説明

電界発光素子

【課題】希土類金属を含む錯体を発光材料とし、それを発光層に適用した発光効率の高い電界発光素子を提供する。
【解決手段】対向する電極間に発光層を有する電界発光素子であって、
(1)発光層は、希土類金属を含有する発光材料を含み、
(2)前記発光材料は、希土類金属からなる中心金属と、中心金属に対して酸素原子を介して存在しているカウンター金属とを含有する金属クラスターであり、
(3)電極間に電圧又は電流を印加することにより発光層を発光させる、
ことを特徴とする電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子は、発光層とそれを挟持する対向電極とを有しており、陰極から注入した電子と陽極から注入した正孔とを発光層において結合させることによって発光を取り出すものである。当該発光は、電極間に電界(電圧又は電流)を印加することにより得られる。
【0003】
電界発光素子の発光層に含まれる発光材料(発光物質)としては、希土類金属を含む有機金属錯体が知られている。例えば、2価、3価又は4価の希土類金属イオンに、アセチルアセトン、ジベンゾイルメタン、2−テノイルトリフロロアセトン等のβ−ジケトン、o−ベンゾイル安息香酸、サリチル酸、o−フタル酸等のカルボン酸基を有する化合物;サルチルアルデヒド、o−ヒドロキシアセトフェノン等のヒドロキシル基に隣接したケトン基又はアルデヒド基を有する化合物;クラウンエーテル等を配位子として配位した有機金属錯体が挙げられる。
【0004】
より詳細には、特許文献1には、2−ヒドロキシピリジン−N−オキシド骨格を有する化合物を配位子とし、これに希土類金属イオンを配位させて得られる有機金属錯体が電界発光素子の発光層に含まれる発光材料として開示されている。
【0005】
希土類金属を含む有機金属錯体は、光を吸収して蛍光を発する材料としても公知である。例えば、特許文献2には、下記一般式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
〔式中、R、Rは独立にアルキル基、アリール基、ヘテロ原子を含む複素環式基又はハロゲン化アルキル基を表し、Rは水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。〕
で表される有機成分を配位子とし、これに希土類金属イオンを配位させて得られる有機金属錯体を含有する再発光部(EL発光を吸収して蛍光を発する発光部)を有する有機薄膜EL素子が開示されている。
【0008】
このような従来の発光又は蛍光材料に用いられる有機金属錯体は、配位子が有機成分であり金属成分を含まないものである。
【特許文献1】特開2001−234160号公報
【特許文献2】特開平9−194831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の有機金属錯体を用いた発光材料は、電界発光素子の発光層に適用する場合に消光が起こり易く、発光効率の観点からも改善の余地がある。
【0010】
従って、本発明は、希土類金属を含む錯体を発光材料とし、それを発光層に適用した発光効率の高い電界発光素子を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、希土類金属を含む錯体を発光材料とし、それが有機媒体に分散された発光層を有する電界発光素子を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、希土類金属を含有する特定の金属クラスターを発光材料として採用する場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記の電界発光素子に係るものである。
【0014】
1.対向する電極間に発光層を有する電界発光素子であって、
(1)発光層は、希土類金属を含有する発光材料を含み、
(2)前記発光材料は、希土類金属からなる中心金属と、中心金属に対して酸素原子を介して存在しているカウンター金属とを含有する金属クラスターであり、
(3)電極間に電圧又は電流を印加することにより発光層を発光させる、
ことを特徴とする電界発光素子。
【0015】
2.発光層は、有機媒体を更に含み、有機媒体中に発光材料としての金属クラスターが分散している、上記項1に記載の電界発光素子。
【0016】
3.カウンター金属は、Al、Ga、Ti、Zr、Hf、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の電界発光素子。
【0017】
4.中心金属は、Ce、Eu、Tb、Er、Nd、Pr、Dy、Tm、Sm及びYbからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1〜3のいずれかに記載の電界発光素子。
【0018】
5.金属クラスターの平均粒子径が0.1〜1000nmである、上記項1〜4のいずれかに記載の電界発光素子。
【0019】
6.発光層中の金属クラスターの含有量は、固形分換算で90重量%以下である、上記項1〜5のいずれかに記載の電界発光素子。

以下、本発明の電界発光素子について、詳細に説明する。
【0020】
本発明の電界発光素子は、対向する電極間に発光層を有する電界発光素子であって、
(1)発光層は、希土類金属を含有する発光材料を含み、
(2)前記発光材料は、希土類金属からなる中心金属と、中心金属に対して酸素原子を介して存在しているカウンター金属とを含有する金属クラスターであり、
(3)電極間に電圧又は電流を印加することにより発光層を発光させる、
ことを特徴とする。
【0021】
以下、電界発光素子の各要素について説明する。
【0022】
発光層
本発明の電界発光素子は、対向する電極間に発光層を有する。発光層は希土類金属を含有する発光材料を含み、当該発光材料は、希土類金属からなる中心金属と、中心金属に対して酸素原子を介して存在しているカウンター金属とを含む金属クラスターである。金属クラスターの構造の一態様を図1に示す。
【0023】
図1において、REは希土類金属を示し、Mはカウンター金属を示す。なお、図1は一態様であり、中心金属の周囲に酸素原子を介してカウンター金属が存在している限り、中心金属に対して存在するカウンター金属の数、存在に関与する酸素原子の数等は図1の態様に限定されない。金属クラスターがこのような構造を採るため、金属クラスターの凝集が抑制されており、有機媒体中に分散させて用いる場合(例えば、発光層が金属クラスターを分散した有機媒体である場合)には、均一な分散状態が得られ易い。
【0024】
希土類金属としては、スカンジウム、イットリウム並びに原子番号57〜71のランタノイド(ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジム、プロムチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホロミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウム)が挙げられる。
【0025】
希土類金属の中でも、セリウム(Ce)、ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)、ネオジム(Nd)、プラセオジウム(Pr)、ジスプロシウム(Dy)、ツリウム(Tm)、サマリウム(Sm)及びイッテルビウム(Yb)の少なくとも1種が好ましい。
【0026】
カウンター金属としては、酸素原子を介して希土類金属に結合可能なものであれば限定的ではないが、Al、Ga、Ti、Zr、Hf、Nb及びTaからなる群から選択された少なくとも1種が好ましい。
【0027】
カウンター金属と結合している酸素原子及び/又は中心金属とカウンター金属との間に介在している酸素原子には、炭素原子を介して又は介さずに、更に官能基が結合していてもよい。この官能基は、図1ではRと示す。
【0028】
官能基Rは、金属クラスターが分散する有機媒体との相溶性などを考慮して選択できる。官能基Rとしては、例えば、1)水素原子、2)アルキル基、3)ビニル基、アリル基、アミノ基、ジアゾ基、ニトロ基、シンナモイル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基及びシアノ基の1種以上、4)前記3)の1種以上を置換基として有するアルキル基、5)前記3)の1種以上を置換基として有するアルキルシリル基、6)前記3)の1種以上を置換基として有するアルキルカルボキシル基、7)カルボキシレート基、水酸基、アミノ基及びアミド基の1種以上を含むオリゴマー又はポリマー、等が挙げられる。
【0029】
上記7)の場合には、オリゴマー又はポリマーの末端に存在するカルボキシレート基、水酸基、アミノ基又はアミド基は、エステル交換反応によって酸素原子と結合する態様で存在する場合が多い。
【0030】
金属クラスターにおける中心金属とカウンター金属とのモル比は、中心金属とカウンター金属の組合せで決定されるもので一定ではないが、中心金属:カウンター金属=1:1〜1:5程度が好ましく、1:1.5〜1:4程度がより好ましい。
【0031】
金属クラスターの平均粒子径は限定されないが、0.1〜1000nm程度が好ましく、0.1〜50nm程度がより好ましい。なお、金属クラスターは、会合構造を形成していてもよい。
【0032】
金属クラスターの、発光層中における含有量は限定的ではないが、固形分換算で90重量%以下が好ましい。下限値は限定的ではないが、所定の効果を発揮するためには3重量%程度が下限値として好ましい。発光層における金属クラスター以外の成分としては、後記する有機媒体等が挙げられる。
【0033】
金属クラスターの合成方法
金属クラスターの合成方法は限定的ではないが、例えば、1)希土類金属原料とカウンター金属原料とを混合後、熱処理、粉砕する方法が挙げられる。各金属原料としては、金属塩、水酸化物、酸化物等が使用できる。塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物等の鉱酸塩;蟻酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩、アルコキシドなどが含まれる。この中でも、アニオン不純物が少ないという点からは、蟻酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩;アルコキシドが好ましく、特に酢酸塩が好ましい。なお希土類金属の酢酸塩は、通常は結晶水を含むため、条件によっては、予め脱水処理を行ってから用いるとよい。
【0034】
その他、2)希土類金属塩とカウンター金属塩とを適当な溶媒に溶解後、加水分解する方法、3)希土類金属塩とカウンター金属のアルコキシドとを適当な溶媒中で反応させる方法、などが挙げられる。これらの合成方法の中でも、ナノサイズ金属クラスターを合成するためには、3)の方法が好ましい。
【0035】
いずれの方法においても、得られる金属クラスターの中心金属とカウンター金属とのモル比が、前記1:1〜1:5程度(好ましくは1:1.5〜1:4程度)となるように各金属原料を配合するのが好ましい。特に上記3)の方法では、反応系における中心金属イオンとカウンター金属イオンとのモル比が上記範囲となるように設定するのが好ましい。
【0036】
上記2)又は3)の方法において、金属クラスターの合成に用いる溶媒は限定的でない。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の1級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコール−α−モノメチルエーテル、プロピレングリコール−α−モノエチルエーテル等のグリコールエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル;アセトニトリル、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素化合物;などが使用できる。
【0037】
上記2)及び3)の方法では、溶媒の還流温度まで加熱(熱処理)することができる。この場合には、反応速度を高めることができるため有利である。反応温度は、中心金属とカウンター金属の組合せにより最適温度が異なるが、具体的には、0〜150℃程度が好ましく、20〜120℃程度がより好ましい。反応時間は反応温度に応じて異なるが、1分〜2日程度が好ましく、5分〜24時間程度がより好ましい。
(a)金属クラスターを形成後にRを導入する方法、(b)カウンター金属原料(特に金属アルコキシド)にRを予め導入後、中心金属原料と反応させて金属クラスターを形成する方法、が挙げられる。アルキルカルボキシル基の導入方法としては、相当する有機カルボン酸又はその無水物を金属クラスターと反応させる方法が挙げられる。アルキル基としては限定的ではないが、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖炭化水素が挙げられる。
【0038】
上記(a)の方法では、金属クラスターと反応させる化合物としては、例えば、末端にカルボキシレート基、水酸基、アミノ基、アミド基等の活性水素を有する化合物(化合物はオリゴマー又はポリマーの場合も含む)が挙げられる。
【0039】
上記(b)の方法では、カウンター金属原料と反応させる化合物としては、例えば、アルキル基;反応性を有するビニル基、アリル基、アミノ基、ジアゾ基、ニトロ基、シンナモイル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基、シアノ基(以下、前記ビニル基〜シアノ基までを総称して「反応性基」とも言う);前記反応性基のいずれかを置換基として有するアルキル基;前記反応性基のいずれかを置換基として有するアルコキシシラン:RSiOR(但し、Rは前記反応性基又は前記反応性基により置換されていてもよいアルキル基を示す。R及びRは、水素、前記反応性基若しくは前記反応性基により置換されていてもよいアルキル基又はアルコキシル基を示す。Rは、アルキル基を示す。)並びに、前記反応性基のいずれかを置換基として有するアルコキシゲルマン:RGeOR(但し、R〜Rは前記と同じである。)が挙げられる。その他、縮重合によりカウンター金属原料と結合可能な化合物も挙げられる。
【0040】
発光層は、上記金属クラスター(発光材料)を含有する限り限定的ではない。例えば、発光層としては、金属クラスターを発光層の形状に成形したもの、金属クラスターを有機媒体中に分散させて発光層の形状に成形したもの等が挙げられる。
【0041】
発光層が、金属クラスターを分散した有機媒体である場合の説明を次に示す。
【0042】
有機媒体としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリシクロヘキシルメタクリレート、ポリベンジルメタクリレート、ポリフェニルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ4メチルペンテン1、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、スチレンアクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリビニルカルバゾール、スチレン無水マレイン酸共重合体、ポリオレフィン、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリシロキサン、ポリシラン、ポリアミド、環状オレフィン樹脂、ポリカルバゾール、ポリシラン、ポリ(3,4−エチレンオキシチォフェン)、ポリ(3,4−エチレンオキシチォフェン)−ポリスチレンスルフォネート共重合体等のポリチオフェン類、ポリアニリン類、ポリピロール類等の樹脂が挙げられる。これらの有機媒体は、単独又は2種以上を混合して使用できる。これらの樹脂は、光重合性樹脂であってもよい。
【0043】
有機媒体は、その主鎖や側鎖に、光や熱によって付加、架橋、重合等の反応を促す官能基を有していてもよい。このような官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ジアゾ基、ニトロ基、シンナモイル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基等が挙げられる。これらのうちでも、特に、重合性の官能基であるアクリロイル基、エポキシ基等を有する金属クラスターは、当該官能基相互を重合させることにより発光層を形成できる。
【0044】
有機媒体中に金属クラスターが分散された発光層の形成方法としては、例えば、次のものが挙げられる。
【0045】
(1)有機媒体に金属クラスターを添加・分散する方法
金属クラスターを別途用意した有機媒体中に分散させることによっても本発明の発光層とできる。例えば、有機媒体(樹脂)中に金属クラスターを分散させる場合には、金属クラスターを分散させた有機溶媒に上記樹脂を溶解し、次いで有機溶媒を除去することにより達成できる。
【0046】
更に、重合性化合物を用いることにより本発明の発光層を形成してもよい。例えば、金属クラスターを分散させた有機溶媒に重合性化合物を添加後、重合性化合物を硬化させ、次いで有機溶媒を除去することにより達成できる。
【0047】
更に、有機媒体が重合性樹脂である場合は、重合性モノマーに金属クラスターを添加し、必要に応じて重合触媒、重合開始剤等を添加し、光照射又は加熱処理して重合性モノマーを重合させることにより本発明の発光層とできる。
【0048】
(2)重合性官能基(有機成分)を有する金属クラスターどうしを重合させる方法
この方法は、重合性官能基を有する金属クラスターどうしを重合させることにより、有機媒体中に金属クラスターが分散された状態を形成する方法である。例えば、重合性官能基を有する金属クラスターどうしは、重合開始剤、触媒等を共存させて光照射又は加熱することにより重合硬化させることができる。重合開始剤、触媒の種類及び量は、官能基の種類及び量により適宜設定できる。加熱する場合の温度及び時間は限定的ではないが、通常は室温〜200℃程度、数秒から数日の間から選択する。
【0049】
発光層は更に添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、p型導体化ドーパントである、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族ジアミンやキナクリドン、n型導体化ドーパントである、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、オキサジアゾール誘導体、8−アルキルキノリウム錯体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。添加剤の種類、量等は、電界発光素子の特性に応じて適宜設定できる。
【0050】
発光層における金属クラスターの含有量は、電界発光素子の特性に応じて異なるが、90重量%以下であることが好ましく、3〜90重量%程度がより好ましく、3〜50重量%程度が更に好ましい。
【0051】
発光層の厚みは特に限定されないが、0.005〜0.5mm程度が好ましく、0.01〜0.1mm程度がより好ましい。
【0052】
発光層の電気伝導性は、10−6〜1S/cm程度が好ましく、10−5〜0.1S/cm程度がより好ましい。
【0053】
他の構成要素
発光層は、対向する電極間に挟持されている。電極は特に限定されず、公知の電界発光素子に用いられる電極(陽極及び陰極)を使用できる。
【0054】
陽極としては、仕事関数の大きい材料が好ましい。具体的には、金、白金等の金属;インジウム−スズ酸化物(ITO)等の透明金属酸化物などが挙げられる。
【0055】
陰極としては、仕事関数の小さい材料が好ましい。具体的には、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム等の金属が好ましい。マグネシウムは、銀又はインジウムとの合金(例えば、共蒸着により得られる)又は混合物として用いることが、耐酸化性及び発光層との密着性の観点から好ましい。アルミニウムは、カルシウム、ナトリウム及びマグネシウムと比較して、大気中で酸化され難いため、経時的安定性を考慮すると最も実用的である。
【0056】
電極の厚みは限定的ではないが、通常は20〜1000nm程度が好ましく、50〜500nm程度がより好ましい。
【0057】
電界発光素子の構造としては、下部電極/発光層/抵抗/上部電極の積層体が最も簡単な構造である。下部電極又は上部電極のいずれかを陽極又は陰極とする。また、発光を取り出す側(少なくとも一方)の電極は、透明が好ましい。透明には、発光を取り出せる限り、半透明が含まれる。その他、櫛形不透明電極を用いることにより発光を取り出してもよい。
【0058】
電界発光素子は、必要に応じて、補助層(絶縁層など)、基板等を有してもよい。次に、電界発光素子の具体的な構造を挙げる。
1)下部電極/絶縁層/発光層/抵抗/透明上部電極からなる構造、
2)ガラス基板/透明下部電極/発光層/抵抗/透明上部電極からなる構造、
3)(プラスチック、セラミックス等の基板)/下部電極/発光層/抵抗/透明上部電極からなる構造。
【0059】
上記1)では、絶縁破壊を防止するための絶縁層を有する。発光は、透明上部電極を通して取り出せる。
【0060】
上記2)では、ガラス基板及び両電極が透明であり、発光層の両側から発光が取り出せる。
【0061】
上記3)の構造では、不透明基板を有する。発光は、透明上部電極を通して取り出せる。
【0062】
なお、電界発光素子の構造は、上記に限定されず、基板上に形成された下部電極の上に、電界発光層と上部電極とを複数組積層した構造なども挙げられる。
【0063】
前記絶縁層は、過大電流による絶縁破壊を防止するものであり、電界発光層と上部電極との間、並びに、発光層と下部電極との間、の一方又は両方に設置できる。
【0064】
絶縁層の材質は、絶縁効果が得られる限り特に限定されない。例えば、SiO、SiON、Al、Si、SiAlON、Y、BaTiO、Sm、Ta、BaTa、PbNb、Sr(Zr,Ti)O、SrTiO、PbTiO、HfO等が挙げられる。これらを複合した絶縁性セラミックスも使用できる。
【0065】
絶縁層の厚さは、絶縁性が得られる限り薄いことが望ましい。通常は50〜800nm程度が好ましく、100〜400nm程度がより好ましい。
【0066】
電界発光素子は、光反射層をさらに有することが好ましい。光反射層は、通常は発光を取り出す側とは反対側に設ける。光反射層を設けることによって、発光に指向性が生じ、光の強度(輝度)が高まる。光反射層としては、例えば、アルミニウム、銀、金等の光輝性材料のほか、高屈折率を有する透明性材料が使用できる。光反射層の厚さは限定的ではないが、反射効率の観点から、100nm以上、特に200nm以上が好ましい。
【0067】
電界発光素子は、電極間に電界(電圧又は電流)を印加することにより発光層が発光する。電界を印加する条件は、金属クラスターを含有してなる発光層の厚さ、発光層を形成する有機媒体種、さらには添加剤の種や添加量等に応じて異なるが、発光層が絶縁破壊を来たす電界強度を上限として、あるいは、金属クラスターが注入電荷エネルギーによって損傷を受けて劣化する電荷エネルギーに対応する電界強度を上限として決まる。
【発明の効果】
【0068】
本発明の電界発光素子、特定の金属クラスターを発光層の発光材料として含むため、発光効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】金属クラスターの構造の一態様を示す模式図である。
【図2】実施例1で測定したEu特有の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0071】
実施例1
Eu−Al金属クラスターを含むメチルメタクリレート溶液(Eu−Alとして10重量%含有)1重量部、エチレングリコールアクリレート1重量部、及び光開始剤(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1を0.005重量部の混合溶液を撹拌し、少量のTHFを添加して均一な透明溶液を調整した。
【0072】
該溶液をシリコンウエハー上にスピンコート法を用いて塗布し、膜厚2.3μmの薄膜を作成した。薄膜は100℃で1分間加熱し、残存溶媒を除去した。続いて波長365 nmと436nm混合紫外光を用いて2000秒照射し、該薄膜を硬化させてEu−Al金属クラスター含有アクリル樹脂を得た。
【0073】
このようにして得られたEu−Al金属クラスター含有アクリル樹脂薄膜に対して、カソードルミネッセンス分光装置(加速電圧3kV、露光時間1秒)を用いて、電荷注入による発光を試みた。その結果、図2に示すような発光スペクトルが観測された。
【0074】
この発光スペクトルはEu特有の発光スペクトルである。上記観測により、電界印加に基づく電荷注入によってEu−Al金属クラスターが発光することが実証できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する電極間に発光層を有する電界発光素子であって、
(1)発光層は、希土類金属を含有する発光材料を含み、
(2)前記発光材料は、希土類金属からなる中心金属と、中心金属に対して酸素原子を介して存在しているカウンター金属とを含有する金属クラスターであり、
(3)電極間に電圧又は電流を印加することにより発光層を発光させる、
ことを特徴とする電界発光素子。
【請求項2】
発光層は、有機媒体を更に含み、有機媒体中に発光材料としての金属クラスターが分散している、請求項1に記載の電界発光素子。
【請求項3】
カウンター金属は、Al、Ga、Ti、Zr、Hf、Nb及びTaからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の電界発光素子。
【請求項4】
中心金属は、Ce、Eu、Tb、Er、Nd、Pr、Dy、Tm、Sm及びYbからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の電界発光素子。
【請求項5】
金属クラスターの平均粒子径が0.1〜1000nmである、請求項1〜4のいずれかに記載の電界発光素子。
【請求項6】
発光層中の金属クラスターの含有量は、固形分換算で90重量%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の電界発光素子。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−180446(P2007−180446A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380155(P2005−380155)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】