説明

電界放出型光源

【課題】電子放出膜の電子放出特性及び印加電圧を変更することなく、カソード電極上の電子放出膜における電界強度を低い範囲とすることができ、蛍光体へ入射する入射電子線の密度を好ましい範囲とすることができる電界放出型光源を提供すること。
【解決手段】真空封止容器と、上記真空封止容器の中心軸に沿って配設された、棒状のサポート棒、及び、上記サポート棒の外周部に埋め込まれてなり、上記サポート棒から露出した部分に電子放出膜が形成された、1本又は複数本の棒状の電子放出部材とを備えたカソード電極とを備え、上記サポート棒の曲率半径をD、上記電子放出部材の曲率半径をrとしたときに、D>rであることを特徴とする、電界放出型光源。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明や表示に使用可能な電界放出型光源(Field Emission Light:以下FELという)に関する。
【背景技術】
【0002】
FELは、真空蛍光ディスプレイ(Vacuum Fluorescent Display)やブラウン管(Cathode Ray Tube)と同じく、電子線照射によって励起された蛍光体の発光、すなわちカソードルミネセンスを利用するものであるが、電子放出源としてフィラメントではなく、量子的な効果で電子放出を行う電界電子放出素子を使用することに特徴がある。
【0003】
電界電子放出素子を使用すると、ブラウン管のようにフィラメントの加熱を必要とせずに大きな電流を取り出せるため、低消費電力で高輝度な発光を得ることができ、耐久性も高いことが知られている。
【0004】
FELの一例として、特許文献1には、円筒状の真空容器内に電解放出用陰極(カソード電極)が配置され、電解放出用陰極から放出された電子の衝突によって発光する蛍光物質層が真空容器の内面に形成された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−504260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたようなFELで使用される蛍光体は、電子線の運動速度が低い場合、言い換えると、印加電圧(加速電圧)が低い場合に、蛍光体粒子表面の結晶の乱れに由来して存在する非発光層の存在に起因して発光効率が低くなるという問題がある。この問題を考慮すると電子線加速電圧は5kV以上とすることが好ましい。
【0007】
また、上記蛍光体の寿命は、発光開始から発光強度が半分になるまでの期間である半減期までに蛍光体に入射する単位面積あたりの入射電子の総量、すなわち、積算電荷量(C/cm)で評価される。
一般の蛍光体では、半減期までの積算電荷量は高いもので数百C/cm程度であるとされている。
従って、一般の蛍光体を使用して半減期を4000時間以上とするためには、蛍光体へ入射する入射電子線の密度を20μA/cm以下とすることが必要となる。
【0008】
カソード電極には、電子放出膜が形成されるが、電子放出膜の電子放出特性は、1mA/cmの電子放出密度をもたらす電界強度(このような電界強度を、閾値電界強度ともいう)で表現される。電子放出特性(閾値電界強度)は電子放出膜の材料により異なっており、電子放出膜がナノダイヤモンド/カーボンナノウォール(ND/CNW)の場合は0.7〜1.5V/μm程度、電子放出膜がカーボンナノウォールの場合は1.5〜2.0V/μm程度である。
このような電子放出膜はCVD(化学気相合成法)等の方法により、カソード電極をプラズマに曝露することによって形成され、成膜条件等を調整することによって閾値電界強度を調整することは可能であるものの、調整できる範囲には制限がある。
【0009】
また、電子放出膜をCVDにより形成する場合、カソード電極の形状が平板形状でなく、電子放出膜を形成する面が立体的な形状を有していると、成膜が均一に行われない場合がある。そのため、カソード電極の形状には一定の制限がある。
例えば、円柱状の基板に電子放出膜を形成する場合、円柱の曲率半径が大きすぎると、それに合わせて基板の温度勾配も大きくなるため基板の一部にしか電子放出膜を形成できない場合がある。
また、円柱状の基板が長手方向に大きすぎると、電子放出膜の成膜性が損なわれるとともに、成膜時の熱履歴により基板に曲がり等が生じやすいという問題がある。
【0010】
一例として、蛍光灯と同程度の半径R(=15mm)の円筒形状を有するFELにおいて、円柱状のカソード電極の半径rが0.5mmを超えることができない場合を仮定し、蛍光体とカソード電極(半径r=0.5mm)との間に5kV以上の電圧を印加した場合を考える。
この場合、上記円筒形状の中心軸上に設置されたカソード電極上の電子放出膜における電界強度は、下記式(1)で示されるように2.94V/μmとなる。
【数1】

この電界強度の値は、既に例示した電子放出膜の閾値電界強度よりも遥かに高くなっていることから、このような電界強度における電子放出密度は1mA/cmを遥かに上回るものと考えられる。
【0011】
一方、上記例において、蛍光体の半減期を好ましい範囲とするために要求される、「入射電子線の密度20μA/cm以下」の条件を満たすようにするためには、電子放出密度を0.6mA/cm以下とする必要がある。しかしながら、式(1)から推定される電子放出密度は1mA/cmを遥かに上回るものと考えられるため、上記条件では適切な半減期を有するFELとはならないという問題があった。
【0012】
式(1)から、カソード電極上の電子放出膜における電界強度を下げるための方策として、円筒形状の内径2Rをより大きくすることが考えられる。しかしながら、内径2Rを大きくすると、真空に耐えるために容器の厚さを厚くする必要が生じるためにFEL全体の重量が増加するという問題があったため、有効な方策とはなっていない。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、電子放出膜の電子放出特性及び印加電圧を変更することなく、カソード電極上の電子放出膜における電界強度を低い範囲とすることができ、蛍光体へ入射する入射電子線の密度を好ましい範囲とすることができる電界放出型光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の電界放出型光源は、真空封止容器と、上記真空封止容器の中心軸に沿って配設された、棒状のサポート棒、及び、上記サポート棒の外周部に埋め込まれてなり、上記サポート棒から露出した部分に電子放出膜が形成された、1本又は複数本の棒状の電子放出部材とを備えたカソード電極とを備え、上記サポート棒の曲率半径をD、上記電子放出部材の曲率半径をrとしたときに、D>rであることを特徴とする。
【0015】
本発明の電界放出型光源では、カソード電極が、サポート棒と、サポート棒の外周部に埋め込まれてなり、電子放出膜が形成された電子放出部材とからなる。そして、サポート棒の曲率半径Dと、電子放出部材の曲率半径rとの間にD>rの関係が成り立つ。
このような構成であると、サポート棒の曲率半径が大きいことに起因して、電界放出膜における電界集中が緩和される。
そのため、電子放出膜の電子放出特性及び印加電圧を変更することなく、カソード電極上の電子放出膜における電界強度を小さくすることができる。
【0016】
本発明の電界放出型光源では、上記電子放出部材が上記サポート棒から露出した部分の高さをhとしたときにh<rとなることが望ましい。
このような形態では、サポート棒に電子放出部材がしっかりと固定されるため、サポート棒から電子放出部材が脱離することが防止される。
【0017】
本発明の電界放出型光源では、上記電子放出部材が、上記サポート棒の長手方向において複数本に分割されていることが望ましい。
本発明の電界放出型光源は、サポート棒に電子放出部材を埋め込む形式となっているため、電子放出部材を複数本に分割して並べることによって任意の長さのカソード電極を作製することができる。そのため、電子放出膜を成膜する装置の長さに依存せずに、長さの長いカソード電極を作製することができる。
【0018】
本発明の電界放出型光源では、蛍光体層が真空封止容器の内壁の全周にわたって形成されており、上記電子放出部材の数が複数本であり、上記サポート棒の長手方向に垂直な断面において、隣り合う2つの上記電子放出部材の中心と上記サポート棒の中心のなす角が全て等しくなるように配置されていることが望ましい。
このような形態では、電子放出部材からの電子放出が均一化されるため、発光が均一となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電界放出型光源では、電子放出膜の電子放出特性及び印加電圧を変更することなく、カソード電極上の電子放出膜における電界強度を低い範囲とすることができ、蛍光体へ入射する入射電子線の密度を好ましい範囲とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)は、本発明の電界放出型光源の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、真空封止容器の中心軸と平行な面(図1(a)のA−A線断面)で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【図2】図2(a)は、カソード電極をその長手方向に垂直な断面で切断した断面を示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)における領域Bの拡大断面図である。
【図3】図3は、カソード電極をその長手方向に平行な断面で切断した断面を示す断面図である。
【図4】図4は、電子放出部材と蛍光体層の間に5kV又は6kVの電圧を印加した場合の点Fにおける電界強度を、サポート棒の曲率半径Dに対して計算した結果を示すグラフである。
【図5】図5は、閾値電界強度が1.28V/μmであるND/CNW膜の電子放出特性を示すグラフである。
【図6】図6(a)は、本発明の電界放出型光源の別の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図であり、図6(b)は、真空封止容器の中心軸と平行な面(図6(a)のG−G線断面)で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第一実施形態)
以下、本発明の電界放出型光源の一実施形態である第一実施形態について、図面を用いて説明する。
図1(a)は、本発明の電界放出型光源の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、真空封止容器の中心軸と平行な面(図1(a)のA−A線断面)で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0022】
図1(a)及び図1(b)に示す電界放出型光源1は、内部を真空に封止する真空封止容器10と、真空封止容器10内に配設された、サポート棒20及びサポート棒20の外周部に埋め込まれた電子放出部材21を備えたカソード電極11と、真空封止容器10の内壁面に形成された蛍光体層13と、蛍光体層13上に形成されたアノード電極14とを備えている。
【0023】
真空封止容器10は、その半径がR(直径が2R)の円筒形であり、可視光に対して高い透過率を持つガラスで形成されている。
電子放出部材21から放出された電子はアノード−カソード電極間に印加された電圧によって加速された後、アノード電極14に入射する。高い運動エネルギーをもつ電子は薄膜によって形成されているアノード電極14を貫通し、蛍光体層13に入射される。図1に示すFELは、この蛍光体層13へ入射された電子によって蛍光体を励起発光させ、その光を蛍光体が塗布される真空封止容器10を通して外部に放射させることで照明光を得る構造となっている。
上記形態をもつFELを、透過光利用型FELとよぶ。
【0024】
カソード電極11は、真空封止容器10の中心軸に沿って配設されており、サポート棒20及びサポート棒20の外周部に埋め込まれた電子放出部材21を備えている。
図2(a)は、カソード電極をその長手方向に垂直な断面で切断した断面を示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)における領域Bの拡大断面図である。
本実施形態におけるサポート棒20は、その外周部に電子放出部材21が埋め込まれるための溝20aを有する棒状の部材である。
図2(a)に示すサポート棒20は、円柱に6カ所の溝20aが形成された略円柱形状を有しており、各溝20aにはそれぞれ電子放出部材21が埋め込まれている。
溝20a及び電子放出部材21は、サポート棒20の外周の周回方向に沿って等間隔に配置されており、隣り合う2つの電子放出部材21の中心とサポート棒20の中心のなす角度(図2(a)で∠COEで示す角度)は60°となっている。
【0025】
サポート棒の曲率半径Dは、図2(a)に示すサポート棒20においては溝20aを除いた円柱の半径で表される長さである。
なお、サポート棒の形状は図2(a)に示す形状に限定されるものではなく、多角柱状等の形状であってもよい。円柱形状でないサポート棒の曲率半径Dはサポート棒の外接円の半径として定めることができる。
【0026】
本実施形態における電子放出部材21は、棒状の電極部材である。
電子放出部材21は、サポート棒20から露出する側が曲面21aとなっており、反対側(サポート棒20に埋め込まれる側)が平坦面21bとなった、略半円柱状ともいえる形状を有している。
電子放出部材21の種類は特に限定されるものではなく、FELのカソード電極として用いられる電極を用いることができる。
【0027】
電子放出部材21の表面には、電子を放出する部位である電子放出膜22が形成されている。電子放出膜22は、金属、又は、導電性セラミックス等からなるワイヤ電極の基体の表面にカーボンナノチューブ、花弁状のグラフェンシート層、ナノダイヤモンド粒子層などを形成させたものである。
電子放出膜22は、図2(b)では、サポート棒20から露出した部分のみに形成されているが、サポート棒によってマスクされる部分に電子放出膜が形成されていても、本発明の効果になんら影響を与えないのは自明である。
【0028】
電子放出部材の曲率半径rは、図2(b)に示す電子放出部材21においては曲面21aを構成する円の半径で表される長さである。
なお、電子放出部材の形状は図2(b)に示す形状に限定されるものではなく、多角柱状等の形状であってもよい。円柱形状でない電子放出部材の曲率半径rは電子放出部材の外接円の半径として定めることができる。
【0029】
図2(b)に示す形態では、電子放出部材21がサポート棒20から露出した部分の高さhと、電子放出部材21の曲率半径rの関係がh<rとなっている。
高さhは、図2(b)に示すように、電子放出部材がサポート棒から露出した部分の最高点Fと、電子放出部材がサポート棒から露出する点とからそれぞれ平行線を引いた場合の平行線の間隔として定められる。
このような形態では、電子放出部材がサポート棒の外周面から外側に飛び出す方向に移動しようとしても、電子放出部材はサポート棒に引っ掛かるために移動することができない。そのため、サポート棒から電子放出部材が脱離することが防止される。
【0030】
電子放出部材21をサポート棒20に設置する方法としては、ウォータージエット加工、ワイヤ放電加工、レーザー加工等の高エネルギー加工、又は、シャーパー加工による切削除去加工等の方法によって、電子放出部材21の形状に合わせてサポート棒20にh<rとなる溝を形成し、その後、サポート棒20の端部から、サポート棒20に接触する部分に接着剤を塗布した電子放出部材21を挿入する方法が挙げられる。接着剤としては真空環境対応のものを用いることが好ましい。
【0031】
また、別の設置方法として、サポート棒に2rよりも大きな幅の溝を形成し、かつ、電子放出部材21を押さえ込む固定部品を別途作製し、電子放出部材21をサポート棒20に配置した後、上記固定部品を電子放出部材21の上からはめ込み、固定部品をサポート棒にネジ止め、溶接、接着剤等の手法により固定する方法が挙げられる。
【0032】
図3は、カソード電極をその長手方向に平行な断面で切断した断面を示す断面図である。
図3に示す形態では、電子放出部材21が複数本に分割されている。
図3では、分割された電子放出部材を電子放出部材21a、電子放出部材21b及び電子放出部材21cとして示している。
並べて配置された電子放出部材21a、電子放出部材21b及び電子放出部材21cは、一本の長い電子放出部材として形成された電子放出部材と同様の機能を有する。
具体的な例としては、例えば、150mmの長さのカソード電極を作製しようとする場合に、電子放出膜の成膜性に優れ、成膜時の曲がり等の問題も生じにくい長さ50mmの電子放出部材を3本並べることによってカソード電極を作製することが好ましい。
【0033】
図1(b)には、電界放出型光源1の他の構成として、カソード電極固定具23が示されており、カソード電極固定具23には、カソード電極11のサポート棒20が接続されている。
本実施形態では、サポート棒20は比較的大きい曲率半径を有するため、強度が高く、電子放出部材が導電性セラミックなどの脆性材料である場合でも、充分な強度をもつカソード電極を構成することが可能となる。
【0034】
図1(b)には、電源19が示されているが、電源19の一端は、カソード電極11の一端に接続され、さらに電子放出部材21に電気的に接続される。電源19の他端は、アノード電極14に接続される。
【0035】
蛍光体層13は、真空封止容器の内壁面に形成されている。
蛍光体層13としては、例えば、P15蛍光体(ZnO:Zn)、P22蛍光体(青:ZnS:Ag,Cl、ZnS:Ag,Al、緑:ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al、赤:YS:Eu3+)、P53蛍光体(YAl12:Tb3+)、P56蛍光体(Y:Eu3+)等を用いることができる。その他、電子線照射により発光する蛍光体であればその種類は特に限定されるものではない。
また、蛍光体層13の表面には、透明保護膜が形成されていてもよい。
透明保護膜は、蛍光体層13の電子線照射による劣化を抑制するもので、透明でかつ、蛍光体よりも電子線照射に対して耐性の強い酸化ケイ素、酸化チタンのいずれかの材料で構成されている。これらの材料を100〜200nm厚で蛍光体層13上に付着させることで、カソード電極11から放出された電子が、蛍光体層13に到達するとともに、蛍光体層13で発光した光を遮蔽なしに取り出すことが可能になる。又、蛍光体層13における蛍光体の劣化速度を大幅に低減できる。
【0036】
アノード電極14は、金属膜、又は、金属酸化物膜からなり、蛍光体層13上に形成されている。
アノード電極を構成する金属膜の種類としては、アルミニウム膜、炭素膜等が挙げられる。
金属酸化物膜の種類としては、酸化スズ・インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等が挙げられる。
これらの金属膜、金属酸化物膜は、蒸着法、スパッタ法等の方法を材料に応じて選択することによって好適に形成することができる。
【0037】
上記実施形態の説明には、蛍光体層13の表面にアノード電極14が形成されている態様を示したが、アノード電極は必ずしも蛍光体層の上面に形成されている必要はない。例えば、アノード電極としてITO等の透明導電膜を使用した場合には、アノード電極が形成される位置は、真空封止容器の内壁面上であってもよく、また、蛍光体層の両面であってもよい。
【0038】
(実施例)
図1(a)、図1(b)、図2(a)及び図2(b)に示す形態のにおいて、電子放出部材の数を6本、円筒形の真空封止容器の半径R=15mm、電子放出部材の曲率半径r=0.5mm、電子放出部材がサポート棒から露出した部分の高さh=0.4mmとして、電子放出部材と蛍光体層の間に5kV又は6kVの電圧を印加した場合の点F(図2(b)参照)における電界強度を、サポート棒の曲率半径Dに対して、2次元有限要素法ソフトウェア(Estat:Field Precision社)により計算した結果を図4に示す。
【0039】
図5は、閾値電界強度が1.28V/μmであるND/CNW膜の電子放出特性を示すグラフである。このグラフから、この電子放出膜を用いた場合に電子放出密度が0.6mA/cm以下となるのは、電界強度が1.23V/μm以下の場合であることがわかる。
【0040】
図4には、点Fの電界強度が1.23V/μmとなる線を点線で示している。
上記2つの図に示された結果から、電子放出密度を0.6mA/cm以下とするためには、印加電圧が5kVの場合は曲率半径Dを約2.1mm以上に、印加電圧が6kVの場合は曲率半径Dを約3.2mm以上に、それぞれ設定すればよいことがわかる。
すなわち、電子放出部材として、曲率半径r=0.5mmと曲率半径が小さいものを用いた場合であっても、適切な曲率半径を有するサポート棒を用いて、サポート棒と電子放出部材を組み合わせたカソード電極とすることによって、所定の電圧を印加した状態で蛍光体へ入射する入射電子線の密度を好ましい範囲とすることができることがわかる。
【0041】
(第二実施形態)
図6(a)は、本発明の電界放出型光源の別の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図であり、図6(b)は、真空封止容器の中心軸と平行な面(図6(a)のG−G線断面)で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0042】
図6(a)及び図6(b)に示す電界放出型光源2は、カソード電極の形状が異なり、蛍光体層及びアノード電極が形成された部位が異なる他は第一実施形態で説明した電界放出型光源1と同様の構成を有している。
【0043】
本実施形態の電界放出型光源2は、電子照射面発光利用型FELであり、蛍光体層13にカソード電極111から電子線照射して得られる発光を、蛍光体層13と反対側(図6(a)の上側)から真空封止容器10を通して取り出す構造となっている。
【0044】
カソード電極111は、溝部を1つ有するサポート棒120と、サポート棒120の外周部に埋め込まれた1本の電子放出部材121を備えている。
アノード電極14及び蛍光体層13は真空封止容器10の内周面の一部にのみ形成されており、電子放出部材121は蛍光体層13と対向する位置に配置されている。
【0045】
なお、図6(a)及び図6(b)には、電子放出部材の本数が1本である例を示したが、電子照射面発光利用型FELとする場合に、電子放出部材の本数は1本に限定されるわけではなく、蛍光体層に有効に電子線を照射できる位置に、任意の数の電子放出部材を設けることが望ましい。
【0046】
(その他の実施形態)
サポート棒の形状は、略円柱形状に限定されるものではなく、棒状であればよい。
例えば、多角柱状、半円柱状、楕円柱状等の形状であってもよい。
電子線照射面発光利用型FELの場合、サポート棒の曲率半径が大きい(サポート棒が太い)と、光の取り出し効率が低下することがある。そのため、サポート棒の曲率半径をできるだけ小さくすることが好ましいが、サポート棒の曲率半径が小さいと電子放出膜における電界強度が大きくなってしまう。
ここで、サポート棒の形状が多角形であると、多角形の外接円の直径以上の直径を有する丸棒型のサポート棒を用いた場合と比較して、電界強度を弱める効果をより効果的に発揮させることができる。例えば、サポート棒の形状を三角柱とし各辺の中央部に電子放出素子を埋め込んだ場合、三角形の頂点により電界が大きく歪むため、三角形の外接円と同じ径の円柱よりも太い円柱状のカソード電極とした場合と同等の電界強度を得ることができる。
このことから、電子線照射面発光利用型FELにおいてサポート棒が影となって光の取り出しを妨げることを抑制しつつ、電界強度を弱める効果を効果的に得ることができる。
【0047】
サポート棒の好ましい材質としては、アルミニウム、チタン、アルミニウム合金、チタン合金、ステンレス合金等が挙げられる。
これらの金属は強度が充分である上、真空封止容器内でのFELの作製工程における真空封止工程においてガス放出速度が低い特徴を持っているため好ましい。
【0048】
電子放出部材の形状は、略円柱形状、半円柱状に限定されるものではなく、任意の形状とすることができる。
電子放出膜は、サポート棒から露出する部分の全てに設けられている必要はなく、蛍光体層に適切な密度で電子線を入射することができれば、サポート棒から露出部分の一部にのみ設けられていても良い。
【符号の説明】
【0049】
1、2 電界放出型光源
10 真空封止容器
11、111 カソード電極
12 電子放出膜
13 蛍光体層
14 アノード電極
19 電源
20、120 サポート棒
21、121 電子放出部材
22 電子放出膜
23 カソード電極固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空封止容器と、
前記真空封止容器の中心軸に沿って配設された、棒状のサポート棒、及び、前記サポート棒の外周部に埋め込まれてなり、前記サポート棒から露出した部分に電子放出膜が形成された、1本又は複数本の棒状の電子放出部材とを備えたカソード電極とを備え、
前記サポート棒の曲率半径をD、前記電子放出部材の曲率半径をrとしたときに、
D>rであることを特徴とする、電界放出型光源。
【請求項2】
前記電子放出部材が前記サポート棒から露出した部分の高さをhとしたときにh<rとなる請求項1記載の電界放出型光源。
【請求項3】
前記電子放出部材が、前記サポート棒の長手方向において複数本に分割されている請求項1又は2に記載の電界放出型光源。
【請求項4】
蛍光体層が前記真空封止容器の内壁の全周にわたって形成されており、
前記電子放出部材の数が複数本であり、前記サポート棒の長手方向に垂直な断面において、隣り合う2つの前記電子放出部材の中心と前記サポート棒の中心のなす角が全て等しくなるように配置されている請求項1〜3のいずれかに記載の電界放出型光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−84475(P2012−84475A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231524(P2010−231524)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(509033169)高知FEL株式会社 (13)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】