説明

電着ドラム

【課題】 アウタースキン裏面の微小な凹凸に対する追従性が良く、電流が常に均一に流れて通電むらの生じない電着ドラムを提供する。
【解決手段】 インナードラム2の外周板3の表面にアウタースキン4を焼嵌めした電着ドラムにおいて、上記インナードラム2の外周板3の表面に螺旋体5の直径より小さい深さの溝31を削設し、この溝31の中にアウタースキン4及びインナードラム2の外周板3と熱膨張率が同等以上で、且つ、導電性良好な素材からなる螺旋体5を巻装した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着法による銅箔、ニッケル箔等の金属箔の製造に用いられる電解金属箔製造装置の電着ドラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電解金属箔製造装置は、図1に示すように電着ドラム1を電解液90に浸して回転させて、陰極としたドラム面と電解溶液中に配された陽極91との間に直流電流を流して、ドラム面に電解金属箔層を形成させて電解金属箔を生産している。
この装置に使用されていた従来の電着ドラムとしては特許文献1に提案されているものがある。この電着ドラムは図13に示すようにインナードラムの外周板101の表面に、インナードラムの外周板101及びアウタースキン200と熱膨張率が同等もしくはそれ以上であり、かつ良導電率をもち耐食性に優れた一定の径の線材400を巻回し、該線材400上に該アウタースキン200を焼嵌めしたものである。
この電着ドラムは、全体の通電状況を均一にし、通電むらによる弊害の発生等を抑制し、全体の通電量の大幅な増加を可能として作業の高速化を図るものである。
【特許文献1】特許第3171592号
【0003】
しかしながら、上記特許文献1記載の発明では、インナードラムの外周面に巻回した線材が単一の線材であったため、次のような問題点があった。
すなわち、長尺の線材では長さ方向での剛性が大きくなり、アウタースキン裏面の微小な凹凸に対する追従性が悪くなる。また、線材であるために弾力性が小さく、溶液中での加熱及び溶液外での冷却によって膨張と収縮を繰り返すアウタースキンとの間に生じる微小ズレや微小空隙に対して追従できない場合もあり、電流が均一に流れず通電むらがおこるおそれがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、アウタースキン裏面の微小な凹凸に対する追従性が良く、電流が常に均一に流れて通電むらの生じない電着ドラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨とするところは、インナードラムの外周板の表面にアウタースキンを焼嵌めした電着ドラムにおいて、上記外周板の表面に、アウタースキン及びインナードラムの外周板と熱膨張率が同等以上で、且つ、導電性良好な素材からなる螺旋体を巻装した電着ドラムである。
【0006】
また、本発明の要旨とするところは、上記インナードラムの外周板の表面に、螺旋体の直径より小さい深さの溝を削設し、この溝に螺旋体を巻装した電着ドラムである。
【0007】
また、本発明の要旨とするところは、上記螺旋体に一定の張力を加えて引き伸ばした状態で巻装した電着ドラムである。
【0008】
また、本発明の要旨とするところは、上記螺旋体が直径0.1〜3mmの銅もしくは銅合金線を螺旋状に形成した電着ドラムである。
【0009】
また、本発明の要旨とするところは、上記螺旋体が幅0.5〜20mmの銅もしくは銅合金板を螺旋状に形成した電着ドラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記のような構成であるため、インナードラムの外周面に巻装した螺旋体の長さ方向での剛性が著しく小さいため、アウタースキン裏面の凹凸に対する追従性が良くなる。また螺旋体はその構成上弾力性が大きいため、溶液中における加熱による膨張及び溶液外での冷却による収縮の影響を受けても、アウタースキンとの微小ズレ、微小空隙に対して追従性が良い。そのため電流を常に均一に流すことができ、通電量の増加を可能にして作業の高速化が図れる。
【0011】
上記インナードラムの外周面に溝を構成した場合には、螺旋体の直径が溝の深さよりも大きいため、螺旋体が溝の表面より突出した状態で巻装され、その上からアウタースキンを焼嵌めするから、螺旋体は溝の内周面に密着した状態となり、アウタースキンに対してより追従性がよくなるため、上記記載の効果を一層確実なものとする。
【0012】
また、上記螺旋体を溝に巻装するときに、螺旋体に一定の張力を加えて引き伸ばした状態で巻装することにより溝から外れることが防止され、かつ溶液中で加熱され螺旋体が膨張した場合に、その浮き上がりを防止できる。
【0013】
また、上記螺旋体を直径0.1〜3mmの銅もしくは銅合金線によって形成したり、幅0.5〜20mmの平板状の銅もしくは銅合金板によって形成することにより、最も作業効率の良い螺旋体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態は、インナードラムの外周板の表面にアウタースキンを焼嵌めした電着ドラムにおいて、上記インナードラムの外周板の表面に螺旋体の直径より小さい深さの溝を削設し、この溝の中にアウタースキン及びインナードラムの外周板と熱膨張率が同等以上で、且つ、導電性良好な素材からなる螺旋体を巻装した電着ドラムである。
【0015】
図に基づいて本発明の第1実施形態を説明する。
図1は電解金属箔製造装置の一部切欠正面図、図2は電着ドラムの一部切欠正面図、図3は外周板の溝の中に螺旋体を巻装した状態の一部切欠拡大正面図、図4は外周板の溝の中に螺旋体を巻装した状態の一部切欠拡大斜視図、図5及び図6はアウタースキンを焼嵌めた状態の一部切欠拡大正面図、図7は螺旋体の一部拡大模式図、図8は螺旋体の他例の一部拡大模式図、図9乃至図11は溝の形状を示す模式図及び図12はインナードラムの他例を示す一部切欠拡大正面図である。
【0016】
まず本実施形態の構成を説明する。
電着ドラム1は、インナードラム2とアウタースキン4よりなる。インナードラム2の外周を構成する外周板3の外面には断面矩形の溝31を螺旋状に削設してある。
【0017】
上記アウタースキン4は、チタンあるいはタンタル等の電解液中で耐食性を有する金属、又はこれらの合金または積層板で作られ螺旋体5上に焼嵌めされる。インナードラム2及びその外周板3は鉄またはステンレスで構成されている。
【0018】
上記外周板3の表面に削設された溝31は、図4、図9に示すように外周板3の円周方向に螺旋状に構成されている。図3に示すように、本実施形態では上記溝31の幅L1は4mmとしているが、3〜10mmの範囲で変更可能であり、深さL2は3.5mmとしているが、2.5〜9.5mmの範囲で変更可能である。そして溝31,31の間のピッチL4は10mmとしているが、5〜50mmの範囲で変更可能である。
【0019】
上記溝31の中に巻装する螺旋体5を構成する。この螺旋体5は、銅もしくは銅合金からなる単一の線材51を螺旋状に形成したものである。
上記線材51によって構成した螺旋体5は直径が4mmであるため、巻装時にはインナードラム3の表面から、0.5mm(高さL3)だけ突出するのである(図3、図4参照)。
【0020】
上記螺旋体5を構成する線材51は、直径は0.1〜3mmの範囲で選択でき、好ましくは、0.3mmである。そして材質としては、他にアルミまたはアルミ合金線、銅メッキした鋼線等がある。
線材51の直径が3mmを越えると螺旋体の剛性が増して、アスタースキンを焼嵌めした時に圧縮されにくくなり、その結果、アウタースキン内面の凹部への復元しろが獲得できなくなり均一な密着が図れなくなる。一方直径が0.1mmより小さくなると、螺旋体5あるいは溝31の作成に手間がかかると共に、それを均一に巻装することが難しくなり、作業効率を損なうことになる。
【0021】
上記溝31の大きさ、形状等は本実施形態に限定されず適宜変更可能であり、例えば断面形状がU字形の溝も選択できる。
更に、溝31の構成方法も発明の効果の範囲において変更することができる。例えば図10に示すように外周板3表面に対して半径方向に略ジグザグ状に連続して構成することもでき、図11に示すように外周板3表面に対して半径と平行に不連続な溝31を構成することもできる。
【0022】
次に本実施形態の作用を説明する。
外周板3に構成した溝31に螺旋体5を巻装する。その後、アウタースキン4を焼嵌めると、螺旋体5はアウタースキン4によって上方から押圧されて溝31内に封入されて図5の状態となる。このとき螺旋体5は、インナードラム3の表面から突出している部分の復元力でアウタースキン4に密着すると同時に、上記押圧力により略四角状に変形して溝31の両壁面と底面に密着した状態となる。
また、アウタースキン4の裏面に凹部4aがある場合には、図6に示すように螺旋体5は形状を保ったまま凹部4aとの接触を保持している。
【0023】
また、上記螺旋体5の巻装時に、螺旋体5に一定の張力を加えてわずかに引き伸ばした状態で巻装することもできる。この方法によれば、螺旋体5の収縮力により溝31の底面に圧接した状態となり、アウタースキン4の焼嵌め時に、螺旋体5が溝31から外れることを防止して確実に溝31内に巻装することができる。さらに、張力が発生するから溝31への密着度が高くなり、溶液中で加熱され螺旋体5が膨張した場合にも、その浮き上がりが防止される。
【0024】
上記のように構成したインナードラム2によれば、作業中に加熱、冷却等の作用により、インナードラム2の外周板3の表面とアウタースキン4内周面との接触状況が不均一となる状況が生じた場合に、アウタースキン4内周面の微小なひずみや凹凸のある部分に対しても、軟質な銅の線材51よりなる螺旋体5が入りこむことにより、全体の接触状況を均一に保持できるのである。
更に、作業時に発生する熱により、螺旋体5が熱膨張するため外周板3とアウタースキン4との電気的接続がより強固となり、いわゆる通電むらの発生を抑制でき、超高電流の通電が可能となる。
【0025】
図8に螺旋体の他例を示す。この螺旋体6は、構成材を断面平板状の板材61としている。この板材61は、幅0.5〜20mm、厚さ0.1〜1mmの銅もしくは銅合金板からなり、好ましくは、幅2mm、厚さ0.3mmである。
上記螺旋体6は上記螺旋体5と同様に溝31に巻装して使用するもので同様の効果を有するが、上記単一の線材51に比べ表面積が大きいため、アウタースキン4の焼嵌め時に、溝31の壁面とアウタースキン4の表面に対する密着度が高くなり、さらに良好な電気的接続を得られるのである。
【0026】
図12に示すインナードラムの他例は、外周板3の表面に銅板35を被覆したものである。溝31はこの銅板35の表面に削設されている。この例によれば螺旋体5と銅板35の電気的接続が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】電解金属箔製造装置の一部切欠正面図
【図2】電着ドラム一部切欠正面図
【図3】外周板の溝の中に螺旋体を巻装した状態の一部切欠拡大正面図
【図4】外周板の溝の中に螺旋体を巻装した状態の一部切欠拡大斜視図
【図5】アウタースキンを焼嵌めた状態の一部切欠拡大正面図
【図6】アウタースキンを焼嵌めた状態の一部切欠拡大正面図
【図7】螺旋体の一部拡大模式図
【図8】螺旋体の他例の一部拡大模式図
【図9】溝の形状を示す模式図
【図10】溝の形状を示す模式図
【図11】溝の形状を示す模式図
【図12】インナードラムの他例を示す一部切欠拡大正面図
【図13】従来例の一部切欠拡大正面図
【符号の説明】
【0028】
1 電着ドラム
2 インナードラム
3 外周板
4 アウタースキン
5 螺旋体
51 線材
6 螺旋体
61 板材
31 溝
L1 溝の幅
L2 溝の深さ
L3 螺旋体がインナードラム表面より突出した高さ
L4 溝のピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナードラムの外周板の表面にアウタースキンを焼嵌めした電着ドラムにおいて、上記外周板の表面に、アウタースキン及びインナードラムの外周板と熱膨張率が同等以上で、且つ、導電性良好な素材からなる螺旋体を巻装したことを特徴とする電着ドラム。
【請求項2】
上記インナードラムの外周板の表面に、螺旋体の直径より小さい深さの溝を削設し、この溝に螺旋体を巻装したことを特徴とする請求項1記載の電着ドラム。
【請求項3】
上記螺旋体に一定の張力を加えて引き伸ばした状態で巻装したことを特徴とする請求項2記載の電着ドラム。
【請求項4】
上記螺旋体が直径0.1〜3mmの銅もしくは銅合金線を螺旋状に形成したものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電着ドラム。
【請求項5】
上記螺旋体が幅0.5〜20mmの銅もしくは銅合金板を螺旋状に形成したものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電着ドラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−146277(P2007−146277A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126040(P2006−126040)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(591114847)赤星工業株式会社 (6)