においては、電源コードの導体1の短絡あるいはそれ以外の火災によって電源コードに短絡痕が生成された場合、短絡痕に銅(純銅)のデンドライト組織が現れ易くしたものであり、以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の実施の形態における電源コードの断面図である。
図1において、電源コードは、複数の銅線を撚り合わせて構成された導体1と、この導体1を被覆して絶縁する例えば塩化ビニル樹脂製の絶縁体2と、絶縁体2内に導体1の外周に近接して設けられた例えば4本の線条状の酸化銅3とで構成されている。この電源コードは、図示していないが、導体1が2芯で、一端がコンセントに差し込むためのプラグと接続され、他端が電気製品と接続されている。
【0014】
4本の酸化銅3は、酸化第二銅(CuO)が使用され、導体1の電気特性に影響を与えないように、導体1の外周から例えば0.1mm以上離れている。また、酸化銅3の断面積(量)は、導体1の短絡によって短絡痕が生成された際に、その短絡痕中に含まれる酸素濃度が0.1wt%以上、0.39wt%以下の範囲内となるように、導体1の断面積(量)に応じて調整されている。つまり、導体1の断面積が大きくなるにつれ酸化銅3の断面積が大きくなる。また、酸素濃度が0.1wt%以上、0.39wt%以下の範囲内となるようにするのは、短絡痕の断面組織に純銅(銅の初晶)のデンドライト組織が顕著に表れるようにするためである。
【0015】
前記のように構成された電源コードにおいては、導体1の短絡によるジュール熱あるいは火災により電源コードに短絡痕が生成される際、4本の酸化銅3が融解して混入する。この酸化銅3の混入により、短絡痕中に0.1wt%以上、0.39wt%以下の範囲内の酸素濃度が含まれることとなる。そのため、短絡痕の断面組織に純銅(銅の初晶)のデンドライト組織と銅及び酸化銅からなる結晶組織とが判別しやすく現れ、DAS法による一次痕・二次痕の識別が可能になる。
【0016】
以上のように、電源コードに短絡痕が生成される際、電源コードの導体1の外周に近接して設けられた酸化銅3が融解して混入し、その短絡痕中の酸素濃度が0.1wt%以上、0.39wt%以下の範囲内となるようにしたので、短絡痕の断面組織に純銅のデンドライト組織と銅及び酸化銅からなる結晶組織とが現れるようになり、そのため、DAS法による一次痕・二次痕の判定を従来と比べ容易にでき、CS法による判定も行える場合には、より判定の精度が向上する。
【0017】
なお、本実施の形態では、導体1の外周近傍に4本の酸化銅3を備えた電源コードについて述べたが、これに限定されるものではなく、例えば図2に示すように、導体1の外周近傍に箔状に形成された酸化銅4を巻回して構成される電源コードでも良い。また、その箔状の酸化銅4に代えて、その部分に粉末状の酸化銅を設けて導体1を囲むようにしても良い。箔状の酸化銅4及び粉末状の酸化銅は、前述したように、酸化第二銅(CuO)が使用され、導体1の電気特性に影響を与えないように、導体1の外周から例えば0.1mm以上離れた位置に設けられている。また、箔状の酸化銅4及び粉末状の酸化銅の断面積は、導体1の短絡によって短絡痕が生成される際に、その短絡痕中の酸素濃度が0.1wt%以上、0.39wt%以下の範囲内となるように、導体1の断面積に応じて調整されている。
【符号の説明】
【0018】
1 導体、2 絶縁体、3,4 酸化銅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体により被覆された導体の外周近傍に設けられた酸化銅を備え、
前記導体の短絡により短絡痕が生成される際に前記酸化銅が融解して混入し、当該短絡痕の結晶組織にデンドライト組織が現れるようにしたことを特徴とする電源コード。
【請求項2】
前記酸化銅は、線条状に形成され、前記導体の外周近傍に複数本設けられていることを特徴とする請求項1記載の電源コード。
【請求項3】
前記酸化銅は、箔状に形成され、前記導体の外周近傍に巻回されていることを特徴とする請求項1記載の電源コード。
【請求項4】
前記酸化銅は、粉末状で、前記導体の外周近傍に当該導体を囲むように設けられていることを特徴とする請求項1記載の電源コード。
【請求項5】
前記酸化銅の量は、短絡痕中の酸素濃度が0.1wt%以上、0.39wt%以下の範囲内となるように前記導体の量に応じて調整されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電源コード。
【請求項6】
前記酸化銅は、前記導体の電気特性に影響を与えないように設けられていることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電源コード。
【請求項7】
前記酸化銅は、酸化第二銅であって、酸化第一銅でないことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の電源コード。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−277887(P2010−277887A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130266(P2009−130266)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】