説明

電界通信システム

【課題】雑音の大きい環境下であっても、通信品質の低下を防止する。
【解決手段】ユーザ2が携帯する携帯端末1と設置端末5、6とで電界通信を行う電界通信システムであって、床17に設置した床電極3と、床電極3と床17の導電性部材との間に形成される寄生容量を利用して、床電極3と前記床17の導電性部材との間にインダクタを接続した反共振回路4と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信すべき情報に基づく電界を電界伝達媒体に誘起させるとともにこの誘起した電界を検出して情報の送受信を行う電界通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末の小型化および高性能化によりウェアラブルコンピュータが注目されているが、図9はこのようなウェアラブルコンピュータを人間に装着して使用する場合の例を示している。同図に示すように、ウェアラブルコンピュータ7はそれぞれトランシーバ9を介して人間の腕、肩、胴体などに装着されて互いにデータの送受信を行うとともに、更に手足の先端で触れられるよう壁や床に設けられたトランシーバ9a、9bとケーブルとを介して外部に設けられたコンピュータ8と通信を行っている。
【0003】
ここで、このようなウェアラブルコンピュータ7間、およびウェアラブルコンピュータ7とコンピュータ8間とのデータ通信に使用されるトランシーバ9は、送信すべき情報に基づく電界を電界伝達媒体である生体に誘起させ、この誘起した電界を用いて情報の送受信を行うものである。なお、トランシーバ9については、特許文献1および特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−352298号公報
【特許文献2】特開2006−081111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、オフィス、実験室、工場等の床には、配管の他に、電力や通信ケーブルが埋設される場合がある。また、床は、強度の理由により、その内部もしくは裏面が鉄製であることが多く、放射による誘導雑音や埋設ケーブルからの静電性の雑音を拾いやすい。
【0006】
このような雑音を拾いやすい床の上にユーザが立って、ユーザが携帯する携帯端末と、壁に設置された設置型トランシーバとの間で、ユーザの人体を通信媒体とした電界通信を行う場合、床面から人体に混入する雑音の影響で、S/N比が悪化(Nが増大)し、通信品質が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、雑音の大きい環境下であっても、通信品質の低下を防止する電界通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、ユーザが携帯する携帯端末と設置端末とで電界通信を行う電界通信システムであって、床に設置した床電極と、前記床電極と前記床の導電性部材との間に形成される寄生容量を利用して、前記床電極と前記床の導電性部材との間にインダクタを接続した反共振回路と、を有する。
【0009】
また、本発明は、ユーザが携帯する携帯端末と設置端末とで電界通信を行う電界通信システムであって、床に設置された、第1の床電極と第2の床電極とを備える一対の床電極と、前記一対の床電極の間に形成される寄生容量を利用して、前記第1の床電極と前記第2の床電極との間にインダクタを接続した反共振回路と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、雑音の大きい環境下であっても、通信品質の低下を防止する電界通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る電界通信システムの全体構成図である。
【図2】図1に示す電界通信システムの等価回路である。
【図3】共振周波数で、雑音電圧が減少することを示すグラフである。
【図4】床電極の変形例を示す図である。
【図5】トランシーバの構成例である。
【図6】携帯端末の構成を示すブロック図である。
【図7】比較例の電界通信システムの全体構成図である。
【図8】図7に示す比較例の電界通信システムの等価回路である。
【図9】トランシーバを介してウェアラブルコンピュータを人間に装着して使用する場合の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態である電界通信システムの全体構成図である。図示する電界通信システムは、ユーザ2が携帯する携帯端末1と、床電極3と、反共振回路4と、設置端末(壁電極5と当該壁電極5に接続されたトランシーバ6)と、コンピュータ7とを有する。携帯端末1と、設置端末のトランシーバ6とは、ユーザ2の人体および壁電極5を介して電界通信が可能である。トランシーバ6と、コンピュータ7とは、例えばLANなどのネットワークにより接続されている。
【0014】
コンピュータ7は、携帯端末1が送信した信号(情報、データ)を、トランシーバ6を介して受信して、所定の制御を行う。例えば、コンピュータ7は、携帯端末1からの信号を用いてユーザ認証を行い、認証結果に応じてセキュリティ扉(不図示)の開錠/施錠や、改札機などのゲートの開閉などを行うものとする。
【0015】
トランシーバ6は、送信すべき情報に基づく電界を電界伝達媒体である人体に誘起させ、この誘起した電界を用いて情報の送受信を行うものである。
【0016】
トランシーバ6に接続される壁電極5は、携帯端末1と電界通信を行うために、コンピュータ7の制御対象(例えば扉、ゲート等)の近傍の壁に設置されている。壁電極5は、表面が絶縁シートで覆われている。図示する電界通信システムでは、トランシーバ6に接続される電極は、壁に設置された壁電極6としたが、壁電極6に限定されるものではない。トランシーバ6に接続される電極は、壁以外の場所(例えば、改札機など)に配置されていてもよい。
【0017】
本実施形態の床は、2重床構造となっており、鉄筋コンクリート床18の上に2重床17が配置されている。2重床17とコンクリート床18との間には、電力ケーブル、通信ケーブルなどの埋設ケーブル19が配置されている。2重床17には鉄などの導電性材料が使用されるため、2重床17は、埋設ケーブル19からの静電性の雑音や、放射による誘導雑音などの床雑音を拾ってしまう。図1では、このような床雑音を、雑音電圧V16で示している。
【0018】
本実施形態の床電極3は、2重床17から浮かせて(離して)設置され、また、ユーザ2が壁電極5に接触(タッチ)するのに適切な位置に設置されている。床電極3は、表面が絶縁シートで覆われている。
【0019】
反共振回路(並列共振回路)4は、床電極3と2重床17との間に形成される寄生容量Cを利用して、床電極3と2重床17との間にインダクタLを接続して構成される。本実施形態では、この反共振回路4を用いることにより、ユーザの人体を2重床17の床面から十分離すのと等価な状況を作り出し、床雑音がユーザの人体を介して壁電極5およびトランシーバ6に混入することを防止する。すなわち、導電性の床電極3(踏み板)を、2重床17から絶縁して、2重床17との容量結合による雑音がユーザの人体に混入されることを防止する。
【0020】
図2に、図1に示す電界通信システムの等価回路を示す。
【0021】
は、床電極3と人体2との容量結合によるインピーダンスであって、比較的小さい。Zは、壁電極5と人体2との容量結合によるインピーダンスであって、比較的小さい。Zは、携帯端末1と壁(導電性)との容量結合によるインピーダンスであって、比較的大きい。Zは、トランシーバ6の受信回路の入力インピーダンスであって、例えば1kΩ程度である。Zは、反共振回路4によるインピーダンスである。
【0022】
ここで、ZとZをゼロと近似して、かつ(Z≫Z)の関係を適用すると、Zに誘起される雑音電圧Vは、次のように近似できる。
【数1】

【0023】
これにより、反共振回路4のインピーダンスZを大きくすることで、Zに誘起される雑音電圧Vを小さくすることができる。
【0024】
したがって、反共振回路4を用いて、電界通信で使用されるキャリア周波数fにおいて、Zが最大になるようにインダクタLを設定(設計)する。
【0025】
すなわち、トランシーバ6で使用する電界通信のキャリア周波数を、反共振回路4の共振周波数Fとし、以下の式を満たすインダクタLを算出し、設定する。
【数2】

【0026】
なお、床電極3と2重床17との間に形成される寄生容量Cは、物理的な構造により定まる値である。また、電界通信のキャリア周波数fも、予め定められた所定の周波数(人体を伝送路とする通信の場合、例えば、数十MHz以下)である。したがって、上記式によりインダクタLを算出することができる。
【0027】
図3は、雑音電圧Vと周波数fとの関係を示すグラフであって、キャリア周波数(共振周波数)fにおいて雑音電圧Vが減少することを示している。
【0028】
このようなインダクタLを設定した反共振回路4を備えることで、反共振回路4が無限大のインピーダンスとなるため、2重床17からの床雑音を遮断する。すなわち、共振周波数fにおいて、2重床17から浮かせて設置した床電極3は、2重床17から電気的に切り離されるため、床雑音を遮断することができる。
【0029】
次に、床電極の変形例について説明する。
【0030】
図4は、床電極の変形例を示すものである。図1に示す床電極3は、2重床17から浮かせて設置し、床電極3と2重床17とをインダクタLで接続した反共振回路4を用いた。これに対し、図4の床電極は、第1の床電極3Aと第2の床電極3Bとを備える一対の床電極であり、反共振回路4Aは、第1の床電極3Aと第2の床電極3Bとの間に形成される寄生容量Cを利用して、第1の床電極3Aと第2の床電極3Bとの間にインダクタLを接続する。
【0031】
図4に示す床電極を用いることで、2重床17に対する施工が不要になり、任意の場所に床電極を容易に設置することができる。また、図4に示す床電極においても、図1と同様に、2重床17から電気的に切り離されるため、床雑音を遮断することができる。
【0032】
図5は、図1に示すトランシーバ6の構成例である。トランシーバ6は、電界信号検出技術を利用していて、送信すべき情報に基づく電界を電界伝達媒体に誘起させ、この誘起した電界を用いて情報の送受信を行うものである。具体的には、コンピュータ7からの送信データを入出力(I/O)回路901を介して受け取ると、この送信データを送信回路902を介して壁電極(S+、S−)5に供給し、当該電極を介して電界伝達媒体に電界を誘起させ、この電界を電界伝達媒体の他の部位に伝達させる。また、トランシーバ6は、電界伝達媒体に誘起されて伝達されてくる電界を壁電極(S+、S−)5で検出し、この電界を電界検出部905に結合して電気信号に変換する。そして、この電気信号は、信号処理回路906で増幅、ノイズ除去などの信号処理を施され、更に波形整形回路907で波形整形がなされ、入出力回路901を介してコンピュータ7に出力するようになっている。
【0033】
図6は、携帯端末1の構成を示すブロック図である。図6に示すように、携帯端末1は、一対の電界通信用の電極(S+)101Aおよび電極(S−)101Bと、電源としての電池104と、電界通信を行うトランシーバ102と、コンピュータ(マイコン)103とを備える。一対の電極101Aと101Bは、トランシーバ102に接続されている。携帯端末1のトランシーバ102は、図5に示すトランシーバ6と同様に、電界伝達媒体を介して電界通信を行うものである。また、コンピュータ103は、例えば、メモリなどの記憶部にIDが記憶され、トランシーバ102を用いて、当該IDを含むID信号を送信するものとする。
【0034】
次に、本発明の比較例である電界通信システムについて説明する。
【0035】
図7は、比較例の電界通信システムを示す図である。図8は、図7に示す電界通信システムの等価回路である。
【0036】
比較例の電界通信システムでは、床電極および反共振回路を設けていない。2重床17の上にユーザ2が直接立っている(接触している)ため、2重床17とコンクリート床18との間の埋設ケーブルからの静電性の雑音や、放射による誘導雑音などの床雑音が、ユーザ2の人体を介して壁電極5およびトランシーバ6に伝達される。これにより、携帯端末1から送信される信号に床雑音が混入し、S/N比が悪化してしまい、通信品質が低下する。
【0037】
また、図8に示す等価回路では、Zは、2重床17と人体2との容量結合によるインピーダンスであって、比較的小さい。Zは、壁電極5と人体2との容量結合によるインピーダンスであって、比較的小さい。Zは、携帯端末1と壁(導電性)との容量結合によるインピーダンスであって、比較的大きい。Zは、トランシーバ6の受信回路の入力インピーダンスであって、例えば1kΩ程度である。
【0038】
ここで、ZとZをゼロと近似して、かつZとZが雑音源Vに対して並列であることに着目すると、Zに誘起される雑音電圧Vは、V=Vのように近似され、トランシーバ6の受信回路に床雑音が減衰することなく伝達される。
【0039】
これに対し、図1に示す本実施形態の電界通信システムでは、2重床17から浮かせて設置した床電極3と、当該床電極3と2重床17との間に形成される寄生容量を利用して、床電極3と2重床17との間にインダクタを接続した反共振回路4と、を備える。これにより、本実施形態では、床電極3は2重床17から電気的に切り離され、床雑音のユーザへの混入を遮断することができる。具体的には、床雑音がユーザの人体を介して壁電極5およびトランシーバ6に伝達され、携帯端末1から送信される信号に床雑音が混入し、通信品質が低下することを防止することができる。
【0040】
また、図4に示す床電極の変形例の電界通信システムでは、2重床17に設置した一対の床電極3A、3Bと、一対の床電極3A、3Bの間に形成される寄生容量を利用して、一対の床電極3A、3Bの間にインダクタを接続した反共振回路4Aと、を備える。これにより、一対の床電極3A、3Bは2重床17から電気的に切り離され、床雑音のユーザへの混入を遮断することができる。具体的には、床雑音がユーザの人体を介して壁電極5およびトランシーバ6に伝達され、携帯端末1から送信される信号に床雑音が混入し、通信品質が低下することを防止することができる。 なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。例えば、本実施形態のトランシーバ6は、一対の電極(S+)、電極(S−)から信号を入力し、差動アンプで同相雑音を除去するものであるが、信号電極およびグランド電極を用いる構成であってもよい。
【0041】
また、本実施形態のトランシーバは、送受信可能なトランシーバとして記載しているが、送信回路を有しない、受信動作のみを行うトランシーバであってもよい。また、本実施形態の携帯端末1のトランシーバも、送受信可能なトランシーバとして記載しているが、受信回路を有しない、送信動作のみを行うトランシーバであってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 携帯端末
2 ユーザ
3 床電極
3A 一対の床電極
4、4A 反共振回路
5 壁電極
6 トランシーバ
7 コンピュータ
17 2重床
18 コンクリート床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが携帯する携帯端末と設置端末とで電界通信を行う電界通信システムであって、
床に設置した床電極と、
前記床電極と前記床の導電性部材との間に形成される寄生容量を利用して、前記床電極と前記床の導電性部材との間にインダクタを接続した反共振回路と、を有すること
を特徴とする電界通信システム。
【請求項2】
ユーザが携帯する携帯端末と設置端末とで電界通信を行う電界通信システムであって、
床に設置された、第1の床電極と第2の床電極とを備える一対の床電極と、
前記一対の床電極の間に形成される寄生容量を利用して、前記第1の床電極と前記第2の床電極との間にインダクタを接続した反共振回路と、を有すること
を特徴とする電界通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−244516(P2012−244516A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114406(P2011−114406)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】