説明

電着前処理方法

【課題】既存の電着前処理や電着処理に影響を与えることなく、被塗装物による電着本槽へのゴミの持込量を有効に低減でき、塗装品質を向上できるとともに、電着塗装のコストダウンが図れる電着前処理方法を提供する。
【解決手段】電着液を収容する電着本槽にて被塗装物Wを電着塗装するのに先立って、上記電着液の成分の少なくとも一部を含む洗浄用電着液1を収容する電着洗槽2にて、洗浄用電着液1に所定の流速Vを与えて被塗装物を洗浄する。被塗装物Wの表面に付着した付着物は勿論のこと、被塗装物Wの隙間等に入り込んだ鉄粉等の付着物も洗い出される確率が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物を電着本槽にて電着塗装するのに先立って付着物を除去する電着前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車体等の被塗装物を電着塗装する場合、プレス加工工程や溶接工程等の組立工程において車体に付着した切粉、鉄粉、スパッタ、ゴミ等の異物や防錆油、切削油等の油脂等の付着物を除去する電着前処理が行われている。
【0003】
従来の電着前処理には、例えば湯洗処理、脱脂処理、脱脂後水洗処理、表面調整処理、化成処理、化成後水洗処理等が含まれる。そして、化成後水洗処理の終了後に、この電着塗装前処理が施された車体を電着本槽に搬送して電着塗装処理を行うようにしている。
【0004】
ここで、湯洗処理は、脱脂により車体に付着した防錆油、切削油等の油脂成分を除去する前に、この油脂成分を加温して除去し易くするため、及び、車体に付着した切粉、鉄粉、スパッタ、ゴミ等の異物や防錆油、切削油等の油脂等の付着物を一時的に洗い流すために行われる処理である。脱脂処理は、化成皮膜の形成を阻害する車体に付着している防錆油、潤滑油、切削油等の油脂成分を主に除去するために行われる処理である。
【0005】
脱脂後水洗処理は、脱脂処理による脱脂処理液を洗い流すために行われる処理である。
【0006】
表面調整処理は、車体の表面の化成性を向上させるために行われる処理である。化成処理は、車体表面に化成皮膜を形成するために行われる処理である。化成後水洗処理は、化成処理後の車体表面に付着する化成処理液を洗浄するために行われる処理である。
【0007】
そして、上記の電着前処理を行うことにより、電着塗装前に車体に付着している油脂やゴミ等の付着物を除去して、次工程の電着塗装処理における塗装品質を高めるようにしている。
【0008】
この電着前処理において車体から切粉、鉄粉、スパッタ、ゴミ等の異物や防錆油、切削油等の油脂等の付着物を除去する手段としては、特許文献1に開示されるように、脱脂処理工程において車体に脱脂液をスプレーして車体表面を洗い流す方法や、特許文献2に開示されるように表面処理液漕から引き上げた車体に表面調整液を吹き付けて付着物を取り除く方法、特許文献3に開示されるように車体に洗浄液を吹き付ける方法等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4113348号公報
【特許文献2】特許第3755584号公報
【特許文献3】特許第3969796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の電着前処理では、主に車体表面に付着した油脂や鉄粉、ゴミ等の付着物を、車体にスプレーし、或いは車体を洗槽内に浸漬させたりして洗い流すようにしている。そのため、特に、車体内部に付着或いは残存する鉄粉、スパッタ及び油脂等の付着物や、車体に形成されている凹部や継ぎ目、板部材等の隙間に入り込んだ鉄粉、スパッタ及び油脂等の付着物が、洗い流されずに残存して電着本槽に持ち込まれる。この車体に付着て持ち込まれた付着物が電着本槽内で電着液の流れによって車体内や隙間等から洗い出され、その洗い出された鉄粉、スパッタや油脂等の付着物が車体表面に付着して塗装品質の低下を招く場合がある。その結果、塗装後において、付着物が付着している塗装欠陥部分を修正する作業を要することとなって、多くの作業コストアップを招くことが懸念される。また、車体から洗い出された付着物が電着本槽の電着液に混入して電着液を汚染し、電着液の品質が低下に伴って塗装品質に影響を与えることが懸念される。
【0011】
このような車体による電着本槽への付着物の持ち込みを解決する方法として、電着前処理において、電着本槽内の電着液と同程度の高粘度(例えば、0.004Pa・s前後)の洗浄液を、電着本槽内の電着液の場合と同程度の高流速(例えば、0.2〜0.3m/s)で被塗装物である車体に作用させることが想定される。しかし、このような高粘度の洗浄液の使用は、車体による槽外への洗浄液の持ち出しにより次の処理槽が汚染される等、既存の電着前処理や電着処理に影響を与えることが懸念されることから、導入が難しい。
【0012】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、既存の電着前処理や電着処理に影響を与えることなく、被塗装物による電着本槽への付着物の持込量を有効に低減でき、塗装品質の向上ができるとともに、電着塗装のコストダウンが図れる電着前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する請求項1に記載の電着前処理方法の発明は、電着液を収容する電着本槽にて被塗装物を電着塗装するのに先立って、上記電着液の成分の少なくとも一部を含む洗浄用電着液を収容する電着洗槽にて、上記洗浄用電着液に所定の流速を与えて上記被塗装物を洗浄することを特徴とする。
【0014】
請求項1の発明によると、洗浄用電着液は、電着本槽にて被塗装物を電着塗装する電着液の成分の少なくとも一部を含むので、水等の洗浄液よりも高い粘度を有している。そして、被塗装物は、所定の流速が与えられた洗浄用電着液で洗浄されるので、被塗装物の表面に付着した付着物は勿論のこと、被塗装物の隙間等に入り込んだ鉄粉等の付着物も洗い出される確率が高くなる。しかも、被塗装物は、電着洗槽での洗浄後に電着本槽で電着塗装されるので、電着洗槽の洗浄用電着液が、被塗装物によって同様の成分を含む電着液を使用する電着本槽に持ち出されることになる。従って、既存の電着前処理や電着処理に影響を与えることなく、被電着物による電着本槽への付着物の持込量を有効に低減することが可能となり、塗装品質の向上が図れると共に、電着塗装のコストダウンが図れることになる。また、付着物による汚染が極めて少ない高品質の電着液が維持される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1の電着前処理方法において、上記洗浄用電着液は、上記電着液と同じ粘度を有し、上記所定の流速は、上記電着本槽にて上記被塗装物を電着塗装する際の上記電着液の流速以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項2の発明によると、電着洗槽において、電着本槽における電着液とほぼ等しい粘度で、かつその流速以上の流速の洗浄用電着液で被塗装物を洗浄するので、被塗装物の隙間等に入り込んだ鉄粉等の付着物をより確実に洗い出すことが可能となる。これにより、被塗装物による電着本槽への付着物の持込量をより低減することが可能となる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1の電着前処理方法において、上記所定の流速をV、上記洗浄用電着液の粘度をμ、上記電着本槽にて上記被塗装物を電着塗装する際の上記電着液の流速をVe及び粘度をμeとするとき、V=Ve×μe/μを満足する、ことを特徴とする。
【0018】
これによれば、電着洗槽における洗浄用電着液の粘度に応じて、洗浄用電着液の流速が設定されるので、被塗装物の隙間に入り込んだ付着物をより確実に洗い出すことが可能となり、被塗装物による電着本槽への付着の持込量をより低減することが可能となる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項の電着前処理方法において、上記電着洗槽内で、上記被塗装物を上記洗浄用電着液の流れ方向と対向する方向に搬送することを特徴とする。
【0020】
これによれば、電着洗槽内で被塗装物を洗浄用電着液の流れに逆らって搬送するので、被塗装物の隙間に入り込んだ付着物を更に確実に洗い出すことが可能となり、被塗装物による電着本槽への付着物の持込量をさらに低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被塗装物を電着本槽にて電着塗装する直前に、電着本槽の電着液の成分の少なくとも一部を含む洗浄用電着液を収容する電着洗槽にて、洗浄用電着液に所定の流速を与えて被塗装物を洗浄するので、既存の電着前処理や電着処理に影響を与えることなく、被塗装物による電着本槽への付着物の持込量を有効に低減することが可能となり、塗装品質の向上が図れるとともに、電着塗装のコストダウンが図れることになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】発明の一実施の形態に係る電着前処理方法を示す工程図である。
【図2】図1の電着洗処理を実行する電着洗処理装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図1及び図2を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電着前処理方法の順次の処理を示す工程図である。本実施の形態に係る電着前処理方法は、被塗装物として車体を電着塗装する際の電着前処理方法であり、湯洗処理、脱脂処理、脱脂後水洗処理、表面調整処理、化成処理、化成後水洗処理、及び最終の電着洗処理を順次実行するものである。そして、電着洗処理の終了後に、車体を電着本槽に搬送して電着塗装を行うものである。
【0025】
ここで、湯洗処理、脱脂処理、脱脂後水洗処理、表面調整処理、化成処理及び化成後水洗処理は、従来と同様にして実行される。即ち、先ず、湯洗処理により車体に付着した油脂成分を加温するとともに、車体に付着した鉄粉、スパッタ、ゴミ、油脂等の付着物を洗い流す。次に、脱脂処理により、車体に付着している油脂成分を除去する。その後、脱脂後水洗処理におり、脱脂処理による脱脂処理液を洗い流す。次に、表面調整処理により、車体表面の化成性を向上させてから化成処理により、車体表面に化成皮膜を形成する。その後、化成後水洗処理により、化成処理後の車体表面に付着する化成処理液を洗浄する。
【0026】
そして、電着前処理の最後に、即ち車体を電着本槽に搬送して電着液により電着塗装する直前に、電着洗処理が行われる。この電着洗処理により、電着液の成分の少なくとも一部を含む洗浄用電着液を収容する電着洗槽にて、洗浄用電着液に所定の流速を与えて車体を洗浄する、
図2は、図1の電着洗処理を実行する電着洗処理装置の一例の概略構成図である。
【0027】
電着洗処理装置は、洗浄用電着液1を収容する電着洗槽2と、電着洗槽2内で洗浄用電着液1に流速を与える複数の槽内ノズル3及びポンプ(図示せず)と、電着洗槽2から溢れる洗浄用電着液1や浮遊するゴミ等を収容するオーバーフロー槽4とを有する。
【0028】
図2において、被塗装物である車体Wは、コンベア11により、電着洗槽2において洗浄用電着液1に浸漬させながら矢視方向Aに搬送されて洗浄され、その後、電着洗槽2から電着本槽(図示せず)へ搬送される。好ましくは電着本槽内における車体Wの搬送速度と同等の搬送速度で車体Wを洗浄用電着液1に浸漬させながら搬送する。
【0029】
ここで、洗浄用電着液1は、後段の電着本槽にて車体Wを電着塗装する際の電着液の成分の少なくとも一部を含む。例えば、洗浄用電着液1の粘度は、後段の電着本槽にて車体Wを電着塗装する際の電着液と同程度以上とするのが好ましいが、顔料は含まれていなくてもよい。つまり、粘度を得るための樹脂分だけでもよい。また、槽内ノズル3は、槽サイド及び槽底部に設置されて、ポンプとの作用により電着洗槽2内において車体Wの搬送方向Aと逆方向に流速V、より正確には車体Wに対する相対流速Vの洗浄用電着液1の流れを発生させる。
【0030】
なお、電着洗槽2内における洗浄用電着液1の流速Vは、洗浄用電着液1の粘度が、後段の電着本槽における電着液の粘度とほぼ等しい場合、好ましくは、電着本槽における電着液の流速と同等の流速或いはそれ以上の流速とする。その他の場合、好ましくは、洗浄用電着液1の粘度と電着本槽における電着液の粘度との比に応じて設定する。例えば、洗浄用電着液1の粘度をμ、電着本槽における電着液の流速をVe、粘度をμeとするとき、V=Ve×μe/μ、を満たすように設定する。
【0031】
また、電着洗槽2のサイズは、洗浄用電着液1により車体Wの内部やの隙間から取り出された鉄粉、ゴミ等の付着物が、電着洗槽2内で車体Wの外部へ出る時間と、車体Wの搬送速度とを考慮して設定する。例えば、電着洗槽2は、車体Wが水平状態で約90秒以上、洗浄用電着液1の流れに晒されるような大きさとする。
【0032】
このように、本実施の形態に係る電着前処理方法では、電着本槽にて車体Wを電着塗装する直前に、電着洗槽2にて車体Wを搬送しながら、車体Wの搬送方向Aとは逆方向の流速Vの洗浄用電着液1により車体Wを洗浄する。これにより、車体Wの内部や隙間等に入り込んだ鉄粉、ゴミ等の付着物は、確実に車体から洗い出されるので、車体Wによる電着本槽への鉄粉やゴミ等の付着物の持込量を有効に低減することができる。従って、後段の電着本槽での電着塗装の塗装品質を向上でき、それに伴って塗装欠陥数を低減できるので、欠陥修正に必要なコストを削減することができる。また、電着液の付着物による汚染が抑制されて電着液の品質が維持できる。
【0033】
しかも、車体Wは、電着洗槽2での洗浄後に電着本槽で電着塗装されるので、電着洗槽2の洗浄用電着液1が、車体Wによって同様に電着液を使用する電着本槽に持ち出されることになる。従って、既存の電着前処理や電着処理に影響を与えることなく、車体Wによる電着本槽へのゴミ等の付着物の持込量を有効に低減することができる。また、洗浄用電着液1として、電着本槽における電着液と同じものを用いる場合は、電着洗槽2のオーバーフロー槽4に収容された洗浄用電着液1を、後段の電着本槽へポンプ等により供給して使用することも可能となる。これにより、洗浄用電着液1の有効利用が図られ、電着塗装の全体のコストダウンが図れる利点もある。
【0034】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、図1に示した電着前処理において、湯洗処理、脱脂処理、脱脂後水洗処理、表面調整処理、化成処理、化成後水洗処理は、車体Wに応じて一部省略したり、他の処理を追加したり、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
W 車体(被塗装物)
1 洗浄用電着液
2 電着洗槽
3 槽内ノズル
4 オーバーフロー槽
11 コンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着液を収容する電着本槽にて被塗装物を電着塗装するのに先立って、上記電着液の成分の少なくとも一部を含む洗浄用電着液を収容する電着洗槽にて、上記洗浄用電着液に所定の流速を与えて上記被塗装物を洗浄する、ことを特徴とする電着前処理方法。
【請求項2】
上記洗浄用電着液は、上記電着液と同じ粘度を有し、
上記所定の流速は、上記電着本槽にて上記被塗装物を電着塗装する際の上記電着液の流速以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の電着前処理方法。
【請求項3】
上記所定の流速をV、上記洗浄用電着液の粘度をμ、上記電着本槽にて上記被塗装物を電着塗装する際の上記電着液の流速をVe及び粘度をμeとするとき、
V=Ve×μe/μ、
を満足する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電着前処理方法。
【請求項4】
上記電着洗槽内で、上記被塗装物を上記洗浄用電着液の流れ方向と対向する方向に搬送する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電着前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−201908(P2012−201908A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65364(P2011−65364)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)